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閑話

(´・ω・`)お知らせも兼ねた閑話です。



(´・ω・`)まだ詳しい情報は出せませんが、この度『パラダイスシフト』が書籍化される事が決まりました。


(´・ω・`)これも応援して下さった皆様のお陰です。

 海上都市のとある路地裏。

 かつてユウキが六光と交戦した場所であり、リオの隠れ家の一つでもある質屋が居を構える場所でもあった。

 その質屋に今、新たな客が訪れていた。


「ん……なんだ兄さん、ここはもう店じまいだ。私有の倉庫みたいな場所で立ち入りは禁止だ」


 その客に向かい『ドアノブ』が語り掛ける。


「珍しいな、一種のガーゴイルか。地球でも活動し続けられるなんて余程腕の良い錬金術師に作られたか、それとも……異界の遺産か」

「……おめぇさん、ナニモンだ」

「ん? この世界の支配者にもなれる一般人だ」


 その客、ヨシキはそう冗談めかして語って見せる。

 その時、その喋るドアノブが回転し、扉が開く。


「お待ちしておりました、どうぞ中へ入ってください」

「ああ、失礼するよホソハ嬢」


 現れたのは、ユウキの後輩であり、謎多き人物であるホソハだった。


「この場所は君の領域か」

「そうですね、一応私の今の家であり、庇護者が営む質屋……という事になっています。素養の高い人間しか辿り着けない場所なんですよ、ここ。最近では素養の凄く高い魔導師の女の子の隠れ家として貸し出したりしていたんです」

「なるほど、なんだか懐かしい気さえしてくるよ」

「……ふふ、そうかもしれませんね」


 二人の間にだけ通じるなにかがあるかのように、笑い合う。


「それで、今日の呼び出しの理由はなんだい? もう知っているかもしれないが……俺はこの後グランディアに行く。全てを……終わらせる為に」

「はい、知っています。ですので改めて私は貴方の出した結末に『花丸』を出すか『赤点』を出すか決めようかと思いまして。だから一緒に『見直し』でもしようかと思ったんです」

「……そうか。じゃあ……見直そうか、最初から」

「では、お互いに知っている事を教えあいましょう。正しく最初から見直す為にも」








「俺は、気がつくとこの世界の自室にいた。原初の魔王としての全ての記憶を持ち、そして『魔法も何もないただの平凡な世界』である地球で生きた記憶もある状態で」


 俺はこの見た目二十歳にも届かない娘に、自分のこれまでの記憶を語る事にした。


「俺は元々ただの地球人だ。そして……異世界グランディアに召喚され、その後は『知っての通り』旅路の果てに世界に自由を取り戻し、魔王として国を治め、愛する妻達に看取られながら、約八〇〇年の生涯を終えた」


 途方もない時間を、元地球人が生き続ける事は正直不安の方が大きかった。

 けれども、妻達が、子供達が、国民達が俺にはついていてくれた。

 まだ幼い世界が、目まぐるしく発展していく姿は見ていたとても楽しかった。

 子供達よりも長く生きた。何人もの最愛の子供を看取って来た。

 その悲しみを越えられたのは、やはり妻と子供達、子孫たちがいたから。


「そして俺は、気がつくとこの『本来生まれるはずのない異世界と交わった地球』の自室で目覚めたよ。元々の地球人『ニシダヨシキ』として」

「心中、お察しします。さぞや『虚しく悲しかった』でしょう」

「……凄いな、正解だ。俺は『妻も子供も全てなかった事になってしまったのか』と感じ一人絶望したよ。あの八〇〇年は無かったことになったのかと。なにもない平凡な世界でまだ生きなければならないのか、と」


 そう、それが真実だ。今まで誰にも言った事のない、俺の真実の気持ち。

 それを、この娘は完全に見透かしているのだ。


「しかしそうではなかった。この世界は普通の地球ではなかった。貴方は、そこに希望を見出した」

「そうだ。俺はこの世界について調べ出し、早い段階でここが俺の生きた異世界グランディアと繋がりを持った、異なる世界線だと判断し、そしてその原因であろう人物と接触した」

「実際、『彼女』が原因の一つではありますね。そして貴方は……自身の半身ともいえる妻達を召喚する事に成功した」

「確信があった。霊魂すら呼べるのなら、俺は絶対にあの二人を呼び出せると。俺を先に失った二人が、そこで諦めて何もしないとは思わなかった。絶対に来世だろうとなんだろうと、魂を追いかけてくると確信があった」


