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第二百六十五話

(´・ω・`)今章では終わらないので次章に持ち越しですん

「失礼する」

「来たか、ミコト」

「いらっしゃい一ノ瀬さん」


 部屋にやって来たのは、いつもと変わらない様子の一ノ瀬さんだった。

 特別警戒している様子もなければ、召喚した武器を携えていることもない。

 ただただ自然体だ。


「ふむ……何かあったのか?」

「ああ、ちょっと問題が発生してな。今ユウキから話を聞いていたんだ」

「あまり周囲に聞かせたくない話なんだ。戦力的にも人柄的にも、呼び出すのは一ノ瀬さんが良いかなって」


 俺はアラリエルの会話に合わせて話す。

 話ながら、彼女の隣に移動して、アラリエルに向き直る。

 あたかも『これから一緒にアラリエルの話を聞く』かのように。


「話ってのは他でもねぇ、ミコト、お前についてだ」

「私について……だと?」


 いきなり核心について話し出す。


「一週間前の深夜にお前が無断で砦に侵入、ゲートをくぐり異界に向かった事についてだ。こいつは国家の存亡、機密に関わる問題だ。全部話してもらうぜ?」


 俺が後ろ手のまま取り出した刀は、もうすでに一ノ瀬さんの背中に切っ先を向けている。

 身動き一つせずに、話を聞くふりをしながら、平然とクラスメイトに刀をつきつける。

 それが出来てしまう自分に、内心自分で自分を嫌悪する。


「動かないで。一ノ瀬さん、その場所から一歩でも動いたら俺はこのまま君を殺す。これはそれくらい重大な違反行為なんだ。全部、話して」


 一瞬、切っ先に伝わる振動に、彼女が動き出そうとしたのを感じ、釘を刺す。


「っ!? ササハラ君……! 君も、か」

「話して。セイメイさんはなんて言っていたの?」


 カマをかける。この場面で、冷徹に、すべてを見透かしているかのように演じながら。

 まだ『脅されて仕方なく』とか『ただの捜索』という線も残っているのに、俺はもう確信していた。

『その程度の理由でこの人が規則を破るはずがない』と。

 だから、セイメイさんの名前を出す。


「……既にそこまで把握しているのか」

「いや、数ある可能性の中から選んでカマをかけてみた。そっか、セイメイさんから直接コンタクトがあったんだ」

「っ! 流石だな、ササハラ君。……ああ、私宛の手紙が届いた。それで、兄の真意を聞く為に異界へと向かった」

「で、実際に会って話をしたんだ?」

「その内容を全て嘘偽りなく話してもらうぜ? それで今回のことは不問とさせてもらう。それでどうだ?」


 たぶん、これはアラリエルの最大限の譲歩だ。恐らく一ノ瀬さんがここで嘘をついたら、本当に牢獄に閉じ込めるつもりなのだろう。

 なにせ、今は嘘を簡単に見破る手段であるイクシアさんの薬があるのだから。


「……発覚した段階で、私はこちら側に戻るつもりではいた。約束する、全部話すと。イクシアさんが提供した自白剤を持ってきてくれても良い」

「潔いのはお前の性根の真っすぐさの証拠だな。しっかり飲んで話してもらうぜ」

「アラリエル、お前が持ってきてくれ。俺は引き続き一ノ瀬さんの監視をしておくから」


 まぁ俺は今回ばかりは油断しませんがね。もう、俺はリオちゃんの話の中で『原理回帰教が俺に接触をしようとしていた』可能性を考えてしまった。

 だから油断はしない。今この瞬間だって、陰謀がうごめいていてもおかしくないんだ。

 アラリエルが部屋を出る。俺は一ノ瀬さんに刀を突き付けたまま、油断なく彼女の一挙一動を観察する。


「……本当に敵わないな、君には」

「俺をここまで成長させたのは、学園にいたみんなだよ。もちろん一ノ瀬さんも」

「そうか。……今、私が逃げようとしたら君はどうする?」

「ごめん、たぶん手加減出来ないから殺す事になる」

「……それが君には出来てしまうんだろうな……そこが君と私の決定的な違い、か」

「状況が違えば一ノ瀬さんに協力していたかもしれない。でも、セイメイさんはもしかしたら……今回の事件の黒幕うんぬん抜きに、俺にとって最も警戒すべき敵かもしれないんだ」

