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第二百三十話

(´・ω・`)大変お待たせしました

書籍化の兼ね合いでなかなか更新再開に踏み出せないでいましたが、そろそろさすがにやらないといけないだろうと思いまして。

 固い感触が、二の腕を刺激する。

 次第にゴツゴツとした刺激が全身を襲い、その不快さに意識が覚醒する。


「っ……ここは……」


 瓦礫が散乱する、どこか知らない場所。

 何かの廃墟のような場所で俺は目を覚ましたようだ。


「あ! そうだ俺達! ここは、みんなは!?」


 さらに周囲を見回すと、近くの廃墟の影に誰かが倒れているのが見える。

 急ぎその場所に駆け付けると、それはカナメだった。


「おい、カナメ! カナメ、目を覚ませ!」

「……ん……ユウキ君……?」

「良かった、無事か」

「うん、そうみたいだ……そっか、どうやら僕達は賭けに勝ったってところかな?」

「まだお前しか見つけられていないけど、たぶんそうなんじゃないか」

「分かった、じゃあ他のみんなも手分けして探そう」


 もしかしたらこの場所は本当に『異界』なのかもしれない。

 それなら一刻も早くみんなと合流しなければ。

 今のところこの場所はどこかの遺跡にしか見えないが、異界がどういう場所なのか俺には分からない。決して油断も楽観も出来ないのだ。




「いた……! 瓦礫の上の方に……寝返りしたら落ちそうだし急いで回収しないと」


 程なくして、俺はセリアさんとカイを発見、一先ず俺達が目覚めた廃墟に連れて行く。

 こういう時、力持ちのカナメと俺が動けてよかった。

 カナメの方も無事にキョウコさんと一之瀬さんを運んできてくれたし。


「あとはコウネさんとショウスケだな……廃墟の奥の方とかか……?」

「ユウキ君、ここは僕が見張っているから中の探索は任せたよ」


 恐らく、俺達はヨシキさんの魔法で纏められた後、あのゲートみたいな物を潜る途中でばらけたのではないだろうか。

 だから到着した場所が微妙にズレた、と。


「ま、みんな結構近くに固まってたし、恐らくコウネさんとショウスケも――」

「正解だ。そちらから見つけて貰えるとは行幸だ。無事だったか、ユウキ」


 そんな独り言を拾い上げるのは、廃墟の奥から現れたショウスケだった。


「ふふふ、やっぱり見つけてくれましたね?」

「ああ、確かにコウネさんの言った通りだった『ユウキ君なら必ず自分達を見つけてくれる』と言う通りに。信頼されているな、ユウキ」


 同じく現れるコウネさん。

 俺は二人を引き連れ、カナメが待っている廃墟へと引き返すのだった。


「カナメ、戻ったぞ。みんなはもう目を覚ましたか?」

「おかえり、ユウキ君」

「おかえりユウキ。悪い、今目覚めたところだ」

「右に同じくだ。面目ない、ササハラ君」


 カナメと合流すると、カイと一之瀬さんは既に目覚めていた。

 セリアさんとキョウコさんはまだ少しうなされているが、そこにコウネさんが回復魔法を施す。


「うう……コウネ、ありがとう」

「う……感謝致しますわ。一先ず私達は全員無事……という事でしょうか」


 全員が揃ったところで状況を整理する。


「まず、俺達は……BBの力であの窮地を脱する事が出来た……でいいよな?」

「だな。正直、何が何だか分からない事だらけだけど、助かったのは確定か」

「ああ、しかし先程から試してはいるが、通信機の電波はどこにも繋がらない。いや、これは衛星経由だから、圏外になるはずがないんだが」

「では、ここはグランディアで確定ですね? 見たところどこかの廃墟群のようですが……」

「……うん、たぶんグランディアだと思う。魔素の濃さが地球とは違う……でも……」


 BBの言葉通りなら、ここは異界である可能性が高い。

 ただ、異界っていうのがどういう場所なのか、具体的な話を俺は知らないのだ。

 空は普通に青いし、空気が不味いなんて事もない。

 大自然の中にある遺跡……という印象しか受けないのだ。


「まずはこの遺跡を調べませんか? 少なくとも年代やどこの国の遺跡か分かれば、現在地の特定に繋がると思うんです」

「コウネさんの言う通りですわね。恐らくグランディアのどこかだとは思いますが、周囲を見る限り人工物はこの遺跡だけ。ここを重点的に調べましょう」


 遺跡、風化こそしていないが、かなり古い物である事が分かる。

 ただ俺は考古学でもグランディアの歴史、遺跡に詳しい訳でもないので、完全にグランディア組……コウネさんとセリアさん頼みになるのだが。

 が、それでも何か遺跡以外の痕跡があるかもしれないからな。しっかり調べさせていただきます。


