第五十一話
「カイ君について? まぁ一応僕の耳にも噂程度に――は!」
「おーやっぱりそうなんか。そういやカナメってシュヴァ学生徒なのに企業お抱えだよな、たしか」
「っ! っと……まぁね! 一応ほら、僕高校時代にアマチュアチャンプだったじゃないか。だから――っと!」
「なるほど、入学前に既に企業に所属してる分には問題ないと」
「まぁ、それもあるけど、僕は一応他校に渡すには惜しい人材だったから――ね!」
「おっと。何気に特別待遇自慢するんじゃねーよ!」
「だって本当だもん」
復学して最初に研究室は、まだ正式にお許しを貰っていないので、ジェン先生ではなく、ミカちゃんの研究室だ。
そして丁度来ていたカナメ相手に軽い手合わせをお願いしていた。
聞いた話なのだが、近頃研究室には一之瀬さんは来ていないらしい。真面目だからか、俺が停学中に講義に出たり研究室に出るのは、不公平であると考えているのだとか。
そっか、だからシンビョウ町で買い物とかしていたのか。
「はい、俺の勝ち。カナメなんで二槍で戦わないんだよー」
「だってあれ当たれば死ぬし。いくらユウキ君でもVRも保護もない練習であれは使わないよ」
「なら仕方ないか。んで、カナメがスポンサーから聞いてるカイの噂って?」
「本当ちょっとした噂程度なんだけどさ、シュヴァ学の生徒を在学中にスカウトに成功したって話が一部の企業で持ち上がってるんだってさ。これ、一度でも成功例が出ちゃったら学園的には面倒な事になりそうだよね。それこそ、ユウキ君への勧誘とかも再熱しそうじゃない?」
「げー……それは嫌だな。理事長にはなんとかしてもらいたいよなー」
復学からこっち、毎日大量の講義を受け続けている身としては気分転換も必要だからと研究室に出席したのだが、なんとも頭の痛くなりそうな話を聞いてしまった。
気分転換に来たつもりが気分を落ち込ませてしまった俺は、そのまま今日は早めに切り上げるからと研究室を後にする。
「なんでカナメまで」
「だって今日セリアさんもアラリエル君もいないしさ。一之瀬さんも来ないし」
「まぁミカちゃんも自主性を重んじてくれるから良いけど、なんか可哀そうだな」
「まぁね。でも、文化祭が終わる頃にはまたみんな来るようになるといいね。ここの研究室って基本一年間しかいられないしさ」
「そういえばそうだったな。来年はどうするかなー……新しい研究室なしでもいいかも」
「剣術学の研究室とかどう? 今回は入らなかったんだし」
「んー、俺には合わないような気がしてきてるんだよな」
ほら、だって俺って基本ゲームの技の再現ばっかりだし。
そんな会話をしながらぶらぶらと太陽が沈みつつある敷地内を歩いていると、丁度正門から生徒の一団がやってきた。よく見ると……あれはコウネさんか。って事はバトラーサークルの皆さんだろうか。
「おーいコウネさん! どっか行ってたのー?」
「あ、ユウキ君じゃないですか。先輩、では私はこれで」
「ん? 彼は……あの時の……一言俺も謝っておきたい。うちのメンバーが彼を傷つけたのだから」
すると、コウネさんと恐らくサークルリーダーと思しき生徒がこちらへとやってきた。
「ササハラユウキ君。あの事件があった時、俺はあの場にいたというのに君達を止めないで見ている事を選んでしまった……うちのメンバーを諫める為に君が立ち上がってくれたというのに。サークルを代表して謝罪させて欲しい。本当に、申し訳ないことをした」
「まだ、アイツの事メンバーだと思っているんですね?」
「当然だ。力に飲まれ道を外れそうになるなんて、よくある話だ。だが……アイツを始めとした君達SSクラスは、特にそれが顕著に出やすいのだろうな。だが、それでも俺の、俺達の在り方は変わらない。戻るのならば、温かく迎える。それだけだ」
コウネさんと共にやって来た、やたらと筋肉質でかつ、威圧感たっぷりのリーダーさんが、一切の淀みや迷いなくそう言い切る姿に、本能的に『俺と合わないタイプの良い人だ』なんて感想を抱く。ほら、俺って真っ直ぐとは言い難い性格してるし。
けどまぁ……。
「それを聞いて安心しました。俺はもう気にしていませんし、そのうちカイとリベンジマッチする予定なんで、その時審判でもしてくださいよ」
