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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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第二百七十四話

( ´・ω・` )

 ユウキ達がノースレシアの調印式で異変と対峙していたその頃、地球でも同時刻に謎の亀裂が広がり始めていた。

 日本だけではなく、かつて植樹式が執り行われていたオーストラリアや、かつてジョーカーに粛清を受けたアメリカ、そして既に一度災害に見舞われたドバイでも。


「何よこれ……異界の空がどうして……」


 オーストラリアの植樹式跡地、今は倉庫となりほぼ活動していない軍事基地を、観光と視察を兼ねて訪れていたエリは、突然空に広がる亀裂、覗く不自然な青空に臨戦態勢に入る。

 基地を警備していた軍人に指示を出しながら、この異常事態が自分だけで解決することが不可能な規模の物だと理解する。


「やばいわね……都市部から離れてるから良い物の……これ絶対出てくるでしょ、魔物」

「ミス・エリ! 我々はどうすれば!?」

「援護に回せる人間数名残して都市部に急行。この事態がどれくらいの規模で起きているのか連合軍人通して各国に問い合わせ! 都市部での作戦行動は私は知らん! 上司に聞いて頂戴!」


 第二次異界調査団の生き残りであり……多くの軍人を生還させた経験を持つエリは、多少軍人に顔が効く。

 故に指示を仰がれ、しぶしぶ最低限の命令を下し臨戦態勢に入る。


「異界の魔物が出てくるわよ、たぶん。今日ここで死ぬ覚悟をしなさい。マジで死力を尽くして戦うのよ」

「イ……イエスマム」

「こんな小娘掴まえてマムはないでしょ。……死ぬんじゃないわよ」








「全員、装甲車に避難民を乗車させて今すぐにショッピングモールへ。籠城の準備をしてください」

「了解致しました!」

「イエスマイマジェスティ!」


 未曽有のゲート災害、魔物による侵攻、正体不明の魔力振動の被害で復旧がまだほとんど進んでいないドバイ。

 そこで救助活動に陣頭指揮を取っていたマザーことレイスは、今回の災害にすぐさま不穏な物を感じ、生き残っている人間全てを、避難所である各地のホテルから、大規模なショッピングモールに移送、籠城をするようにと指示を出す。


「マザー! 貴女につける護衛はいかがいたします!?」

「必要ありません。全員、ショッピングモールに籠城、内部にも亀裂は発生するでしょうが、全軍で対処してください。私は旧アルレヴィン家所有のホテルの前で露払いを行います。この亀裂から現れる魔物は、幸いサイズの小さい物ばかりですが、それでも貴方達が対処するには苦戦は必須。必ずスリーマンセルで動いてください」

「な……貴女の身に何かあったらどうするのです……! 我々を、主をなくしたアルレヴィン家の兵士を束ねて下さった貴女がいたから……この国の為にこうして働けていたのに!」

「我々にはまだ貴女が必要だ……! 貴女の元で戦わせて欲しい!」


 未曽有の災害の元凶と目されていたアルレヴィン家。

 その私兵たちへの風当たりは当然強く、だがただ憎しみの標的にするのは労力の無駄だと、レイスは彼らを監視すると同時に仕事を与え、その信頼を勝ち取っていた。


「見くびらないで下さい。この程度の災害、この程度の危機……私一人で十分対処可能です。大人しく私の指示に従いなさい。さぁ、早く装甲車を出しなさい。最低一〇往復は必要ですよ」


