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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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第二百七十七話

「すまない、一度私が転送された地点を調べられないだろうか? 森に入って数分の場所で、私は兄と共にアジトに転送されたんだ」

「了解、そこを調査してからアジトに向かおうか」


 一ノ瀬さんの指示に従い、最初アジトに向かうときに転送してもらった地点を調べる事に。

 だが、そこにはなんの痕跡も残されておらず、やはり魔術以外の異能力が使われたのだろう、という結論に至ったのだった。

 そうして、再びBBを先頭に、この森の奥深くを目指し進んで行く。


「この辺りの森一帯は神話時代に、大規模な結界に包まれていたと伝わっているんだ。異界に飲まれる前はノースレシアの北部に広がっていた森なんだよ。確かその頃の名前は『龍神の森』だったかな。たぶん、ノースレシアでも有名なおとぎ話に出てくる森だよ」


 森を歩いていると、先頭のBBがおもむろにこの辺りの地名、謂れについて語りだした。


「アンタ……なんでそんな事まで知ってるんだ? もしかしてノースレシア出身なのかよ」

「いいや、僕は地球出身だよ。ただ一時ノースレシアに国籍を移していた事があるんだ。さらに言うと、第一次異界調査団のリーダーは僕だったんだよ。まぁこんな奥地まで辿り着けたのは僕とカズキだけだったんだけどね。それ以外の人員は殆どが死亡、もしくは途中離脱だったよ」

「マジかよ……いや、アンタの正体が『アレ』だってなら納得も出来るが……新任の先生もそこまでのレベルなのかよ」

「それよりも私はBBが国籍を移していたという話が驚きです!」


 珍しく自分の身の上話をするBBに、コウネさんが興奮していた。

 それにアラリエルとしても、BBの話は興味深いのだろう。なにせノースレシアの現魔王なのだから。

 ……原初の魔王と当代の魔王が同時にいるのって、なんか凄い状況だよな。


「この国は重婚が認められているからね。ここで妻達と挙式したんだよ。その後は僕意外の二人は日本国籍に戻り、僕は旦那であり扶養者だったから最低でもあと三年はノースレシア国民だよ」

