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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十七章

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第二百十七話

(´・ω・`)ちなみにフォースポークンとFEエンゲージは買いませんでした

(´・ω・`)正しい選択をしたと自分を褒めています

「えーと……ここのカーブミラーを触ったら引き返して……右に曲がって……」


 現在、アリアさんの家を目指して入り組んだ住宅街をさらに面倒な回り道をしながら歩いています。なんかもう、迷路にでも迷い込んだのかと。


「で、風景がループし始めるまで直進……白樺の木が生えてる家の次の曲がり角を壁に手をつきながら曲がる……で、見えてくると」


 指示通りに動き、そのまま進んでいると、この住宅地では少々浮いてしまう、日本家屋が現れた。

 結構立派な門構えで、少しキョウコさんの実家に似ている。

 門に備え付けられているインターホンを鳴らすと、スピーカーからアリアさんの声が。


『待ってましたよー。今開けますね』


 扉が開くと、家での普段着なのか、簡素な着物を着ているアリアさんが出迎えてくれた。


「久しぶりアリアさん。着物似合うね」

「お久しぶりです先輩。家では着物を着る習慣があるんですよね、私。ちなみにこれは小紋っていう普段着用の着物ですね」


 ユウキの豆知識が一つ増えた。


「さ、どうぞ上がってください。記念すべき最初のお客様です」

「あー、やっぱりこの道順じゃないと辿り着けないんだね?」

「いえ、あくまで『ここに住んでる人間がミササギアリアだと知っている人間は辿り着けない』ですね。普通の郵便物や回覧板は家のポストに投函されますよ」

「十分凄い条件付けだと思うな、その結界」

「ま、一応これでもプロですからね? 妖術アリならSSの生徒の皆さんにも引けは取りませんよ」

「だろうなぁ……」

「では、どうぞ中へ」


 アリアさんに客間に通される。

 和風な家って実家を思い出して落ち着くけど、やっぱり一つ一つの家具や置物が、高級そうな物だと少し見ただけで伝わって来る。


「それで、相談したい事って?」

「もう本題入っちゃいます? 色々お話ししましょうよ」


 最近一人だったからなのか、会話に飢えている様子。じゃあ直近のBBQのお話でも。

 必要なところはボカしてね?


「へぇ、お休み中にそんな事してたんですか。羨ましいですねぇ」

「ほら、俺達ってゴールデンウィーク途中返上で実務研修に行ったじゃん? だからその補填も兼ねてお休みだったんだよ。で、せっかくクラス単位で休みなら―って事で、知り合いに誘われてみんなで行って来たんだ」

「いいですねぇ、私BBQとかロケくらいでしかしたことないんですよ。今度は私も誘ってくださいね?」

「了解、機会があったら誘うよ」


 こう、なんだろう。アリアさんは凄く話しやすいのだ。

 人当たりが良いというより、相手に気持ちよく話させるのに長けているような。

 これも芸能界で生きて来た人間の特技、だろうか?

 その後もアリアさんの話を聞いたり、俺達がいない間の学園生活について聞かせて貰った。


「あ、そういえば今回の件とは直接関係ないんですけど、困った生徒さん……ディオス君でしたっけ? 彼が自主退学して実家に帰国したとか」

「あ、聞いた聞いた。何かあったのかねー。一応、SSクラスに編入したいからって事でうちのクラスの人間と模擬戦とかしてたんだけど」

「そういえば、そんな事言ってましたね。もしかしてそれが原因とか……?」

「どうだろう? 最後に戦ったのが俺で、ガチで半殺しというか、治療しなかったら死ぬような怪我はさせたんだけど。……あ、ちなみにこれは相手が実戦形式で本物の殺し合いを所望したからです。俺はそんな危険人物じゃないです」

