第三十五話
夏季休暇が始まって四日。この日が合宿の初日だ。
俺達生徒は学園に集まり、そしてイクシアさんは臨時の外部教員という事で、今はニシダ主任と共に、教員向けの説明を受けているところだった。
「あれってユウキ君の保護者の方だよね? 今回の関係者なの?」
「ああ、応急手当に関係する魔術とかに精通していてさ、臨時のお手伝いなんだよ」
「ほう、やはり魔術が得意なのだな。後で私も挨拶をしてくるとしようかな」
「あ、僕も。ユウキ君とは友達だからね。……友達でいいんだよね?」
「友達でいいと思います。一之瀬さんも友達って事でいいですよね?」
「何故聞くんだ? 当たり前だろう。良き友でありライバルだ。カナメもな」
よかった、イマイチこちらが遠慮しているせいか、曖昧だったんです。
今回の合宿だが、シュバ学からは俺達三人の他、Sクラスから一〇人、A、Bクラスから五人、そしてC,Dクラスから四人と、合計二二人が参加している。
三〇人も集まらなかったのか、それとも基準に満たない生徒しかいなかったのか。
シュバ学はどうしても様々な思惑が絡む関係で、理事長でも把握しきれていない、コネ入学もあるのだとか。
なお、Sクラスの一〇人には、何かと縁のある、あの五人組は含まれておりません。
そしてリッくんも里帰り中みたいです。つまり全員初対面。問題が起きそうな予感。
「よーし集まったな。今回の二二人の引率は私が担当する。一応自己紹介するが、ジェンだ。問題を起こすようなら即刻帰還させる事が出来る権限も持っているから、くれぐれも他校、同校の生徒とは問題を起こさないように」
ジェン先生は、どうやら他の教員よりも、生徒に対しては高い権限を持っている、という事を最近になって知った。やはり生徒の中には教師じゃ太刀打ちできない家柄出身の生徒も多く、そしてそんな生徒が全員、品行方正、規律正しい人間とは限らない、と。
が、ジェン先生はどうやら秋宮の後ろ盾以外にも、グランディアにおけるそこそこの地位の家柄らしく、地球の人間がどうこうする事が出来ないのだとか。
ちなみに、夏季休暇までに退学になった生徒が二〇人程いるのだとか。正直ザマァ。
「それじゃあ、私達もバスに乗るぞ。これから空港に向かい、ハワイ諸島へと向かう。飛行時間はざっと四時間ってところだな。そこからすぐに船に乗り換えてさらに四時間だ。時差ぼけ対策で皆、しっかりと仮眠をとるように。くれぐれも騒ぐんじゃないぞ」
なお、元の地球では東京からハワイまでは六時間半はかかっていた模様。やはり飛行機も進化しているんだな、この世界だと。
そうして、職員を含む全員がバスに乗り込み、空港へと移動するのであった。
「飛行機……こんな大きな人工物が空を飛ぶというのは信じられませんね」
「イクシアさん、飛行機は大丈夫なんですか? 船より怖いと思うのですが」
「空ならば滑空して陸地まで移動できるでしょう?」
いや、その理屈はおかしい。
「どうやら私はユウキの隣の席のようですね。空の旅は生前、ドラゴンに引かれる魔車に乗って以来ですから、少し楽しみです」
「ええ……魔車って飛べるものなんですか……?」
魔車とは、今でも使われている魔物に引かせる馬車のような物だ。
なんだか前時代的だな、と侮る事なかれ。乗用車並みのスピードでどんな悪路でも進めてしまう分、車より優れているのだとか。
日本の自動車会社が、魔車用の客車作りで参入しようとしているという話も聞いた事がある。けど……空を飛ぶってのは初耳です。さすが神話時代はスケールが違う。
「搭乗まで少し時間がありますね。イクシアさん、飲み物でも買ってきましょうか?」
「ふふ、実は持ってきているんですよ。ユウキ、以前私が作った薬液が美味しいって言ってくれましたよね? あれから改良して、薬効成分を抑えた物を作りましたよ。疲労回復程度の効力に抑えましたので、安心して飲んでくださいね」
「おお! ……あれ、でも飛行機に水筒って持ち込めなかったような……」
ニコニコと笑いながら大きな水筒を取り出すイクシアさん。が、確か国際線って一〇〇ml以上の持ち込みって出来なかったような。預けるのはOKだけれど。
