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第五十三話

「ユウキの姉のような人ですよ」

「……はい、そうなります」

「へー! ユウキってお姉さん……みたいな人がいたんだ!」

「まったく……イクシアさんといいユキさんといい、彼はつくづく人に恵まれているな」


 はい、一般のお客さんがまだ入らない校舎を散策していると、セリアさんに遭遇しました。

 イクシアさんが俺の事を『ユウキの姉のような人』と紹介したので、とりあえず話を合わせておきます。


「つまり、私の娘のような人です。可愛くて仕方がありません」

「……それはやめてください」


 ガバッチョ(抱きしめ)されそうになるので回避。つまりスキンシップの口実だな!?


「でも、そっかー……今日戦うんだね。カイが学校辞める条件がユキさんに勝つことなんだ」

「はい。同年代の人間から世界の広さを学べば、おかしな考えを改めさせられるのではないか、という総帥の案です。彼は……愚直過ぎる。企業に飼殺されるか、何かしらの手駒として消費されて終わるでしょう。もっと、学ぶ必要があるのではないかと思います」

「そうですね、あのお爺さんが関わっていた以上、ただのスカウトというわけではなさそうですが……」


 うーむ……どちらかというと石崎の爺ちゃんは何か別な企みに乗っかっただけっていう印象なんだよな。やっぱりグランディア側に地球にちょっかいをかけようとする連中がいる? うーんわからん!


「とにかく、ユキさん頑張ってね。カイはたぶん、よくない方に進みそうになってる気がするもん」

「ええ。それと、出来れば今日はそちらのクラスメイトの皆さんは出来るだけ近く同士に座ってください。何か、不測の事態が起きた時に対処出来るように」

「ん、わかったよ。そうだね、沢山人が来てるし、知り合い同士で固まった方いいかも」


 話しながら校舎をまわっていると、そろそろ一般のお客も入場するからと、俺は一先ず訓練所で軽いウォームアップをするとセリアさんと一之瀬さんと別れる事にした。

 イクシアさんと共に去ろうと思ったのだが――


「ウォームアップ、よければお付き合いしても良いだろうか」

「あ、私も見てみたーい!」

「……どうしましょう」

「良いのではないでしょうか?」


 うーん……悪いって事はないだろうけど、迂闊な戦い方は出来ないなぁ。




 数ある訓練施設の中でも、部外者が絶対に訪れない施設。俺が以前ユキとしてミカちゃんやジェン先生と戦ったその施設をウォームアップに使える許可を得ていた俺は、イクシアさんと一之瀬さん、そしてセリアさんと共にそこを訪れていた。

 正午の昼食の時間を終えたらエキシビションマッチが開催されるのだが、どうやら関東大会を制した『グランディア騎士養成学園アジア分校』の代表が既に学園を訪れているそうだ。

 聞いた話では、どうやら本当に代表は一年生らしく、その対戦相手はコウネさんだ。

 本当だったらその役目はカイが担うべきものなのだろうが、アイツの相手は俺。

 アイツのおかしな考えと、企業の思惑、そして何者かの暗躍の果てに生まれた第二試合。

 そこで、俺はあいつの心を……一度、へし折ってやる必要がある。


「では、軽く模擬戦をします。本当に軽く流す程度なので……三人で挑んできてください」

「いえ、私は絶対に貴女に敵意は抱けないですし、魔法も剣も向けられないのでお断りします。セリアさんとミコトさん、お二人でお願いします」

「え? え? 私も? 別にいいけど……ええと、二人がかりで良いの?」

「……なるほど。カイに本気で勝てると思うだけはおありのようですね。分かりました、全力で挑ませて頂きます」

「こちらは軽く流すので、くれぐれも無茶はしないようにお願いします」


 全力で。ユウキのままでは出せない力を、クラスメイトに向ける。

 確かにダーインスレイヴとして既に任務をこなしてはいるが、一体どれくらい、クラスメイトと俺の間に力の差があるのか、そもそも本当に差などあるのか、それを確かめる為にも、彼女達二人に模擬戦を頼む。


「では……」

「じゃ、じゃあデバイスをお借りして……」

「もしも可能であれば、自身が召喚した武器を使用してください。流すと言っても、ただのウォームアップとは少し異なります。こちらは軽く流す程度ですが……そちらは無理をしない程度に本気で挑んでください」


