第二百三十八話
(´・ω・`)ルシエル探索も割と気に入ってるよ。
たまに野良だとクリア出来ない日とか来ると楽しい。
『酒場』というよりは、食堂を兼業している店だったのか、思っていたよりも女性や子供も多く出入りしている店だった。
俺は店員に『少し遅れて連れが来るので、団体客もいける席でお願いします』と注文し、仲間がやって来るのを待つ。
「いらっしゃい、キョウコさん。なんだか自然に街に入れたみたいだね?」
「ええ。少し足の悪いお婆さんがいらしたので、荷物を持って差し上げました。これは別に怪しまれない為の工作ではないのですけれどね」
なるほど純粋な親切心でしたか。俺はてっきりはむちゃんを使ってご老人を転ばせて、それを介抱して一緒に……みたいな流れを作ったのかと思いました。すみません、勝手に悪人に仕立ててしまいました脳内で。
「恐らく他の皆さんも続いて来る筈ですわ。どうやら街の出入りに制限がないようですから」
「なら一先ず合流は問題なさそうかな。店員の目も気になるし……とりあえずみんなの分も飲み物でも注文しておこうか」
店員に頼み、飲み物が運ばれてくる頃には、他のクラスメイトも無事にこの店に辿り着いていた。
「とりあえず……乾杯しようか? 怪しまれないように」
「そういうことなら……では無事の到着を祝って乾杯!」
ショウスケのコールに皆も調子を合わせ、グラスを掲げる。
ちなみにアルコールではありません。なんか特産の果物のサイダーです。
青くて綺麗なんですけどね? 『女神の涙』とか言うらしいです。
……なんかRPGだと重要アイテムだったり、凄い回復アイテムだったりしそうな名前ですよね。まぁ実際にはハーブフレーバーの炭酸飲料なんですけど。
「ふぅ……一応日本円も使えるから多少は余裕があるけど、どこかで活動資金も稼ぎたいよな」
「そうだな。ササハラ君、とりあえず今の手持ちの軍資金をみんなで出してみよう」
「そうですわね。作戦時に支給された資金も、途中で幾らか使いましたし」
ドバイでの事件。任務前に全員に同じだけ金額が支給されているが、当然買い食いやその他で消耗すれば持ち金も減る。
つまり――
「……お恥ずかしい」
「コウネ……お前ここの飲み物代も払えないじゃないか……」
「ついつい、ドバイの屋台で散財してしまいました……」
つまり、ドバイでの任務中に大量の買い食いをしたコウネさんはもう、素寒貧って訳です。
おかしいな……この中で一番お金持ちのお嬢様のはずなのに……。
「とりあえず全員の合計が七万とちょっとか。宿の事も考えるとあまり余裕があるとは言えないな……」
「ふむ……最悪野営も視野に入れるとして、まずは資金を稼ぐ手段としてシュヴァインリッターの支部に顔を出すのもありだろうな。どの道日本との連絡が可能か調べる必要もあるのだし」
ショウスケの提案に乗り、飲み物を飲み終えた俺達は一路シュヴァインリッターの支部を目指す事に。あと、コウネさんはおかわりしようとしないで下さい。
この街『ヴォンディッシュ』は、コウネさん曰く王都……俺達が囚われていた砦のある街よりも規模が大きいらしい。
元々は観光客でにぎわっていたそうだが、ここ最近は情報通り後継者争い……というか、クーデターでも起きていたのだろう。すっかり国外の人間の姿が減っていた。
「一応こっちのシュヴァインリッターとして活動している人間もいるみたいですけどね。ですが……地球との連絡どころか、他の大陸との連絡も取れていないと見た方がいいかもしれません」
「前魔王が亡くなったのだとは思うが……砦の中で俺達が得た情報を考えると……クーデターで殺された可能性もある、か。その影響で他大陸との情報のやり取りも規制されている、と」
「正直、あまり他国の情勢に深入りしたくはないのだが……難しいだろうな」
「ま、でもとりあえずダメ元でシュヴァインリッターに行こう? 一応、私達の通ってる方のシュヴァ学も『緊急時にはシュヴァインリッターに助けを求める事が出来る。グランディアに存在するシュヴァインリッター各支部は生徒を保護する義務がある』っていう契約だもんね。とりあえず……また砦に引き渡される事にはならないんじゃないかな?」
伊達に、同じ名前の学園ではないのだ。
姉妹校という訳ではないが、勿論この二つの組織は互いに交流もある。
それに……リョウカさんの正体はグランディアの神話時代の英雄という話だ。恐らくこのシュヴァインリッターという組織にも関りがあるのだろう。
というか、関りがあるから、わざわざ学園の名前も同じにしたのではないだろうか?
