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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十九章

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第二百四十七話

(´・ω・`)『パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~』の発売は1月25日となります。

発売は一二三書房さんの『ブレイブ文庫』からになっております。

イラストレーターは『Silver Bullet』先生が担当してくれています。

「悪かったな、せっかくお袋さんと再会出来たってのに」

「気にすんなって。戻ればイクシアさんが待っててくれるんだから」


 王城のお膝元である城下町『ネヴェルバルト』。

 この王都ネヴェルヴァルトは、長い歴史の中で何度もその名前を変えて来たという。

 というのも、ノースレシアの王家は、エンドレシア王家と似たような風習を持っており、魔王に選ばれた人間が自分の名を王家の名として名乗る事が出来るそうだ。

 で、その時に王都の名前も自分で決める事が出来る、と。


「確かに昔私が来た時は別な名前だったかも。あの頃はアラリエルのお父さんが魔王だったんだねー」


 今回、もう一人潜入任務に選ばれた人間、セリアさんが言う。

 彼女は森林部での戦闘に慣れている為、当然気配を消すことや魔法による攪乱も得意なので、今回一緒に選ばれた人間だ。


「あん? セリアも来た事あったのかよ?」

「うん、かなり小さい頃かな? まだ聖女候補に選ばれてすぐの頃だから……二〇年以上前だと思う」


 たまに感覚がバグるのですが、そういえばアラリエルもセリアさんも、生きた年月で言えば俺のかなり年上なんだよなぁ……。

 まぁ種族の差ですな。たしかその分、身体と心の成長が遅いらしいけれど。

 なお、最盛期の期間が長いから、セリアさんもアラリエルも、見た目的にもう少し成長したら数十年は容姿が変わらなくなるんだとか。

 ならイクシアさんもそうなのだろうか?


「その時は『セミエールレスト』って名前だったよね?」

「ああ、そうだな。一応この都市が出来た当初、神話時代の名前だ。俺の一族は魔王に就任したら必ずその名前にするんだよ。無論、俺もこの先、仮にも魔王になったらその名前にするつもりだ」

「へぇ、名前の由来ってあるのか?」

「原初の魔王の二人の妻の名前から取ったって伝わってるな。大した愛妻家だ」


 マジか。ヨシキさんに今度聞いてみよう。

 あれ……今も二人の奥さんがいるらしいけど、もしかして……?

 え、じゃあマザーさんもR博士も神話時代の人っだったりするのか?


「とりあえず城下町に潜入するぞ。俺は流石に目立つから変装するが、お前らはどうする?」

「俺も変装するよ。幸い、前の任務でも変装してたから、その設定を引っ張ってくれば――」


 メイクの詳細設定は記憶出来ていないが、キョウコさんに変装した時やユキに変装していた時の設定を持ってくれば、顔つきだけは変えられるのだ。

 なお、身体まで変えようとすれば大惨事になる模様。

 だって今の俺、地球にいた時より遥かに成長してるんだもん。

 顔もあまり女性寄りにしないようにすれば――


「どうよ? 結構顔つきも変わるだろ?」

「お、マジか。結構線が細くなるな」

「へー! 今の姿でも変装出来るんだね? 私も金髪のエルフって目立つから、髪の色だけ変えようかな? ちょっと魔法で変えようかな」

「問題ないはずだ。城に忍び込む訳じゃねぇなら変装の看破なんてしてくる施設も人間もいねぇはずだ。というか、結構この国ってそういう人間多いんだよ。希少部位の有無で扱いが変わる事も多いからな。隠して生きてる人間も多い」


 なるほど。確かに聞いていて、魔族の特異器官の形状って人それぞれだし、それで生きにくいなんて感じてる人もいるのかもしれないな。

 そうして変装した結果、セリアさんは茶髪に、アラリエルは金髪に、そして俺は少し線の細い、中性的な顔立ちとなり、無事に城下町に潜入出来た。

 ちなみに安直ではあるが、潜入中は偽名としてアラリエルは『アリー』セリアさんは『セリ』そして俺は『ユウ』と呼ぶことを徹底する事になりました。

 なんかアラリエルだけ微妙にお洒落というか捻った名前なのは……さては子供の頃のあだ名だな?






