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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
二十章

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第二百五十九話

(´・ω・`)いよいよ物語の終わりに向けて動き出しました。

『なるほど、では引き続きアラリエル君に協力して平定に尽力して下さい。こちらは少々長引きそうですが、これは相手方が総力戦を視野に入れて籠城を決め込んでいる影響です。これ以上こちらも、そちらの大陸にも被害が広がる事はないでしょう』

「了解しました。誰も……大きな怪我はしていないんですよね?」

『ええ、今のところは。ただ、六光はエンドレシア王家側にスパイとして入り込んでいるので、現在の状況は不明です。まぁあの男が怪我を負うような事はないと思いますが』


 一夜明け、俺はシュヴァインリッター支部の備え付けられている通信機で、エンドレシアにいるリョウカさんと連絡を取っていた。

 こちらの状況、作戦の顛末、そして……昨夜邂逅した原初の魔王との会話を報告する為に。


『……彼が見ている景色は、私にも分かりません。ですが、大きな脅威、事件が迫りつつあると見て間違いないでしょうね……ユウキ君、警戒はしておいてくださいね』

「はい、それはもちろん。あの、俺とかSSクラスの人間は本当にそっちに向かわなくて良いんですか? アラリエルの協力はもちろんしますけど」

『問題ありません。戦力はもうこちらが上回っていますから』


 ならばこれ以上は言う事がない、な。


『ユウキ君。実際に魔王カイヴォンと対面してどう感じましたか?』


 するとその時、リョウカさんがそんな質問をしてきた。

 どう感じたかって……。


「恐怖、ですかね。畏怖よりも純粋な恐怖でした」

『そう、ですか。きっとそれが正常な反応なのでしょうね、この時代に生きる人間の』

「……俺は、力の象徴であるあの姿にそれ以上の感情は持てませんでした。ヨシキさんとは……別な存在だって思ってます」

『ええ、その方が良いと思います。最後にもう一度……警戒は緩めないでくださいね、絶対に』

「はい、了解しました。そちらもどうかご武運を。リオちゃんにもそう伝えておいてください」


 通信を終え、シュヴァインリッター支部内部の様子を改めて見渡す。

 職員が皆、外部から寄せられる通信の対応に終われ、また市内で起きた事件の対応を求められるという、まさに激戦区と呼べるあわただしさだった。

 これ以上ここにいて仕事を増やすわけにもいかないからと、俺は大人しくアラリエル達のアジトへと向かうのだった。




「あれ? アラリエルは?」


 アジトに戻ると、そこにアラリエルの姿がなかった。

 どうやらアートルムさんも不在のようだし、何かあったのだろうか?

 アジトに詰めていたカナメに訊ねてみると――


「お城に行ったよ、修復工事の下見とか、正式に魔王を次ぐ為の式典の打合せとかあるんだってさ」

「おお……昨日の今日でもうそこまで動いてるのかよ」

「アートルムさんなんかが魔王就任の事をすっと考えていたんじゃないかな? なんだか悲願だったみたいだし」


 まぁ、元々仕えていた家って話だしな。聞けば、カノプスの父親もまた、アラリエルの父親である先々代の魔王を暗殺したなんて疑惑も掛けられていたみたいだし、元々カノプスの父親は政敵……みたいな存在だったのだろう。つまり長年の願いが成就したって訳だ。


「他のみんなは?」

「みんなシュヴァインリッターの任務に就いてるね、まぁ主に都市復興の手伝いだけど」

「で、カナメはなにを?」


 みんなが働いている中、一人アジトに残ったのには何か理由があるはずだ。


「アジトの留守番、というか戦力として控えてるんだよ。残党による報復も考えられるからね。ユウキ君もこっちに回される予定だったんだけど、理事長に報告してきたんだろ?」

「正解。みんなが揃ったら報告するつもりだけど、これはもしかしたら揃うのは夜になるかもなぁ」

「だねぇ。どうする? 一緒に残る? それとも何か調べものかな?」

「なんで調べものって思ったんだ?」

「だって昨日の夜、一人でアジトを抜け出していたじゃないか。察するに城の方向に向かっていったようだけど」


 ……マジか。油断ならないなカナメ。


「見られてたか。ん-……確かにもう少し都市部を見て回るのもありかもしれないな」

「何か見つけたらキチンと報告しておくれよ。戦いは終わったけど、まだ予断は許さない状況みたいだからね」

「だな。じゃあ留守は任せた、カナメ」


 カナメに釘を刺され、少し気を引き締めて外へと向かう。

 確かにまだまだ戦いの爪痕は残ってるんだもんな。一般人の被害はなかったとはいえ……建物や商売道具、商品をダメにされた人も多いし、犠牲者の家族だって残されている。

 小さなくすぶりが大きな炎になる事だって十分に考えられるのだから。


「おや? ユウキ、戻っていたのですか?」


 外に出ると、どうやら同じく外に出ていたイクシアさんが、何やら大きな籠を持ってアジトに戻ってくるところだった。


「あ、どうしたんですイクシアさん、そんな荷物抱えて」

「実は私もシュヴァインリッターの支部に顔を出していたんです。そこで私が正式な構成員じゃない、今回の作戦の為に潜入していたという旨を伝え、宿に残していた荷物も回収して戻ってきたところなんです」

