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第二百二十二話

 到着した便……というよりも、恐らく個人のチャーター機が着陸し、ゲートから現れるマザーさんを出迎える。

 ……うん、俺こういうの知ってる。芸能人が帰国してきた時とかテレビでインタビューされるシーンそっくりだ。

 TPO的にかなりセレブチックな私服のマザーさんは、案の定周囲の注目をかっさらっていた。

 知名度ではなく、純粋な美貌でここまで人の視線を集めると言うのは、本人はプレッシャーではないのだろうか? それとも……慣れている?


「先程機内に連絡が入りましたが、お二人が私の警護についてくれるのですね?」

「はい。すみません、その……BBから離れてしまいました」

「同じく、こちらに回されてしまいました。ですがこれはヨシ――BBなりのやさしさ、配慮ではないかと」

「ええ、そうだと思います。ここは世界でも有数の観光地であり……夜も盛んな眠らない街という側面もありますからね。無用なトラブルを避ける為に貴方達をつけてくれたのだと思います」


 こちらに向かいながらそう語る姿に、やはり一瞬頭がボーっとしてしまう。

 スタイルや顔だけではないのだ。歩き方、話し方、指先までの動作、それら全てが『洗練されている』のではなく『周囲を魅了している』かのようなのだ。

 おかしいな……前に船の上で会った時はここまでの迫力はなかったはずなのに。


「……随分気合いを入れているようですね、マザー」

「ええ、勿論。いわば戦場に赴くような物ですから。……それにしても、こうしてお会いするのは『久しぶり』ですね、カズキさん」


 自然な会話をしていたかと思うと、思い出したかのようにマザーさんが先生にどこか含みを持たせたように話しかける。


「……ええ、本当に久しぶりですね」

「……なるほど、確かに……面影がありますね……」


 すると、マザーさんがずずいと顔を先生に近づけ、まじまじと先生の顔を調べるように観察しだす。

 賭けても良い。あんなことされたら俺は緊張で気絶する。


「流石に照れるから止めて頂きたい」

「ふふ、失礼しました」

「二人は前から知り合いだったんですよね? もしかして先生……整形でもしたんですか?」

「いえ、違うんですよ? カズキさんは『成長期』が遅かったので、こうして大人な姿を見るのが新鮮で」


 マジでか!? ただでさえ若く見えるのにもっと若く見えていたのか!?


「ま、まぁそういう事だね。さぁマザー、この後の予定を教えてください。ユウキ君と僕は貴女に従うように言われていますので」

「そうでしたね。では……少し観光にお付き合いください?」






 どうやらマザーさんはあらかじめ観光したい場所をリストアップしていたらしく、俺が勝手に抱いていた『淑女の鑑』というイメージではなく、ただ楽しそうに観光地を巡るお姉さんに見えた。


「アル・ファヒーディ遺跡は、ここドバイの中でも最も古い遺跡群なんですよ。地球上で最も進んでいると言っても過言ではない建造物が並ぶ国に、ここまで歴史を感じさせる遺跡が共に存在する。どこかファストリア大陸にも似た趣を感じる対比だとは思いませんか?」

「なるほど、確かにここからでも見えるビルを背景に遺跡を見て回るのも中々……」

「なんか面白いですね。マザーさんはこういう遺跡巡りが好きなんですか?」

「遺跡、というよりは建築物を見るのが好きなのですよ。どういう考えでその形になったのか。その背景にはどんな歴史があったのか。それを考えるのが好きなんです」


 嬉しそうに遺跡を見て回るマザーさん。そして集まる視線。

 マジでどこにいても注目を集めるレベルの美人さんって逆に生活に困りそうだなぁ……。


「他にも有名な運河もあるのですが……我慢が出来なくなりそうなので見に行くのはやめましょうか」

「我慢、というと?」

「あ、分かりましたよ。釣りですよね?」

「ふふ、そうです。実を言うと今回の式典で、釣りの大会も企画されていたのですよ。人工島を会場とした大きな大会が。私も招待されていたのですが、つい先日自分のチャンネルの動画ロケで暫く日本を離れていたので、ヨシキさんを置いて海外にまた行くのが憚れるので出場を辞退したんです。ですが、結局釣り大会の方も企画が途中で無くなってしまったのだとか」

「なるほど。そこに偶然ヨ――BBが式典の催しで呼ばれたので、一緒に参加しようと決めたんですね」

「ええ、そうなんです」


 なるほど……じゃあどの道この国に来るのはある種運命だったんですな。

 いやぁ、世界一のセレブな国だけど、妙に似合うなこの人本当。


「さて、ではそろそろタクシーに戻りましょうか。次の場所を周ったら、そろそろホテルへ向かいましょう」

「了解です」

「分かりました。む、失礼BBの班から連絡が来たので先にタクシーに戻っていた下さい」


 お? 向こうで何か動きでもあったのか?


