第二百六十一話
(´・ω・`)ここからかなりの鈍足更新になります。
難産難産……。
「イクシアさん、どんな調子ですか?」
囲い小屋の大扉を開きゲートの調査をしていたイクシアさんに声をかける。
「ユウキ、戻ったのですね。今、これが空間に作用するなんらかの魔導だと仮定して調べてみてはいるのですが……驚いたことにこのゲートそのものからは魔力の反応はないのです。ですが、ゲートの直ぐ傍、数ミリ単位の場所からは魔力の異常、数値の乱れや揺らぎが観測されるのです。まるで『ゲートがあるから』この場所にある魔力が変動、あらぶっているかのような」
「う、うーん……ちょっとうまく意味がわからないです、ごめんなさい」
「いえ、言っている私もうまく理解出来ない、説明出来ないのです。……そう、ゲートそのものは魔法でもなんでもない、ただの現象なんです。それがどういう訳か周囲の魔力、魔素、根源的な物に影響を与えているんです」
なるほど、なんとなく分かった。つまり……魔法的なアプローチでは調べようがない、と。
「今、このゲートをどう封印するか考えています。正直私では解明する方法を想像する事も出来ませんからね、大人しく封印をする方向に梶切したところです」
「それほどまでに……いったいどういうことなんでしょうかね……」
「ユウキやカイ君、ミコトさんの調査結果はどうでしたか?」
「一応、進展はありましたよ。そうですね、とりあえず一度アラリエルに報告、みんなと情報を共有する席を設けた方が良いですね」
「そうですね。では連絡はお任せします。私はもう少しここで封印方法を模索していますから」
そう言って作業に戻るイクシアさんを残し、アラリエルを探す事にした。
……魔法じゃない? あんな現象、魔法以外の何者でもないと俺は感じるのに、そうではないって事なのか……。
アラリエルを捜し歩いていると、ようやくその所在を掴む事が出来た。
なんと、さっきまで俺がいた砦の地下、つまり牢にいるそうだ。
引き返してアラリエルの元を訪れると――
「ユウキ、来たのか。なんか分かったのか?」
「ああ、結構重要そうな情報がな。カイ達の報告もあるから、一度報告の席を用意してくれ。SSクラスの人間とアートルムさんを集めてさ」
「あいよ。こっちは今、投獄した兵士に薬を飲ませ終えたところだ。一応『カノプスに心酔している危険分子』を隔離し終えたところなんだが……これからどうすっかね」
「とりあえず都市復興に従事させたらいいんじゃないのか? 嫌々従っていた連中は」
「まぁそれが妥当な落としどころなんだがな。だがクーデターを起こした人間を許すってのはいろいろ問題があるんだよ。全員処刑せよ、なんて意見すら出てる」
「あー……マジか。でもそういうもんなのかね……?」
事が事だけにそうやすやすと許す事は出来ない、か。
けどなー……明らかに人手不足だし、嫌々従っていた連中にそこまでの大きな罪があるとは思えないんだよなー……。
そんな事言ったら、一時とはいえカノプスに協力していたイクシアさんだって罪にとわれかねないじゃないか。
その考えを伝える。
「そうなんだよな。こんな風に少しでも間接的に関わっていた人間を裁いていたらキリがねぇ。物資を何も知らずに提供していた商会も、飯を提供していた食堂も、どれもこれも罰を与えることになる。どこかで寛大な処置を示さねぇと歯止めが利かなくなるんだよ。めんどくせぇ、こんなことまで考えていかなきゃいけねぇんだよこれから」
「確かにな……なぁ、やっぱり今回は直接関わっていた人間、その中から事実を知っていた人間だけに罰はとどめておいた方がいいんじゃないか? 関係者を問答無用で処罰したら……国力が下がって、それこそ第二第三のクーデターの標的にされかねないだろ」
「かもな。参考にしとくわ。で、報告の席だったか? すぐに手配させとくから会議室に待機しといてくれや。途中で声かけれそうな連中いたらそいつにも伝えてくれ」
「あいよ。んじゃそっちもあんまり根を詰めないようにな」
そうアラリエルに言葉をかけ、地下牢を後にする。
多くの怨嗟の声、怒声が響く、今回の事件の負の一面を凝縮したこの空間から。
