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第四十四話

(´・ω・`)本日三話目の更新です

『防ぐんじゃない、これは避けるんだ』

『ガア!』

『立ち上がりが遅い、その気になれば追い打ちが入るぞ』

『クソ、クソォ!』

『振りが大きい。腹部ががら空きの状態でそんな歩法で近づくな』

『グボッ……』




「うーわ、ヒデェ。全部指導的攻撃なのがことさらヒデエ」

「でも全部正しいよね? あれって彼の後輩なの? 随分とレベルが低いと思うんだけど」

「いや、初対面のはずだ。まぁ色々あったんだよ」

「ふーん。そうだ、ユウキ君もこれ食べる? キットカッ〇」

「ああ! それも私の!」


 何か聞こえた気がするけど、袋ごとカナメが持っていたので食べようと思います。

 あ、美味しい。久々に食べたわチョコレート。


「あ、試合終わった」

「あっという間だったね。んじゃ迎えに行こうか」




「ううむ……運動神経そのものは悪くないな、君は。だが圧倒的に対人経験が少なすぎるように思える。恐らく、自分と同程度の人間と戦った経験が少ないんだろう」

「……クソ……あんたプロだろ……大人げねぇと思わないのかよ……」

「何を言っているんだ? 高校の授業にあわせて素手による格闘だけにしていただろう」


 名前は忘れたが、どうやらもうグロッキーな様子。いやいやお前やり過ぎでしょ。


「はい選手交代。君俺と戦いたかったんでしょ? 相手になってあげるよ」

「は!? あんたユウキか、なら勝てそう――」

「ちなみに、さっきの俺は、高校時代の自分の力をかなり正確に再現した強さだ。で、これでユウキに勝てたことは一度もない。参考までにな」


 やめろよネタばらし早すぎるだろ。ほら、逃げようとすんなキミも。


「大丈夫大丈夫、本当軽く流す程度だから。ほら、さっさとここ入って!」

「ひ! やだ、いやだ!」

「はい、んじゃちょっと行ってくるからショウスケとカナメは外で待っててな」


 とりあえずここで思いっきり負け姿晒していってくれ。それでここに近寄らなくなればそれまでだし、それでも来るなら、少しは周りへの態度も変わるでしょ。


「はい、じゃあよーいスタート」


 結果から言いますとですね『なんやこのクソザコナメクジ』でした。

 いや本当あれです、この施設はもっと人を呼ぶ努力した方いいかもしれません。

 もっといろんな人が来たらこういう輩が幅利かせる事もないだろうし。




「ところで、確か……キョウヘイ君だったかしら? ごめんなさい、この結果だと少し推薦状は厳しいわ。せめてアマチュアバトラーの大会で地区予選くらいは突破してもらわないと……本当にごめんなさいね」

「はい……すみません……全然舐めてました……すみません……」


 今彼帰ろうとしてたじゃん! ニシダさんなんで態々呼び止めてそんな追い打ちかけるの!


「頼まれた以上、しっかり結果を伝えるのは義務よ。それにしても……ショウスケ君だったかしら? 貴方惜しいわ、来年度からでもシュヴァ学の転入試験受ける気はないかしら?」

「いえ、遠慮しておきます。俺は俺の道で、ユウキ達のいる場所を目指しますので」

「そう。ふふ、じゃあこれからユウキ君と手合わせするのね貴方。楽しみよ」

「あ、いいなショウスケ君。ユウキ君、次僕でお願い」


 いつの間にか予約制ユウキ君になりました。なんでカナメ君の後ろに常連の皆さんが並んでるんですかね?


「はい、順番を守ってくださいね。こちらのシートに名前を書いてください」

「イクシアさん……どうして列の整備なんてしているんですか」

「先程お菓子を食べてしまいましたので、せめてそのお詫びにお手伝いをしています」

「そ、そうですか……」


 あ、アケミさんが目反らした。しかも何か食べてる。一体いくつお菓子隠してるんですかあの受付。しかもそれでイクシアさんをこき使うとは……いや、勝手におかし取ったイクシアさんも悪いな。


