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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
二十章

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第二百五十六話

(´・ω・`)カノプスは前作のジニアのそっくりさん

 塔を駆け上がる。

 螺旋階段を駆け上がる。

 足音が響き渡る。

 アラリエルの緊張した息遣いが聞こえてくる。


 やがて――


「覚悟も準備もいらねぇ、とっとと開けるぞ」

「あいよ」


 扉を開け放ち、すぐに刀をカノプスに突きつける。


「思ったよりも早かったな。談笑の時間すらなかったぞ、アラリエル」

「そりゃ悪かったな。孝行息子なもんで」

「アラリエル……!」


 ベッドに座るのは、アラリエルの母親とおぼしき女性と、イクシアさんだった。

 あれ……アラリエルのお母さん、アンジェさん……だったか。

 凄く、見覚えがある。若干、目元に違いはあるけれど、その容姿が、俺の知る人物に瓜二つだったのだ。


「あれ……レイスさん……?」

「っ!? ユウキ!?」


 マザーの本名、以前カズキ先生に聞いたその名前を呟いた瞬間、なぜかイクシアさんが強く反応した。


「イクシアさんも、どこも怪我はありませんか?」

「え、ええ……」

「ほう、それがお前の本当の名前か。そして……そうか、お前がユウキだったか、無色の魔力を宿す男よ」

「その節はどうも。料理の解説、ありがとうございました」

「ふん、察していたか」


 髪の色も角や翼の有無も違うが、その顔立ちと……身に纏う雰囲気が、あの食堂で出会った女性そのものだった。

 それに……こいつは今俺のことを『無色の魔力を宿す男』と呼んだ。

 俺が特異な存在だと気が付いたうえで、あの食堂に現れたという事なのか……?


「さて、アラリエル。今一度聞こう、私の元に下れ。そして契れ。お前との子ならば、次代の魔王として申し分のない子になろう。原初は今再び一つになるべきなのだ。時代が……それを望んでいる」

「はん、その証拠がゲートの出現だとでも言いてぇみてぇだな?」

「ああ、そうだ。ここまでお膳立てをしてもらった以上、異界に眠る力も手に入れ、次代に繋げる礎にしようと思ってな」


 ……異界のゲートは偶発的に生まれたのか……?


「いや、そんなはずはないか……カノプス、お前の後ろには誰がいる。ゲートの法則を理解している人間がいるんだろ? 少なくとも男だって事は知っている」


 ドバイで目撃した、アルレヴィン家に出入りしていた人間。

 恐らく、なんらかの技術提供をアルレヴィン家に行い、あの極大の魔力結晶を渡したであろう人物。

 俺には、あの男が今回の事件に関係していると思えてならないのだ。


「カマを掛けるにしては真に迫る物があるな、ササハラユウキ。その魔力の質と良い、中々に有能だな、お前も。英雄の称号もそそられる。アラリエルと共に来い、貴様も」

「断る。自殺は趣味じゃないんでね」

「自殺、だと?」

「俺に世界の仕組みだとか、時代が求めているだのは分からないけれど、一つだけ……はっきりしていることがあるんだよ。カノプス、お前は……『正しくない』事をする為に、この国を簒奪しようとしている。それは近い将来、確実にお前を破滅へと導く」


 これは予言だ。

 あの人は公平に、地球だけでなく、グランディアにも裁きを下すだろう。

 そう、ジョーカーなら必ず、絶対。


「例の存在、ジョーカーとやらの事か?」

「知ってるなら話は早――」


 だが、次の瞬間――カノプスの口からとんでもない言葉が飛び出した。


「昨夜、この城で会ったぞ。『存分にやれ』だそうだ。どこまでも高みからこちらを見下すような態度でな。殺してやろうとも思ったが、あまりにもおかしな物言いでな、見逃してやった」

「な……!?」


 ヨシキさんが……ここに来ていた……?


「よりによってこの私に向かい『今は見逃しておこう、偽りの魔王よ』とな。くく……どこまでもふざけた男だったわ」

「……そいつはなんとも」


 オイオイオイオイ!? どういうことだよそりゃ!?

 じゃあ今もこの城のどこかにいるって事なのか……?


