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第二話

 さっきの授業が今日最後のコマだったらしく、下校の時刻になった。

 ……さっき、VR訓練がどうのって言っていたよな。寄ってみるか。




「……おかしいな、学校来るときは気が付かなかったけど、街もどこかいつもと違う」


 登下校で二年半も通った道。特に行きつけの店やコンビニがあるわけでもない道だが、それでも目に馴染んだはずのこの通学路が、今までとは微妙に異なっていた。

 それは街中の掲示板に貼ってあるポスターの内容だったり、昨日まで金物屋として店先にヤカンやらスコップを並べていた店が謎のスポーツ用品店になっていたり。

 そして心なしか走っている車のデザインが近未来チックだったり。

 正直、突然今までとは違う場所にきてしまったという恐怖はある。

 だが、悲しいかなゲーム好き。『異世界みたいななにかキター!』という喜びの方が大きい。

 正直、さっきの授業がなければハイテンションでさっきの用品店に突撃していたと思います。

 なんだよ『秋宮カンパニー最新モデル入荷 闇を切り開く新世代の刃』って。めちゃくちゃ気になるじゃねーか!


「が! 今は訓練! 俺だけこんな楽しそうな世界で置いてけぼりとか勘弁だぜ本当!」


さぁ、レッツ元ゲームセンター! レッツ田舎のオアシス唯一の繁華街へ!




「……なんだこれ……でっかいバッティングセンターみたいな」


 やって来ました訓練施設。学校にあった施設よりもさらに巨大なその建物に尻込みしてしまう今日この頃。

 周囲を見れば、なにやら竹刀袋のようなものを背負った人間がこぞってその入口へと飲み込まれていっていた。

 まさか、本当に武器なのか? 本当にVR空間のような場所で剣ブンブン振り回したり出来るのか!?

 授業を見る限り、俺達のような学生ですら超人めいた動きが出来るのだ。そこでさらに剣を使うなんてそんな……もう魔◯剣とか空◯斬とか、そういう技っぽいのとか出せたりするのではないでしょうか!?


「なんてな。さすがに剣からなにか出るなんて事は――」


 さすがにそれはないと脳裏に浮かんだ妄想を振り払い、覚悟を決めてその建物へと足を踏み入れるのであった。




「なんか出てるー!?」


 すまん剣から出てたわ。なんか赤い光の剣みたいなのとか光る剣圧みたいなの飛んでましたわ。

 施設入り口に設置されていた巨大なモニタにどこかの訓練風景が映し出されているようで、その様子を周囲の人間が熱心に見つめていた。

 まるで、格闘技を熱心に見るマニアや経験者のように、彼らが小さく隣の人間と意見を交わす。

 その内容を聞こうと、やや冴えない様子の男性二人組の側へ寄ると――


「あれは、USH社の第二世代モデルだな。あそこまで動ける人間があんな旧式の武器で戦うなんて……」

「分かっていないな。あの独特の魔力光の色に魅せられた人間は多いらしいぞ。俺だって、もし売っていたらローン組んででも買いたいくらいだ」

「ほぉ、赤色好きか。けどまぁ……恐らく負けるだろうな。対戦相手の武器の性能もあるが、本人の力量が違いすぎる。誰だ、あっちの剣士」

「初めて見るな俺も。見たところあっち側の技も習得しているみたいだが……」


 なに、なんなのそのワクワクする会話!? 剣のモデル? USH社? あっち側の技?

 ワクワクが止まらない。なんだよ技って、俺にも出来るのかあんな風に剣からビュって出すの!

