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第三話

(´・ω・`)続きです

 敗北は人を成長させるってのは本当だと思います。

 あの日リオに負けてから、俺はさらに自分を鍛えようと、少し遠くにあるもっと栄えている街の中央にある訓練施設にも顔を出すようになった。

 身体強化の段階を抑え込むバングルを一つから二つに増やし、さらに自分を追い込んだ状態でも勝てるように、毎日毎日、それこそ電車賃が馬鹿にならないからと、定期を買ってまで通うようになった。

 そして……俺は未提出だった進路希望の紙に『東京の訓練学校に進学希望』と書いて提出したのだった。


「ユウキ君! ちょっと勉強教えて欲しいんだけどいいかな?」

「あーいいよ。どこどこ?」

「ここ、この大群に備える陣形について、状況の考察と環境の利用についてっていうとこなんだけど……」


 が、それでも癒しは欲しいので、ここ最近の勤勉っぷりに俺を頼るようになった女子に、勉強を教えてあげたりしているんですけどね!

 ああ……女の子はやっぱり同世代か年上に限ります……あの時の思いは一時の迷いだったんです。


「なるほど、拠点周囲の環境を考慮……山や崖の場合を想定した布陣か……」

「そ。それによって割く人員も変わってくるでしょ? この例題だと魔法師団ってあるから――」


 そんな学生生活をエンジョイしつつ、季節は夏真っ盛り。

 いよいよ学校の図書室が生徒で溢れ、最寄りのファーストフード店でも参考書を開く生徒が珍しくなくなってきた今日この頃。

 俺は、担任の教師に呼び出され、日曜だというのに学校へとやってきていたのだった。

 ちなみに今の女子生徒、違うクラスだったりします。休みの日にも学校で勉強するなんて実に勤勉ですな。名前、知らないけど。

 とその時、校内放送が流れた。


『三年C組のササハラユウキ君。三年A組のヨシカゲサトミさん。職員室まで来てください』


「あ、ごめん呼ばれたから行かなきゃ」

「あ、私もなので、一緒に行きましょうか」


 サンクス校内放送。この子の名前を教えてくれて。




「よく来てくれたな二人とも。休みなのに悪いな」

「いえ、大丈夫っす。バイトも今年に入ってからやめてたんで」

「私も、親が近くに用事があったので」

「ん、そうか。今日呼び出した理由だが、たぶん分かっているな?」


 知らん!


「はい。進路のお話ですよね?」

「そうだ。二人とも東京の訓練校志望とあったが……保護者とは相談してあるんだよな?」

「はい。父は渋りましたが、納得してくれました」

「あ、俺の方は一応役所の方に相談はしてみましたよ。こっちの家とか土地についても弁護士に相談済みです」


 俺、一応天涯孤独って事になってるんです。いや血縁上は母に当たる人間もいるのだろうが……知るかよ。俺の家族は死んだ親父と祖父母だけじゃい。


「そうだな……ササハラは実家や土地の管理も必要だからな。だが……もしも政府に認可されている学園に入学、それも特待生になれれば、様々な援助、補助も受けられるからな、その辺りも調べておくように」

「マジっすか!」

「そっか……ササハラ君大変だったんだね」

「いいよいいよ、そんな貧乏生活って訳でもなかったし」


 親父の遺産と保険金を崩しながら、割と自由に祖父母と暮らしていたので。

 まぁ、さすがに立て続けに二人、俺が高校に入学してから他界したのは堪えたが。


「で、だ。向こうの訓練校を受けるなら、場所にもよるが何かしらの特技、技術があった方が良い。本来、高校生のうちに召喚実験を受けさせるのは推奨されていないが……俺は二人には今、受けてもらったほうが良いと考えている」

「高校生のうちにですか!? あの……でもそれは……」


 なにそれ。そこはまだちょっと勉強不足なんですが。


「一生のうち一度の機会だ。確かに心身ともにもっと成長してからの方が、特殊な技能、加護をうけられるかもしれない。だが稀な事例ではあるが、高校生であちら側のアーティファクトを召喚、宿した生徒もいるんだ。当然、東京の一流校に特待生として入学し、今では一線で活躍しているそうだ」

