第二百六十三話
(´・ω・`)お待たせしました
投稿用のUIなんでこんなクソ仕様にしたんですかね?
アラリエルを含めた報告会、そしてその後の密談から三日。
今のところ一ノ瀬さんに怪しい動きはないし、もちろん外部から接触しようとする動きも見られなかった。
まぁあくまでアラリエルは可能性を潰す意味での提案をしただけだろうし、確信があったわけではないのだろう。もちろん、俺だって可能性があるって程度で、それが高確率だなんて思っちゃいない。
ともあれ、一ノ瀬さんだけじゃなく、クーデターが解決してから目立った事件はまだ起きていなく、順調に都市の復興が進んでいた。
敗残兵の処理も、深くかかわっていた実行犯、役職が上の人間の処刑に留まり、従わざるを得なかった兵士への処罰は極めて軽微なものとなった。
で、俺達SSクラスの現状の役割なのだが――
「ユウキ、報告を頼む」
「あいよ。商業区の路面電車の状況だけど、まだ一部の線路に歪みが出ている関係で電車が頻繁に遅れてトラブルも増えてきてるな。今日もちょっとした暴力沙汰も起きていたしかなりストレスが溜まって来てるっぽいわ。正直住人からしたら、クーデターなんてむしろ俺達が起こしたように映ってるからな。表面上はカノプスは良い統治者だったんだし」
「そう……だな。国民感情的には俺達はむしろ『平和を脅かし生活を不便にした悪人』なんだろうな」
「まぁな。ショウスケの方は何か変わったことはなかったか? 城で」
俺は今、城の中にある執務室の一つで、そこの仮の主として政務机で書類に囲まれているショウスケに、城下街で起きている問題について報告していた。
……そう、今俺達はこの国の運営に携わっているのだ。
城勤めの主要な幹部、大臣の大半がクーデターの実行犯と密接に関わっていた以上、処刑は免れなかった。そうなってくると、城が回らなくなる。
そして一時的にその役職に就けるような人材が、この国には残されていなかったのだ。
アラリエル曰く『恐らくカノプス作戦の一種だろう』とのこと。
自分が殺されるとは思っていなかったとしても『一時的に国を追われる展開は想定していたかもしれない』とのこと。
その際、国の運営が出来る自分に属さない人間を徹底的に排除する事により『自分が国を追われる=国が立ち行かなくなる』となるように準備をしていたのだろう、とのこと。
再び奪還しやすくする為の保険って訳だ。
つくづく厄介な敵だったよアイツは。
「こっちはかなり財政が苦しいって事が判明した。薄々分かってはいたが、強行的な異界遠征や物資のかき集め、表面上の経済活動に支障が出ていないように見せるためのばら撒きのような政策、それらの影響で王家の予算はかなり追い詰められていたよ。改めて予算の見直しと物資の計算をしていたが……後二年もしないうちに財政破綻だろうな」
「なんだそりゃ? カノプスって案外バカだったのか? 有能だと思ってたわ」
「恐らく、その負債すらも逆転出来るだけのナニかが手に入る算段だったのだろうな……異界というのは、それだけのナニかが眠っているのだろうか」
どうなんだろうな……だがアイツは原初の魔王、その遺した力に固執していた節があった。
もしかしたら、ヨシキさんは魔王として生きていた時代に、なにかとんでもない財産をどこかに隠していたのかもしれない。
「とまぁ、残された王家の財政の詳細が判明したって事で、こっちはてんてこまいだ。変わった事というより、全てが変わったと言った方が良いだろうな。今、アラリエルは地方貴族に片っ端から声をかけているようだ。それにこちらに向かっているセリュミエルアーチの使節団の出迎えの準備もあるし、ノースレシアの状況が各国に伝わったことによって、各大陸の代表者からの面会の要請も届き始めている。アラリエルはこれから大変だろうな」
「……アイツ過労死しないか?」
「俺からも適度に休むように言っている。今日だって少し前までこの部屋に避難してきたくらいだしな」
「はは、案外なかよくやってんだな」
「まぁお前で慣れているからな、俺は」
「あそこまでひどくねーぞ俺は」
失敬な。俺はショウスケに迷惑なんて……かけてないよな?
