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第二百八十二話

 セイメイを囲むように展開し攻め続けているみんなに加わる。

 コウネさんとキョウコさんは中距離で魔法を主体に、ショウスケはさらにもう少し離れ、みんなの背後にセイメイが現れた時に魔法で対処するようにして戦っていた。

 逆に驚いたのが、アラリエルが近接戦でカイとミコトさんに時折交じって戦っている事と、カナメとセリアさんが一歩離れ、常に最大の一撃を狙い、心理的な圧を与えるように立ち回っている事だ。

 なるほど、アラリエルは変則的に魔眼を発動させてセイメイの動きを縛ろうとしているんだな。

 だからアラリエルの邪魔にならないように、接近して戦うのは一番互いを理解しているカイとミコトさん、同門の二人に絞ったって事か。

 でも、それでも未だにダメージを与えられていないのはどういうことなのか。


「カイ、ミコトさん交代。後衛の守備へ」

「ユウキ! 何か分かったのか!?」

「いや全然。だから直接戦って調べる」

「……正直私達では理解が追い付かない。頼む、ササハラ君」


 二人を後方に下げ、コウネさんとキョウコさんの護衛を頼む。

 アラリエルと俺の二人だけでセイメイと直接やりあう形だ。


「アラリエルももう少し距離を取ってくれ。サシでやりたい」

「あいよ。アイツ、瞬間移動なんてもんじゃねぇ、もっと常識外の何かだ」

「だろうな。外から観察していても全く分からなかった」


 消える瞬間も現れる瞬間も認識出来ない。

 もしかすれば……時止めともまた違う『なにか概念的な力』の可能性すらある。

 それを見抜けたら……俺も対抗する再現で対処出来るかもしれない。


「やっと来たね。念願が叶ってうれしい反面、こんな場面なのが残念でならないよ」

「知らんよ異常者。黙って死ね」


 誰がお前とまともな会話なんてするか。

 気分を害したのか、セイメイも返事もなしに刀を振るう。

 剣速はたぶん、ミコトさんより速い。

 軌跡の鋭さ、狙いも明らかに必殺そのもの。

 それを防げているのは、俺もまた剣筋を読み、自分が一番嫌うであろう狙いを読み、なんとか防御を間に合わせているからだ。


「実戦でひたすら磨かれた剣だ。良い勘をしている」


 知るか。お前に認められて喜ぶはずないだろ。

 魔法を放つ。刀で攻撃を受けた瞬間、刀身が風の暴発を起こす。

 が、風が吹き荒れた時にはもう、背後から袈裟斬りを受けていた。


「っ!」

「よく咄嗟に避けられたね。……やっぱり警戒すべきは君だったか」


 認識が遅れるから、俺は自分自身に条件付けをして戦う事にしたのだ。

 消えようが消えまいが、とにかく自分の攻撃が不発、ないし大きく外れた場合は、とにかく無条件で体を捻り、その場から退避するようにしていた。

 神経が磨り減るような戦法だ。

 常に避ける用意をしながらの攻撃、緊張、筋肉の強張り。

 けれども、今はこれしか対処方法がない。

 それなのにこちらの攻撃は一切当たらないという、まさに悪夢のような状況だ。


「……本当に君は発想が柔軟なのか、勘が鋭いのか。よく持つね」

「そっちは余裕だな」

「まぁ実際余裕ではあるね」


 瞬間、攻撃を防ごうとした自分の刀が、いつまで経ってもやってくるはず衝撃が来ない事に気が付く。

 しまった! こういうタイミングでも消えるのか――


「っ――?」


 すぐに身体を捻りながら大きく飛びずさったのに、どこにもセイメイの姿がない。


「しまった!?」


 そうだ! どこにでも行けるなら……遥か後方へも一瞬で移動出来るじゃないか。

 俺と馬鹿正直に打ち合い続けている訳がないじゃないか!