「えー、だからってそこまでしまかねぇ? ちょっと危険なのは疑いようがないと思いますけど?」

「やっぱそうなのか……認識のずれって恐い」

「ふふふ、冗談ですよ。ふぅ……良い気分転換になります、誰かとこうして会って話すのって」

「そりゃよかった。リモートの講義ってどんな感じなの?」


 そんな他愛ない話で時間を潰し、そろそろ夕日が沈み始めた頃、アリアさんが切り出す。


「ちょっと停学や退学だけだと私の卒業後の活動にも影響が出そうな相手なんですよねぇ。まぁまだ犯人が決まった訳じゃないんですけど。私出来れば卒業後に一度故郷に戻って、その後にまた日本で活動したいんですよ。ここを卒業したというアドバンテージは芸能界でも故郷でも大きな力を持つんです。だからこそ、いっそその生徒が大きな事件を起こして、親が芸能事務所になにか口出しする力すら失わせられないかなぁ、と」

「話が大きくなってきたねそれ。ん-……まぁさすがに身内に芸能人相手に犯罪犯した人間がいたら、もう事務所とは関われないだろうとは思うけど」

「や、結構平気な顔して関わって来る人間もいますよ。だからこそ、ユウキ先輩なんですよ。この件を解決したのがユウキ先輩で、何かあった時は証言出来る立場になってくれたらもう、相手は何も言えなくなるんですよ? 普通の相手だったらそれこそ、お金詰んで黙らせたり、権力で脅したりして事件の詳細を語れないようにしたりするんですけどね?」

「え? 俺ってそんな立場強いの? 秋宮じゃなくて?」

「秋宮は芸能関係にそこまで強い力を発揮出来ませんよ。報道関係には圧力かけられますけど」


 意外な力関係。そうか、秋宮も万能じゃないのか。


「ユウキ先輩ならどんな圧力も無効化出来るんですよ。一言『〇〇という家に圧をかけられ事件を公表するなと脅されている』と言えば。もうそれだけで全世界がユウキ先輩の味方ですよ? 自覚ないと思うんですけど……ユウキ先輩、ガチの英雄なんですからね?」

「マジかよ……最近そこまで報道もされないし生活も落ち着いて来たのに……」

「そりゃあメディアは鮮度の高いコンテンツで成り立ってますから。でも起こした事件、功績は消えません。誰の記憶からも消えていません。きっかけがあればすぐにでも燃えあがる……悪い意味じゃないですよ?」


 マジかよ。じゃあ俺もう迂闊な事何もできないじゃん。いや、そんな事するつもりもないけどさ。


「話は戻しますけど、犯人をそのまま問答無用で逮捕可能な状態に陥れたいんですよね? 事件が起きたら流石に我が家にも話は通ってしまいますけどね、政府経由で。ですがあくまで『在学中の事件』ですから、私の経歴なんてそこまで詳細は報告されないでしょう」

「その辺はなんとも言えないけど、とりあえず罠にはめるってのは分かったよ。で、具体的には?」

「まず、第一に『私は弱いと思われている』ですかね。私、近接戦闘能力が低くて、純粋な腕力だと一般生徒さんにも普通に負けるんですよね」

「あー、そういえば普通に報道関係の人間に追いかけられて、捕まりそうになってたんだっけ?」


 ユキとして遭遇した時のことだ。


「おや、聞いていましたか。ええ、正直私は術を自分で封印しているので、学園でそこまで優秀な生徒ではないんです」

「……普通に今の状況って危機的状況だし、術の使用解禁してもいいんじゃ?」

「その場合は政府に要請する必要がありますし、理由も説明しなければいけません。絶対故郷に報告されますし、避けて来たんですよ、休学する時も」

「はー、なるほど。で、か弱い女性とであるアリアさんはどうするんだい?」

「それはですねぇ――」






 アリアさんの家を後にし、帰り道のコンビニで俺は彼女から手渡された小さなお守りを取り出し一人ごちる。


「これがあれば面倒な手順無しでアリアさんの家に行ける、か」


 コンビニで久々に甘い物を買うことにし、幸いもってきた財布をポケットから取り出しながら――お守りを床に落としてしまった。

 気がつかないフリをしながら退店。まぁこれが作戦なんですけどね。


『ここ最近、結界をくぐれはしていないみたいですけど、何度か中に入ろうとしてる人がいるみたいなんですよね。たぶん近くに今日もいると思いますよ』


 アリアさんの読み通り、俺が結界を抜けコンビニへ向かう辺りで、何者かの足音がかすかに聞こえて来ていたのだ。

 が……それが一人の者じゃなくてちょっと戸惑ってます。まさかただの野次馬ってオチじゃないよな?