「ふふ、そうか分かった。ではこれで失礼する。コウネ、当日まで体調の管理を怠るんじゃないぞ」
「はーいわかりました。お疲れ様です」
お前本当先輩に恵まれてるな、カイ。やっぱ学園辞めるのもったいないわ。
リーダーさんはコウネさんにそう言い残して去っていき、俺達はあらためてコウネさんに向き直る。
「で、どっか行ってたの?」
「見たところ、他の一緒だった人もみんな同じサークルだったのかな?」
「そうですよ。私達の学園はバトラーサークルの関東大会にこそ出場出来ないんですけど、エキシビションもありますから、試合そのものは見に行くようにしてるんです」
「なるほど。で、どうだった? どこが優勝しそう?」
「ユウキ君気が早いよ。今日はまだ一回戦じゃないっけ?」
俺も見に行ってみようかな……時間に余裕あれば。
「さすがカナメ君は日程とか知っているんですね?」
「まぁね。ほら、それこそ僕も高校時代関東の大会のエキシビションに出た事あるし。昨年の優勝校の代表と戦ったしね」
「すげぇな、それで勝てたのか?」
「うん、僕が勝ったよ」
さらりと言うなコイツ。やっぱりアマチュア優勝っていうのは伊達じゃない、と。
……高校三年で大学のサークル優勝校の代表に勝てるもんなのか。
「うーん……一回戦見た限りですけど、例年通りグランディア騎士養成学園のアジア分校じゃないですか? 伊達にグランディアの名門校じゃありませんよ、例え地球の分校だとしても。次点ではグランディアアカデミア日本支部ですかね? あそこはあまりサークルに力は入れてませんけど、入学の段階でかなり生徒数を絞っていますし」
「へー……そういえば俺も夏休み中の合宿で騎士養成学校の生徒と戦ったことあるかも」
「ああ、例のやんちゃっぽい彼だね」
「ちなみに、基本団体戦なんですけど、今年は騎士養成学園の大将、一年生らしいですよ。エキシビションも団体戦じゃなくて代表による一対一なので、たぶんその生徒さんが出るんですかね」
「へー! ってことは余程の逸材って事なんかねー」
おー、ということは下手したらSSクラスの生徒並の実力があるかもしれないのか。
ん、あれ? そういえばさっきリーダーさん……。
「ねぇ、もしかしてコウネさんうちの代表でエキシビション出たりする?」
「ふふ、さすがの洞察力ですね? はい、相手が一年生ならば、同じく一年である私が、と。本当はカイが選抜される予定だったんですけどね、私がピンチヒッターです」
マジでか。コウネさんが強いのはなんとなく分かるけど……代表として戦うって言うのがイマイチイメージと合わないというかなんというか……。
「当日はエキシビションマッチ、もう一試合あるって聞いていますし、そっちはどうなるんでしょうね? じつは詳しい事は聞かされていないんですよね」
「僕も知らないな。でも、なんとなく最近の出来事とか調べてみると、薄々予想は出来るよね? ユウキ君」
「え? いや俺は知らないぞ。だって俺、二日目学園にいないし」
「え!? じゃあ一日目はいるんですよね? 私の雄姿は見せられませんが、せめて一緒に文化祭回りませんか?」
うおう、ここにきてブッキング。すまん、コウネさん。
「キョウコさんと先約があったり。いやごめんね」
「なーんだ……グランディアから父が来るので、ちょっと紹介でもしておこうかと思っていたんですけど」
チクショウ! 純粋な好意じゃなかったのか!
「なんだ、ユウキ君いないんだ。僕はてっきり、ユウキ君のリベンジマッチ、カイ君と戦うのかなって思っていたのに」
「注目集めてどうするんだよ俺に。ようやくほとぼりが冷めつつあるってのに」
「まぁ、それもそうかもね。そっか、じゃあもう一つのエキシビションって誰が戦うんだろうね」
「うーん……私は見当もつかないですねー」
たぶん俺です。カイ対ユキとしての俺の戦いの事だろう。
しかし、そうかコウネさんのお父さんみたいに、グランディアからも重鎮、立場ある人が見に来るのか。となると……理事長は俺やカイなんて些事じゃなくて、もっとそういう要人の警護に気を付けるべきではないのだろうか。
それとも……俺達が戦う事による影響の方が、要人に何かが起きた時の影響より大きいと考えているのか。うーん、分からん!