 我ながら無茶を言うも、二人はこれが意味ある事、そして何よりもこの場所が特殊なフィールドであると知っている為、少し心配そうな顔をしながら、互いの武器を取り出す。

 セリアさんはやたら仰々しい断頭斧を、そして一之瀬さんは、どこか神聖な装飾のされた刀を。


「開始してください」

「では――」

「行きます!」


 瞬間、何も障害物のないフィールドを、まるで何かを避けるような軌道でこちらを翻弄するように駆け巡り、一之瀬さんが迫って来る。

 そしてこちらの視線から避けるように、視界の隅でセリアさんが静かにこちらに近寄って来る。

 さすが、同じ研究室に通っているだけはある動き。たぶん、ユウキのままじゃあ見えていても反応し、防ぎきるのは難しいであろう一撃。

 何よりも一之瀬さん……それ、俺が良く使う『疾走居合い』そのものですよね。

 何も武器のない俺。恐らく無手での戦いをするのだと思っているであろう二人。

 だが高速で迫る一之瀬さんが瞬きする瞬間まで俺には見えている。つまり――


「……お借りします」


 止まって見えるのだ。背後にピタリとくっつくように走り、一瞬で俺の姿を見失い戸惑う彼女の腰から鞘ごと刀を奪い、そのまま抜刀と共に放つ風の斬撃で、セリアさんを戦闘不能にする。

 そして、一之瀬さんも自ら手を上げ、敗北を宣言したのだった。

 ……はは……ここまで強くなったのかよ俺。夏休みの合宿、ダーインスレイヴとして戦った時よりも遥かに強くなってやがる……。


「……ありがとうございました」

「……あ、ありがとうございました」

「はい。お二人とも、お付き合いいただき感謝します」


 なんだよ、俺の方こそカイみたいな考えにいきつきそうだぞ、この結果は。

 強すぎるだろ……そういえば全力を出すのは任務以来だが、ここまで短期間で……?


「次元が……違うようですね。これは……確かに海の広さを知るにはあまりある結果です」

「うわー……ユキさん秋宮の人なんだよね……やっぱり秋宮って凄いなぁ……」

「え、ええ」


 これ、いいのか? 秋宮の人間として大々的に俺を、ユキをお披露目していいのか?

 これはこれで良くない結果に……いや、きっと理事長なら大丈夫だろう。

 現にほら、イクシアさんだってそこまで呆れたような顔をしていないし……。


「三人とも、お疲れ様です。ユキ、以前よりもかなり動きの制御が出来るようになっていますね。それにお二人も、学生の身であそこまで動けるとは思いませんでした」

「……そう、ですか。ユキさんのお役に立てたのでしょうか……私は」

「正直、なんで負けたのかすらわからなかったんだけど……風の魔法?」

「その認識で合っています。ただ、ミコトさんは技の選択を誤りました。その技は……ユウキが使った技を参考にしましたね。どんなに不規則な動きでも、技を使う時は直線的な動きになると知っています。だから、簡単に背後をとられるんです」


 そう、それだ。たぶん、経験の差になる。対人は、相手の動きや相手が使う技をいかに知っているかがカギになる。自身の能力だけじゃ勝てないのだ。

 それは、たとえゲームだとしても、同じことが言える。早い話が『キャラ対策』だ。

 この場合、一之瀬さんは俺が一番よく知る技を使ったのが仇となった。

 そしてセリアさんは、驚きと同時に動きを止めた。


「セリアさん。おわかりかもしれませんが、動きを止めたのが敗因です。たとえ一瞬でも、相手にとってはその一瞬だけで『止まった標的』として見られます。何があっても動き続けてください」


 これも、ゲームでの話になる。初心者同士が不慣れで動けない時間や隙が多くても、別段それが直接勝敗には関わらない。だが、相手がもしガッチガチの猛者だったら? 接待プレイも手加減もしないガチプレイヤーだったら? そんな隙『狩られてそのまま決着』なんてよくある話だ。

 ……そうだ、考え方と対策さえ学べばもっともっと戦えたのだ。

 思えば、ミカちゃんもジェン先生も、この二人よりもずば抜けて強い訳じゃあない。

 だが、心構えがまったく違うし、攻め方も違った。


「……やはり、学ぶことはまだまだ沢山あります。お二人は十分に力そのものはあります。たぶん、学べばもう一〇分は余裕で持ちこたえるでしょう。今、カイ君はそれを学ぶ機会を失い、そのまま『実戦という名の殺し方』を学ぼうとしています。やはり、一度心を折りましょう」

「はい……そうですね、私も初めから、貴女は無手で戦う人なのだと思い込み、武器を奪われる事など微塵も考えていませんでした」

「た、たしかに……もしかしたら術師タイプだったかもだし……」

「ああ、この刀をお返しします。よい刀ですね」


 俺は、借りた武器を一之瀬さんに返却する。

 初めて見た時から思っていたけど……グランディアにも刀ってあるのだろうか?