「なるほど……支部の人、結構残念がっていませんでした?」

「凄いですね、その通りです。薬のレシピを伝えても再現は難しいですが、同じ効能の物がいずれ地球から輸入出来るようになるから、と伝えたのですが、それでも残ってほしいと言われまして」


 たぶん薬抜きにイクシアさんには残ってもらいたいんだと思います。

 薬売りをしていた時ですら、仕事の合間に他のお手伝いの依頼をこなしたり、仕事にありつけないシュヴァインリッターの人に売り子の仕事紹介したり面倒見ていたらしいから。


「ユウキはまた出かけるのですか? リョウカさんへの報告はもう済んだと思ったのですが」

「市中の見回りですよ。ついでに城の様子、アラリエルの様子も確認してこようかと」

「それでしたら私も一緒に行きますよ。荷物を置いてきます、少し待っていてください」


 なんと! イクシアさんと一緒に見て回るなんて……これはもはやデートなのでは?

 いや、浮かれていい時じゃないのは分かっているのですが。でもうれしいものはうれしい。




「では行きましょうか。市内を見て回りながらお城を目指しましょう」

「ですね。じゃあ裏通り、出店が多く出ていた辺りを通りましょう」


 イクシアさんと市内を見て歩く。

 裏通りではやはり商品や屋台の破壊、店先がダメになっている場所も多く、一番目立った被害が出ていた。

 無論、それ故に多くの助っ人が駆けつけ、順調に撤去作業や復興が進みつつあるのだが。


「おや! イクスさんじゃないか! あんた無事だったのか!」

「これはこれは、お久しぶりです」


 すると、俺も立ち寄ったことのあるドラッグストアのおじさんがイクシアさんに話しかけてきた。

 イクシアさん、この市中にいる間は髪の色を茶色のままにして過ごすそうだ。

 サーディスの王族と間違えられる特徴を持っている彼女が、この内乱に関わっているとなると、不都合が多いそうだ。

 まぁよその国の王家が内乱に関わるとか、越権行為どころか侵略行為になりかねないからな。

 疑われるリスクは下げたいのだろう。


「アンタが王城に召し抱えられたって聞いてたんだが……その後すぐに今回の事があったろう……巻き込まれたんじゃないかってみんな心配してたんだ」

「まぁ……ご心配をおかけしました」

「無事ならそれでいいんだ、売れ残っていた薬もアンタが毎日買いに来てくれたおかげで、この通りにいた人間はみんな助かってたんだ。だがぁ……見ての通りの有様だ。しばらくは提供出来そうにないんだ」


 なるほど、イクシアさんは薬の材料をここで毎日買い足していたのだろう。そりゃ顔見知りになる訳だ。

 俺はユウとして一度潜入任務でお世話になっただけだから、今の姿では絶対に気が付かれないだろうけれど。


「いえ、今日は市中の様子を見て回っているだけです。都市が落ち着きを取り戻したら、私は故郷に……息子の元に変える予定なんです」

「なんと! こりゃ驚いた、アンタ子持ちだったのか! こりゃあ残念がる連中も多いだろうなぁ。薬の方はこれからもシュヴァインの支部て売り続けるのかい?」

「どうでしょう、出来れば世間に出回るように働きかけたいとは思うのですが」


 俺はてっきり、薬の供給が戻っても、ずっとイクシアさんの薬ばかり売れそうだから、むしろ同業者に嫌われかねないと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 所謂抱き合わせ商法やら、副作用を抑える薬だとか、効果を引き上げる薬も存在し、うまい具合に互いに利益が出るような薬だったのだとか。


 惜しまれつつも通りを後にし、引き続き都市内を見て回る。


「あ、あの通りに大きな大衆食堂があるんですけど、俺あそこに通っていたんですよ。料理の種類も味も凄いんですよ」


 市内を見て回りながら、王城付近の区画まで辿り着くと、俺が度々お世話になっていた、そしてカノプスと邂逅した食堂が見えてきた。


「これは……驚きました。関係のあるお店かは分かりませんが……この場所には私の生きていた時代にも食堂があったんです。当時の魔王……原初の魔王が建設したそうです」

「へぇ……時間も時間ですし、昼食はここで摂りましょうか」

「そうしましょうか。ふふ、一緒に外食するのは久しぶりですね」


 た、確かに……じゃあ俺は今日も三色親子丼を頼みますね?