 再び視線をモニタへと向けると、二人の剣士が鍔迫り合いをしている真っ最中だった。

 片や、赤い光を纏った、メカメカしいデザインの日本刀のような武器。これが先程聞いた『USH社製』とかいうやつだろう。

 対する『あっちの技』とかいうものを使う剣士は、なんの飾り気もないポールを軸に、黄色い光で剣の形をとるという、より一層未来感溢れる武器を手にしていた。

 大きいな。ゲームなら大剣と呼ばれそうな大きさだ。


「……すげぇ、ああいう武器ってさっきのスポーツ用品店みたいな場所で買えるのか?」


 バイトを少し前に辞めた俺の財力で買えるか疑問なんですが、どうなんですかそこんところ。

 その時、画面の中に動きがあった。

 大剣を持つ剣士が、相手の剣士を鍔迫り合いの状態から一気に弾き飛ばし、その勢いのまま壁へと叩きつけたのだ。

 これは、勝負ありだ。


「大きい剣の方が出力も上とかあるのか? すげぇなぁ、俺もやってみたいなぁ」


 こうしていられないと、受付と思われる場所へと向かう。

 すると、学校の授業で先生が着ていたようなスーツに身を包んだ受付のお姉さんが応対してくれた。

 ……むっちりパツンパツン……これが見られただけでもうここに来た甲斐があったようなものなんですが。


「あの、ここ使うの初めてなんですけれど、どうすれば良いんでしょうか」

「あら、その制服は……聡峰(さとみね)高校の生徒さんね。じゃあ学生証と、このシートに必要事項を記入してくれますか?」

「あ、分かりました」


 手渡された紙と共に記入スペースへと向かい、その内容に目を通す。

 そしてその内容にまたまた頭を抱える羽目になってしまいましたとさ。

 ……なんですのん『先天性幻力吸引口の有無』って。

『適正幻力』って俺知らないよ、『最終検査時の幻力保有量』ってなんのこと?

 あれか、体育テストみたいなものか。学校に保管されていたりするのかそれ。

 おいおい俺よ、君は今までどんな人生を歩んできたんですか。


「すみません、この数値とか今分からないんですけど……」

「あ、大丈夫よ。任意だからそれ。でも厳しい場所もあるから、今度学校からもらってきてね、測定結果。一度登録すれば全国の系列店で使えるから」

「あ、了解っす。じゃあ……道具とか、貸し出してもらえるんでしょうか?」

「勿論。高校生みたいだし……そうね、このリストから選んで頂戴」


 渡されたリストには、大きく分けて三つのカテゴリが記されていた。

 銃や弓といった遠距離武器。剣や槍といった近接武器。そして――


「ま、魔法!? 魔法なんてあるのかよ!?」


 幻力(魔力)ブーストにより魔法の行使を補助する術具という項目。

 もう選ぶしかないじゃない! こんなの選ぶしかないじゃない!


「すみません、この……秋宮モデルの法術リンカー? っていうのと、秋宮モデルのエッジモデル? っていうのを借りたいんですけど」

「はいはい秋宮セットね。それ、人気なのよね。初心者にも扱いやすくて」


 そう言われ手渡されたのは、左手用のアームガードと、金属質な……木刀のような物。

 メカメカしい外観にSF世界のようだな、とテンションを上げつつ、早速とりつけてみる。

 サイズはピッタリ。足早に訓練場へ向かうと、どうやら共有のスペースだったらしく、広い体育館のような場所で皆が準備運動をしていた。

 扉がいくつも並んでおり、どうやらそこがVR空間? になっているらしい。


「剣……結構重いな。それにこの術具ってどうやって使うんじゃろな」


 試しに気合を入れて左手を突き出しても、うんともすんとも言いませんが。

 振ってもダメ。何してもダメ。ええ……。

 が、今日本来の目的は、学校の授業でありえない動きをしていたクラスメイトと同じことが出来るようになることだ。


「なにか……意識的にああいう動きが出来るようになるスイッチがあるんかねぇ」


 剣を振る。これではただの素振り。反復横跳びをする。これはいつもの俺。

 なにか、なにかあるはずだ。きっと……この世界にだけあるなにかが。

 アニメやゲームのような力があるのなら、それを引き出す方法があるはずだ。


「身体が温まって来た気がする。……なんだろ、身体の中に流れてるのか……?」


 思い描く。様々なアニメで見た主人公の修行のように、想像するのだ。

 何かが流れているのだ。それを全身に行き渡らせ、思い描き動くのだと。

 導かれるように、次第に身体の動きが早くなる。視界がぶれ、周囲の景色が残像を残す。

 ……もっと、コンパクトに。こんなもんじゃないだろ、俺が見てきた作品の登場人物は、瞬間移動やら分身やら出来たじゃないか。


「出来るかは知らんけど――って、舌かんだ」


 跳ぶ。するとこの訓練場の天井だろうか、それが目の前まで迫る。

 は!? 俺何メートル跳んだ!? 着地できんの!?