「そんな……では、ここで少し飲んでおきますか?」
「そうですね、ここで飲みましょうか」
待合室で飲もうと紙コップに注いでいると、そこにカナメと一之瀬さんがやってきた。
「こんにちは、ササハラ君の……お母さん、で良いのでしょうか」
「おや? こんにちは。ユウキのお友達達ですか?」
「こんにちは。はい、僕たちはユウキ君の友達です。初めまして」
「あ、二人は同じクラスで、同じ研究室のヨシダカナメと一之瀬ミコトさん。で、こっちは俺の保護者で、一緒に住んでいるイクシアさん」
本当に挨拶にきた二人に少し焦るも、互いを紹介する。
よかった、合宿メンバーがこの二人で。
「まぁ、そうなんですか。いつもうちのユウキがお世話になっています。今回の合宿では一緒にいる時間も多いでしょうし、宜しくお願いしますね」
「はい、宜しくお願いします。確かSSクラスとSクラスを受け持つ保険医なんですよね?」
「そうなりますね。基本的に回復魔法ではなく、薬液の調合、身体の魔力調整での治療がメインとなりますが、他に治癒師の方もいますので、安心してください」
特に問題もなく自己紹介が進む中、今度はジェン先生がやってきた。
こっちはなんだか不安である。
「先程はご挨拶も出来ず申し訳ありませんでした。ユウキ君達SSクラスの担当教師のジェン・ファリルです。宜しくお願いします」
「まぁ! ユウキの先生ですか! こちらこそ宜しくお願いします。なるほど……ドラゴニアの方でしたか。子を預ける身としてもとても心強く思います、先生」
「いえいえ、私もいつもユウキ君には助けられています。なるほど……流石王族に連なる方のご子息です。勉学も実技も実に優秀です」
先生の外向きの顔がなんだか面白いです。そんな保護者の前だからって露骨に持ち上げるのはやめてください。なんだか凄く居心地が……。
「いえ、私は王族とは……無関係だと思います。恐らく父や母に関係した者がいるのかもしれませんが……私自身、そういった方々と関係した事はありませんよ」
「そ、そうでしたか。これは失礼しました。ですが、そう思ってしまう程にユウキ君は優秀でしたのでつい」
「まぁ……それは嬉しいですわ、先生」
おいやめろ。一之瀬さんもカナメもニマニマ笑いながらこっち見るな。
「歯が浮きそうなのでやめてくださいジェン先生。イクシアさん、この先生いつもはこんな感じじゃないですよ。セクハラしたり人のこと子ども扱いしてくる先生です」
「おいササハラ! なんでそういう酷いことを言うんだお前は」
「そうですよユウキ。先生に向かってそんな事言うなんて」
ああ、もう早く飛行機乗りたい。
何気に人生初の飛行機は、思っていたよりも楽しいものではなかった。
別に父親の死んだ原因うんぬんではなく、純粋に……暇なのです。
雲の上を飛ぶのだから、見える物なんてたかが知れており、時折雲の切れ間から見えてくるのは、ただ青いだけの海、つまりそう、四時間もただ座っているというのは退屈極まりなく、かといって電車のように自由に歩き回り、友人達と合流する、という事も出来ないのであった。
「ユウキ、退屈でしたら本でも読みませんか? 持参した小説があるのですが」
「“このくらい水の底から~前日譚、あの子が生まれた理由~”ガチなホラー小説じゃないですか……勘弁してくださいよ」
「そうですか……ではこちらを……」
「“BBクッキング特選レシピ集~オーブン無しで出来る本格料理~”読んでるだけでお腹すいてくるじゃないですか……というか何故そんな本を……」
イクシアさんのチョイスがちょっとわからないです。
それでも、こうして会話をしているだけでも大分気分が晴れてくるというもので、なんだかこういうやり取りも楽しく、気が付けば飛行機の高度が低くなり始めていた。
「海外って初めてだけど……凄いね、海の色が全然違う」
「そのようですね。海上都市も綺麗だとは思っていましたが……凄いです。この高さからでも水の透明度が窺えますね……」
水深が浅いのか、見えてきた島の周りの海の色が、明るいマリンブルー。そして建物の密度が低く、日本との違いがはっきりと判る光景だった。
おお……観光したいところだけど、この後すぐに船だったからなぁ。
