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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十八章

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第二百三十三話

(´・ω・`)モニタアーム使ってモニタ横に並べるのに憧れていました

サブモニタにサブPCとゲーム機繋いで、いつでもゲーム出来るようにしたよ!

 カヅキさん先導のもと森を抜けると、そこには確かに小川が流れていた。

 澄んだ綺麗な水が緩やかに流れる、ここが異界だと忘れてしまうようなそんな美しい光景。


「おお……! これって飲んでも大丈夫な水だと思う?」

「どうでしょう、流石に判断が難しいのですが……」

「うーん……煮沸消毒しようにも器もないしねー」

「ふむ……毒性があれば土壌汚染される事もあるだろうが、少なくともここまでの道中で植物に変化は見られなかった。水草や岸辺の花も見知った物に見えるが……」


 すぐさま飲んでみる、という選択肢はさすがにない。

 だが、少なくとも水分が豊富ならコウネさんの魔法で氷に変換するのに事欠かない。

 が、問題は魚、水棲生物だ。食糧になりそうな生き物はいるだろうか……。


「提案があるのですが、皆さん宜しいですか?」

「どうしたの、キョウコさん」


 キョウコさんが皆を見渡し発言する。


「水辺は古来より文明と共にあると言われています。それはもしかしたら魔物も同じかもしれません。仮にも人と同じ姿の相手です。川辺に集落を形成している可能性はありませんか?」

「その発言の意図は?」


 もしかして、キョウコさんも相手との交流、接触の必要性を言い出すのだろうか?


「つまり敵勢力のコロニーが近くにある可能性があります。そんな場所での野営はリスクが大きい、という事ですわ。野営地を整え食糧を探す班と、川沿いに下り集落、魔物の住処がないか探索する班とで分ける必要があるのではないでしょうか?」


 ではなく、純粋に敵と考えた上での提案だったようだ。


「確かに、先程の魔物は間違ってはいたが、鹵獲したと思われる軍服を着る程度の知能はあった……何かしらのコミュニティを築いている可能性があるな」

「……あの強さの魔物の集落なんて考えたくもないけど……調べない訳にはいかないよね」

「だとしたら最高戦力を割り当てるべきだ。ユウキ、お前に頼む事になるが、構わないか?」


 確かに、偵察とはいえ危険性の高さはこれまでの比じゃないだろうな。

 俺は確定として残りは……。


「相手が相手だ、出来れば交戦時に単身で撃破可能で、なおかつ『確実に逃げ切れる人間』がいいかな。最低二人、片方が足止めしてでも情報を持ち帰られる人間……カイ、お前と俺の二人で行くぞ」


 先程の交戦時、皆の連携で魔物を倒すことが出来たが、単独でも恐らく勝てたであろう人間は、カイと一之瀬さんの二人だけだった。

 ならば移動速度で勝るカイを俺のパートナーに指名する。


「よし、俺だな。じゃあ……下流に向かって探索、でいいのか? 上流は?」

「上流はさらに川幅も狭く岩場も多くなる。ほぼ険しい山岳地帯になるはずだ。拠点を作るのには向いていないのではないか?」

「そうですわね。では私達は周囲を探索、野営地を整えます。ヤナセ君とササハラ君は下流の探索、お任せしますわ」




 川沿いに下り始めてはや三十分。川幅も広がり流れもそれなりに増え、小川から立派な川に変化した頃。

 仮に集落を築くならこういう川の近くの方が向いているだろう。

 そう考えを巡らせていると、前を歩くカイが手を上げ、こちらに止まるように無言で指示を飛ばす。


「……岩陰に移動するぞ」


 カイの指示に従い、大きな岩陰に隠れて声を殺す。


「キョウコ程じゃないけど、俺も電気で周囲の簡単な地形は把握出来る。川が近くにあるお陰でな。ここから緩やかに川がカーブしてる。その先、約二〇〇メートル先に人工的に組まれた可能性のある流木がある」