「私の兄が……?」

「ねぇ、一ノ瀬さんのお兄さんってさ、昔からずっと変わらずに剣の修行をしていた天才剣士とか、そういう感じだったの?」


 もしかしたら。

 もかしたら俺と同じだったのかもしれない。

 だから聞く。セイメイさんが『ある日突然常軌を逸した強さを身に着けたのではないか』と。


「……真面目に剣に打ち込んでいたよ。来る日も来る日も、ひたすらに竹刀を振っていた。私の記憶の中で一番古いのは……そうだな、私がまだ小学一年生だった頃だろうか。兄が初めて小学校の剣道の大会に出た時だったか」

「……その頃から強かった?」


 すると、一ノ瀬さんはどこか懐かしそうに、けれども少しだけ悔しそうに続きを語った。


「負けていたよ。お世辞にも兄は強くはなかった。中学では団体戦に選ばれなかった事もザラにあったそうだ。その頃には私の方が強かったのではないかな。小学生の部で全国大会に出場した経験もあった」

「へぇ、凄いね。でも確か一ノ瀬さんって途中からコウネさんの家のお世話になっていなかったっけ?」

「ああ、確かその頃だったか。私の剣の才能が向こうの家に伝わり、あちらの国で剣術を学ばないかと誘われたのは。小学を卒業すると同時に、私はコウネの家に厄介になる事になった」


 ……ここまでの話を聞く限り、セイメイさんはそこまで強い人間ではないようだった。

 なら……いつから?


「それで、私がガルデウスに引っ越した後、兄が高校に入ってすぐの頃だった。これまでの努力が実を結んだのか、当時最強と謳われていた高校生を、兄は初出場のインターハイで打ち破ったと聞いたんだ。そのまま剣道を卒業し、一ノ瀬流の剣術を学び始め、デバイスを用いたバトラーの大会にも呼ばれるようになり、そこでも結果を残し一躍最強の剣士として名を広め、ついには兄もガルデウスに呼ばれたんだ」

「なるほど……そこでディースさんとも模擬戦をしたんだ?」

「知っていたのか。ああ、公国最強の剣士であるディースさんと兄が、非公式ではあるが模擬戦をした。そこで、なんとディースさんと引き分けたんだ。いや、内容的には兄の勝利という声が多かった」


 誇らしげに語る彼女。


「それまでは離れて暮らしていたんだよね。お兄さんが強くなり始めた時は、一緒じゃなかったんだ?」

「ああ、兄はずっと日本にいたからな、その頃の事はよく知らないんだ」


 もし、その時も一緒にいたのなら、俺みたいに突然この世界に来た時特有の不自然な動きを察知出来ていたかもしれないが……これでは確認のしようがないな。

 けど、少なくともセイメイさんは『ある時突然強くなった』というのは確定か。

 俺も、ディースさんと戦ったから分かる。あの人に突然勝てるようになるなんてありえない。

 剣道に打ち込んでいた程度で、実家が剣術道場だった程度で、凡才の人間が突然勝てるようになる相手ではない。

『なんらかの力が作用しないとありえない成長ぶり』だ。


「……聞きたいことはこれで全部かな。確信は持てないけど……セイメイさんは黒だ」

「な……! それはどういう意味だ、ササハラ君」

「今は言えない。でも……たぶんお兄さんは原理回帰教のメンバーだと思う」

「兄が……そんな……だが兄は国連の異界調査団だ、隊長も務めている!」

「だから危険なんだよ。今回の調査団が行方不明になっている事件も、ゲートの位置が変わってしまった件も、それが突然この城の砦内部に発生したのも……原理回帰教、セイメイさんが関わっている可能性があるんだ。これはあくまで俺の現時点での推察だけどさ」