「でも……そんな才能私には……」


 アーティファクト、というのは知っている。

 多くは向こうの世界、異世界『グランディア』の歴史上の武具や、失われた魔法や技を指す言葉だ。

 中には日本由来の物、歴史的な価値のある物が霊的な存在となり現れるとも聞くが。

 が、それを手に入れられるかもしれないというのは非常に魅力的だ。


「……まぁ、そうだな。先生は二十歳になってから挑んだが、結果として手に入ったのは向こうの世界の一般的な籠手だった。ホラ」


 そう言うと、先生の腕に突然現れる革製の籠手。

 だいぶ丁寧な造りだとは思うのだが……お世辞にも役には立たなさそうだ。


「これは強制じゃない。が、もしも希望するのなら、夏休み中に東京にある研究所で召喚実験に参加出来るように申請しておく。期限は三日。よく考えてくれ」


 そう言いながら、先生は俺達に用紙を手渡し、俺はそのままその場で記入して返却させて頂きました。


「参加よろです」

「はやいな! まぁ……お前ならそうするだろうとは思ったが」

「ササハラ君……あの、私は親と相談してからにします」


 やるしかないですやん? もしかしたら伝説の剣とか? 凄い魔法とか? 手に入るかもしれないなんてやるっきゃないじゃないですか。

 目指せエクスカリバー、レヴァンテイン! メテオにフレアにアルテマ!

 つっても、そういうネタが通じる人間、この世界にいないんですけどね?


 職員室を後にし、このまま学校に残ってもする事がないから今日も訓練施設へと向かおうとすると、ヨシカゲさんに呼び止められた。


「ササハラ君は……恐くないのかな。召喚で全然ダメな物を引き当てたら、一生それと付き合い続けるんだよ? もっと大人になってから挑めば、最低でも装備品が手に入る可能性が高くなるのに」

「よく分かってないんだよね、実は。俺そのシステム知ったの初めてだったし。でも、元々今の自分の力で受験するつもりだったから、あんまり関係ないかなって」

「……凄いよ、ササハラ君は。私は……」

「参考までに、高校生で挑んだら普通はどうなるのん?」

「えっと……噂だと去年の卒業生が挑戦して、布製の服、それも子供用のを引き当てたっていう話なら……」


 うわ、悲惨すぎでは? しかも子供用て。


「……ちなみにヨシカゲさんの希望としては?」

「私はその……本当に理想なんだけど、使い魔になってくれるような霊魂。小動物が呼べたらいいなって……」

「そんなもんまで呼び出せるのか!? ちょ、ちょっとそういう過去の事例とか載ってる本知らない?」

「うんあるよ。現役の調査部隊の人とか、有名なバトラー、リーグ選手のプロフィールが載ってる本があるから」

「そっか、そういうの盲点だったわ……ありがと、ヨシカゲさん。俺もう少し学校に残るよ」

「う、うん。じゃあね、ササハラ君」


 彼女にお礼を言い、図書室へと向かう。

 ヨシカゲさんには今度しっかりとお礼しなきゃな。委員長タイプって印象だったから……何か本でも紹介するとかが良いだろうか。


 図書室へ向かい、受験勉強でひしめく生徒の皆さんに邪魔にならないよう、目当ての『現代に生きる英雄達』というスター名鑑のような本を借り、人の少ない食堂で読む事に。

 まぁ、ここにもノート広げてる生徒は沢山いるんですけどね。


「霊魂召喚……霊の生前の力を扱えるようになるタイプと、実体を持たせ使役するタイプ……え? 身体を生成して本物の使い魔として契約?」


 どうやら、この世界の化学、科学は俺の想像以上に進んでいるようでした。

 なんでも、霊体が強い意思と自我を持っている場合、それを基礎として体組織を培養、ある意味転生という形で、この世界に新たな生を授かる事もあるという。

 事例として、角の生えた兎、異世界グランディアでは割とポピュラーな『魔物』と呼ばれる変異した動物を誕生させたともある。

 中には、馬に似た魔物を使役し、共に戦場を駆けまわる人間もいる。


「これは夢が広がるなぁ……なになに? 火竜の力を宿し、炎を使役する力とな」


 もうそれ主人公じゃん! ならそういうの題材にマンガとかゲーム作ってくれてもいいじゃん! ドット絵作品しかないけど!