「お、マジか! んじゃ俺の国民じゃねぇか。ケケケ……なら魔王特権でアンタの正体も調べられそうだな」

「んー、無理じゃないかな? アラリエル君、ノースレシアの裏社会にはそこまで詳しくないと見た。新任の魔王じゃ近づけない深淵がまだまだあるんだよ」

「へ、そうかよ。まぁそんなこったろうと思ったわ。じゃなきゃアンタが易々と話す訳がねぇ」

「二人の奥さん……まさかRお姉さんとマザーですか!?」

「それはノーコメントでーす」


 敵の本拠地が近づいてきているというのに、なんとも呑気な会話をしながら進んで良く。

 と、次の瞬間――


「武器を構えな。“天断”」


 BBが唐突にどこからか剣を取り出し、思いっきり横なぎに振り抜いていた。

 こちらの認識の前に既に技を放ち終え、後に残るのは無数の切断された樹木と……下半身と上半身を切り分けられた、無数の人型の魔物のみだった。


「囲まれてはいない。この先からかなりの数がこちらに駆け寄ってきている。全員、戦闘用意」


 瞬時に皆が武器を構え敵に備える。


「今の一撃で残りの魔力がすっからかんになった。マジで後は任せた。護衛の必要はなし」

「了解」

「最後にアドバイスだ。そいつらは強靭な生命力と瞬発力と怪力、戦闘本能が強さの理由だ。だけど戦闘IQは低い。搦め手で戦うと良い」


 そう最後に言い残し、BBはひとっ飛びで木の先端に着地する。

 ははは……なるほど、逃げに徹する訳か。


「搦め手……足場のぬかるみ化をお願い、コウネさんとショウスケ」

「心得た」

「私が広範囲に霜を広げます。コトウ君はそれを媒介に泥化させてください!」


 続いて、俺はキョウコさんに――


「電気を流して動きを鈍化……ですわね?」

「流石。そのタイミングでコウネさんが再び泥を凍らせて」

「んじゃそこに俺が魔法で黒曜石化させて動きをさらに固める。後は前衛組に任せるわ」


 もう、俺が考えている作戦くらい、みんなもすぐに思いついて行動してくれる。

 初めて遭遇した時は恐怖から力によるごり押しで倒したけれど、今なら――




「……ここまで戦えるのですね、皆さん。あれだけの数を一瞬で……」

「っと。そうだね、これは驚いた。広範囲の地形変化をここまでスムーズに行える連携、これは戦争で使われたら脅威だ。君達だけで戦況をひっくり返せる程の練度だよ」


 あっという間に敵集団を殲滅させると、木から降りてきたBBとイクシアさんが俺たちの戦いぶりをそう評価してくれた。

 ただ、今回はBBが情報を与えてくれたから、っていうのもあるし、こちらの攻撃手段と相手の弱点が最高にかみ合った……っていうのが大きい。


「これはヨシキさんに感謝かな。セリアさんと僕が教えてもらった技って大地を大きく切り裂く技なんだけど、地面に縫い留められている相手にはこれ以上ない程効果的だったよ」

「ね。完全に固定化した相手にあれが決まるととんでもない威力だったよ」

「そうだな、おかげで私達は打ち漏らし相手にしか攻撃が出来なかったくらいだ」


 みんなみんな、今ヨシキさんをヨイショするとBBがヘルメットの中でニヤニヤしちゃいますよ!


「元々魔力の濃度が高い地域だからね、何かしらの方法で魔物を誘導しておいたんだろう。たぶん、これで全てではないはずだよ。このまま警戒してアジトを目指そうか」

「了解」


 が、意外にも冷静に再び先導を始めるBB。

 そうして途中数度魔物に遭遇するも、連携で難なく魔物を撃破しながら森の深部へと進んで行く。




「……みんな、そろそろ一度休憩しよう」

「え……? こんな森の中でですか?」

「この辺りはかなり強力な結界で守られている地域でね。結界の中には入れないけど、強力すぎて結界の近くにいるだけで魔物は近づいてこれないんだ。ここで少し休憩しよう」


 それから少しすると、永久の緑とも呼ぶべき森の奥地に、唐突に紅葉が広がる地点に辿り着いた。

 その紅葉が始まる境界線の前でそうBBが宣言すると、興味を持ったセリアさんとコウネさんがその結界を調べ始めた。


「な……なにこれ……」

「これが……結界……?」


 二人が、結界があると思しき境界線上でパントマイムでもしているかのように、何もない場所をぺたぺたと手のひらで触れるような動きをしていた。

 ……ちょっと馬鹿っぽくて可愛いなって思ったのは秘密です。

 あ! イクシアさんも加わった! ……可愛い。


「……なるほど。これは『神話時代から続く結界』ですね?」

「ご名答。ここは、恐らくノースレシアの長い歴史の中で、異界に飲まれて消えたと言われている……カノプスが求めたであろう『原初の秘宝』が眠る地の入り口だと思うよ」

「ちょ、マジかよ! 実在したってのか!? じゃあこの先に原初の魔王の墓が、暮らしていた家があるってのか!?」


 すると、アラリエルが興奮気味に結界に向かって駆け出して行った。

 おお……やっぱり自分の国の一番有名な神話には反応するよな。


「なぁセリア、お前でもこの結界は解けねぇのか? なんとかして一度この目でこの先を見てみてぇんだ」

「……無理だよ、アラリエル。たぶん私が一生かかっても……解除どころか解析の糸口を見つける事が出来ないと思う」

「右に同じく、です。イクシアさんはどうですか?」


 神話時代の結界。でもイクシアさんなら……。


「これは……同じく一生かかっても無理ですね。いえ、もしかすれば結界の意味は理解出来るかもしれません。しかし解除となると……これを封じた本人にしか不可能でしょうね」