 退店時にちらりと背後を振り返ると、うちの生徒と思しき若い男が三名、お守りを拾い上げているのが見えた。

 ……複数人かよ。これアリアさん大丈夫か……?




 コンビニを後にした俺は、その足でアリアさんの家に戻る。

 今度は誰にも悟らせず、つけさせず、素早く隠密行動だ。

 実は結界無効化なんてお守りは存在せず、さっき落としたのは普通にお守りだ。

 ちなみに、アリアさんが好奇心で買った東京の有名な神社の『合格祈願』のものだそうだ。

 ……実はちょっとシュヴァ学に受かるか不安だったんですね、分かります。

 ともかくあのお守りにそんな力はなく、ただ単に『結界が解除されている』のだ。

 つまり、あの生徒達が仮に今、アリアさんの家へ向かい、そして侵入しようとしても、それを防ぐことが出来ない。

 だからこそ、俺が先にアリアさんの家へ向かい、こっそりと自宅で連中を待ち構える、というのがアリアさんの作戦だ。


『たぶん、窓を壊して普通に家宅侵入くらいはしてくると思うんですよねぇ。私が襲われたところで助けてくださいな。一応、カメラは室内にしかけておきますので。防犯カメラくらい用意してますよ、仮にも売れてたタレントなんですから』


 襲わせるところまでするというのだ。言い逃れの出来ない、ただの窃盗目的じゃない、暴行目的だったという証拠を押さえる為に。

 ただ逮捕させるだけじゃなく、文字通り言い逃れも出来ない、その親にまで影響を波及させるにはここまでしなくちゃならないのだと。


「……俺ならバレずに殺せるんだけどなぁ」


 ともあれ、アリアさんの自宅に戻り、俺はそのまま明りの付いていない物置に潜み、何も知らずに家に侵入してくるであろう生徒達を待ち構えるのだった。




 門も玄関も施錠しているとなると、考えられる侵入ルートはどこかの窓を割る方法だ。

 あらかじめどこかを開けておくと、捜査の時や裁判でいちゃもんをつけられる可能性も考えられる。

 いや、そもそも俺が自宅に隠れて待機しているのも、考えようによっては相手方に付け入るスキが……?

 いやいやいや、こっちは後輩に相談受けてやってるんだしやましい事なんてないぞ。

 などと考えているうちに、控えめだが、何者かの足音が家の床と通して物置にまで伝わって来た。

 ……シュヴァ学に入学出来た以上、ある程度の隠密行動は出来るのかね。まぁそれでも甘いけど。

 今すぐ飛び出したい気持ちもある。が、アリアさんの作戦通り、まだ待機する。

 今アリアさんは自室で眠ったフリをしている。そして……何かが起きれば大声を出すと言っていた。

 が、正直成功するとは思えない。躊躇なく侵入してきたあたり、こいつら初犯じゃないんじゃないか?

 相手を黙らせる手段でも持っているんじゃないか?