「お、ユウキじゃないか。さっき放送で名前を呼ばれていたが、どうしたんだ?」

「お、ショウスケも日曜なのに学校で勉強か?」

「ああ」


 すると現れたのは、最近仲が良いショウスケだった。

 真面目だ。やはり真面目だ。


「ほら、俺進路で東京の訓練校志望したじゃん? だから召喚実験に挑戦する気はないかって」

「な……お前東京の訓練校本当に志望するのか!?」

「え? そういやお前はしないの?」

「俺は……隣の県の大学だ。訓練校じゃないが、戦闘訓練部門で有名なところをな」

「そっか。俺もそういうところにした方が安定なんだろうけどさ……やっぱ挑戦してみたいんだ」

「……そう、か。しかし召喚実験となると……先生も本気で受からせようと考えてるんだな。でも訓練校っていっても数が多いぞ? どこを受ける気だ」

「それがさっぱり。まだ調べてないんだわ」


 取り合えず入れそうなところ……と考えているが、東京、しかも訓練校となる数が限られているらしく、いずれも名門校だそうだ。

 そして……グランディアに一番近い都市が東京という事もあり、各国どころか異世界からも生徒を募集しているのもざらだ。

 ちなみに小耳に挟んだのだが……人間以外の種族もいるらしい。

 少し前にテレビのバラエティー番組に、エルフの女優が映っていた。

 美人すぎてやばい。見続けたら追っかけになりそうだったわ。


「一番の名門なら……秋宮カンパニー傘下の『シュバインリッター総合養成学園』になるが……まぁそれこそ、召喚で大当たりを引いた時に初めて可能性が出てくる選択肢か」

「また出たよ秋宮。どんだけ手広いのさあそこ」

「噂じゃリゾート部門ってのもあるらしいぞ。で、次の選択肢が『グランディアアカデミア日本支部』ここは知っての通りグランディアに本校がある学園だな。向こうの魔術知識や戦闘技術を学べるから人気ではあるが、こっちも倍率が高いな」

「ほへぇ……エルフの生徒とかいるかね?」

「いるんじゃないか?」


 胸がときめくんだが? あの耳は果たしてどんな感触なのか確かめたいんだが?

 ササカマに割りばし刺したら似た感じになるのだろうか? いや、失礼か。


「東京か……差をつけられてしまったな」

「まだ決まった訳じゃないだろ。ヘタしたら浪人だ」

「いや、お前なら最悪、こっちで中途でいくらでも入れる場所はあるだろ。俺ですら地元じゃ特待生で引く手数多だ。お前なんてもっとだろ?」

「んん? そういやなんか県から色々手紙が来ていたな。チームに入って欲しいとか」

「バトラーチームか? そういやうちの県でもプロ入り目指してるところがあったな。個人団体、両方とも今じゃ地方は都心に比べて遅れているし」


 プロ野球選手のスカウトみたいな物なのかね? それはそれで惹かれるんですが……もうちょっと色々自分で決めていけたらいいじゃないですか。

 この世界に来てから、何も分からずにここまで自己流で頑張って来たんだ。もう少し、自分で歩いていきたいじゃないか。

 そんな事を考えながら、それぞれの進路について考える夏の午後。

 ……案外、悪くないよ本当。少なくとも元の世界じゃ、お前と仲良くなんてなれなかった。




 帰り道。今日はなんだか考える事が多かった所為か、訓練施設には行かず、気まぐれに祖父母と親父が眠る墓参りへと向かう事にした。

 お盆も近いし、案外丁度良かったかもな。


「じいちゃんばあちゃん。それに親父。たぶん……正確には俺は別人なのかもしれないけどさ。これから頑張ってみるよ。もしかしたら地元、離れちゃうかもしれないけどさ」


 途中で買った花を供える。線香と蝋燭もしっかり準備してきた。

 手を合わせ、聞いているかもわからないが誓うように語り掛ける。

 日差しが、御影石に反射して顔を照らした。

 それを勝手に激励だと思い込む事にした俺は、そのまま墓地を後にするのだった。


「俺以外にも墓参りに来てる人、いたのか。早めに来るって事は……やっぱり盆に休めない人ってのはこの世界にもいるもんなんだな」


 遠くに人影が見えた。む、彼女持ちか、けしからん!

 髪の色から察するに異世界グランディアから来た人なのかね?

 ……なんで女の人を二人も連れているんだ、けしからん!


「く……彼女欲しいよなぁ俺だって……あのうらやまけしからん人の苗字はなんだ?」


 チラリと花が添えられている墓石には『仁志田』とあった。

 くそう、見知らぬ仁志田さんめ、リア充爆発しろ!


 家に戻り、既に墓参りをしてきたというのに、もう一度仏壇でナムナム。

 家を出たら暫く掃除をする人間もいなくなるんだよな。

 ……ま、仕方ないか。

 今日も今日とて、近所の弁当屋で買ったチキンカツ弁当を頂く。

 自炊の事も考えないといけなさそうだなぁ……一人暮らしを向こうでするのなら。

 く……格安弁当ともお別れする事も考えなきゃいけないのか!


