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第二百四十一話

(´・ω・`)色々と誘惑の多い生活。

「つまり、前魔王の娘がクーデターを……? なんでだ?」

「そいつは本人にしか分からねぇだろうな。だが、元々魔王は世襲制じゃねぇ。選挙によって決められる。勿論、それなりの家柄と実績は必要になるがな」

「前魔王をすぐにでも廃さないといけない理由があった……? まさか凄い暴君だったとか」


 もしそうなら、手段こそ褒められたものではないが、国の為に行動を起こした事になる。

 だが――


「少なくとも、税を上げる事も、エンドレシアとの戦争を激化さするような政策も取らず、無難に国を治めていた。無論、他国との関りは必要最小限に留めていたがね、これまで通り」

「その辺はアートルムのおっさんにしか分からねぇだろうな。俺は殆どの時間を地球で過ごしていたしな」


 なら、純粋に野心、か?

 それとも彼女だけが知る、父親の恐ろしい野望を食い止めようとした、とか?


「お前の顔を見るに、クーデターが何か正義の元に行われたなんて考えてるんだろうが、俺に言わせりゃそれはないな。アイツは……娘の『カノプス』は野心の塊だ。ある意味じゃあ最も魔王らしい人物だな。まるで神話時代の原初の魔王みたいな」

「……アラリエル様。あのような簒奪者にその名を冠するのは止めて頂きたい」


 クーデターの首謀者は『カノプス』と言うらしい。

 女性のようだが……アラリエルをしてそこまで言わせるような女傑なのか。


「! カノプスだと!? なんとまさか……あの人がクーデターを……?」


 すると、その名前を聞いたショウスケが驚きの声を上げた。

 接点なんてなかったように思えるが……?


「へ、随分勉強してるな。伊達に眼鏡かけてる訳じゃねぇみてぇだ。ああ、お前が想像しているヤツと同一人物だ。『エンドレシア紛争の英雄』にして『異界の調停者』のカノプスだ」

「なんか凄い二つ名だけど、詳しく教えてくれない?」

「私も触りの部分くらいしか知りませんね。カノプス様は確か『三世代ぶりに現れた四翼金角の上位魔族』という事くらいしか聞いていません」


 ふむ? 特殊な身体特徴を持っている魔族の事か?

 金色の角となると、アラリエルのこめかみにも普段髪に隠れているが、金色の角があったはずだ。


「カノプスは歴代で最も『原初の魔王』に近い容姿で生まれた王族だ。王族って言っても、かなり分家が存在する上に血も薄まってる。だがアイツは先祖返りでも起こしたのかってくらい伝承の魔王と似た部位を持ってる。原初の魔王は『二対の黒翼と黄金の角、両目に紅の魔眼を備えた銀髪の魔族』って言われてる。一応、俺も弱くはあるが両目が魔眼、銀髪、黄金の角を持ってる。だがカノプスはそれに加えて翼まで持ってるって訳だ」


 ……それは、後ろ姿だけではあるが、俺達がドバイで見たジョーカーの姿そのものだった。

 俺と同じ事を考えたであろう皆に『今はアラリエルの話を聞こう』と小声で呟く。


「俺とアイツは歳も近い。だが俺は地球に逃れた一方で、アイツは魔王になった父親の傍で、武力を行使し続けた。無論、歴代で最強に近い身体能力と魔法の腕で、獅子奮迅の活躍をしてたって訳だ。俺は一昨年も一度、アイツに会ってるんだよ」

「あ、そういえば僕がお土産に本を頼んだ時だったかな? その時はまだ国はここまで荒れていなかったんだ?」

「ああ、若干の緊張感はあれど、そいつはこの大陸の日常だ。だが、恐らく水面下では既にカノプスが準備を始めていたんだろうぜ。なにせその時に会った俺に『私は歴代で最も原初に近しい存在だ。そしてアラリエル、お前は最も尊い血を最も濃く受け継いでいる。私と契れ、その子こそが時代のノースレシアを導くだろう』なんて言いやがった。大言壮語もいいとこだって思っていたが……既に自分が魔王の座を簒奪する未来を見据えていたんじゃねぇかって今なら思う」

「……魔王を世襲制にするつもりだった? アラリエルとカノプスの子供なら、確かに原初の魔王に近い子供が生まれそうだけど」


 で、その目的はなんだ? ノースレシアはまさか、原初の魔王、つまりジョーカーに近い力を持つ魔王を新たに指導者に据えて、世界征服でもしようって言うのか?


