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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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第二百七十三話

(´・ω・`)『暇人魔王』の後に何が起きたのか、その片鱗。

 ノースレシアとエンドレシアの争いの歴史は、神話時代にまで遡る。

 もともと一つの大陸であったエンドレシア王国は『ある一人の魔族の男』に自国の公爵と同等の地位を約束し、北方の広大な領地を与えた。

 その見返りに、王はその魔族に『この国の危機に一度だけ、そなたの力を貸してほしい』と願い、魔族の男はそれを快諾した。


 エンドレシアは、元々魔族が多く暮らしていた土地であった。だが、エンドレシア王家はヒューマンが治める国。

 その事に不満を持つ国民などいなかった。だが……広大な土地を与えられ、国王に次ぐ権力を持つ魔族の登場に、魔族の国民達は密かに期待してしまっていた。

『ついに我らの国が誕生するのではないか』と。


 その期待は、やがてエンドレシアを二分するまでの争いの火種になりかねないと、魔族の男……後の原初の魔王カイヴォンは、エンドレシア国王と密かに会談を行い、策を考えていた。

 やがて、エンドレシア王はカイヴォンに、大陸の北部を新たに『ノースレシア』という国家として独立、賛同者を引き連れて正式に国を樹立し、不満が暴発する前にこちらから国として認めてしまおう、という策に出た。


 結果、エンドレシアとノースレシアに分かれ、内戦を事前に防ぐことに成功した。

 だが……納得しない者もいたのだ。

 エンドレシア王国の貴族達は、新興貴族であるカイヴォンに広大な土地と絶大な権力だけでなく、国の樹立まで認めるとはどういう事かと反発した。

 王達の密約。かつての約束。なぜ国王はカイヴォンに地位と土地を与えたのか。

 それら事情を知らない他の貴族の目には、カイヴォンが憎く映り、国王が愚かに映った。

 カイヴォンは、エンドレシアをかつて救い、未曽有の危機からも守り、そして……世界を救った英雄であった。だがその事実を知る人間は、世界に一握りしかいなかったのだ。

 話すわけにはいかなかった世界の真実、世界の危機。

 それ故に起きてしまう亀裂。

 ノースレシアとエンドレシアの間で戦が起きてしまうのは、もはや必然だった。


 度重なる衝突、土地の奪い合い、無為に流される民達の血。

 心を痛め、同時に……疲れ切ってしまった原初の魔王は、ついに『してはいけない事』に手を染めてしまった。


『恐怖により戦を終わらせる』という、最悪の手段を選んでしまった。

 原初の魔王は、国境でその力を振るった。

 大地を切り裂き、海を穿ち、空を割る。

 一瞬のうちに、大陸は地続きでなくなったのだ。

 神かと見紛う絶大な力は、自国民の羨望を集め、そして……エンドレシアを恐怖で縛り、他大陸に存在する全ての国までを恐怖させた。


 世界が、恐怖により支配されてしまったのだ。

 たとえ本人にその気はなくとも、絶大な恐怖は、人を支配してしまうのだ。

 エンドレシアは二度とノースレシアと戦わないと誓い、他大陸の国々は決してノースレシアを刺激してはならないと、腫物を扱うように接するようになる。


 この状況をなんとかせねばならないと考えた原初の魔王カイヴォンは、外交を行い、自分の血を引く子供達を各国の有力貴族、王家に、半ば人質のように養子や嫁として差し出した。