「他のみんなはどうしてる? 確か都市の見回りは俺とカナメだったよな? 巡回の兵士の護衛もかねての」
「カナメはまだ巡回中だ。あっちは生活区も含まれているから遅くなるだろうな。正直想像以上に国民感情が悪化している現状をどうにかしたいところだ。まさか兵士まで悪意を向けられるとは思ってもみなかった」
「だなぁ……国で起きた事件の詳細を発表しようにも、まだその段階じゃないからなんともなぁ……」
「まぁゲートの発生についての報告はセリュミエルアーチからの使者に伝えた後、そのままグランディア中に発表するんだ。その時に一緒にこの国で起きていた事も広まってくれるだろうさ。そうすれば少しはアラリエル達のやって来たことが知られていくんじゃないのか?」
「だといいな。カノプスは……たぶんあのままにしておいたら、平気である日突然全世界に宣戦布告して戦乱の時代に突入、なんて事をしてただろうし」
「ああ。ある意味では俺達はグランディア初となる世界大戦を未然に防いだとも言える」
「へー、グランディアって世界大戦とかなかったのか」
「お前……さすがに物を知らなさすぎるぞ」
いやすんません。そうか……そんな大きな戦争が無かったのか……。
「で……みんなの様子を聞いといてなんだけど、一ノ瀬さんの様子に変わったところはないのか?」
「ああ、今のところは。城の警備に組み込まれているが、目立った動きは特にないとカヅキさんに報告をされた。俺自身、彼女は勤勉に働いているようにしか見えなかった」
「そっか。まぁそうだと思っていたよ。カイも確か城の警備に回されてたよな? 確か砦の方だっけ?」
「ああ、そうらしいんだが、少し前にイクシアさんと一緒にここを訪れて『少しカイ君に稽古をつけたいので警備の仕事を中断させて欲しい』と言われたよ」
あ? なんだと? カイてめぇなに人の家族と二人っきりになってんだ。
「あ? なに人の家族でマンツーマンレッスンなんてしてんだアイツ殺すぞ」
「お前その姿で凄まれると迫力が半端じゃないから抑えてくれ。いや、どうやらカイの召喚したアーティファクトの剣、それに関する知識がイクシアさんにはあるそうだ」
「あー……」
そういえば前に聞いたような……確か生前のイクシアさんに縁のある剣だとかなんとか。
とりあえず放っておくことなんて出来ない案件なので、俺は大急ぎで城の修練所へと向かうのだった。
修練所は砦から少し離れた場所にある、広めの運動場のような場所だった。
よくある保護システムや術式による仕組みなどはなく、あくまでただの運動場のような場所に、的になる人形やら射撃訓練場のような物が設置されていた。
そんな中、カイとイクシアさんを修練所の隅の方で発見した。
「イクシアさーん、なにしてるんですかー?」
「おや、ユウキではないですか。街の見回りは終わったのですか?」
「はい、さっきショウスケに報告してきました」
「お疲れ様です、ユウキ。ご飯はもう食べましたか?」
「はい、巡回中に」
「そうですか。今、少々カイ君の扱う武器について講義をしていたんですよ」
はい、そうみたいですね。という訳で地面に寝そべってるカイに蹴りをお見舞いする。
「なに寝転がってんだオラ。イクシアさんの講義だぞ、正座しろ」
「ギャ! なに怒ってるんだよユウキ……今休憩中なんだよ……」
「今、カイ君に瞑想の仕方を教えていました。ただの瞑想ではなく、魔力を剣に浸透させ、魔力を伝い思考を同化させる、魔術的な瞑想を」
「なるほど……カイほら、とっとと起きろ」
「勘弁してくれ……俺、精神修行って苦手なんだよぉ……」
「もう一回蹴るぞ。イクシアさんの特訓なんて本来とんでもない価値があるんだからな」
おら! おら! ゲシゲシ!
「分かった、分かったから! なんでそんなに不機嫌なんだよ……」
「大好きな母親が取られて嫉妬しているんですよ。言わせんな」
「ユウキお前……よくそんなジョークを本人の前で言えるな」
ジョークじゃないんですけどね?
「まぁまぁ! ユウキったら嫉妬しているんですか? もう、大きくなってもまだまだ子供なんですから。はい、ギュってしてあげますからね」
「ぐぇ」
役得! そして恥ずかしいけど嬉しい! ……身長差の影響で胸に抱きつくイクシアさんが可愛いです。どうしよう。
「しかし、なんで急に稽古なんて?」
「ん-……なんとなく、ですかね。少々もったいないと感じたからでしょうか。どうやら、ミコトさんはアーティファクトの力を十全に引き出し始めている様子でしたが、カイ君はまだ三割も引き出せていないように見受けられまして」
「うう……実は今朝ミコトと軽く手合わせしていたんだよ。最近ミコトのヤツ、考え込む時間が増えていただろ? それで気分転換になるかもって。で、それを見ていたイクシアさんに捕まった」
「ふふ、捕まったとは心外ですね? さぁ、カイ君には今晩からしっかり寝る前に一時間、瞑想をしてから眠るようにしてもらいますからね? 瞑想の深度を見ればサボっていたかどうかなんて一目瞭然ですからね、しっかりやるんですよ」
「ひー!」
なんか、イクシアさんがスパルタなのって凄い新鮮だ……!