……こんな場所にいたら、正常な思考が出来なくなっちまうぞ、アラリエル。
けれどもその声を受け止めるのもまた、魔王を継ぐ人間の責務……なのかもしれないな。
俺は途中でカイと一ノ瀬さんに声を掛け、城の人間の案内で大会議室へと通されるのだった。
それから一時間ほどで、城の外で活動していたクラスメイト達も揃い、最後にイクシアさんとアラリエル、アートルムさんが入室してきた。
「みんな集まったな。んじゃあちっと砦に出現したゲートに纏わる報告を共有すんぞ。まずは俺からだ」
アラリエルは、本日早朝から行っていた、異界内部に展開中のカノプスの先遣隊に向けた降伏勧告、そしてその結果見つかった大量の死体について報告する。
「で、その死体の状況からして、どうやら相手は魔物じゃなくて人間みてぇなんだよ。容疑者のヒントが見つかるかもしれねぇってんで、カイとミコトに検分してもらってたんだ」
それに続き、カイと一ノ瀬さんが、俺にした報告と同じ内容を皆にも共有し始めた。
無論……現状尤も犯人の可能性が高いのが、自分の兄である事も。
「……なるほど、そういうことでしたのね。確か、今異界に持ち込まれている実刀のデバイスで、殺傷能力を持たせられている数は二ケタに上りますが、その中に刀タイプは少なかったと記憶していますわ。実刀タイプのデバイスは秋宮よりも我が社の製品の方がシェアは上ですから、異界調査用に調整を任せられるのは我が社でした。少なくとも昨年度の段階で、国内に存在する実刀デバイスの刀タイプ、その改修依頼は七件程でしたわね」
「と、いうことは今回の犯行が可能な武器は最低七本、異界の中に存在していたって事なんだ?」
「ええ、数字が正しければそのはずです」
なるほど、やっぱり一ノ瀬さんやカイが知らない刀使いが異界調査団の中には含まれていたのか。
まぁ……武器はそうでも、あの技の冴えを再現できる人間となると、一気にその人数は絞られてきそうだけど。
「あ、じゃあ次は俺の方の報告いいかな? 今回のカノプスのクーデター、及び砦に出現したゲートについて、黒幕と呼べる存在がいる可能性についての報告なんだけど」
俺は今回の一連のクーデター事件の発端、そそのかした相手、ゲートの提供をした人物の存在の可能性についてみんなにも報告する。
「じゃあ、カノプスはゲートが生まれる事を知っていたからこそクーデターを起こしたってのか?」
「たぶんそうだと思う。少なくとも彼女に接触した人間がいたはずだ。城に残っているメイドさんとか兵士から、それらしい人物を目撃しなかったか調査した方がいいと思う」
「また仕事が増えるな、仕方ねぇ。分かった、そっちは俺の方で進めておく」
さて、これで一先ず報告は終わったのだが――
「すみません、私からも報告があります」
そこに更にイクシアさんが手を上げる。
ゲートの調査で何か分かったのだろうか?
「現在、ゲートの封印処理について模索中なのですが、その際に少しだけ分かった事があります。どうやら、あのゲートは『この砦には存在していない』ようです。別などこかで発生した物を、なんらかの方法で砦の中に出現しているように見せかけているだけ、という事が分かりました」
「……は? すみません、それってどういう意味なのでしょうか」
イクシアさんの言葉が理解できず、思わず聞き返してしまった。
だがどうやら、俺だけでなく魔術に精通しているセリアさんまでもが同じような表情をしていた。
「どのような術式なのかは分かりません。ですが、ゲートの実像ともたらす現象を砦に再現しているだけ……という事が分かりました。たとえるなら……テレビに映っている扉から、実際に人が出てきているような……そんな法則を捻じ曲げた現象が起きているんです。なので……封印のしようがありません。なにせ見えているだけで、ゲートの機能そのものはどこか別な場所で起きているのをあの場に再現しているだけのようです。ゲートを封印しても、ゲートとしての機能はあの場所に存在し続ける事になるかと」
「な……なんすかそれ? ちょっと俺には理解出来ないんすけど」
「私も分からない……イクシアさんの言っている言葉の意味は分かったんですけど……」
……結果だけが存在する現象……? 見えているのは虚像……?