 その心配を他所に、衝撃を感じさせない音をさせ着地。

 ……おお、出来た! これが身体を動かす感覚か!


「すごいなキミ! なにかの訓練生なのか?」

「大学生の俺らより動けてんじゃん、なになに、どっかのチーム入ってんの?」


 すると、近くにいたお兄さん達が近く寄って来てくれました。

 こりゃ好都合。色々聞いたろ!


「や、ほらよくアニメであるじゃないですか。ドラ〇ンボールとかナ〇トみたいなの。ああいう感じで自分の中と対話? みたいな感じで集中して、そういう動きを意識して動いてみたんです」

「……アニメ? そんな作品知らないぞ? それを見たら動けるようになるって?」

「おいおい、どこの国の話だよ……っていうかアニメ見て動けるとかさすがにないわ。……いやまぁ、秘密なのは当然だわな。悪かったな、からんじまって」


 ……え? いや割とメジャーどころじゃないですか?

 何かがおかしい……世界がなにかおかしいと思っていたが、知らない物が増えた世界ではなく、もっと何か根本的に変わってしまっているかのような。

 立ち去るお兄さんを見送りながら、俺は急ぎこの訓練施設を後にし……街の中心部、繁華街へと向かうのだった。




「嘘だろ……ない……ない……ゲームコーナーにRPGもアクションもなにもない!」


 元々行きつけだったゲームショップ。だが、そこで売られているのは三世代以上前のゲーム機だけだった。

 ドット絵全盛期。けれどもそこにアクションもRPGもなく、スポーツゲームとクイズゲームしか置いていなかった。

 それは、漫画本やライトノベルも同じ。

 戦いをテーマにした作品もあったが、それはあくまで常識的、一部は先程のような俺の動きも描写されていたが、その程度だった。

 ……なかったのだ。スーパーヒーローが活躍するような物語が。


「……訳が分からない。じゃあ俺の家にあるゲームは!?」


 再び走る。電車に飛び乗り、そして再び走る。

 山の麓にある、自分の家。財布から鍵を取り出し、そして鍵を開けようとしたところで――


「世界が……変わったなら。俺の境遇も変わってたりするのかね……?」


 仄かな期待と不安。そして玄関を開けると……見慣れた光景がそこにあった。

 赤ん坊だった俺を抱き上げる親父の姿がうつされた写真。

 どこかの山の風景が写った写真。

 枯れない造花が活けられた花瓶。

 変わらないその姿に肩を落としつつ、靴を脱ぎ……そして座敷へ向かう。


「……だよな。やっぱ何も変わらない」


 仏壇。そして飾られている親父と祖父母の写真。

 ……ああ、変わらない。


「っと……ゲームゲーム!」


 ちょっとだけ期待をしていただけ。そんなへこむ事じゃないと居間へ向かう。

 だが、やはりそこにあるのは、買った覚えのない古いゲーム機だった。

 いや、見た目は新しいな。ソフトの方は……。


「算数マスター! 国語の達人! クイズアカデミア! 知らんわこんなん!」


 ええい、どうなってんだこの世界は!

 そもそも俺は何故ここにいる。ここは何か変わったとかじゃなく、完全にパラレルワールドだと仮定しよう。

 ……やべ、なんもわがんにゃい!


「……このまま、ここで生きていくって事か? いや正直それは楽しそうだしいいんだが……なんだろう、色々分からないと不安だわ……暫くこの世界の事、勉強した方いいよな」


