第二百三十二話
(´・ω・`)子供の頃から自分の部屋を与えられてこなかった反動で
なんでもかんでも買いまくって好きに設置してるけど、面白いね
あとPCモニタ湾曲タイプにしてから執筆がはかどるようになりました。
「針葉樹が多いみたいです。私の大陸では北側の山地でしか見かけませんね」
「私の大陸もそうだねー。里の中でも見かけないから、ちょっとどういう食べ物があるのかは分からないかな」
森の植物を調べていると、グランディア組の二人がそう答えた。
つまりセカンダリア大陸とサーディス大陸とは無縁だと。
だがエリさんは『異界はかつてグランディアの一部だった』と話していた。
ならこの異界は……。
「……ユウキ、異界は元々グランディアの一部だったそうだな。なら……恐らくこの場所は元をただせばエンドレシア大陸……いや、ノースレシア大陸の可能性がある」
すると、ショウスケがそうこちらに進言した。
「俺はこれでもグランディア全土の風習や風俗、歴史を専攻していた。もしも異界になった後に地殻変動が起きていないのなら、平地で針葉樹がこの規模で広がっている以上、元々気温の低い大陸から運ばれて来た場所だと思われる」
「なるほど……さすがだなショウスケ。て事は……ノースレシアで食べられている物で、森に自生する物を探せばいいのか……?」
「すまない、さすがにそこまでの知識は俺にもないんだ。だが……キノコ程度なら生えている可能性……いや、しかし正確な知識もなくキノコを食べるのはリスクが高すぎる……」
「だな。俺達の地元ですら毎年キノコの食中毒が起きてたくらいだしな」
「あ、その話なら僕も知ってるよ。というかうちの叔父が普通にスギヒラタケ食べて病院に運ばれてた」
いやぁキノコは恐いっすよ本来……。
カズキ先生やヨシキさんなら正しく判別してくれそうだけど……。
「こういう時はコウネさんに頼るのが一番だな! という訳でコウネさん、ノースレシアやエンドレシアの森林部で採れる食材について何か意見があったら教えてくれるかな?」
という訳で恐らくこの場にいる中で最も食に詳しいコウネさんに、ここで採れる可能性のある食べ物のヒントを聞いてみたいと思います。
「なるほど……ここはノースレシアかエンドレシアの一部だった可能性がある、と。気候はだいぶ温暖ですし、環境の変化も視野に入れなければいけませんが……山菜ならば『アラリアの新芽』やそういった食性の高い細木の新芽ですかね……他にも松ぼっくりに似た物なら先程から地面に落ちていますから……もしかしたら松の実や若い松ぼっくりの様な物から油分の摂取は出来るかもしれません」
「なるほど……? 見た目が分からないから、とりあえずみんなでコウネさんと一緒に探してみよう。ついでに常に周囲に意識を向けて、川や水の気配がないか探って欲しい」
実際に食べられる物が見つかるまで安心は出来ない。
それに魔物だっていつ現れるか分からないのだし。
水分については……正直植物がある段階で、コウネさんの魔法でどうとでもなる。
一般的に氷の魔法は『魔素と周囲の水分を操作する』物だ。つまり、植物の水分を取り込み氷を生成出来る以上、水の確保はそこまで急務じゃない。
だが問題は――
「分かりました、ここが頑張り処ですね! じゃあ、私が先頭で……セリアちゃん、ユウキ君、隣お願いします。山に入った経験はたぶん、二人には負けますから」
そう笑顔で先頭に立つコウネさん。だが、その顔色が酷く青白いものだとは、きっとみんなも気がついているはずだ。
なにせ俺達は……ドバイでの事件から何も食べていないのだから。
「……コウネさん、辛くなったら言って。俺が背負うから」
「あはは……お願いしますね」
言えない。俺とカナメとショウスケだけは、任務中にBBのクッキングカーでケバブを食べていたなんて……!