「なんらかの巣か、それとも防護柵のつもりか。了解、ここからさらに慎重に行動しよう。川沿いじゃなくて森の中を移動するか」


 その方針で移動、問題の流木のたまり場が見える場所に到着した。

 それは、遠目からだとビーバーの巣のように見えるくらい、高く、大量に積み上げられていた。

 確かに自然に出来た感じじゃなさそうだ。


「あの向こう側を探ってみよう。カイ、どうする? 二手に別れるか?」

「いや、まだ二人一緒の方がいいんじゃないか? 正直、この状況で別れるのは戦力的に不安なんだ。ミコトの手前あまり弱気な事は言えないんだが……悪い」

「俺も同じく不安だよ。よし、じゃあ二人で探ってみようぜ」

 なんだ、結構一之瀬さんの事も意識してるんだな、お前。

 この状況でそれが出来るなら大したもんだよ、俺も負けていられないな。






「驚いたな……本当に集落だ。キョウコさんの読みは正しかったみたいだな」

「生活レベルは大分低いよな……? なんというか目の毒と言うか……人間にしか見えないのにほぼみんな全裸だし。一部、軍服とか……服を着てるというか、身体に引っ掛けてるヤツもいるみたいだけど」


 森から回り込み、問題の流木の向こう側へ移動すると、そこには十分に『村』と呼べる集落が存在していた。

 とはいえ、極めて簡素な小屋、どこからか拾って来た、恐らく異界調査団の備品を組み合わせた物や、適当に組んだだけの丸太といった風に、原始時代の人間に毛が生えた程度の文化レベルではあったのだけど。


「……みんな適当に座り込んで何かを食べてるだけだな。生活っていうか『生きてるだけ』みたいな」

「なぁユウキ、もしかして食べ物とかあるんじゃないか……? どうする、集落があったって報告するだけでいいのか?」

「……あの人数相手にするのは厳しいな。忍び込むにしても……リスクが高いだろ」

「でも、もう少し集落の内部を探っても良いんじゃないか? アイツら軍服だけじゃない、普通の服……の残骸っぽいのも身に着けてる。もしかしたら異界にも人がいるんじゃないか? 何かしらの痕跡、グランディアに戻る為のヒントだって……」

「……いいのか? 交戦するハメになるかもしれないんだぞ」

「正直恐い。でもこの異界から抜け出すヒントがあるかもしれないじゃないか……」


 カイの言う事にも一理ある。だが、ここに集落があった事をキョウコさん達に報告する事だって同じくらい大切だ。

 なら……。


「カイ、じゃあお前が戻って報告をしてくれ。この集落の調査は……俺がやる」

「……いいのか? 確かにこの手の任務はユウキの方が向いているとは思う、だが今回は……」

「地球に戻りたいって気持ちは俺だって同じだ。一番合理的に考えても潜入と報告で一人ずつ分けた方が良いだろ」


 恐らくカイはもう、気持ち的な余裕は少ないのだと思う。

 こいつは割と素直な方だけど、ここに来てから弱音を、胸中を俺に語るようになっている。それは急激な精神の成長なんかじゃない、心が弱っている証だ。


「道中、川沿いに魔物の痕跡がないかだけ調べてくれ。もしかしたら川沿いに哨戒とかしているかもしれないからな。そうなれば俺達の野営地は移動しなきゃいけなくなる。でももし、魔物が通った痕跡がないようなら、安心して休憩出来るだろ?」

「分かった。ユウキ……くれぐれも無茶はするなよ」


 ああ、今回に限っては無茶なんて出来ないさ。

 何せ、あんな強力な魔物が……少なく見積もっても一〇〇体以上ひしめく集落なのだから。






 カイと別れ、集落の片隅から入り込む。

 残念ながら潜入任務に役立つような道具は、こんな原始的な集落ではなんの効果ももたらしてくれない。


「……焚火をする程度の知恵はあるんだな」


 集落の中、人間にしか見えないが、髪型や言動にあまり知性を感じない魔物達が、焚火を囲んで、何かを炙り食べている姿が見える。

 だが不思議な事に、それらは全て成人……大人と呼べる大きさの個体ばかりだった。


「子育てをしている様子は……見られないな」


 ただ時折、小さな個体、子供と呼べるサイズの魔物が、大人に混じって何かを炙り、食べている姿が見える。

 人間と同じように繁殖していくのだろうか……?


