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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
幕章

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閑話

(´・ω・`)BB閑話その2

 深夜、すっかり寝静まった家族を起こさないように自室に戻り、カズキに教えられた『秋宮財閥』や、それにまつわるエピソードや関連企業について調べられるだけ調べてみる事にした。


「……台頭してきたのはゲートが発生してから約三〇年後……先代総帥の秋宮隆三が娘である秋宮リョウカに地位を譲った辺りから……」


 だが、その容姿は仮面こそつけているが、俺の良く知るグランディアで生きていた時代の友人によく似たものだった。


「流石にいきなり押しかけて会えるような相手じゃないか。電話で問い合わせてみるか……? あいつなら……何か仕掛けてある可能性が高いからな」


 期待と不安。

 俺は一体何を期待しているのか、自分の考えがまとまらない中、布団に潜り込み意識を落としていく。


「……未練かね」






 翌朝、俺はすぐに行動を起こした。

 まずはダメ元で秋宮財閥が経営する『秋宮カンパニー』の本社に電話をしてみるところからだ。

 この秋宮カンパニーは特定の業種ではなく、手広くあらゆる分野の製品を取り扱う会社なのだが、世間的には『デバイス』つまり武器を扱う会社だという。


「失礼します。私ニシダと申します。そちらで働いている『オインク』さんに緊急の要件があったのですが、生憎連絡先が分からずそちらの窓口にお電話差し上げた次第なのですが」


 緊張からか、それとも慣れない敬語の所為か、違和感バリバリの連絡を入れてしまった。

 こりゃすぐ切られるか、すぐに『そんな人物はいない』と確認されるかだろうな、と考えていたのだが――


『フルネームでもう一度その方のお名前を言って頂けますでしょうか?』


 ん? なんだ、こんなふざけた名前を聞いても悪戯だと判断しない……?


「オインク・R・アキミヤです」

『承りました。すぐに確認致します。失礼ですがそちらのフルネームををお願いします』


 なんと答えるべきか。前世の名か、今の名前か。

 もう、俺はただの人間だ。つまり『ニシダヨシキ』でしかない。

 なら迷う必要はないな。


「ニシダヨシキです」

『ニシダヨシキ様ですね。では少々お待ちください』


 そのまましばし保留音を聞きながら、この対応について考える。

 この名前……オインクなんて名前が実際に存在するはずがない。

 だがこうして悪戯と決めつけずに確認を取るあたり、なんらかの理由があるはず。

 そして……この保留の長さからして『何か長引く理由がある』のだろう。


「……一種の合言葉みたいな扱いだった、か」

『保留中も相手の声は聞けるのですよ。お待たせしました、担当変わりました』

「ふむ……それは知らなかった。態々教えてくれてありがとう」


 保留の音が唐突に切れ、ちょっとだけ意地悪そうにその事実を知らせて来る通話相手。

 俺は、それがどこか懐かしい声色に聞こえてしまい、ついつい軽口を叩いてしまう。


『それで、仰る通りその名前は一種の合言葉となっております。これをどこで知りましたか?』

「古い友人がそちらに務めているようでね、なんとか連絡を取りたかったんだ。これはその友人の名前だよ」

『ニシダヨシキさん、でしたか? 失礼ですがそのオインクさんとはどういったご関係でしょうか?』

「友人であり、恩人であり、戦友であり、良き理解者だと思っているよ。……このやり取りはいつまで続くんだ?」

『……では、最後に貴方の名前をもう一度……今度はそのオインクさんが絶対に分かる名前を仰ってください』


 そうだよな。一度くらい名乗るべきだろうな、この相手には。

 ならば名乗ろう。過去に置いて来た、俺であり、同時に分身でもあるその名前を。


「……俺の名前は――」




『詳しいお話がしたいので、一度こちらに……いえ、私から向かうべきでしょうか?』

「いや、俺が向かうよ。財閥当主をそう気安く呼びつけたりは流石に出来ないだろ」

『……分かりました。では都合の良い日に東京駅まで来て下さい。迎えを用意させます』

「ん、じゃあ今から行ってもいいのか? 正直今の俺は暇人だ。時間の融通は幾らでも効くんだよ」

『良いのですか? ではこちらの連絡先を教えておきますね』


 いやとんとん拍子だな!

 しかし新幹線か……今から切符買えるかね?


