第二百十四話
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「ふむ……じゃあそろそろこっちも本気で行くか」
「っ! ああ、そうしてくれ」
見えない剣筋、なんて表現があるけれど、俺には剣どころか腕すら見えず、どんな攻防をしているのかすら分からなかった。
ただ、僅かに足さばきが見え、位置が動いているのが見えるのみ。
「ねぇ、一之瀬さんアレ見えてる?」
「……正直見えない。目で追おうとしても見失う」
「俺も少ししか……同じ大きさの剣だからカズキ先生の動きはなんとなく予測で見られるけど……」
「ああ……流派は違えど同じ刀、軌道の予想は立てられる。だが……」
ヨシキさんのは見えない。
時折何故か剣を手放しているようにも見えるが、気がついたら攻守が逆転していたりするのだ。
「地球で一番強いのは、ロウヒ元選手だと思っていたんだよね、僕。でもこれを見ちゃうと……」
「いや、ロウヒ選手もバトラーとしての強さしか表向きは見せてなかったんじゃないかな? あの人ガッツリ裏の組織の人間だった訳だし」
「なるほど。でも、この強さは……」
たぶん俺が二年前にコウネさんの故郷でディースさんと戦った時でさえ、ここまでの戦いではなかったと思う。
確かにスケールでは俺達の方が大きかったと思う。でも……密度が違い過ぎるんだ。
あの間に入ったら一秒と持たずにぼろ雑巾にされる姿が目に浮かぶようだ。
「む……動きが変わった」
「あれ……なんか……変な感じする」
その時、二人の動きが目に見える速さのものになる。
そして、おもむろにヨシキさんは剣を手放し、カズキ先生は刀を鞘に納めた。
抜刀の構えだ。抜刀術もやっぱり使えたのか。
「なーんか思ったよりもはしゃいでるわよねーあの二人」
「ええ、正直ここまで来るとあまり参考にはなりませんが、彼等が上機嫌になればいろいろお願いも聞いてくれるでしょうね」
「ん-……生徒さん方、たぶんここからの一連の動きでヨシキが勝つから、どんな風に勝つかしっかり見とくといいぞー。たぶん、それこそがカズキが君達に教えたい事だろうから」
訳知り風な大人組に続き、ダリアさんがそう宣言する。
俺達もその言葉の通りの事が起こるのだろうと、何故か無意識に理解し、結界内の二人に視線を送る。
ヨシキさんが突然、剣を投げ捨てカズキ先生へと向かう。
先生はそれに合わせ、もはや動いたのかすら分からないような速さの抜刀を放つ。
いや、放ったんだと思う。マジで見えない。でも、ヨシキさんが咄嗟に手でそれを受けるようなポーズを取り、その瞬間受けた右腕から力が抜けだらりと下がった。
ダメージの肩代わりがもしなかったら……腕どころか余波で身体まで消し飛んだんじゃないか。そんな斬撃だ。
でも、そこまでだった。
動かない腕を鞭のように振るい、それを防御したカズキ先生を掴み取り、一気に『壊しにかかった』。
それは戦いではなく、文字通り壊すような動き。
雪ダルマを無邪気に破壊するような、動きもしない物を徹底的に粉砕するような、そんな動き。
凄まじい速度で見る見るうちにカズキ先生の身体が崩れ、地面に動かなくなる。
完全にダメージの肩代わりで気力を持っていかれたのだろう。
「な……なんだあれは……技ではない……」
「……殺意以外を感じなかったな、今の」
「殺意……僕達に足りない物……?」
でも、それで終わらなかった。
次の瞬間、カズキ先生の上に黒い塊が無数に降り注ぎ、地面にクレーターが生み出される。
それを見届け、ヨシキさんは投げ捨てた剣を拾いに行き、大きく振りかぶってカズキ先生にさらに攻撃を加える。
その動きに呼応でもしたのか、最初の攻防からずっと上空に停滞していた謎の雲から光が降り注ぎ、カズキ先生とクレーターを飲み込んでしまう。
「っ! やりすぎだ!」
「これ結界で間に合うのか!? 守られてても死んじまうぞ!?」
次の瞬間、結界が音を立てて割れる。
そこはもう、見るも無残な荒野となり、大きな一つのクレーターに全てのクレーターが飲み込まれ、その中心でカズキ先生がピクリとも動かずに横たわっていた。
「おい、カズキ。もう終わりか? まだ起きられるだろ? 続けるか?」
耳を、疑った。
「返事をしろ。お前が誘ったんだ、ちゃんと最後まで付き合え。それか降参宣言をしろ。俺と模擬戦をするならこうなる事くらい分かってただろ」
「……ぁぁ、知ってた」
「で、どうする?」
「降参。目的も果たせたから……な。回復プリーズ」
「ちょっと待ってろ」
本当に生きてた。うつ伏せのまま、うめくように先生が話すのをしっかり聞いた。
……タフすぎでは……?
