表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
278/315

第二百五十八話

(´・ω・`)いよいよ明日、書籍版のパラダイスシフトが発売されます。

 深夜でも、あの戦いの後処理の為に多くの人間が街中を行きかっていた。

 その大半はシュヴァインリッターの人間であるが、中には善意で参加……いや、たぶん何かしらの打算があるであろう商会の人間も含まれていた。

 カノプスのクーデターは、城の人間全員ではなく、役職についているような上の立場の人間にしかそもそも知られていなかったという。

 だから、明日以降大陸の外や他の都市から情報が入れば、投獄されている兵士達の中から、本当に何も知らない、もしくは従わざるを得なかった人間は解放される事になるのだそうだ。

 嘘の証言をした場合……等も考えたが、この世界には魔法があるんだもんな。

 きっと、言い逃れるための嘘なんて簡単にバレてしまうのだろう。

 ましてや、今は薬や心を司る魔法のプロであるイクシアさんまでいるのだから。


「やっぱ簡単には入れそうにないな」


 そんなこれからの展開を考えながらも、俺は城に向かっていた。

 戦いの舞台であったこの場所は、当然今も厳戒態勢であり、中には簡単に入れないだろう。

 門番をしているのは、恐らくアラリエルの派閥の人間だろう。ダメ元で中に入れないか聞いてみる。


「すみません。カノプスとの戦いで、どうしても気になる事があるんです。城の内部、戦場跡を見せていただく事は出来ませんか?」

「な……ササハラユウキ殿! この度のご活躍、感服致しました。もちろん、ユウキ殿でしたらどうぞ中へ!」

「あ、ありがとうございます」


 拍子抜けしてしまうくらい、あっさりと通してもらった。

 そうして城の中を進み……崩落したカノプスとの戦闘跡を無視し、さらに奥、別な目的地へ向かう。


「……カノプスが本当の事を言っていたなら……まだ近くにいるはずだ」


 俺は、イクシアさんとアラリエルのお母さんを迎えに行くときに通りかかった、大きな扉の前にやって来た。

 玉座の間、だ。

 たぶん、いるとしたらここしかないような気がしたから。

 俺はゆっくりと、その扉を押し開く。


 絵にかいたような玉座の間。

 深紅のカーペットの向かう先に鎮座する、カノプスが新たにしつらえたであろう、周りから少しだけ浮いている真新しい玉座。

 荘厳な雰囲気が満ちた、豪華でありながらどこか畏怖を感じさせる空間。

 明かりはついていない。ただ大きな天窓から差し込む月光だけが、玉座を――そこに座る人物を照らし出していた。


「……ここに来たら、もしかしたら会えるかもって思っていました」


 俺は、ドバイで最後に見た人物……俺達を救う為に剣をふるった人間、BBの仮面の下に隠されていた人物……ヨシキさんのグランディアでの姿であろう魔族の男性に話しかける。


「勘が鋭いな。ああ、ここに来た以上、この場所以外に私が座るべき場所などないのでな」


 銀色の長髪。山羊のような立派な黄金の角。蝙蝠、いや悪魔を思わせる大きな二対の羽。

 どこまでも冷たく、冷酷な印象を抱かせる顔立ち。

 顔の右半分は仮面で隠れているが、それでも輝く赤い光。

 両目が、漆黒に赤が浮かぶ魔眼となっていた。

 まさしく、魔王と呼ぶにふさわしい、そんな姿をしている。


「……なんと、お呼びしたら?」

「『カイヴォン』だ」


 いつもとまったく違う雰囲気、声、口調。

 存在がまるで別物だ。

 俺は、あまりの威圧感に、いつもの口調で話すことが出来なくなっていた。


「……魔王カイヴォン。聞きたい事があります」

「言ってみろ」

「何故、カノプスを止めなかったのですか。ここは貴方の祖国です。祖国を自由にしようとする暴君を、何故見逃したのですか。もっと早く解決出来たのではないですか」


 そう、被害を抑えることだって出来たはずだ。

 昨夜、カノプスと会ったというのなら、その時点で処理してしまえば……俺達の作戦を待たずして解決出来たではないか。犠牲者を減らすことが出来たじゃないか。


「そうだろうな。だが、アレは自分の力で簒奪し、自分の意思で力を求めた。それは正しい行いだ。私が起こした国だからと、今を生きる国民、頂点に上り詰めた人間を自由に処分するという『傲慢』は正しくない。なによりも……どうせ、お前達に止められると思っていた」

