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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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305/315

第二百八十五話

 それはもはや死刑宣告だった。

 回避不能の絶対の死。

 BBは、ヨシキさんはこうなる事を見越して、着いてきたのだろうか。

 いや、きっとそうだ。俺が……最後の異物だと知っていたのだから。


「ユウキは……私の子は殺させはしません! 私が貴方を殺す!」

「イクシアさん……」


 きっと、イクシアさんは俺の為に死力を尽くす。

 俺も、同じだから。俺も彼女の為なら死力を尽くすから。

 そう、彼女と共にある為なら、俺はどんな事でもする。

 これから先も彼女と共に行く為なら――



 魔王だって殺してみせる。



「BB、抵抗します」

「そうか」

「批難しないんですか?」

「正当な権利だ。ただ……それはそのまま世界を滅ぼす事になるって理解しているんだろうね?」

「それは……」


 世界が滅びるなら、一緒に生きていけない。

 分かってる、分かってるけど……死を受け入れる程俺は達観していないし、心残りがない訳でもない。


「ちょっと待ってくださいまし!」


 その時、唖然とこちらの話を聞いていたみんなの中から、キョウコさんが歩み出る。


「その話が事実だとしたら、まだあきらめるには早いのでは!? 容量という物は、本当にササハラ君だけが圧迫していると言うんですの!?」

「そうだ! 俺から見たら……アンタの方がよっぽど世界を圧迫しているんじゃないのか!?」


 カイがそれに続き、あろうことかそのままBBを糾弾し始める。


「アンタは恐ろしいよ。でも、ユウキを殺すってなら……俺だって一緒に抵抗する! あと七時間の世界だって? そんなの、お前が消えればもっと伸びるんじゃいのか!?」

「……そうだね、伸びるだろう。だが……僕は異物ではないんだ。一番、この世界に馴染んでいると言っても良い。僕が消えても、伸びる時間はたかが知れてるんだよ」


 それも、本当なのだろうな。


「それでも! まで試せる事があるかもしれないじゃないですか! ユウキ君が死ななくちゃいけないなんて! 私は嫌です!」

「……そうだな。僕だって嫌だ。だが、だいぶ前から覚悟はしていたんだよ、こっちも。そして希望も持っていた。『もしかしたら、原理回帰教の野望を食い止めたユウキ君を世界は受け入れてくれるかもしれない』と。そして希望の果てに突きつけられた結果がこれだ!」


 その時、BBの怒声に呼応するように、空の一部が崩落した。

 空中で霧散する青い欠片。

 広く広く空に現れる虚無の空間。

 世界の崩壊が、始まっていた。


「もう試す時間なんてないんだ。少なくとも……もう二年、もう二年もあれば世界を延命する手段だって見つけられたかもしれない。見つかるかどうかも分からない希望を見つけても延命がやっとなんだ。世界は、異物を許容出来る程、成熟していなかったんだよ」

「でも、でも! でもぉ!!!」


 サトミさんが泣きながら駄々をこねる。


「抵抗するなら、剣を取れ。意味のない抵抗だと理解した上で、君達が満足するまで付き合おう。だがこちらももう……容赦はしない。最初から、覚悟した上でここまで来たのだから」


 BBが剣を構える。

 殺気が、こちらに向かってくる。

 見えない流れが、俺達を押しのけるかのようだった。

 でも――あの日、あの夜に、原初の魔王から感じた威圧感には遠く及ばない。

 なら……ここで諦めるなんて『もったいない』。

 明らかな無理ゲーじゃないなら、それを捨てるなんてもったいない。

 可能性が一%でもあるなら、試さないわけにはいかない。


「俺は一緒に戦うぞ、ユウキ。俺の大恩人で、大親友のお前を失ってたまるか」

「私も戦おう。この御仁を相手にするのは……兄と戦うよりも遥かに恐ろしいよ。だがそれでも、君と……ユウキ君と共に戦うのならば、それも薄れる」


 一ノ瀬流の天才と鬼才が、俺の隣に並び立つ。


「正直、俺はまだシュヴァ学に入って日が浅い。今がどれほどの危機的状況なのか、理解が追い付いていない部分もある。だが……ユウキは俺の親友だ。そしてこの先の未来、必ず世界に必要とされる人物だ。世界を救う方法がユウキの死だと? そんな物、納得出来る訳がないだろう!」