 全ての国々がノースレシアの泣き所になりかねない血筋、子供を手中に収めることにより、ようやく均衡を保ちつつあるところまで来たのだった。


 だが、原初の魔王は知らなかった。

 根底に恐怖が、一個人の力が存在する均衡も平和も、所詮まやかしにすぎないのだと。

 長い年月を魔王として国を治めてきた原初の魔王も、ついに老衰に倒れる。

 それを……悼み悲しむ者だけではなかったのだった。

 その頃のエンドレシアは、旧知の仲であった国王ではなく代替わりをしていた。

 時の国王は、ただ邪魔な存在であったノースレシア、原初の魔王が倒れたその時から、再び戦を仕掛けようと画策していたのだから。




 それが、ノースレシアとエンドレシアが数えきれないほどの年月を争い続けてきた歴史の奥底に眠る、原初の記録。

 憎しみと嫉妬、反発から生まれた争いは、いつしかその根底が忘れ去られ『ただ支配し手に入れる』為だけに争いが繰り広げられていた。

 それがエンドレシアの歴史。エンドレシア王家が戦に明け暮れていた理由。








 調印式当日。

 城屋上の特設会場には、中継機材が設置され、ギルドから派遣されてきたスタッフが式の始まりを固唾を飲んで見守っていた。

『今回の調印式は何者かの襲撃の可能性もある』。

 故に、スタッフも皆ギルドの精鋭で固められ、会場の警備もSSクラスやUSMの人員が受け持ち、城の兵達は必要以上に街の巡回に出ていた。

 会場から城、都市部に至るまで細心の注意が払われた状況で、最も敵の出現が予想される場所に、ミコトはいた。




「理事長、空気中の魔素の濃度が徐々に上がってきている事が観測されたそうです」

「やはりそうですか。ゲートが活性化してきているのでしょう。可能性としては低いですが、このゲートから直接原理回帰教の人間が現れる事も想定してください」


 ゲートを囲む小屋を守るのは、ミコトとリョウカだった。

 最高戦力に近い二人を配置し、同時に無線で全体に指示を出すリョウカは、今だけは教育者、理事長という立場ではなく、一人の戦士、指揮官として戦場に立っていた。


「ミコトさん、見的必殺です。このゲートから現れるのが誰であれ、出てきた瞬間、指の先が出ただけでも殺害してください。躊躇した瞬間、私は貴女ごと相手を射抜きます」

「はい、肝に銘じます」

「すみませんね、性分なもので。私は、戦場で躊躇し、戦線を崩壊させかけた事が一度や二度ではないのですよ。だからもう、私は躊躇しないんです」

「……理事長も、戦士だったのですね」

「……昔の事です」


 二人の会話に割って入るように、無線から通信が入る。


『ミコト、そっちの状態はどうだ?』

「カイか。魔素濃度が上がってきている。そっちはどうだ?」

『こっちもだ。ゲートから離れてるのに……大規模な術式ってヤツなのか……?』

「可能性はある。そちらは川の上流だけでなく下流にも注意を払ってくれ」


 砦の裏手の渓谷、川の警備にはカイが兵士を引き連れて当たっていた。

 過去に自分達が脱出に利用した場所なのだから、侵入に利用する人間がいてもおかしくないから、と。


「式まで残り一時間。そろそろ中継が始まっている頃でしょうね」

「まだ……動きはないようですが」

「……タイムラグがあれど、今日調印式が行われるのは世界中が知っています。時が経つ程に関心が高まり、感情が……術式を活性化させるという可能性もあります。アラリエル君とリオステイル様が調印を済ませるその時こそ、相手が動く時、です」


 そうして、式が始まっていく。

 この度の調印式が実現した背景、二国による同時の内乱、ノースレシアでのクーデターの鎮圧とエンドレシアでのクーデター。

 その両方の経緯の説明に入り、真実が全ての人間に共有されていく。

 会場に最も近い場所で警備にあたっていたユウキは、その様子を眺めながら神経を研ぎ澄ませていた。


「……時代の節目、か」


 いまいちピンとこないのだろう。だが確実に一つの戦争、長すぎる争いが終結しようとしていたのだ。

 そこに立ち会い、貢献してきたという事実を、今更ながら感じていた。

 そんなユウキを、会場から少し離れた場所、城屋上の入り口の階段の警備をしていた二人の人物が見つめていた。


「あまり緊張している様子はないようですね、ユウキは」

「そうだね、彼はもう一流のエージェントであり戦士だ。僕も、彼にはお世話になったよ」


 イクシアとBBが、なんと会場の警備に協力していたのだった。


「あの……BBにはユウキをはじめとして、生徒さん達を何度も救っていただいたと聞いています。もしかしてBBは……」

「うん? 僕の正体は秘密だよ?」

「いえ、そうではなく……BBは『あの時代の人間』なのではないでしょうか……?」


 イクシアは、これまでの経緯とリョウカとBBのやり取り、BBから感じるそこはかとない威圧感に、現代の人間ではないのかもしれないと感じ、問うてしまう。


「……僕はこの時代の地球で生まれた人間に過ぎないよ。ただ、それでも世界を愛しているんだよ。地球も……ここグランディアも。過去も現在も未来も含めて、永遠に愛している」

「過去も未来も……ですか。ぶしつけな質問、申し訳ありませんでした」

「いえいえ問題ないさ。リスナーの質問にはどんどん答えるスタンスですから」


 そう笑って流すBBと、BBの答えに深く考え込むイクシア。

 やがて中継も進み、今回の調印式にこぎつけた経緯を、尽力した人間の紹介が始まる。

 グランディアにおける警察機構であるシュヴァウインリッター。

 エンドレシアのクーデターを成功させた市民と善意の傭兵達。

 USMの名前だけは、公の場ではまだ出せないと考えた結果だ。

 そしてもちろん、シュヴァインリッター総合養成学園の生徒達。


「きっと、今日は歴史に刻まれる一日となるだろうね。無論、彼の名前も」

「BB?」

「アラリエル君の名前も確かに刻まれる。けれども、偽りの魔王を打倒し、この調印式を成功に導いたのは間違いなくユウキ君だ。偽王カノプス……彼女の存在はそれだけ大きかったんだよ。まさに現代における英雄、グランディアで最も強い人間が彼女だったのだから」