「あった。やっぱり人通りの多い場所にあるね。一応……警戒のために中に入るのは俺だけにしよう。みんなは観光客のふりでもしてその辺りにいて欲しい」
「そうだな、頼む」
「シュヴァインリッターはグランディア全土に渡る一大警察機構。絶対中立の立場らしいが、今この大陸は正常ではないからな……」
「ユウキ君、気を付けてください。この最果ての大陸で活動するシュヴァインリッターは皆、一線を画する実力者ばかりだと聞きます」
「……うん、分かった」
扉を開け中に踏み入る。
たぶん、神話時代のような過去なら、ここは『冒険者ギルド』とでも名乗っていたのではないだろうか?
無論、今では近代的な建物であり、使用している人間の服装も粗野な物ではない、極めて現代的ではあるのだけど。
「すみません、少し内密の相談があるのですが……」
数ある受付の一つ、職員に小声で話しかける。
「内密……それはこの場所では話せない事でしょうか」
「……すみません、メモを一枚ください。今から一言だけそこに書きます。それを見て判断して下さい」
俺はただ一言『砦から逃亡してきた』と書き記す。
どこの、とは書かない。だが恐らく察してくれるはずだ。
「……少々お待ちください。上の者に確認を取って来ます」
「分かりました。建物の外で待ちます」
『こっちはすぐに逃げ出せる状況を確保するからな』と暗に示す。
だがそれでも文句はないようで、受付の人間が奥へと消えていった。
「お待たせ。今受付の人が上役の判断を聞いて来るってさ。まぁ……そのまま捕まる可能性もあるけれど。とりあえずみんなは引き続き外で待機お願い。俺は……一時間経っても戻らなければ救出を頼もうかな」
「ん、分かった。中の様子はどうだった?」
「別段緊張感があったり、警戒態勢って感じではなかったね。まぁどうなるかは……向こうの出方次第かな」
「ユウキ、くれぐれも気をつけてくれ。ここに来てからお前にばっかり負担をかけて悪いと思うけど……頼んだ」
「気にすんなって。んじゃ……適当に食べ物でも買って待っててくれよな」
そうカイに軽口を叩いて別れると、程なくしてシュヴァインリッターの受付さんが外に迎えに来てくれた。
罠……ではないな。シュヴァインリッター側が何かおかしな動きをしていないか、実はキョウコさんに探ってもらっていたのだ。
俺が外に出ている間に、内部で手勢を集めていたり、建物の周囲に人が集められたりする様子もなかった。
じゃあ、宜しくお願いします、受付の魔族のお姉さん。
「お待たせしました。支部長がお会いになられます。この扉の先にいらっしゃいますが、まずは武装解除にご協力して頂けますでしょうか?」
「はい。自分はこのデバイスが唯一の武装になっています。お預かりください」
建物の上階、扉の前でデバイスを預ける。
応接室に通されると、そこには既に支部長と思われる制服姿の男性がソファに腰かけ、こちらを値踏みするかのような視線を向けていた。
「失礼します。この度はお時間を割いて頂き、誠に感謝致します」
「なるほど……ではかけてくれ」
恐らく彼も魔族だ。特殊な器官が見て取れるわけではないが、人よりも若干肌の色が白く、どことなく人間離れしているような印象だ。
ちなみにさっきのお姉さんは普通に尻尾が生えてました。
「さて……砦から逃げてきたという話だったが、その詳細を説明してもらおうか?」
「はい。ですがその前に開示していなかった情報を一つお教えします」
俺はシュヴァ学から発行されている生徒手帳、つまり身分証明書を提示する。
「緊急時にはこちらに保護を求める事が出来る、と契約を交わしていると聞いています。まずはこちらの身元の安全を保障して頂けると幸いです」
「な……生徒……だと! 何故今の情勢で地球の生徒が……! っ!? いや、君は『あの』ササハラユウキだと言うのか!?」
「これには複雑な事情があります。すみません、自分は今貴方達を警戒している状態です。既にクーデターが起き、内乱状態にあるこの大陸……そこに存在する以上、シュヴァインリッターとはいえ安易に信用しないように動いている状況です。その上で、自分は皆さんを信用しても良いものか考えているのです」