「これは……少し成長しすぎていますが、これのはずです。これがアラリアの新芽ですね。恐らく群生しているはずですから、みんなで探しましょうか」
森の中を探索していると、コウネさんがなにやら細くて長い木の先端部分を指さし、食べられる山菜だとそれを指示した。
だがそれは――
「なぁカナメ、あれって『タラの芽』だよな?」
「奇遇だねユウキ君、僕も同じ事聞こうとしてた」
「懐かしいな、確かにあれはタラの芽だ。地元のスーパーでもシーズンになると売っていたはずだ」
めっちゃ見覚えのある『山菜の王様』ことタラの芽でした。
まじかー……アラリアの新芽とかそんなお洒落な名前あるのかー……。
「セリアさんもこれ知ってたりする?」
「うん、知ってる。そっかー……これアラリアなんて名前なんだ。私も普通に『タラの芽』って呼んでたけど」
「じゃあ、トゲがあるから気を付けてみんなで採取しよう。魔物に警戒するようにね。ツーマンセルで行動」
さて、じゃあこれでとりあえず一安心かな……?
結果、俺達が全員空腹である為か、かなりの量を採って来てしまった。
が、残念ながら調味料がないので、現状は焼くことしか出来ないのだが。
「うーん……直火で炙る事しか出来ないのは歯がゆいですねー」
「まぁとりあえずカロリー摂取出来るだけでも儲けものって事で」
パチパチと焚火でタラの芽を炙る。
くそう、これは天ぷらで食べるのが一番美味しいって事くらい、流石の俺でも分かるっていうのに……!
「やはり最低でも塩は欲しいですねぁ……素材の味を感じるにしても」
「仕方ないだろう。今の目的は少しでもカロリーを摂取して生き残る事だ。食糧があるだけでもありがたいと思わないと」
「ま、それもそうなんだけど、コウネの言い分も分かるかなー」
みんなでタラの芽を炙るサバイバル。非常にわびしいです。
それに、これだって一時しのぎにしかならない事は俺達も分かっている。
腹は満たせても長期的に見れば……いつ体調を壊しても不思議じゃないのだから。
「食べ終わったら幾つか山菜を確保して、また行軍再開だ。幸いまだ日も高い、それまでに野営に向いている場所も探さないと」
一之瀬さんがそう進言した時だった。この時、ようやく俺は『ありえない』事に気がついた。
それはどうやら俺だけではなく、ショウスケも気がついたようだった。
「……やはりおかしい。俺達が廃墟群を出発してから……既に時計で五時間が経過している。出発時の日の高さから察するに……」
「そもそも太陽の位置が変わっていない。一応俺達の時計には方位磁石も付いているが、太陽の位置が明らかに動いていない。これ……油断してると体内時計が狂って気がついたら過労死、なんて事もありえるぞ」
そう『ずっと明るい』ままなのだ。太陽が沈む気配が微塵もない。
人間、昼夜の変化が無いと徐々に感覚が狂って来るものだ。
これはもしかしたら……魔物や食料の問題よりも深刻なんじゃないか……?
「嘘……本当だ……そりゃコウネもお腹空かせるよ……」
「……強力な魔物に、時間の感覚を狂わせる空。これは確かに一筋縄ではいきませんわね」
「異界調査隊が苦戦するのも当然、って事かな。正直異界内部の情報って殆ど秘匿されてるから、こんな危険があるなんて想像すらしてなかったよ」
「……」
新しく発覚した異界の脅威。だがそんな中、カイは無言のまま、意を決したように語り出した。
「……こんな場所でセイメイさんは何カ月も戦ってたのかよ……」
「カイ、その話は……」
「でもミコト、今はもう……みんなにも言うべきだろ! 『最悪の事態』だってありえるんだから! 異界からは絶対に出られない可能性があるんだぞ!」
突然、まるで何かの糸が切れたように声を荒げるカイ。
その様子に何か理由を感じ取ったのか、一之瀬さんがなだめる。
だが――『異界からは絶対に出られない可能性』とう言葉は看過できない。
「カイ、一之瀬さん。何か事情があるなら話して欲しい。たぶん今、俺も追い込まれて正常な思考が出来ないんだと思う。話せないなら話すまで追求すると思う」