 それとも日本由来のアーティファクトとか。


「はい。凄いですね、この刀は私以外では、父や兄しか引き抜けない程の物なのに」

「そうでしたか。凄い一品ですね、ユウキ君のデバイスが霞む程です」

「あの、ユキさんって武器はないんですか? 自前の」

「そうですね、基本は素手から始めますが……なんでも使えます。たぶん、得意なのは剣、大剣になりますね。一応取り出せますが、これも作戦の内です。ウォームアップでも、盤外戦を忘れない。勝つ確率を一%でも上げるようにしています」


 ダーインスレイヴとして扱う、あの黒く加工された剣を思い出す。

 あれ、再生能力があるから純粋に盾としても優秀なんだよね。


「……その通りです。私はまだ未熟。実戦を経験したといっても、知恵の少ない魔物のみ……学ぶことはまだまだたくさんある……その通りです」

「確かに……なんだかここでもうちょっと訓練したくなっちゃうね」

「……ですが、残念ながらそろそろお二人は競技場に向かった方が良いでしょう。ご友人が戦うと聞いています」

「あ、そっかコウネの試合そろそろだっけ!」

「そうですね……ありがとうございました、ユキさん。カイのこと、宜しくお願いします」

「はい、任されました」


 本当……お前は恵まれてるんだよ、カイ。そしてたぶん……俺も恵まれている。

 恵まれた者同士、もうちょっとここにいようぜ。だから……。




 訓練場の中でも、一番規模の大きな場所へと向かう。

 ここは収容できる客数も、使われているフィールドのセーフティー機能も充実しており、何か特別な事がないとあまり使われない場所だ。

 例えばそう……入学試験の際、実技で使われるたりする場合だ。

 俺は今回、秋宮の用意した懐刀、ダーインスレヴの表の顔、ユキとしてこのスタジアムの気品席へと招かれていた。

 勿論、ここからフィールドの様子は何かの魔法かただのカメラかは分からないが、つぶさに観戦出来るようになっているが。


「来ましたね、ユキ。こちらの席にイクシアさんと共に座っていて下さい」

「分かりました。随分と貴賓席にお客様が多いのですね」

「ええ。コウネさんとカイ君の関係者と、グラ学のアジア分校の校長や、家の方々もここでご覧になっています。カイ君はどうやらここではなく、既に控室近くの席で観戦しているようですが」

「なるほど」


 見れば、席に座る人々の中に、コウネさんとよく似た髪の色、水色に近い髪色の夫妻が見えている。そして……どこか気難しそうな、スーツ姿の中年男性や、それに付き従う神経質そうな男性も。