「……よし、いいぞ。そろそろ動けそうか?」
「ああ……さすがにちょっと副作用が出そうだが、いける」
「常人ならショック死するぞ、それ。流石だよカズキ」
「まぁこれでも鍛えてるからな」
何やら回復魔法? のような物を受けたのか、見る見るうちにカズキ先生の顔色が良くなり起き上がる。
なんというか……最近ちょっと親しくなった気がしていたけれど、やっぱりこの人は『ジョーカー』なんだな。
改めて思い知らされた。
「えー、以上模擬戦でした。とりあえずこの戦いでなんとなく自分達に足りない物がなんなのか分かったんじゃないだろうか」
「昨日君達の戦いは見させて貰ったけれど、足りないのは瞬発力と『負の感情』だと感じたよ。どんな理由があれど、相手を倒す時はそこに後ろ暗い感情が絶対に隠れているものなんだ。憎しみや嫉妬、そして殺意。君達は仕事、任務だという気持ちばかりが育って、戦士として持つべき闘争心や生物としての本能、殺意が育っていないと感じたね」
「僕もそう感じた。だからこそ、この暴力の化身、殺意の塊の狂戦士に模擬戦を挑み、みんなに見せたんだ。かなり参考になったんじゃないかな? 戦い方とか一部の技とか」
身支度を整えて戻って来た二人は、まるでさっきまでの戦いがなかったかのように和やかにそう解説する。
……マジで強すぎだろ。先生も負けたとはいえここまで食らいつけるのは……ちょっと異常だ。
「……正直、一朝一夕で身に付くとは思いませんし、剣術を学ぶ以上、冷静さを心がけて学んできた身には難しい……です」
「それはそうだろうね。道場剣術が認められ実戦で活躍するのが一般的な道場だ。けれどカズキや俺は『生き残る為の全生命をかけた殺し合い』だ。それを後から無理やり技に押し込めて人間の振りをしている。そんなイメージだよ」
「失敬な、俺は純粋な人間だぞ、お前と一緒にするな」
「えー。まぁ、こういうのは見て覚えるというより『見て知っておく』事の方が大事だからね。これを知った以上、もう君達は綺麗ではいられないさ。必ずどこかで歪み、狂い、強くなる。影響はもう受けているんだ」
まるでウィルスのような、思想のような、拭い消せない経験を俺達はした。
確かに、もう今の戦いを見る前の俺達には絶対に戻れないと思う。
それほどまでに……俺達が受けた本物の『殺意』と『暴力』のぶつかり合いは強烈だった。
「もうね、こちとら引退して趣味の料理で食ってる身なのにね? こんな戦い見せて折角のBBQなのに『あの人恐そうだ焼いた肉食べるの嫌だな』ってなったらどうしてくれんの? 折角お得意さんになってくれたコウネ嬢も『あの異常者のお店にはもう行きたくないです』ってなって売り上げ落ちたらどうしてくれんの? リョウカもカズキも俺にお願いだけしておいて対価も補填も一切ないんですよ、そこのところどう思いますか皆さん」
あ、なんか切実。どこまで本音なのか分からないけど……言われてみれば可哀そうな気もする。
大丈夫、肉楽しみなので……それとコウネさんはこれしきでレストランに行かなくなったりはしないはずです。
「そうですねぇ……私の立場的にヨシキさんを警戒しなければいけないのですが、レストランには変わらず通いたいですねぇ……その力の出所が非常に気になりますけど」
「ん-、シェザードは天断の流派だからねぇ。気になるのも仕方ないか」
「あら、ご存じだったんですか?」
「実はお兄さんはグランディアの方が長かったりするのです。まぁ……異界の遺産とだけ言っておこうかな。異界は『かつてグランディアだった世界』が変質して取り込まれた世界なんだ。まぁ大半はどこかも分からない文字通りの異界だけど、その一部にはグランディアの『歴史』が紛れ込んでいるんだよ。そこに、神話時代の何かしらが紛れ込んでいても不思議じゃない」
「……そうだね。コウネ君が気にするのも仕方ないかもしれないけれど、俺もヨシキも……一部の人間は異界に関わり『古の技を浴びた』人間なんだ」
な、なるほど……?