「見た目が人間でも存在しちゃいけない魔物だよな……アイツら」


 もしかしたら、ここで出来るだけ数を減らした方が良いのかもしれないな。

 まぁ、今はそこまでこちらの体力を消費して戦う必要はないのだけど。

 今はただ見つからない事だけを考え、集落の中を探っていく。

 瓦礫や木を組んで簡易的な住居にしているだけだと思ったのだが、中には『小屋』と形容出来るくらい、しっかりと建物だと思わせる物もある。

 まぁそれらは、過去に異界調査団が残していったトラックやらテント、コンテナ等を再利用して作られているようなのだが。


「何気に見ていたけど……焚火でアイツらが炙って食べていたのって何かの肉か魚だよな……調味料は期待出来ないけど……食糧は期待出来るかも」


 それに、異界調査団から鹵獲したと思われる資材があちこちで使われている。なら、アイツら程度の知能じゃ役に立たない物、資料か何かがどこかに残されているかもしれない。

 この異界を抜ける為にも、少しでも情報が必要だ。


「……でも、異界調査団だけじゃない」


 ドバイで、俺達は小規模のゲートがいくつも生まれ、そこから魔物が溢れ出て来たところに遭遇した。

 ヨシキさんはあれを異界の魔物と断言した。

 ならば『異界と小規模ではあるが偶発的に繋がってしまう現象』が存在するって事になる。

 それは当然……異界から魔物が来るだけじゃない。その逆もありえるのだ。


「……過去に、ここに迷い込んで来た人間もいたんだろうな」


 あの魔物達は、軍服を適当に引き裂いて身体に巻き付けていたりした。

 でもそれだけじゃないのだ。明らかに一般人の私服と思われる布切れを纏う個体だって大勢いた。

 もしかしたら異界調査団が私服を持ち込んだって可能性も考えられるが……量が多すぎる。

 きっと、長い歴史でここに迷いこんだ人間も大勢いたのだろうな……。


「ここも元は……コンテナだな。バラして屋根にでもしたのか」



 集落の中でも、一際大きな小屋へと向かう。

 どうやら中には誰もいないようだ。もしかして共同の居住スペースかなにかだと思ったんだけどな。なら大きさ的に……倉庫か何かか?


「食糧とか保管してたり、調査団の装備とかは――」


 薄暗い小屋の中、何か目ぼしい物はないかと目を凝らす。

 何やら少しだけ生臭いというか、獣臭もするが、ひどい悪臭というほどでもない。


「もしかして、ある程度の食品加工は出来るのか……?」


 何か干物でも作っているのだろうか。という事は塩がある?

 すると、小屋の奥の方で、天井から大きな塊が幾つも吊るされているのが見えた。

 まさか動物、肉の加工でもしているのだろうか?


