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第二百四十三話

(´・ω・`)お待たせしました、一九章開始です。

また、ようやく書籍版の発売日が決まりましたので、近々お知らせします。

 店主不在、主無きレストラン兼バー『追月夜香』。

 そこに一人残された人物は、手持無沙汰な日々をどう過ごそうかと考えを巡らせ、やがて一つの名案に辿り着いた。


「ヨシキもレイスもいない今こそ、私が『BBクッキング』を支えないといけない! 巷じゃ『BBがドバイの災害に巻き込まれて行方不明』って伝わっちゃってるし、ここは私が『心配ないよ』って宣言しつつ、新しいコンテンツを提供しなければ……!」


 彼女が必死に悩んでいたのは、世界の存亡をかけた願いでも、悲劇を回避する方法でもない、極めて単純な、一般的な悩みだった。






「カメラよーし! 商品よーし! じゃあ久しぶりに『Rお姉さんのアイスレビュー』をやろう!」


 そうして、撮影された動画を慣れた手つきで編集し、その日の夜には『BBちゃんねる』に投稿されたのであった。







『やぁやぁ! 皆さんごきげんよう! Rお姉さんだよ!』


 動画の中、白い眼鏡タイプの仮面を装着したRお姉さんことリュエが語る。


『今BBとマザーが不在だからね! 私が出来るのは簡単な料理かアイスのレビューだけだから、今日は久しぶりにアイスのレビュー……の、番外編をやるよ!』


 だが当然、視聴者達が求めているのは『BBとマザーの安否』だ。

 無論、そのことにも触れる。


『ちなみにマザーなら今ドバイで救護活動の手伝いをしているよ! 今日連絡が入ったからね。実はマザーって色んな資格も実務経験もあるから、災害現場でも大活躍してるんだよ』


 事実である。マザーことレイスは、その魔術の腕や身体能力、魔眼の力で災害現場の人命救助に尽力していた。


『で、BBだけど噂の通り現在所在不明。だけど、強がりじゃなくて本気で心配しなくていいからね? 本当に絶海の孤島で半年以上サバイバルしたり、過酷な戦場でも生き残って来た人だから。そのうち普通に戻って来るから私もマザーも全然心配していないんだよね』


 これも事実だったりする。そもそも、彼は現在、絶賛グランディアで飛行中だ。


『じゃあ、今回は【凍らせると美味しいコンビニスイーツランキング】を発表していくよ! アイスは自分で生み出す事も出来る至極のデザートだからね! じゃあまず一〇位!』


 そうして、自分の投稿した動画を満足気に確認したリュエは、今日も開けるつもりのないレストラン店内で一人、動画を見ながら暇をつぶす。

 そんな時だった。閉じられた扉をノックする音が聞こえてきたのは。

 プライベートの客なら店側の扉をノックするとは思えない。きっと明かりがついているから、本当は開店しているのだろうと勘違いしたお客さんだろうと、応対の為に彼女は立ち上がる。

 扉を開け、その向こうにいる人物に彼女は決められた文言を口にする。


「ごめんよ、今日はお店やってないんだ。暫く休業するつもりだから――」


 が、訪ねて来た人物がどこか不思議な気配を、そして『強者だけが感じ取れる常軌を逸した魔力』を纏っている事に気が付き、一瞬で平時の対応から戦闘時のソレに切り替える。


「何者だい? 敵意があるのなら容赦はしないよ」


 瞬間的に、訪ねて来た人物の体表の温度が急激に下がる。

 常人ならば一瞬で凍えだし、全身に力が入らなくなる程の温度変化。

 空気が凍る。文字通り凍る。吐く息が一瞬でダイヤモンドダストになってしまう程に。

 並の人間ならば肺が凍り付く程のそれは、一種の氷魔導にすら迫る攻撃性を秘めていた。

 それを意思一つで、瞬間的に任意の場所に発生させる。その技量はもはや、魔導師なんてレベルではなく、まさしく世界に存在する『魔』を従え、意のままに操るよう。

 さしずめ、彼女は『魔従師』とでも呼ぶべきだろうか。


「……落ち着いてください。貴女が本気になってしまいますと、私ではどうにも出来ないのですから。もう……貴女の力は旦那さんをも超えてしまっているのではないでしょうか」

「……何の話だい?」


 その招かざる客である『彼女』は、そんな状況だというのに身じろぎ一つせず、平然と語り掛ける。だが、それにまともに答えるつもりがないのか、リュエはただ冷酷に切り返す。