「切符今から買えたとしても到着は夜になりそうだな。新幹線で四時間かかるんだよ」

『ふむ……まだこちらの世界に来て日が浅いのですね? 新幹線の切符も、所要時間も、何も心配しなくて良いですよ』

「……まさかリニアでも走ってるのか?」

『リニアよりも速いですよ。ふふ、感想を聞かせてくださいね』


 マジでか……! 魔法が加わった科学はそこまでやれるのか!






「……景色を楽しむ余裕がないというか……速すぎて景色がほぼ見えなかった……」


 お久しぶりです東京。マジで懐かしいな……俺がヨシキとして生きていた時間の中で、一番印象に残っている都市。

 忙殺されるような環境で働きながら遊び、そして――家族の訃報を知らされた土地。

 我ながら母親一人の死でそこまで取り乱すなんて思ってもみなかった。

 それまでの暮らしも全て捨てて地元に帰るなんてな。


「あーやだやだ、歳取ると余計な事ばかり考える」


 オインクが言うには迎えが来るらしいのだが、一応もう一度連絡を入れてみるか。


「……もしもし、俺だ。迎えはどこにいるか分からないか?」

『八重洲方面の駐車場です。多少知っている東京駅とは違うでしょうが、大丈夫ですか?』

「……なんとか。なぁ、東京駅になんでモノレールが通ってるんだ? 東京という名の未来都市じゃないか」

『ふふ、確かにそうですね。ではお待ちしています』


 こりゃヤバイな。地元はド田舎だからそこまでの変化は感じられなかったが、都会の変化レベルがもう『異世界』レベルだ。

 つまり、それに呼応するように犯罪の凶悪さも上がっているって考えた方が良さそうだ。

 魔法による隠匿……気配の消失や目くらまし、死体の処分まで。

 物騒な事を考えつつも、八重洲方面へ向かう。

 うーむ……この世界でも東京駅は常にどこかしら工事中なんだな? なら新宿駅はどうなんだろうか?

 ……やっべ、絶対迷う自信あるわ。東京に何年住んでいてもあそこは迷う。


「おー、こっち側は少し落ち着いて――」


 その時だった。恐らく俺と同じ、地方から東京に来ていたであろう、大きなトランクを必死に引きずるお婆さんの手からトランクが一人でに走り出していった。

 しかも……巧妙ではあるが、あれは魔法だ。

 俺は急ぎ駆けだし、トランクが車道に飛び出す寸前でそれを防ぐ。

 それとほぼ同時に、目の前の車道に一台の車が現れた。

 危ない、止めなかったら車と激突してたなこれ。


「お婆さん、荷物は無事ですよ」

「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 ぺこぺこお辞儀をし、お婆さんが離れたところで、今度は背後から威圧的な声がかかる。