「……召喚ねぇ。もしも実体を得られるタイプの生き物なら、餌の費用とかも考えなきゃいけないのかなぁ。国から補助とか得られないのかね」




 翌日の月曜日。前期最後の週となった。

 生徒の中には夏休みを使い、インターンシップのような事をする人間や、体験入学? オープンキャンパス? そういうのに参加する人間も多かった。

 勿論、高校最後の夏休みだからとエンジョイしようと旅行の計画を立てる、ある意味では健全な高校生らしい姿の人間の方が多数派なのだが。


「ユウキー! お前も一緒に北海道旅行に行こうぜー! 最近付き合い悪いぞー」

「あー悪い、非常に魅力的なんだけど俺東京行くんだわ」

「お、東京旅行か!? お前そんな金あったのかよ」

「旅行じゃねー、進学の為の行事なんだよ」

「マジかー……なぁなぁ、やっぱ都会だとエルフとか魔族とか獣人とかいるんだよな? こっそり写真とってきてくれよ」

「肖像権の侵害って知ってるか? ダメに決まってんだろ。なんか適当に土産買うから、そっちも土産宜しく」

「おうよ。じゃあ木彫りの熊な」

「……食い物で頼む」

「ジンギスカンキャラメルな」

「やめろ!」


 そんなクラスメイトとの馬鹿話をしつつも、なんだか考えてしまう。

 たぶん、元の世界でだって皆高校を卒業すればそれぞれの進路、夢に向かい離れ離れになる。

 今みたいなやりとりだって、もしかしたらもう出来なくなるかもしれない。

 ただ……きっと元の世界なら、俺は一緒に旅行にいって、楽しい思い出を作っていたのだろう。

 そう考えると、自分では思いもしなかった選択肢を提示してくれたこの世界に、深い感謝をしたいくらいだ。

 そんなちょっとだけおっさんくさい思考に浸っていると、あまりこちらとか関わりの無い女子が話しかけてきた。


「ササハラ君、呼んでるよ。A組の子」

「ん? あ、ヨシカゲさんだ」


 もしや昨日の召喚についてだろうか? 友人達に断りを入れて彼女の元へ。


「どうしたん?」

「えっと、ちょっと人の少ない所で……」

「了解。んじゃ……体育館裏行こうか。不良が溜まり場にしてなきゃいいけど」

「ふふ、そんなのいるわけないじゃない。うちの生徒指導担当、元バトラーだよ?」

「そうなんだ。おおこわいこわい」


 なんだか後ろが騒がしいが、レッツ体育館裏。

 本当に吸い殻もなにもなく綺麗なもんですな。っていうか元の世界でも不良なんていなかったわ。うち厳しいから即停学、そのまま退学とかザラだったわ。


「……田舎に不良多いとかもはや都市伝説だよなぁ」

「あはは……確かに。それで話なんだけど……私も、召喚実験受けてみる事にした。私も、ササハラ君と同じだったんだもん。今の自分を信じて挑戦しようって決めたんだから、例えうまくいかなくたって……関係ないって」

「ん、そっか。両親はなんて?」

「『私なんて三〇過ぎてから挑戦しても火種の魔法が出しやすくなっただけだった。学校の推薦なら無料で受けられるんだし、やっちゃいなさい』って」

「お金がかかるのか……本来は」

「そうみたい。今でこそ国の補助で費用が抑えられてるけど、昔は五〇万円くらいかかったって」


 あれだ。車の免許とるよりは安いって思えばありなのかね。


「だから、夏休みはよろしくね。一緒に東京に行く事になるから」

「あ、そっか。よろしくなヨシカゲさん」

「サトミでいいよ。なんだか慣れないからさ」

「んじゃ俺の事は気軽に……ユウ君で」

「うん、よろしくねユウキ君」


 あ、スルーですかそうですか。



 教室に戻るとほぼ同時に予鈴が鳴る。が、もうすぐ先生が来るというのに友人達からの総突っ込みが俺を待ち構えていた。

『何他のクラスの女子と仲良くなってんだよ裏切り者』という。


「違うっての。同じ進路だからその関係だわ」

「クソ……俺も今から進路変えるか? って無理だよなぁ畜生」


 だから違うって。そもそも同じ学校受験するわけじゃないわ。

 午後の授業は、夏休み前の復習としての小テストと解説だった。

 残念ながら、この世界の教科全てがゲーム的な内容ではなく、当然科学や数学もあるのだが、それでも英語、古文や古典の授業は少なく、代わりに異世界グランディアの歴史や、戦術や魔法、技の歴史といった物が代わりにその地位を得ていた。