「ふーむ……遺跡って言う割には材質が石材だったりするわけじゃないよなぁ……」

「だね。でも、これって一種の漆喰や木材だよね? 崩れてはいるけどそこまで古いって感じしないよ」

「そうなのか? 俺には分からないな……ただの廃墟って事なのか? ユウキとカナメはこういうの詳しいのか?」

「うん、漆喰だけは少し分かるよ。祖父が副業で左官もしててね。元々こういう素材って長く持つ物ではあるけど、ここまで白が残ってるのは考えられないんだ」


 分からん! が、少なくともカナメはこの遺跡に違和感を覚えている、と。


「ん-……カイ、なにか遺跡以外で変な物見つからないか?」

「そうだな……しいて言うなら……雑草がそこまで伸びてない……よな? こういう木材とか土の壁って植物に浸食されそうじゃないか。でもそういうのが無いんだ」


 それは俺も思った。確かに遺跡と呼ぶには新しいが、廃墟ではある。

 が、雑草が床から伸びている様子もないし、蔦が絡みついている場所もない。


「なんかチグハグだな……」


 なんかこう、色々と辻褄が合わないような。

 グランディア組のコウネさんとセリアさんの方はどうなっているのか、彼女達の方へ向かい意見を聞いている事に。


「そうですねぇ……確かに遺跡と呼ぶには若干新しいような気もしますね。ですが……私、少しだけ建築の勉強をした事があるんです。私の家の修繕を行う際に、古い建築様式について。今見た限りですとこれは……少なくともセカンダリア大陸の物ではないんです。そして――」

「同じく、サーディスでもないんだよね。少なくともサーディス大陸は建築に使う材質は全部『魔力を通しやすい物』を使う決まりになってるんだ。それにこの場所も確実にサーディス大陸じゃない……」

「なるほど……じゃあ一度みんな集合して報告しようか」


 やはり二人はこの場所が自分の知る土地ではない、少なくとも自分の故郷ではないと確信している様子だった。




「じゃあ、みんな調査報告、何か気がついた事があったら教えてもらえないかな」


 集合した俺達は、ここまでで分かった事を教え合う。

 やはり決定打になる物は見つかっていないが、状況証拠的にこの場所が、俺達が行った事のある大陸ではなさそうだ、というのが結論だ。


「みんな聞いて欲しい」


 その時だった。ショウスケが突然着ていたコンバットスーツを脱ぎだし、薄手の服になる。

 ああ、そういえば俺達任務中だったもんな、着替えの事とかも考えた方が――


「俺達はコンバットスーツを着ているだろう? これは環境の変化にも適応する関係上、ある程度の気温の変化にも強く、体温を一定に保ってくれる。そうだな?」

「ん? どうしたんだよショウスケいきなり」

「……みんなも可能なら上だけでも脱いでみてくれないか」


 はて? どうしたんだ急に……。


「あの、私この下は下着なので脱げないんですけど」

「私も少々……薄手過ぎるので脱ぐことは出来ませんわね」


 キョウコさんとコウネさん、それはちょっとここで報告しなくて良いです、ちょっと照れます。

 ああ……ショウスケが真っ赤になった。


「も、申し訳ない! いや、つまりだ……」


 問題なく脱いだ男組。無論俺も脱いだわけだが、ショウスケが言いたい事がイマイチ分からない。


「少なくともここはサーディスでもセカンダリアでもないとセリアさんとコウネさんは言った。だが……俺はこの状態でも今の気温を『丁度良い』と感じているんだ。今の日本は七月、そしてグランディアの季節感だが、ファストリアは日本と同じ七月、セカンダリアは四月、サーディスはやや肌寒い三月。そして……セミフィナルは同じく三月、エンドレシア、ノースレシアは『まだ真冬』だ。ではここは一体どこなんだ?」

「なら、ファストリア大陸のどこか……ではないよね」

「そうだ。カナメも分かっているようだが、ファストリア大陸では『ほとんどの地域から魔導学院である旧世界樹が観測可能』だ」


 そこでようやく気がつく。

 ……あの旧世界樹は、上部が折れているとはいえ大陸のほぼどこからでも観測可能だ。

 仮に見えなかったとしても――


「ちょっと待ってろショウスケ」


 俺は全力の身体強化で跳び、さらに空中で再び跳躍。

 足に風魔法を纏い、さらに高度を上昇させる。だが――


「っと……ああ、確かにどこにも旧世界樹はない。ここはファストリア大陸じゃない」

「相変わらずとんでもない跳躍力だな。……まぁ、つまりここはグランディアであってグランディアではない、異空間である可能性が高いという訳だ」


 じゃあ、やっぱりここはBB……ヨシキさんの言う通り『異界』だという事なのか……?