 妄執ではなく、これは信頼だ。妻達は必ず俺を求めると。

 そして俺はどんな運命だろうと神だろうと打ち破り、愛する妻達を呼び寄せられると。


「恐らく、貴方の魂がもう、人間の範疇に収まらなかったのでしょうね。私と同じように。そして結果として貴方は力を取り戻し……その責任を負う事にした」

「不本意だがね。だがこの世界が非常に不安定で、いつか大きく間違った時、世界は自壊でも起こすのではないかって予想は出来た。だから俺は世界の調停者として動く事に決めた」

「私も、この世に生を受けた以上、無関係ではありません。多かれ少なかれこの世界の許容量を圧迫しているんです、私という存在は」

「が、それでも君は『この世界で生まれた』不自然な存在ではないさ。問題は『正規の方法以外でこの世界にやって来た人間』だ」


 例えるなら不法入国者。それは取り締まるべき対象であり、それが大勢のさばるようになった国の末路なんて……考えるまでもなく破滅だ。


「故に、俺は狩るべきか否か、その裁量を自らに委ね、これまで動いて来た」

「……私はどうやら許されたみたいですね?」

「ま、あまり目立つような……それこそ、全世界が知るようなレベルで目立たなければ特に問題はないだろうさ」


 それはつまり、世界に知れ渡るレベルで目立った人間は、粛清の対象になりえる、という意味でもあるのだが。


「さて、貴方の歩みは大体分かりましたよ、元原初の魔王さん。では……この先『ササハラユウキ』先輩をどうするつもりなのか、貴方の答えをお聞かせください」


 核心に迫る。

 恐らく正規の手順を踏まず、この異なる世界線に迷い込んだ、大きすぎる力を秘めた青年。

 彼は、まだ自覚していないのだ。自分がどれほどの力を秘めているのかを。

 そんな彼は、今や地球上で知らぬ者はいない程の英雄となっている。

 秋宮や国、警察機関による圧力で過度な一般人の接触、メディアからの追及は抑えられているが、それもどこまで持つか分からない。


「彼は……地球にはいられない、いるべきではないだろうさ。そしてもし今、グランディアで歪みの中心である異界に迷い込み、そこで『起こるべきではない何か』が起きるようなら、俺は……決断する事になる」

「……それが、貴方の出した結論ですか」


 俺は調停者だ。そして執行者であり、断罪者である。

 だから『これ以上の結末』は俺の管轄外なんだよ。


「せめて、自分も痛みを背負う為に彼と親交を深めた。それは貴方のやさしさであり、唯一確約出来る『償い』。リアリストであるが故に、希望は誰にも残させない、と」

「これ以上の答えは俺からは出せないよ。最悪の時は俺が、彼をこの世界から抹消する」

「……私は貴方のその答えに……赤点をつけたいと思います。補習ですよ、全てが終わった後に必ず」

「……甘んじて受け入れるさ」


 俺に『終わりのその後』を保証する事は出来ない。

 赤点なのは知っていた。俺は出した答えがその後、残された人間にどんな傷を負わせるのか一切考慮していないのだから。

 だが――


「ま、正式な採点は実際に答えが出てからで頼むよホソハ嬢。案外『加点される』事だってあるかも知れない」

「ええ、期待しておきます。では……いってらっしゃい、ヨシキさん。貴方の始まりの地であり、終わりの地でもあるノースレシア大陸に」

「ああ、行って来る。じゃあ最後に一つだけお願いを聞いてもらおうか? わざわざこんなタイミングの呼び出しに応じたんだ」

「ええ、構いませんよ」


 店を出る間際、俺は一つの願いをこの娘に託す。


「俺の妻と会ってくれ。そして何か頼まれたら協力してやってくれ。一度だけで良い」

「……分かりました。お店にいる方で良いのですよね?」

「ああ、頼む。もう一人の妻は今、海の向こうで奔走中だからな」


 確実ではない事は決して口にしない。

 それで良い。失敗する確率の方が遥かに高いのだから。








「私は、貴方の内に秘めた答えに及第点を差し上げます。きっと誰もが納得する答えは、今回に限りその方法でしか得られないでしょうから」


 ヨシキの去った扉に向かい、ホソハはひとりごちる。


「では会いに行きましょうか。きっと……彼女が答えを補ってくれるでしょう」


 そうして、彼女は静かに店を後にする。

 妻であるR博士に会う為に、必ず訪れる悲劇を『回避ではなく緩和する』為に――


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