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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十八章

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第二百三十一話

(´・ω・`)実は前々から原稿作業の時に利用していた別宅に本格的に引っ越したので

もう自由に執筆も出来るし好きに部屋をいじれるので毎日楽しいです。

よーしらんらん部屋に大量のお酒飾っちゃうぞー

 それは、まるで敗残兵のような有り様だった。

 遠くに見えるのは軍服を着た人間。だが、ぼろぼろに着崩れており、あちこちが血で汚れ、裂け、中には袖やズボンの裾を失っている人も見える。

 まさか……俺達のように助けを求めて放浪しているのだろうか?

 まだ少し警戒しつつも、急ぎ足で人影に近づき、大声でこちらの要件を告げる。


「聞こえますか! 自分は地球にあるシュヴァインリッター総合養成学園に所属している生徒です! 少し自分の話を聞いて頂けますか!?」


 こちらが警戒しているように、向こうも当然こちらを警戒しているはずだ。

 まずは安心をして貰おうと声をかけてみたのだが――


「え……なんだ……あれ……」


 その集団が、俺に気がついた。

 一斉にこちらを向き、そして――駆け出した。

 それは助けを求めてきた様子では決してなく、例えるなら、元の世界でプレイした事のあるゲームで登場する『全力疾走をするゾンビ』のようだった。


「っ! あれはやばい! みんな、戦闘用意!」


 背後の丘に潜むみんなに警戒を促す。

 間違いない、あれは……少なくとも普通の人間ではない。

 すぐ目の前に迫る集団の一人が、人間離れした速度で一息にこちらに迫る。

 その飛び掛かる速度に、一瞬心臓が冷えるような恐怖を覚えるほどに。

 ギリギリで剣を使い防ぐが、驚いた事に『グランディアでの俺の姿』だというのに、その衝撃に腕が痺れ、膝を折ってしまう程。


「ユウキ! 援護する、足場を潰すぞ!」

「まかせたショウスケ」


 背後からショウスケの魔法が飛び、前方の地面がぬかるみに変わる。

 続けざまに襲って来る残りの人間……のような何かの速度が落ちる。


「足止めします!」


 ぬかるみを凍らせるコウネさん。そして動きの鈍った敵の足元を――


「早速試す機会が来てくれたね! “大地裂閃”」


 カナメの技が、大地を切り裂きながら敵を薙ぎ払う。

 確かあれは……ヨシキさんに教えてもらっていた技だよな?

 間違いなく必殺クラスの破壊力だ。それだというのに――


「まいったね……切り落とすつもりだったのに」


 地面に縫い留められていた敵の足を切り裂くに留まる程度だった。


「……耐久力も攻撃力も次元が違いますわね。コウネさん、氷をさらに厚く」

「はい! ……私は足止めに徹します、攻撃が通る以上、必要なのは純粋な攻撃力です」


 ならば答えは簡単だ。コウネさんの言葉の意図を読み取った、我がクラスのアタッカー全員が、自分達が使える最高の破壊力の技を用意する。


「コウネさん、俺も足止めに協力します」

「コトウ君、助かります!」


 氷を覆う泥の塊。それでも徐々に束縛から逃れようとする敵。

 ならば急ぎ、全員で攻撃を合わせなければ。


「みんな、俺の攻撃に合わせて最大火力で攻撃お願い。あいつら尋常じゃない固さだ」


 俺の提案に皆が頷く。だが――


「足止めだけではいけないのか? なんらかの術で操られている可能性もある」


 ショウスケが苦言を呈する。

 いや、今回に限ってはその提案は飲めないんだ。

 なにせここは『異界である可能性が高い』のだから。

 つまり『人間に限りなく近い敵』が現れる可能性もあるって事だ。


「ショウスケ、却下だ。絶対にここで殺す」

「っ! 分かった」


 すぐさま俺も自分が放てる最高の攻撃の準備に取り掛かる。

 分身を生み出し、奔らせ、紋章を地面に刻み込み、技を発動させる。


「アイツらが風に取り込まれた瞬間、全員で集中砲火!」


 すぐに発動する風の封縛魔導。そこに、分身と共に風絶を叩きこむ。

 それと同時にクラスメイト達の技が次々と殺到し、ようやくそこで俺の技が終わる。


「さすがにこれを耐えられると打つ手なしなんだが……どうだ」


 土埃が晴れる。地面に横たわる血まみれの『敵』。

 それらが再び動き出す事は……なかった。


「……カイ、警戒しつつ死体を調べるぞ」

「あ、ああ……」

「コウネさん、俺とカイの後ろで死体が動き出さないか警戒して。他のみんなは周囲を警戒」

「了解しました。二人とも気を付けて下さい」


 一見すると人間にしか見えない死体。

 着ている軍服は……たぶん、日本製だ。確か異界調査隊で正式採用されている装備品は日本製だし、この軍服は間違いなく調査隊の装備品。ならこの『敵』は……調査隊員……?