「おいこっち向け。いきなり車道に突っ込んできて危ないだろうが。急ブレーキでタイヤがすり減ったぞ、おい」

「お前は何を言っているんだ?」


 車から魔法の痕跡を感じる。そうか、これは一種の当たり屋か。

 この場合は人の荷物に車を当てて、車の修理代でもせしめようとしているのか。


「生憎ここはまだ歩道だ。それで、この手口で車体の修理代は稼げそうか? 今回はどこも傷付いていないしブレーキ痕も見受けられないが」

「っ! 何言ってやがる! お前顔覚えたからな!」

「俺はもう忘れた。覚えて欲しいのか?」


 力はない。俺にもう、異世界で生きていた時代の力はない。


「覚えてやろうか。なぁ、本当に覚えてやろうか?」


 経験と技術しか残らなかった。

 八〇〇年を超える激務と戦。

 何万と奪った命の重さ。

 俺に残ったのはそれくらいしかない。


「本当ニおボえテやろうカ?」


 喉から殺意があふれ出る。

 目から害意が滲みだす。

 力はない、俺には威圧する事しか出来ない。

 久しぶりに激情を意図的に表面に出し、せめてこの犯罪者予備軍にこのまま引いてもらう努力をする。

 が、その時――


「そこまでです。それ以上は貴方を殺人犯として警察に突き出さなくてはいけません」


 涼やかな声。聞き覚えのある声。

 その声に視線を車内の男から外し振り返ると、そこには『見覚えのある豚の仮面』をした、一人の女性の姿があった。


「大げさだな、これくらいで人は死なんよ」

「いいえ。ちゃんと見てください。もう既に失神しています。手足の痙攣、口の端から泡、充血した目。既に全身が完全硬直、死の間際です」

「……そうか。どうやら自分の事をよく分かっていないみたいだ」


 その女性がどこかに指示を出したのか、いつの間にか現れた黒服の男達が車ごとこの当たり屋もどきをどこかに連れ去ってしまった。


「最近似たケースの損害賠償が多数報告されていました。恐らくその犯人でしょう。こちらの方で調査しておきます。さて、改めまして……初めましてニシダヨシキさん」

「確かに初めまして、になるのか。俺からしたら……久しぶりだな、オインク」

「今は『アキミヤリョウカ』と名乗っています。どうか『リョウカ』とお呼びください」


 そう言って差し出された手を取り、握手を交わす。

『久しぶり』とは言ったが、俺の感覚からすれば『約一週間ぶり』でしかない。

 今際の際にはこいつもいた。だが……こいつはもしかしたらあの時から今日に至るまで、ずっと一人で生きて来たのではないだろうか。

 リョウカの迎えである車に乗せられ、この見知ったようで知らない街をひた進む。



「――つまり、この世界で目覚めてからまだ三日程と?」

「ああ、そうなる。だから……俺が最後にお前を見てからまだ三日だよ。そっちは……何年だ?」

「……貴方が亡くなってから、今日で二〇七三年になります」


 その膨大な年月にめまいがする。二〇世紀……もだと……?


「っ……よく、生きてこれたな」

「ふふ、一応定期的に不必要な記憶は封印しています。大体五〇年周期程で。だからもう、忘れてしまった事の方が多いですよ」

「そうか。……それで、今のこの世界はどうして生まれたと思う?」


 これだ。これが本題だ。

 本来交わる事の無かった世界。生まれるはずのない今の状況。

 それら全ての理由を知るのは間違いなく、今目の前にいるこの女性だけだ。


「……私は、いえ……『私達』は貴方の死後、一つの研究を始めました」

「私達……とは?」

「貴方の二人の奥さんですよ。私もあの二人も、貴方を失う事が我慢ならなかった。来世でも貴方と共に生きたいと願ったあの二人は、私と共に貴方の魂を追いかけました。研究の果て、私達はついに世界を別つ壁の存在に辿り着いたのですよ」


 まさか……三人が今の状況を生み出したのか……?


「ですが、私達に壁を破る方法を見つけ出す事は出来ませんでした。開かない扉を前に、貴方の二人の奥さんは……自分達では辿り着けないという事実を受け入れ、そして……私に全ての研究を託し、その生涯を終えたのです」

「……そうか。そしてお前が……扉を破る方法を見つけた、と」

「私は仮説を立て、そして諦めました。ですが……次元の研究をしていた最中、それらは何かの影響を受けたのか、それとも触れてはならない何かに触れてしまったのか、唐突に私の制御下を離れ暴走を始めました」


 後は、彼女にも分からないという。

 だが間違いなく事の発端はこの女性、リョウカと……俺の二人の妻だと言える。

 無論、世界が繋がったが故の災害などは起きていないし、互いの世界が発展、良い関係を築きつつあるのは俺にも分かる。

 だが――それはいつまで続くのか。


「……責めはしないさ。俺が同じ状況なら、同じことを……いや、世界を滅ぼしてでも二人の妻を追いかける。全てを投げ捨てでも二人を求めるさ。だから、何も言わんよ。現状良い事づくめだしな。交通の便がここまで良いと、流通の方も期待出来そうだ。近い将来地元でレストランを開くつもりでな、ちょっと仕入れ値が安くなりそうだ」

「……あくまで平穏を望むのですね?」

「出来れば、な。だがもしも……責任を果たせというのなら、それに従うさ」

「っ! 貴方に責任なんてありません、責任は私にあります」

「それで、お前は今こうして身分を偽って、地球の矢面に立ち異世界との均衡を保とうとしていると?」

「ええ、そうです」

「……そうか」


 これは、俺が彼女を支えるべきなのだろうか。

 ……いや、こいつは誰かに支えて貰おうとなんて考えていない、望んですらいない。

 なら俺は……好きに生きるさ。


「ヨシキさん。貴方は先程『威圧だけで人を死の淵に追いやりました』。貴方の身体がどこまでの力を持つのか、どこまでの力を得られるのか、制御する方法も含めて私の元に暫く身を預ける気はありませんか?」


 そう言われ、先程の光景を思い出す。

 ……威圧。魔王として生きた時代の再現。

 力を失ったと思っていたが、それでも今の俺にはあの程度の事が出来てしまった。

 魔法の存在するこの世界では、もしかしたら俺は平穏を望むべきではないのかもしれないな――


「分かった。暫く厄介になる、リョウカ」


(´・ω・`)ゼノブレ3のDLCは本編にすべきだった

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