「カノプスの現在の要求はなにかないのか? お袋さんを人質にしている以上、要求はあったんじゃないか?」

「俺だ。俺がカノプスに下って、子を成す事だとよ。そもそも、俺こそが正当な魔王後継者だって主張する人間も多い。ここにいるアートルムのおっさん率いる軍勢とかな。そういう連中も、俺がカノプスと手を組めば一挙にアイツの下に付くって寸法だ。そうなりゃ流石に前魔王に忠実な国境防衛軍、橋を守ってる連中だって従うだろうよ」

「なるほど。まずは国内の勢力を全て統一するって事か……でも、アラリエルはそれに従うつもりはないんだよな?」


 仮に、アラリエルの気持ちを無視し、人質の無事を最優先するのなら要求を呑むのもありなのかもしれない。国を平定するのが目的なのだとしたら、選択肢としては一考に値する。

 けれど……それくらいアラリエルだって考えているはずだ。

 しかし、アートルムさんを始めとした人間がそれを許さないのだろう。

 まだ短い時間しか一緒に過ごしていないが、一種の狂信めいた思惑を感じる。

 それになによりも――


「アラリエルはカノプスに実権を握らせるのは危険だと考えているんだな?」

「ああ。得体が知れないなんてもんじゃねぇ、アイツは……力に飢えてやがる。正式に魔王に選ばれた人間の元には『魔神龍』が降臨する。だが今はまだ現れちゃいない。国が荒れている今の状況を魔神龍サマは良しとしないって事なんだろうぜ。そして正式に魔王になったあかつきには――」


 アラリエルは、まるで小馬鹿にするような、恐れているとも取れるような表情で続きを語る。


「『原初の秘宝』に挑もうとしてるんじゃねぇか、って俺は予想してる。おとぎ話みてぇな話だが、アイツなら考えられる」

「サラっと新しい単語出さないでくれるか? はい解説よろしく」

「あ、じゃあ珍しく僕が解説してもいいかな?」


 すると、なんとまさかのカナメが挙手をしたではありませんか。

 ……まじかよ。カナメですら知ってるような有名なお話なのか?

 俺……グランディア風俗学も一応講義取ってるんだけど……。


「なにせアラリエル君に原本の写しをお土産に買って貰ったからね、僕も読んだんだよ『三大宗教の始まり』っていう本」

「あー、前にアラリエルの帰省の時に頼んでたっけ?」

「そ、僕の姉が希望していてね。僕も読んでみたって訳さ。その中の『原初の魔王』に関する項目でね、彼の偉業の中に……その力と財宝をノースレシアの聖地に安置したっていう記述があるんだ『原初の魔王は自身の強すぎる力を聖地に封じ、後世にそれを残す事を否とし、眷属たる魔神龍に聖地を守らせた。魔神龍は今もかの地にて真なる魔王の帰還を待つと言われている』とさ。これって、捉えようによっては『真の魔王に相応しい後継者は力を得られる』って解釈にならないかい? だから、歴代の魔王は必ず、魔神龍に聖地へと連れて行ってもらい、原初の魔王が封じたという遺産を手にする事が出来るのか試すんだってさ」

「まぁいわば継承の儀の一部みたいなもんだな。はなから継承なんて出来ない、ただの形式の一部だ。それをカノプスは……たぶん本気で自分が得ようと思ってるんじゃねぇかって」

「なんとも……人騒がせな魔王だなぁ、その原初の魔王様って」


 本当人騒がせっすよヨシキさん。

 もう本人に解決とかしてもらえないですかね……?


「遺産が手に入らなくても、魔王の称号はそれだけで大きな意味を持ってんだ。あの野心家が何もせずに大人しくこんな北方に引き籠ってるとも思えねぇ。手始めにエンドレシアを侵略し返して、その次は……なんて最悪のシナリオもありえるって訳だ」

「ええ、そうです。だからこそ……今こそ正当な魔王が立つべきなのです。ササハラユウキ、それにSSの諸君。我々がアラリエル様を頂きへと導こうとしているのは、何も妄信、狂信や血への信仰ではない。現状、既に彼しかいないのだ。魔王の座に相応しい血筋を持つ人間が。既に名家と呼ばれる家の、特異部位が発現している人間は『事故』によりこの世を去っている。我々はそれをただの事故だとは思っていない。この先、この大陸が戦乱へと向かわせるのが目に見えている人間を玉座に着かせる訳にはいかないのだ。故に……彼の意思に反するのを承知で、アラリエル様に我々の旗印になってもらったのだ」


 アートルムさんはそう語った。

 確かに、既に魔王に相応しい人間がカノプスとアラリエルしかいないのなら……そして正当な血筋と呼べる人間がアラリエルしかいないのなら……魔王になるべきはアラリエルだ。