ダメだ、概念すら上手く理解出来ないぞ……それ。
「申し訳ありません、混乱させるような事を言ってしまいました。ただ、現状ではあのゲートを封印するのは不可能です。あの中庭を立ち入り禁止にし、常に誰かが見張るという対処しか取れません。それだけはお伝えしておこうかと」
「そりゃあ……確かに今聞いておかないといけない話っすね。アートルムのおっさん、人員の手配を頼む。こりゃちょっと油断出来ねぇわ」
「そう、ですね。イクシア殿、よくぞ調査をしてくださいました。砦は全面封鎖する事にしましょう」
なんだろう……人知を超えた術、現象を操る存在が黒幕側にいる、という事なのだろうか?
虚像を自由に操る力……? それとも……もっとほかの何かなのか?
……これは考えておいた方が良いかもしれない。もしも仮に……人知を超えた力があるとしたら、その力は『どこから来たのか』。
良く分からないが、俺のような境遇、別な世界から迷い込んだ人間には特殊な力が備わっているという。
俺の場合はこの『異常なまでの身体能力強化』だと思うけれど、他の人間はもっとおかしな力かもしれない。
いつのまにか学園を去ったディオス君は『マジックイレイサー』と自分で名付けていた、魔法や魔力による現象を完全に打ち消す力を持っていた。
今思えば、効果だけ見たら破格の力ではないか。どんな魔導も通じない、恐らくカノプスの使っていた魔装術すら無視して攻撃出来るであろうぶっ壊れ性能ではないか。
なら……イクシアさんが言うような不可思議な現象を可能にする力だってあるかもしれない。
「……警戒すべきは原理回帰教、か」
不可思議な力を操る集団は、現状原理回帰教シャンディくらいしか俺は知らない。
暗躍している謎の組織らしいけれど、今はこれくらいしか予測出来ない。
「報告は以上になります」
「了解しました。んじゃ他に何か言う事はないか?」
「あ、リョウカさんからの指示というか、向こうの状況の報告だけさせてくれ」
俺は最後に、リョウカさんとの通信した内容をかいつまんで報告する。
エンドレシア側のクーデターも、既に最終段階に移っているという事、こちらへの助力要請はとくにないという事、まぁこれくらいだ。
「なるほど、じゃあ今はこっちが急いでやるべきことはない、と。なら遠慮なくこっちは国の安定化に集中するわ。おいユウキ、とりあえず今後のSSクラスへの仕事の割り振りとか考えたいから、後でツラ貸してくれ」
「あいよ。俺だけでいいのか?」
「ん-……コトウ、お前頭の出来が良いんだろ? キョウコと一緒に付き合ってくれや」
「む、俺もか。了解した」
「何気に私も頭数に入れられましたわね? 分かりました」
「つーわけだ。他の連中はこの三人の指示に従ってくれ。まぁあんまり小難しい仕事は回さねぇから、なんとか頼むわ」
アラリエルの方針に従う一同。
クラスメイト全員ではなく、あえて俺とショウスケ、キョウコさんだけを会議に出席させるあたり、だんだんと人を動かすこと、指示を出すことに慣れつつあるんだな、なんて思った。
そうして、今回の会議は一度お開きとなり、後ほど俺を含む三人は再び別室で会議を行う、という事で話がまとまったのだった。
だが、それがアラリエルの残酷で、合理的な判断から来る提案だと知ったのは、この会議が終わってすぐ後の事だった――
「キョウコ。お前の召喚獣の力でミコトを二十四時間監視しろ。コトウはそれとなくミコトの言動を観察。ユウキはもしもに備えて常にデバイスを携帯してくれ」
俺達三人は、別室に移動すると同時にアラリエルにそう指示された――