 マジか。お手上げなのかイクシアさんでも。


「さて、とりあえず水分補給や軽い食事……今回は携帯食だけどね、済ませよう。恐らくアジトはここからそう遠くない。魔物の襲撃も落ち着いたようだし、いよいよ拠点の近くなんだろう」

「あの、マジでもうBBは戦えないんですか?」

「ここに来てから一度大きな技を使ったからね、正直普通の方法では戦えないかな。まぁ奥の手の一つや二つ、百や二百はあるけれど、この状況で使う類の物じゃないんだ」

「なるほど……アジトに到着したらどうします? 突入は俺達に任せて外で待ちます?」

「んー……僕の予想だとアジトの前辺りで総力戦になるんじゃないかな?」


 今後の方針をBBに訊ねると、気が付けば他の面々も近くに来ていた。


「それはどういう事だろうか? 向こうもこちらの動きを察知していると?」

「間違いなくね。最低でもこの森に何かしらのセンサーや魔法の類は仕掛けられているだろうさ。でも、それを僕達は見つけられない。ミコト君が最初に森に入った時、僕らを転送地点に案内してくれただろう? そこで痕跡をみつけられなかった以上、こちらが知覚出来ない仕掛けは用意してるさ」

「確かに……兄なら無防備なまま待ち構えるなんてしませんね」

「それに、ここまで大規模な術式を広範囲に発動させているんだ。いくらなんでも多少の準備、儀式の祭壇のような物を用意していてもおかしくない。そしてそれは一番安全な場所、アジトの深部にでも用意しているのかもしれない。なら、そんな場所に敵は近づけないさ。アジトに入られる前に片付けようと、今頃アジトの近くに戦力を集めているだろうさ」


 攻略が困難になるかもしれない予想を、危機感のない調子で語るBB。

 だったら今こうして休憩するなんて……相手に準備時間を与えているような物じゃないか……!


「ユウキ君、焦りは禁物だ。今回、どうあっても原理回帰教は殲滅、皆殺しにするんだ。だったら戦力を集めて置いて貰った方が良い。向こうも総力戦になってくれたらそれこそ都合が良い」

「皆殺し……ですか。捕縛等は一切せずに?」


 なんでもない風に通達される、最終目標。だがやはり、一ノ瀬さんは――


「あの、幹部や首領だけでも生け捕りにした方が良いのではないでしょうか? その、得られる情報もあるでしょうし……」

「ふむ。お兄さんを失いたくないんだね? ダメだよ、絶対に殺す。いいかい? 最低限の会話は許そう。でも本当なら不意打ちでもなんでもして、皆殺しにしてしかるべきなんだ。アジトだって本当は爆破でもしてしまいたいけれど、術式がどういう危険を孕んでいるか分からないからそうしないだけ。本来はサーチアンドデストロイなんだよ」

「く……」

「ここまで来たらもう君の案内も必要ないくらいだ。君はここに残ってもいいんだよ? 幸い、この辺りに魔物はやってこないんだ」

「なにを……私は戦います、絶対に。殺しが必要な事も……理解しています」

「……ならもう言わない。頼むよ、この作戦が失敗したら世界が滅ぶかもしれないんだ。誰も生き残らない、世界が無くなるんだからね。それを今一度、みんなも肝に銘じてくれないかな?」


 そうだ。失敗=死という状況はこれまでだって経験してきた。

 そして失敗した場合、次の誰かが挽回してくれるかもしれない……なんて淡い期待も、許されはしなくても、希望を持つ事は出来た。

 でも今回は違う。失敗=世界の終わり……になる可能性が極めて高い状況なんだ。

 意識しだすと、鼓動が一気に何倍にも早くなる。久しぶりに、指先が震える。


「……こんな状況っているんだね。いやさ、只事じゃないのは異界に来る前から分かっていたんだけどね。でも……世界の命運というか、世界が終わる瀬戸際とか、そんなシチュエーションなんて想像した事もなかったよ」