「では先に戻りましょうかユウキ君。ここは遺跡が入り組んでいますからね、案内します」

「あ、はい。凄いですね……覚えているんですか」

「ええ、迷路は得意なんです。さぁ、手を」

「さ、さすがに恥ずかしいですよ。こう見えても二十歳なんですから」

「ふふ、そうでしたね。すみません、ついうっかり。……ユウキ君のお母さんもこんな風に手を繋ぎたがったりしますか?」


 ……はい、そうなんですよ。というかそれだけならまだ良いんですけど、マジで割とよくお風呂で背中を流そうとしたり、一緒に寝ようとしたりするんですよ未だに。


「ノ、ノーコメントです」

「ふふ、するみたいですね」


 手は繋がないか、並んで遺跡群を抜け出し、タクシーへと向かう。

 これ、ガッツリチャーターしてるタクシーです。なんか空港出てそのまま止まってるタクシーと契約してました。

 日本とは勝手が違うとかそういうレベルの話ではないのかもしれない。


「運転手さん、もう少しこのまま待っていて下さい。今連れが来ますので」

「はい、奥様」


 凄いぞカズキ先生、旦那さんだと思われているぞ。

 ……ってそれだと俺は子供か!?

 俺が先にタクシーに乗り込み、次にマザーさんが乗り込もうとしたその時だった。

 誰かが呼び止める声が聞こえて来た。

 マザーが話しかけられているようだ。


「マダム、もしもよろしければ貴女の時間を少し私に分けて貰う事は出来ませんか?」


 あ、これナンパだ。


「ごめんなさい、旦那をホテルに待たせているのでお分けする事は出来ません」

「それは残念。……ですが、もしも旦那さんとの時間が退屈になる事があればこちらに連絡をして頂ければ――」

「失礼、それはありえません。食い下がる相手を間違っていますわね?」


 うん。どうせ出る幕はないだろうなとは思ってました。

 そうか、マジでカズキ先生とか俺を付けたのは男除けだったんだな。

 隣に乗り込んできたマザーさんに『慣れていますね』と声をかける。


「ええ、とても慣れています」

「……なんというか、ヨシキさんにぞっこんですよね」

「そうですね、彼の為なら世界を敵に回しても良いくらいに。……ユウキ君がお母様の為に世界を敵に回したのと同じですよ」

「はは……それを言われると納得します」


 すると、電話を終えたカズキ先生が戻って来た。


「お待たせしました。どうやらBB達は買い物を済ませてホテルに向かったようです。ただ、道中不自然に通行止めのような事が起きたりしたという話でしたが、これは偶然と見ても良いか判断に迷いますね」

「いえ、恐らく偶然ではないでしょう。今、私に声をかけてきた男性が居ましたが、身体の動きが素人のソレではありませんでした。どうやら防弾と魔法ジャミングの施された装備を纏っていたようですので、なにかしらのアクションをかけようとして諦めたのかと」

