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第四十話

(´・ω・`)本日三話目の更新です

 昨夜のうちに、理事長には『やはり一度会うだけ会って話を聞く事にしました』と連絡を入れた。

 どうやら、夏季休暇に入っている事を相手方も知っているからか、実家の方で何度か目撃情報があったらしいが、それも注意されてから姿を見かけなくなったらしい。

 うーん、ちょっとストーカーチックで恐いな。その執念はどこから来たのだろうか、しかも唐突に。

 ガラにもなくそんな事をうんうん考えていると、スマ端に着信があった。

 一瞬、ついに相手側から連絡があったのか!? とドキリとするも――


「もしもし? セリアさん?」

『あ、繋がった。空港からでも繋がるんだねー! 今こっちに戻ったよ』


 セリアさんからの電話だった。そうか、元々グランディアの人間だから、サトミさんみたいに体調が崩れたりはしないのか。


「お疲れ様。久しぶりの故郷はどうだった?」

『ドがつく田舎だからね、なんにも変わんないよ。里のちびっこ達に地球の事話して―ってせがまれちゃった』

「はは、そうなんだ。俺もセリアさんと東京観光が終わったら地元に戻るつもりだから、近所の子供に色々聞かれそうだなぁ……ほら、俺なんてニュースで色々言われたみたいだし」

『うわー大変そう! あ、東京観光いつにする? 私は明日でもいいけど』

「明日? ……うん、丁度いいかも。明日ほら、前に実務研修で一緒だったサトミさんが家に挨拶に来るんだ。セリアさんもうちにおいでよ。その後一緒に東京観光しよ」

『あ、うん……了解。そういえばユウキって学園の近くに住んでるんだっけ』

「セリアさんのランニングコースのすぐ傍。山の中に家があるんだよ」


 具体的に言うと、そのコースから外れて三〇秒もしないで着きます。


「じゃあ明日午前一〇時に校門前にサトミさんが来るから、セリアさんも校門の前で待っててくれる? 迎えに行くから」

『うん、了解。明日、どこに行くかもう決めてたりするの?』

「いや、実はまだ。明日三人で決めようかなって」

『なるほど。じゃあ一応、観光ガイドの本持っていくね』

「ありがとうセリアさん。じゃあ、明日はよろしくね」


 通話を切り、ほっと一息つく。

 じゃあ今度はサトミさんに連絡しないと。元々明日うちに来る予定だったが、観光に一緒にいけないか聞いておかないとな。




 無事にサトミさんも確保。それよりも、彼女的には海上都市に俺以外に気軽に遊べる友人がいないという事なので、これを機にセリアさんとも仲良くなってもらえるといいな。

 そしてイクシアさんに、明日の午前中に友人が二人、遊びに来るという事を知らせる。


「まぁ、サトミさんというと……以前、回転寿司のお店で行き会った女の子ですよね?」

「はい。召喚実験を一緒に受けた子なんですよ実は」

「そうだったのですね? ふふ、お友達が遊びに来るのは歓迎です」

「よかった。あと一人はクラスの友達で、グランディア出身のセリアさんっていうエルフの女の子ですね」

「エルフの……なるほど、了解しました」


 こちらがエルフと口にした瞬間、微かにイクシアさんの眉が動いた。


「気を付けないといけませんね、それは。以前言いましたが、エルフは同族の匂い、魔力の質に敏感です。私は言うなれば、人工的な身体を得た、古代種のエルフです。同じ空間に長時間一緒にいては、もしかしたら何か感じ取られるかもしれませんね」