「いたって普通の街並……だよな?」

「そうだよね? なんかもっとピリピリしてたり、街中を巡回する兵士が多かったりすると思っていたのに」

「一般には知られていないんだよ。既に魔王がカノプスに殺されてるってのは。大方病に伏せてるとでも言って、あくまで自分は臨時の代理って体裁なんだろうさ」

「でも前の魔王に忠誠を誓ってるとかいう軍人は大陸を結ぶ橋にいるんだろ?」

「そうだな。逆に言えば『そこから出られねぇ』とも言う。反対派の人間をあの場所に追いやって監視してるんだよ。だから住人は真実を知らねぇ」

「……結構大規模な事してんだな、カノプスってのは」

「そんくらい周到に用意していたって事だ。脳筋な馬鹿だったらいくらでもやりようはあったが、生憎とこういう手回しもヤツの得意分野だ。とりあえず王城の周りの観察から始めるぞ」


 城下町に潜入した俺達は、その平和そのものと呼べる光景に驚いていた。

 魔族もエルフも普通の人間も、獣人も地球人とおぼしき人間も、互いに険悪な様子もなく、かといってクーデター軍による監視の目もない、ただ日常生活を送っているように見える。


「とりあえず城の見学もかねて、街中を見て回るか。一応城に通じてる隠し通路の入り口を含めて確認だ」

「やっぱりそういうのあるのか」

「あー、たしかにセリュミエルのお城にもそういう通路あったねー」


 なるほど、流石は二人とも幼少期に城で暮らしていただけはあるな。

 俺達は街中を観光でもするように見て回り、途中何の変哲もない倉庫街や運河、今は閉店している商店街やレストラン街、広大なこの街を公共交通である『路面電車』を駆使して見て回った。


「路面電車とか、もう日本には殆ど現存してないよなぁ」

「そういや見かけねぇな。モノレールはよく使うが」

「私乗ったことあるよ、日本で。たしか……ウツノミャーって場所だったかな?」

「ああ、宇都宮か。確かに走ってたかも」


 ウツノミャーって可愛いな! 猫のゆるキャラが銃でも撃ってきそう『撃つのミャー!』って。

 そんなアホな事を考えつつ、次の行先を訊ねる。


「次はこの都市の心臓部、発電所や工場が密集してる地帯だな。ここの警備状況も調べておきてぇ」

「なるほど?」


 こりゃ結構アラリエルも覚悟を決めてるって感じなのかね?




 そうして全ての箇所を一通り確認してきた俺達は、とりあえず王城に一番近い場所にあるホテルに宿泊する事にした。

 一応、仮の身分証をアートルムさんの計らいで、シュヴァインリッター側から発行してもらっている。

 俺達三人もシュヴァインリッターに所属している戦士って身分だ。


「とりあえず二部屋取ったから俺らの部屋に集合だ」

「了解。結構良いホテルだと思うんだけど、大丈夫?」

「あん? おっさんから活動資金たんまりせしめて来たから、今晩あたりホストでも呼びつけられっぞ? セリ、興味あるか?」

「おい馬鹿止めろ」

「なんだよ、俺らだってデリヘ――」

「やめろぉ!」


 ユウキパンチ! お前セリアさんがガチ目に軽蔑の目向けているのに気が付かないんか!