……イクシアさんもそれに思い至った模様。急に静かになってしまいました。
田舎者故なのか、海外旅行といえばハワイという固定概念があり、実は憧れていた少年時代もあった俺ですが、上陸とほぼ同時に船で移動という事で、実感も何もないまま異国の地を踏んだ訳なのだが、これから向かう島も、広義的に捉えるとハワイ諸島の一部、という扱いになるのだそうだ。
俺達が到着した、微妙に日本人の名前っぽい空港から港へ移動、そして船に乗り向かう島なのだが、元々はハワイ諸島から少し離れた場所にある無人島で、現在は日本とアメリカに住む様々な富豪達が共同で買い取り、独自の研究施設を設立する為の島なのだとか。
で、人が住むようになったので、ハワイ州の一部に含まれるようになったと。
「イクシアさん……なんで乗り込む前から救命胴衣なんて着ているんですか」
「ユウキも着けてください、さあ! もしもの事があったら大変です」
「大丈夫ですってば……避難用のボートも沢山あるんですから。それよりほら、そろそろ並びますよ」
「ひっ……ユウキ、手を繋いでください……お願いします」
なんだか可哀そうになって来る反面、いつもは見せない儚げな様子に、可愛いな、なんて思いを抱いてしまいます。ああ……かわいそかわいい……。
そのまま手を握り一緒に乗船すると、真っ直ぐに俺に割り当てられた個室へと向かう事に。
超大型客船ですよ、凄いですよコレ。海上都市だけじゃなくて日本全国、他の国の学生までもが一緒に移動するのだ、さすがの待遇ですわ。
たぶん、世界一周旅行とかもこういう船を使うんだろうなぁ。
「部屋に行きましょう……海が見えなければまだ大丈夫です……」
「俺の部屋で良いんですか? イクシアさん達職員の客室は確か上の――」
「一緒で……一緒でお願いします……もしも沈没しそうになった時、すぐに一緒になれます……ひょ、氷山はさすがにありませんよね……?」
ああ、そういえば前にタイタニックの映画見てましたね……海嫌いなのになんであんな映画見たんですか貴女……。
用意された個室は、確かに船の中だと言う事を忘れさせてくれる、まるでホテルと見紛う客室だった。それに窓がない部屋だったので、なおのこと。
するとようやくイクシアさんも落ち着きを取り戻したのか、ゴソゴソと救命胴衣を脱ぎ、ベッドに腰かけ息を整えたのであった。
「ふぅ……これが船……こんな立派な部屋が沢山ある船、本当にあるのですね……てっきり私は映画の中にしか存在しない物だと――映画、タイタニック……あれって実話なのですよね……?」
途中からカタカタと震え出したので、とりあえず手を握り落ち着かせる。
「大丈夫ですよ。あの事件からはもう大きな客船で人が死ぬような事故は起きていないんです。技術が進歩しましたし、魔法技術だったあるんですよ? 大丈夫ですって」
「ほ、本当ですか……? あ、あれ……この船、今動きましたよ!?」
「そりゃ動きますよ。たぶんもう出航しているはずですし……」
「ああ……もう動いて……ユウキ、一緒にいてください……どこかに行かないで下さいね」
内心とてつもなく嬉しいお言葉なのですが……ごめん、見物してきたいです。
どうやらデッキには簡易的な戦闘フィールドがあるらしく、そこでもう既に色んな場所から集められた学生達が戦っているかもしれない。
それにこんなきれいな海を豪華客船で旅をするなんて、この先一生機会がないかもしれない。
「ええと……少し外を見学してこようかな、とか思っているんですが……」
「そ、そんな! ずっと一緒ではなかったのですか!?」
「じゃ、じゃあ一緒に行きましょう? 海さえ見なければ、大きな施設を散歩しているのと変わらないと思いますし、気も紛れると思うんです」
「……確かにそうかもしれませんね。では待ってください、またこの海に浮かぶことが出来るベストを着ますから」
なんか本当にごめんなさい……。
ともあれ、救命胴衣を着たイクシアさんの手を取り、デッキにあるという訓練場へと向かうのだった。
「おや、ササハラ君と……イクシアさん。もしかしてここの様子を見学に来たのですか?」