「この街はまだ首都のように『簒奪者』の手勢が入り込んでいる事もないが、それは単に我々がこの場所にいるからだ。現在、この大陸から外へと通信を送る事は出来ないが、それでも人力で情報を出す事は出来ている。所属している人間や商会の人間、それらを外部に逃がし、情報を流出させている。こちらもある程度兵力を確保している以上、簒奪者共も表立って手出し出来ない、という訳だ。尤も……クーデターの事実は城内と砦にいる人間にしか知られていないのだがね。我々も今回の件で簒奪者共に協力を持ちかけられた故にこの事実を知っている。まぁ協力する気がないので決裂、こうしてこの街から相手方の動きを監視している立場なのだよ」
「……では貴方達を信用しても良いと?」
「いや、まだ確たる証拠をこちらは提示していない。そちらの信頼を勝ち取る為に、こちらが見せられる手札はまだある。だが同時に、君達こそ簒奪者の協力者である可能性も捨てきれない。故に今どうするべきか考えている」
こちらが警戒しているように、同じくらい向こうも警戒している。
そうだろうな、俺達のような半分まだ生徒である人間が抱く危機感くらい、この激戦区で戦い続ける支部長が抱かない筈がない。
「分かりました。ではこちらももう一つ情報を開示します。現在、この建物の外にクラスメイトを七人、待たせています。警戒の為、ここには俺が代表で入ったという次第です」
そう話した瞬間だった。
支部長の身体が一瞬ブレたと思ったのとほぼ同時に、彼から一振りの剣を突きつけられる。
が、同時に俺も風の刃を射出し、支部長の顔を掠らせる。
一筋の血が、支部長の頬をつたう。
「……何のつもりですか。この剣程度で俺に傷をつけられるとでも?」
喉に突きつけられている剣に、力を加える。
喉で押し返して見せる。
常軌を逸した今の俺の身体強化は、こんな剣を通しはしないのだから。
「いつでも殺せますよ、こちらは」
「……貴様、今外に七人いると言ったな。それは嘘だ。SSクラスに所属する人間は八人。だが、現在SSクラスは全員が揃っている状態ではない」
「……なるほど、アラリエルが今いない以上、七人であるはずがない、と」
……そうか、じゃあある程度信用してもいいのかもしれないな。
「アラリエルが今どこにいるか、知っているんですね?」
「……お前の目的はなんだ」
「では一つこちらが情報を提供しましょう。SSクラスは今、アラリエルを含めて一〇名所属しています。そのうち一名は治療専門故に現在一緒に行動していません。アラリエルが休学中に二名、このクラスの合流したんですよ。どうやら本当にこの大陸には外の情報が伝わっていないようですね? ……恐らく最後に情報が入ったのは『俺がサーディス大陸の事件を解決した時』でしょう」
たぶん俺の名前が知れ渡ったのとほぼ同じタイミングで、この大陸は隔絶されてしまったのだろう。
だから、情報が入ってこないんじゃないか?
「その情報を信じろと?」
「すぐに外にいるみんなを呼んで生徒手帳をお見せすれば解決する話かと。まぁこっちを先に信用して貰わないといけませんが」
「……分かった、呼んでくれて構わない」
「英断です」
俺は、受付のお姉さんと共に、外にいるみんなの生徒手帳を受け取りに向かうのだった。
「みんな、生徒手帳を出してくれないかな?」
建物の外で本当に買い食いをしていたみんなに合流し、要件を伝える。
同行していたお姉さんが皆の生徒手帳を丁寧に一つずつ確認したと思うと、改めて今度は俺達全員を応接室に案内してくれる事になった。
……とりあえず信じて貰う事は出来たのかな?
「ユウキ、これは一体どういう状況だ?」
「ちょっとみんなが本当に生徒なのか確認が必要みたいでさ。たぶん、向こうも面倒な状況なんだと思う。けどとりあえず……俺達の敵ではないと思うよ」
「そうか……ならばデバイス持ちはいつでも武装解除出来るようにしておくべきだろうな」
「了解しましたわ。ただカナメ君も私も、デバイス以外の武装を持っていますので、そちらは隠しておきましょうか」
「そうだね。ショウスケ君は……デバイスはデバイスでも召喚した品だし、隠しておいてもいいんじゃないかな」
「そうだな。ユウキ、何か交渉があれば俺も助言出来ると思う」
「そうですね、同じく私も交渉のカードは持っています。我が家の密偵はこの大陸にも存在しているはずですから」
「そういえばコウネさんってこっちの情報も探ってたもんね」
さて……じゃあこっちのシュヴァインリッターが持っているという情報がなんなのか、確認させてもらいましょうか。
(´・ω・`)ソウラスも緊張感あって楽しいね!
毎週SG貰えてうまうま!
(´・ω・`)クリア出来ないって? ……そっかー