「みんな!!!」

「いや、こっちじゃない!」


 カイ達からの返答に、最悪の事態を想像する。

 急ぎ更に後方、イクシアさんやサトミさん、BBのいる場所へと目を向けると――


「いやぁ……この戦いには手出ししないよ。僕は本当にただ見ているだけのつもりなんだけどね」

「……完全に防いでおいてよく言いますね。やはり貴方は危険だ、BB」


 サトミさんを庇ってくれたのか、地面に転ぶサトミさんと、そのすぐ側でセイメイの刀を受け止めているBBの姿があった。


「正直僕じゃあ君に正面から勝つ方法が今はないんだよね。君の作戦勝ちだよ」

「なら、このまま完全に死んでくれませんか? 貴方の存在はそれだけでこちらの支障となる」

「……だから見てるだけだと言っているだろ。本当に参加していいのか?」


 瞬間、世界の亀裂が広がる。

 裂け目が増える。覗く闇が、蠢く漆黒が増えだす。


「良いのか? なら参加するぞ? 正面からは難しくても、お前を殺すだけならいくらでも出来るが? まぁここにいる人間全員を殺す羽目になるが」

「……それは恐い」

「なら引け。俺は今は傍観者だ。大人しく滅ぼす者と防ぐ者同士で戦っていろ」


 強烈すぎるプレッシャーに、離れていてもこちらの足が竦む。

 本当に……倒せるのか、BBには。

 まさか世界ごと全て壊すつもりなんじゃ……。


「その言葉、信じますよ。貴方に邪魔はさせない」

「お? ちゃんと引いてくれるか。君は嘘はつかないからね、少なくとも僕には。しっかり強者には敬意を表する君のそういうところは好感が持てるし安心出来る」


 え……お互いに剣を引いた……?


「ああ、安心した『まるで実家のような安心感』だ。さぁ、世界の命運をかけて戦ってくれたまえよ」

「……それは人相手に使う言葉ではないですよ。僕は貴方の家じゃない」

「いやいや、僕が勝手に思うだけだから気にしないでくれたまえ」


 なんとも気の抜けるやり取りを繰り広げていたセイメイが、こちらに再びやって来た。


「すまないね、途中だったのに。君があんまりしぶといから他の懸念材料を潰しに行ってしまったよ」

「結果、潰せなかったみたいだけどな」

「流石にここまで来て死ぬわけにはいかないからね。彼は有言実行をする男だ。本気で僕を殺す事だけを考えれば……文字通り全てを殺す手段があるんだろうね」

「……今からでも諦めないか? 俺達がここで負けたら、もしかしたらBBが立ちはだかるかもしれないぞ?」

「それは出来ない相談だ。その時は……こっちも玉砕覚悟で挑むだけさ。あと少しのところまで来ているんだ……諦められるか」

「お前の我儘で世界を滅ぼすのか? 許される訳がないだろうが」

「それでも僕は望みを叶える。こんな偽物の世界……壊れてしまえ」


 分かり合えないのは知っている。こいつは不倶戴天の敵だ。

 世界を喜んで受け入れた俺と、拒み続け破壊を望む人間。絶対にお互いに妥協点なんて存在しない、そういう相手だ。

 だからこれは……ただの時間稼ぎだ。


「ハァ!」

「これで!」


 瞬間、上空から降り注ぐ斧と斧槍。カナメとセリアさんの一撃が、地面を物理的に大きく割り開く。

 俺を巻き込んでの最大火力に、セイメイと俺が一緒に奈落の底まで続くような地割れに飲み込まれる。

 だが――


「くそ! いない!!!」


 セイメイが消えた。一緒に落下したはずのセイメイの姿がどこにもなく、俺も急ぎ崖に刀を突き刺しブレーキをかける。

 そのまま崖から飛び上がり、地表へと舞い戻ると、すでにそこでは……。


「参ったね……ユウキ君、ちょっと休憩」

「カナメ……急いでサトミさんのところに戻れ」


 カナメが右腕を切り落とされ、地面に横たわっていた。

 叫ばない辺り、さすがというかなんというか。

 しかし出血量が不味い。どうやら咄嗟にセリアさんが焼いて止血したようだが、肝心のセリアさんの姿がどこにもない。


「その怪我でもサトミさんなら治療出来る。イクシアさんの薬もある。だから回復したら戦線に復帰してくれ」

「了解。マジで強いよあの人。攻略法、まだ分からない?」

「……正直手詰まり」

「分かった。じゃあセリアさんを頼むよ。さっき魔法で森を焼きながら逃げていたから、たぶんセイメイは追いかけていないと思う。あの人はなんだか時間を稼いでいるように感じたよ」

「この亀裂が世界中に満ちるのを待ってる……か」


 恐らくタイムリミットなのだろう。俺達を倒さなくても、世界さえ壊れれば目的は達成出来ると踏んでいるようだ。


「ミコトさんとカイと合流する。カナメはアラリエルと合流して後方で固まっていてくれ」

「了解。治療が済み次第向かうよ」


 なんなんだ……もしかしてセイメイは俺やキリザキのような力、再現ではないのか……?