「っ! けれど……!」

「私に後悔はない。これは正しく起きた内乱だ。お前はこの内乱を起こす事に賛成し、実行した人間だという事を忘れるな」

「く……そう、です。その通りです」


 そうだ、これはただの八つ当たりだ。分かってる。


「魔王カイヴォン、なぜここに来たのですか?」

「……確かめたい事があった。それを見極める為にここにいる」

「それは、俺に関係のある事ですか?」

「ある。だがお前がどうにか出来る問題ではないとだけ言っておく。これはいわば流れ、世界全体を観測した上で確認出来る大局の話だ」

「……分かりました」


 俺が聞いても、どうにもならない話、なんだろうな。

 気になるけれど、本当にどうにもならない話なら、これ以上聞くのは無意味か。


「……だが、それでも礼を言う。この大陸は長らくエンドレシアとの冷戦状態にあった。だが……今回の件で関係は改善していくかもしれない。それはひとえに……お前の繋いだ縁によるところが大きい。リオステイル……あの娘の内に眠る憎しみを癒したのはお前だ。自覚はないだろうがな」

「リオちゃんの……」


 彼女の境遇を思えば、地球を憎む事も、この大陸を憎む事も当然のように思える。

 だが、彼女は手を取り合う道を提案した。もし、その道を選ぶきっかけに少しでも俺が関係しているのなら……それは、とても喜ばしい、光栄な事だ。


「もう遅い、宿に戻ると良い。私はもう少しここにいる。誰にも姿を見せるつもりはなかったのだがな。またしばし、姿を隠そう」

「分かりました。謁見、感謝致します。原初の魔王カイヴォン」

「ササハラユウキ。この度の働き、見事であった。だがこの先の未来、必ずや対処すべき『なにか』が起こる。努々、それを忘れぬよう心がけよ」


 最後まで口調を崩す事が出来ず、手足の震えを必死に抑え込みながら玉座の間を後にしたのであった。




「……軽口なんて、叩けそうにない……なんだよあれ……カノプスと次元が違い過ぎる……」


 あの域に至る? そんな物、無理に決まっている。カノプスがいくら力を手に入れても……格が違い過ぎる。そう、俺は感じた。


「原初の魔王……本当にラスボス……いや、裏ボスみたいな存在だったんだろうな……」








 ……ふと、意識が覚醒する。


「ユウキ……?」


 聞こえるはずの寝息が聞こえない。見ると、ユウキのベッドがもぬけの殻となっていた。


「トイレでしょうか……」


 一人考える。眠気も薄れ、先ほどよりも幾分働く頭で思考する。

 ユウキから聞いた話について。


「R博士がこの世界に……現代に呼び出されている以上、可能性は考えていましたが……まさか、こんなにも近くにいたなんて……レイスお母様……」


 おそらく、R博士と同じく誰かに呼び出されたのでしょう。

 かつて、私と同じように孤児を引き取り、育ててきた大恩人、育ての親。

 共に戦い、時に敵対し、私を地獄から救いあげてくれた、大好きな母親。

 私よりも遥かに高い力を持つあの二人を、一体誰が呼び出したのか。

 そして、何よりも――


「まさか……お義父様も誰かに呼び出されて……」


 そんなこと、考えられないけれども。それでも、可能性はゼロではない。

 でもきっと、あの人は召喚されても……誰かに従うなんて事は絶対にしない。


「考えすぎですね……あまりにも、この国は……私と関わりが深すぎる」


 セミフィナル大陸では、そうでもなかった。いや、きっと立ち寄った都市や滞在時間の関係で、そういう事を考える余裕もなかったからだろう。

 もし、自分の眠る墓所に立ち寄っていたら、きっと思い悩んでいたに違いない。

 だがこの国は……私が一番、お母様やお義父様、そしてリュエ様と長い時を過ごした場所だ。

 どうしても思い出が、封印したはずの思い出が蘇ってきてしまうのだ。


「……ユウキ成分を摂取すれば収まるのですけれどね」


 愛する息子がいれば、こんな悩みはすぐに消し飛んでしまうのに。

 しかし、中々ユウキが戻ってきませんね……おなかの具合でも悪いのでしょうか?