「この程度なら防げる。それだけで危険認定するよ、私は。何者だい、君」

「貴女の旦那さんに頼まれてここに来ました。彼がグランディアに発つ前に、伝言を預かったのです」

「……では質問だよ。私の旦那さんの名前を『全部』答えてみて」


 リュエは、この相手が自分の旦那について言及した事により、警戒を強める。

 それくらい、本来であれば秘匿すべき情報なのだ。そして自分の力を知っている節もある物言いに、まさか自分の正体まで知っているのかと油断なく構える。

 だが、もしも本当の事をこの相手が話しているのならば、自分の質問に正しく答えられるはずだと、その質問をした。


「『ニシダ ヨシキ』さんですね。それとも『カイヴォン・N・ノースレシア』と答えるべきでしょうか?」

「……では最後の質問。君の名前は? その名前を知っているのなら、君は私が知っている人間の誰かであるはずだよ」


 最期の問いの意味。それは『お前も前世の名前を持っているはずだ』という確信から来るものだった。


「……既にこの名前は過去の物ですし、貴女と私は直接お会いしたことはないのですよ。ですが……貴女は何度か私に会おうとした。それで……分かりませんか?」

「……それに該当する人物は一人しかいない。もしそうなら、君の持つ力にも納得出来ると思う。唯一、私以上の術者だって私が認めた『伝説の住人』だとしたら」

「伝説なんかではありませんよ。私は確かに存在し、そして世界に可能性を散りばめただけです。そして……その可能性を集めて紡いだのは、他でもないヨシキさん達ですから」


 その答えが決定的だったのか、一瞬で空気が正常に戻り、招かざる客の身体の温度も戻り、体内も全て健康体そのものとなる。


「ごめんよ、あまりにも強い気配だったから警戒してしまったよ。初めまして『雨だれの奇跡』さん……いや、『レイニーさん』」

「今の私は『アメノ』です。初めまして、ニシダリュエさん」

「アメノちゃんだね? うん、初めまして。 じゃあ、さっき言った事は事実なんだね?」

「はい。私はヨシキさんに、貴女に会って協力するようにお願いされました」


 その来客、ホソハアメノの来店は、ヨシキに頼まれたもの。

 そしてリュエもまた、彼女がやって来た理由を思考し、ヨシキがグランディアに向かった理由と合わせて、全てを理解した。


「……なるほど。じゃあヨシキは、もう覚悟を決めたんだね。しょうがないなぁ……じゃあ私がハッピーエンドに作り替えてあげる為に頑張らないとだね? アメノちゃん、協力してくれるかい?」

「ええ、勿論です。ササハラユウキ君は私の大切な先輩で、人生二人目の友達ですから」

「じゃあ私は三人目にしてくれるかい? ついでに一人目って誰だい?」

「勿論お友達になってください。ちなみに一人目のお友達は原初の魔王カイヴォンさんです」

「やっぱり。そっかー……ユウキ君も君のお友達になったんだ……なんだか不思議な縁を感じるね」

「そうですね。では……今日から暫くお世話になります、リュエさん」

「こちらこそよろしくね、アメノちゃん」


 そうして、神話時代最高の魔導師と、その魔導師ですら敵わないと、遥か高みにいる存在だと認めた『神様みたいなの』が手を取り合い、一つの解決策を模索し始める。

 やがて来る絶対の終わり、逃れる事も避ける事も出来ない運命の先に道を作る為に――








「ん-、このバス遅くない?」

「無茶を言わないでくれ、これはあくまで観光バスだ。それにこちらの道は普段は使われる事が無いから整備が甘い」

「まぁ仕方ないかなー。それじゃ生徒諸君、これから向かう場所について説明、欲しい人いる?」


 リョウカさんと合流する為、ノースレシア大陸の荒野を疾走する大型観光バス。

 そこに乗り込んだ俺達SSクラスの人間とリオちゃん、そしてシュヴァインリッターのノースレシア支部長は、合流地点である『マインズバレー廃鉱山』を目指していた。


「出発前に触りだけ聞いたけど、大昔の鉱山街だっけ?」

「だな。ちなみに大昔って言ってもほぼ神話時代の話だ。一応観光資源として活用してた時代もあったらしいが、崩落の危険ありって事で俺の親父が魔王の時代にはもう閉鎖されていたはずだ」