 この世界に再び戦乱を、そして異界のゲートを手中に収めているカノプスの陣営をこのままのさばらせておくわけにはいかない。

 勝手だが、俺もアートルムさんに追従するような形で、この考えをアラリエルに伝える。


「……お袋を救った先で、選ぶしかない道がそれなら、俺も覚悟を決めてやるよ。別に魔王になんざ興味もねぇし、こんな古臭い風習、廃れても構わねぇ。だがもし、それが戦乱の世を回避する手段だってなら……俺は原初ではなく『最後の魔王』になってやるよ。こんな血と力による継承も称号も、俺の代で終わらせる」

「……王制の終わりを宣言するって事か。正直時代も変わってるんだしそれも良いんじゃないかなって思うのは、俺が無関係の人間だからなのかね」


 コウネさんの祖国は、かつて王政復古を望んだ事もあったが、今は時代の変化を受け入れて変わりつつある。

 その一方で、セリアさんの祖国は今もエルフの王族が国を治める王政国家だ。

 こっちも問題なく……はないが、今は平和そのもの。

 アラリエルの言う魔王の廃止は、良いのか悪いのかは一概には言えない物だ。

 だが、内戦がここまで続くのは、そもそも魔王云々よりも、この国が閉ざされた国である事と、エンドレシアとの戦争が原因な気がする。


「魔王就任の後は何か大きな功績でも築かねぇと辞められそうにねぇけどな。ただ……国が荒廃するのはご免だ。だからユウキ、今回はこっちの国を救う手伝いをしてくれ。地球との連絡手段についてはこっちの方でなんとか出来ないか作戦を考える。俺らが揃っている以上、戦力を二つに割いてもギリギリどっちの奪還作戦も成立するかもしれねぇ」

「ん-、とりあえずここまで殆ど俺が話を進めちゃったけど、俺としてはアラリエルに協力したい。みんなの意見は――」


 聞くまでもないが、意思の確認は必要だからな。

 皆、当然のように頷き、クラスメイトであるアラリエルに助力する事を決めたのだった。


「お前ら……恩に着る。全部終わったら相応の礼はする。そうだろ、アートルムのおっさん。こいつらは間違いなくどの作戦においても最高の戦力になってくれる。アンタらの最終目的が俺の魔王就任だってんなら、こいつらは間違いなくその要になる」

「勿論です。望むままの報酬を与えるとお約束します」


 いやいや、そんな事言うと欲望駄々洩れになる人間が出てきますよ?

 カイとかカイとかカイとか――


「……王家と繋がりが持てるとなると、就職の斡旋も……しかし俺はもう秋宮の幹部候補生と言われている……不義理な真似は……しかしグランディアで就職が叶うのならば……」

「ショウスケ……まさかお前がそっち側だなんて」


 欲望漏れてるのはショウスケの方でした。

 カイ? なんか報酬で何買おうか悩んでましたよ。健全です健全。


 話が一段落ついたその時だった。この酒場の奥に隠されたアジトに、なにやら緊急を知らせるようなコール音が鳴り響く。


「なんですか、これ」

「どうやら表の店にイレギュラーが発生したようだ。恐らく君達が来店した時も同じ音がしたはずだよ」

「じゃあ……俺達みたいにここを探る客が来たって事ですか?」

「……通信で状況を聞いて来よう。アラリエル様、彼等とここにいてください」

「あいよ。念のため武装の準備しとけよオメェらも」


 俺達も各々のデバイス、武器を携え、事の詳細が報告されるのを待つ。

 すると――


「どうやら店ではなく、シュヴァインリッターの支部の方で問題が起きたようだ。私は一度支部に戻らせて貰う」


 そう言ってアートルムさんが足早にアジトを去り、俺達は残されてしまった。

 だが……流石に動くだろ、これは。


「さて、アートルムさんを追いかけるのは誰にする? 全員で行く訳にもいかないだろ?」

「ユウキ君、行ってきなよ。さらにもう一人となると、術師の誰かかな?」

「では私が行きますわ。索敵、諜報が必要かもしれませんもの」


 俺とキョウコさんが支部に戻る事を決め、残りはアジトで有事に備える。


「ちょっと離れていたうちにお前ら随分『らしい動き』出来るようになってんな。ジェンがいなくても現場で問題なさそうじゃねぇか」

「ああ、これでも修羅場をくぐってきたんだ。それにジェン先生は、今は俺達の担当の教師じゃないんだよ。今は実家に戻ってる」

「ああん? じゃあお前らの指導は誰がやってんだよ」

「ふふ、そういえばアラリエルとは顔を会わせていなかったな。地球に戻る際、アラリエルの同行も許可されたら紹介しよう。我々の新しい教官、本人曰く臨時の指導員らしいが」


 そんなやり取りを尻目に、俺とキョウコさんは再び支部へと向けて駆け出したのだった。


(´・ω・`)一体誰なんだ!

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