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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十七章

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第二百二十一話

 教室に集合した俺達は、他の面々がやって来るのを待っていたのだが、先にやって来たのはカズキ先生だった。


「まだ全員は揃っていないか。ショウスケ君、SSでの合同訓練にはもう慣れたかい?」

「はい、まだまだ学ぶことも多く足をひっぱってしまう事もあるかもしれませんが、編入当初よりは確実に強くなれている実感があります」

「そうか、それは何よりだ。君への個人指導のメニューがまだ完成していない事についてはすまないと思っている。今回の実務研修が終わったら仕上げに入るつもりだよ」

「恐縮です」


 カズキ先生は俺達に個人指導をしてくれているが、ショウスケにもそれをするつもりのようだ。

 ちなみにサトミさんは、もっぱらバトラーサークルで救護班として活動しているのだとか。

 経験をひたすら積むのもまた必要だとかなんとか。


「あ、あの……まだ始まっていないですよね……?」


 するとその時、おそるおそるサトミさんが教室にやって来る。

 大丈夫です、まだ十分前です。


「大丈夫大丈夫。好きなとこ座って」

「で、ではお邪魔します」


 サトミさんが一之瀬さんの隣に座る。

 カイ、残念がるな。お前の隣にはもう一之瀬さんがいるだろ。両手に花でもするつもりか。

 こっちは両隣にいるのカナメとショウスケだぞ。


「同郷三人が固まったね。ここだけ東北弁で会話しようか」

「なんでだよ……俺地元でも標準語しか使ってないぞ」

「右に同じく。家が標準語オンリーだったのでな」


 するとカズキ先生がやって来て、何故かカナメの隣に座る。


「これでさらに同郷が増えたな。ちなみに先生も標準語だが、前職ではお年寄りに好かれる為に方言を意図的に使っていた」

「そういうのあるんですね。っていうか前職って……スーパーの副店長でしたっけ?」

「その通り。片田舎でのんびりしていたところを無理やり大都会に引っ張り出された訳だ」

「あの、自分は先生が同郷というのは初耳でした」

「おや、そうだったか。ふふ、僕も今年からこの都市に来たんだよ」


 ああ、そんな少しだけ羨ましそうな顔でこっち見ないでサトミさん。

 そうだよね、サトミさんも同郷だもんね。

 と、残りの女子であるセリアさん、コウネさん、キョウコさんもやって来た。

 どうやら彼女達は三人で他のクラスの三期生、その女子達に頼まれて訓練を見ていたのだとか。

 そうだよな、就職や留学、色々な道が待っているのは何も俺達だけじゃない。

 他のクラスも今から少しでも自分の完成度を高めようと必死なのだ。


「全員揃ったね。時間は……五分前か。じゃあ理事長が来るまで俺が今回の研修の概要、触りの部分だけもう一度確認しておこうか」


 そう言ってカズキ先生は、前回リョウカさんが語った概要について語ってくれた。

 国外である事、そして護衛である事、最後に『これらが真の目的を隠す為の隠れ蓑』である事。


「正直、今回の護衛対象は有名人ではあるけど、本人もある程度戦える。元傭兵だという話だからね」

「ほう、元傭兵の護衛対象ですか。気になりますね……」


 たぶんカズキ先生は全て知っている上で語っているのだろう。


「時間だ。たぶんこっちに向かっているね」


 その宣言通り、扉が開きリョウカさんが入室する。


「皆さん集まっていますね。では、これより今回の実務研修の詳細を語ろうと思います」


 初参加のショウスケとサトミさんが、目に見えて緊張しているのが分かる。


「前回は行先を濁していましたが、今回は正式に入国が認められたので発表したいと思います。今回、皆さんにはアラブ首長国連邦ドバイ首長国へと向かって貰います。首長国都市であるドバイのさる名家が、誕生日を機会に当主の座を息子に譲るということになり、盛大な式典が開かれる事となりました。そこで今回開かれる式典の催しの一つとして、世界中の著名なシェフを招いての料理コンテストが開かれます。皆さんには日本から出場するある料理人の護衛として、ドバイに入国してもらう事になります」


 その表明に一同のどよめきが大きくなる。

 すると、キョウコさんが真っ先に手を上げた。


「はい、キョウコさん」

「その名家の名前について、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「アルレヴィン家ですね。ドバイ首長国の中でも、かつて首長も排出した事のある、イスラム帝国時代から続く大名家です」

「な……」


 有名なのか、そこ。すまんさっぱり分からない!