でも、少なくともヨシキさんは嘘、方便でこの説明をしたんだろうな。
前世の力を引き継いだ感じなのかな。
カズキ先生はよくわからないけど……異界って恐ろしいと同時に謎だらけなんだろうな。
「さて、じゃあお昼までもう少し時間があるから、チャチャっと技の解説だけしておこうかな。んじゃお兄さんが適正的に合ってそうな技教えていくから」
そんな軽いノリで、俺達の指導が始まったのであった。
「ん-……俺の担当はカナメ君とセリアさんだな。俺が使っていた技で見えていた技、いくつかあっただろう?」
結局、ヨシキさんはカナメとセリアさんに技を教える事になった。
一之瀬さんとカイはカズキ先生が指導にあたり、さらにキョウコさんにはダリアさんとエリさんの二人が付いた。
で、余った俺とコウネさんはというと――
「では、私が現状で教えられる事を教えますね。すみません、凄い先生ばかりなのに私が指導係で」
「いえ! イクシアさんと一緒で俺は嬉しいです」
「まぁ……! なんて嬉しい事を言ってくれるのでしょう。ユウキ、撫でてあげます」
イクシアさんでした。いや、まぁ俺が特殊なのは分かってたけど。
「コウネさんはどちらかというと私と似ているタイプですからね。私も、基本的には魔法で剣を生み出して戦いますから」
「そういえばそうでしたね。ですが、氷と炎ではだいぶ勝手が違いませんか?」
「そうですねぇ……私は元々、魔法を身体に纏い肉弾戦をしながら、必要に応じて魔法を放つ、というスタイルでした。ですので、私の使う『魔装術』をお二人には学んでもらおうかと思います」
おお! なんかそれっぽい名前が! イクシアさんちゃんと先生やれてる!
「これの応用で、恐らくコウネさんは剣の強度を飛躍的に上げ、技の破壊力も増すかと思いますし、純粋に氷の硬度がさらに高まるかと思います。ですが、当然習得はとてつもなく難しいと考えてください。私の初めての弟子は、一五年指導してようやく身体強化の性能を高められた程度でしたから」
「え! イクシアさんって弟子とかいたんですか!?」
「あ、話していませんでしたか」
何それ初耳。嫉妬しちゃうんだが?
「ですが、既に身体強化を学び、魔法を纏い戦っているお二人なら、早い段階でコツを掴めるかもしれませんね。では、苦手な分野から始めましょう。コウネさん、氷を生み出してみてください」
そうして、イクシアさんの指導も始まり、それぞれ二時間という短い時間だけだが、貴重な術や技を指導してもらうのだった。
「はい、全員訓練終了! 今は大体十一時か……まぁ訓練なんて二時間以上やるもんじゃないぞ、効率が悪すぎる。着替えて遊ぶ準備に入れー」
本当に僅か二時間で訓練を切り上げるように指示が飛ぶ。
確かに最初の掴みさえ出来たら、後は根を詰めるより時間をかけてゆっくりの方が良いかもだけど……みんな何か取っ掛かりでも掴めたのかな?