「そ、そうなんですか!?」

「……生まれてから一年しか経過していませんからねこの身体は……もしかしたら若すぎると感じる可能性も……」

「そ、そのときは実際に若いから、とだけ言ってしまえば……」

「良いのですか? それではユウキが『若い女と一つ屋根の下で暮らしている』と思われてしまいますよ?」

「何をいまさら」


 本当にいまさらである。たぶん既にこの状況を知っている人間は全員そう思っているのではないでしょうか。たまに……イクシアさんは天然みたいな事を言うから面白い。


「そういうものなのですか……」

「はい。だから気にしないで下さい」

「分かりました。では……そうだ、良い事を思いつきました。何かお菓子でも作っておきましょう。明日、皆で食べてくださいね」

「おお! それは楽しみですね! 何か手伝う事ってあります?」

「ふふ、大丈夫です。私には強い味方がついています!」


 そう言いながら、イクシアさんは愛読書であるBBチャンネルのレシピ本を掲げるのだった。






「じゃあ、ちょっと学園の方に行ってセリアさんとサトミさんを迎えに行ってきますね」

「はい、では熊に気を付けてくださいね」

「その注意はガチで恐いんですがそれは」


 翌朝、冗談なのか本気なのか判断に困る言葉と共に送り出された俺は、一直線に学園正面門へと向かった。

 やはり先に到着しているのは――セリアさんだ。


「おはよう、セリアさん。久しぶり」

「ユウキ! おはよ、ここにサトミさんが来るんだよね?」

「そ。それにしても、東京観光だからか服装、気合い入ってるね?」

「そ、そう? 変かな?」

「ううん、凄く綺麗だと思う。やっぱり身長もあるし見栄え良いよなぁセリアさん」


 たぶんイクシアさんより背が高いんじゃないだろうか。つまり俺より高いと。

 羨ましい。エルフの成長期っといつごろなんでしょうか。俺もまだ伸びてはいるんだけど。


「照れるよ?」

「照れてくれても一向にかまわない」

「えーなにそれ」


 そんな話をしながら時刻を確認しようとすると、丁度その時、正門へと掛けてくるサトミさんが。


「お、お待たせ! 待った!?」

「そんな全力ダッシュしなくても。大丈夫、時間丁度だよ」

「よかった、ちょっと寝坊しちゃったんだ」

「あー、そっか。サトミちゃんグランディアから戻ったばかりなんだっけ?」

「あ、おはようセリアちゃん。うん、少し前にね」

「よし、じゃあとりあえず我が家へご招待しましょう。このまま敷地に入って中を抜けて山へ向かうよ。ちなみに、俺がいないときは関係者じゃないと敷地内に入れないから、ここからぐるっと回って、山の別な入口から向かう事になります」

「なるほど……じゃあ用事がある時はユウキ君に迎えに来てもらおうかな?」

「別ルートも覚えてください」


 そうか、確かにこれまで学園の関係者ばかりが家に来ていたけど、そうでない人は敷地に入れないんだもんな。面倒と言えば面倒か。


「うわぁ……シュバ学ってやっぱり大きいし広いねー……校舎が三つもある!」

「でもサトミちゃん通ってるファストリア魔術学園も大きいよね? あれ、神話に出てくる世界樹の朽ち木がそのまま校舎になってるんでしょ?」

「あ、確かに高さだけでみたらうちの学校も大きいかも。神話の世界樹って言われているけれど……誰も確認出来ない話だからねー……どうなんだろう?」

「確かに……何故か神話時代の資料とか、殆ど残っていないんだよね」

「実は作り話だったってオチだったりして?」


 だって神話だし、そういうものなんじゃないでしょうか。


「いや、神話時代の詳細な資料はないけど、その時代は確かにあったと思うよ。召喚実験、あれで呼び出されるものって、現代のグランディアじゃ作れないようなものばかりなんだもん」

「そうそう。滅多な事言うもんじゃないよユウキ」

「ごめんなさい。言われてみればその通りでした」


 イクシアさんという生きた証人もいるではないか。すっかり忘れていた。

 神話時代の人、なんだよなぁ……。


「ふぅ……暑いねやっぱ。この山道を少し上ったら着くから、もうちょっと頑張って」

「余裕余裕! 今日はそこまで暑くないし」

「わ、わたしは……最近少し暑さに弱くて……頑張るよ」

「サトミさん、それってもしかして召喚の影響?」

「か、かも……」


 炎への適正が高くなった影響だろうか?

 木陰を選びながら山道を進み、そして途中で獣道にそれると、自慢の家庭菜園……と呼ぶにはいささか広い畑が現れる。


「ほら、あそこが俺の家。そして我が家の畑でございます」

「おー! なんだか私の故郷に似てるかも! うちもさ、森の中の里で、畑が多いんだよね」

「あ、うちの実家も農家だから似てるかも。何育てているの?」

「今はナスとトマトとジャガイモ。秋になったらサツマイモも採れるね。で、残りは見ての通り薬草と花。これはイクシアさんが実験とか薬の材料に使うんだってさ」

「あ、ハーブもある。バジルだ。これ気を付けてね? 繁殖力強くて他の作物にも影響出るからさ」

「そうそう、うちの里でもちょっと問題になった事あるんだよね」


 Oh……バジルテロはやはり有名なのか。これはまぁ、実は学園に買い取ってもらう約束なので。


「ただいまでーす」

「お、お邪魔します……」

「お邪魔します」


 いざ我が家へ。ああ……甘い香りがしてくる。何かお菓子を焼いているのかな?