「んじゃ行くか。本気で来いよ、ショウスケ。俺も出し惜しみは無しだ」

「ああ、望むところだ。高校時代の雪辱、今こそ晴らさせてもらう」


 VR訓練室。そういえばこの施設でこの場所で対人訓練したのって、たぶんリオちゃんとやった時が最後だったかもしれない。

 普段はプロテクターつけて普通の訓練場ばかり使っていたし、わざわざVRを使わなくちゃいけないような規模の戦いなんてしたことがなかったな、ここじゃ。

 けど――ショウスケならきっとそれが必要になる。さぁ、やろうぜショウスケ。








「さて、どうなるかな。たぶん初見でショウスケ君を突破するのは難しいかもしれないね」

「そうなの? 彼の戦いぶりをユウキ君は知らないの?」

「いえ、一度見ていますね。以前船の上で、カナメ君とショウスケ君が戦っているところを見ています」


 ロビーに設置されている一番大きなモニターに、ワイヤーフレームのような模様が描かれた暗いフィールドが映し出され、そこに二人青年が現れる。

 ユウキ。この世界に存在しないフィクションの知識を総動員し、あらゆる手段で再現、その超人的な存在の動きすら再現して見せる、異質な力と知識を持つ存在。

 ショウスケ。ただ実直に、肉弾戦のみでそんなユウキに迫る力を身に着けた『魔術師』。

 多種多様な手札を駆使し、あのイクシアが『見事な術のコントロール』と評した人物。

 そんな二人が今、互いの力をぶつけあおうとしていた。


「え、消えた!?」

「初手で見せるんだ、あの疾走居合い斬り」

「……悪手です。いえ、この場合は悪手にさせられた、でしょうか」


 イクシアの指摘は正しかった。

 開始と共に居合の構えからの俊足の移動は、ショウスケに抜刀したデバイスが触れる直前、微かにその速度が落ちていたのだった。

 そしてその落ちた速度の一撃を、彼は見逃すことなく掴み取り、そのまま魔法を直接ユウキに流し込んだのだった。


「フィールドの地面に霜が付き始めています。VRはここまで再現、反映するのですね」

「……そっか、最初から自分の足元を凍らせておいたんだ。日光の下じゃないと分かりにくいからね」

「そういうことです。ですが、一撃でユウキの動きを鈍らせたのは逆に――ショウスケ君に不利な展開を生んでしまいます」

「……そうね。だったらユウキ君は開き直って動くのを止めてしまう」


 そう、電撃を浴び、自らの動きが鈍った事を察知したユウキは、そのまま一気に距離を取り、最低限の動きで勝負を決めようと模索する。

 だが、本来魔術師タイプであるショウスケにとって、そのレンジは自分の物。

 すかさず炎の魔法を撃ちだし、ユウキへと追撃する。

 だが――


『ガ……』

『……風絶ってんだ。一応現段階で俺の切り札だ』

『座標指定魔法……いや、この威力は魔導か……』

『正解。俺に飛び道具がないと思って、距離を取らせたのが敗因だよ』

『魔法でなく、直接追撃に向かえばまだ勝ちの目はあったか……』


 魔法の発動速度の差。それが何よりもの勝負の明暗を分けた。

 抜刀と同じ動きでそのまま目標地点に攻撃が発生する以上、どうしても飛び道具では勝てないのだ。

 相殺する事も出来ず、ただ切り刻まれてしまう一撃。

 そして――さらに言うならば、ユウキはその技を一瞬で、少なくとも七回は発動可能。

 並大抵の機動力では回避しきることすら困難なのだ。

 戦いにおいて、自分と相手の位置関係を正確に把握、すぐさま戦術を変え対応する力。

 それは、ゲームで言うのなら『間合い管理』と呼ばれるもの。

 そういった世界において、安易に距離を取らせるというのは、それだけですでに『失点』になりえてしまう。

『勝つためには、最初から最後まで自分の思う通りの事をし続けて、相手の嫌がる事を徹底的にし続けるのが正解』と、ユウキは自分の『ゲームの経験』で知っていた。

 そして勝利する為には『情報』もまた、重要だということも。

 既に相手が飛び道具を持っている事を知っていたからこそ、ユウキは『たとえ距離をとられても自分の方が有利だから追いかけなくて良い』とショウスケが考えると『読んだ』のだった。