 そうして一人、最も大きな亀裂の広がるアルレヴィン家のビルへと向かうレイス。

 壊れた空から降り注ぐ数多の魔物を、赤い光で瞬時に打ち抜きながら。


「これは……やはりヨシキさんの予想通り……世界の崩壊が始まってしまったのですね」


 魔眼を発動させ、この魔力の暴走、亀裂の根源はどこかと探る。


「地球ではない……亀裂の向こう……異界で何者かがこの災害の後押しをしている……?」


 亀裂の集合体、大きく空が欠けた、異界の景色が覗く場所。

 そこを見定め、マザーことレイスは小さくつぶやく。

 この先に、この事態を引き起こした元凶が潜んでいると。


「向かう……べきでしょうか。それとも私はここに……」


 今、この地を外敵から確実に守れるのは、被害を最小限に留めるには自分が必要だと理解しているからこその葛藤。


「……今この地にあの子達、次代の英雄はいないのです。残りましょう、次代を築くのは、子供達の役目ですから」


 きっと、向かうべき場所に子供達が、シュヴァインリッターの生徒がいると信じて。








「ホソハちゃん、学園に行った方がいいよこれ」

「そう、ですね。今学園にユウちゃん先輩達はいませんから」

「私はこのまま亀裂が一番集中している地方に向かうよ。たぶん、南の方……前にSSクラスの子達が研修で向かった場所だと思う」

「九州地方ですね。わかりました、私は学園に向かって不測の事態に備えます」


 秋宮の研究所にて、謎の研究と実験を繰り返していてR博士とホソハ嬢もまた、この異常事態を観測していた。

 動き出す二人は、それぞれの役割を瞬時に取り決め行動に移していく。


「予想通りの結果、ですか?」

「うん、そうだね。正直ここまで予想通りだとは思わなかったけど……でもタイミングが早すぎる。これ、間に合わない」

「では……やはり最悪な二択になってしまうと?」

「もう三年……ううん、もう二年猶予があれば、この事態をもっと先送りにする手段も見つけられたと思う。その間に根本的な解決策も見つけられたかも。でも全部遅すぎたんだ」

「では……こうなるまで見逃していたカ……ヨシキさんに責任があると?」

「冗談でもそんな事言わないで。ヨシキはずっと世界を守って来たんだよ、もうそんな義務も責任もないのに。それをぶち壊したのは……未熟なこの世界、地球だよ」

「……魔力を得てしまった故に新たに生まれた世界、地球の意思ですか」

「未熟なこの世界意思を、放っておいたのは私も同じだけどね。でもまさかこんなに早く……」

「きっと……それだけこの世界を憎んでいる人間がいるのでしょう」


 二人はこの事態がどういう物なのか理解しているような口ぶりで、外に向かう用意を進めていた。

 ホソハは制服に、R博士は白衣から普段着に着替え、それぞれ出発する。


「全部終わったら……たぶん極点がどこかに出来る。私はそこに向かうから、ホソハちゃんは……学園にいて」

「分かりました。ユウちゃん先輩が戻る場所は、私が死守しておきましょう」

「……そうだね」


 そうして、地球に残っていた強き者達もまた、この事件の解決の為に動き始める。

 この事態の元凶に最も近い場所にいる、生徒達に全てを託しながら――








「ユウキ、今戻った」

「お待たせユウちゃん。その様子だと……異界の魔物が出てきたんだね。人型タイプか……ならまだマシかな」


 ショウスケと二人、会場に現れた魔物を倒し周囲を警戒していると、アラリエルとリオちゃんが戻って来た。

 だが気になるのは――


「人型タイプって……他の魔物もいるんだ、やっぱり」

「なら、やはりドバイに現れた魔物群も異界の魔物だったのか……」

「こいつら、かなり強いけど所詮は個人の強さだからね。群れになった時の恐ろしさはあるけど、影響力はそうでもない。まぁ精神的に参っちゃう相手ではあるけど」

「こいつが異界の魔物か。俺は初めて見るな。ほぼ人間みてぇだが」


 リオちゃんの見解には同意だ。この魔物は……強さ以上に精神的な恐怖をあおってくるんだ。

 人間にしか見えないのに人間じゃない、意思疎通の出来ない魔物。

 これ以上ない程に不気味な存在だし、何よりも一般に知られるのはまずい。


「生息域が決まっているんだけど、そっか。ユウちゃん達もこいつらとしか異界で戦っていないのなら……もしかしたらゲートって今、特定の地域にしか発生出来ないのかな?」

「しかし、我々がドバイで遭遇したのは様々な造形の相手でした。大型の龍種ですら」

「いや、あの時の魔物はゲートっていうか、なんかイレギュラーに発生した穴というか渦みたいな、ちゃんとしたゲートじゃなかったような気がする」

「む、言われてみれば確かに……」


 あれは一種の災害のように見えた。つまり制御して生み出された物ではないって事か?