「おかえりなさい。そしていらっしゃい、セリアさんにサトミさん」

「お久しぶりですイクシアさん。お邪魔します」

「は、初めまして、ユウキ君のクラスメイトのセリアです」

「ふふ、ユウキと仲良くしてくれている方ですね。初めまして。さぁ、上がってください」


 ああ、この灼熱地獄から早くエアコンの効いたリビングへ。

 ドアを開けると同時に、少しだけ冷たい空気が漏れ出し、逃げ込むように中へ入り、天国のような、涼しく、甘い香りが立ち込める部屋で深呼吸。


「はぁー生き返るわー」

「ユウキ君大げさすぎ」

「ね。あ、でもいい匂いがする……」

「今冷たい飲み物とお菓子を持って行きますからね」


 椅子に座りながら考える。今のこの状況、かなり恵まれているのではないか?

 美人なお姉さんに、綺麗な同級生、そして可愛い友人と同じ部屋に。しかも男は俺一人。

 これは世の男が嫉妬を募らせてもおかしくない――!


「やっぱり凄いよね、ユウキのお母さん……でいいのかな?」

「それで大丈夫。コウネさんもそう呼んでるし」

「ふふ、じゃあユウキ君もお母さんって呼んでるの?」

「いや、イクシアさんはイクシアさん」

「それもそっか。むしろお姉さんって感じだもんね」

「お姉さん……ユウキ、イクシアさんって……地球人で言ったら二十歳ちょっと過ぎたくらいだよね? それなのに他種族の母親になるって……本当凄いと思う」


 あ、やっぱりその程度なのか。良かった、一歳とか言われなくて。

 やはりイクシアさんの魂が肉体に影響しているのだろうか。


「俺も、心の底からイクシアさんには感謝しているよ。一人だった俺の母親になるって決意してくれたんだ。だから俺は、この先の未来……イクシアさんとの生活を守る為に使うよ」


 ちょっと格好をつけるつもりでそう言ったのだが――


「ふふ、ユウキは大げさですよ。そう思いますよね、二人も。はい、アイスティーとマーブルアイスです。もう少ししたらクッキーも冷めますから持ってきますね」

「あ、ありがとうございます! でも確かに言われてみれば……イクシアさんすっごく綺麗で若くて……それなのにユウキ君のお母さんになるって凄いと思います」

「そうそう。私だったら……まだ自分の為にしたい事をしたりとか……あ、でもユウキだって学園を卒業したら独り立ちするんだよね?」

「ん、まぁ……イクシアさんと一緒にどこかに引っ越すよ?」

「えっ」

「ユウキとはずっと一緒ですよ?」


 いつか、母親ではなく……別な形の家族として一緒になりたいと考えております故。


「そ、そうなんだ? ……イクシアさん、綺麗だしね。同族の私から見ても……凄く綺麗。あの、イクシアさんって出身はどちらなんですか? 髪の色と瞳の色からして……サーディス大陸ですよね?」

「あ、確かに。イクシアさんってその……あの、私の同級生にサーディス大陸の王族の子がいるんですけど、その子に凄く似てる気がします」

「うんうん! 私も多少『ブライトエルフ』の血を引いているんですけど、イクシアさんも引いていますよね?」


 また俺の分からない単語が。ブライトエルフとはなんぞや?


「はい、解説のサトミさん、どうぞ」

「え? え? ブライトエルフっていうのは、エルフの中でも神話時代から続くって言われているエルフの王族、その血を微かに引いてる人の事だったかな? 一般的には金髪に近い髪と、碧眼に近い瞳を持っている事が特徴って言われてるんだけど」

「うんうん。イクシアさん、間違いなく血を引いてるんじゃないかなって」

「ほー……確かに綺麗な金髪ですし、イクシアさんの目って、まるでエメラルドみたいなキラキラした目で綺麗ですよね」

「ユウキ、そんなまじまじと見られると照れてしまいます。ふふ、見つめ返しますよ?」

「やだ照れる」


 冗談抜きで本気で恥ずかしくなってくる。い、いやぁ……美人すぎるのも問題ですよ。


「よくそう言われますね。私は確かにサーディスの生まれですが、王族とは無関係ですよ。もしかしたら血は引いているかもしれません。たしか、隔世遺伝という物があると地球では判明していますが、それが顕著に表れているのかもしれませんね。ちなみに生まれこそサーディス大陸ではありますが、ここに来る以前は、セミフィナル大陸にある『商業都市アルヴィース』にある小さな雑貨屋で働いていました」

「え! そうなんですか!? 私一度あそこに行ってみたいって思っていたんです」

「へぇ! 凄い大都会じゃないですか! それがどうして地球に?」


 出た、イクシアさんのフェイクバックボーントーク! つまり経歴詐称!


