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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
最終章

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第二百六十六話

(´・ω・`)大変長らくお待たせしました。

最終章開幕です。

「以上が私が行った過ち、裏切り行為の全てだ。持ち帰った情報はこれで全てになる」


 一ノ瀬さんが飲んだ自白剤の効果が切れた頃、関係者を集めた会議室で俺とアラリエルが聞かされた一ノ瀬さんの裏切り、兄であるセイメイの元へ向かった経緯について語られた。


「……昔から、ミコトちゃんはお兄さんが大好きでしたもんね。仕方ないとは言えない立場、状況ですけれど……よく、踏みとどまって戻ってきてくれました」

「まぁ俺も盛大にみんなを裏切った立場だから何も言えない。ただ、少なくとも一ノ瀬さんが既に『スパイ』となってこっちに戻って来た訳じゃないのは確定してるよ」

「う……うむ……」


 あ、ごめんなさい。やっぱり自白剤が効いてる間の記憶も残ってたんですね。顔真っ赤です一ノ瀬さん。

 ……やばい、俺も素直な一ノ瀬さんの様子思い出したら恥ずかしくなってきた。


「で、こっからが本題だ。おいアートルムのおっさん。現状こっちの警備体制はまだ完全じゃねぇよな? 人員の問題だけじゃねぇ、どこに内通者が潜んでいるか確認のしようがねぇくらいゴタついてる」

「ええ、その通りです。今回のように何かしらの品を紛れ込ませる事も容易なのでしょう」

「つまりこっちの防御力は紙も同然なんだ。対策を取るにも時間がかかる。エンドレシアとの調印式まで時間もねぇ。だから……こっちも絡め手で攻勢に出んぞ」


 そう言ってアラリエルが提案したのは――


「ミコト、お前は兄貴のところに行ってくれ。俺達のスパイとしてな」

「な……私にスパイになれと……?」


 その提案に、思わずと言った様子で声を上げる人間が現れた。


「ちょっと待てよ! そりゃ危険すぎるだろ……!」

「ああ、危険だな。正直今こうしてる間もこの国の人間は全員危険な状況にある。なら最前線にいる俺達が一番危険なのはあたりめぇだろ」

「そういうことじゃない! ミコトは……確かになんらかのペナルティがあっても仕方がない事をしたかもしれない、だからってこれは!」


 カイが、一ノ瀬さんを庇うように反論していた。


「いや……カイ、気持ちはありがたいが、これは単にペナルティという訳でもない。そうなのだろう、アラリエル」

「ああ。現状唯一こっちから仕掛けられる手段でもある。正直、お前にスパイなんて器用な真似が出来るだなんて欠片も思っちゃいねぇよ。だが、それでもこっちから情報を得るにはそれしか手段がねぇんだ。たとえお前が危険な目に遭うとしても提案せざるを得ない」


 正直、こういう諜報系の任務には一ノ瀬さんはとことん向いていないと思う。

 いや、正直に言うと、この人は情に流されやすいんだ。

 でも、それを差し引いても実力が秀でている。情報を持って帰る可能性が高い。


「俺もアラリエルの案に賛成かな。一ノ瀬さんは少しでも情報を得られたら、強引にでも逃げ出せるだけの実力がある。それに――スパイである事を看破されたとしても、そのまま一ノ瀬さんを自分達の元に向かい入れる可能性すらある、と思う」

「そこまでその兄貴に余裕があるって意味か?」

「うん。言い方は悪いけれど、一ノ瀬さんを完全に自分達側に引き込めると、二重スパイに仕立て上げられる思うんじゃないかな。一ノ瀬さんを誰よりも知っている兄だからこそ」

「……そう、かもしれないな」

「だから俺も、一ノ瀬さんをスパイとして送り込む案には賛成だよ。警戒して偽の情報を渡されたとしても、それを逆手に取ることだって出来るかもしれない」

「ユウキまで……賛成するのか」

「カイ。俺達は今、学生じゃない。国の存亡、もしかすれば世界を巻き込むかもしれない戦いに挑もうとしてるんだ。分かってくれよ」


 これは実務研修じゃない。クーデター鎮圧の時に本物の実践、戦争を経験しているんだ。

 もう、学生気分で甘い事を言って許される立場ではないんだよ、俺達は。


「カイ、僕も賛成するよ。だって、一ノ瀬さん強いし。問題が起きても戻ってこられるくらい強いよ。最近じゃ模擬戦でも負け越してるし」

「そりゃあ……俺だってそうだけど。ミコトは強いよ、たぶんユウキの次に強い」

「だ、そうです。一ノ瀬さん、目指せクラスナンバー1って事で今後どんどん手合わせ挑んできていいよ」

「ふふ……ああ、そうさせてもらう。カイ、私は今後もここにいるみんなと強くなる。だから必ず戻る。そう心配するな。そんなに私は頼りないか?」


 声にこそ出していないが、他のみんなもスパイ作戦には反対する気はないのだろう。


「……分かったよ。ミコト、絶対に無理はするなよ。情報なんて最低限で良いんだからな」

「ああ、任せておけ」


 こうして全員の許諾を得たアラリエルの作戦は、三日後にやってくるエンドレシアの要人、リオちゃんことリオステイル女王と、今はジェット機で別行動中のリョウカさんに提案する事になったのだった。