「これは想像よりもずっと難しい研修になりそうですわね……」

「ええ、少々あの国を渦巻く環境が複雑化していますから」


 ニュースとかもっと見ようと思いました。

 すると、続いてショウスケが手を上げる。


「発言をどうぞ」

「感謝します。昨今、ドバイ首長国とアブダビ首長国で、グランディアとの関係性を巡って主張が食い違ってきていますが、それを牽制する事も目的とした調査……なのでしょうか」

「……想像以上に状況を理解しているようですね。安心してください、今回の研修の背後に他国の思惑はありません。ですが、もしかすればドバイ側が自分達の力を見せる為という政治的側面があるかもしれませんね」

「なるほど……了解致しました」


 く……! なんかお前凄い今エージェント感出てたぞ!?


「それでは、今回の護衛対象となる方から詳細を語ってもらいます。来て頂いているのでお招きしますね」


 まじか、BB来ちゃうか。コウネさん発狂しそうだなこれ。

 そして扉を開けて現れる、いつものフルフェイスメットに黒いコックコートの不審者、BB。

 だが現れた瞬間、コウネさんよりも先に俺の隣にいたショウスケが立ち上がり――


「何者だ! そこを動くな!」


 デバイスを構え、不審者であるBBに警告をしていたのだった。

 ……いや、正直ショウスケは悪くない。知らない人が見たら普通はこうなる。


「ショウスケ、武器を下ろせ」

「な……何故誰も動かないんだ……?」


 珍しく狼狽えた様子のショウスケに、周囲がクスクスと笑い声を漏らす。


「も、もうお兄さん動いていい? 魔法とか撃たない?」

「どうぞ、入って来て下さい」


 やって来たBBの姿に、歓声を上げるのはやはりコウネさんだった。


「やっぱり! もしかしてと思ったんです! 選抜大会の中継も見ました!」

「やぁやぁお久しぶりだね、SSの皆さん。そして新メンバーのお二人。どうも、ぶぅチューバーのBBです」


 そういえば、この人BBとして面識あったな。

 ユキとカイの勝負では解説をしてくれていたし、俺が地球に戻った時もセリアさんとコウネさん、俺と顔をあわせている。

 当然、一之瀬さんもカイとユキの戦いで見たことがあるはずだし。


「さて、お兄さんのキャラ的にあまり血なまぐさい話題は避けたいのだけどね? でもアルレヴィン家って割とあちこちの国から警戒されているんだよね。そこで、お兄さんが招待されたので、それを利用して君達に調査して貰おうっていうのが魂胆さ。けれども当然、お兄さんの護衛もして貰うよ? そういう体で君達を入国させるんだからね?」

「一応、この人物は人並み以上に戦闘能力はありますが、あくまで一般人……いえ、ゲストです。有事の際は彼を戦力としてカウントをしないようにお願いします」

「今回、お兄さんはあくまで君達の『招待状』という扱いで頼むよ? ただ……注目の家が色々な思惑で大きな催しを開くんだ。何か裏があるにしろないにしろ、良からぬことを考えて動く連中は沢山いるんじゃないかな? それこそ、アルレヴィン家への暗殺とかね? 向こうもそれを見越して、入国してくる招待客には自由に護衛を付けられるように配慮してくれたんだ」