 俺は物置から静かに抜け出し、アリアさんの部屋へと向かう。




『うわめっちゃ可愛いじゃん。マジでミササギアリアだ』

『生アリアちゃんかわいー。ほら暴れない暴れない。声出してもここ一軒家だし大丈夫だろうけど』

『いいから喉にしっかり呪符張り付けとけ。こいつなんつったか、呪術妖術に強いらしいからよ。んじゃどうする? 拉致ると面倒だしここでヤる?』

『おっけ、んじゃ部屋の明りつけてカメラ回せ』

『薬どうする? いきなり使う?』

『大人しくなってきたら使おうぜ』




 ほらやっぱり。喋れなくされてるじゃん。まぁこれはもう疑いようなくクロだし、乱暴目的なの自白してるようなものなので――


「はい、んじゃお前ら刑務所まで気絶しとけな」


 全員のみぞおちにキツイの一発お見舞いしときますね。


「ほら、アリアさんこれで喋れる?」


 喉に張り付けられていた呪符を剥がし、拘束を解く。


「いや……これは想定外ですって……まさか呪符なんて用意してるとは……」

「これって珍しい物なんだ?」

「私の故郷にしかありませんよ、なんであるのかは分かりませんけど……」

「こりゃだいぶ前から狙ってたか、それとも故郷にこういう品流してる悪党でもいるんじゃないかな。通報、しておくよ」

「お願いします。私はこの野郎共を拘束しておきます」


 なんか、思ったよりも大ごとになりそうな予感がするな。

 まぁとりあえず……この三人は現行犯逮捕しておきますか。一応俺、逮捕権限は海上都市内限定で持ってますから。






 それから一〇分もしないうちに、警察がアリアさんの家に到着。

 事前に結界を解除していたお陰で警察が迷う事もなかった。


「こいつら現行犯なんで、しっかり留置所に連行してくださいね。一応『海上都市警護部の小西総司令』にも連絡を入れておきます。たぶん連中が目を覚ましたらごちゃごちゃ言うでしょうけど」


 以前、何度か顔を会わせている警察のお偉いさんの名前を出しておく。しっかり連絡も入れておかないと。

 たぶんコイツらだって警察に捕まるのは初めてじゃないだろうし。偏見だけどさ。

 どうせすぐ保釈されたりしてたんでしょ、親の権力で。

 だが今回はそうはいかない。何せ証拠もばっちりある上に逮捕したのは俺だ。

 さらに警察の上層部にも話を通しておくし、秋宮のお膝元での犯罪行為だ。

 ここまで条件が揃っていたら、さすがにアリアさんの読み通りの展開になるだろうな。


「ふぅ……今日はもう遅いから取り調べは明日か。アリアさん、どうする? 心配なら今日一晩俺の家に来る?」

「や、大丈夫ですよ。ただそうですねぇ、一応明日まではうちにいてくださいよ、ユウキ先輩」

「ん-……今回は仕方ないか」


 さすがに男子の家に来るのは抵抗があるのだろう。

 だからって俺を泊めるのもどうかと思うが。

 信頼の現れ? もしそうなら光栄だ。イクシアさんに今日は泊るって連絡入れておかないと……。


「いやぁ……まさかこんなにとんとん拍子でうまくいくとは思わなかったんですよねぇ……元々、誰か協力者を雇って実行できないかと思っていたんですけど、ユウキ先輩のおかげで事後処理もほぼ必要なさそうですし……というかかなり凄いコネ沢山持ってません?」

「まぁ一応仕事柄というかなんというか……」


 ちょっと照れる。あ、イクシアさんに伝えたら『了解しました。こちらはオーブンが直らなかったのでデリバリーを頼みます。ユウキの分も頼んで冷蔵庫に入れておきますね』とのこと。

 一体何を注文するのだろう。明日のお楽しみだ。


「あ、ごはん用意しますねぇ」

「あ、簡単な物でいいからね、突然来たんだし。カップ麺とかでも良いからね」

「ふふふ……私料理好きって教えましたよね? 常備菜は常に複数用意していますし冷凍もしているんです。ごはんさえ炊けちゃえば大丈夫ですよ」


 お、おお……なんて家庭的な……!