「ご存知の通り、あの街は商業で栄えていますよね。私が働かせて貰っていた雑貨屋では、地球の商品を扱っていたのですが、ある時店主の仕入れに、当時幼かった私もついていったのです。しかし、当時の東京は今よりもグランディア出身の人間が少なく、また私も珍しいエルフの子供だったので、ちょっとはぐれた隙に誘拐されそうになったのです」

「うわ……確かに昔はそういう事件もあったって聞いた事あるかも……」

「そ、それでどうなったんですか?」


 作り話だと分かっているのに聞き入ってしまう。それでイクシアさんはどうなってしまったんだ!


「そこを、通りかかったある女性が、私の様子におかしな物を感じたのか、その怪しげな男に連れ去られようとする私の手を取り、救ってくれたのです。そして一緒にはぐれた店主を探してくれたんですよ。グランディアでは考えられない程の人の密度に、私は完全に困惑していた中、その女性はしっかりと私を守り抜いてくださりました」

「おお! そんな素敵な出会いがあったんですね」

「それで、その後は……?」

「私はその恩人の名前を聞き、いつか大人になったら恩返しをしようと心に誓いました。それから数十年の時が流れ、私は地球に移り住み、研究室の助手として働いていたのですが、今こそ恩を返す為にと、その時の女性を尋ねたのです」


 あ、そうか、これショウスケに以前話した内容の前日譚か!

 抜かりないな、イクシアさん……。


「しかし……エルフである私と、地球の人間である彼女の時の流れは一緒ではなかったのです。私がその方の元へ訪れたその時にはもう、彼女も、その旦那さんや息子さんも全員、この世を去った後でした。しかし、孫であるユウキだけが唯一、一人でその家で暮らしていました。聞けば彼は東京の学校を受験するという話でしたので、私はこの家にユウキを引き取るべく、母親になる事を決意したのです」

「と、言う訳だったのですよ。俺にとってイクシアさんは大切な家族なんだ」


 おー、なんか本当にそういう経緯があった気さえしてくる……!


「そんな理由があったんですね……あの、という事はイクシアさんも学園の関係者なんですか? ここに住んでいるっていう事は」

「はい。秋宮グループの研究員さんの個人的な助手ですね。家でレポートを書いたり、薬品やタリスマンを作り、その効能を調べたりしていますよ」

「あ、そうだったんですね。ユウキ君よかったよね、高校入ってからずっと一人だったんだよね確か」

「うむ、まぁね。いやぁ……今思うと勤労青年だったよ俺」


 割と本気で。出来るだけ貯金崩したくなくてバイト掛け持ちとかしてたし。

 まぁさすがに高校三年からはバイト無しで勉強に励もうと――だよな?