 なるほど……元々敵の多い家でもある、と。


「さ、依頼の概要はこんなところだね。お兄さんは出国の準備があるのでこれで失礼するよ」


 話は以上だと言わんばかりに、BBはそそくさと教室を後にしてしまった。

 残されたリョウカさんは、少しだけ溜め息をつきながら話を〆る。


「以上が今回の研修の詳しい概要となります。日程は三泊四日、その間に会場にてBBの警護、そしてアルレヴィン家を探るのが目的となります。詳しい作戦は現地にて」

「ある意味では敵地での作戦行動だ。これまでよりも行動一つ一つに注意して研修にあたって欲しい」


 そう先生達は言い残し、教室を後にする。


「あ、あれは不審者ではなかったのか……」

「いやー仕方ないよ。知らない人が見たらそうなるわ。一応、あの恰好でインターネットで活動してる有名人ってヤツだ」

「そうなのか……まだ知らない世界があるようだ」

「ショウスケ君はBBを知らないんですね!?」

「うわ出た」


 すると、ここぞとばかりにコウネさんが現れて解説をしだす。


「恐らく人類史上最も料理の神に近づいた人物にして、地球で最も料理を極めた存在と囁かれている人です!」

「なんと! そこまでの偉人だったのですか」

「はい、偉人です。その護衛だなんて……なんと幸運なのでしょう」

「いや、それはあくまで表向きの理由だからね?」


 コウネさん、今回の研修だとポンコツになりそうだなぁ……。


「なぁユウキ、ドバイってどんなとこか知ってるか?」

「え? カイ、流石にそれは知っておけよ。地球で一番セレブな国だぜ? ちょっと検索してみ」


 たぶん凄い街並とかホテルとかガンガン検索にひっかかるから。


「すっげ……これCGじゃないんだよな?」

「ああ、それ人口島らしい。なんか国中あちこちに人工池やら凄い建築物だらけだってさ」

「……やべえ、俺フロリダの時もそうだったんだけど、海外に憧れてたからすっごいテンション上がってる」

「まったく……実務研修だぞ、これは」

「えー、でもカイの気持ち分かるよ? ここまで豪華な国ってグランディアにもないもん」

「そうですねぇ……国丸ごとリゾート地みたいです。それに……今回の式典の関係で世界中の屋台とか集まってると思いません?」


 あ、もうコウネさんグルメツアー気分だこれ。

 俺はちょっと今回の研修、個人的には今までで一番厄介だと思ってるんだけどな……。

 ヨシキさんの動きもある程度探る必要があるとか……下手したらその場で俺殺されるんじゃないか……? いや、流石にそれは無いと思いたいけど……。


「ふむ……三泊四日なら、ある程度の旅支度は必要だな。ユウキ、買い物に付き合ってくれ」

「あ、そういやショウスケって寮に来たばっかだよな。サトミさんは荷物とか支度大丈夫?」

「あ、私は大丈夫だよ。なんだかんだで海上都市長いもん。一応旅行鞄とかもあるよ」

「よし、じゃあショウスケは今日あたりにでもブゥブゥバリュに連れてくか」

「あ、僕も付いて行くよ」

「俺もそうだな、新しい鞄と着替えが欲しいから付いて行く」


 お? 結構大所帯になりそうだ。

 そうして俺達男子組で揃って、そのまま買い物へと向かうのだった。

 いやぁ……でも確かにドバイってちょっと憧れるよな。グランディアとはまた違った意味で異世界感あるし。






 夜、買い物を済ませ家に戻ると、イクシアさんが何やら居間で作業をしていた。


「ただいまですイクシアさん。何してるんですか?」

「あ、ユウキお帰りなさい。いえね、今少しテーブルのぐらつきを直しているんです。どうしてしまったんでしょう……」

「あ、じゃあ俺が見ますよ」


 はて? 急にテーブルの脚が短くなった理はしないだろうに、どうしたんだ?

 俺も確認して見ると、イクシアさんがいじっていた脚だけが、どうやら微妙に湾曲して長さが足りなくなってしまったようだ。

 まぁ木製家具だしなぁ、長い間使ってたら徐々に変形もしてくるか?


「もしかしたら先日、調薬中に水を零したからでしょうか」

「ん-そうかもですね。とりあえず何か下に敷いて高さ稼げば大丈夫そうです」


 耐震マットとかその辺でも小さく切って脚の下にしけばいけるか。


「なるほど、買っておきますね」

「今日ぶぅぶぅバリュー行って来たのになぁ、もったいない」

「おや? お買い物に行って来たんですか?」

「あ、そうなんですよ。実は――」


 もうそろそろ実務研修が始まる事を報告する。

 それともう一つ、すっかり報告を忘れていたことがある。


「実は、俺達のクラスに二人転入生が来たんですよ」


 ショウスケとサトミさんの二人が転入してきたこと、そして今後必要になる物を、新しくこっちに越して来たショウスケの為に買い出しに行っていたのだと報告する。


「なんと! サトミさんは少し前からよくお店で見かけていましたが、ショウスケ君も越して来たのですね」

「ええ、そうなんです。だからもしかしたら、今後うちに呼ぶ事もあるかもしれません」

「ふふ、それは是非歓迎しないとですね?」


 そうだな、今回の実務研修が終わったら、そんな時間を取れるかもしれない。

 来月には戻って来られるはずだし、そろそろ夏季休暇の予定も立てようかね。

 もうね、なんだかんだでまだリフォームした実家を見に行けていないので……。


「ちょっとグラつきますが、テーブルにご飯、準備しますね。今月の実務研修も頑張ってくださいね? 今回は海外ということなら、私がかけつける事は出来なさそうですけど……」

「大丈夫ですよ、前回のはイレギュラー中のイレギュラーでしょうし。それに……今回に限っては物凄く心強い人間も同行してくれそうなので」


 ま、正直ジョーカーとして動くつもりがないのだとしても、ヨシキさんがいるというのはとんでもなく心強いからな。

 さて……では今晩も美味しいご飯を頂きましょう。もうイクシアさんに作れない物はないのではないだろうか?