「その通りだよ。ユウキ君はね、いつだって正しい事をしようと足掻いて足搔いて、自分が一番辛い目に遭う事になってでもみんなの為に戦ってきた。そこに最後に背負わせるのがこんな残酷な運命だなんて、私は絶対に許さない!」


 高校時代からの友人が、命の恩人が、俺がこの世界で最初に作ったかけがえのない友人達が並ぶ。


「実際、貴方を倒して猶予が伸びるなら、そこに全てを……少なくとも僕自身の命を賭けるくらいの酔狂はアリだと思ってるよ。それに……貴方とは戦ってみたいって思っていたんだ」

「ま、アンタの言う事が正しいのも分かる。仮にユウキが死を受け入れるなら……悔しいし納得も出来ねぇが、それでも受け入れてやるつもりだ。けどなぁ、コイツはアンタと戦う道を選んだんだ」


 悪友。この言葉が一番当てはまる二人が、酔狂にも共に戦う事を選んでくれる。


「世界規模の話……たぶん本当なんだって事は、魔術を深く探求していけば理解出来る。世界が許容出来る魔力、人の存在に限度があるなんて、私だって知ってる。でも、それがこんな急激に、世界を壊す程まで膨らむなんて信じたくないし、信じられない。私は、貴方こそが世界を圧迫しているんだと思う」

「私も自分の推論を取り下げませんわ。確実に、目に見えて世界に影響を与えているのは貴方の方だと見受けられます。ですが同時に、貴方が我々の知らぬところで世界の危機を解決しようと動いてきた事は想像に難くありませんわ。ですが、それでも私達は……生きたいと願う彼の望みを叶えたいんですの」


 大切な仲間。時に怒り、俺を諫め、苦しみ、それでも共に歩いてきた大事な大事な人達が共に立つ。


「……私は、BBの事を尊敬しています。その力と正体を知り、恐怖もしました。それでも信用する事が出来たのは、今日まで貴方が世界に影で尽くしてきたからです。これでも世界の裏側を覗き見てきたつもりですから、私はそれを知っています。……ですが、私はただ単純に大切な人と共にありたい。今度こそ、最後まで同じ道を進もうと、たとえ世界を敵に回しても、世界が終わるかもしれなくても、ユウキ君と共に歩むと決めていました。だから……私は憧れを踏み越えて行きます」