「では、私は理事長として相手方の学校の校長に挨拶へ向かいますね」

「わかりました。ここでイクシアさんと観戦しています」

「ええ。ここはとても見晴らしが良いので、とても快適に試合が見れそうです」


 理事長が件の男性二人組へと向かうが、あの二人がグラ学の校長かなにかだろう。

 ……そういえば、グラ学の代表ってどんな相手なのだろうか? コウネさんが負けるとは思わないが……名門校で一年生なのに代表に選ばれるのは大したものだ。

 そんな代表を出す相手校とのやり取りをする理事長の様子が気になり、そちらを窺う。


『――なるほど、これは意趣返しですか。大ごとにはしない方が生徒の為になると思っていたのですが……』

『しかしそれではこちらの生徒の親が納得しない。カメラの映像は現在アメリカの捜査局が解析中で確認が出来ない。生徒だけの証言では――』

『……残念ですが、その生徒はそもそも現在この学園にはいないのです。ただ……あまり、私の学園の生徒を見くびらないで下さい』

『……組織の規模でも誇りたいのですかな? 我が校がグランディアの有力な家々と繋がっている事をお忘れの様だ』

『ふふ、まぁ試合を見たらよいでしょう。……報告では、我が校の代表はそちらが所望していた彼の魔法の師にあたるそうですから』


 なんかすっげー険悪なんですが。


「……どんな思惑があるのやら」

「どうしましたか? 貴女はただ全力を出すのみ、面倒な事を貴女が考える必要なんて本当はないのですが……やはり、優しい子ですね」

「人が見ていますのでやめてください」


 頭撫でるのはさすがにこの歳では恥ずかしいのですが。けど拒否できないのが悲しい所。

 くそう、触られるのが素直に嬉しいぜちくしょう。


「あの……もしかしてこちらの学園の生徒……コウネの同級生なのかしら?」


 と、その時。すぐ近くに座っていたコウネさんの母親と思しき人物達に話しかけられた。


「いえ、残念ですが私はこの学園の生徒ではありません」

「あら、そうなの? 同年代の子がいたのでてっきり娘の関係者かと思ったわ……」

「……察するに、シュヴァインリッターの代表生徒のご両親でしょうか」

「ええ、そうなの。あの子、あまり学園での話をしてくれないからつい……」


 すると、今度はどこか威厳を無理やりだそうとしているような、少し気取った話し方で父親と思しき人物が語り出す。


「一応、クラスの友人を一人、我が家に招待するように言っていたのだがな。して、君も若い身でこの席にいるとは、何者だね? 申し遅れたが私は『ナリア・シェザード』と言う。シュヴァインリッターの代表の父親だ」

「私は秋宮総帥の個人的な護衛です。そして隣にいるのが、恐らく娘さんの同級生であろう人物のお母さまですね」

「まぁまぁ! そうなのね! 見たところ……セリュミエルアーチ王家の遠縁でしょうか? 私は『ミカエル・シェザード』と申しますわ」

「いえ、私は恐らく先祖に王家に関係のある人間がいたのかもしれませんが、平凡な家の出です。私が養子にとった子供が、この学園のコウネさんと同じクラスに在籍しているのです」


 いやーコウネさんに比べて少し上流階級の貴族って感じの、ややとっつきにくいようなご両親だ……悪い人じゃなさそうなんだけど……。


「なんと養子! なるほど、SSクラスに配属される程の才ある子を養子に迎えるとは、中々のご晴眼をお持ちですな! よければお名前を――」


 あ、露骨にイクシアさんの機嫌が悪くなった気がする。まるで自分が優秀な子を選んで養子にしたような言い方に腹を立てたのだろう。が……大貴族様っぽいしなぁ……考え方も違うのだろう。


「……イクシアです。ササハラ・イクシアと申します」

「あ」


 まって、苗字名乗らないで! この人たしかコウネさんに俺を家に誘うように指示してた人……つもりある程度裏事情にも精通して――


「なんと!! ではササハラ・ユウキ君のお母さまでしたか! して、その本人はどちらに?」

「残念ですが、ユウキは現在実家の用事でこの場所を離れています」

「あら残念ね。未来の嫁の晴れ舞台を見られないなんて。もったいないわ」

「……うちの息子が誰と結婚するかは、うちの息子次第ではないでしょうか」

「だが、我が娘より美しく、家柄の良い者もおるまい? 私も彼の活躍は大いに評価している。昨今ではグランディアにも見られない程の騎士道精神、正義の心を宿した青年と聞いている。結婚うんぬんはさておき、是非とも話してみたいと思っていたのだが……」


 あ、今度は露骨に機嫌よくなった。最近、イクシアさんの内心が耳に現れるのを発見した。微妙に耳が震えるのだ。その震え方で分かる。


「ま、まぁ私の息子を評価してくださるのはありがたいです。それに……たしかにコウネさんは良い子です。我が家にも遊びに来てくれた事もあります」

「まぁまぁ! じゃあやっぱりユウキ君とは一番の仲良しなのね!? ふふ、うちの娘は料理も上手で、その上ラッハール魔術科の中等部を首席で、さらに剣術科の高等部を次席で卒業しているのよ。きっと、もっとなかよくなれると思うの」

「……なるほど……たしかにユウキに魔法を教えてくれたのもコウネさんでしたね……一緒にお料理もしましたね」

「でしょう!? もう是非イクシアさんとは仲良くしていきたいわ! ねぇアナタ、今度の長期休暇はいつかしら? ユウキ君だけでなくお母様もご招待したらどうかしら」

「うむ、そうだな! どうだろうかイクシア殿。是非我が家に来て頂けませんかな?」


 おーい、本人ことユウキがいない間に何話進めてるんですかー。途中から俺ことユキが完全に蚊帳の外なんですがー。というか完全に外堀埋めに来てるじゃないですかー。

 イクシアさんも『案外良いご縁なのかも』みたいな思案顔せんでください!