「んじゃ、俺は家に戻るよ。二人とも寮だろ? 門限、遅れないようにな」
「はいはい、大丈夫ですよ。また今度おじゃまするので、イクシアさんによろしくお伝えください」
「マグロもうないぞ」
「違いますよー、お料理しにいくだけですー」
「えーコウネさんユウキ君の家行った事あるんだ、いいなー」
「なんなら今度来てもいいぞ。んじゃ、また明日な」
そんなこんなで、復学して一週間足らずで、文化祭の日がやってきた。
だが、実際SとSSクラスにとっては『最近校内で作業している人が多いな』程度の認識であり、出店を出す訳でもなく、ほぼ平常通りの日々が過ぎていった。
まぁ、実行委員である俺はちょくちょく視察にキョウコさんと共に出向いていたのだが、本当にそれだけ。相変わらずキャーキャー邪推する女子は煩かったけれど。
文化祭当日、普段より早く起きた俺は、校舎内の最終チェックをする為に早く起き、そして同じく早起きしているイクシアさんに今日の日程について話す。
「前に言った通りですが、今日は保護者、関係者の方々は午前十時から入る事が出来ます。本当ごめんなさい、今日は友人と見て回るので、一緒に見物出来なくて」
「大丈夫ですよ。ふふ、文化祭ですか。明日はユキとしてある程度自由に行動出来るのでしょう? その時、一緒に見て回りましょう。今日は一人で見ておきますよ」
「分かりました。じゃあ、朝ご飯今日も美味しかったです。早起きしてもらってありがとうございます。いってきます」
さて、今日はキョウコさんと見てまわる予定だけど……たぶんどうせ見回り業務の延長って感じなんだろうなー。それでもまぁ女子と一緒っていうのはそれなりに気分がいいけどさ。
ユウキが登校してから二時間程して、聞きなれない爆発音にも似た音が学園側からした。
知っています、これは色の出ない花火みたいなもので、『ノロシ』というものです。
「ユウキは友達と見て回る……これが親離れという物でしょうか? どうしましょう、学園にならニシダ博士もいるかもしれませんね。……まずは行ってみましょうか」
何度か足を運んだことのある場所。けれども、こうした『お祭り』でどう変化するのか、少なからずはやる気持ちを抑えながら、学園へと向かうのでした。
「これは……物凄い数の人ですね……生徒さんの保護者の方々でしょうか」
平時はただの駐車場である場所が、以前見にいったハナビ大会のような屋台、出店で埋まり、大勢の人間で溢れかえっているのが見えました。
どうやら、今日の生徒さん方は制服を着る事を義務付けられているらしく、今日ユウキが久しぶりに制服を着ていた事にも納得がいきます。
小さく『全然サイズに余裕がある……成長してない……』とぼやいていましたが、大丈夫です、私の部屋の扉に張ってあるユウキの等身大の写真と比べると、僅かに大きくなっています。
「良い香りがします……ソースですねこれは」
お好み焼きか、たこ焼きか、それとも焼きそばか。ふふ、地球の料理にも詳しくなったものです。匂いだけで分かるなんて、以前の私では想像も出来ません。
「生徒の皆さんがお店を出していたり展示物を出したりしているのですか……これは面白そうですね」
生前、孤児院関係者や卒院した人間によるチャリティーバザーなどを行った事はありましたが、それと少しだけ似ている空気に、少しだけ、本当に少しだけ郷愁にも似た思いを抱く。
そういえば、ユウキのクラスは何か出していないのでしょうか?