「そこまでの人物だったのですか……」

「本来なら、とどめを刺した……いや、作戦の大部分を支えたイクシアさん、貴女も同じく表彰されるべきだった」


 中継がされている会場の檀上に、名前が挙げられた人間の代表としてユウキが上がる。

 新たな魔王であるアラリエルが、勲章をユウキに授与する。


「私はただ、子供達を、引き裂かれた親子を助けたいと思い、お手伝いをしただけです。それに表に出るわけにはいかないのですよ」

「ええ、それは知っているよ。だから、ユウキ君なんだ。もう彼は次代の英雄として認知され始め、そして今……事件ではなく、歴史として確実に刻まれる節目に彼の名が挙がった。これはもう決定事項であり、彼の存在が世界に大きな影響を与えた証でもあるんだ」

「凄いですね……気が付けば、あの子はこんなところまで来てしまいました」


 その時、にわかに警備の人間が持たされていた空気中の魔素の濃度を計測する機器が、即ち大規模な術式を察知する機器が警告音を鳴らしだした。

 会場のあちこちからあがる警告音に、全ての人間に緊張が奔る。


「そう、凄い事さ。だから……それが最後の引き金になるのは必然だったんだ」


 BBが最後にそう呟いた瞬間、生とし生けるもの全てに、世界が割れる音が響いた――








「っ!? なんだ、こりゃ!?」

「アラリエル、警戒しろ!」


 檀上で胸に勲章をつけられた瞬間だった。

 突然、目の前の空間、アラリエルと俺の間の空間に、赤黒い線が奔った。

 まるでヒビのようなソレは、気が付くと周囲のあちらこちらに、物も地面も空間も、空でさえもお構いなしに、縦横無尽に広がっていた。


「ユウちゃん、アラリエル君!」

「リオちゃん! 警戒して、これ何かおかしい! もう敵がせまってるのかも!」

「ちっ、俺のデバイスは預けたままだ。ユウキ、ここは任せる」

「ああ! リオちゃんも剣、預けてるよね」

「うん、でもすぐに回収に行ける。アラリエル君も一緒に回収に行くよ、デバイス」

「わかった。ユウキ、護衛はいらねぇ、会場の亀裂、一番でっかいアレを警戒しといてくれ」


 アラリエルの指し示す方向、城の上空に、一際大きな亀裂が広がり……空が、割れた空が落ちてきた。


「な……なんだあれ」


 空の欠片と呼ぶべきような物が落下し、それが空中で消える。

 後に残るのは、色調がもう一段階高いような、濃いような、不自然な青。

 俺はあの色の空を知っている。あの自然のようでいてどこか不気味な青空を知っている。


「異界の……空だ」

「マジか! んじゃこれはゲートが発生したって事なのか!?」

「違う、たぶんこれ……世界の境界が……壊れてる……?」


 気が付くと、辺りからも徐々に空間の欠片が零れ落ち、見慣れない風景がそこから覗きだしていた。

 草原、知らない森、古びた遺跡。異界と思われる景色が、会場のあちこちに混ざっていた。

 初めて見る現象、表現しきれない光景に頭が混乱する。


「なんかこれ……やばくないか。これ、風景が見えるだけじゃないだろ……生き物の出入りも出来るんだとしたら――


 その瞬間、会場から悲鳴が上がる。

 いつの間にか会場には、服を着ていない全裸の人間……いや、異界の魔物が紛れ込んでいた。

 人間に噛みつこうとするその魔物を、会場の警備にあたっていたショウスケが食い止める。

 俺もすかさず駆けつけ、魔物を切り裂きショウスケとツーマンセルを組む。


「ショウスケ、とりあえずここでの戦闘は俺達で引き受けるぞ」

「ユウキ! 分かった、アラリエルとリオステイル女王陛下は!?」

「二人は今自分達の武器を回収しにいった。こっちに合流してくれるはずだ」

「分かった!」


 俺は会場の入り口、城内に続く階段を警備しているイクシアさんとBBに向かい声をかける。


「二人は戦えない人間を城内に避難させてください!」

「了解だユウキ君」

「わかりました! 城内にいる全ての人間は一カ所にまとめておきます!」


 これは、どれだけの規模で起きているんだ。

 空の亀裂は、はるか先まで続いている。

 都市部だけじゃない、はるか向こうの山まで、赤黒い亀裂が刻まれている。


「まさか……世界規模……じゃないだろうな」


 未曽有の災害と直面し、俺は今まで感じた事のない焦燥感を味わっていた。

 仲間は……みんなは無事なのだろうか……。


(´・ω・`)やっぱり世界滅ぼさなくちゃ……(使命感

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