 今日は焼きビーフンとキクラゲのスープ、そしてカニ玉でした。

 ううむ……和洋中行けるのは凄いな……。






「では行ってきますね、イクシアさん」

「いってらっしゃい、ユウキ。帰って来るのは最短で四日後、ですよね?」

「ですです。ただ、向こうの都合で前後する事もあるそうなので、長く見た方が良いかもしれません。たぶん学園の方から連絡が来るはずですので」

「分かりました。今回の研修も機密性が高いようですね、詳細を一切教えられないとなると」

「はは、すみません。個人的にはイクシアさんは半ば秋宮の関係者ですし、詳しく教えても問題ないとは思うんですけどね」

「いえ、きっと他の親御さんだってこういう気持ちを味わっているのかもしれませんし、私だけ我儘を言う事は出来ませんよ」


 まぁ、今回に限っては絶対教えられないだろうけども。

 ただなぁ……今回BBが招待された式典の様子ってインターネット中継があるらしいし、それを見ているイクシアさんが、偶然映り込んだ俺を見つける可能性もゼロじゃないんだよなぁ……。


「いってきまーす」

「はい、いってらっしゃいユウキ」




 校門前のバスに乗り込み、今日も海上都市の空港へ。

 今回もBBが乗るという事で、豪華な旅客機が手配されている。

 あの人、金あるんだなぁ。


「この空港を利用するのは初めてだな。いつもは羽田から海上ゲート前空港に移動して、そこからグランディア行きの便に乗るからな」

「へぇ、そうだったのか」

「とはいえ、グランディアに渡ったのは二度程だが。ふむ……今回は地球国外だが、そのうちグランディアに渡る事もあるのだろうな。生でお前の変化した姿を是非見てみたいものだ」


 ショウスケがそんな事を言う。そっか、一応グランディアでの姿も映像では見たことがあるのか。

 あの事件の映像がお茶の間で流れる事はもうなくなって来たが、今でもインターネット上には存在するからな。


「ユウキ君、時差ってどれくらいあるのかな? ドバイって今何時頃だろう?」

「あ、調べてなかった」

「ドバイなら日本よりも約五時間遅れているはずだ。そして飛行機で向こうに着くのが大体四時間程だからな、少し奇妙な感覚かもしれないが、現地時間は今から約一時間前になる」

「あ、ありがとうございますミコトさん」


 な、なるほど……この世界の飛行機って元の世界よりかなり速度が出るけど、それでも四時間もかかるのか……だったら元々はどれくらいかかるのだろうか。


「四時間も飛行機に乗るなんて初めてだよ、私」

「そうだな、俺も初めてだ。今の間にするべき事はあるだろうか?」


 真面目な性分なのか、ショウスケが訪ねて来る。

 が、むしろ大人しく体力を消耗しないようにするのが一番だったりする。

 今回はBBも同乗しているが、俺達とは離れた席のようだし。

 コウネさんあたりは近くに行きたいだろうな。


「ま、ゆっくり英気を養うと良いぞ。護衛任務って結構神経使うからさ。サトミさんはノルン様と一緒に護衛された事あるから分かるかもだけど」

「確かに……」

「ふむ、そういうものか……」


 そうして途中、飛行機が揺れるような事もなく、優雅な空の旅を堪能して俺達は無事にドバイの地へと降り立つのだった。






「無事に到着したようだね。ではこれから、ちょっとお兄さんの話を聞いて欲しいので、空港の一室を既に借りているのでそこに移動します」

「……BB、出来ればそういう事は教師にだけは事前に連絡してもらいたいのだが」


 到着早々、俺達一行の指揮を執るBBにカズキ先生が苦言を呈す。

 先生はたぶんBBの正体を知っているのだろう。表情がそれを物語っていた。

 俺達は空港のバックヤードというか、事務所のような空き部屋に案内される。


「さて、ではここからの予定を説明するぞ諸君。お兄さんはこれから、あらかじめ用意されているホテルに向かい、既に現地入りしているお兄さんのスタッフと合流する予定だ。が、その道中でバザールに寄って食材を物色したり、色々と観光を楽しみたいと思っているんだ」

「BB、それは必要な事なのか?」

「むしろ、ここでまっすぐホテルに向かう方がらしくないと思わないか? そう思わないかい、コウネ嬢」


 またしても苦言を呈するカズキ先生に、BBはそう反論、同意をコウネさんに求めた。


「はい! 絶対に現地の食材をチェックするはずですよね! 勝ちにいくつもりなら、現地の食材もチェックする……当然です」

「と、言う訳だ。が、ここでカズキ先生、そしてユウキ君には護衛から外れて貰うつもりだ」

「なんだと? それはどういうつもりだ……つもりですか」


 お? まさか俺が極力BBと一緒に動こうとしているのを察知された……?