「あ、俺はそうだね。イクシアさんはまぁ付き添い、みたいな感じ」
「なるほど。少々顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「え、ええ。大丈夫、大丈夫です……」
甲板に出ると、そこでは大きなプールやテニスコート程の大きさの訓練場、それに日光浴を楽しむ為のベンチも数多く並べられ、優雅に時間を過ごす生徒も多くみられる。
というか水着まで用意しているのかみんなは。くそう、こういう旅にも慣れているのか良家の人間というのは。まぁ一之瀬さんは私服だけど。
「ところでササハラ君、あそこの戦闘場を見てみると良い。今カナメ君が他校の生徒と戦っている。どうやら昨年度のアマチュアバトラー大会の準優勝者で、今は『グランディア騎士養成学園アジア分校』に入学しているらしい」
「おー……実は他の訓練校とか養成校って知らないんだよね俺。有名なところなの?」
「ああ、有名だぞ。千葉県にある学校で、主にグランディアから派遣された講師、教官が向こうの技や魔法を主に教えてくれる場所でな、私も初めはあちらに入学しようとしていたのだが……」
「なるほど、カイがシュバ学を受験するから変えたって訳だ」
「んな!? そ、そういうわけでは……」
図星か。しかしそんな学園もあったのなら、もしかしたら秋宮と関りが無ければ、俺もそっちを選んでいたかもしれないな。
「本当に違うからな? あちらの校風が私には合わないのだ。……実力主義で、人柄や座学は二の次。身分関係なしに入学が出来る反面……色々問題も多いと聞く」
「なるほど……確かに一之瀬さんみたいに真っ直ぐな人は納得できない事も多そう」
「ふふ、誉め言葉として受け取っておくよ」
カナメの様子を見てみると、なんとウェポンデバイスと召喚した斧槍の両方を使い、まるで槍斧の二刀流のようなスタイルで戦っていた。
初めて見せるスタイルだが、まるで嵐のように武器を振り回し、近づかせる事なく相手を倒してしまっている。
……さてはギャラリーが多いから、威嚇の意味も込めているのだろう。
恐らくその筋では有名なのだろう。勝負を挑もうとする生徒を減らす狙いと見た。
「彼は随分と身体能力が高いようですね……強化は必要最小限。かなり身体を鍛えているのでしょう」
「え? そうなんですか?」
「む、ササハラ君は彼と一緒に着替えたりはしないのか?」
「そういえばいつも一緒じゃなかったというか、気が付いたら着替え終わっていたような……細く見えるのに中はバッキバキの筋肉質なのかよカナメ……」
イクシアさんの解説を聞いていると、途中でここが海の上だと思い出したのか、慌てて顔を下に向け、周囲の風景が見えないようにしてしまう。やっぱり辛そうだ……。
「ふむ、どうやら新しい挑戦者が現れたようだぞ」
「おー……もしかして知り合いか? なんだか話し込んでいるみたいだけど」
今の戦いぶりを見ても恐れることなく現れた挑戦者。見たところ灰色の髪をしているが、彼も魔力変質で髪が変わったクチか、それとも海外の人間なのか。
ここからでは確認出来ないが、その挑戦者とカナメがなにやら話し込んでいる風に見える。
「どうやら相手は長杖のデバイスを使うようだ。魔術師スタイルで杖とは珍しいな……」
「術式リンカーじゃなくて態々杖のデバイスとか、確かに珍しいかも。もしかして棒術みたいな事もしてくるのかね」
そして戦いが始まると、想像通り杖を打撃武器として扱いながら、隙を見て炎を操り、カナメの動きを制限させ、上手に攻めを組み立てていた。
が、やはり地力が違うのか、カナメが押しているように見える。
しかしその時、杖が炎ではなく、青い光に包まれ――
「冷気で足場を凍らせただと……あの動きの最中に器用な真似をする」
「へぇー……凄いな、一気にカナメ君が辛そうになった」
炎と氷。巧みに使い分け、足場を不安定にさせ、そして時には水蒸気を発生させ目をくらます。
まさしく魔法戦士と呼ぶべき戦いぶりに、見ているこちらもうずうずしてきてしまう。
しかし、それだけではなかった。
水蒸気が突然稲光を発生させ、今度は雷の魔法が導かれるようにカナメを襲う。