『ファーストヒットを取られたの、たぶんショウスケが初めてかも』

『それは光栄だ。まぁ、この環境だからこそお前にバレなかったんだろうけどな』

『環境を利用するのも勝利への道だろ。やっぱりお前強いよ、本当』


 そして、同じく勝利への道の一つであるそれを、ショウスケが利用したのもまた事実。

 故に、ユウキは自分のライバルはこの男だと、改めて思うのだった。








「ふー焦った。一瞬で勝負決められるかと思ったわ」

「一瞬で決められたのはこちらだったがな」

「まぁ初見だし仕方ない。まさか俺が座標指定の攻撃なんてしてくると思わなかっただろ、さすがに」

「ああ。そうか、魔法も覚えたのか……これは厄介だ」


 決着までの時間は短くても、その内容は決して楽観できるものではなかった。

 油断した。俺なら一瞬で決められるという油断が、身体の自由を奪われるという結果を残したのだ。

 VRだから訓練が終われば元通りだが、実戦なら暫く体中に痺れが残る結果となる。

 これからは魔術師相手に無暗な接近は控えるべきか。


「お疲れ様、二人とも。じゃあ次は僕……と言いたいところだったけど、僕ばっかり君達の戦いの様子を見ちゃっていたし、フェアじゃないよね。今日はやめておくよ」

「いいのか? まぁ多少疲れているし、この後常連さん達も控えているから助かるっちゃ助かるけど」

「でしょ? さぁ、もう行列が凄い事になっているから、ユウキ君頑張って!」


 気が付けば、ロビーに出来ていた列が外まで続いていた。そして相変わらず整列をしているのは……イクシアさんとニシダ主任の二人になっていたのだった。


「うっそでしょ……」

「頑張れユウキ。俺は少し休んでいるから、後は任せた」

「ショウスケ君もはい、これ。〇ッキー食べる?」

「頂こう。しかし用意が良いなカナメ」

「そこの受付の裏に沢山置いてあったよ」


 そうして俺は、並びに並んだ常連さんや。噂を聞きつけてやって来たであろう、サトミネ高校の後輩相手に対人戦を延々と繰り返すのであった。




「はい、じゃあ今日はここまで……いやおかしいでしょ四七連戦って。アケミさん、どっかに募集掛けたりしてないですよね?」

「え!? な、なんのことかしら……別に私はそんな……」

「良かったわねアケミ。これで夏期の売り上げ、地区ベストとれたんじゃない? ……後でユウキ君にお礼しなさい。分かった?」

「う……ユウキ君、後で良い物あげるわ……」


 あ、やっぱ募集かけてましたか。さしづめサトミネ高校に連絡したんでしょ。


「あー疲れた……じゃあ俺は暫くブリーフィングルームで過去の映像とか見てますね」

「あ、僕もいい? ユウキ君が訓練はじめたばかりの頃の映像とか見たい」

「ふむ、俺も興味があるな」

「では私も。ユウキ、良いですか?」

「いや別にいいですけど……本当初期の頃の映像くらいしか残ってませんよ?」


 確か、身体の動かし方を学ぶために記録とってただけだし。

 対人を始めるあたりではもう記録とるのやめてたし。

 あ、でも確かリオちゃんとやった時は映像とるようにしてたっけかな?


「そうだ、ちょっとみんなに見て欲しい映像があるんだ。俺が唯一ここで勝てなかった相手の映像があるんだよ。凄いぜ? もう完全に仕上がって、学校でもショウスケに勝てるようになったのに手も足も出なかったんだ」