「なら……その推察は間違いだ……! 兄が……そんな……」

「……でも、俺の推察はこれまで大きく外れた事はない」


 確定ではない。でも、可能性は極めて高い。

 一ノ瀬さんが黙り込んでしまったタイミングで、アラリエルが薬を持って戻ってきた。


「なんだ、なんかあったのか?」

「ちょっといろいろ話をしていたんだ」

「……ああ。アラリエル、薬をくれ。もう……話して楽になりたい」


 俺との会話で精神的に参ってしまったのだろう。弱弱しく薬を受け取った一ノ瀬さんは、一息にそれを飲み込む。

 ……ごめん。今こんな話をしたのも、精神を弱らせて薬に抵抗出来なくする為なんだ。

 強い精神力の持ち主なら、薬にある程度抵抗する事が出来てしまうから。


「……じゃあ、異界へのゲートをくぐった先での出来事を全部話してくれるな?」

「ああ、すべて話そう」








 その日、ノースレシア王城に届けられた地方貴族からの救援物資の中に、一ノ瀬流道場で使われている我が家の家紋が彫られた桐箱が紛れ込んでいるのに気が付いたんだ。

 恐らく、私の目に留まるように直前で紛れ込ませた人間がいたのかもしれない。

 私はそれが気になり、皆に報告をする前に自分で回収、一人で中を確認してしまったんだ。


「これは……手紙……この時代にこんな古風な事を……」


 今でもあの時、独断で勝手に開いてしまった事は悔やんでいる。だが、兄の情報が少しでも欲しかった私は、誰よりも早く中身を確認したかったんだ。

 我が家の家紋……兄からではないにしても、関係者による何かだろうと確信した私はその手紙に目を通した。




『ミコトへ

 現在自分は自由に動くことが出来ない状態に陥っている

 俺が誰なのかは手紙では名乗れないが、分かってくれているだろう

 俺達は今異界で孤立無援の状態で救助を待っている

 だが、ゲートの出口は謎の軍人に占拠され、こちらの疲弊した調査隊では太刀打ち出来ない状態だ。既に大勢の部下が犠牲になってしまった


 少し前に、この場所にシュヴァインリッターの生徒が訪れていたという話を相手の軍人から得ることが出来た。詳しい状況は分からないが、この手紙がお前の目に届く事を祈り、こちらの工作員に運ばせている


 今回のゲートの異常は何かがおかしい。恐らくこの軍人を動かしている人間が黒幕だ。お前がもしもそちらの陣営にいるのなら気を付けてくれ。可能なら、どうにか一度ゲートをくぐりこちらに来てほしい。これからについて相談したい


 だが、クラスメイトには内密にしてほしい。言いたくはないが、そちらの陣営についている人間を信用出来ない状態だ。どうか分かって欲しい。

 これから数日間、こちらはゲートの出口付近を哨戒するつもりだ。

 どうにか数日中にこちらに来られないか、試してみてほしい』




 この手紙の内容をすぐにアラリエルやクラスの人間に相談するべきだと思った。

 一度、兄がノースレシアの軍人を殺害した疑いをかけられていた以上、報告するべきだったのは分かっていた。

 だがそれでも……兄の言葉を信じてしまったんだ。

 私は、カノプス陣営ではなく、このノースレシアという国そのものに疑念の種を植え付けられたのだと思う。


 そして私は、手紙を受け取った後、深夜にゲートに忍び込む事が出来ないか探りを入れ、カイが砦の警備をしていたのを良い事に、警備の動きを聞き出し、そして侵入した。








 一ノ瀬さんが手紙を受け取って時の事を語り終える。

 ……なるほど、家族の情を突いて自分を信じさせるって手法か。

 一ノ瀬さんなら『もしかしたらこの国の方が何か隠し事をしているのではないか』と疑念を持ったとしてもおかしくはない、か。

 なにせ、直接カノプスと対峙したのも、カノプスの話を聞いたのも、アラリエルと俺、イクシアさんとアラリエルのお母さんだけだ。

 カノプスの後ろに何者かがいたと確信を持っていた人間は限られている。

 俺達の言葉だけでは完全に信じられないのかもしれないな。


「……で、異界でセイメイさんと会ってどんな事を話したの?」

「……ノースレシア王家は異界を独占しようとしていると。このクーデターを解決したのも、アラリエルの陣営がゲートを手に入れる為だったと言われた」

「なるほどな。まぁそれを否定しきるだけの材料は俺達にもねぇわな」

「それに……異界は元々ノースレシアの一部……エンドレシアとノースレシアの一部だったという事は、私も実際にあの地を彷徨ったからこそ分かっていた。なんらかの手段で異界にアクセスする手段をノースレシアが持っていても不思議じゃないと、兄の言葉を受け入れた」


 一ノ瀬さんはどこか心ここにあらずといった様子で、アラリエルと俺の質問に答えていく。


「確かにユウキ達の話を聞く限り、異界がかつてノースレシアのどこかだったのは間違いねぇだろうな。おめぇの兄貴の語りを信じさせる材料にはなるな」

「ああ。そして……兄はこのノースレシアこそが異界を使った災害を起こしている元凶の可能性があると言っていた。私は、兄達がここに乗り込むのを手伝うため、砦を占拠する手伝いを頼まれていた」

「ここに乗り込むだって!?」


 もうあっちは動き出しているのか!?


