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閑話

(´・ω・`)BBさんの場合

「チセ、東京で研修と言っていたが、俺も少し家を空ける。たぶんそっちの研修が終わってもまだこっちに戻っていないだろうけど、心配しないでくれ」


 俺がこの世界で目を覚まして二日目。

 どうやらこの世界は俺の知る『地球』とは異なる世界であるようだった。

 それはたとえば毎日届く新聞の内容であったり、テレビ放送の内容であったり、インターネットで調べられる情報であったり、それら簡単に調べられる情報だけでもう、完全に『俺の記憶にある地球』とは全く異なっていたのだ。


「兄さん、お店開くって話はどうなったの?」

「ん、ああ……少し予定が狂ったんだ。ちょっと他に片付けたい仕事というか、事後処理が残ってたんだ。まぁそのうち開くさ」


 俺は、この世界の『ニシダヨシキ』なのだろうか。

 どうにも妹との会話が噛み合わない。どうやらこの世界の俺は、自分の店を出す準備をしていたらしい。

 俺が生きたグランディアでの八〇〇年余りは、確かに存在していた。

 だが同時に、この地球は俺が元々生きていた地球とは違っている。

 ならば、この世界にいる家族も本当の意味では別人ではないのか。

 俺は『この世界のニシダヨシキ』を上書きしてしまったイレギュラーなのではないか?

 そんな考えばかりが脳裏を過ぎる。


「じゃあ研修頑張ってな」

「ん、そっちも何するのか分からないけど頑張ってね」


 が、そんな思考のノイズ、マイナスの考えなんて切り捨てる。

 生憎そこまでセンチメンタルな人間じゃあないのですよこちとら。

 さて……ならとりあえず俺が連絡を取るべきは――




「電話番号……これで合ってるはずだよな。この世界での俺は知り合いになっていなかったのか……?」


 自室にて、記憶を頼りに『旧友』に連絡を入れる。

 元々の地球での知り合い、そして……同じくグランディアに召喚された戦友。

 この世界はどうやら『娯楽』の発展が元々の地球とは異なっているらしく、電子遊具の発展が俺の知識より五世代は遅れていた。

 遵って『オンラインゲーム』という概念そのものが存在せず、本来であれば知り合いになっていたはずの友人とも関わらないで生きてきたようだった。

 だが、その友人もまた俺と同じく『異世界グランディア』に召喚された人間だ。

 もし、俺と同じ境遇に陥っているのだとしたら……。


「……平日だしな、仕事中なら電話にも出られないか――!」

『もしもし、どちらさまでしょうか?』


 通話に出た相手、若い男の声に心臓が少しだけ強く跳ねる。


「失礼、古い友人の携帯電話番号だと思い連絡したのですが、もしも間違っていたら申し訳ありません。こちら『ニシダヨシキ』と申します、心当たりは御座いませんでしょうか?」


 さて、どう答える?


『……そうか、俺だけじゃなかったんだな』

「っ! ああ、そういう事だ」

『こっちに来れるか? 住んでいた場所は変わらない、俺は仕事の都合で遠出は出来ないんだ。そっちはどうだ?』

「前と同じで転職中だ。ちょっと状況は違うがね」


 良かった。少なくとも一人、同じ境遇の味方がいるようだ。

 俺は早速、同じ県に住むも、遠く離れた場所に住む友人『ススキダカズキ』の元へ向かうのだった。






「……電車の速度は普通だったな。ここが田舎だからなのかもしれないが……」


 ふむ? もしかしてだが、この世界ではリニアモーターカーが普通に走っていたりするのだろうか? 都会とかだと。


「いやー……同じ県でもこっちは畑と田んぼ多いなー……俺も車かバイク買うか?」


 まだ詳しくこの世界について調べたわけではないから、具体的にどう変わっているのかはまだ把握出来ていない。が、まずは俺と同じ境遇でいてもおかしくない人間とコンタクトを取る、これが優先だ。