「さて、じゃあそろそろどこに遊びに、もとい観光に行くか相談しようか」

「あ、そうだったね。イクシアさんもよければ一緒にいきませんか?」

「ふふ、今日はお友達同士で行ってください。お気持ちだけ受け取ります」

「そうですか? ユウキ君イクシアさんが一緒の方が嬉しいんじゃない?」

「それは今度二人で行くので問題ないです。っていうか友達同士で行くのに一人だけ保護者同伴っていう俺の気持ち考えて?」


 さすがに恥ずかしすぎる。いくら周囲からはそう見えなかろうが、恥ずかしいだろうが。


「私は待っていますから、どうぞ三人で見て来て下さい、東京。帰りは何時頃になる予定ですか?」

「あ、私は寮だから、七時までには戻らないと……外泊届も出していないので」

「私は一人暮らしだから何時でも大丈夫ですけれど……セリアさんと同じくらいの時間にします」

「うん、了解。じゃあ晩御飯はどうしようか? 近場で食べるか――」

「ふふ、うちで食べていきますか? もし食べるのなら、腕によりをかけて作りますよ」


 すみません、じゃあ我が家で食べるに一票でいいですか。


「良いんですか? その、それだと寮まで近いから助かりますけれど……」

「あ、私もイクシアさんのお料理食べてみたいです。クッキーも美味しかったですし」

「ふふ、では任せてくださいね。最近は色々作った経験が生きてきたのか、少し手の込んだものも作れるようになったんですよ?」

「はは、確かにそうですね。いつも美味しいご飯、有り難うございますイクシアさん」

「どういたしまして、ユウキ」


 セリアさんとサトミさんの生暖かい視線が気になる。


「さ、さぁ、場所を決めようか。俺としては定番のスカイツリーに昇ってみたいかな」

「あ、そうだね。私も行ってみたいかな……その後は渋谷とか新宿とか……」

「私も行ってみたいなー渋谷。服とかいっぱいあるんだよね」


 Oh、元いた地球なら完全にアウェーな渋谷。この空気じゃ秋葉原なんて提案出来ないよなぁ。

 いや……そもそもゲーム文化もアニメも漫画も満足に発展していないのだし、秋葉原に行ってもただの電気街なのかなぁ……逆にデバイス関連の製品多そうだけど。

 ちょっと検索……あ、一応この世界のマンガ、アニメのグッズもあるのか。

 といっても知らない作品ばかりだけど。俺の記憶が正しければ、バトラーに関係するアニメや漫画、まぁ元の世界で言うところのスポーツ漫画や格闘技漫画的な位置づけの作品ばかりだ。

 あ、でもアニメコラボのデバイスとかスーツとかちょっと興味あるかも。


「あの、俺は秋葉原にいってみたいのですが……」

「……ユウキ君、真面目すぎない……? あそこって教育放送関係のグッズが密集してるよね? 『バトラー列伝逆転のススメ』とか『獄都の剣』とか」

「あ、知ってる! こっちの世界にも漫画あるよ」


 すまん知らん! けどそうか、この世界のアニメって教育的教材みたいな位置づけなのか。そうか……観光で行く場所としてはダメなチョイスなのか……ちょっと残念。

 ああ……元の世界で悔いがあるとすれば、某ゲームのリメイクや秋葉原めぐりが出来なかった事だなぁ……。


「じゃ、じゃあ俺も新宿で……ちょっと歌舞伎町って見てみたい。変な意味じゃなくて、純粋にアジアで一番有名な歓楽街って言うくらいだしさ」

「なんか恐いイメージあるけど……でもそもそも日本にシュヴァイン生に手を出す大人なんていないか……」

「へぇ、そうなんだ! まぁなにかあったらユウキ君、宜しくね?」

「二人抱えて全力で逃げさせてもらいます」


 何はともあれ、行く先は決まった。

 イクシアさんに出発する旨を伝え、俺達は学園正面門からバスに乗り、フェリー乗り場へと向かうのだった。






「……思ったんだけどさ、ここって電波塔なんだよね。魔法とか応用してもっと効率よく通信とか出来ないのかな、こんなに高くしなくても」

「ユウキ夢なーい! こんな高い場所そうそうのぼれないよ? 高ければ高い程景色も良いじゃん! ほら見て、海上都市がうっすら見える!」

「望遠鏡使うと微かにシュバ学見えるね! ユウキ君の家も……木に隠れて見えないや」


 やってまいりました東京スカイツリー。確かに一度は昇ってみたかったのだが、別段特に感動するものでもないなぁ……俺としては、サトミさんが通っている、世界樹? とかいうでっかい樹を再利用した学校にいってみたいです。


「地球って凄いよね……これ人間の力だけで作ったんだよね。しかも隣の東京タワーなんてまだ魔法が発達する前に出来たって聞くし……やっぱり技術の進歩の速さが私達の世界とは雲泥の差だよ」

「うーん、どうなんだろう? 少なくとも二〇〇〇年以上は昔から魔法が発達していたんだし、それで不自由なく豊かな暮らしをしていたなら、技術の進歩の速さが緩やかなのも納得できない?」

「そういうものなのかなぁ。ユウキはどう思う?」

「サトミさんと同意見。発展する必要がないくらい豊だったんならしょうがないんじゃない? 地球の二千年前なんて……そっちの世界と比べたら、ねぇ?」


 いやぁ、もうようやく国っていう概念が生まれた感じじゃないですかね?