 ひとまず部屋でセリアさん待ちながら、アラリエルに問いかける。


「最悪の場合都市の心臓部を破壊して混乱に陥れ、その隙に城に攻め入るって感じか?」

「……伊達に裏の世界で生きてねぇな。ああ、それも視野に入れてる。軽蔑するか?」

「いや、俺が同じ状況だったら住人に死傷者が出るのも関係なしに攻め込むだろうから、アリーの方がよっぽど人道的だ」

「へ……そうかよ。……仮にも故郷の住人だからな、それは出来ねぇんだよ」

「だよな。俺だって故郷の住人なら流石に躊躇する」


 アラリエルからすれば、親だけでなく故郷そのものを人質に取られているような物なのだろうな。

 とその時、部屋の扉がノックされ、セリアさんがこちらの部屋に合流してきた。


「……ん、一応この部屋の中も今探知してみたけど、盗聴の類は心配しなくて良いみたい」

「サンキュウ。探知系の術は使えねぇんだ」


 ひとまず、この王都を見て回った結果がどうだったのか、アラリエルの意見を聞いてみる事に。


「まずそうだな。王族にだけ伝わっている脱出経路は全て押さえられていた。この辺はまぁ、カノプスも魔王の娘だ、当然知っていてもおかしくねぇから期待はしていなかった。しっかり関係のある建物の周りには私服の兵士が待機していたぜ」

「ああ、そういえば何人かやたら身のこなしが素人じゃない人がいたけど、あれか」

「となるとそういう場所からの侵入は難しそうだねぇ……」

「そうなるな。となると、手段は正門から入るしなかねぇって訳だ。この場合はどうするのが正解だ?」


 するとアラリエルは、こちらに意見を求めるというよりも、どこか試してくるようなニュアンスで問いかけて来た。


「暫くは王城に出入りする人間を把握するのに徹するべきだろうな。そこに紛れ込む手段を考えるか、その人員に成りすます方法を考える」

「だね。こうなるともう少しここに滞在して様子見をしなきゃだけど」

「正解だ。とりあえず考えられるのは城で雇ってる商人あたりか」

「あー……軍関係者が一括で物資を運んで来てるならそれも難しいんじゃないかな?」


 俺達はその情報を知っている。ゲートの存在だ。

 今、クーデター軍は異界の探索に力を入れている。ならば当然相応の物資も必要になってくるだろうし、そういう内密の作戦に使う物資の調達を城に商人を招いて行うとは考えられない。