 ……なんというか、シチュエーション的には最高過ぎる。芸能人に興味のない俺でもこう、グっときますな。

 カイに教えたら悔し涙流すな、絶対。


 本当にご飯が炊ける頃になると、テーブルの上に沢山のおかずが並ぶと言う素敵な食卓が完成していた。

 煮物……なんだろう、こういう時料理の名前が咄嗟に出てこないのだよ。

 もう少し知っておいた方がいいのだろうか。


「誰かとこうして食卓を囲むのって、お弁当以外だと故郷にいた時以来なんですよねぇ」

「そうだったんだ? 彼氏とかいなかったの?」

「元タレントにそれ聞きます? 私はずっと一人ですよ、自慢じゃないですけど家に呼ぶ友人もいなかったんですよ。一緒に食べに行く事はあったんですけど」

「なーるほど。察するに微妙な立場の違いで相手が遠慮してた訳だ」

「……本当、たまにめちゃめちゃ鋭いですよね?」

「まぁうん。なんとなくアリアさん見てるとそう思えて」


 異種族、特殊な立場、絶世の美貌、高すぎる能力。

 相手が委縮するのもよく分かります。俺だって若干今緊張してるし。

 マジでこうして建物の中で二人きりだと、しみじみ実感するな……ガチの美少女というか美女というか。


「さ、食べてください。テレビつけます?」

「あ、じゃあお願い」


 なんとなく緊張で間が持たなくなりそうな気がするので。

 その後、案の定美味しい和食を頂きながら、ときおりテレビ番組の裏側をちょっと解説してもらうという、楽しい夜を過ごした。






「じゃあ、ユウキ先輩はこちらの部屋でお休みくださいね。今更ですけど、ベッドじゃなくても眠れる人ですか?」

「あ、大丈夫。俺の実家も日本家屋だし」

「そうだったんですね? じゃあ、おやすみなさい」


 時刻はまもなく深夜。あんな事件の後だからか、アリアさんの寝室からさほど離れていない和室に布団が敷かれそこで眠ることに。


「畳の匂い懐かしいなー。ここって客間っぽいけどいいのかな」


 なんでも、ここは元々どこぞの書道家さんの別荘だったのだとか。

 それが競売にかけられており、アリアさんはそれを競り落とし、こうして学園に通う為の自宅にしているのだとか。

 コウネさんの家と良い、シンビョウ町って海上都市にある関係で、こういう裏町でも少し奥まった場所に行くと高級住宅とか結構あるんだよな。


「落ち着く……良い感じに……眠い……」


 もう結界も再構築しているし……誰も侵入はしてこない……。

 もう安心だ。

 そうして、俺は意識を手放した。






 意識が覚醒する。目を閉じていても、頭がはっきりと目覚める。

 気配だ。気配を感じて勝手に覚醒したんだ。

 今、誰かがこの部屋にいる気配を感じる。

 誰だ、結界のほころびか。

 目を閉じ、相手が近寄って来るのを待つ。

 が、その人物はそのまま、布団ごしの俺に馬乗りになった。

 慌てて起き上がると、こちらの額に強烈な衝撃が伝わる。


「いってーーーー!」

「アイタッ!」


 目を開けると、そこには障子越しの月光にうっすらと照らし出される、額を抑えたアリアさんの姿が。


「え、なにどうしたの!」

「お、起きてたんですか?」

「気配で起きた。なに、どうしたの!?」

「い、いえね? ……まぁその、夜這いというかですね?」

「……は?」


 見れば、アリアさんが来ているのは、凄く薄手の浴衣みたいな物。

 襦袢って言うんだっけ……なんかもう透けて色々見えそうなんですけど。


「今日は少し人肌が恋しいんですよぅ。変な事しないので一緒に寝ません?」

「今明らかに変な事しようとしてませんでしたか」

「いやぁ……あんまりにも可愛い寝顔でつい、じっくり見たく……」


 やべえ。狐って肉食動物だったっけ。


「……本当、今日だけダメですかね?」

「ん-……結構メンタル強いよねアリアさんって」