けど……たぶん何かちゃんとした理由があるんだろうな。
「あ、すみません俺この後崖下の見回りの時間なんでここまでって事でいいですか?」
「おや、もうそんな時間ですか。ええ、構いませんよ。カイ君、冗談ではなく、この瞑想はしっかり行ってください。その剣は本来ならばもっととてつもない力を秘めているのですから」
「……了解です。確かに今の俺は、もっと力を持った方が良い気がしますから」
「ええ。貴方が大切に思う人を守る為にも」
そうしてカイが足早に去っていったのは、果たして本当に次の仕事の為だったのか、それともイクシアさんの訓練から逃げたかったからなのか。
「で……本当の理由はなんなんですか?」
「分かりますか。まず、今話した理由も本当なのですが……少々、嫌な予感……私の場合、若干ですが予知のような物になりますが」
「よ、予知!?」
まさかそんな! それはもう魔法がどうのって話ではないような気がするのですが。
「いえ、そこまで大げさな物ではないんです。魔力の乱れや経験から来る予感……のような物です。ここで起きた事件や裏に存在する何か。関わっているかもしれない人間。それらの情報が結びついた結果、ですね」
「なるほど……でも、それは正しいと思います。前にも言いましたけど、俺この城で夜にジョーカーと一度会って話したんです。その時……ジョーカーは『何かが起こる』って言っていました。しかも確実に」
「なるほど。おそらく、彼もまた私のように何かを感じ取っていたのでしょうね。私は、来たる事件に備え、少しでも力を……こちらの戦力を増強しようと思った結果、カイ君の剣に目を付けたんです」
「確か、イクシアさんが生前持っていた剣、ですよね?」
「そうです。そして……あの剣は『歴代の所持者の力を記憶している魔剣』です。カイ君が雷属性の適正を得たのは、あの剣の一代前の所持者の力を引き継いだからなんです。つまり……私の力を」
「……そうだったんですか。イクシアさんの力を……羨ましいな」
「もう、可愛い拗ね方しないでください。もう一度ギュウ」
「ぐぇ」
く! カイが羨ましいけど俺も役得! 幸せ!
「……あの剣は、ただ所持しただけの人間の力すら記憶します。私はあの剣を使ったことなど一度もありません。それでもカイ君は雷の力を得た。ならば、私にあの剣を託した人物の力も引き継げるのではないか……そう、思ったのです」
「イクシアさんの前の所持者ですか? その人も剣を使わなかったんですか?」
「ええ。私の二代前の所持者から剣を奪っただけです。その後私に託すまで、その人は剣を一度も使っていません。ですがもし、その人の力の一部でも引き継げたのなら……カイ君は最強の戦士になるかもしれません」
マジか……そんな凄い人が所有していたのか……?
「……私に剣を授けたのは、原初の魔王です。つまり……今の魔剣の所持者であるカイ君は、もしかしたら原初の力の一部を引き継げるかもしれない。あのカノプスに匹敵する力を手に入れる可能性があるんです」
「な……!」
あの剣が……ヨシキさんの剣……だと……?
「イクシアさんが原初の魔王から剣を授かったって……」
「原初の魔王は、一時私が治めていた土地の領主を勤めていました。まだ魔王となる前に。私は領主を引き継ぐ際、その証として剣を賜ったのですよ」
「な、なるほど……」
ノースレシアではない大陸で領主をしていたって……ヨシキさんは一体どんな生活をしていたのだろうか。
「原初の魔王のさらに前の所持者もまた……力ある剣士、炎の術と極めた剣術を扱う魔剣士でした。なので、上手くいけばカイ君は雷だけでなく、炎や原初の力をも引き継ぐことになると考えたんです。そこまでの戦力、さすがに放っておくにはもったいないでしょう」
「……確かにそうですね。でもカイにそこまで力を引き出せるとは正直……」
「ええ、私もそう思います。ですが、ほんのわずかでも引き継げたら、それだけで十分な戦力アップになりますからね。今後、何か事件が起きるにせよ、必ず力が必要になりますから」
「そう……ですね」
いずれ起きるであろうナニか。
それに備えているのは俺だけじゃなかった。
イクシアさんもまた、既に動き始めているというのは、正直心強いという気持ち半分、心配半分だ。
だって……もう何かが起きるのは確定したような物なのだから。
「……でも、カイには強くなってもらわないとな。力だけじゃなくて……心も」
「ユウキ?」
「何かが起きるとしたら、たぶんそれは力だけじゃどうにも出来ないと思います。カイにとっては特に」
セイメイさんしかり、一ノ瀬さんしかり。
俺はいずれ来る事件に不安を抱きながら、イクシアさんと二人城に戻るのだった。
……ところで、どうしてさっきからずっと抱きついているんですか?
「イクシアさん?」
「ユウキがなんだか寂しそうなので。私はユウキだけのお母さんですからね、誰かに取られたりしませんからね? 安心してください」
役得だけど! だんだん羞恥心の方が勝ってきました!
(´・ω・`)何するにしても不便ですよこれ
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