 移動しながら、思い出の相手、リオちゃんについて語る。

 たぶん今の俺ならいいところまで行ける……いや、勝つ事だって出来そうだが、少なくともあの時の俺じゃあ勝てるビジョンが浮かばない程の相手だった。

 なによりも……まだ小学生くらいの子供相手にあれだ。


「ほう、それは興味深いな。早速見てみよう。すみませんニシダさん、準備をお願い出来ますか?」

「はいはいまかせて。私も気になるわね。ちょっとデータベースを調べるから……ユウキ君、いつごろの記録かしら?」


 ブリーフィングルームに用意された大きなモニタに、過去のデータがずらりと表示される。

 凄いな、俺以外にもいろんな人が記録を残している。


「去年の……七月ですね。たぶん月初めの頃です」

「ふむ、というと、丁度ユウキが調子を取り戻し始めた頃だな」

「へぇ、ユウキ君スランプだったんだ」

「ああ。ユウキはそれまで、格闘術の授業では俺に次ぐ二番手だったんだが、ある時を境に急激に戦えなくなってな。一撃で俺に負けてしまう事も多かった」


 それは、俺がこの世界に迷い込んですぐの頃だ。確かにそうだよな……ショウスケからすれば、突然俺が弱くなってしまったように思えてしまうだろう。


「七月の対人記録……見当たらないわよ?」

「え? いや、でも確かに記録をつけるように申請して……あれ……」

「相手はどんな人? その人の他の記録なら残ってるかもしれないわ」

「……小さな女の子です。水色がかった銀髪で、小学六年生くらいの」


 馬鹿な、記録されていなかった? 確かに申請したはずなのに……。


「女の子に負けたの? ちょっと想像出来ないけれど……該当しそうな記録はないわね」

「そんな……でも、俺はたしかにその日負けて、気が付いたら医務室で……」

「ふむ……俄かには信じられないが……何者だ、その子」

「ユウキ君、本当にそんな子いたの? 小学生が高校生より強いって、さすがにそれは信じられないよ。もしかして君、抑制バングルでもつけていたんじゃない?」

「……たしかにつけてた。でも二つだけだよ。というかそんなレベルじゃなかったんだ、本当に食らいつくのがやっとで……そうだ! 向こうの技まで使うんだよその子」


 記録になくても、俺は確かにあの日敗北した。そうだ、本当にいたんだ。


「……ユウキ、その子についての情報は他にないのですか?」

「リオって名前で、使っていた技の名前は……」


 記憶を手繰り寄せる。あの瞬間、最後の一撃を貰う直前、彼女はなんと呟いた?

 ……そうだ、テンダン……カイシキ? 一之瀬さんとカイが使っていた技の派生かなにかのはずだ。


「テンダン・カイシキって言ってた。凄い光の奔流で、その一撃で俺は気を失ったんだ」

「天断……改式? 聞いた事がないけれど、それはちょっと考えられない、かな」

「ユウキ。グランディアに残る剣術にも階級が存在するんだ。天を断つとまで言われる天断は、古の剣術から派生した流派である一之瀬流剣術か……」

「意外かもだけど、コウネさんの家に伝わる『シェザード魔剣術』くらいしか使えない。それも余程才能がないと継承出来ないんだ。もしも天断なんて言っていたのなら、コウネさんや一之瀬さんに聞いた方が早いかも」


 マジでか。聞き間違いじゃないのだとしたら……そういう特別な血筋の子、か?

 確かに彼女も『自分は特別』のような事を言っていたが……。


「それか、ユウキ君が見た夢かもね。って、冗談よ。そんな顔しないで」

「いや……なんか段々俺も不安になってきました」


 頭を悩ませていると、ブリーフィングルームに常連の皆さんもやってきた。

 そうだ、記録に残っていなくても『記憶』になら!


「おや、ユウキ君達じゃないか。もしかしてお邪魔だったかな、隣の部屋を使うよ」

「待って! ちょっと聞きたいんですけど、去年の七月くらいに、物凄く強い子供、来ましたよね? なんか俺が来たときにはもう、ほぼ全員負けてた、みたいな。七人がかりでも圧倒してた子、覚えてませんか?」

「んー……いや、覚えていないね。もしかして他の施設で見たんじゃないかい? さすがにそんなインパクトのある子供がいたら忘れるはずがないけど」


 そう言いながら、常連の皆さんが去っていく。……おかしい、おかしいだろそれ。


「……いたんだ。確かに……そうだ!」


 段々心配になってきたが、リオちゃんともう一度会ったではないか、病院で。


「イクシアさん、俺が入院中に病院に忍び込みましたよね?」

「はい、病室に忍び込みました」

「そういえば忍び込んでいましたね。そういえば、一体どうやって?」

「普通に病室の窓から忍び込みました。ユウキの魔力の質は覚えていますから」

「……あの病院に、ですか? 一応、日本でも有数のセキュリティを誇る場所なんですが」

「いえ、どういう訳からユウキの病室に至るまでの侵入経路だけ、既にあらゆる魔術が無効化されていました。私はてっきり、ニシダさんの好意によるものだと思っていたのですが」


 やっぱりそうだ。確かにいたんだ、リオちゃんはあそこに。

 それに、あの時リオちゃんが去った直後に、ニシダ主任もやってきたではないか。

 俺はあの夜、イクシアさんより先に忍び込んできた少女、そしてその時の会話内容を伝える。


「……俺はあの時、あの子の気配で目覚めたんです。確かにいたんです、リオちゃんは」

「……そう。確かにイクシアさんの言う侵入経路の事もあるし……誰かがいたのは本当みたいね。ちょっと調べてみるわ。もしも本当にそんな相手がいるとしたら……ちょっと警戒しなきゃいけない」

「ふむ、強い力を持つ謎の少女か。ユウキの幻覚や夢の類でないのなら、確かに気になるな」

「そうだね、本当にいるなら僕も戦ってみたいな」


 ううむ……どんどん謎が増える一方だ。記録だけじゃなくて人の記憶にも残っていないだと?