 その時代から既に魔法技術で人々が豊かな暮らしをしていたグランディアの方がとんでもないと思うのですがそれは。

 まぁ文化、技術の停滞と言えなくもないけど。


「あ、お土産とか買っておこうかな? 確か展望デッキの下だよね?」

「うん、そのはずだよ。ユウキ君も行こう?」

「OK、んじゃ行こう」


 そう思いエレベーターに乗ろうとした時だった。二人がエレベーターに乗った瞬間、周囲にいた観光客が何人もエレベーターになだれ込み、そのまま人数オーバーのブザーがなる。


「出遅れたか。二人とも先に行ってて」


 二人を見送り、エレベーターが戻って来るのを待っていると、そのタイミングでスマート端末から着信音が鳴る。

 理事長からだ。こりゃ長引くだろうからと、エレベーターから一度離れ通話に出る。


「もしもし、理事長さん? 今ちょっと外出中でして……」

『そうでしたか、申し訳ありません。先日連絡いただいた件ですが、先方から連絡があり『会って話をするだけならば』と伝えておきましたので、そのご連絡です』

「あ、そうだったんですか。分かりました。もし日取りが決まったら教えて頂けますか?」

『ええ。……ただ、向こうからは『こちらから出向きます』としか言われておらず――』


 そこまで会話をしていて、ふとおかしなことに気が付いた。

 人の邪魔にならないように移動したのに、いつの間にかフロアから人の姿が消えていたのだ。

 人気の無いフロアに、自分の通話声だけか響いている、少しおかしな状況。


「理事長。なんかちょっと辺りの様子がおかしいので、一度通話を切り上げても良いですか?」

『……分かりました。ユウキ君、今回の件で何かが起きた場合、責任は私の方で取ります。自分や身の回りの人間の安全を最優先に行動してくださいね』


 通話を終え、歩いてみると、エレベーター前に集まっていた人間も皆、消えていなくなっている。そのおかしな状況に困惑していると、ふいに背後から何者かの声をかけられた。


「少し人払いをしたの。貴方とお話がしたくて。ねぇ、落ち着かないのなら、場所を移す用意もあるのだけど――」


 何故だろうか。なぜか本能的に、この声の主を見たくない、関わりたくないと思ってしまった。

 故に――確信を持ち、振り返らずに応える。


「人の都合も関係なしですか。アナタみたいな常識知らずとは話す気も失せるよ」


 そのまま呼びされていたエレベーターに乗り込み、その場を離れたのであった。




 今のが? ……間違いないという予感がする。

 けど、これはなんだ? ただの一般人なんかじゃない、絶対にありえない。

 人を消す? 払う? まさかこっちの動きを監視していた? あらかじめ人を用意していた? ……少なくともなんらかのバックアップ、力があるのは確実だろう。


「あ! やっときた! もうユウキ君遅いよー」

「エレベーターそんなに並んでたの? さっきからずっとエレベーター来てるのにユウキ乗ってないし」

「あ、ごめんごめん。……たぶん、団体のツアー客だったんじゃない? みんな一斉に動いたみたいでさ、譲ってあげたんだ」

「そっか。ほら、ここでお土産買っていこうよ」


 偶然、ではないだろう。思いのほか動揺していたのか、お土産屋では無駄に色々買ってしまい、あまり記憶が残らなかった。折角の観光に水を差すなよ……クソが。




 次に訪れたのは、二人が行きたいと言っていた渋谷。月並な感想だけど……『今日は祭りか?』なんでこんなに人が多いんですかね……密度ヤバくない?


「ユウキ君、服買いに行こう! セリアさんも行こう!」

「ね、凄いね! ユウキのも選んであげるからほら!」

「えー! 俺ああいう店入るの恐いんだけど」

「いいからいこうよ、ねぇ」


 そんな『ザ・若者の聖地』感あふれるショップ↑(語尾上げ)の集合体なんて俺には無縁なはずなのに、二人に流されるように足を踏み入れ――ませんでした。女の子ばっかりだったのでさすがに勘弁してもらいました。さっきの件、報告もしておきたいし。