 二日後。予定通りにセリュミエルアーチの使節団を乗せた船がノースレシアの港町に到着したとの知らせを受けた。

 このペースでいけば使節団が王都に到着するのとリオちゃん達が到着するのは同じタイミングになりそうだ、という事になり、急遽大掛かりな晩餐会、親睦会を開くことになった。

 俺達は会場の手配や警備をどうするか考えながら、その準備に奔走していた。


「そういやこの大陸の港町ってどういうとこなんだ?」

「ああ、そういえばユウキは中継基地奪還班じゃなかったもんな」

「そうそう。基地って島だったんだろ? 港から出発したのか?」


 一緒に作業をしていたカイに尋ねたところ、ノースレシアの港町は大陸南部、エンドレシアに続く大きな橋から割と近い場所にあるそうだ。

 エンドレシアへの定期便や、遠洋に向かう定期便の運航が主な収入源で、漁に出る船は少ない港、とのことだ。

 無論、この間までは定期便なんて一切運航していなかったのだが。


「結構遠いな。一日でここまで来られるのかね?」

「この大陸って街道の整備が進んでるからな、普通に自動車で移動だしすぐじゃないか?」

「あー、なるほど。アラリエルがバイクの免許持ってるくらいだしな」


 そのアラリエルだが、当然会場の準備なんて事はしていない。

 王として会談、そして調印式の段取りを煮詰めているのだろう。

 まぁ俺達も会場の準備とは銘打ってるが、実際にはこの準備で怪しいところがないかチェックをする警備みたいなものなんだけど。


「さてと……こっちはそろそろ終わりだ。カイは……一ノ瀬さんと一緒にいてやりな。色々話す事も多いだろ、そっちは」

「まぁ、そうだよな。ありがとう、ユウキ」


 俺は、この後もしかしたら過酷な任務に就くかもしれない一ノ瀬さんに、カイを仕向けておくことにした。

 出来るだけ一緒にいられる時間は……用意した方が良いもんな。


「はー……俺はどうするかな……イクシアさんの手伝いに行こうかな」


 会場を後にし、瓦礫の撤去作業の手伝いをしているイクシアさんの元へ向かう事にした。




 瓦礫の撤去もだいぶ進み、今は荒れた中庭の復旧作業に着手しているようだった。

 作業中の兵士さんにイクシアさんの所在を訊ねると、どうやら離塔、イクシアさんとアラリエルのお母さんが避難していたあの塔にいるらしい。

 なんでも、古い術式が刻まれていたり、監禁用の部屋にされたりと、いろいろ散らかっているので掃除がしたいのだとか。

 早速塔の螺旋階段を上り切り、扉をノックする。


「イクシアさん、いますか? ユウキです」

『おや? どうぞ、入ってください』


 部屋に入ると、少しだけ埃っぽい空気が吹き抜ける。

 どうやら大掃除中だったらしく、もともとベッドが置いてあった場所が何もなくなり、そこの掃除をしているようだった。


「どうしたんですか? ユウキ」

「自分の持ち場の仕事が終わったので、イクシアさんのお手伝いでもしようかと思って」

「ふふ、ありがとうございます」


 流れるようなハグ、俺じゃなきゃ身躱しちゃうね。

 つまり大人しく抱きしめられる。


「なんてお母さん思いなんでしょう」

「イクシアさん思いなんです」

「なんの違いが?」

「いろいろあるんです」


 おふざけはこの辺りにして、何をしていたのか訊ねると――


「ここは古い術式の痕跡が多い場所ですからね、ベッドがあるだけでも危険なんですよ。ここのメンテナンスは私がした方が良いと判断しました。全て無力化した後に……封鎖した方が良いと進言する予定なんです」