「改めて聞く。二人とも、私の軍門に下れ。お前達の仲間も有用ならば仕えさせてやろう。異界に挑むには優秀な手駒は何人いても足りないくらいだ。あの地を生きて抜け出したお前達生徒には、きっと価値があるだろう」


 そう改めて尋ねられるも……答えなんて決まっている。

 だがその時だった、視界の隅でイクシアさんが何やら動いているのが一瞬目に映った。

 意識しないように様子を伺いながら、カノプスに答えてやる。


「お断りだ。ジョーカーがお前を見逃したとしても、やっぱり頷けないね。少なくともアンタは平穏を維持するだけの力、良き為政者として動ける力を持っている。にもかかわらず戦乱に進もうとする人間に、俺が協力するはずがないだろ」

「右に同じく。俺は別にお前が良い為政者だろうがなかろうが、答えはNoだ。お前はお袋を傷つけた。それだけで一生俺の敵だ」

「くく……相変わらずのマザコンめ。父親が死んだときもそれくらい怒ってみれば少しは可愛げもあったろうに」

「生憎、それが許されるほど甘っちょろい環境じゃなかったんでね」


 会話をしつつイクシアさんの様子を見ていると、どうやら壁に掛けられている絵画に何かしているようだった。

 イクシアさんの反対の手には、今にも駆け出しそうな体勢のアラリエルのお母さんの手も握られている。つまり……あの絵画が逃げる為の鍵になる、という事か?


「交渉は決裂だ。カノプス、お前はもう既にグランディア全土を敵に回しているんだよ。大人しく降伏しろ。交渉を持ち掛けるのは俺達の方だ」

「何故だ?」


 すると、カノプスはまるで意味が分からないといった表情を浮かべたかと思うと――


「世界を相手に戦えば良い話だろう? 交渉にはなりえんよ」

「な……!」


 ダメだ。なんだか、こいつとは意思疎通が出来そうにない。

 しかしそれでいい。俺に気を取られていろ。


「……アラリエル、手を出せ」

「あん?」

「いいから出せって」


 アラリエルの手を強く握る。

 イクシアさん、俺も準備は万全ですよ。

 俺の意図を汲み取ったのか、次の瞬間、部屋の中に突如として魔力の奔流が巻き起こる。

 それは絵画から発せられていた。

 光の中、その絵画に飛び込むイクシアさんとアンジェさんの姿を見て、すぐさま俺もアラリエルの手を引きそこに駆け込む。


 一瞬視界が白く埋め尽くされたと思うと、次の瞬間にはもう、俺達は別な場所に立っていた。


「コイツは驚いた……城の屋上じゃねぇか、ここ」

「イクシアさん! 今すぐここから逃げましょう!」


 カノプスから逃げる為の一世一代の好機にそう提案する。

 だが――


「いいえ、すぐにここに来ますよ。あの部屋では満足に戦えませんし、アンジェさんを巻き込んでしまう恐れもありました」

「な……何を言って――」




「驚いたぞ、イクス。いや……イクシア。まさかこの城に私も知らない抜け道があったとは。それとも、お前が用意したか?」



 イクシアさんの予見通り、次の瞬間にはもう、カノプスが屋上に舞い降りて来ていた。

 あの翼……あれで飛んできたのか。一瞬で俺達の居場所を索敵出来る程の探知能力と良い、確かにこれは逃げようがないかもしれないな……。


「偶然発見しました。最初は逃走経路として活用しようと思ったのですが、どうやら貴女からは逃げられそうにありませんでしたから……それにあのような狭い場所では何かとやり辛いだろうと思いまして」

「クフフ……確かにな! イクシア、お前は嘘を言っていない。あわよくば逃よう……とは微塵も考えていないのが分かる。お前はあの塔が壊れるのを嫌った、そうだな?」

「ええ、そうです。改修が繰り返された他の場所と違い、あの塔はどうやら、神話時代から何も変わっていないように見受けられました。私は、歴史的価値のある物には敬意を払っているのですよ」

「なるほど、良い心がけだ。で……私の相手はお前がしてくれるのか? イクシア」

「いいえ。これは正当な決闘でしょう。アラリエル君……そしてその協力者としてユウキが選ばれた以上、貴女はこの二人と戦う義務があります」

「ああ、そうだとも。若干、お前の力も興味深いのだがな? と、言う訳だアラリエル、そして英雄ササハラユウキ。この決闘、受けてやろう」


 少しだけ、イクシアさんの様子がいつもと違って見えた。

 やっぱりそうだ。この大陸に来てからのイクシアさんは、いつもよりどこか……攻撃的だ。

 彼女の生前に……この大陸が関わっているのだろうか……?