 ……いや、コウネさんが気さくで良い子なのは俺も重々承知してるし、この親御さんが悪人だとは思わないけど。多少考え方は違えど良い人なのは分かるけど!


「ふぅ。お待たせしましたユキ。それにイクシアさん」

「おかえりなさいませ総帥。こちらの方々は、シュヴァ学の代表のご両親だそうです」


 すると、グラ学の人間とやや険悪な言い合いをしていた理事長が戻って来た。

 ……仲、あまりよくないのだろうか。まあそりゃあシュヴァ学の所為で永遠の二番手みたいな扱い受けてるっぽいしなぁ……思うところはありそうだけど。


「これはこれはシェザード卿に奥方様。お久しぶりです、入学式以来でしょうか」

「うむ、お久しぶりですなリョウカ殿。最近、あまりグンラディアには足をお運びになられていませんな? 妹君は近頃貴女と連絡が取れないとぼやいておりましたぞ」

「それは……ふふ、仕方のない子ですね。分かりました、冬の休暇では一度そちらに伺うと約束します。あの子にも伝えて頂くと幸いです」

「おお! では滞在は是非我が家に――と言いたいところですが……恐らく妹君はその季節には我が家を後にしているでしょうなぁ……」


 あれ? 理事長に妹さんなんているんだ? ちょっと聞いてみたいけど、専属の護衛が家族構成を知らないって事もないだろうし、聞くのはユウキに戻ってからかなぁ。


「冬の休暇はそちらでは長いのでしたね。なるほど、その時期なら恐らくノルン様と共に過ごしているでしょうね。ふふ、あちらの大陸まで行く事になるとは」

「貴女も多忙の身ですものね。たまにはのんびり過ごしても良いのではないかしら?」

「そういきたいところなのですが……何分、国の首相との会合も近頃は多く、連絡がつかない場所に長期間滞在する訳にもいかないのです」


 さらりと首相と会ってるとか言われても困る。まさかこの先俺も護衛として……?

 ひぃ! やだ! 小生やだ! そんな雲の上すぎる人と同じ場所にいるとか!


「……ユキ、少し顔色が悪いですよ、大丈夫ですか?」

「……はい、大丈夫です。少々いやな想像をしてしまっただけです」

「そうですか?」

「ユキ、何かあればすぐ言うように。貴女には万全な状態でいて頂きませんと。特に今日だけは」

「はい、総帥。気を使わせてしまい申し訳ありません」


 大丈夫大丈夫……そんな事になるわけないじゃん? 片田舎出身の学生が一国の首相となんてねぇ?


「そういえば、そちらの娘は貴女の個人的な護衛と聞きましたが……珍しいですな、貴女は護衛を付けない事で有名でしたでしょう」

「そう、そういえばそうよね? 私の弟が、自分の息子を是非と言っていたのに、お断りしましたのに」

「……ええ、彼女は特別です。この出で立ちで、彼女は少なくともそちらの『シュヴァインリッター』の『金勲章』を持つ者に匹敵する強さを持ちます。私も、さすがにそのような者は手元に置いておきたいのですよ」

「なんと! 貴女がそうおっしゃるのなら真実なのでしょうな! しかしその若さで……」


 知らない単語乱用しないで理事長! 僕さっぱり分かりません! いやグランディアの人間と話す以上仕方ないと思うけど……『そちらのシュヴァインリッター』って何?

 豚ちゃん騎士団ってそっちにもいるの!?


「ふふ、私の秘蔵っ子ですが……シェザード卿の事です、既になんらかの予測はたてているのでしょう? 今日は、貴方以外の方々にヒントを出す為の場でもあるのですよ」

「それは……ふふ、そういうことでしたか。我が娘が主役ではない事にいささかの不満はありましたがね、そういうことでしたら話は別。是非……楽しませてもらうよ。君、名前は?」

