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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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第二百六十九話

「で、どうしたんだよショウスケ」

「少し、聞きたいことが出来てな。そうだな、ちょっと場所を変えよう。出来れば人の来ない場所……俺が最近使っている執務室でいいか?」

「あいよ。あ、ならその前に……一瞬だけホールに寄っていいか? イクシアさんにもう少し遅れるって伝えたい」

「ああ、了解した。俺は先に行っているぞ、場所は分かるな?」

「大丈夫だ。じゃあ先に行っててくれ」


 ショウスケが真面目なトーンなのはいつもの事だが、このタイミングで……?

 俺は一旦ショウスケと別れ、一度ホールに戻る。

 イクシアさんに少しショウスケと話してくることを伝えに……ではない。

 そんなのナシアが説明してくれているだろうから。


「いたいた。カイ、ちょっといいか?」

「ん? なんだユウキ」

「ちょっとだけツラ貸して?」

「な、なんだよ恐いな」


 俺はホールの隅に少しだけカイを呼び寄せ、周りに聞こえないように小声で話す。


「おい、一ノ瀬さんとどこか二人きりになれるところに行け。そこでもう一回二人きりで話せ。こういう任務がどれくらい危険なのかは俺が一番よく知ってる」

「な、なんだよ急に……」

「……ビビらせるつもりじゃない。でも、絶対に二人きりで話す必要がある。カイ、いいか? 絶対に二人きりになれ。俺が言ったから、とかじゃない」

「そんな事……分かった。そうだよな……相手はセイメイさんで、行くのはミコト……なんだもんな。二人を知ってる俺が……一番今のミコトの事、分かってやれるんだもんな」

「そういうこと。んじゃ行ってこい、俺もちょっと用事があるから。くれぐれも俺に言われたから、とか言うなよ」

「ああ、分かってるって」


 カイを焚きつけてから、急いでショウスケの元に向かう。

 ……別にお節介なんかじゃないんだけどさ。

 俺が人でなしなだけ。仲間を完全に信じられないクズってだけだ。


「……一ノ瀬さんに楔を打ち込めるのはお前だけなんだよ、カイ」


 俺は、一度家族の為に仲間全員を裏切ったから。

 だから分かるんだ。一ノ瀬さんも……楔が無ければ裏切る可能性があるって。

 そこを踏み留めさせる事で出来るのは……やっぱり好きな人間の存在なんだよ。

 だから俺は、カイに行かせた。仲間を信じていない癖に、仲間がそれを防げると信じている。

 なんとも打算的で狡猾な人間になったものだよ、本当。




「おーい、来たぞー」

『入ってくれ』


 ショウスケの待つ応接室に向かうと、珍しくショウスケがテーブルに二人分のカップとお茶を用意してくれていた。


「座ってくれ」

「あいよ。どうしたんだ、こんなとこで話って……まぁ聞かれたくない話、なんだろうけど」

「そう、なるな。しかし案外寒いな、城の中でも」

「こっちの気候はまだ冬って感じだよな。なんていうか二月くらい? 地球はまだ八月なのに」

「そうだな。やはりノースレシアは最果ての大陸と呼ばれるだけはある。あまり慣れていないが紅茶だ」

「ああ、頂くよ」


 まぁ、薄々感づいてはいるんだ。


「けどまぁ、初手で自白剤は中々考えたな、ショウスケ。何が聞きたい?」

「っ!? く……流石に素人の手は食わないか」

「まぁな。潜って来た修羅場の数が違うんだ、仕方ないだろ」


 今日、一ノ瀬さんに自白剤を飲ませた事を知っているのは、アラリエルと恐らくキョウコさんとショウスケ。

 彼女の内偵を進めていたこの三人だけ。

 そのうちの一人が話があると呼び出し、珍しく紅茶を淹れてくれる。

 これで疑えないようならエージェント失格だ。


「なんでも聞け、ショウスケ。その様子だ……本当に深刻な問題……なんだろ?」

「そうだ。ユウキ、お前……本当に味方なのか?」

「そりゃどういう意味だ?」

「……原理回帰教のメンバーなんじゃないか、お前も」

「……なるほど。そうか、そうだよな。お前……お前だけは疑うよな」


 そうだった。その通りだ。こいつは……『俺が覚醒した瞬間に居合わせた人間』だ。

 俺が高校三年の頃、この世界で目覚めた瞬間に一緒にクラスで授業を受けていた人間だ。

 そして、俺とリョウカさん、BBの語る原理回帰教に共通する部分が、俺にも当てはまると気が付いたんだ。


「流石だ、ショウスケ。お前の言う通り、俺もまた原理回帰教のメンバーとまったく同じ共通点を持っているし、恐らく俺に現れた現象……覚醒も同じだ」

「なら!?」

「安心しろ、その事はリョウカさんもBBも知ってるんだ。俺は……原理回帰教に接触される前に、別な勢力の人間と接触したんだ。その結果、たぶん原理回帰教はスカウトするのを諦めたんだろうな」