 俺を、こんな俺を愛してくれた人が、ありったけの勇気と決意を口にして、共に歩むと言ってくれた。


「多くは語りません。ただ私はユウキの母親です。戦う理由は、他に必要ありません」


 最愛の人が、たった一人の家族が、初めて出来た母親が、息子の為に戦うと言ってくれた。


「ジョーカー。俺は最後まで抗うよ。きっと、俺が死ねば手っ取り早く事態は終息するんだと思う。でも俺は諦めたくないんだ。だから……この仲間達と全力で抵抗する」


 改めて宣戦布告をする。この最強に、抗い挑む事を宣言す――


「“弱者選定”」

「な!?」


 だが次の瞬間、こちらが言い終える前に、BBから黒い波動が巻き上がり、俺達を一度に全員巻き込んでしまった。

 なんだ、何も見えな――


「なんだ、目くらましか!?」

「みんな気を付け――」


 困惑の声が上がる中、そこに、耳を塞ぎたくなるような声が、かすかに聞こえてきた。


「カフ……タ……エ……テ……死にた……ィ」


 女性の、虫の息。

 黒い波動が、風に流れ消える。

 皆、何が起きたのかわからないという様子で、平然と立っていた。

 ただ……一人を除いて。


「死にたく……な……ダズ……ゲ……」


 サトミさんが、無事な場所がない程の傷を、深すぎてただの赤黒い塊になりかけたサトミさんが、地面に崩れ落ちていた。


「あ、あああ……あああああああああ!??!?!」


 駆け寄り、回復させる方法はないかと皆に尋ねる。


「ユウキ! これを飲ませなさい!」

「はい!」

「セリアちゃん、回復魔法を一緒に!」

「うん! みんな警戒!」


 辛うじて確認出来る口に、イクシアさんから手渡された薬瓶を近づけ、薬液を流し込む。

 コウネさんとセリアさんから回復魔法がかけられる。

 人間……には見えない有様だったサトミさんが、ゆっくりと形を取り戻し始め――


「“弱者選定”」


 黒い波動が、全てを台無しにした。

 もう、絶叫もかすれた声も聞こえない。


「や、やめろお!!!」

「戻れカイ! 一人で無謀だ!」

「ああ、そうだ無謀だ」


 再び回復出来ないか試みる。

 ゆっくり、ゆっくりと先ほどのようなサトミさんが人間に戻っていく、でも――


「……なんで俺達は平気なのに」


 そう呟きながら、BBを強く睨みつけると、カイがBBに切り伏せられ、こちらに蹴り飛ばされてくるところだった。


「簡単だ。これは本当にただの“弱者選定”でしかない。明確に、この戦いに相応しくない弱者だけを刈り取る技だよ。その子はここに連れてくるべきじゃなかった。さて……その薬は中毒性が高いようだ。何度、回復させたら彼女の精神は死ぬかな」

「ふざけるな……ふざけるな!!」


 なんだよそれ、なんなんだよ! アンタ殆ど動いてないじゃないか!

 ただ呟くだけで人が死にかける技なんてあってたまるか!!!!


「……ユウキ、私がたぶんこの中だとサトミさんの次に回復魔法が強いと思う」

「セリアさん?」

「……サトミさんを連れて私も離脱する。このままだと、言いたくないけど明確に足手まといになると思う。さっき……近くの次元の裂け目の向こうに島が見えたの。たぶん、危険はないと思う」

「……そこに、サトミさんと一緒に飛び込んで」


 セリアさんが、傷だらけのサトミさんを背負いながら、静かに提案する。

 ……ごめん、サトミさん。

 セリアさんとサトミさんが戦線から離脱するのを見送り、態勢を立て直す。


「みんな、いったん冷静に。まともにやって戦える相手じゃない」

「ユウキ……どうすればいい……これは……戦いですらないぞ……!」

「ショウスケ……お前も出来れば次元の裂け目に飛び込んでくれ。これはそういう戦いだ」

「だが……俺は先ほどの攻撃で間引かれなかった。最後まで……付き合わせてくれ」


 ショウスケが見た事のない程の、青ざめた顔で語る。

 そうだ、これが普通の反応なんだ。


「イクシアさん、俺と一緒に前に出られますか?」

「……はい」

「カイ、ミコトさん。俺とイクシアさんに続いて。カナメは一発を狙い続けて。アラリエルはショウスケとツーマンセル。ショウスケの行動に合わせて」


 皆、黙って頷く。


「コウネさんはキョウコさんの護衛。キョウコさんははむちゃんで人海戦術」


 この場において、消耗を気にせずに兵を出せるキョウコさんがいるのは助かる。

 はむちゃんには悪いけれど……背に腹は代えられない。

 ある程度方針を決めたところで、こちらの様子をただ大人しく見ていたBBが口を開いた。


「冷静に作戦を瞬時に立案出来るのは立派な強さだ。全員、一定の強さがあるからこそ、この場に立てる。そしてそこに満たないと頭で分かっていても、便利だからという理由で弱者を巻き込んだのも君達だ。結果として、貴重な戦力を一人余計に失う事になった。さて、次はどうする? まだ続けるかい?」