「いえ、まだやれます。カズキ先生、続けてください」
「ん-、僕もヨシキに賛成かな? 元々今回は慰安目的だ、それを犠牲にしてはもともこもないだろう?」
「ミコト、先生の言う通りだ。というか普通に腹減った……」
「ぐ……」
勿論、真面目気質の一之瀬さんは反論をするのだが――
「恐らく天断の上位を指導してもらっているね、君達は。あれは元々一朝一夕で身に付く物じゃない以上、これ以上の反復は『発動出来なかった』という経験の蓄積にしかならないんだ。一つ教えよう『俺の教えは絶対だ。同時に絶対に結果がついてくる』信じて今は休息しな、ミコトさん」
「う……わかり、ました」
ヨシキさんの謎の圧力に屈してしまったのだった。
言い切るか……絶対に結果が出るって……。
「見て、学んで、形だけは覚えたんだ。あとはある日突然開花するのを期待するしかないんだよ、こういうのは。むしろ他の時間で今日の経験を反芻、思い返しながら日々を過ごすと良い。その為にはやはり……楽しまないといけないよ、日々を」
「まぁ半分享楽主義のコイツが言う言葉は信じられないだろうね、でもコイツはそれで俺に勝っているんだ。信じてやってくれミコト君」
「あの! ならこの後は肉焼きますよね!?」
すると一番この中で飢えているのか、カイは早くBBQをしようと提案する。
「そうだね、みんなも指導が終わったようだし、こっちのカナメ君とセリアさんは先に山小屋に戻って着替えているはずだ。みんなももう戻ると良い」
その合図に山小屋に戻る面々。
その道すがら、他の皆に訓練の調子を聞いてみた。
「私は徹底的に雷による身体強化を教え込まれましたわね。多少は既に習得していましたが、まだ無駄が多いからと」
「じゃあキョウコは俺と同じく雷で戦う形になるんだな。俺とミコトはカズキ先生が使っていた技の習得の為にひたすら素振りと技の見稽古だった。正直まだ全然つかめないけど」
「ああ……私達が使う天断とは技の持続性、破壊力が別物過ぎる。それをあの速度で放つ事が出来れば……」
なるほど、皆それぞれ新しい技というか術を学んでいるって形なのか。
ちなみに、コウネさんと俺はというと――
「私達は魔法の密度を上げて、コントロールする方法を教え込まれているのですが……正直ユウキ君がもう習得してしまって、魔法の師匠を自任している私の立つ瀬がありません」
「いやぁ……それはたまたま風の魔導を一期生の卒業訓練で練習してたから……」
「それでも、私はまだ魔法を纏う事が出来ないんですよ、悔しいです」
俺は既に魔法を手足に纏う事が出来るようになった。
が、そもそも剣で戦うので、あまり意味がないのです。
けれど、足に纏う分にはかなり応用が効きそうだ。少なくとも移動速度も、空中での滞空時間も大きく伸びてくれた。
まだ自由に動けたりはしないけど、確かにこれをおぼえておけば、今後の訓練でさらに強くなれそうだ。
「ユウキは元々、先天性の障害で魔法を上手く外に放出出来ませんでした。だからこそ、全ての時間を魔力のコントロールに割き時間をかけて治療してきました。この魔装術は繊細な魔力コントロールをし続けなければいけない都合上、現状では習得の下地が出来ているユウキだけが覚えられても不思議ではありません。コウネさんも、今後魔力のコントロールを鍛える為の器具、魔導具をつけて生活すれば上達も早いと思いますよ」
そうイクシアさんが補足してくれた。
「さ、とりあえず今はBBQの事だけ考えようか。ヨシキさん、なんだか色々用意してたみたいだし」
「そうでしたね! 楽しみですねぇ……昨日クーラーボックスを見た限り、色々料理を仕込んできていたみたいですし」
すっかりご飯モードになり機嫌を持ち直したコウネさんと、いざ山小屋へ。
すると、セリアさんとカナメが大きなバーベキューコンロを運び出すところだった。
「あ、みんなも終わったんだ。ちょっとまだまだ運ぶ物沢山あるから、着替えたら手伝ってよ」
「これ結構重いんだよね。なんだか沢山食べ物用意してるみたいだったよ? コウネ、楽しみにしていてね」
「ふふ、これは本当に期待出来ますね……BBQは見た事しかありませんので、楽しみです」
なるほど、貴族の娘さんだって事忘れてた。かくいう僕も初めてなんですけどね?