「え!? 今のただのナンパじゃなかったんですか!?」

「ふふ、車内では見えなかったようですね? きっと見たら重心の違和感や体表の魔素の流れで分かったと思いますよ」


 すみません絶対分からないです。

 ……オーストラリアでの基地脱出の時も思ったけど、この人タダ者じゃないな……。


「……なるほど、アルレヴィン家の手の者の可能性がある、と」

「それは分かりません。ですが私をわざわざ一人で入国させたくらいですからね、何者かが食いつくのはヨシキさんの想定内でしょう」

「……自分の妻を囮に使うか、アイツめ」

「ふふ、これは囮ではなく私への信頼の証ですよ?」

「……敵いませんね」


 むぅ……どうやらヨシキさんは俺達が思っているよりも、深い理由があってこの国に来たみたいだな。






 よくドバイの事をインターネットで検索すると、まず上の方に出て来る有名な観光地がある。

 海の上に植物の葉のような形の島が浮かんでいるアレだ。

 人口島『パームジュメイラ』と言うらしく、まるでファンタジーな様子ではあるが、なんと元の世界にもあったという、超巨大な人口島だ。

 その島には数多くのリゾートホテルがあり、その一つが今回BBのような招待された人間の為の宿泊施設だという。


「……本当に、想像以上に闇の深い国ですね。ただ日々を過ごし観光を楽しむだけなら平和ですけれど」

「……そこまで『視えて』いるんですか?」


 タクシーでの移動中、窓から周囲を眺めていたマザーさんがそうぼやく。


「ええ、多かれ少なかれここの人間は魔力を通常以上に消費していますね。それらの廃棄された魔力が国外に流れ、大きなうねりとなっている」

「では……どこか特定の人間が不正に魔力を使っている訳ではないと?」

「いえ、どうやらそうでもないようです。正確な場所は分かりませんが、明らかに一カ所に魔力が集中しているのが視えます」

「今回の護衛任務、貴女がいてくれてよかった。明日からの調査の大きな指針になります」


 なんだ? マザーさんには何かが物理的に見えているのだろうか?


「ユウキ君、マザーは今では珍しい『魔眼持ち』なんだよ。彼女は魔力視の魔眼を持っているんだ。魔力の流れや高まりを直接見る事が出来る。機材による魔力測定や魔導師の感応能力とは比べ物にならない精度なんだ」

「ええ、そういうことです。そうですね……ブルジュ・ハリファ、あの高い塔の方角に何やら反応がありますね。塔ではなく、その近くのどこかでしょう」

「本当ですか!? じゃあ明日からはあの場所を重点的に調べたら……」

「そうだね。後程ミコト君達の班と合流してから情報の共有をしよう」


 魔眼……か。凄いな、そんな物まであるのかこの世界には。

 ……あれ? アラリエルも持っていなかったっけ? 確かグランディア限定で使えるとかなんとか……。


「通常は魔眼を発動しても、視界が阻害される事はないのですが、この国の中心部に向かう程眩しさを感じてしまうんです。申し訳ありませんが、魔眼の行使はここまでになります」

「無理をさせて申し訳ない。発動はもう結構です」

「分かりました。さて……このタクシーの運転手さんが日本語を理解出来ないのが幸いでしたね。ですが念の為彼には今日一日の記憶を忘れて貰いましょうか」

「いえ、それには及びません。ホテルに着き次第始末しますので」

「分かりました。ではお願いしますね」


 ……は?

 次の瞬間、タクシーが大きく揺れる。

 急ハンドルを切ったのだ、この運転手が。


「素人が、やはりアルレヴィン家の人間か。この程度の揺さぶりに反応するか」


 が、次の瞬間運転手は気を失い、カズキ先生が器用にハンドルを奪い、助手席の自分と運転手を入れ替えて見せた。


「お見事」

「揺さぶりをかけるつもりなら前もって仰ってください、マザー」

「ふふ、少しだけスリリングな時間を味わいたくてつい。大丈夫でしたか? ユウキ君」

「だ、大丈夫です。ええと……タクシーが最初から敵対勢力の者だったと……?」

「いえ、恐らく遺跡観光中に取引を申し出られたのでしょう。遺跡から戻った後と前では運転手の態度が少し変わっていましたから」

「ええ、少々こちらの話を注意深く聞いている素振りが見られましたし、ドライブレコーダーの数が一つ増えていました。機能は停止させていましたが」


 ……やっぱタダ者じゃないな、二人とも。戦闘力だけじゃなく諜報員としても明らかに場数を踏んでいるのが分かる。

 カズキ先生、スーパーの副店長だったって嘘ですよね?


 その後、運転手を人通りの少ない場所に放置し、ホテルへと向かう。

 運転手の記憶は宣言通り、マザーが記憶を一部消したそうだ。

 曰く、それも魔眼の力の応用だとかなんとか。

 タクシーの方は恐らくアルレヴィン家がレコーダーの回収の為に処理してくれるだろうという話だ。

 式典の主催でありBBを呼び出したはずの家が、こちらの探るのは一体どういうことなのか。

 やはり秋宮を警戒してのこと……なんだろうな。




「凄い……今走ってるのって人口島の上なんですよね」

「そうだね、正直この人口島だけで海上都市の四分の三の面積はある。まぁ実際には陸地が少ないからもっと狭いんだけどね。が、これと同じ規模の島がもう一つある上、さらにもう一つ建造中らしい」

「ふぁー……やっぱり世界一の金持ち国ですね……」

「そうですね。そしてその資金源は原油の輸出と、それの対価として得た膨大な魔力による魔導具開発。そして最近台頭してきている『人材育成』ですか」

「マザーも知っていましたか。表向きは知られていませんが、この国の魔力濃度は日本と遜色ない程、いえむしろそれ以上ですからね、ここで育った人間は当然強くなる資質を持っています」