「まぁ流石にここまで女の子ばかりだと入りにくいよね。じゃあお店の前で待っててくれる?」

「人の出入りも激しいから……あ、そうだ。ユウキ、あの喫茶店で待っててよ!」

「了解。んじゃ二人とも、ゆっくり楽しんできておくんなせぇ」

「ふふ、ずっと来てみたかったんだよね。行こう、セリアさん」

「うんうん、楽しみだね! じゃあねユウキ」


 二人と別れ喫茶店へ。それも後から人が増えるからと、個室へと案内してもらう。

 すかさず理事長に連絡をし、先程の件を報告する。


『……思っていたよりも、裏の意図が多そうな相手でしたね。ユウキ君、念の為助っ人をそちらに派遣します。……貴方なら『彼女』の協力を得られるでしょう』

「ええと、誰ですか? 協力っていうと、俺が何かをすると?」

『ええ。私の方でも調べてみますが、こと電子戦、情報戦では彼女には勝てませんからね、この世界では』


 そこまで言われ、気が付く。ああ、確かに俺は情報を集めたい。そして以前、実習で俺に協力してくれた彼女を思い出す。


『それと……今さっき連絡がまた入りました。『先程は突然失礼な事をしてしまった。今からもう一度会えますか?』と。……恐らく、相手の手勢が周囲に潜んでいるのでしょうね』

「……長くて三〇分だけ。それを過ぎたら帰ってもらう事を伝えてください」


 不気味な動きを見せる相手への伝言を理事長に頼むと、すぐに個室の扉がノックされ、店員が『お連れのお客様が到着しました』との報告をしに来たのだった。


「……もう一度チャンスをくれてありがとう、ユウキ」


 そして現れたのは、先程スカイツリーで声をかけてきた人間だった。

 初めて見る顔。だが……確かに血の繋がりを感じる顔立ちをした女性だった。

 まぁ整形手術でいくらでも変えられそうではあるが。

 若く見えるな。それに大分背も低い。もしこの相手が俺を騙す為に用意された人間だとしたら、ちょっと腹立たしい。少なくとも俺の背が低いのは遺伝だと思っているのだろうし。

 ……実は祖父母も親父も結構背が高かったんですよね。


「呼び捨てにされる覚えはありませんよ。初対面の『他人』に対する礼儀はどうなっているのでしょうか」

「っ! そうね、ごめんなさいユウキ君」

「さらに言うなら先に名乗るべきでは? 俺は貴女の名前を知らないのですが」


 敵意を隠す気はない。嘘であれ真実であれ、俺の生みの親と名乗る相手なら、敵だ。

 少なくとも俺はそうなるような環境で育ってきたのだから。


「そうね、ごめんなさい。私の名前は――サオリです」

「苗字は? 随分大きな後ろ盾があるみたいですし、ただの独身女性というのは無理がある。俺と親父を捨てたんだ、きっと良い嫁ぎ先に乗り換えたんでしょう? 仮に貴女が本当に俺を生んだ人間なのなら」

「――岸崎です。ユウキ君は、その……随分としっかりしているのね」

「そりゃそうだ。頼れる人間が他より少なかったんでね。ここからは俺の質問に答えるだけで良いです。喋らないで下さいね。本当、話を聞くだけです。会話をする予定はありませんでしたから」


 瞬間、サオリと名乗る女性の顔が強張る。

 人当たりの良さそうな声のトーン、そして柔和な顔つき。しかしその目だけは、どこかうつろな、感情の色が見えない、伽藍洞のような闇を讃えていた。

 まるで何かが抜け落ちたようなその闇を見続けるのが嫌で、視線を切ってしまう。


「何故俺と親父を捨てたのか。今まで何をしていたのか。何故今になってコンタクトを取ろうとしたのか。この三つにだけ答えてください。それで、俺とアンタの人生はもう交わらない」

「……答えなければ、これからも会ってもらえるの?」

「答えないなんて選択肢はないですよ。なら今ここで――」


 ねぇ理事長。会うなんて選択を俺がした以上、どんな事態が起きても問題がないように動いてくれていますよね。

 たぶん、俺がどんな人間なのか、薄々気が付いていますよね。

 この間の任務だって、任務前に俺がした事、理事長の耳に届いていないはず、ありませんよね。

『ササハラユウキは、皆が思っているよりも良い人間じゃない』って、知っているんですよね、理事長。


「塵も残しません。そっちが周囲に手勢を仕込んでるのと同じように、こっちも恐らくそういう人間が潜んでいるんだと思います。幸いここは個室で、監視カメラもない。脅しじゃないですよ」


 殺意ではなく、害意を。普通の人間が殺意なんてそうそう感じ取れるはずがないから。

 ありったけの睨みと、身体の動きと、言葉の暴力で示す。


「何今になって震えてんだよ。おおかた俺の価値に気が付いて、新しい旦那にでも指示されたんだろ?」

「っ! 色々あったのよ。婚約者と自分が生んだ子を手放さないといけない事情があったの。そういう世界だって存在するの。貴方も……薄々そういう世界があるって知っているんじゃないかしら」


