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第二百十話

(´・ω・`)大変お待たせしました

『はい、完成です。今回はもうすぐ春も終わりですからね、食べ納めとして春の山菜を使ったパスタでした。皆さんも是非作ってみて下さいね』。


 自宅のリビングでBBの最新動画を視聴していたイクシア。

 家の周辺で採れる山菜について思いを馳せていると、動画から聞き捨てならないお知らせが届く。


『さて、ここで少しお知らせです。ちょっと暫くの間、大体一月程ですかね? 動画投稿を止める事になってしまうんですよ』。


「そんな!」


 その知らせに悲観するイクシア、だがそれに続き――


『実は外部の案件と言いますか、大きなイベントに参加する事になりましてね? その準備があるのですよ。調理関係の職場で働いている人間ならば知っている方もいらっしゃるかもしれませんが――』


 些細な情報も聞き逃すまいと集中する。


『そのイベントは一人ではなくチームで参加する事が義務付けられています。ですので、調理アシスタントというかですね【スーシェフ】を選考する為の大会を開こうかと思っています。これはまぁ第二の司令塔とでも呼ぶべきスタッフの中の上位ポジションの人間ですね。同時に大会中に個人的に気になった方をスタッフとしてスカウトするつもりです』


 イクシア、全速力でメモの準備をする。が――


『ただ、今回は本気で勝ちに行く為の選考ですので、書類選考の段階で経歴や経験を重視して出場者を決めます。そのところだけを考慮して応募して頂けると幸いです。それと、これはあくまで式典の大会に出る為のスタッフ公募ですので、このチャンネルの新メンバー等ではない事をあらかじめご了承くださいね』


 その一言に手を止めるイクシア。


「流石に、これは私が応募して良い案件ではありませんね……どんな規模の催しになるのでしょう、楽しみですね」








「ううむ……結局全員参加になってしまったけど大丈夫なのかな」


 ヨシキさんに提案されたバーベキューだが、結局みんなが参加する事になった。

 やはりエリさんとカズキ先生が参加するのが大きいのか、カイも一之瀬さんも参加を表明したのだ。


「明日から三泊四日かー、色々不安だけど、少なくとも食事は楽しみだよなぁ」


 バーベキューというだけでもう美味しいのは確定している上に、ヨシキさん主催だ。

 彼がBBの正体だと知っている身からすると、もう期待しかない。

 イクシアさんも当然参加してくれるし、楽しみなのは間違いないのだが。


「ユウキ、そろそろ晩御飯が出来ますよー。エリさんを呼んできてくださーい」

「了解ですー」


 さて、じゃあ今日もエリさんを迎えに行くかな。




 家の外、畑の程近くに、裏町に続く山道がある。

 車一台が通れるスペースではあるが、ここを通ってエリさんがキャンピングカーで家のすぐ隣まで乗りつけているのだ。

 いやぁ……学園の敷地内だと生徒に影響があるからって、理事長に裏山に停めるように言われたらしいけど、実質ご近所さん状態なんだよな。

 本人曰く『たぶんバーベキューが終わったらまた放浪の旅に出るわ』とかなんとか。


「きままな旅ってのも憧れるなー。エリさーん、ご飯が出来ましたよー」

『あ、分かったー。今行くから先に戻っておいてー』


 近くに一時的に越してきているエリさんだが、案の定イクシアさんが沢山構っていた。

 恩ある相手なのは確かなのだが、一人でキャンプみたいな事をしているのが放っておけないのだとか。

 まぁ彼女がお湯沸かしてカップラーメン焚火の前で食べてるだけっていうのがイクシアさん的に我慢ならなかったみたいだけど。


「ただいまでーす。エリさんももうすぐ来るそうです」

「おかえりなさいユウキ。明日の準備、もう出来ていますか?」

「はい、大体は。いやー楽しみですね」

「ええ、本当に。前回の研修では皆さんかなり消耗していましたからね、慰労もかねてのんびりしてくださいね。……冷静に考えれば、あの事件はユウキ達が食い止めなければ日本の三分の一が壊滅していてもおかしくはありませんでしたし」