「一人より二人、二人より三人、ってな。カズキはどうなってるのかね……」






「悪い、仕事上がるまでどこかで時間潰してくれ。七時には終わる」

「お、おう。何か悪いな……」


 職場の場所をあらかじめ聞いていたのだが、どうやら今は大型スーパーの中にあるテナントの一つ、オーガニック食品専門ブースの副店長だそうな。

 で、今も忙しそうにレジとバックヤードを行ったり来たりしていた。


「……元の職業は……知らないな。見た感じ今の仕事に慣れている感じだったし、元の世界と同じ仕事なのか……?」


 あ、ちょっとついでに良さげな食材買っておきますね。

 凄いぞ……スペイン産のニンニクが半キロで四〇〇円じゃないか。

 そうしてカズキの仕事終わりまで、大型スーパーの他のテナントを見て時間を潰す。

 そこで新たにこの世界についての情報を得ていく。


「やはり娯楽は魔法科学や魔法技術産業の方に流れてる感じだな。スポーツとしての側面も強いのか。魔法を使った格闘か……面白いな」


 スポーツ用品店風のテナントに立ち寄ったが、どうやらここは『バトラーデバイス専門店』と言うらしい。

 魔法を使う事を前提とした機械的な武器、スポーツでいうところのバットやシューズ、そういう一種のスポーツ具というポジションの物を扱っているようだ。


「値段は可愛くないな……『ヘヴィソードモデル』が一七万……」


 様々なメーカーが、魔力を利用した武器を開発し販売する。

 それは一見すると面白い世界ではあるが、つまりは『簡単に命を奪える品が誰でも手に入る』という事に他ならない。

 セーフティーとやらが付いているようだが、それを解除出来ないなんて保障はない。

 それに、そもそも魔法が存在する。法で規制されていようが必ず事件は起きる。

 元の世界だって銃による犯罪は存在していたのだ、魔法で犯罪が起きないなんてありえない。


「……危険な世界だな、ここは」


 警察組織の練度はどうなのか。法で裁く際に魔法の証拠は見つけられるのか。犯罪組織はどれ程の危険を秘めているのか。一度気にしてしまうと次々と不安が生まれて来る。


「いや、これは世界の所為じゃない。俺がここまで杞憂を抱えるようになったのは……」


 簡単な話だ。それは俺が『力を失ったから』だ。

 この不安、焦燥、臆病にも仲間をすぐに探すという選択も、全て俺が『八〇〇年余りもの間抱えて来た絶大な力』を失い、ただの人間になってしまったからだ。


「……俺も、魔法とか勉強したら使えるのかね」


 俺は自分の設定したアラームに従い、仕事が終わったであろうカズキの元へ向かうのだった。






「ふむ、お前の家は前と変わらないんだな? 微妙に照明が違ったりゲーミングPCが普通のPCになっていたりはするが」

「ああ、そうだな。で……今日急に連絡が来たって事は、お前がこの世界に戻って来た……いや、目覚めたのは今日って事か?」


 仕事が終わったカズキと共に、俺は彼の住むアパートを訪れていた。

 相変わらず必要最低限の物しかない、スタイリッシュな空間だ。

 が、元の世界には数点、アニメのフィギアやタペストリーが飾ってあったのを覚えている。

 が、今はそれがない。やはりアニメ関係の文化は育っていない世界のようだ。


「いや、俺が目覚めたのは……昨日だ。享年八〇〇と余年。親族四〇人以上に囲まれながらの大往生だったよ」

「……そうか。俺は確か三〇〇才くらいまで生きたな。やはり力の強さが寿命に直結してるのかね」

「さてな。で……そっちはいつ気がついたんだ、この世界で」

「二年前だ。だが正直俺達の目覚めたタイミングは誤差レベルじゃないかと思ってる」

「確かに。この際タイミングはどうでも良いんだ。ただこの状況を共有出来る相手が欲しかった」


 ここが俺の元いた世界じゃないのは確定しているしな。

 なにせ、俺が元いた世界のチセは……俺の妹は一度異世界グランディアに召喚された後に、地球に帰す事が出来たのだから。つまり、あの時のチセが戻った世界線こそが俺達が本来いるべき地球なのだろう。

 なら、ここはどこかのタイミングで分岐した地球……なのか?

 俺はこの考えをカズキに伝える。


「概ね俺も同じ考えだよ。というか……異世界と地球が繋がったタイミングで歴史は分岐したんじゃないかと思っている。どうやら第二次世界大戦が終結してからすぐのタイミングで異世界と繋がったらしい」

「結構最近ではあるな。世界を揺るがす戦争の終わりのタイミングってのは偶然じゃないかもしれないな」

「ああ、俺もそう思う。けれどまぁ、俺達が何かする必要はもうないだろうさ」

「……そうだな」


 そうだ。もしも世界が変わったのだとしても、それをどうこうしようとは思っていない。


「お前、これからどうするんだ?」

「異世界に渡ってみたいな」

「正直一般人には無理な話だぞ?」

「そうなのか? 金さえあればどうにかならないのか?」

「ああ、軍人か特殊な立場の要人、政府に認められた業務に携わる人間、一部の政治家くらいだ。後はコネのある金持ちか」

「……そうか、難しいか」


 グランディアとやらをこの目で見たいと思ったのだが……。

 それに――


「たぶんまだ異世界で生きてるヤツは、俺やカズキのように記憶を持っていないんだろうな。ヒサシはこの世界でも俺の友人ではあったが、異世界で過ごした思い出なんてまったく存在していなかった。つまり、俺の知るヒサシ……ダリアはまだグランディアで生きているんじゃないかと思ってな」