「……もしかしたら、今回の異変も人為的な物、だから繋がった異界も特定の地域だけなのかも。ユウちゃんは相手方にゲートをある程度制御出来る人間がいるかもって推察をしていたんだよね? たぶんそれ正解。でも、異界側の出入り口の発生に干渉出来る範囲はごく僅かなのかも」


 なるほど……でも、異界の外での効果範囲はご覧の有様だ。この様子だとこの国のどこでだってヒビが発生しているかもしれない。

 それだけじゃない……もし、地球にまで及んでいたら。


「アラリエル、リオちゃん。二人は国の指導者だって事を忘れないで。基本的に自衛優先、アラリエルはまず指導者として兵士に明確な指示を」

「だな。ワリィ、キョウコをこっちに呼んでくれ。この中継機材を動かすのにアイツの力を借りたい。ラグはあるだろうがこの異常事態を国の外にも伝えときてぇんだ」

「なるほど、ショウスケ頼む」


 その間に俺は、ひとまずジェン先生とカズキ先生に相談する。

 リョウカさんは残念ながら通信の呼びかけに応じてくれなかった。既に交戦中の恐れがある。


『ユウキか!? そっちはどうなってる』

「今会場に現れた魔物を撃破、アラリエルとリオちゃんと合流済みです。ショウスケも一緒です。現在城内の緊急避難にイクシアさんとBBがあたっています」

『私とカズキ先生は王城周辺に現れた魔物を倒したとこだ。市街地へ向かった兵士団の援護をするか考えていた』

「それについてですが、今アラリエルが中継機材を使って国民や国の外に人間に報告をするそうです。その際に兵士への指示も出すようなので、市街地の兵士を追いかけるか否かはその後に決めましょう」

『了解だ。なら一先ず私達も合流するべきだな。他の生徒への指示は任せろ』


 流石に先生達は落ち着いているようだ。

 だが、それでも油断できる状態ではない……。


「アラリエル、ユウキ、今カヅキさんがこちらに向かっている。一緒に行動中だったコウネさんもこちらに向かうそうだ」

「サンキュー。リオステイル女王、中継は一緒に頼むわ。ついでUSMの護衛……それと街に潜ませてる戦闘員に指示を出してくれ」

「あれ? バレてた?」

「さすがに王族の護衛が二人なわけねぇからな。緊急なんだ、出し惜しみはなしで頼む」

「もちろんわかっているよ。一応、私の配下って訳じゃないからUSMの首領にお願いするよ」


 なるほど、ロウヒさんか。

 しかし街中に既に戦力が控えてくれているのは助かるな、今の状況だと。


「ユウキ、ちっと城の中でアートルムのおっさんを呼んできてくれ。たぶんホールあたりで陣頭指揮をしてるはずだ。シュヴァインリッターの支部長権限で、街中にいるシュヴァインリッターへの指示も中継でしてもらう」

「あいよ。ショウスケはここに残ってみんなの到着を待っててくれ」

「分かった。城内にももしかしたら魔物が入り込んでいるかもしれない、気をつけろよ」


 皆に別れを告げ、城内に駆け込む。

 聞こえてくる物音の中に悲鳴が混じっている事から、恐らくショウスケの言う通りの状況なのだろう。

 武器をいつでも抜刀出来るようにしながら、城内を駆け抜ける。


「マジかよ……こんなに城内にも魔物が現れていたのか……」


 途中で転がる魔物の死体。

 いずれも焼かれたり切り刻まれている様子からして、イクシアさんやBBによるものだろう。

 結構あっさり倒せてるように見える……二人の強さは別格って事か。


「この状況だと最高に頼もしいよ、マジで」


 なーにが弱体化してるだよBB。


「……城の人間はほとんど避難済みっぽいな。確かホールにアートルムさんがいるんだったか」


 俺は先日晩餐会が開かれた一階ホールに向かう。

 するとやはり、そこには城で働いている非戦闘員が集められ、兵士達がホール内を警戒しながら避難者を守っているところだった。

 どうやら、アートルムさんはBBとイクシアさんと共に何やら相談中のようだが。


「すみません、アートルムさんに伝言があって来ました」

「ササハラユウキ、どうした? 先ほどアラリエル様とリオステイル女王が装備を持って屋上に向かったと報告があったが」

「念のため武装は持っておきたいから、と。それより今から中継で国内外にこの緊急事態を報告、同時に国内の兵士に指示を出すそうです。アートルムさんにはシュヴァインリッター支部長として構成員に指示を出してもらいたい、と」