 マジでか。そうか、日本人が強くなりやすいのはゲート最寄りの国だから、魔力に影響されやすいから……つまり同じくらい濃度の高い場所でなら、同じように強くなれる、と。


「ですがその痕跡がないのが問題なんです。リョウカが警戒しているのは周辺海域の廃棄魔力の量が、どう考えてもゲートからの魔力より多い事。それは優先的に魔力を回されたり、新たな供給パイプが増設されたとしても説明がつかない程」

「……じゃあ、フロリダの時のようなグランディア行きのゲートが……?」

「いや、それも考えられないんだ。もしもゲートが出来ていたら、さすがにその影響は目に見える場所に出て来る。魔物化や魔物の流入、ユウキ君のような人の容姿の変異。そういう報告すらないんだ」


 じゃあ一体……やっぱり供給パイプなんじゃないのだろうか?


「それらを調べるのがユウキ君達の今回の本当の任務です。何かの反応がある方角は先程伝えた通りです。調査の方は任せましたよ。私やBBは式典に出席する必要がありますので、最終日まで勝ち残れるように頑張ります。途中敗退などしてしまえば、ここに残り続けるのももしかしたら難しいかもしれませんから」

「それに……アルレヴィン家の現当主ではなく、次期当主は悪い噂も多く敵も多いと聞く、この式典は次期当主やアルレヴィン家そのものを潰す絶好の機会でもあるんだ。護衛としてここに居合わせているのなら、もしもの時はそちらの対処も必要なんだ」