「だが……私はそこまで早急な兄の話に違和感を覚え、協力を保留、もう少しこちらの様子を探りたいと言い訳をして戻って来た。いつ、話すべきか迷い、今日まで黙っていたことを謝罪する……私には家族を信じるべきか、クラスメイトを信じるべきか、決められなかったんだ。弱い私を責めてくれ……」


 ……俺と同じだ。

 家族の為だと偽られ、利用されてきたかつての俺と同じではないか。

 しかも、今回は利用しようとしているのがその家族だ。


「いや、責めないよ。一ノ瀬さんは最後の最後で踏みとどまったじゃないか。その最後の選択がこっちにチャンスをくれた。そっか……セイメイさんはこっちに攻めて来るつもりなんだ。それが知れただけで十分すぎる成果だよ」

「だな。これなら逆に……ミコト、おめぇを罠として送り込むことも出来る。お前は、家族相手に戦う覚悟はあるか?」

「……完全に兄が悪であるという確証が持てたのなら、戦える。だが今はまだ……兄が完全な悪だと信じることは出来ない」


 薬の力で、嘘偽りなく今の自分の気持ちを語る一ノ瀬さん。

 まぁ確かに、現段階で俺がセイメイさんを原理回帰教だと断定している理由を知らない一ノ瀬さんからしたら、まだ覚悟なんて決められないだろう。

 ここは、リョウカさんが戻ったタイミングで……一ノ瀬さんを説得、作戦を煮詰める必要があるな。


「今日の事は近いうちにクラスのみんなも含めて、作戦会議をする必要があるね。一ノ瀬さん、それに同意出来る?」

「……正直、恥ずかしいと、情けないという思いがある。だが秘密にしてほしいと甘える事は許されないと理解している。正直……カイにだけは言ってほしくないが、そうはいかないんだろうな……」

「ごめん、一ノ瀬さん」


 あ、やばい。今薬が効いてるからあっさりとカイの名前出した……!

 アラリエル、お前絶対余計な事を言うなよ……?

 が、既にアラリエルは何か良からぬことを思いついたのか、ニヤリと笑みを浮かべて――


「そうだよな? 大好きなカイに自分の過ちを知られたくはないよな?」

「ああ……大好きなカイを失望させるのは凄く恐い。だが、それが私の責任のとりかた、なのだろうな……」

「ケケ……なんかワリィ事してる気分になるな?」

「悪い事してんだよボケ!」


 ペチーン! アラリエルはもう何も言うな!


「分かった、一ノ瀬さんはとりあえず……この部屋のソファで薬の効果が切れるまで休んでてよ。疲れてるでしょ、今お茶を入れるから」

「ああ……すまない。本当に君は優しいな……その姿でそうも優しく接してもらえると、少々こそばゆいな。自覚はないだろうが、今の君は凄く魅力的だ。少し、兄に似ているよ。本当にすまなかったな……ササハラ君」

「っ!」


 やばいぞ、素直な一ノ瀬さんの破壊力が結構えげつない……!


「んじゃま……尋問はこの辺で終わりにすっか。ユウキ、お前は協力者に事の顛末を伝えておいてくれ。俺は今後について考える。ミコトはまぁここで休ませておくわ」

「いや、お前も一緒に退室しような? こんな状態の一ノ瀬さんとお前を二人きりにしたら何があるかわからねぇだろうが」

「おいおい、流石にダチの女を寝取ったりはしねぇって」


 いやぁ……なんか『カイに黙っておいてほしかったら、分かるだろ?』みたいな展開が起きそうな気がしたので……アラリエルだし。


「わーったよ。んじゃアートルムのおっさんも交えて、会議を開く手はずを付けてくるわ。お前はとりあえず協力者の二人にだけ伝言頼むわ」

「あいよ。じゃあ一ノ瀬さん、ここの部屋にある物は好きにして良いからね。ゆっくり休んでほしい」

「おいおい、俺の部屋だぞ?」

「了解した。では……このチョコレートを頂いても良いだろうか。本当は甘いものに目がないんだ。ノースレシアはチョコレートがおいしい事でも有名だからな、機会があれば食べてみたいと思っていたんだ」


 ……素直をに全部話してしまうのって、なんか凄く恐い事なんだなって思いました。

 これ、記憶って本人に残るんですよね……? 大丈夫かなぁ……。

(´・ω・`)次章で完結です

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