俺は絶対にここから生きて抜け出さないといけないんだ。イクシアさんに、家族の元に必ず戻らなければいけないんだ。
「……言えよミコト。絶対に言うべきだ。認めたくないかもしれないが、全部言うべきなんだよ! ミコト!」
「く……だが……!」
「なら俺が言う! 俺とミコトは、少し前に理事長に呼び出されたんだよ、ミコトの親父さんと一緒に!」
「分かった、分かったからカイ! 私が……全部話す」
なんだ……? 理事長に呼び出されたとは一体。
「私の兄は……異界調査隊に所属している。今は分隊長としてそれなりの立場にいるんだ」
「一之瀬さんのお兄さんが……なるほど、確かに一之瀬さんのお兄さんはかなりの強者だって、俺も聞いた事があるよ」
「兄は、あの事件……ササハラ君が世界樹を破壊したあの一連の事件にも協力してくれたんだ。異界調査隊が地球に一時帰国し、その際に私達を秘密裏にグランディアに運んでくれた」
「それはこちらでも把握しているよ。でも、それだけじゃないんだね?」
一之瀬さんは、少しだけ押し黙った後、意を決したように話し始める。
「兄達が異界に戻り、そしてサーディスの事件が解決した。その直後くらいのタイミングだったらしい。突如、サーディス大陸沖、海上に存在していた異界へ通じるゲートが消失したんだ。現在も、異界のゲートがどこに行ったのか、その所在は判明していないんだ」
「だから、もしも異界調査隊の前線基地を見つけられたとしても……そこが無事である保証も、グランディアに戻るゲートがそこにある保障もないんだよ……!」
そう、カイが一之瀬さんの言葉の続きを語った。
異界のゲートが……消えた?
「理事長から聞いているって事は……当然理事長やその周囲の人間には知られているんだろうな、それ。つまり国連、秋宮の幹部クラスは知っていてもおかしくない、か」
俺は知らなかった。なら、俺よりも立場が上の存在は……知っていてもおかしくない。
ならヨシキさんは……? 俺達をここに送り込み、生存に賭けてくれたヨシキさんはどうだ。
いや、そういえば以前……ヨシキさんが一之瀬さん親子に何か意味深な事を言っていたな。
確か――『“過去に確認された事例”では、一年以内に事態は改善しましたから』だったか。
もしあの時、既に異界のゲートが消失していて事を知り、その上で一之瀬親子にこの言葉を贈ったのだとしたら……異界のゲートが復活するのは既に確定しているって事なのか……?
たぶん、あの人はこの異界の謎に一番近いところに居るんだと思う。そんな予感がする。
なら……俺達をここに送った以上、助かる目があると確信しているはずじゃないか。
「みんな、今一之瀬さんとカイから聞いた話で確信が持てた。……俺達が助かる可能性がこの場所にあるのは確定した。異界から抜ける方法が絶対にあるんだと思う」
「な! どういう意味だよユウキ! 今の話にそう思う理由があるのかよ」
「それは私も気になる。どうしてそう判断したんだ」
「だって……BBが俺達を救うためにこの場所に送ったんだ。あの人がそうしたならそれは絶対なんだよ。たぶん、あの人は異界がどういう状況なのかを知っていたはずだ。俺よりも……ずっと秋宮の深い場所にいる人だから」
「BB……ですか。ユウキ君の同僚という話でしたけど……あの、私少し気になっていた事があるんです」
今度はコウネさんが、思いつめたように語り出す。
「BBは……魔族でした。それも特異器官である翼と角を持つ、歴史上類を見ない程の上級北方魔族です。それにあの銀髪は……アラリエル君と同じく、魔王の系譜に連なる存在のはずです」
……ついにここを突っ込まれたか。
コウネさんが、あの時のBBの様子を忘れるはずがないもんな。
「そうだよ、BBは北方魔族、魔王の系譜に連なる最強の人間なんだ。秋宮とは協力関係というよりは、個人的な繋がりで『たまに手を貸す』程度の間柄。それでも……あの人は優しいし、俺達を助けようとしたのは間違いない。そのあの人が、異界の現状を間違いなく知っているであろうあの人が、俺達をこの場所に送った。なら……それは助かる道があると確信してるからだと思うんだ」