「とりあえずユウキ、もう変装の必要はねぇ。全力でやるぞ」

「ああ、そうだな」


 変装の魔道具を解除する。


「ふむ……やはり魔導具の気配を感じない。微かに魔力の流れを感知できる程度だ。その製作者についても話してもらうぞ、私の勝利のあかつきには」

「たぶん、それが本当の藪蛇かもしれないけどね」


 ヨシキさんはどういう訳か、カノプスを見逃した。けど……R博士に関わろうとするのなら、きっともうお目こぼしはないだろうな。

 まぁ……勝つのは俺だけど。


「先程よりも精悍さが増した。戦士としての顔だ。その方が好ましい」

「そりゃどうも。アンタも顔だけなら三本の指に入ると思うよ」

「そうか? ならば下れ。働き次第では褥を共にしてやらんこともないぞ?」

「? シトネ?」

「くく……初やつだな。抱かせてやると言っている」

「そういう事を女性が軽々しく口にするんじゃありません」


 こいつは自分が遥かに上位の存在だと思っているのだろう。

 だから、他の人間なんて気にする必要がないって考えているんだろう。今のやり取りで確信した。


「では……挑ませてやろう。手加減はせんぞ」


 どこか余裕を感じさせる声色が消え、カノプスは虚空から一振りの片手剣を取り出して見せた。

 赤黒い、どこか血が固まったような不気味な色合いの、けれども大層美しい造形の。

 俺も抜刀の構えを取る。すぐ横で、アラリエルが自分のライフル型のデバイスを構える。


「基本は援護で。弾は俺に当たっても問題ないって気持ちで」

「あいよ」


 カノプスの姿を、剣の動きを一瞬でも見逃すまいと注視しながら、こちらの踏み込む足に力を込める。

 翼のはためき、ドレスの揺れ、どんな前兆も見逃すまいと、瞬きすら惜しいように見つめ続ける。

 とその時、にわかにカノプスの身体から、赤黒い光が滲み出すように溢れだした。

 その瞬間、カノプスの姿は――


「知ってた」


 ノールックで背後に向かい抜刀、そのまま身体を反転して刀を振り抜く。

 およそ剣同士がぶつかりあったとは思えない甲高い音が響き渡り、俺の一撃をカノプスが剣で受け止めていた。


「ほう」

「無駄を省きたいんだろ。口では勝負を楽しむふりして、とっととアラリエルを潰して戦力弱体化を狙ったな」


 余裕の態度や圧倒的な力に惑わされない。こいつには『遊び』も『余裕』もない。全力なのだ。それくらい、見てたら分かる。

 受け止められた刀を引くことなく、つばぜり合いに持ち込む。

 眼前に迫る両者の剣、近づく顔。


「ガァ!」


 だが次の瞬間、牙を覗かせながらカノプスが大きく口を開け、こちらの顔を嚙み千切るかのような動きで迫ってきた。


「っ! 吹っ飛べ!」


 剣に纏わせていた風の魔法を暴発させ、直前でカノプスの顔横で炸裂させる。

 吹き飛ぶカノプス、だが傷は微塵も負っているように見えない。


「野蛮だな」

「戦場の剣に優雅さなどいらぬ」


 大いに結構。泥臭い戦いが似合わないツラしてるくせに――


「ふん、お前もいたな」


 瞬間撃ち込まれる、漆黒の弾丸。

 アラリエルの援護射撃が俺の顔のわずか横を掠め、正確にカノプスの眉間に吸い込まれる。

 が、それすらもカノプスの身体からにじみ出てくる赤黒い魔力により、完全に動きを止めていた。

 俺の魔法も、あれで防がれたって事か。


「やっぱ援護にすらならねぇな。足手まといになっちまう」

「いや、ダメージはなくても衝撃は食らってるだろ、あれ」


 俺の魔法で顔が大きくはじかれたのは確認済みだ。


「手は正直狙えないだろうから、肩と足ランダムで頼む」

「あいよ」


 まだ、このレベルの攻防なら工夫でどうにかなる。

 だがもし――


「次は少々スケールが大きいぞ?」


 考えの途中、カノプスの声が聞こえてきた。

 その瞬間――空の色が変わった。



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