「……明日からはきっと大変ですね……私達が地球に戻るのは、きっとまだまだ先になってしまうんでしょうね」


 なら、語って聞かせよう。ユウキに、私の思い出話を。

 そして、この思い出の地で新しい思い出を作ろう、最愛の息子と共に――








 面影を残す建物。長い長い歴史で幾度となく改修、補修されてきたであろう元、我が居城。

 一番長く座った椅子、正確には別な椅子ではあるが、玉座に深く腰掛け、先程現れた来客について思いを馳せる。


「……予感、か。俺もここにいたら、君が来てくれるような気がしていた」


『英雄』。この時代の事件が全て一つの物語ならば、彼に与えられた役職は英雄であり、主人公だ。だが、ここは物語ではない。どんなに不可思議な世界でも『世界』でしかないのだ。


「……世界は、異物を許容しない。排除しようと動き出す。それは例えば……大きすぎる異質な力であったり……偶然迷い込んでしまった別な世界の人間であったり」


 きっとササハラユウキは『きっかけ』に過ぎない。元々、この世界には彼よりも前に『世界を否定したい人間』が暗躍していたのだから。

 俺では見つけられない、この世界を拒絶し、世界からも拒絶されている人間達。

 けれどもユウキを見つけられた。奇しくも『召喚実験を行い、自分と縁が出来てしまったから』。


「……だから、彼の傍にいればいずれ……お前達もやってくるだろうとは思っていた」


 俺は、次の客を出迎える。

 黒づくめの集団。顔を隠し、姿を隠し、これまで裏の世界に隠れ続けてきた存在。


「お初お目にかかる。貴方が世界の調停者、ジョーカーで相違ないだろうか」

「そうだ。それで……お前達は『原理回帰教シャンディ』……の名を騙る異邦人達だな?」

「流石、お見通しでしたか」


『原理回帰教シャンディ』は元々、地球で言うところのカルト教団のような存在だ。

『原理とはすなわち魔力なり。地球からもたらされた異文化により穢された魔法、文化、技術を滅ぼすべし』という文句を掲げる、過激派ではあるが、所詮その程度の存在だ。

 だが……こいつらが目指す『原理回帰』は、きっと――


「そこまでして帰りたいのか、異なる次元からの迷い人達よ」


 黒づくめの集団に向かい、そう語りかけると、目に見えて狼狽えだす人間が何人かいた。

 まぁ、リーダー格のこの男は微動だにしていないが。

 とどのつまり、こいつ達の言う『原理回帰』とは『魔法と交わらなかった世界線の地球』だ。


「……本当にどこまでも見通せるのですね」

「ああ。それでお前達の最終目標も、手段も予想がついている。その上で……世界の調停者を名乗る私の前に現れたとなると……見つけたのだろう?」


 全盛期は、今。最盛期は、今。

 鍛え磨き続けたすべての力を、この身に再び宿していく。

 威圧を、畏怖を、際限のない恐怖を。


「私を滅する力を、手に入れたのだろう? この神代の魔王を打倒出来る術を見つけてきたのだろう? さぁ、見せてみろ」


 全ての力を込めた語り。


「――っ!」

「口を開け、答えよ」


 誰も、立てずにいた。だが、異質な波動を確かに感じる。

 こちらの心臓に違和感を覚えるような、そんな感覚。


「っ、ああ……見つけてきた……! 最大の障害であるジョーカー……貴方には退場してもらう……!」


 次の瞬間、蹲っていた集団の中から二人、剣を携えた人物と、脚甲を装備した人間が飛び出してきた。


「――防げないか。なるほど、ルールに乗っ取った武具を手に入れたのか……ならば……『魔王』は『悪魔』に分類される以上――」


 見えていたのに、防げない一撃を食らう。

 剣が心臓に突き刺さり、鋭い回し蹴りがこめかみに痛烈に刺さる。

 概念が、意味が、規則が、歴史が、逸話が、信仰が流れ込んでくる。


「この世界ではそこまで盛んではないが、概念として存在はしている物ですよ。地球由来のアーティファクトです、しっかりと味わってください、ジョーカー……いえ、原初の魔王」