「カナメでもそんな風に震える事ってあるんだな。いつも一番冷静というか、自分のペースで動いてる感じがするのに」

「そうかい? 僕にすればユウキ君の方がいつだってブレていないように見えるよ。正直、逃げ出したい気分だよ。でも逃げられないんだよ、この世界にいる限り。だったらもう、行くしかないんだ」


 カナメの初めて見せる、恐怖が見え隠れする表情。


「なんつーか……自分が魔王になるってだけで現実感がイマイチだってのに、こんな話まで聞かされて、神話の地に自分が今こうして立ってると、もう何を考えたらいいのかすら分からねぇわ。まぁやる事は最初から一貫して変わらねぇってのは救いだけどよ」

「ま、敵を倒すってだけだしな。リスクがアホみたいに高いけど」

「そうなんだよ。いや参ったねこりゃ。出発前にお袋に顔見せてくりゃ良かったわ」


 アラリエルの、弱気ともとれる発言。


「俺は……今日を無事に乗り越えて、一緒にみんなと、大切な人間と地球に帰る事だけを考える。正直BBの話も半分程度しか理解出来ていないけど、俺はみんなと日常に帰る為にも負けない」

「いやーそこは人物を特定しても良かった場面じゃないんですかね?」

「な……ミコトは今関係ないだろ!」

「いや、一ノ瀬さんだなんて言ってないし」


 カイ、お前はもうこれ以上喋るな。なんかフラグっぽくなりそうだし。


「いや……もうなんと言えばいいのか……自分はまだSSクラスに編入してから日も浅く、経験も乏しい。みんなのような積み上げてきた経験もない。正直、義務感と正義感で動いてきたところが大きい。それでこのような状況に陥ると、流石に……恐い。だが、誰かがやらなければいけないのなら、その誰かが大切な級友ならば……引くわけにはいかない」


 正直、これにはショウスケの意見に完全に同意だ。

 決して足手まといだとは思わない。戦力的には必要な人間だ。

 けれども、経験という点においては、確かに不足しているし、そんな状態のショウスケをこんな事に関わらせるのは……酷な話だと俺も思う。

 けど、こいつは絶対に引かない。こいつは誰よりも義に厚く熱い男だって、俺が一番よく知っている。


「一緒に戻ろうな、絶対。せっかくまた同じ教室に通う関係になったのに、碌に一緒に遊んだりもしてないんだ。結局高校の同窓会にも出席出来なかったしな、俺」

「ああ、そうだったな。……そうだな、みんなで地球に戻った時の事も今から考えておくさ」


 ……こいつだけでも無事に戻してやりたいって思うのは、昔なじみ故の贔屓か、はたまたある意味新人の人間への配慮なのか、どっちなんだろうな。


「私もショウスケ君と同じだよ。正直、凄く恐いよ、私こんなところに来られる器じゃないって自覚してるもん。でも、私の力が必要な事も痛いほど理解してる。私のいないところで友達が傷ついてるのを知っているのに一緒にいかないのは……凄く嫌だもん」

「正直、道中の回復魔法はかなり助かってる。前回ここに来た時と比べて、心労も疲労もかなり軽減されてるよ。これは慣れだけじゃない、サトミさんのおかげだよ」


 一番、ここに来るべきじゃない人間であると同時に、俺達の生命線でもある彼女。

 守らなければ。それが彼女の運命に少しでも影響を与えた俺の義務であり、同時に……かつて命を救われた男の忠義ってヤツかな。


「……確かにこれまでとは任務の重要性、責任の重さが段違いですね。先ほど、次元の狭間という場所を見ていましたが、確かにそこには……エレクレア公国の様子も確認出来ました。この事件は、既に世界中に広がっていると見ても良いでしょう。幸い、エレクレアにはディース様や常駐の騎士も多く在籍しています。一般への被害はかなり抑えられると思います。ですが、根本を解決しなければ被害は増える。私はエレクレアの騎士の家系、その長女としての責任を全うする義務があります。祖国の為に戦うという義務が。どのような責任、リスクがあっても、私は最後まで戦います」