 転送、ワープをするキャラクターが出る作品なんてありふれている。けれど、今回のような移動は知らない。

 再現だとしたら一体何を再現しているんだ……。




 今セイメイはどこにいるのか。

 時間稼ぎが目的なら、俺達を殺す事を優先するとは思えないが……いや、そうも言っていられない。

 憂いを晴らすために俺達を排除することも考えられる。

 だとしたら……狙うのは俺か、ミコトさんか。


「……ハ!」


 カイ達の元へ向かうために森に入ってすぐ、背後に向かい抜刀。

 読み通り、そこにセイメイが現れていた。

 邪魔だよな、俺が。BBに手出し出来ない以上、一番邪魔なのは俺だ。

 なら、不意を突くのに適しているのは移動中、つまり戦闘中ではない状況だ。

 半ばタブーのような方法で排除するのではと思った矢先。

 今のは防げなかったら確実に首を落とされていた。

 もう、回復も出来ない即死攻撃。本気でこちらを殺そうとする相手に、喉を鳴らす。


「……君の読みは異常だよ。やはり君も……僕達と同じみたいだね」

「さぁね。ただ予感しただけだよ」

「……君の『再現』は本当に危険だ。君は間違いなく……この世で最も危険な相手だよ」


 ……俺の再現はゲームや漫画やアニメでしかない。

 でも、一番現実離れしている事象が頻発する媒体でもある。確かに俺の再現は危険なのだろう。

 でも、俺に言わせれば正体不明のコイツが一番恐い。


「ユウキ!」

「ササハラ君!」


 するとその時、森の奥からカイとミコトさんが現れ、こちらに合流した。

 そして合流を喜んだ矢先、セイメイの身体の目の前に唐突に斬撃が放たれた。


「っ! 危ないな、ミコト」

「私の名を呼ぶな! 必ずお前は……私が切る」


 斬撃の遠隔遅延発生。ミコトさんの刀の持つ力だ。

 そうか……斬撃だけならミコトさんもどこへでも発生させられる。

 これは攻略のヒントになるかもしれない……!


「ユウキ、状況は」

「マジで攻撃当たらない。たぶんこれ瞬間移動じゃないっぽい。常に逃げる準備をして粘るしかないけど、時間を稼がれたら世界が終わる。正直倒しようがないかも」

「……たぶん、その時はBBが俺達ごとこの異界を崩壊させて解決する気なんだろうな。俺、なんであの人が着いて来たのか考えていたんだ」

「……俺達が失敗した時の最後の手段って事か」


 ありえる。あの人は……そういう人だから。


「そうならないように気張るしかねぇんだけどな」

「アラリエル……お前まで前に出てきたのか」

「後ろにいても俺には何も出来ねぇからな。こいつにゃ狙撃も通じねぇ。たぶん、こいつはここにいねぇんじゃねぇか?」

「……ここにいない……」


 いや、でもここにいるのは確かだ。

 映像なんかじゃない。

 攻撃が当たらなくても防いだ感触はあるし、攻撃を避けた時の風圧も、血の臭いも、気配もある。

 だけど、アラリエルがそう言ってしまうのも理解出来てしまう。それほどまでに捉えられないのだ。


「……カイ、お前まで一緒に切ってしまうかもしれないが、私に合わせてくれ」

「あいよ」


 俺に代わり二人がセイメイに向かい、アラリエルが魔眼を発動させ、セイメイの身体の自由を奪おうと試みる。

 俺はその間に、再び観察と考察を繰り返す。

 時間はもうない。もう……この亀裂がこれ以上広がったら――


「っ!? クソ! 考えたね!」


 だが次の瞬間、セイメイの驚きの声が上がり、静寂が森に広がる。

 なんだ……いや、もうセイメイの姿がどこにもない……『考えたね?』とは?

 何故このタイミングでいなくなった……?


「チ……感づきやがったか。おい、アジトに向かうぞ。今あっちにキョウコが向かってる」

「な! セイメイを無視して突入したのか!?」

「それではキョウコが危険だ! 兄は……セイメイはすぐに移動してしまうぞ!」

「それでも、なんらかの儀式さえ止められれば時間稼ぎにはなるだろうが。アイツはイチかバチかに賭けてんだよ。カナメもセリアも向こうについてる、むざむざ殺されはしねぇだろ」


 なるほど……危険だが、このままセイメイと戦うよりは良いかもしれないな。

 しかし……恐らくアジトにセンサーでも仕掛けていたんだろう。キョウコさんですら見落とすような。

 それとも……なんらかの儀式に異常が発生したのを感知したのか?

 なんにしても、ここからアジトまでは距離がある。俺達が戻るまでどうか無事でいてくれ……。


「みんな、移動中も気を付けて。裏をかいて今この瞬間首を落としに来る可能性だってあるんだ」

「うへ……やられたのか?」

「さっき狙われた。もうマジで油断できない」


 そう警戒を促したその時だった――


「そこまで……確かに隙なんてどこにもないのかもしれないな――」


 ミコトさんが、俺の言葉に同意しながら――


「本当に――」


 何気なく呟いた言葉に――


「本当に『神出鬼没』だ」


 ようやく、ヒントを得た気がしたんだ。




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