 その日から、俺は傍から見たら真面目な勉学青年に映るような生活を続けた。

 二日目は、学校の授業を真面目に聞き、図書室で歴史を調べた。

 三日目は、元の世界ではゲーム仲間だった友人に様々なサブカルチャーについて聞いた。

 四日目は、進路相談の名目で、俺達が一般的に選ぶ道、企業について聞いた。

 五日目、インターネットを駆使して、更に多くの情報を集めた。

 そんな生活を、俺は一か月もの間続けたのだった。




「今日で一月、か。ようやく分かった……この世界の事」


 便宜上、俺はこの世界を『分岐世界』と呼称することに。

 今から半世紀と少し前。日本列島から東に二五〇〇キロに位置する太平洋沖に、謎の力場が発生。

 まるでブラックホールのようなそれの登場に、戦後の日本どころか世界各国が異常事態だと調査を開始。

 だが、それから数日でその力場より人が現れたそうだ。

 ……異世界。その日、地球は地球以外の世界と繋がった。

 そこから互いに交流が生まれ、時同じくして地球上でも不可解な現象が頻発。

 どうやらそれは、その巨大な力場を通じて、異世界の力『幻力(別名:魔力)』と名付けられた物が流れ込んでいる影響らしかった。


「……非日常が日常になった関係で、文化の発達の仕方が変わったんだろうなぁ……ゲームの開発が進んでいないのも、RPGやらアニメ作品が豊富じゃないのも、それが当たり前だったからか……あー……じゃあ俺はもう新作ゲームを楽しむ事も出来ないのか」


 元の世界で一流ゲームメーカーだった新天堂は、今では戦闘用スーツのメーカーとして国際的に有名な会社に。

 永遠の二番手なんて言われていたサガ社は、幻力変換発電所とかいう、クリーンで効率の良い電力供給会社として日本を支えているそうだ。

 で、電気製品からゲームまで手広くやっていたソナー社は、武器の開発に余念がないと。

 が、これら三社をも上回る超一流企業がこの世界では大頭している。


「秋宮カンパニーって……元の世界じゃただの文房具メーカーだったろ……確か教材も扱ってるとこだったかな」


 私立図書館や保育園の運営までする会社だったが、そこまでメジャーじゃなかったはずだ。

 だが、この会社はこの世界だと、繋がった異世界との貿易から兵器開発、技術開発、それに一部の外交や戦闘部隊の運用までする、一大軍事会社になっていたのだった。

 さて、兵器やら軍事やら、授業にまで戦闘が入っているこの世界はどうなっているのか。

 その答えが――


「ササハラ、少し根を詰め過ぎだぞ。最近のお前の姿勢は大いに評価するが……昼休憩だ。食事くらいとれ。ほら、お前の好きな豚カレーマンだ」

「あ、悪いなショウスケ。ありがとう」

「構わんよ。しかし、なんで急に変わったんだ、お前は」

「いやまぁ……ほら、もうすぐ夏休みだろ? そろそろ受験の為に頑張りたくなった」

「そう、か。何かあった訳じゃないなら良い。最近じゃ悔しいが、俺の組手での勝率も下がってしまった。今のお前なら東京の学園だって狙えるかもな」

「はは、まぁな。ただ、まだ決まっていないんよ俺の進路って」

「そうなのか? 俺はてっきり『異界調査隊』でも目指してるのかと思ったが」


 そう、その『異界調査』というのが、この世界で皆が戦闘訓練を行っている理由だ。

 地球と繋がった異世界。だが、そこ自体は平和な、俺の認識で言うところの『剣と魔法の世界』ってやつだ。だが『異界』っていうのは、地球と異世界、そのどちらでもない。

 異世界に現れた異常であり、また違う世界へと繋がっているゲートでもあるそれは、多くの危険を孕み、今も調査中の危険区域だ。

 その調査中、この地球に繋がった、というのが事の顛末だそうだ。


「まぁそういうのは……プロに任せるさ。ああいうのは天才が就く仕事だろ?」

「まぁ……な。そうだな、ユウキならバトラーとしてプロデビューなんてどうだ? 花形だし派手好きなお前にぴったりだ」

「はは、そうかもな」


 異世界の人間と協力して戦うべく、次代の戦士を育成するというのは常識なのだ。

 まぁ、無論それ以外の進路も豊富で、徴兵制度のような恐い物ではないと、理解している。

 それこそ、この戦闘訓練を通じて、プロスポーツ選手のように活躍するというのが、大半の人間の憧れでもあるわけだし。


「ふぅ、やっぱうめぇな豚カレーマン」

「冬限定だったらしいぞ、元々は」

「だよなぁ? そろそろ暑くなってきたし食いおさめかね」






 下校中、俺はここ一カ月の日課となっている、例の戦闘訓練施設に寄っていた。

 実は……まだ魔法が使えないのである。いや、調べたよ? いっぱい調べたし、家にある中学校の教科書にも基礎はのっていたよ? でもうんともすんとも言わないの!