「実は、この次の便でマザーが到着する。二人にはマザーの護衛について貰いたいんだよ」

「なんですって!? マザーが今からここに来るんですか!?」

「そう、実はそうなんだよ。だからここ二手に別れてもらいたいんだよ」


 マザーをわざわざ別な便にしている。これも理由があるはずだが、流石にクライアントであるBBの指示に逆らう訳にもいかないか。

 ……もしかして警戒しているのか?


「ちなみに、目的地のホテルは有名な『パームジュメイラ』にあるからね、そこに向かう途中でバザールにも向かう予定だよ。カズキ先生とユウキ君も、マザーが同じホテルに泊まるから、彼女の指示に従って動いて欲しい」

「了解っす……マザーはどうして別な便になったんですか?」

「そうだね、一つは警戒の為かな?」


 心臓がドキっと動く。

 が――


「少々主催者の動きが気になってね? 無いとは思うけれど、お兄さんのチームの妨害工作とかも考えられるだろう? 注目度を上げる為に僕を呼ぶのは分かるが、優勝させるつもりはない、とかね? だから主戦力の一人であるマザーと僕が同時に潰される可能性を排除しておきたいという訳さ」

「な、なるほど……」


 これは外向きの理由だろう。BBやマザーさんを害する事なんて絶対に不可能だ。

 でも事情を知らないクラスメイトはその説明に納得している。

 ……本当、ヨシキさんはどんな目的で動いているのだろうか……。


「ちなみに、カズキ先生をここでマザーにつける理由は分かるかな?」

「戦力的に、でしょうか?」

「いや、虫よけだよ。大人の男連れに手を出す人間はいないだろう? マザーは美人だからね、厄介な手合いに絡まれるのは必定だ」

「……なるほど」

「んじゃ俺も虫よけって事ですね?」

「そうなるね。何せ世界を救った英雄だからねキミは。期待しているよ、二人とも」


 ま、それは分かる。こんなにセレブだらけの国にあんな美人がいたら、絶対お誘い来るでしょ……。


「あ、でも生徒のみんなもキュートだから気を付けておくれよ? 男子諸君、女子生徒の守りは任せたからね?」

「は、了解しました」

「ショウスケ、軽い冗談だから真に受けるなって。うちの女子が誰かに襲われてどうにかなるようなタマなわけないだろ?」

「ふふ、そうだね。……けれどもあえて説明する必要はなかったと思うよ、カイ君」


 女子の非難の視線がカイに注がれる。

 ああ……一之瀬さんの眼差しがカイを貫いている……。


「では、お兄さんたちはそろそろ出発しようかな。カズキ先生とユウキ君は、僕達が降り立ったゲート前でマザーを待っていてくれ」

「了解しました。ミコトくん、キョウコくん。道中の指揮は君達二人に任せるよ」

「了解致しましたわ」

「承りました」


 さて、じゃあ俺と先生はマザーの到着を待つとしますか。






 ゲート前の待合所で、カズキ先生と二人次の便を待つ。


「……先生は、もしかしてBBの目的について何か知っています?」

「いや、今回は本当にヨシキからの話はゼロだ。だが、レイス……ああ、マザーの本名だが、彼女は少々今回の招待を受けたヨシキに裏の意図があると睨んでいるそうだ」

「え……先生、マザーとお知り合いなんですか?」


 本名とか初めて聞いたんだけど? レイスさんっていうのか……。


「まぁさすがに古い付き合いの友人の妻くらい知っているさ。実際に会うのは……随分と久しぶりだがね」

「へー……だからマザーの護衛に先生をつけたんですかね?」

「どうだろうね。アイツの考えは読めない。……もう、俺達普通の人間とは見ている景色が違うからね」


 それはそうかもしれない。きっと、あの人は誰よりも神の視点に近い場所にいるんだろうな。


「が、確かにマザーは美女だ。この辺りはセレブであり、ある程度の非合法な行為すら金で解決出来てしまう人間も潜んでいる国だからね。一応気を引き締めて彼女の護衛にあたろう。時に人は金以上に女で狂う事があるものさ」

「はは……もしかして先生も異性が原因やらかした事があるとか?」

「……ノーコメントだ」


 ありゃ? もしかしてマジで経験あるんですかね?

 そうこう話しているうちに、俺達の待ち人を乗せた飛行機が空港へと迫って来るのであった。


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