「はは……確かに言われてみるとそうなんですよね」


 あの魔物は、俺達だけでは抑えきれなかった。

 むしろ先生やエリさんを始めとした『ガチの人外クラスの強者』がいないと押しとどめられない、地球の人間に対してオーバースペック過ぎる強さを持っていた。

 それを抑え込んだのだから、本当ならもっとみんなが取り立たされてもおかしくはないのだ。

 が、事を大きくする訳にもいかないっていうのが理事長と政府の見解だ。

 本当、あの魔物の攻勢はなんだったのだろうか?


「こんばんはー、お邪魔しますー」


 お、早速その人外一号さんの来訪だ。さーて、今日も少し賑やかな晩御飯といきましょうか。




「すみません、毎晩夕食を御馳走になってしまって」

「いえいえ、まったく気にしないで下さい。折角近くに滞在なさっているのですし、ユウキの先輩なんですから」

「そうですよ。実際うちのクラスの人間なら誰だって喜んで招待しますよエリさんなら」

「うう……良い子ねぇユウキ君。今度旅先で何か面白い物見つけたら絶対お土産に買ってきてあげるからね」

「ははは、期待してます」


 どうやらエリさんは国内漫遊を終え、今度は海外に向かうそうだ。

 グランディアには行かないのかと尋ねてみたのだが――


「うーん、車で走れる土地が限られているのよねー向こう。私キャンピングカーの旅が好きだから、飽きるまではこっちにいるかな?」

「あ、そっか。向こうってまだ車が走れる大陸って限られてるんでしたっけ」

「そそ。セミフィナル大陸とセカンダリア大陸くらいなのよ、自由に行き来できるのって」

「やはり、まだ自動車は向こうでは受け入れられていないのですね」

「そうみたいですねー。まぁまだ魔車がメインですからね。道路の舗装は進んでいますけど、自動車の重量を想定したものじゃないみたいですから」

「なるほど、そうでしたか」

「イクシアさんはグランディアではあまり過ごしてこなかったんですか?」

「ええ、実はそうなんです。成人する前には既に地球に移住していましたので」


 おっと、あまり突っ込まれても困るな。

 この人もリョウカさんの友人ではあるみたいだけど、こっちの事情を知っている訳でもないようだ。


「じゃあ明日は学園の正門に待ち合わせ、ですよね? 俺、朝起こしにいきましょうか?」

「ん-、お願いね? もしかしたら意地悪で置いて行かれるかもしれないし?」

「そういえば……カズキ先生とは前から知り合いだったんですか?」

「ん、そんな感じ。悪友? 腐れ縁? まぁちょっと言い合ったりしたけど仲良しよ、安心して」


 ふぅむ……学園周りの人ってなんというか、人間関係が謎なんだよなぁ。

 リョウカさんとヨシキさんはまぁ前世で顔見知り? とかいうぶっとんだ間柄だし。

 っていうかリョウカさん二千年以上生きてるんだっけ?


「さーて、じゃあ今夜は私も早めにお暇しますね。食器だけ洗わせてください」

「いえいえ、そんなお客様に」

「やー、私こんな風にあったかい家庭で食事なんて何年もしてこなかったので、いつものお礼ですよ」


 そんな、ちょっと賑やかな、親戚のお姉さんでも遊びに来たような団欒。

 さて、明日からのBBQはどうなることやら。






 翌朝、大荷物を背負ったイクシアさんを説得して出発。

 いやぁ……イクシアさん何が必要なのか分からないからって大量の台所用品やら食糧を持っていこうとしたんですよ……。

 曰く『何があるか分からない』とのことです。いや、大丈夫です、主催ヨシキさんだし。


「んじゃ俺はエリさんのキャンピングカーに寄っていくので先に行っててくださいね」

「分かりました」


 キャンピングカーのドアをノック。

 しっかり起きていたのかすぐに返事と共に開く。

 そこには、ばっちりメイクをして服も外出用なのか、お洒落なパンツスタイルのエリさんがいた。

 なんだかアウトドアに向いていそうなベストも着こんでいるし結構な重装備、なんというか、これぞバーベキュー女子……というよりも、ガチの登山者みたいな。


「おはようユウキ君。さ、行きましょ?」

「ちゃんと起きてる事に内心驚いてるのは秘密です」

「なんだとー」


 痛い痛い荷物で叩かないで!