「なあユウキ、これおかしくないか? ほら、この縫い付けられてる札なんだけど」

「これは……」


 それは『認識票』の一種だった。

 有名なのは『ドッグタグ』と呼ばれる銀色のネームプレートのついた首飾りだが、有名過ぎるが故に戦場漁りに盗まれる事もあるのだとか。

 故にドッグタグだけでなく、制服に縫い付けられている事もあると学んだのだが――


「“志双 陽介”さんか。日本人の名前っぽいな?」

「だよな? でもこいつら……西洋の人間に見える……いや、本当に人間だったのか……」

「……まさかこれが異界の魔物なのか? 確かに耐久力は普通の魔物の比じゃなかったけど」


 いや、そもそもコレが人間なら俺達の攻撃を何発も耐えられるはずがない。つまりこいつらは……人間にしか見えないけど魔物……って事なのか。


「確か、以前あの方……エリさんが仰っていましたわ『見た目が私達みたいな人間なのに、こっちを餌としか認識してない』と。まさしく今の状況そのものではないかしら……」

「っ……まさかこれほどまでに……ではこの身に着けていた軍服は……!」


 確かにこの敵が着ていた軍服は、どちらかというと『無理やり体に纏っていた』と言った方がしっくりくる様子だった。

 サイズが合っていなかったり、はたまた袖の途中の破れた穴から腕を出していたり、明らかに『服の構造を理解していない』様子だった。


「現状、さっきの相手を異界の魔物だと推定して今後の動きについてもう一度作戦を練り直そうか、みんな」

「だな。正直あそこまで粘るような強敵がこの先うじゃうじゃいると思うと……」

「今の孤立無援で補給もままならない俺達では遅かれ早かれ全滅するだろう。ユウキ、そういう事だな?」

「ん-……それよりも先に餓死しそうですよね? 私達、もうかれこれ半日は何も食べていませんし……最悪先程の魔物を食べる……というのは流石に最終手段ですけど」

「僕は嫌だな、外見上は人間と変わらない相手を食べるのは。それにほら、何か遺伝的に問題があるかもしれないじゃないか」


 確かプリオン病……とかいうヤツだったかな? 確かに人間に近い……というよりほぼ人間そのものな見た目の相手を食べるのは、リスクが高すぎる。


「なら、我々の一番の目標はこれまで通り食糧と飲料水の確保ではないか? 脱出を試みるのにも時間がかかるのだし、食糧の確保は急務だ」

「そうだね、正直私もそろそろ……お腹がね。一応食べられる植物の知識には自信があるから、ここからは森の中の移動をメインにした方が良いかも」

「それでしたら私が常に周囲をはむ子で警戒した方が良いですわね。本来、視界の悪い場所を行軍するべきではないのでしょうが、今は非常事態ですし」


 皆の意見を参考に、一先ず俺達の行動方針、行軍ルートが決まる。

 そうして周囲を警戒しながら進み、やがて見えて来た森林地帯に俺達は踏み入った。




「……あれは本当に魔物だったのだろうか」


 森林地帯を進んでいると、道中でショウスケが酷く動揺した様子でそう呟いた。

 ……確かにショウスケはこのクラスに配属したばかりだし、福岡での実務研修の一件を経験していないからな。俄かには信じられないのだろう。


「ショウスケ、あれは魔物だ。人間に見えるだけの魔物。俺達は一度既に……日本でもアイツらみたいなのに遭遇しているんだよ」

「な……! 日本でだと!?」

「ええ、コトウ君が転校してくる前に私達は一度、福岡で魔物の出現を確認、そして――」

「……一般的な人外の様相の魔物が、戦いの最中で人の姿に変異したのを確認しているんだ。異界調査の経験のある外部協力者の証言から、異界では『人間にしか見えない魔物』の存在を、随分前から認識していると知らされた」


 足を止めずに、ただショウスケに俺達の知る事実を告げる。

 だが、ショウスケにはその事実が受け入れられないのか、思わず足を止めて反論する。


「それは……! 異界の原住民を魔物と断定して交流を諦めただけではないのか!? 地球の上層部はその事実を隠蔽しているに過ぎないのではないのか!? いや、グランディアの政府も……何が文化交流の推進だ……こんな事、あっていいのか……!」