 十中八九軍の関係者が外で物資を確保して、何らかの手段で纏めて城内に運び込んで来るはずだ。


「……なるほど、そりゃそうか。なら一先ずは城の出入りを観察していくくらいしか俺達には出来ないな」

「だな。毎日ホテルに籠り切りってのも不自然だし、俺とセリさんがメインで、たまにアリーって感じで、交代でホテルの外で活動するって感じでいいか?」

「ああ、問題ねぇ。んじゃ今日のところは二人で適当に散策なり、適当なシュヴァインリッターとしての依頼でも受けてきてくれや。俺はホテルで休ませてもらうわ」


 そう言いながらベッドで横になるアラリエル。

 俺とセリアさんは、まるで追い払われるようにホテルを後にしたのだった。






「なんかアリーかなり疲れてる様子だったね……」

「故郷……だもんな。こうして何も変わらない故郷が目の前に広がっているのに、その内部ではこんな事件が起きてるんだ、精神的にかなり参ってるんじゃないかな」

「そっか……そうだよね。私達で出来る事はこの街でお城を攻略する方法を見つける事くらいか……」


 しかし、大きな動きは見せられない、絶対に。

 俺達は一先ず、この街のシュヴァインリッター支部へと向かう事にした。




 支部の中は静かな物で、そもそもこの王都やその周辺は王立の騎士が精力的に活動している関係で、あまりシュヴァインリッターに仕事が回ってこないのだと言う。

 平時ならばここからヴォンディッシュの街まで商隊の護衛やツアーガイドの同行、のような依頼もあるそうだが、今はそう言う仕事はないという。

 それもそうか。外部との接触は制限しているのだろう、カノプスの指示で。






「ようやく見つけた仕事が買い出しの代行っていうのもねー」

「ん-、けどもっと細かく街の中を見て回るのにはうってつけじゃない? えーと、次は医療用の精製水を一〇リットルと、新品のタンク四つか……」

「これもう業者さんに頼む仕事だよね?」

「街中の病院も大変なんだろうさ、きっと。医療用品を本来運んでくる外の業者も交通規制にかかってるんじゃないかな?」

「なるほど……だから大衆向けの商店街で仕入れて来て欲しいって訳なんだね?」


 ようやく見つけた依頼は、街中で個人院を営んでいる魔族の方からの依頼だった。

 まぁ備品の買い足しなのだが、量が量なので、こうして若い人間のお手伝いを募集していた、と。


「こういう雑多な商店街みたいな通りってワクワクするなぁ」

「あ、分かるかも。セリュミエルアーチにもこういう通りがあってさ、子供の頃よく――」


 セリアさんが言い淀む。


「よく……セシリア様に連れられて、他の聖女候補の子と見に行ったりしてたんだ」

「そっか。大丈夫だよ、別に名前を出されたからって何も感じないよ」


 だって黒幕はセシリアだろうと、俺を直接苦しめようと動いたのはリョウコの方なのだから。


「さて、じゃあ台車に水を積み込む前に、先にタンクから買いに行こうか」

「うん、そうだね。じゃあえーと……日用品じゃあないよね?」

「たぶん医療品の一種だから、薬を扱ってるお店を探せばいいんじゃないかな」


 そうして様々な屋台や店先に並ぶセール品、そんな通りを見て回り、目的の店を発見する。




「いや悪いな兄さん。タンクはすぐに用意出来るんだが、精製水は今品薄でな。商会から直接調薬工場に卸されてるんだよ今は。たぶん手に入れるなら、商会に交渉しに行くしかないんじゃないかね」

「あー……やっぱりそんな感じですか。依頼主から精製水が無理そうなら諦めても良いって言われてるんで、今回は諦めますよ」

「そうか、たぶん病院からの依頼だろう? しかし妙な話だとは思わんかい。精製水は品薄なのに、調薬工場には卸されて大量のポーションや医薬品が作られているのに、その様子じゃ病院に薬は回っていないんだろう」


 医療関係の品を取り扱う商店の店先で、セール品を売りさばいていた店主さんと話し込む。

 なるほど、やはり薬関係は大量に作られていても、その殆どが異界探索に回され軍人に支給されているのだろう。

 なら……調薬工場なら城に忍び込むヒントを得られないだろうか?


「んじゃおじさん、これで失礼するよ。タンク、安く譲ってくれてありがとね」

「いやいや、こちらこそ処分に困っていた在庫だからね、かさばるし重いし、困っていたんだよ」

「ユウ、全部積み込み終わったよー」

「……お姉ちゃんも凄い怪力だな。エルフなのに珍しい」


 セリアさんはその自慢の筋力で、一つ一五キロはありそうな金属のタンクをリアカーに積み上げ終わっていた。

 ……タンクってこの大きさが一般的らしいから、この重労働の所為で引き受ける人がいなかったのではないだろうか。




 無事にタンクを病院に届けた後、一先ず今回得た情報から、城に潜入するルートを考えてみる。


「たぶん医薬品を大量にお城に運び込むのに、トラックを使っているんじゃないかな? 今日私達もリアカー貸してもらったけど、道がだいぶ舗装されていたし、たまに車も走っていたよね? ノースレシアって結構車文化が根付き始めていると思うんだよね」

「あー、確かに。バスもあったくらいだし、商会が自分達のトラックを持っていてもおかしくない、か」


 過去にアラリエルがバイクにハマっていたという話からして、この国はもう車が日常的になりつつあるのだろう。

 街中の道路の整備状況もさっきリアカーを押していた時、専用の道を使っていたので確認済みだ。

 なら搬送用のトラックに紛れ込む、もしくはトラックを偽装して大量の人員と一緒に乗り込むか?


「まぁ今回はあくまで街の状況と城の警備がどれくらい厳重なのか偵察するのが目的だからね、ユウはもう潜入する気みたいだけど、今回はダメだからね?」

「勿論分かってるよ。アリーのお母さんが捕まってる以上、独断専行は絶対にしない。実際の開戦の時にどうやって口火を切るか、その時に潜入する場合のルートを考えていただけだよ」


 それに、これは国の行く末を左右する戦いでもあるのだから。

 セリアさんと二人、今回の任務の重要性を再認識した俺達は、今日の活動を終えてホテルに戻るのであった。

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