じいちゃんとばあちゃんがBBQする姿とか想像出来ないし。
……あれ? もしかして庭先で七輪使って焼き鳥焼くのってギリギリBBQに含まれたりする? たまに爺ちゃんが酒の肴に焼いていたの手伝ったけど。
着替えを済ませると、まだ男子組が荷物を外に運ぶ手伝いをしていた。
俺もそれを手伝おうとすると――
「ユウキ君はセリア君と一緒に、外のレンガを川辺に運んでくれ。結構重いし量もあるから任せた」
「了解っす」
はて? 何に使うのだろうか?
「あ、残りのレンガとブロック持ってきてくれたんだ」
「うん、頼まれたんだけど、セリアさんは何してるの?」
河原に運ぶと、そこではセリアさんが先に運んできていたブロックを河原に敷き詰め、なにやら小さい土台? のような物を作っていた。
「これ、この説明書通りに組み上げて、釜を作るんだってさ」
「へー! あ、本当だ完成したらピザ釜になるんだこれ」
どうやら自作のキットらしい。説明書の隅には『作:R博士』の文字が。
わざわざ書く当たり、お茶目な人なんだな、あの人。
早速それらを組み上げていくと、俺達の隣でカナメが大きなBBQコンロを組み上げていた。
「凄いね、釜だ。こっちもかなり大きいよ、ドラム缶でも加工して作ったのかな」
「おー……動画サイトでアメリカのワイルドなおっちゃん達がこういうの使ってるの見た事あるわ」
「あ、僕も見た事あるかも。うーん……ちょっとワクワクするね」
やがて訪れる肉に胸を膨らませていると、大人組も合流し、テント? みたいな屋根だっけ? 確か……タープとかいうのを組み立てていた。
「ダリア、無理をするな。お前の身長じゃ難しいだろう」
「魔法でちょちょいとやりたいところなんだがな……風情がないしな」
「こっちのテーブルとイスを組み立ててくれよ」
「了解。おーいイクシアさん、手伝っておくれ」
「は、はい!」
うん、珍しく緊張してるなイクシアさん。
今度詳しく二人の関係とか聞いてみたいな。
「食材を持ってきましたよー」
「ほらーお待ちかねの肉よ肉」
コウネさんがまるで現金の詰まったアタッシュケースのように、厳重に大事そうにしながらクーラーボックスを持ってくる。
エリさんもその横で、車輪付きのクーラーボックスを引いてきて、中身を見せてくれた。
「ほら飲み物。動いて汗かいたでしょ? 先に飲んじゃいなさいな」
「あ、ありがとうございます」
「頂きます」
「僕は麦茶にしようかな」
「では私はオレンジジュースで」
いやぁ、日中は結構暖かいし、マジで行楽にはもってこいの場所だなぁ。
皆で一通り作業を終わらせ、タープで休憩していると、ヨシキさんが残りの食材やら他の荷物を持ってやってきた。
カズキ先生とリョウカさんも一緒に、何やらかなりの大荷物のようだけど。
「えー、ではこれより肉の用意をしたいと考えているのですが、かなり大物を調理するので少々時間がかかります。具体的に言うとスペアリブ5キロの塊やら丸鶏やら牛腿の塊です。いや、普通の肉もあるんだけどね? でも凄い美味しくて豪華な物食べさせたいっていうのが主催者として思いな訳でして」
「お、おお……! なんか凄いっすねそれ……」
「だろー? でかい肉はロマンだよなぁ、ヤナセ青年」
凄いけど食いきれないんじゃないでしょうか。
……いや、コウネさんいるから余裕か。
「で、待ってる時間にみんなにはこの山の特異性を楽しんでもらいたいわけなんですよ。この川の上流は大きめの湖があって、そこでは鮭やニジマスが釣れます。この川を下ると山が紅葉してる場所があるんだけど、そこでは松茸が取れます。という訳で自由に食材を取って遊んできてくれたらいいなーと思っていたりするのです」
マジかよ凄い楽しそうなんだが。
「あ、目の前の川でも一応カニが採れたりするからそれでもいいぞ。まぁレジャーとしてキノコ狩りや釣りを楽しんできてくれって話だよ」
「はい! 俺は松茸狩りに行きます!」
「ヤナセ青年はずっと気になっていたみたいだからな。いいぞ、行ってくると良い。見つけるのにコツがいるから……そうだな、ダリアかカズキ、頼む」
「ああ、それなら俺が行こう。ダリア、お前は少し河原で休んでいろ。身体が本調子じゃない事くらい見たら分かる」
「あー……そうだな。というかそろそろ俺の意識もぼんやりしてきたし暫くは安静にしておく」
ふむ……ダリアさんには悪いけれど、ついにナシアが目覚めるって事なのか……な?