「……これは本当に……驚いたな」


 脳が思考を放棄し始める。心臓が鼓動を止めようとしている。


「“聖ミカエルの剣”と“聖母マリアの踵”か……魔に属するなら……必ず倒せるだろうな」


 通常の魔族ならば、ただの種族の名前でしかないのだ、こういった武器が効く事はない。

 だが……俺だけは別だ。まさしく俺は『悪の親玉』『悪の魔王』という概念を元に生み出された存在、アバターなのだから。

 存在の根幹に悪の魔王という概念がある以上、従わざるを得ない、か。


「ただし……それで倒せるのは魔王カイヴォンだけだがな。もういい、楽しめた」


 魔王を魔王たらしめる姿を解除し、二人の戦士を薙ぎ払い吹き飛ばす。

 どうやら、既に魔王カイヴォンという存在は殺されたようだ。が、俺は……ニシダヨシキは生きている。


「逃がさんよ、原理回帰教シャンディ。ここで死ね」


 薙ぎ払いで二人の戦士の四肢がはじけ飛び、地面に落ちる前に更に頭を消し飛ばす。

 想定外だっただろう。まさか本体がただの人間だなんて思ってもみなかったな?


「っ! 撤退だ、この装備では討てない」

「させるとでも?」

「……既に撤退済みだよ、魔王を騙る人間」


 構わず攻撃するも、どうやら実体が既にこの場から消えているようだった。

 これも、なんらかの神話、伝承に基づいたアーティファクトの力……か。


『魔王としての力を失ったのならただの強いだけの個人だ、もう貴方は障害たりえない』

「……果たしてそうかな? いいだろう、ならば動くと良い。これが間違いなくお前達の分水界だ。本流になり替われるか、枯れ果てるか……精々見定めてやろう」

『僕達はこの狂った世界を必ず破壊し、あるべき姿を取り戻す。この狂った世界の象徴である貴方を削る事が出来た以上……本懐に至る事は可能なはずだ』

「……そうだな、正しく反抗し、正しく求めた故の行動だ。きっとお前達の衝突は正しい主張を持つ者同士の勝負になるだろうな」

『……彼がここにいるのは想定外でしたよ。が……彼とは戦ってみたかった。願ったりかなったりですよ』


 そうか……ユウキ君を少なからず知っているか。

 口ぶりから察するに、メディア越しって感じじゃないな。

 ……そうか、そういう事か。


「……家族が、大切なんだな、お前も」

『っ! では失礼します』


 それっきり、いつの間にかなり替わっていた虚像が消える。

 残されたのは、二人の死体のみ。使われたアーティファクトは既に消えていた。


「出し惜しみをしたと言うべきか、話をしてみたいと願った俺の自業自得なのか。大人しく命を削ってしまえばよかったな」


 対象に指定する前に本人が消えた以上、俺にはどうにもできない、か。

 せめてここに残っているのが死体じゃなければ――


「生け捕りにすべきだったな。そうすれば――関係者全員を殺せたのに」


 いや、それではダメだな。それをしてしまうと――


「下手したらユウキ君のクラスメイトまで死ぬ可能性があったな……」


 事件の痕跡を消すため、二つの死体を完全に消滅させる。

 玉座の間を後にし、俺は失った魔王の力の代わりに、磨いてきた術の力で城を後にする。


「リョウカの様子でも見に行くかね」


 さぁ、どうやら予想通り事が動き出したぞ、ユウキ君。

(´・ω・`)いやー感慨深いねー。

正直この作品は趣味と研鑽を兼ねて書いてたものだったから。


(´・ω・`)明日の発売日より作者Twitter(X)にて書籍版の試し読みが公開されています。

挿絵が二枚ほど見られるくらいの範囲です、

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