炎で攻撃をしつつ、氷で妨害。さらに発生した水蒸気を使い、雷を相手に誘導させ攻める。
そして本人の杖さばきも、前衛顔負けの練度を持っているように見える。
「これは負けたか……?」
「いや……あれで負けるようなら優勝はできないさ、彼は」
その言葉通り、こちらまで届く衝撃波と共に水蒸気が晴れる。
そして、止めを刺そうとしていた挑戦者の杖を掴み取り、同時に自分の持つ斧槍を相手の顔に突き付けていた。
「……これは、カナメの逆転勝ちか」
「ふふ、そうでなくては。さすが私達のクラスメイトだ」
「……どうでしょうか。杖を持つ青年の方は、直前に杖に纏わせていた魔法を解除しているように見えました。ここが実戦の場ではないと考え、相打ちという形にしたのではないでしょうか」
「なんと……私には見えませんでしたが、イクシアさんには見えていたのでしょうか」
「はい。見えた、というよりも魔力の流れを感じました。間違いないかと」
「なるほど……高位の魔導師だったのですね。ササハラ君、君のお母上は凄いな……正直羨ましい。私は魔法がからっきしでな」
「ははは……俺も色々教えて貰って凄く助かってるよ。自慢の……家族だよ」
「ふふ、照れます。でもユウキは私をお母さんとは呼んでくれませんよね?」
「そ、それはまぁ……」
いやぁ……そこは最後の砦と言いますか。いつか母ではなく……。
「ふむ、やはり知り合いのようだな。一緒にこちらに戻って来たぞ」
「あれは……ユウキ、見てください。先程の術師の青年、彼は確か――」
イクシアさんの言葉に顔を上げると、カナメと共にこちらに戻って来たのは、恐らく今の俺と同じような驚愕の表情を浮かべている――
「ユウキか!? お前もこの合宿に参加していたのか!」
「ショウスケ!? なんでこんな――っていうかその髪の色は!?」
高校時代の親友、コトウ・ショウスケだった。
「ああ、この髪か。実は大学の言語学の研修で、五月末からグランディアに行っていたんだ。その際に変化したんだが……やはり違和感があるだろう?」
「いや、そんなに明るい色じゃないからそうでもないって。いや久しぶりだな本当……戦いぶり見たけど、凄いなお前。三属性も使えるのかよ魔法」
ショウスケは、あまり変わってはいない。少しだけ髪の事を照れながら、キビキビとこちらの質問に答えてくれた。
「ショウスケ君、ユウキ君と知り合いだったんだね」
「ああ、同じ高校だ。そうか……カナメはシュバ学に入学していたのか……」
「こっちこそ二人が知り合いってことに驚いてるんだけど」
「うん。僕は高校に入るまでは、たぶん君達と同じ県に住んでいた、って事なのかな?」
「そうだな。小学、中学とカナメとは一緒だったが、彼は県外の高校を受験したんだ」
「へぇ……世間って狭いなぁ……じゃあカナメの実家って?」
教えられた実家の場所なのだが、うちの実家から車で一時間くらいの町でした。
すっごい偶然だよ本当。
「あ、お久しぶりですイクシアさん。ユウキはご迷惑をかけていませんか?」
「ふふ、大丈夫ですよ。お久しぶりですねコトウ君。先程の戦い、見事な術のコントロールでした」
「ありがとう御座います」
「相変わらずお前は俺の保護者かっての。俺は立派に学生生活を送っているわ」
「……こっちに戻ってから、お前についての報道を見たぞ。周りを心配させただろう? 無茶な真似だけはするんじゃないぞ。まったく……思わず空港で大きな声を出すくらい驚いてしまった」
あ、ということはあの事件の時はもう地球にいなかったのか。
そりゃそうだよなぁ……いたら鬼のように電話を鳴らされていただろうし。
「さて、そろそろ私にも彼を紹介してもらえないだろうか」
「すみません、勝手に盛り上がってしまいました。僕はコトウショウスケと言います。ユウキの高校時代の同級生です」
「一之瀬さん、コイツあれだよ。前に言った高校時代の俺のライバル的存在。魔術師の癖に組手で俺の次に強かったっていう」
「くく、ああ。そうだったな、結局夏からはお前に勝ち越す事が出来なかった。……ん? 一之瀬さんと言いましたか? もしや一之瀬流剣術の……?」
なんとショウスケも知っているとは。一之瀬さんってそこまで有名なのだろうか?