「私は鮭が食べたいですねぇ……ユウキ君、一緒に釣りに行きませんか?」
コウネさんはどうやら釣りに行きたいようだ。けど……今回は俺、河原で休憩しておこうかな。
少し、今のうちに聞いておきたい事があるんだ、ヨシキさんや他の皆さんに。
「ごめん、今回は休憩しておくよ俺。思ったよりも沢山魔力使っちゃったみたいでさ」
「なるほど、ユウキ君訓練が成功したからってずっと魔法纏っていましたもんね?」
「いやぁ、新しい玩具貰った子供みたいなものですな」
「では、私が皆さんの分もお魚釣って来ますね」
「それでしたら私もお供しますわ。この山のように手付かずの自然、そこの湖となると、さぞや美しいでしょうしね、見てみたいですわ」
お、珍しい組み合わせだ。キョウコさんもコウネさんと一緒に湖に行くらしい。
「それに私のハム子なら魚群探知機のような事も出来ますものね。ふふ、大量間違いなしですわ」
「おお! それは心強いですね!」
「よし、水辺の事故が恐いから監督責任者としてお前も行ってこい、リョウカ」
「えー……今は学校行事ではなく、皆さん成人した大人ですので、そのような監督責任は私にはありませ――」
「いいから行け。お前手伝いなんにもしなかっただろ。エリですら手伝ってくれたというのに」
「く……着替えに手間取ったばっかりに……」
「ほら、沢山釣ってこい」
「私、釣りってした事ないんですよねぇ……」
いつの間にか着替えていたリョウカさんが、椅子に座り何やら読書をしていたら、ヨシキさんに仕事を割り振られてしまっていた。
……そういえば午前の訓練の時もリョウカさん、誰にも指導してなかったですよね。凄く強いはずなのに。
「私が教えて差し上げますわ、理事長」
「キョウコさんも釣りをした事があるのですね? これは楽しみですね、釣果」
「……では、私もカイに付き合うとしようか。カズキ先生、キノコ狩りにお供します」
「了解。じゃあそれぞれ背負い籠の用意をして。沢山取って戻ったら、色々他の料理にも使えそうだ。そうだよな、ヨシキ」
「ああ、ピザのトッピングにでもしてやるよ。松茸以外も結構生えてるが、分からないキノコは採ってこないように」
キノコ狩り組と釣り組がそれぞれ出発し、河原に残るのはエリさんとイクシアさん、そして調理中のヨシキさんと何故かカナメ。
ダリアさんは体調がすぐれないからと、山小屋で少し休んで来るそうだ。
「カナメもここに残るのは意外だな。キノコ狩りにでもついて行きそうなのに」
「ふふ……分かってないねユウキ君。お肉を焼いてるすぐ近くにいたら、味見とか出来るかもしれないだろう? それに誰よりも早く食べられる」
「なるほど……そんなに肉楽しみにしてたのかお前」
「普段あまり良い物食べてないからね。ここに来るまで最後にお肉食べたのはサンドイッチの中のハムだよ」
お前はもう少し自分の事にお金を使ってください。殆ど実家に送ってるらしいし。
「ふぅ……ヨシキさん、何か手伝う事ありますか?」
河原で時間を潰すカナメから離れ、ヨシキさんの元へ向かう。
なにやら巨大なアバラの塊をコンロにセットしているところだが……すごい、もううまそう。
「ん? じゃあ野菜切るの手伝ってくれるかな。お肉だけって訳にもいかないだろうし」
「了解っす」
さてと……何か聞くべき事はあるかな?
\ ブヒヒンドォォォォォォル!!! /
(´・ω・`)!