「まぁ夜の修羅場潜って来た数なら同年代には負けません、とだけ……」

「マジか!」

「あ! 違いますよ? 変な奴に迫られたり、いろいろ要求されそうになった危機って意味ですからね? 誰かとねんごろな間柄になった事なんて一度もありませんから」


 昨今そうそう聞けないワードが出て来た。ねんごろって……時代劇でしか聞かないぞ。


「まぁ、ユウキ先輩が望むならやぶさかではないのですが。……実際、どうです? 一緒に眠ってくれます?」

「だーめ。俺は心に決めた人がいるので裏切れません。でもまぁ……やっぱり多少は緊張して眠れない、って事だよね? 俺、任務で徹夜とか余裕な人間だから、付き合うよ」


 ただの悪ふざけだと、思う事にしよう。

 それがお互いの為だから。


「ほら、そんな恰好だと冷えるよ。居間に一緒に行こうか」

「……そうですねぇ。ではちょっと実家から送られて来たお茶、淹れますね。この時間は深夜番組で結構きわどいものも放送していますし、一緒に見ましょう、ユウキ先輩」

「ん、そうしよっか。……楽しそうだね」


 そうして、二人で寝床を後にする。

 これは冗談だから、俺は気にしないよ。

 そんな俺の気持ちが伝わったのか、アリアさんも目の端に光る物を浮かべたまま笑顔を作る。

 ……俺は、誠実でありたいんだ。もう人として取り返しのつかないところまで両手を汚している身ではあるけれど。

 でも無責任な事はしたくないんですよ。

 正直思いっきり理性働かせて舌噛んで痛みでごまかしてるだけですが。


 やべーよ……透けて見えるよ。形もはっきり分かるよ……胸以外も見えてたよ……。

 尻尾で生地がひっぱられていてですね、前がおもいっきりはだけていたんです……。






 結局一晩中テレビを見て過ごし、朝にはアリアさんの家を後にする事に。


「私今日のリモート、午後からだから問題ないのですが、ユウキ先輩本当に大丈夫ですか?」

「ん-大丈夫……午後の講義前に家で軽く横になるから……」

「なんというか……色々と申し訳ありませんでした」

「ん、気にする事じゃないよ。俺のお節介だもん。大事な後輩が困ってたら助けるのは当然」

「ん-……そうですねぇ、それが幸運な事だって忘れていました。では、また近いうちに学園で。今日あたり復学の手続きしますので」


 そうして俺は朝帰りを果たす。いや、言い方が悪い。

 早朝のシンビョウ町は思ったよりも色んな音がして、なんだか新鮮だな。

 自宅に帰ると、イクシアさんも丁度起きて来たところだった。


「あ、イクシアさんただいまです」

「あ、ユウキ! おかえりなさい、大丈夫でしたか?」

「はい、無事に問題は解決しましたよ。いやぁ……後輩がちょっと犯罪に巻き込まれそうだったので、悪者やっつけて警察に引き渡したりしてました」

「まぁ……! 思ったよりも大きな問題だったのですね。あ、朝食は昨夜のデリバリーを温めましょう。オーブンは今日の内に業者さんを呼んでおきますのです」

「了解です」


 そうして俺は、冷蔵庫の中に入っていた『ダブルチーズバーガー』と冷めきってしまったポテトをチンして食べたのだった。

 ……イクシアさん、もしかしてこういうジャンクフード一度は食べてみたかったんですかね……? 前からテレビのCM興味深そうに見てたし。






 午後、起きぬけに学園へと向かい、今日の講義を受ける。

 もう六月の終わりも近いけれど、さすがに今月は実務研修なしなのかな。

 そう思っていた矢先、講義を担当していた講師に『夕方から教室に集合してくださいとのことです』と伝言が。

 おおう……今月もしっかりあるんですね、実務研修……。

 怒涛の一日を過ごしたばかりだけれど、まだもう少し色々起きそうだ。


(´・ω・`)ストーリー重視するからね、仕方ないね

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