「アナタ、どういう意味なの?」

「ふふ、気にすることではないさ。レディの名を聞かずにいた私の非礼を許してもらいたい」

「……ユキです。ユウキの姉弟子にあたります」

「ほう! 彼の青年の姉弟子か。それは……楽しみだ」


 と、その時。試合会場の方に動きがあり、映像だけが遠隔で映し出されていたモニタ部分からも、会場の音声が聞こえてきた。


「凄い歓声ですね。そろそろ試合が始まるのでしょうか?」

「そのようですね。……両選手と雇った実況が入場しましたね」

「実況、あるのですか」

「ええ、雇いました」


 さすが文化祭の出し物。盛り上げますな理事長。




『皆さん! 本日はシュヴァインリッター総合……長いから略します! シュヴァ学文化祭にお集り頂きありがとうございます! おかげで私も高額のギャラで雇って貰えました! 初めに自己紹介をさせて頂きますが――』


 その時、実況兼MCだろうか、フルフェイスのヘルメットをかぶった怪しい人物が会場に現れ、その映像がモニタに映る。だがその瞬間――隣に座っていたイクシアさんが立ち上がった。


「B.B! 凄いです、本物のB.Bです! 感激です!」

「……有名、なのですか?」

「それはもう! ぶぅつべの料理系ブゥチューバーのトップですよ! BBクッキングの主ですよ!」


 ああ、あのレシピ動画の人か。してなんで実況なんてしてるん?




『実はお兄さんはですね、その昔戦いに身を置く戦士だったのです! トークが出来て知名度もあり、そして動体視力や戦いの解説も可能という事で、白羽の矢が立った訳なのです! さぁ、私の事はもう良いでしょう。では改めまして――』


「なるほど……B.Bは戦いを生業に……これは貴重な情報です……」

「……そうですか。随分、熱心なファンなんですね、イクシアさん」

「それはもう! ユウキのお弁当の半分は彼のレシピを参考に作っているんです」


 あ、なるほど。いつもおいしいお弁当ありがとうございますイクシアさん、そしてビービーさん。今度俺も何か見てみます。


『――にて、見事優勝を果たしたグラ学アジア分校! そして今日はその大将を務めた、弱冠一八歳の鬼才! “冴島飛鳥”君が代表としてエキシビションマッチに出場だ!』


 するとその時、紹介と同時にモニタに映し出されたのは、見覚えのある、金髪に浅黒い肌、そしてどこか軽薄そうな笑みを浮かべた――


「おや、彼は見た事がありますね……」

「……そうですか」


 そうでしょうよ! 夏期合宿でしつこく言い寄られていましたよね!

 そう、あの合宿の際、俺と一之瀬さんの策略により、一生ネットの笑いものになりかねない姿を晒されたアイツが現れたのだった。

 あー……そうか、あの合宿にいたって事は当然選ばれた生徒の一人なんだよな。


『続きまして、今回のエキシビションマッチが開かれる要因である、強すぎて大会に出られないという、なんとも不名誉なのか名誉なのか分からないこの学園! なんと、同じくこちらの代表も一年生! 今年度新設されたSSクラスに所属する、バトラーサークルの若きエース! グランディア出身、騎士の国と呼ばれるエレクレア公国の名家『エレクレアに剣帝シェザードあり』と謳われた、シェザード家の長女、コウネ・シェザード選手だ!』


 そして次に現れたのは、いつも通りのほほんとした様子で、けれどもしっかりとユニフォームであるコンバットスーツを身に纏い、自身の召喚した青いレイピアを携えたコウネさんだった。

 確かにご両親の言うように……美人だしね、ギャラリーも盛り上がりがすごいっすわ。何か食べる姿見なきゃ俺だってときめくくらい美人ですよ。

 あの細い身体で俺の五倍は食うからなぁ……。

 あれ、でもそういえば……。


「……凄いですね、次席で高校を卒業したのですよね、確か」

「ふふ、そうなのだよ。我が娘は、中等部は魔術を扱う科で主席、高等部は剣術に置いて次席という、まさしく才能の塊なのだ。まぁ、高等部の首席は古い知り合いである一之瀬の長女に譲る形になってしまったがね」

「なるほど、確かに彼女の魔術の腕は私も知っています。息子に教える際に見せて頂きましたが、素晴らしいの一言でした」

「ふふふ、そうだろうそうだろう」

「けど、コウネちゃんったらその所為か沢山食べるのよねぇ……少しはしたないわ……レディがあんな量を食べるなんて」

「う、む……だが健康的でよいではないか」


 あ、あの食欲って一族の特徴じゃなくてコウネさん特有の物でしたか。

 そうして話しているうちに選手の紹介が終わり、いよいよ試合が始まろうとしたのだった――


(´・ω・`)本日はここまでです

明日も19時から投稿します

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