私はユウキに渡されたパンフレットを開き、全体のマップを調べていく。
ちなみに、スマート端末版のパンフレットもあるのですが、私には少し早かったようです。操作が難しいです。
「それにしても……グランディア出身と思しき人間が多いですね……それだけ向こう出身の生徒も多いのでしょうか」
パンフレットを改めてみても、SSクラスの記述はありませんね。Sもありません。AからDまでしか展示物はないようですが……サークル? 円? 円がどうしたのでしょうか。
何やらクラスとはまた違う単位のようですが、そういう人たちもお店を出しているようです。むむ……これは困りましたね。よくわかりません。
「あの……イクシアさんですよね?」
その時、背後からかけられた声にパンフレットから目を離し振り返る。
そこには、以前家に訪れた事のあるユウキのクラスメイト、私と同じエルフのセリアさんの姿がありました。
「おや、セリアさんではないですか。ふふ、私も今日はお邪魔しています」
「ああやっぱり。お一人なんですか?」
「ええ。今日はユウキがお友達と見て回るから、と。てっきりセリアさんの事かと思っていました」
「あはは……実は私も誘ったんですけど、先約があったみたいで……」
「そうなのですか。よろしければ一緒に見てまわりませんか?」
「あ、喜んで。私の両親はちょっと距離が距離なので来ていないんですよねー」
「なるほど、そうでしたか」
ふむふむ、セリアさんではなかったのですか。こんな良い子を放っておくなんて。
……もう二〇才程肉体年齢が若ければ私も学生になれたのでしょうか、惜しい。
人間で言うなら三、四才程でしょうか? いえ、案外地球基準なら今でも大丈夫なのでは……? なんて事を一瞬考える。
とにかく、セリアさんの案内もあり、スムーズに校内を見て回る事が出来ました。
朝食がまだ、というセリアさんと共に、どこかの生徒さん達が作っている焼きそばを食べに行ったのですが、お値段がお祭りの時よりも良心的だな、と思いました。
……学生さんだからなのでしょうか?
一瞬、多く人が集まるとおかしな人間も湧いてしまうのではないかと心配になりましたが、どうやら警備の人間も私服でお客さんの中に大分紛れているようでしたし、治安面では問題はなさそうです。
「イクシアさん、今度はここに行ってみま――」
「こんにちはセリアさん。そちらの方はご家族の方でしょうか?」
「……ううん、知り合い。一緒に見て回っているの」
「おや? セリアさんのお友達ですか? 初めまして、私は――」
「ああ、失礼しました。女性の方に先に名乗らせるなんて。初めまして、僕はリィク・ビゼハンと申します。以後、おみしりおきを」
校内を見て回っていると、男性のエルフ、恐らくセリアさんと同年代の方が立ち塞がり声をかけてきましたが、学生服を着ていますし、恐らく生徒さんなのでしょう。しかし、セリアさんが少しだけ不機嫌になりましたね……。
「で、なに? ごめんだけど、ちょっと見て回る邪魔になりそうだからどいて欲しいかな?」
「失礼しました。いえ、セリアさんがお一人だと思い声をかけたのですが……お邪魔でしたか」
「そうなんですか? セリアさん、お友達なのではないですか?」
「知り合いですけど友達じゃあないですね。うーん……」
「ふむふむ」
「手厳しいね……そういえば、そちらの方とはどういったお知り合いで」
「君には関係ないと思うけど」
明らかにとげとげしいです。子供同士仲が悪いのは感心しませんね。知り合いのようですし、リィクさんはセリアさんと仲良くなりたそうな気配がしますが……。
「いえいえ、自己紹介はするべきですから。初めましてリィク君。私、この学園に通う生徒の母親です。もしかして同じクラスなのでしょうか?」
「違いますよ、この人Sクラスですから」
「そうなのですか」
「は、母親……エルフの生徒でこんな容姿の子いただろうか……」
「ふふ、残念ですが実の母親ではありませんが、同じくらい愛情を持っていると自負しているんです」
「は、はぁ……そうでしたか。なるほど、セリアさんはその子と仲が良いのですね」
「ええ、そうですね。家に遊びに来たりもしてくれます。ああ、私もこの近くに住んでいるのです」
育ちが良いように見えます。目と髪の色から察するに……血筋も良いのでしょう。もし、今も古代と同じ一族が高い地位についているのならば。
むむ……セリアさんに気があるのでしょうか。
「あ、ちなみに『ササハラ・ユウキ』という生徒です。私の子供ですが、よろしければ仲良くしてくださ――」