 意外な事に、綺麗に取り繕った言葉ではなく、曖昧に濁すような話をする女。

 故に、本当にそんな事情があったという言葉を信じる事が出来た。

 だからどうしたって話なんだけど。


「ずっと会えなかった息子だと確信が持てた。だから会いたいと思ったの。これは生んだ人間の本能としか言えないわ」

「嘘だね。タイミング的にそうに決まっている。じゃなきゃ唐突に外部の人間、つまり俺と接触するのを許可されたって事になる。その割には……随分人を動かすのに慣れている風に見えたね、さっきといい今といい」


 短すぎるのだ。俺がメディアに出てから接触までの期間が。数か月で秋宮の生徒である俺とコンタクトをとれるところまで来られる力があって、本人が直接俺の実家にまで出向く事も出来たのだ。

 最初から俺や、その関係者があの場所にいると確信していたに違いない。

 だってそうじゃなきゃ……なんで学園の生徒だって報道されているのに、先に実家に来たんだよって話になる。

 大方、まだ親父か祖父母が生きていると思っていたのだろう。

 つまり、俺の家族がどうなったのかすら知らない、知ろうとすらしていなかったに他ならないのだ。

 こちらの考えを全て説明してやると、ようやく観念したのか、諦めたように俯く女。


「捨てた理由を話さないのは、まぁ人に言うのが憚られる理由って事なのは分かった。アンタ見た目若いしな、きっとお前を貰った男はそういう人間なんだろうさ。で、権力もある。俺を手中に収めたいと考えるのもまぁ理解出来るさ」

「っ! なら、一度私の今の家に来ないかしら。今、観光中なのよね? よかったらその子達も一緒に招待するわよ。今夜食事でもどうかしら? 色々話す機会だって――」

「……ここまで頭空っぽなのかアンタ。悪いけどもうアンタから話を聞きたいとは思えなくなったよ。生憎、今夜は俺の『母さん』と友達と四人で食事の予定でね。もう二度と会う事はないだろうし、早々に帰ってくれる?」

「どうして? 今日じゃなくてもいいのよ、一度でいいの、うちに来て欲しいの。それで、私の今の主人に――」

「うん、もう分かったから帰って。二度と近寄らないで欲しいかな。後、口閉じて。店を汚したくない」


 別に期待もしていなかったんだけど、想像以上に酷くないか、この女の頭の中。

 会話の流れが最初から悪いって気が付かないのだろうか? どうして誘いに俺が乗ると思ったのだろうか?

 俺を捨てたのだって……どうやら本気で金と権力に釣られたように見えるし。

 親父、なんでこんな女と結婚しようとしたんだ? この女の血が俺にも流れているとか恐怖でしかないんだけど。

 ……それとも、ここまで馬鹿になるくらい、膨大な力と金に溺れたのだろうか?


「ねぇ、これで終わりじゃないわよね。ユウキ君、私本当に貴方の生みの親なの! また、また会える? お願いよ、一度でいいから家に来て! じゃないと――」

「愛想をつかされるって?」

「っ! 凄く会いたがっているの主人! ねぇ、だから今度――」

「騒ぐなよ。帰ってくれないかな。じゃないとたぶん、ね?」


 手の中でコップが砂に変わる。破片が刺さる事もなく、ただ透明な砂利になる。

 それを見せつけるように手を開き、暗に『こうなりたいか?』と脅す。

 初めて、伽藍洞に感情が宿ったように見えた。その瞳を恐怖の色に染め、女は急ぎ、逃げるように個室を去っていったのだった。


「……会わない方が良かった、とは言えないよな、流石に。どうしようもない馬鹿が俺の関係者にいた。それを排除出来たと思えば……一応有益ではあったのかね」


 一人残され、そう呟く。今日の出来事の詳細は、イクシアさんには黙っていよう。

 ただ、少し『想像以上に馬鹿な人だった』とだけ伝えよう。そうしよう。

 そういえば、理事長が助っ人をよこすと言っていたけど――


「失礼します。お連れ様がいらっしゃいました」

「あ、分かりました」


 すると、再び店員がやって来てそう告げた。

 そしてやって来たのは、セリアさんでもサトミさんでもなく――



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