「む……美味しいですね……ユウキ、一口食べてみてください」

「は、はい」


 イクシアさんが頼んだ物は、どうやらミートボールの入った煮込み料理のようだった。

 トマトの香りもするし、イタリアンな感じだろうか?

 ちょっと気恥ずかしいが、差し出されたスプーンに乗ったミートボールを頂く。

 その瞬間、周囲のテーブルから舌打ちが聞こえてきたのは気のせい……ではないですね。


「ん! 確かにこれは美味しい……すごい手の込んだ料理ですね」

「びっくりしました……中にチーズとバジルのペーストが閉じ込められているなんて……トマトソースとの相性も抜群です。今度真似してみましょう」

「楽しみです、イクシアさん」


 昨日、あれだけの死闘を繰り広げたとは思えない程の、幸せな時間が過ぎていった。




「お疲れ様です! ササハラユウキ殿!」


 昼食を終え城に向かうと、門番をしていた人間に挨拶をされる。

 昨夜会った門番さんだ。


「昨夜の調査の結果はどうでしたか? 少々崩落が起きたという報告もありましたが」

「あ」


 ……そっとイクシアさんの方を振り返る。


「昨夜、とは?」

「はい! ササハラユウキ殿は、昨夜、偽王カノプスとの戦闘で気になることがあると、深夜にも関わらず自ら調査を行っていたのです! 英雄殿は勤勉でもあり、そして地道な作業も自らの手で行う、まさに我々が目標にすべき人間であります」

「そこまで持ち上げられると逆に恐い!」


 いや、でもこれ完全に深夜に抜け出したのバレちゃったな……。


「ユウキ、本当ですか?」

「ええと……本当です。ちょっとどうしてもここで調べものが……」


 とりあえず嘘の言い訳でも、他人には聞かれるとまずいのでこの場ではごまかそう。

 一先ず敷地内に入り、人目に付かない場所で言い訳スタート。


「実は、ここにジョーカーが来てる、というカノプスの発言が気になって、ここに探しに来たんです」


 俺は正直に話した。もう、イクシアさんはBB……ジョーカーの存在を知ったのだから。


「カノプスの言葉は真実……だったんですね?」

「はい。結果的に、ジョーカーは俺達がカノプスを討つのを信じて託してくれた……って感じでした」

「ジョーカー……あのBBがまさか……ここに、いたのですね」

「はい。たぶん、もう移動してしまったんだと思います。事の推移を見守るために残っていたみたいですし、今はもしかしたらリョウカさんのところに行ったのかもしれません」

「そう……ですか。ユウキ、BB……ジョーカーと対面した印象はどうでしたか? 本当に信用出来る相手なのでしょうか……? 私個人としては、敬愛するBBは信用したいですし、ユウキ達を過去に救ったという話もありますし、敵ではないと考えていますが」


 イクシアさん目線だと完全に善人にしか感じられないだろうし、それは俺達SSクラスの人間だってそうだ。

 だけど俺は……少しだけ、あの人が見ている世界、目指す未来が想像出来なくて、全幅の信頼を置く事が出来ないのだ。

 大を生かすために小を切り捨てる事を是とする……とまでは言わない。

 けれども正しさの為ならば、多少の犠牲は許容するように思えてならない。


「……敵ではないと思います。もし仮に敵対するとしたら、その時はきっと、こっちが悪、正しくない事をした時だと思います」

「なるほど……ユウキはジョーカーを多少なりとも恐れている、という事ですね?」

「分かりますか、さすがに」

「ええ、私はユウキのお母さんですから。ただ……ユウキは間違いませんよ、私が間違いさせません。親は子が道を間違うのを全力で止め、正すものだと私は考えていますから。だから、選択する事を恐れないでください。選択が間違っていれば正しましょう。選択が正しければ、全力でその助けになりましょう。分かりましたね?」


 それは優しさというよりは、イクシアさんの信念から来る言葉のように思えた。

 俺はそんな彼女の言葉を信用、信頼する。

 そうだな、この先何が起きても、俺は必ず選んで行動しよう。

 立ち止まらずに、自分にできることを考えて動き続けよう。

 ヨシキさん……ジョーカーの言う『なにか』が起きたとしても――

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