 正直、決意が揺らぎかけている。

 これが、本当に弱体化した人間の力なのか、と。


「まだ私達は大きなダメージを受けていません。まだ調子に乗るのは早いのではないですか?」

「そうだね、あくまでアレは攻撃じゃない。僕の物差しで『足りない人間』を間引くだけの力だ。攻撃ですらない。確かにまだ聞くのには早過ぎたか」


 次の瞬間、黒曜石にも似た剣を片手に、BBが肉薄してきた。

 宣言通り、それを受けるのは俺とイクシアさん。

 俺の刀が、BBの剣を受け止める。

 あまりの膂力に、全身が一斉に悲鳴を上げる。背骨も腕の骨も、嫌な軋みをあげている。


「ハァ!」


 そこに、イクシアさんの蒼炎の剣が割りこむ。

 身体を下げるBBに、イクシアさんは炎の剣を片手に追いすがり、大きく切り上げ、剣を手放した。

 剣が炎の縄となり、BBに絡みつく。

 そこに俺も追いすがり、刀の一撃をお見舞いしようとする。


「……強いな、流石に」


 その呟きと共に、BBが炎に絡めとられた右腕を大きく振るい、炎を引き連れたままの腕で俺の斬撃を受け止め、掴み取る。


「ユウキ下がって!」


 次の瞬間、炎が炸裂しBBの腕が爆発に飲み込まれる。

 爆発を間一髪で避けたところに、今度は俺の陰からカイは飛び出し、爆風が晴れる前のBBに接近。

 青い剣を強く叩き込むと、煙越しに『ドス』と、鈍い音が聞こえてきた。


「やった――な!?」


 けれども、煙が晴れると、そこにはカイの剣を腕でガードし、肉すら切り裂けていない様子のBBが平然と立っていた。

 服だけが焦げ付いている。だが傷を負っている様子は微塵もない。


「お返しだ」


 呟きが聞こえたのと、カイの腹に蹴りが吸い込まれるのは同時だった。

 身体をくの字に曲げ吹き飛び、遥か後方で嗚咽するカイ。

 すぐには起き上がれない程のダメージを受けているようだった。

 が、蹴りを放った姿勢のBBに、上空から猛烈な速度で斧槍が飛来する。

 カナメが放ったそれは、確かにBBの頭上にぶち当たり、それと同時に地面から土の槍が伸び、その体を貫いた。


「アラリエル! 追い打ちだ!」

「ああ!」


 黒い輝きが無数に飛び交う。

 土の槍もろともBBの身体を貫く。

 そこにさらにダメ押しにと、俺も風絶を叩き込み、さらに黒い礫に氷の刃が混じる。


「……ふぅ……行くぞ!」

 ミコトさんが、精神を統一し、真正面からBBを上段から切り裂く。

 一瞬遅れて、無数の斬撃が殺到する。


「はむ子! 取りつきなさい!」


 大量のハムスターが、攻撃の嵐にもひるまずにBBの身体に取り付き、電撃を流し込む。

 その雷をさらにイクシアさんが操作し、上空に集め、さらに極大の雷、もはや光の柱のような雷が轟音とともに降り注ぐ。


「ここまで、ここまですれば!」

「……ああ、今の僕では耐えられない。明確に……ダメージだ」


 煙が晴れる。

 全身から煙を立ち上らせ、腕の皮膚が焼けこげ、剥がれ落ちるBBがそこにいた。

 まるで……ちょっと日焼けした皮がちょっとだけ剥がれ落ちたかのように。

 ……ダメ―ジと呼べる物とは、とうてい言えなかった。

 絶望が、ゆっくりと俺達の心に広がっていくのを感じた――

(´・ω・`)こいつ随分と弱体化してるな

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