「ああ、知っていましたか。ええ、実家の道場の事ですね。初めまして、一之瀬ミコトです。ササハラ君のクラスメイトで、よく手合わせもさせてもらっています」
「ああ、敬語は不要です。合宿中にもきっと話す事もあるでしょうし、気安い方がいいでしょう」
「そう、だな。宜しく頼む、コトウ君。ササハラ君が君を大変評価していた。先程の戦いも非常に興味深かった。是非、合宿中に手合わせを願いたい」
「こちらこそ。一之瀬宗家のご息女と手合わせ出来る機会なんてそうそうありませんからね。これはユウキが羨ましくなる」
真面目気質どうし気が合うのか、すっかり話し込む二人。
ううむ……やはり有名人なのか。あまりそういう意識がなかったのだが、気が付けば周囲にいた生徒達や、恐らくプロのバトラーだろうか、大人連中も皆、こちらに注目していた。
さすがに目立ちすぎだからと、場所を変える事を提案する。
するとイクシアさんが『それでしたら、屋内に移動しましょう。外が見えない方がいいでしょう?』と提案したが……たぶんそれ、海を見たくないからですよね?
「いやはや、さすが秋宮の客船だ。我々未成年ばかりだというのに、バーカウンター付きのラウンジとは恐れ入る」
「また秋宮か……詳しいなショウスケ」
「ああ、一応合宿についてのしおりは熟読している。しかし……改めて久しぶりだな、ユウキ」
移動した先は、ショウスケの言うように落ち着いた風合いの高級ラウンジだった。
大人数で座れる大きなソファーが、テーブルを囲むように配置され、そこに皆で座り休憩する。
何故だろう、こういう場所がイクシアさんに妙に似合うと感じるのは。
「しかし、カナメや一之瀬さんは分かるが、ユウキも例の新設されたクラスに所属していたとはな。実務研修も中々大変だろう?」
「まぁ詳しくは守秘義務があるから言えないけれど、中々こっちの事考えた任務を割り振ってくれているよ」
「ああ。ササハラ君は中でも、大変すばらしい働きをしてくれている。正直、所属する生徒にとっては良い刺激となっているよ」
「まさかコイツが……無鉄砲なだけじゃないのか? ユウキ」
「俺は成長したのだよ。島についたら見せてやるからな」
そんな他愛ない話をしていると、いつの間にかどこかに消えていたイクシアさんが、お盆にコップを五つ乗せて戻って来た。
飲み物を用意してくれていたらしいのだが――
「あれ? これって……」
「ええ。船に乗る前に返してもらった水筒から」
イクシア印のエナジードリンクさんの登場である。
「ふむ、これは?」
「イクシアさんが調合してくれた疲労回復効果もある飲み物だよ」
「へぇ、調薬で治療するとは聞いていたけど、こういうのも作れるんだ」
「ああ、そういえばイクシアさんは教員枠で同乗していたのですね」
「ええ。島では施設内で治療用の個室を与えられています。担当はユウキ達の学園のクラスですが、気軽に訪ねて来て下さいね」
「ありがとうございます。では、頂きます」
そう言いながら口に運ぶみんな。そして俺もいつも通りの味に満足しつつ、一気に飲み干すのだった。
「あ、これ美味しい。美味しいです、ユウキ君のお母さん」
「確かに……それに座りっぱなしで硬くなっていた身体が少し楽になりました」
「おお……カナメとの戦いで消費した魔力も少し回復したような気がしますね」
「だろ? イクシアさんの作ったこれ、凄く効くんだよ。それにすっごく美味しい、俺好みなんだ」
「ふふ、お口に合ってなによりです」
どうやら気持ちを落ち着ける効果もあるらしく、イクシアさん自身も飲み、この船の中という状況でも落ち着きを取り戻してくれていた。
そうして、懐かしい話や、いつもと違う切り口での戦いの話題、合宿先についての話題と、話題が尽きる事もなく、気が付けば目的地到着まで残り三〇分となっていたのだった。
よかった、イクシアさんの気も紛れてくれて。
「では、学校ごとに集まる必要があるので、俺はここで失礼します。島で行われる交流会でまた会いましょう」
「ああ、またなショウスケ」
「またね、ショウスケ君」
「手合わせの件、約束したぞ、コトウ君。また後程」
「気を付けてくださいね。海に落ちたりしないで下さいね」
「え、ええ。ではイクシアさんもまた後程」
そして、俺達も他のシュバ学の生徒と合流し、下船の準備に取り掛かるのであった。