「そういえばエリさん、ヨシキさんとも知り合いなんですよね?」

「そ、ちょっと昔色々あったのよね。ほらあれよ? 大人に変な憧れ持ってる女子高生が年上に憧れて―みたいな、そんな一時の病気みたいなもの」

「な、なるほど……あの人モテそうですもんね」

「そうそう、少し悪そうなのに面倒見良い人って無駄に年下の好意引き寄せるから質悪いのよねー」


 ううむ、本人はさっぱり話してるけどあんま聞くべき話じゃないな。




「おはようみんな」

「おはようございますユウキ君」

「おはよ、ユウキ」


 正門の外には既にバスが泊まっていた。

 クラスメイトも勢揃いだ。理事長とカズキ先生は……。


「ヨシキさん、大型免許持ってたんですか?」

「いや、これは中型でイケるヤツ。マイクロバスだ」

「お前いつ免許なんて取ったんだよ」

「グランディアに住んでた頃だな。ほら、俺結婚する時一年ノースレシアに移住してただろ。その時に取った」

「ああ、そういえばノースレシアは割と自動車とかバイクに力を入れていたか」


 大人ーズの会話中でした。

 するとそこにエリさんが突撃した。


「やぁやぁおはようございます。お久しぶりですねぇヨシキさん?」

「……え? え、何この子誰?」

「知っててとぼけるのはやめろ。今回世話になったのは事実だからな」

「そういう事です。とりあえず初めましてではないんですからしっかり挨拶してくださいね?」


 あれ……これは珍しくヨシキさんの方が非常にやりにくそうだぞ?


「ひ、久しぶりだ? あー……そうか、秋宮と関わっていたか」

「はいそうです、しっかり卒業生です。いやはや、お久しぶりねー」

「そうだな、本当に…………久しぶり」

「いや、そんな反応されるとこっちが困るんですけど?」

「いやだってなぁ……お前さんマジで……今何歳なの君」

「今年で二一でございます。ちなみに中型免許は私も持ってるので、何かあれば運転替わるわよ」


 大人ーズのことは置いておいて、みんなの様子を確認する。

 うむ、剣士組は今回のバーベキューでエリさんやカズキ先生から何かを得られるかもしれないからと、ばっちり動きやすそうな服装だ。


「本当に来た……か。少々討伐任務のような事もすると聞いているが、先生方の戦いは見られるのだろうか?」

「どうだろうな……ただ、わざわざ誘って貰えた以上、期待はしてしまうよな」


 いやーどうだろう? なんかもう完全オフモードに見えるんですよね?


「僕は個人的には、主催のヨシキさんが気になるかな。僕達の新しい担任になる可能性もあったダーインスレイヴの前任者みたいだし」

「そういえばそんな事言ってたよね。ユキさんよりも強いのかな……」

「さすがに、そこまでの実力者を何人も揃えているとは考えられませんけれど……理事長はあなどれませんからね……」


 確か、管理してる山に発生する魔物? みたいなのの駆除という話だったかな。

 正直俺達が苦戦するとは思えないし、ヨシキさんの依頼って形なのかな、慰安をかねた。


「いえいえ! みなさんそんなものは二の次ですよ! なんといってもあの料理上手なヨシキさん主催のBBQですよ? 料理にこそ期待を向けるべきなんです! 見てください、この収納部分に積まれたクーラーボックス……」