 いつだってどこか余裕を、心にゆとりを持って準備をし、周りに気を使い、ムードメーカー的な立ち位置でありながら、戦いのときは頼もしく、どんな役割もこなせる頼りになる人。

 たぶん、俺がかクラスメイトの中で一番信頼している、プライベートでも大切な家族のような人。

 その彼女が、初めて見せる『騎士であり貴族』の凛々しい一面。

 俺は、彼女が責務を全う出来るように全力を尽くそう。


「心強いよ。そうだね、国全部を守るなら、ここで俺達が踏ん張るしかない」


 一番俺が弱っていた時に、精神的な支えになってくれた女性。

 だからもし、この危機に彼女の心が弱っていたら……なんて考えていたけれど、その心配はないようだ。


「この事件は……いつから続いていたのでしょうね。もしかすれば、我が愚父の不正も、この事件に関係していたのかもしれませんわ。それほどまでに……根が深い」

「たぶん、地球での利権争い、派閥争いの一環だとは思うけれど、アルレヴィン家は間違いなく原理回帰教と繋がっていたと思う。だから、石崎の爺ちゃんも関係があったのかもしれないね。そしてその派閥に属していたと思われるキョウコさんのお父さんも、知らず知らずの内に加担してたかも」

「ふふ、慰めでなく疑いの考察、それでこそササハラ君ですわね」


 この人は強い、誰よりも冷静に物事を判断出来る人だ。

 優しい言葉よりも冷たい現実を好む。そのくせ、自分は不器用に暖かい言葉をこちらに投げかける、そんな優しくて不器用で素敵な人。

 この人の事を、最初は『おばあちゃんみたい』だなんて思ったっけな。


「私の魔術知識が通用しない相手なんだよね。未知の法則で戦う相手……やっぱり戦士に転向して正解だったよ。魔法は強いしほぼ万能。だからこそ対抗策も同じくらい長い間研究されてきた。それに『才能は絶対』なんだ。生まれと血筋で、最終到達地点が決まってる。だから私は別な手段を求めた。今回の相手は……未知。私にも未知があれば……もっと先にいけるのかな」

「でも、先の先にあるのは……孤独だと思う。隣に並べる人がいないと、力を求め続けるのは難しいと思うよ、俺は」

「ユウキ……そうかもね。私はここまで来られた。たぶん、隣にみんながいてくれたから未知の企みに挑むところまで来られたんだ。……うん、私はこれでよかったんだ」


 覚悟をしているのだろうか、セリアさんは。

 自分の原点、渇望とも取れる力への欲求を吐露しながらも、挑む事を恐れている様子はなかった。

 俺は、この人が、セリアさんが少しだけ恐いと感じてしまった。

 この場面で内情を、自分の欲望を吐き出せる強さが、俺にはなかったから。


「世界の真実に向き合う事。そして恐らく世界の存亡を左右する戦いになる事。薄々、今回の事件が何かとてつもない大きな流れに立ち向かう事になるとは感じていましたが、想像以上です。こんな戦いに子供達……いえ、まだ年若い生徒達が挑む事になるなんて思ってもみませんでした。無論……私自身も」


 イクシアさんが、みんなの顔を見渡しながら、心情を語る。

 きっと、神話の時代を生きた彼女ですら、今回ほどの事件に関わる事はなかったのだろう。

 つまり……神話の戦い以上のナニかが、この先で繰り広げられるかもしれないんだ。


「もう……私は子供の為に自分の身を投げ出すような事はしません。この先の未来を、最愛の息子と生きていきたいから。だから共に勝ち、帰りましょう」


 最後に、イクシアさんの視線が俺で止まる。

 ええ、一緒に帰りましょう、イクシアさん。


「じゃあ、行こうかみんな。BB、先導を任せます」

「了解した。では行こうか、次代の……いや、時代の英雄達」


 最後の戦いへ。




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