 正直こっちもこっちで複雑ではあるのだが……なんか楽しいのでモチベーションはかなり高かったりする。

 そうして午後の授業が終わり、掃除当番でもなく部活にも参加していない俺はそのまま下校するのだった。




「電車は普通なんだよなぁ……やっぱ都会だと違うのかね。車のデザインもちょっと前の世界とは違うし。リニアが標準装備だったらどうしよ、すげえ楽しみだわ」


 駅のホームで電車を待つ。噂では、東京では電車を待つというと大体長くても五分程度で済むんだとか。どんだけ走ってんだよ。

 今日はいつもの訓練施設ではなく、県中央、一番栄えている街の施設へと向かう。

 いつも行く場所よりは当然人も多く施設も立派ではあるのだが、それでもそこまで苦戦するという事はなく、抑制バングルを二つに増やした状態でも勝利をもぎ取れるようにはなっていた。

 やっぱりあの子、リオちゃんは特別らしい。まだ一〇才かそこらだろうに……どうなっているのやら。

 それこそ、何かとんでもない物を召喚し、その身に宿しているのだろうか?


「ふぅ、到着到着。お、新幹線来てるじゃん。夏休みに入ったら俺もあれに乗るのかね」


 電車は普通。だが今停まっている新幹線は、明らかに元居た世界の物とは違っていた。

 ……車輪が光っている。青白い光を放つ車輪が、線路から浮いているのだ。

 うっそマジでか……どんだけスピード出るんだろ。ちょっと見て行こうかな。


「あ、この間墓にいた女の人だ……あれって魔族なのかな? 頭に羽が……サキュバスみたいなものなのか? それにあっちの人は……エルフか!?」


 駅のホームに、白い髪のエルフさんと、頭から羽を生やしたお姉さんがいた。

 一緒にいる男性……恐らくニシダさん? いや、あの墓の血縁者とは限らないが、その人が丁度新幹線に乗り込むところだった。


「いーなー! 両手に花! お、発車するのか? どんな感じなんだ?」


 発車を告げるメロディが流れ、何かの駆動音、高音で耳にささるような音が周囲に響く。

 すると次の瞬間……車体の動きと同時に衝撃波が身体を揺らした。

 ……は、速すぎる! 今のなんなん!? 初速速すぎない!?


「うへぇ……楽しみ半分、少し恐いなありゃあ」




 こっちの訓練施設は、県中央という理由もありかなり多くの人間、とりわけ学生の姿が目立つ。

 いつも行く施設は、最寄りの学校が俺の通う高校くらいしかない為、近くに住んでいる大学生や高校生はいても、その大半が俺と同じ高校の生徒ばかり。

 が、こっちには様々な学校からやってくる人間が多い為、とても刺激的なのだ。

 勿論、この訓練は受験にも役立つ。学校によっては試験で戦闘を行う事だって珍しくはないんだとか。


「さてと……今日はUSH社のブレードモデルを使うかな」


 いつもと違う武器を選ぶ。剣なのは共通しているのだが、いつも使うアキミヤモデルは、かなり初心者向けのモデルで……こう言うとなんだが、使っていると割と馬鹿にされる。

 だから変えている訳ではないのだが、こっちではろくに整備もされていないので、自然と選択肢から外れるのだ。


「うーんこの赤い光……実刀に近いフォルム……やっぱ刀はいいよなぁ」


 リオちゃんも使っていたが、世の中にはオーダーメイドなんて物もあるらしい。

 試しにアキミヤのオーダーメイドがどんなもんなのか公式HPを見てみたら、軽く乗用車を新品で買う時の値段を越えていたので、僕には関係ない世界の話だと思いました、まる。


「! 来たなユウキ! 今日こそお前の連勝記録に終止符を打ってやるよ」


 武器を借りていると、他校の生徒に絡まれた。

 確か、元居た世界じゃ県一の進学校だったはずだが、どうやらこの世界でもそのようだ。

 確か、他の人よりも強かったと記憶しているが……たぶんショウスケの方が強いな。


「おー、んじゃやるか。来たばっかだから軽く流す感じで」


 結果? 連勝記録が今日も順調に伸びたとだけ。

 よく持った方だと思います。


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