「……たぶん黒だって分かってる相手でも守らないといけないんですね」


 若干複雑な気持ちを抱きながらも、目的のホテルへとタクシーは走る。

 明日以降の調査……そしてBBの監視か。俺はマザーの頼みを優先するべきなのか、それとも……。




「では私は少し部屋で休ませて貰いますね。どうやらBBや他の生徒さんもまだ来ていないようですから」

「分かりました。我々はエントランスでBB達の到着を待っておきます」


 ホテルの豪華さは、もう今更言うまでもなく、ただ『凄い』という感想しか出てこなかった。

 どうやらBB達はバザールで買い物をしつつ移動していたらしく、今はこの人口島にあるお土産屋からホテルに向かっているところだそうだ。


「ユウキ君、随分緊張していたね。いつもより少しカンが鈍っていたように思える」

「面目ない。正直、気が緩んでいたのは否めません。それに緊張もしていました」

「さすがにマザーと一緒だとそうなる人は多いさ」

「カズキ先生はよく平気でしたね? 人妻だって分かっててもかなり緊張しません?」

「ん-……まぁそうだね、こればかりは付き合いが長いから、としか」


 ちょっと気になるが、俺が立ち入る事じゃないよな。

 先生と話していると、ホテルの人間に『お連れ様が到着しました』との知らせが。




「やぁやぁカズキ先生にユウキ君。お待たせしてしまったかな? マザーの護衛、ありがとうございます」

「いえ、これも任務ですので。マザーは現在自室で休まれています。一度顔をお見せしては?」

「なるほど、そうだね。長旅で疲れているだろうし労いもしないと。ちょっと行ってくるよ」


 到着早々、カズキ先生が少し詰め寄るようにBBにそう進言する。

 これは怒っているのか、それとも……早く向かわせたいのか。

 二人の間でだけ分かる合図でもあるのだろうか。


「さて、BBが戻るまでの間に互いに何があったのか報告をしようか。今ホテルの人間にミーティングルームを手配して貰っているよ」

「分かりました。先生とササハラ君の方もトラブルがあったそうですわね?」

「うん、ちょっとね」


 通された部屋に入り、互いの近況報告をしようとしたところで――思いとどまる。

 ……そうだな、さっきまでの俺は少し緊張しすぎていたのか、かなり日和気味だった。


「キョウコさん、ハムちゃんで部屋の中探って。セリアさんは防音の魔術をお願い」

「うん、正解だ。キョウコ君、セリア君、頼むよ」


 このホテルもアルレヴィン家が用意した物。ホテルだからといってセーフゾーンではないのだ。

 その結果――


「テーブル内部に電子機器が埋め込まれていましたわね。またモニターを使用すると、映像がそのまま外部にも送信されるようです」

「こっちは魔力のジャミングがあって術の展開がかなりむずかしかったねー……」

「やはり、か。どうやら秋宮を懐に招いたとしても、信用は一切していないようだね。それに、どうやらこちらへの害意もあるようだ」


 俺は、キョウコさん達BBグループが遭遇した事件を教えてもらい、こちらで起きた事件についても語る。


「なるほど、BBに比べてそちらは随分と直接的な動きがあったようですわね。こちらはどちらかというと『足止め』の側面が強い妨害ばかりでしたが」

「そうですね、通路を迂回させられたり、立ち往生する事になりましたが、それだけです」

「私としては、ゆっくりバザールで買い食いが出来て大満足でしたね。BBも同じくらい楽しんでいましたし」

「僕とカイは周囲の警戒をしていたけれど、怪しい人間は見受けられなかったんだ。でも、実行犯がまんまと逃げられたのだとしたら――」

「警察もグル……って事ですよね」


 BB班の報告を聞く限り、本命はこっちだったのだろうか……?


「ああ……なるほど。今日の事件についてはそこまで詳しく調べる必要はないかもしれないね」

「と、言いますと?」

「これは一種の実験だろうさ、こちらの練度を知る為の。明日以降は君達が狙われる事はないと考えるよ僕は。少なくとも式典本番まではね」

「先生、何か分かったんですか?」

「恐らくね。下世話で好奇心が強い人間によるお遊びだろう。明日以降の調査について、そちらの相談に移ろうか」


 ???

 先生は一体何を言っているのだろうか……?


「実は善意の協力者のお陰で、魔力濃度の高い地点の大雑把な位置が分かってね、その調査に明日は乗り出したいと考えているんだ」

「善意の協力者……その情報は正しいと先生は判断したのですか? どうやら想像以上に今の状況、周囲は敵だらけと見た方が宜しいようですけれど」

「これに限っては一〇〇%信頼が出来る情報だよ。ただ、調査に全員で向かう事は出来ないんだ。明日から、式典本番に出る人間を選抜する予選というものがあるらしい。その会場を護衛する人間をこちらからも出す必要があるんだ」


 あ、なんか思ったよりもガッツリ料理大会なんですね、これ。

 なら……BBがいる予選には俺が付いた方が良いのだろうか?

 いや、でも調査でもし潜入の必要が出てきたら……俺がいたほうが絶対に良いはずだ。

 これはどうするべきか……。


「はい! 先生私は予選会場の警備に立候補します!」

「コウネ君が行ってくれるんだね。もう二人、お願い出来ないかな? 出来ればキョウコ君かセリア君、二人のうちどちらか一人には調査に協力してもらいたいのだけれど」

「それでしたら私が調査に向かいますわ。警備としての戦力よりは活躍出来るでしょうし」

「じゃあ、私が警備に行こうかな。コウネも私も、魔法も近接も両方使えるから、あと一人はカナメかミコトちゃんにお願いしたいんだけど」


 戦力的にはその方がいいか……なら今回は調査に行くのは俺にして、BBにはつかないでおこうかな。


「では私が警備へ向かおう。それと、出来ればサトミも私達と共に会場の方に来て貰えるだろうか? 万が一の時に負傷者が出た場合、被害が大きくなるのは会場の方だと思うんだ」

「あ、了解。そうだね……会場ならある程度の医療班もいそうだし協力出来そう」

「なるほど……では俺とカナメ、カイにユウキ、キョウコさんが調査班という訳だな」


 男組は調査か。キョウコさんが紅一点だな。


「なるほど、では調査初日の班分けはそれを採用しよう。先生はそうだね、調査の足になる為にもユウキ君達に同行するべきかな?」

「いえ、運転免許は自分も持っています。ある程度の地理も調べてありますので、移動は任せてください」

「了解。ではショウスケ君に運転を任せるよ。車の手配は既にしてあるけれど、キョウコ君は明日、また車のチェックをお願いするよ」


 ショウスケお前、免許持ってたのか……。

 いや、俺も既にバイク免許あるから、車の免許もすぐにとれるだろうって聞いてはいるんだけどね……。




 ある程度ミーティングも終わりかけてきたところで、室内にブザーがなり来客の知らせが入る。

 外にはホテルの人間が待機しており、どうやら他のミーティングルームで、俺達をBBが呼んでいるのだとか。


「明日以降の予定を話す良い機会だ。BBのミーティングルームに移動しようか」


 そうして俺達は、何故か他のミーティングルームではなく、厨房へ向かう従業員用通路に案内されるのだった。


「こちらでお待ちです。では、失礼します」

「……ここがBBのミーティングルーム……?」

「とても良い匂いが周囲に漂っていますねぇ……ここ、たぶんホテルのセントラルキッチン区画ではないでしょうか?」


 俺達は案内された部屋の扉を開く。

 そこで待ち受けていたのは――


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