 ただ、身体を強化する方はすっげえ上達したと思われる。少なくともこの施設の利用者と模擬戦しても負けなしだし。


「あ、今日も来たわねユウキ君」

「ちわっす。今日もいつもの借りて良いっすか?」

「秋宮セットね? そろそろ術具は諦めたら? 魔法をまったく撃てない人なんて聞いた事はないけど、実用レべルに至れなくて使わない人なんてごまんといるわよ?」

「やっぱそうなんすねー……じゃあ今日からは剣だけで」

「はい、じゃあ秋宮のエッジモデルね。それ、かなり旧式だから、そのうち新しいの入荷するわよ」

「マジっすか! じゃあ入ったら俺にも使わせてくださいね」

「ええ、勿論。それより……今日は君も満足できるかもね? ほら、今丁度模擬戦の様子が映ってるわよ」


 なんだかんだで常連になった俺と親しくしてくれるのは受付のお姉さん。

 思春期が長引いている僕にはその笑顔とナイスバデーは眩しいのです。

 会話をしに来ていると言っても過言ではないっす。

 が、その気になる言葉にロビーにあるモニタに目を向けてみると――


「うっそだろ……あれ七対一じゃん……圧倒してるし」

「お、ユウキ君じゃないか。見てみなよあの女の子。大学生とアマチュアチームの混合七人相手にあれだ。あんなに小さいのに……あれが天才ってやつなのかな?」


 モニタには、以前話しかけたお兄さん達を含む男性七人が、魔法や銃、剣や槍を駆使しても攻めきれず、瞬く間に半数ほどを沈められる姿が。……しかも相手はどう見ても少女だ。

 青みがかった銀髪。小学生くらいだろうか。

 身長よりも大きな大剣型の武器を駆使し、縦横無尽に戦場を駆けまわる姿。

 髪についてはあれだ。異世界から来た人間とこちらの人間が結婚する事なんてザラであり、幻力という力の影響で、変わった色をした子供が生まれる事も多いのだとか。

 実際、俺のクラスにも金髪や赤髪がいるし。いや、俺てっきり夏休み前にイメチェンしたのかなって思ってたんですよ。

 ちなみに俺は真っ黒。残念無念。


「試合終了か。これで施設にいた人間は全敗だ。ユウキ君、どうだい?」

「……聞くまでもないでしょう?」

「だな。よっし、俺達の雪辱を晴らしてくれ」

「おうさ! 泥船に乗ったつもりで見ててくださいよ!」

「その泥船、セメントで補強してるんですね分かります」

「それじゃあどのみち沈むが」




 おめぇつええなあ! おらわくわくすっぞ!