「まだ生っぽいな……異界にも動物が……それとも他の魔物――」


『他の魔物』と言って、気が付いた。

 今俺が触っている肉が、まるで人間の肌のような質感だという事に。


「な……! まさかこいつら共食い――!」


 肉を大きく揺らすと、そこから丁度暗がりに日光が差す。

 見上げると、その肉は魔物ではなかった。


「…………」


 恐らく、異界がかつてグランディアの一部だったという話は事実だと思う。

 さらに当時の住人が変質し、魔物になったのだという説があるとエリさんに聞いた。

 そして実際、今日俺達が戦った異界の魔物は、恐らくかつてグランディアの住人の末裔なのか、西洋風の人種に酷似した容姿をしていた。

 だが、今目の前につり下がっているのは――


「……アジア圏内の人間。あの軍服の持ち主……かもしれないな」


 人が、食品として加工されていた。

 その光景はあまりにも衝撃的で、たぶん俺じゃなかったら胃の中身を吐き出していたかもしれない。

 いや、俺だってこの光景は……気持ち悪く、不気味で、怒りが込み上がり、恐怖をも感じる。


「……遺体は俺が処分する。あいつらの飯になんて絶対にさせない」


 あまり大きな音は出せないからと、風絶ではなく風刃で『肉』を細切れにする。

 撤収する時にこの腹立たしい『貯蔵庫』に火でも放つか。


「こっちはなんだ……コンテナ?」


 さらに奥へ進むと、鹵獲したであろうコンテナが並べられているのが見えた。

 もしかしたら調査団の装備や資料でも残っているのかと思い、中を覗いてみる。


「なんだこれ? 浴槽代わりにでもしてるのか?」


 コンテナは開閉部分を上にし、そこに大量の水を入れているようだった。

 生活用水か、それとも雨水でも自然に溜まったのか、念の為にペンライトを取り出し、水中の様子を探る。

 水面を反射する光。やがて目が慣れると、水中に白いナニかが沈んでいるのが――


「……カイを先に戻らせて正解だったな」


 反射的に喉をこみ上げる胃の中身。そのおぞましい姿を、目を凝らしてしっかりと観察する。

 少しでも情報を読み取る為に、俺は『子供のマネキンに似ている肉』を観察する。


「……水で膨れていない。でも時間は経ってるように見える……これ、もしかして塩水か」


 塩漬けにする知恵はある。そして『塩が存在する』事を確信する。

 さすがにこの水を舐めてみる勇気は俺にはないけれど。


「あの魔物の子供……って訳じゃなさそうだ。髪が黒い。なら……」


 集落内で、軍服以外の衣装をまとう魔物を何体か見かけた。

 子供服もその中にあったのかもしれない。

 それはつまり、異界調査団以外の人間、恐らく地球やグランディアから過去にこの異界に迷い込んだ人間がいるって証拠だ。

 少なくとも……この塩水に漬けられているのは黒髪の子供や、他にも人種の違う子供が沢山、中に着けられているのだから。


「……予定変更だな。こんな魔物、この世にいちゃいけない。出来るだけ数を殺す」


 中々の耐久度を誇る魔物。が、俺が一人で、他に巻き込む人間もいない今の状況なら、全力で技を放つことが出来る。


「この小屋も、集落の連中も、一切合切全部滅ぼす」








「待て、もう少し待ってみるべきじゃないのか?」

「けど! 今の爆発音は絶対にあの集落の方からしたじゃないか!」

「……もし、ササハラ君が魔物に発見されたのなら、恐らく交戦するはずだ。彼が魔物を引き連れて来る可能性を考慮せずにこちらに撤退してくるとは思えない」

「先程の爆発音はやはりユウキ君でしょうか……」


 ユウキに先んじて報告に戻っていたカイ。

 その時、聞こえて来た猛烈な爆発にも似た轟音に、一同が不安の表情を浮かべる。


「ここではユウキ君は、地球以上の力を発揮出来ます。少なくとも今……ユウキ君は周囲を気遣う必要がないですから。たぶん、この中で全力のユウキ君を見たことがあるのは私だけです。先程の魔物との戦い、あれは彼の本気のほんの一部、私達を巻き込まないようにセーブした力なんです」


 クラスメイトの不安を拭うように、コウネが語る。

 かつて、自身の為に国最強の剣士であるディースと戦ったユウキ。

 その時の様子は……少なくとも、これまでクラスメイト達が目の当たりにしたユウキの力とは一線を画する物だった。

 故に語る。全力を、周囲を顧みずに振るうユウキは、この程度の魔物に後れを取らないと。


「きっと、戻って来ますよ。先程の炸裂音もユウキ君がその魔物の集落を壊滅させた音に違いありません」


 そうコウネは断言するのであった。


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