「なるほど……? イクシアさん、ここと縁があるんでしたっけ?」

「ええ、この塔は私の先生、師匠にあたる人の私室、研究室だったんです。その名残が随所にありますので、こうして掃除、解呪をしているんです」


 そういえばカノプスとの戦いでも、城の屋上への転移門なんて仕掛けが隠されていたっけ。


「何か手伝えませんか?」

「でしたら、そこに積んである荷物を塔の下まで運び出してくれませんか?」

「了解です」


 こうやって、戦争の傷跡、戦いの痕跡は少しずつ消えていくんだよな。

 ……まだ何も終わってはいないけれど、こうして復興が進むこの城を見渡しながら『なんとしても守らないと』そう、強く思った。






 翌日。予定通りなら今日、セリュミエルアーチの使節団と、リオちゃん達エンドレス組がこの城に到着する事になっている。

 予定では正午過ぎと言われていたが、意外にもその予定よりも早くここに到着した一団がいた。


「リョウカさん! ジェン先生! それに……カズキ先生にサトミさん!」


 リョウカさんとジェン先生は、ジェット機でファストリア大陸まで行っていたそうだ。

 ドバイで起きた異変、あそこで完全に別行動になってしまっていたサトミさんとカズキ先生を、ここまで連れてきてくれたのだ。


「みんな……! よかった……本当によかった……! 行方不明って聞かされて、ずっと心配していて……!」


 一人残されたクラスメイトであるサトミさんが、涙を目に浮かべながら女子グループに駆け寄り、セリアさんに抱き留められていた。

 彼女は救護の為に避難所に残っていたからな……俺達が市街地に向かうのを一人見送ったのだ、さぞや心細かっただろう。


「状況は理事長から聞かされているよ。みんな、よく頑張ったね。無事でいてくれて心から嬉しく思うよ」

「先生、どこまで報告を受けているんですか?」

「……全部、だよ。サトミさんも無関係ではいられないかもしれないからね。全部、君達が遭遇した人物についても説明した」

「……じゃあ、俺が直接あの人と……本当の姿の彼と二人で会った事は?」

「む……それはされていない。まさかあの状態のあいつと……会ったのか」

「はい。……本来、というか以前の姿の彼と」


 周囲に聞かれないように小声で話す。


「そうか……あいつは、真実しか話さない。だが同時に全貌を話はしないんだ。だからどんな会話をしたにしろ、そこで思考を止めるんじゃないぞ、ユウキ君。考え続けて、真実を自分で考えるんだ」

「なるほど……なんだかセリュミエルの白竜様みたいですね。俺、あのドラゴンさんにもいろいろ言われたんです。思わせぶりな、裏がありそうな事を」

「アレはどうでもいい」


 何故か突然、きっぱりと白竜様の話を止めさせるカズキ先生だった。


「え、ええと……」

「そうだ、セリュミエルといえば、ジェン先生と初めて顔合わせが出来たよ」


 すると、明らかにこの話は終わりというテンションで、俺達クラスの面々に向き直り、本来の担当教官であるジェン先生と改めて俺達に話しかけた。


「僕は地球に戻ったら、ジェン先生の復職が決まり次第、副担任、副教官という立場になる。基本、戦闘における相談相手や、ジェン先生の補助に回る事になる」

「あー、私としてはこのままカズキ先生に担当してもらって、私が補助に回るのでもよかったんだけどな?」

「信頼を得ているのは間違いなくジェン先生ですよ。これまで過ごしてきた時間は裏切らない。みんな、先生の帰りを心待ちにしていたんですから。俺は戦闘指導に専念出来ますし、これが適材適所、ですよ」

「ううむ……ま、そういう事だ。アラリエルはこのままこの国に残るだろうが、みんなはこれからまた、よろしくな」


 そうだった。アラリエルはもう……この国の王、魔王になるんだもんな。

 寂しくないと言えば嘘になる。けど、仕方のない事、なんだよな。


「あん? その気になりゃ復学なんて余裕だろたぶん。何かしら理由付けしたら一年くらい不在でも文句はねぇだろ。なにせ偽の統治者が治めていても破綻していなかったんだからな」

「無茶言うなよ流石に」


 なんかコイツ、本気でそういう事しそうで不安になるな。


「さて、積もる話もあるけれど、これから他国の王族や使節団を迎える事になるんだ。みんな、この後の警備について相談をするために会議室に向かおうか」

「だな。カズキ先生、手配頼んだ。私はちょっとジェット機の保管について相談してくる」


 先生達が移動し、俺達も会議室に移動を始めたところで、俺はリョウカさんに声をかけた。


「リョウカさん、少し良いですか?」

「はい、どうしましたユウキ君」

「ちょっと、人気のない場所までお願いします。結構、重要な話です」

「……分かりました。すぐに手配します」


 こちらの様子にしっかりと応えるように、リョウカさんも真剣な表情で動いてくれる。

 俺は……この考えをリョウカさんに話したい。

 以前リオちゃんが、俺の地元に現れた理由について『原理回帰教が何故か向かっていた』という件、つまり俺を既に狙っていたかもしれない、と。

 今更言ってもなんの影響もない話かもしれないけれど、それでも俺はリョウカさんに話したかったんだ。

(´・ω・`)本日より毎日更新、全29話となっております

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