 そんな気持ちで少女にアタックしようと近寄ると、その子は心底つまらなそうな顔で武器を整備していた。


「分かってたけどさ……退屈だよこんな田舎。早く仕事終わらせてくれないかな……」


 不機嫌というよりも、寂しそうにそうぼやいている少女。

 察するに、親の仕事の都合でこんな場所まで来たのだろうか。


「田舎なのは同意。へい、そこの少女さん。お兄さんも挑戦していいかね!」

「あ、うん。いいけど……私手加減してさっきの結果なんだ。それでもいい?」

「OKOK! お兄さんもここじゃ負けなしだから! ごめんうそ、最近やっと勝てた人とかいる」

「ほんと? じゃあやろっか。武器は……レンタルモデルなの? 私の特注品だから、打ち合うと壊れちゃうかもだけど……」

「え、マジで? VRなのに?」

「うん。打ち合ってるのは事実だもん。武器は壊れちゃうと思う」

「……どうしよ、俺弁償なんて出来ないわ」

「……分かった。私がなんとかするからやろう。退屈だったんだもん」


 ささ、可愛い少女さん、お兄さんと二人きりであっちの部屋に行きましょうね……。

 事案。


「それじゃVR開始お願いします」

『はいはーい! そこのお兄さん、一応この施設で一番強い子よー』

「あ、本当だったんだ。よし、やろうやろう」

「信じていなかったとかショックなんだけどー」

「あはは、ごめーんね?」


 そして無機質な空間が、広い宇宙空間のような背景に変わる。

 学校にあった訓練所のようになったその場所で、少女は武器を構える。

 青い光の刃を持つ大剣。それを構えた瞬間、ぞくりと体が震えた。


「……簡単に壊れてくれるなよ、少年」

「え、ちょ、キャラちが――」


 瞬間、彼女は剣からオーラを噴出し、それを携えたまま突進、そのの勢いで剣を振るって来た。

 受け止めようと剣を掲げ……気力を込め、自身の剣を強化する。

 両腕が痺れる。だが、その一撃を耐え抜いた。

 反撃、そのまま薙ぎ払うも、既に彼女はいない。

 オーラを噴出する剣に引っ張られるように高速で動き回り、攪乱するように背後や空中へと飛ぶ少女。


「はええ……待てこら!」

「……速いな」


 走り、跳び、天井を蹴り、壁を蹴り追いかける。

 剣を振るうも、それは彼女の剣にギリギリかするだけ。

 そしてすかさず返される剣を蹴り弾き、なんとか食い下がろうとする。

 そんな、明らかに自分より強い相手になんとか食い下がろうとするも――


「十分、楽しめた。ありがとう、少年」

「な!?」


 次の瞬間、青い刃が肥大する。そしてそれを確認した瞬間にはもう、それがこちらに迫っていた。


「天断“改式”」


 ……ああ、これが例の……『あっちの技』ってやつ……か。






「……知らない天井だ」

「いっぱい天ぷらがのったご飯は?」

「それは天丼だ」

「よし、突っ込めるなら意識は大丈夫だね? いやお兄さん強かったね!」


 気が付くと、施設にある医務室にあるベッドの上でした。

 ちなみに、知らない天井ってのは嘘です。僕ここの常連でもあります。

 しょっちゅうぶっ倒れるまで練習してたんですよね。


「いやぁ……結構自信あったんだけど、君強すぎるぞちびっこ」

「へへ、そうでしょう? でもさ、お兄さん私と打ち合えたし、技まで使わせたし。なによりも生身に身体強化しただけでついてこれたんだもん。本当それ異常だからね?」

「そうなん? 俺魔法うまく使えないからこっちばっかり練習してたんだけど」

「練習してそこまでいくなんてありえないから。……マジちょー強いから、学校とかで加減してるでしょ?」


 図星を、突かれた。

 そう。練習を始めて一週間で、俺はこの動きが異常なのだと知った。

 この施設でもあまり本気を出さないようにしていたし、当然学校の授業でもセーブしていた。

 態々ここのお姉さんに頼んで、幻力抑制のバングルまで取り寄せてもらったくらいだ。

 ちなみに、四か月分の生活費が消えました。いいんです、一応蓄えはあるんです。


「今もそれつけてるし、外したらもうちょっと粘れたんじゃない?」

「はずしたらこれダメになっちゃうんだよーお兄さん買い直すだけお金に余裕はないんですー」

「そっかー……あ、レンタル武器は私が弁償しておいたよ。でも幻力……むしろ魔力かな? それで武器を覆ってたおかげか、そこまで激しく損傷していなかったよ。お兄さんやるじゃん本当」

「そこまで褒められると照れるけど……君小学生でしょ? なんだか複雑」

「へへへ……私は特別なんだよ。じゃあ、私はそろそろ行くね。たぶん明日には東京に帰るから……もう会えないかも?」

「えーお兄さんさーみーしーいー」

「わーたーしーもー! なんちゃって! ……大丈夫、君は強いよ。だからきっとまた会えるさ。東京に出てきな、君なら通用する。私が保証するよ」


 内心悔しかったのだが、誤魔化すようにおどけて見せると、この幼女は一緒におどけてみせた後……戦闘中のような雰囲気を纏い、唐突に大人な魅力を振りまきながらそう言ってくれた。


「……じゃ、私は行くね。お兄さんはもうちょっと横になってること。いい?」

「はーい」

「よろしい! じゃあね、お兄さん!」

「ちょい待ち。名前教えてくれよ」

「いーよー。私は“リオ”って言うんだ。お兄さんは?」

「ササハラ ユウキと言います。気軽にユウちゃんと呼んでくれていいぞ」

「うん、分かったよユウちゃん。じゃあ今度こそばいばい!」


 そう言いながら医務室を後にするリオを見送る。


「……俺は、俺は……」


 胸の中にモヤモヤを吐き出すように、俺は小さく呟いた。


「俺はロリコンじゃない……なのにときめいちまった!」


(´・ω・`)本日はここまででごぜーますだ

エトワール楽しい楽しい(このコメントはエトワール実装前に書かれています)

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