「……マジか。いや、でもダリアなら生きていても不思議じゃない……か?」

「ああ、俺を看取った人間の中にはダリアもいた。アイツはこの世界の行く末を見守るって言っていたしな」

「そう……か。俺は大分早く死んじまったからな、ダリアがどう過ごしたかなんて知らないんだ。なら……他の皆はどうなったんだ?」


 その時俺は、カズキの表情がどこか焦っているような、何かを我慢しているような、どこか急いているような印象を受けた。

 ……そっか。そうだな、そっちを先に語るべきか。


「いや、それより先に語るべき事があったな。……お前の妻と子は立派に国を成長させたぞ。娘は俺の孫と結婚、妻は政治の一線を退いてからは隠れ里で平穏無事に過ごしていた。毎年うちの城に遊びにも来ていたぞ」

「っ! そうか……! そうか……娘はお前のところに嫁いだか……!」

「最初は奥さんもこっちに住まないかと誘ったんだがな? けれども隠れ里で子供達相手に教鞭を取る事にしたようだ」


 俺は、カズキの前世……というべきか、グランディアで生きていた頃の家族のその後について語る。

 この男は、俺よりもよほど良き父であり、夫であり、そして……王だった。


「教えてくれてありがとう。本当に、ありがとう。ずっと心残りだった。この世界で目覚めて最初に考えたのは……家族の事だった。そうか……妻も娘も……幸せだったか」

「ああ、間違いなくな。さて、他の人間についてだが……エルはお前の亡くなった二年後に亡くなった」

「だろうな、子供が出来たタイミング的にも俺と近いタイミングで寿命を得ていたはずだし」

「ああ」

「で、俺より先に子供が出来たお前が長生きなのは、やはりお前の力によるところが大きい、と」

「純粋に寿命が他よりも長かったって事だろうな」

「正直俺は寿命うんぬん以前にお前が奥さんに殺されるんじゃないかと思っていたんだがね?」

「…………円満な形で妾という扱いで彼女と関係を持ったのでこれ以上は何も言うな」

「くく……そうだな。それで、残りは?」

「生憎、オインクは寿命を得るような事はなかった。生涯独身で子供も作らずにいたんじゃないか?」

「つまり若いままだったと?」

「ああそうだ。ダリアと同じであの世界にまだいるのかもしれない」

「……そうか、まだ生きてる可能性が……なぁヨシキ。前々から少しだけ気になっている人間がこの地球にいるんだが」

「ん? なんだ、片思いか?」

「そうじゃない」


 するとカズキは、PCを操作して何やら動画投稿サイトを開き、ある動画を俺に見せて来た。


「恐らくまだこの地球の詳しい状況を把握していないだろうが、これを見てくれないか? 現状、地球上で最も異世界グランディアと親しい企業でもあり、対グランディアの全ての事柄の窓口になっている財閥の総帥の映像だ」

「なんだと? そんな財閥が……」


 映し出される映像には、おかしな風貌の女性がインタビューに応じる様子が収められていた。

 黒髪の、まだ年若いであろう日本……恐らくアジア系の女性。

 とてもじゃないが地球のトップに君臨する人間とは思えない風貌だ。

 そして何よりも――


「この仮面、どうみても『あの豚』だよな。それにこの風貌……」

「……ああ。前々から怪しいとは思っていたが、お前が『オインクはまだあの世界にいるかもしれない』と言ったからな。確信が持てた。こいつは恐らくグランディアで今も生きているオインクだ」

「……詳しい話を聞けそうだな。分かった、俺が接触を試みる。お前はどうする?」

「俺は今の生活を続けるさ。生憎、世界が変わったところで平穏な事には変わりないんだ。今、少しずつ仕事が楽しくなってきたんだよ」


 そうだな、それが普通の反応だ。

 平穏に生き、仕事を続けて充実した様子のコイツを、俺が連れまわす訳にはいかないか。


「それでも、本当に困ったことがあれば連絡をくれ。一応、この世界でも研鑽は続けているんだよ。お前もどこかで力の使い方でも学んだらどうだ?」

「オインクと会えたら提案してみるさ。今日は急に悪かったなカズキ。俺は一度実家に戻る」

「あいよ。久々に飯でも作ってもらおうと思ったが、またの機会にするさ」

「悪いな、生憎手持ちはニンニクしかないんだ」


 そうして俺は夜の列車に飛び乗り、実家に戻る頃には深夜を周っていたのだった。


(´・ω・`)ちょっと幕章扱いのお話続きます

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