「その、別な勢力と言うのは……?」

「リオステイル女王陛下。リオちゃんだよ。彼女がUSMのメンバーなのは知ってるだろ? ほら、前に言ったことなかったか? 俺がいつも通っている訓練施設……あそこで俺を負かせた女の子がいたって」

「あ、あの時の話か! それがリオステイル女王陛下だなんて……」

「そういうこと。みんなを余計に混乱させないように、俺については触れなかったんだが、知っていた身からしたら余計な不安を抱かせちまったな。悪い」

「いや、俺が勝手に疑っただけだ」

「いんや、俺のミスだ。本当、結構昔の話なのによく覚えていたよな、俺の変化なんて」

「それだけ衝撃だったんだよ。お前は……高校生、それも三年になってから覚醒したんだな?」

「すげぇな……正解だ」

「ふふ、そうか。どうやら多少は俺もエージェントの才能があったのかもしれないな」

「今んとこかなり適正あるよ。少ない情報で俺を疑ってほぼほぼ正解までたどり着いたんだし」

「ふ、そうか」


 お茶を処分し、ホールに戻る。

 念のため、ショウスケには俺についてリョウカさんにも確認を取るように言っておいた。

 仲間の発言でも、一度疑ったなら最後まで確認する事、だ。

 言うまでもなく確認していただろうけどさ、ショウスケなら。


「いやぁ……頼もしいヤツがクラスメイトになったよなぁ本当」

「んー? 誰の話?」


 会場で引き続き歓談中の友人達眺めながら呟いていると、ふいに誰かが話しかけてきた。


「リオちゃん。もう打合せは良いの?」

「さっき終わったよ。まぁ今日は軽い打合せだけ。交流が主目的だったからね。もともと、アラリエル君ともノルンちゃんとも顔見知りではあったけど、どっちも緊急時で一緒だっただけだしね。腰を据えてじっくり話したのは今回が初めてだし、なかなか楽しめたよ」

「あー……そっか。植樹地の埋められてた魔導具の解析とか、クーデターの打合せとか事後処理の話ばっかりだったしね」

「そういう事。私と似たような年代で、同じような立場の相手っていうのは今までいなかったからね。三人とも王族……なかなかある機会じゃないからね」

「なるほど。ノルンさんはともかく、アラリエルは中々癖が強いだろ?」

「結構やんちゃな子だねぇ。面白いよ、ああいう子は。強すぎず弱すぎず……理想が高い訳でもなく、かといって国を大切に思っていない訳でもない。絶妙なバランスの魔王らしくない魔王……って感じかな?」


 確かにその通りだと、笑ってリオちゃんに同意する。

 さて……じゃあ元々の先約、リオちゃんの話を聞こうか。


「ん、そだね。じゃあ……ついて来てくれる?」

「何気に今晩こうしてサシで話すの、リオちゃんで三人目だったり」

「まーじで? なになに、ユウちゃん人気者?」

「そう、大人気なんですよ」

「だろうねぇ。んじゃついて来て。邪魔が入らなさそうな場所、見つけてあるんだ」


 リオちゃんに言われるまま、彼女に続き王城の中を進む。

 俺達のいたホールからも、貴族達の晩餐会の会場からも遠い、もう喧噪が全く聞こえない城の奥。

 階段を上り、進み、そして頭上に満天の星空が広がる場所。


「ここは……城の屋上……」

「そ。カノプスとユウちゃんが戦ったっていう場所。今はもう復旧も終わって、調印式の会場が組み立てられ始めてるところだね」


 あの崩落跡も全て元通りに修復されている。魔法がある世界だもんな。

 星空の下、少しだけ肌寒い夜風が吹き抜ける。

 俺はともかく、リオちゃんはドレスだ。少し、寒そうに見える。


「上着とか持ってきたらよかったかな? リオちゃん、寒くない?」

「ん、平気だよ。氷属性が得意な魔導師ってさ、寒さに強いんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「嘘。私が得意なだけだよ。エンドレシア出身、だしね」

「一瞬信じちゃったんだけど。でもそっか、エンドレシアも寒いんだね」

「ま、もともと同じ大陸だったらしいしね」


 神話の時代、原初の魔王が両断した大陸……という伝説。

 それはきっと、伝説なんかじゃなくて真実なんだろう。


「それで、話とはなんぞや?」

「んー? まぁ色々かな? ほら……私ってもう、前みたいに自由に動けないじゃん。もうユウちゃんに会いに行けないし、気軽に話せる関係でもなくなるしさ。だから色々、聞いておきたい事とか、話したい事とか溜まっているんだよね」