「んな! す、すみません僕はちょっとクラスの用事がありますのでこれで失礼します」
「あら。分かりました、それではまた」
リィク君が突然いなくなってしまいました。諦めたのでしょうか。
「イクシアさんありがとうございました」
「なにがでしょう? しかし、あまり仲がよろしくないのですか?」
「ええと……まぁ主義主張が違う相手というか……」
「なるほど。ふふ、それは仕方ないですね。さて、次はどこに行きましょうか」
「あ、そうでしたね。手芸サークルの教室に行ってみませんか? 何か体験させるって話らしいですし」
「それは楽しみですね、行ってみましょうか」
仕方ないです。合う合わないは絶対に存在しますしね。
きっと、向こうもそれに無理やり従わせるような事もしないのでしょう。だからしつこく誘うような真似もしなかったのでしょうね。紳士です、若いというのに。
「あったあった。ここが手芸サークルですね。私は研究室があるからサークルには所属していないんですけど、昔はよく実家のタリスマン作りとか手伝っていたんですよ」
「なるほど。私もたまに手芸はしますよ。今、地球産の手芸用品に魔術的な効能を持たせた場合の効力の変化について研究しているんです」
ユウキが以前勧めてくれたレジンなる物質を使い、簡易的な宝石に似た物質に魔術を埋め込めるように研究中です。そのうちユウキにも何かタリスマンを贈りませんと。
手芸の体験では、どうやらミサンガを編ませてくれるらしく、しかも編み込むのにグランディア産の魔物の生体部位の一部を使っているそうです。
ちなみに、ニシダ博士に禁止されていますが、私の髪を編み込んで私自身が魔力を込めたミサンガを作ると、想像以上に効力の高い物が出来上がってしまうそうです。
以前試したところ『なんでミサンガ一つで大群用ガトリングを防げるんですか』と言われましたが、どんな物だったのでしょう?
「あれ、珍しい人間がいる。アラリエルなんでここにいるの?」
「うぇ!? なんだよここにいちゃ悪いかよ」
すると、またしてもセリアさんのお知り合いと思われる学生さんが教室にいました。
きっと手芸が好きなんでしょう。
「あ! は、初めましてユウキ君のお母さん! 自分、アラリエルと言います! ユウキ君とよくクラスでつるむ……良い友達だと自負しています!」
「あら、そうだったのですか。アラリエル君ですか、宜しくお願いしますね」
「美人の前で露骨に良い恰好しないでよ。こいつ、素行の悪い問題児ですからね。まぁ……ユウキと仲が良いのは認めますし、同じ研究室にも所属していますけど……」
「余計な事言うなよ。すみません、でもユウキとは本当仲良い方だと思いますよ」
「あらあら、そうなのですか? ふふ、ユウキは中々やんちゃな子ですから、二人ともほどほどにしてくださいね?」
どうやら、今度は本当にセリアさんともお友達のようですが……なるほど、ユウキと仲が良いのは本当みたいですね。
銀髪の、恐らく魔族の血を引いているであろう青年。なるほど……ユウキと同じクラスというと、もしかしたら余程血筋の良い、力を継承している子供なのかもしれません。
「しかしアンタが手芸って似合わないっていうかさー……好きなの?」
「体験出来るってんなら一通り触って歩くだけだよ。他にも行った」
「あ、他にもあるんだ」
「そうなのですか? 熱心に作っているようですし、誰かに贈るつもりなのかと思いました」
「え、ちょ……やだなあユウキの母さん」
「え、誰かに贈るつもりなの? へー手作りの品を?」
きっと、ご家族にあげるのでしょう。なるほど、俗にいう『悪ぶりたいお年頃』というのですね。きっとユウキが私に対してどこか遠慮がちなのも、そういうお年頃なのでしょう。
「あ、そうだ。もしユウキを探してるなら工業系の校舎にいますよ。セリア、行ってみろよ。今キョウコと一緒みてぇだけどな」
「え? そっか、キョウコさんと周ってたんだ。お邪魔しちゃっていいのかなぁ」
「いいんじゃねぇの? まぁ面白そうだし行ってみろよ。んじゃユウキの母さん、また今度でっす」
「はい、アラリエル君」
なるほど、キョウコさんと一緒だったのですね。
……今のところ一番仲が良いのは彼女なのでしょうかね。
「セリアさん、手芸品を見終わったら少し工業系の場所を見に行ってみましょう」
「は、はい。そっか……二人とも実行委員だったもんなぁ……私も立候補すればよかったかなぁ……」
ふむ……ユウキはなんと罪作りな子でしょう。
そうして私達も、ユウキがいるという校舎へ向かうのでした。