「じゃあここが異界なのか? なんか全然思ってたのと違うな」

「いや、まだ分からない。だが、少なくとも通常のグランディアである可能性は低いようだな。これから先の行動方針を決めよう」

「そうだな、一之瀬さんの意見に賛成だ。ユウキ、お前は何か案はないか?」

「そうだな……仮に異界だとしたら『異界調査団』が過去に足を踏み入れた可能性もあるし、その痕跡を探すってのはどうだろう?」

「あの、私も意見良いですか?」


 すると、今度はコウネさんが手を上げた。


「調査より前に拠点に適した場所、それと食糧を確保した方が良くありませんか? 私達は食料も飲料水も持っていませんし、痕跡を探す前にまずは万全な状態になってから動き出した方が良いと思うんです」

「あ、確かに……ここがどこか見当もつかないしね。……そうだよね、命の危険が一見なさそうだけど……飢え死には十分ありえるもん」


 確かにその通りだ。俺達はコウネさんの意見を尊重し、まずは痕跡よりも食糧、飲み水の確保をするべきだろうと、もう一度手分けしてもう少し広範囲を捜索する事にしたのだった。

 だが――


「はい、じゃあ一時間経ったから戻って来た訳だけど……収穫あった人は……いる?」

「草原がどこまでも続いていただけだった。一応見かけた草を全種類採って来たのだが……」

「ミコト、さすがにそれは食えないだろ……どうみても野草じゃないただの草だ」

「そうですねぇ……ミコトちゃん、それは捨てましょう」

「僕も一応色んな植物の根っこを集める目的で土を掘ってみたけど、どれも糸みたいに細い根だったよ。参ったね」

「ふむ……もう少し移動してから探した方が良いかもしれない。一応かなり遠くの方に山も見える。近づけば森があるんじゃないだろうか」


 ショウスケのその言葉に俺も思い出す。そうだ、確か――


「山と山の間には川が流れてる事が多いって言うよな? そっちを目指してみないか?」

「あ、そうだね! 私も聞いた事あるよそれ。森を探しつつ川も探せるし、現状はそれが一番かも」


 ひとまず、俺達は食糧探しよりも、なるべく最短距離で山間を目指し進んでいく。

 正直、徐々に空腹感を覚え始めた上に、若干喉が渇きつつある。

 口には出さないけれど、徐々に俺達が追い詰められている事には……みんな気がついているはずだから。


「とりあえず、身体は少し冷えてしまいますけど、容器がないのでこれで我慢して下さい。皆さん、これを」

「あ、なるほど……水分の問題はとりあえず心配しなくても良い、のかな」


 すると、歩きながら水分補給が出来るように、コウネさんが俺達に一口大の氷の礫を出してくれた。

 なるほど、体温が下がると言っても、ここの気温はほどよく高く快適だ。舐め過ぎなければ大丈夫だろう。

 みんなでカラコロと氷を口の中で転がしながら、出来るだけ体力を消費しないように無理のない速度で行軍を開始。

 さて……俺達は無事にこの場所……異界を抜けられるのだろうか。






「……みんなストップ」

「ああ。ササハラ君も気がついたか」

「なんだ、二人共?」


 数時間か、それとも数十分か。時間の流れを感じない程変わり映えの無い風景の中進み続けていたところ、微かに……本当に微かに何かの気配……いや、空気の流れが若干揺らいだような、そんな違和感のような何かを感じ取る俺と一之瀬さん。

 そうだ……そういえばここ、風が吹いたりまったくしないよな、さっきから。


「前方、緩やかな起伏。まぁ丘なんだけど、その先に何かある……いや『いる』かも」

「ああ……薄っすら気配を感じた。皆、慎重に丘へ向かおう」


 丘を登り切る前に、皆姿勢を低くし、向こう側を観察する。

 すると遥か先に……確かに人影が見える。

 四人……背丈からして成人男性が、間違いなくこちらへと向かいゆっくりと歩いている。


「人だ! 救援要請をしよう!」

「待てカイ! ここは暫定ではあるが異界……何があるか分からない、慎重に行動するんだ」

「あ、ああ……だがそうなると……」

「ふむ、異界調査団、だろうか? どの道コンタクトは取った方が良いんじゃないか?」

「だな。ショウスケの言う通りだ。まずは全員じゃなく、代表として……俺が行くよ」


 もしもだ。あれが異界調査団以外の人間で、なんらかの目的、悪意を持った相手である場合も考え、まずは俺単独で接触を試みることにした。

 丘を越え、人影に向かいこちらも歩いて行くが……そこで俺は『異界調査が何故危険なのか』その理由を……まざまざと見せつけられたのであった――


(´・ω・`)書籍化の詳細ですが、恐らく今年中にはお知らせできるかと思います。

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