「そこまで……信用しているんですね。確かにBBは私も信用しています。ですがそれはコンテンツとしてのキャラクターと料理の腕だけです。ユウキ君は、あの人の力と言葉を信用しているんですね?」
「この件に限ってはね。俺も……あの人に全幅の信頼を置いている訳じゃない。でも、あの時の状況も、彼の言葉も、全部本当だと思う。あれは……あの魔力の奔流は……世界を壊しかねない物だったし、それを防ぐのには俺達が邪魔だった、俺達が巻き込まれて死ぬっていうのも本当なんだと思う。この辺りはコウネさんやセリアさんみたいな、魔法に詳しい二人の方が分かってると思うんだ」
「それは……そうですね」
「うん、間違いなくあの規模の魔力結晶が暴走したら……本来なら私も、地球も、無事じゃすまなかった。でもそれをあのBBって人は……相殺なんてそんな事……出来っこない」
でも、出来るんだ。あの人は……そういう人だから。
「これ以上あの人の詮索はしない方がいいかな。もしかしたら、薄々BBの正体がなんなのか……過去に関わった事がある『ナニカ』なんだって気がつき始めていると思う。だから今は納得するしかないんだよ」
かん口令が敷かれている存在。かつて、フロリダで意図せず遭遇してしまった『世界の調停者ジョーカー』。
それが、BBの正体なんだって、たぶん気がつき始めているんじゃないか、みんなは。
「……それくらいしか、心当たりはないからな、俺は」
「あの御仁が……かの存在……」
「そっか、あの規模の攻撃力なら……」
「私もUSHの取締役の代理になり、様々な情報が入って来ます。彼が……かの存在ですのね」
「ギャップ凄いよね。気の良いお兄さんだったのに」
「……そうですねーちょっと驚いていますけど、あの力にも納得しますね、彼があの存在なら」
皆が納得する。フロリダの事件、あの時ジョーカーが無造作に振るった力の強さを思い出す。
海を割り、ゲートも研究所も消し去り、そして平然と『国を滅ぼす』と言い、実行しようとした。そして結果としてあの国のトップが入れ替わり文字通り『これまでの国の大勢を滅ぼした』のだから。
「話がよく見えないのだが……あの時のBBの正体も、言葉も、全て納得するだけの材料があった……という事なんだな?」
「そういうこと。さすがにショウスケに詳細を伝えるのは俺の一存じゃ出来ないんだけどさ。でも、少なくとも希望はあると思って良い。絶対、この異界から脱出する術があるはずなんだ」
「そうか……お前が言うのなら俺は信じるぞ、ユウキ」
明確な希望が見えて来た俺達は、腹が膨れた事もあり、次の目的の為に歩き出す。
野営の為の安全地帯、少しでも危険を減らせる場所を見つける為に。
空は相変わらず不自然な程明るく、真昼間同然の様相。だが、確実に俺達の疲労はピークに達しようとしているのだから。
「……皆さん、少し立ち止まってくださいまし」
森を一度抜け、再び遥か彼方に見える山々、その山間を目指して進んでいると、キョウコさんが立ち止まるようにと言う。
「どうしたのキョウコさん。まさか索敵に何かが反応した?」
皆がデバイスを構え周囲を警戒する。
「……恐らく水場が近いようです。広範囲にはむ子を飛ばして周囲を探っていましたが、水場と思われる反応を探知しました」
「マジでか! やった! コウネさんの魔力を消費しての水分補給は申し訳なかったんだよ!」
「ふふ、そんなに気にしなくても大丈夫なんですけどね? ですが水場という事は……食べられる生き物もいるかもしれませんね!」
なんと、それは生命線とも呼べる水場の反応を探知したという知らせだった。
「水場は助かる。野営をするにしても、警戒する方向を一つ減らせるかもしれない。水があればカヅキさんの魔法を最大限に生かす事も出来るからな」
「ええ、少なくとも水に潜む魔物を察知する事は容易。警戒すべき方向を減らせますわ。さぁ、皆さん移動しましょう。あちらに見える森を抜けた先にあるようですから」
段々と事態が好転しているのを感じながら、俺達はその水場へと向けて歩み出すのであった。