「なるほど……今すぐ向かおう。BB殿とイクシア殿はいかがします?」

「僕はもう少しここで様子を見ておくよ。イクシアさんはユウキ君と行った方が良い。恐らく、この後君達は動くのだろう? その際は彼女も一緒に動くべきだ」

「そうですね、私もそうしたいと思っていました」

「了解。BB、ここは任せます」

「ああ、了解だ。おりを見て避難者を城の地下、緊急用の広間に移送しておくけどいいかな? 今はひとまずここに集めたけど、避難者が揃ったならもっと安全な場所に移動するべきだ」

「……なぜ、地下区画の事を知っておられるのですか?」


 その時、ふいにアートルムさんの目が細められ、剣呑な空気が漂う。


「悪いけれどノーコメントだ。だがあの場所が魔力的にも外の干渉を受けづらい事も知っている。本来王族や上位貴族の避難用区画なのは承知の上で『命令する』。あの場所に保護する」

「な……なんだ……これは……」

「アートルム、これは命令だ。あの場所を解放せよ。民を守るのは上位魔族の義務である」


 ふいに、威圧感と恐怖が漏れ出すBB。


「全ての疑問は今は捨て置け、命令だ」

「……分かり、ました」

「感謝する。もう三人共屋上に向かうと良い。僕はこの人達が落ち着いたのを見計らって動く」


 そうして、俺達は屋上へと駆け出す。

 きっと……今のはジョーカーとしてというよりも……原初の魔王としての威圧、魔族を従える彼の力、一種のカリスマによる物なのだろうな。


「……あれが、世界の調停者か。私としたことが危機管理が出来ていなかった」

「普段は割と善人なんですけどね。いやいつでも善人か、手段はどうあれ」

「そう、だな。城の機密を知っていたとしても、先ほどの選択正しい物だった」


 道すがら、アートルムさんが冷汗を流しながらそう語る。

 だけど、なぜかイクシアさんは不思議そうな、納得がいかないような、そんな奇妙な表情を浮かべていた。


「……ユウキ、BBは魔族ではないのですか?」

「ごめんイクシアさん、ノーコメントなんだ」

「そう……ですか」


 きっと、彼女も何かに勘づき始めているのかもしれない。

 そうして屋上に到着した俺は、既に合流していた他のクラスメイトや先生達と今後の方針を決めていく。

 だが、どういう訳かこの場に一ノ瀬さんの姿は見当たらなかった。

 ……最悪の、予感をしてしまう。


「じゃあアートルムのおっさん、それとキョウコはこっちに来てくれ。今から中継を始める。そっちはこの後の方針を決めておいてくれや」

「あいよ。ジェン先生、カズキ先生。どうしますか?」

「そうだね、とりあえず今は砦に向かうべきだろうね。どういう訳かリョウカさんもミコト君も通信機に反応がない」

「砦側はどうにも亀裂が密集している。というよりも最早砦上空は完全に異界になっているな、あれは。恐らくミコトもリョウカさんもあそこで戦っている」


 少しほっとした。そうか、ミコトさんはリョウカさんと一緒だったもんな。

 彼女が裏切ったとは考えられない、か。いや、裏切ったとしたら既に断罪されているはずだ。

 少なくともその報告はない。だから、彼女は本当にこちらに戻って来たのだ。

 無条件に仲間を信じる事が出来ない自分に少しだけがっかりする。

 でもそれが俺だ。そういう戦士に成長したのが俺なんだ。それを、恥じたりするものか。


「誰か残ってアラリエルとキョウコさんに方針を伝える。俺達はすぐに砦に向かいましょう」

「そうだな。カズキ先生、生徒を頼みます」

「俺で良いのですか?」

「戦闘力が高い方が生徒の引率をすべきだろう? 期待させてもらうからな」


 そうして再び俺達は城内を駆け砦を目指す。

 この先の展開がどうなるかをそれぞれ考えながら。

 この被害がどこまで広がっているのかを想像しながら。

 この戦いを無事に皆切り抜けられるだろうかと心配しながら。


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