 と、アラリエルが言う。流石地元の人間、詳しい。


「なーんだ説明する事ないじゃん。アラリエル君が今言ったように、立ち入り禁止、封鎖地区に認定されて長い場所なんだよね。だからこそ、私みたいな非合法な連中のアジトとして利用されたりしているんだけどさ」

「なぁリオちゃん、それって危険じゃないのか? 崩落とか」

「大丈夫でしょ。なんなら廃坑道全部氷漬けにしても良いし」


 ……パワープレイが過ぎる。

 そうして、バスに揺られること四時間、一度休憩がてらバスの外で昼食を摂る事に。

 そういやお腹空いたな……特にコウネさんが。


「呑気に食事をしている場合じゃないのは分かっているんですけどね……ただどうしても携帯食のみというのは……すみません、食糧で荷物を圧迫してしまって」

「あー、いいよいいよ。この辺りまで監視の目光らせてる勢力なんていないし、いるとしたらむしろマインズバレー近辺だろうし。今くらいハメ外して良いよ」


 バスのトランクから大量の食糧を取り出しながら、申し訳なさそうに語るコウネさんに、リオちゃんが意外にも笑ってそれを許容する。

 結構任務に対してはストイックなところがあると思っていたけど、もしかしてリオちゃんもお腹空いていたのかな?


「なんだかいつもより少しだけ余裕あるね、リオちゃん。こういう任務中ってかなり厳しいイメージだったんだけど」

「ん-……まぁ今回は私の希望もあるしね、協力関係を築く以上、こっちも譲歩しなくちゃ」

「……USMの作戦行動でもあるんだね?」

「ま、その辺りはリョウカと合流したらね。それに、普通にあの子の料理は楽しみなんだよ。なにせ噂に名高い『シェザード家』の御令嬢の料理だもん」

「あー……美食家としても有名なんだっけ」

「まぁね。それに……一応遠い親戚なんだよね、あの子。少しだけ甘くなっちゃうかも」


 そうなのか。確かリオちゃんは……エンドレシアの元王家だよね?

 それが何でコウネさんと親戚なんだろう?


「私のご先祖とその子のご先祖って確か姉妹なんだよね。両方ともノースレシアから嫁いだんだったかな。かなり古い家系図、神話時代に片足突っ込んでるくらい古いヤツに載ってたんだ」

「へぇー……そういえば髪の色も似ているもんね」

「そういうこと。シェザード家は剣を、そして私の家は魔導をそれぞれ色濃く受け継いでいるって感じかな。まぁ私はどっちも天才的だけど」

「自分で言っちゃうかー」


 あ、でもそうするとコウネさんも剣と魔法、両方の才能があるって言えるな。

 魔法剣士だし。


「ん-、コウネちゃんとかがご飯作ってる間暇だし、散々待たせていたリベンジマッチでもする? これまで簡単な組手しかしてこなかったし。ほら、今なら私もユウちゃんもちゃんとした武器あるし、この場所って他から観測できるような距離に何もないし」


 突然、料理をしているコウネさんを眺めていたリオちゃんからそんな提案をされる。


「マジか! いや突然で驚いたけど……いいの?」

「ん-……まぁね。なんかこういう機会が次にいつあるか分からないしさ。今なら私達を止められる人もいないし」

「マジかー……術式保護も何もない状態で俺とリオちゃんガチったら……大けがしない?」

「あー……回復魔法の専門家っていないんだ?」

「今ここにはいないかなー」

「なら、デバイスを非殺傷のスタンモードにして戦おっか。これでも一応本気で戦えるし」

「魔法抜きならそれでいいかなー」

「ふぅ……ままならないねー。本気で戦いたい相手が傷つけちゃいけない相手っていうのは。術式保護も用意出来ないし、いつになったらガチで勝負出来るんだろうね」


 いやいや……そこまでガチじゃなくていいです。そもそも最初の勝負だって訓練施設の中でやった模擬戦なんだし。

 とりあえず軽い模擬戦の延長戦なノリで、少し離れた場所でリオちゃんと勝負する事に。

 なにか、突然勝負を仕掛けたリオちゃんの様子がいつもと違ったから、今回に限っては戦わないって選択肢はないかな。




「じゃあ、決着は武器を手放すか、降参するまでね。んじゃ行くよー!」

「よーし! 来い、リオちゃん!」


 そんな昼食前の軽い運動……と呼ぶにはいささかヘヴィな戦いが始まった。

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