 確かにショウスケは文化交流、両世界の交流を目的としてこの世界に入ったんだったか。

 ショウスケは、異界という第三の世界の原住民と捉えているのかもしれない。


「ショウスケ、そこまでだ。これまでの価値観を捨てろ、ここのは『人類』じゃない『魔物』だ。俺達も詳しくは知らない、けれど最初期の異界調査団は……交流を諦めたそうだ。お前と同じ価値観、それも専門家だってきっと調査団にはいたんだろうさ。それでも、諦めたんだ」

「だが……!」

「……エリさん、外部協力者の方が言うには『対話を試みたり、贈り物をしようとしても襲われた』そうです。そもそも、行動の基準が『およそ人類とはかけはなれている』とか」

「正直異界って謎だらけだから、私達も詳しい事は知らないんだ……でも、たぶんショウスケ君の考え方は……ここだと死に直結すると思う。少なくてもさっき戦った連中は……手心加えて勝てるような相手じゃなかったよね」


 そうだ。少なくとも俺が奥義ぶっぱなして、そこにみんなが追い打ちしてようやく倒せるような強さだった。ドバイに現れた魔物……あれよりも遥かに格上だ。


「ショウスケ。厳しい事を言うかもしれないけど……お前はまだ強いだけの『一般人』なんだ。俺達とはまだ考え方が違うのも仕方ない。けれど、ここは『戦場』ですらない『死地』なんだよ。俺は少なくとも、皆で無事に生きてここから出る事を望んでいるけれど、被害を増やさない為に『最悪の手段』で生存者を一人でも増やす事も視野に入れてる」


 これは脅しだ。一人、誰か一人明確に『非情な人間』に徹さなければならない。

 そしてそれを出来るのは、ショウスケと最も長い付き合いのある俺だ。


「……それはどういう意味だユウキ」

「余計な事を考えて行軍の妨げをする、戦いにおいて足を引っ張りかねない雑念を抱く。そういう人間を最悪間引くって言ってる。いいか、これは研修じゃないんだ」


 はっきりと『これ以上グダグダ言うなら殺す』とも取れるように言い切る。


「っ!? お前、本気で言っているのか!?」

「本気だ。いいか、ショウスケ。俺達は生徒である前に『地球が待つ最高戦力』だって自覚してくれ。絶対に生き延びて、今回の件を報告する義務もある。異界と地球が直接つながった前例を今まさに俺達は経験してるんだ。この事をしっかり伝えなけれ、最悪地球そのものが危険に晒されかねないんだよ」


 こればかりは、途中からシュヴァ学、それもSSクラスに転入したショウスケにはイマイチ伝わらない事なのかもしれない。


「……コトウ君。彼にこれ以上悪役をさせないでくれないか。彼が言っているのは極論だが、考えられる最悪の選択肢であり、存在しない選択肢ではないんだ。君も……私達と一蓮托生である以上、折れてくれ。チームで異論がある人間を抱えるのはそれだけで生存率を下げてしまうんだ」


 見かねたのか、一之瀬さんが会話に加わりショウスケを説得しようとする。

 この中で俺の次に冷静な彼女の言葉は、さすがのショウスケも身を律せざるを得ないようだった。


「……そこまで、過酷なのか。ユウキ、お前達は……そこまでの覚悟で動いているのか」

「……伊達に三年間世界の最前線で面倒に関わってないさ。特に俺は地球全てを敵に回したんだからな」

「そう……だったな。皆、すまなかった。どうやらユウキの言う通りだったようだ。俺はまだ……一般人の甘ちゃんだった。以降、皆の方針に異を唱える事は極力しないと約束する」

「意見を言う分には構わないよ。ショウスケ君は貴重な良識ある人間の一人だからね」

「貴重ってどういう意味だよ。このクラスには良識のある人間ばかりだろ」


 カナメの言わんとしている事はわかります。カイよ、お前は残念ながら良識ある側の人間じゃないぞ。勿論カナメ、お前もな。


「さて、ひとまず和解もしましたし、少し森の中を探索してみましょうか。そろそろ流石に食糧の心配をしないといけないと思い――」


 コウネさんがそう提案し、その直後、彼女の言葉を何かの鳴る音が掻き消した。

 ohコウネストマックグーグー、カワイイカワイイネー。


「……ね? 私そろそろ限界が近いみたいなんですよね」


 音の出所、自分のお腹を抑えながら、コウネさんは真っ赤な顔でそう締めくくる。


「そうだね、コウネほどじゃないけど私も……一先ず植物の種類の特定から始めよう。そこから似た環境で自生してる可能性のある山菜とか探せるかもだし」


 一時はどうなる事かと思ったが、無事にショウスケの意識を変えさせる事も出来たようだし、今度は目下迫りつつある最大の危機、食糧の確保に乗り出すのであった。


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