 その後、アケミさんにもリオちゃんの事を聞いたのだが、やはり返事は他の皆さんと同じで『覚えていない』というものだった。

 本当……一体何者なんだ、あの子は。






「じゃあ僕は姉が車で迎えに来るから、ここで」

「ん、了解。じゃあ新学期にまた」

「俺は三日後宮城に戻る。次に会えるのは……いつになるやら。じゃあ、またなユウキ」

「ああ、ショウスケもまた。じゃあ俺も家に戻るよ」


 訓練施設で現地解散した俺達は、それぞれの帰路につく。

 カナメは駅前のカフェへ向かい、ショウスケは県北行の電車へ。そして俺は、ニシダ主任とアケミさんの仕事が終わるまで、施設の中にある休憩スペースで待機となった。


「それにしても、不思議な事もあるものですね。記憶にも記録にも残らない少女ですか……」

「うーん……髪の色的に、グランディア出身の子かもですね。向こうの技だって、グランディア出身なら覚える機会もありそうですし」

「……そうですね。天断という技は私も知っていますが……私が生きていた時代でも、その使い手は三人程度しか私は知りません。長い年月を経て、それが少しずつ広まった可能性もありますが、特定の剣術は魔術とは違い、もともと習得出来る人間が限られているのです」

「へぇー……まぁ正体はなんにせよ、いつかまた戦いたいな、あの子とは」

「ふふ、ユウキが今の進路に進む決意をしたきっかけでしたか。なら、私と出会うきっかけでもありますよね」


 ああ、その通りだ。あの敗北と『東京に出てきなよ』という言葉が、今の俺を作っていると言っても過言ではないのだから。


「お待たせ二人とも。夕方以降の業務は他の職員に任せたから」

「所長権限で無理やり交代したのでしょう。後でしっかり報告書に書かせてもらうわ」

「ちゃんとお手当もあるし最後には喜んで引き受けてくれたわよ……」


 すると、仕事を終えた二人も戻って来た。高校時代からの腐れ縁、と主任は言っていたが、やはり仲が良さそうだ。

 ……いいな、大人になってもこういう関係が続く友達って。


「さてと……じゃあユウキ君とイクシアさんを家まで送り届けてから、この馬鹿をつれて私も家に戻って……イクシアさん、今晩もしよろしければご一緒しませんか?」

「ご一緒、というと?」

「あ、それいいわね。チセが家に車を置いてから、電車で繁華街まで移動してお酒でも飲もうって話をしてたんですよー。イクシアさんも一緒にどうです?」

「お酒……ですか? でしたらユウキも――」

「あ、日本だと一八歳はお酒、飲めないんですよ。それにお酒を提供するお店って、中には未成年お断りの場所もありますし。イクシアさん、たまにはいいんじゃないですか? 俺は留守番してますので」


 そういえばイクシアさん、一度もお酒を飲んだところを見た事がないな。

 家にもお酒の類は料理用のものしかないし……もしかして、自分の身体が出来てからまだ一年しか経っていない事を気にしているのだろうか?


「イクシアさん、お酒は問題なく飲めますけれど……飲まなくても楽しむ事は出来ますよ。一緒にどうです? たまには大人の、女同士の付き合いというのは」

「ええと……しかしユウキを一人にするのは……」

「大丈夫ですよ、慣れてますし。イクシアさんもたまには良いんじゃないですか?」

「そうでしょうか……何事も経験ですね、分かりました。では今回はユウキの言葉に甘えるとします」

「やった! いつも二人きりでなんだかなーって思っていたんですよー。イクシアさんの話とか色々聞かせてくださいねー」


 ううむ、羨ましい。けど、イクシアさんだってずっと俺の面倒ばかり見るのも大変だろうし、こういう大人同士の付き合いというのは、彼女にとっても良いガス抜きになるかもしれない。

 それに相手がニシダ主任とアケミさんなら俺も安心できるし。


「じゃあ、家の鍵は開けておきますので、あまり遅くならないようにしてくださいね」

「はい、分かりました。では今夜は宜しくお願いします」


 そうして俺は家に戻り、イクシアさんはそのままニシダ主任の車に乗り去っていくのだった。

 さーてと、念のため二日酔いに効きそうな物とか用意しておこうかな。


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