 そう言って、彼女は少し寂しそうに笑った。

 その姿は、いつもどこか重なって見えていた少女の面影はなく、責任と立場を背負った、女王陛下としての覚悟を持った、大人の女性そのものだった。


「前に聞きたい事は大体聞けたんだけどね。本当に、私のことを恨んでいないのか、とか」

「何度でも言うよ。そんなことはあり得ないって。リオちゃんは……俺の運命の扉を開いてくれた人なんだ。全部、君から始まった。ううん、たぶんそれだけじゃない。俺を救ってくれたんだ」


 原理回帰教が、恐らく俺を狙っていた事を伝える。

 そして、同じく秘密結社であるUSMが先に接触した事により、俺がこうしていられる事も。


「そっか。うん、私もその可能性はちょっとだけ考えたよ」

「だから俺はリオちゃんを本当に恩人だと思ってる。俺の恩人で、目標で、大事な友達」

「そっかそっか。大事な友達か」


 屈託なく笑う彼女。大人で、強くて、無邪気で。

 この人に俺は、何度救われたのだろうか。

 オーストラリアの時も、その前も……そうだ、彼女は幾度となく俺の前に姿を現してきた。

 それは全部、俺を救うためだったのではないだろうか?

 その考えを彼女に伝える。


「ま、気にはかけていたかな? 他の用事のついでだよ、ついで」

「はは、ついでかー」


 それでも、俺の為に何度も救いの手を差し伸べようとしていた事は間違いないから。


「ふぅ……私さ、とりあえず女王陛下って立場になるんだけど、アラリエル君みたいに自分を『最後の魔王だ』なんて感じで、王制の廃止を宣言出来るような状況じゃないんだよね。元々力の強い貴族が王族を名乗る風習だったから。クーデターまで起こして王族の地位を簒奪しておいて、私で王制は終わり、なんて言えないんだよねぇ」

「そっか……じゃあやっぱり不自由というか、制約はついて回るんだろうね」

「そ。だから私だけじゃない、次の王様も、その次の王様も、少しずつ国の価値観を変えていくしかないんだ。気の長い話だけど、少しずつ変わっていくしかないんだ」


 仕方のない事、なんだろうな。クーデターを起こす前、彼女がかつてエンドレシアから逃れたその時から、いつか王家を打倒し国を平定させたいと願っていたその時から、既に覚悟は決まっていたのかもしれない。


「行動の自由だけじゃない。一番の問題は世継ぎだよ。強い家が台頭してくる事は当然ある。でも王家という地位を死守しようと、強い家であろうと努力する責任が王家にもある。ただ強いだけの家が王家となった結果、国が荒廃したのがこれまでのエンドレシアなんだ。だから私は、次代の王を強く正しい、そんな人間になるように育て導く義務がある。その為には……由緒正しく、なおかつ強い一族の血を取り込む事になるんだと思うよ」

「あ……そっか。政略結婚とはまた違うかもだけど……そういう自由もないんだ……」

「そういう事。だから私は……がんじがらめになって、知らない男と結婚するくらいなら、面倒な事になる前に強くて実績があって、なおかつ『この人なら文句なし』って人に、伴侶になってもらえないか告白してみようかな、なんて思ってるんだよね」

「マジで!? そんな人いるのか!」


 いや、該当者がいるじゃないか。ロウヒさん……長年、所属していた組織の首領で、強さも申し分ない。実績だって、少なくとも表の世界では最強のバトラーとして活動していた。

 今は犯罪者の烙印を押されているけれど……。


「まぁね。気になってた人はいるんだ。だから私は、その人にお願いしてみる。可能性は低いけど、一緒に来てもらえないか頼んでみる事にしたんだ」

「おお……そっか。上手く行くと良いね、リオちゃん」


 少し、寂しくもある。これは独占欲とは少し違う。

 なんだろう……友達が、誰かの物になるのが寂しいというか。

 いや、やっぱり独占欲になってしまうのか?


「んー……上手く行くかどうかはユウちゃん次第なんだけどさ?」

「え?」


 意味が分からなかった。

 その言葉の。

 一瞬遅れて、勘違いかもしれないけれど、今の言葉が何を意味しているのか理解しかけたその瞬間――






「私、リオステイル・エンドレシアは、ササハラユウキさんを一人の男性としてお慕いしています。これから先、私の伴侶として共に歩む事は出来ませんか?」






 結論を、正解を、回答を先に言われたのだった。



(´・ω・`)たぶんかなり最初期から好きだった

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