 あ、コウネさんは平常運転ですね。こらこら、勝手に倉庫開けたらダメですよ。


「まぁ、本当ですね……! 食材でしょうか?」

「冷蔵しているあたり生鮮食品ですね……ですがこの人数で食べる量にしては――」


 イクシアさんまで……。


「ああ、それは仕込んでいたタレ、調味料ですよ。食材はもう山荘の方に用意してありますので」

「まぁ、そうなんですね! どんなBBQになるんでしょうかね、ユウキ君のお母さん」

「楽しみですね。こういう場は中々ありませんし」


 いや、でも期待してるのは俺もなんですけどね?

 だって俺、ヨシキさんがBBだって知ってるし。


「さぁ、そろそろ乗り込んでくれ。荷物は全部収納に入れるから」


 さぁ出発だ。どこにあるのかは不明だけど!






 バスが出発してから一時間。

 高速道路に乗った事は分かったのだが、気がつけばどこか人気の少ない、少々寂れた街中を走るバス。

 すると、車内にヨシキさんの無線の声が響く。


『そろそろ一度窓の方をシャットアウトさせて貰うよ。危ないから離れてくれ』


 すると、窓が黒いシャッターのような物で塞がれてしまった。


「……随分と念入りですね、ヨシキさん」

『天下の秋宮財閥の会長さんや、USH暫定社長のお嬢様にはお見せ出来ない紋章技術の集大成なのでね。“境界”を抜けたらまた開放するから大目に見てくれ』

「なるほど……察するに秋宮とも違う技術体系、魔術体系が使われている場所のようですわね。私だけでなく理事長にも内密だというのなら異論はありませんわ」

「私としてはとても気になるところですが……良いでしょう、さすがに“貴方達”の全てを開示しろとは言いません」


 どうやら相当特殊な環境のようだ。

 近くに座っていたイクシアさんとセリアさんも、窓の外から何かを感じ取っているのか、手のひらをシャッターに当てて唸っている。


「……先程から違和感はあったのですが、直前まで見えていた風景もどうやらある種の結界の中……だったようですね。今、本格的な異空間の中のようです」

「そうかもですね……はっきりとは分かりませんけど、途中から外の風景に変な魔力の規則性が出てきていたような……」

「恐らく徐々に結界や魔力空間の中に取り込むための下準備だったのでしょうね。ここまで精巧な通路は……サーディス大陸の隠れ里くらいでしょう」

「あ、もしかしてイクシアさんも来た事あるんですか? 私、そこの出身なんですよ」

「なるほど、もしやと思っていましたがあの里の出身でしたか」


 あ、そういえばセリアさんの故郷も不思議な手順を踏まないと入れない里なんだっけ?


「地球にもここまでの術者さんが……」

「いえ、恐らく移住した方でしょう。……R博士でしょうか」


 多分そうだと思います。


『ああそうだ、みんな中々厚着をしてきているみたいだけど、山の中は一種の霊地、隔離空間になっている関係で外部とは気候がだいぶ違うんだ。もし過剰な厚着をしているなら今のうちに脱いでおいた方が良いかもしれないぞ』

「え゛! ちょっとー、そういうの早く言ってよー!」


 あ、がっつり着こんでたエリさんが文句言ってる。


『少々特殊な気候でね、山荘付近は春と同じくらいの気温、つまり今の海上都市と変わらないんだ。ただ山の中は秋頃で固定されている上に、川の上流は冬に近い。場所によって四季が切り替わると思ってくれて良い』

「へー! 凄いわね! 一般開放したら大儲けじゃない?」

『する訳ないだろう。身内以外の立ち入りは今回が初めてなんだ』


 なんともとんでも空間ですな。一年の四季を全部味わえるとな。

 そんな説明を聞いていると、近くの席にいたコウネさんがソワソワしながら挙手をした。


「質問よろしいでしょうか!」

『はいなんでしょうコウネ嬢』

「四季の味覚を堪能出来たりするのでしょうか!?」


 一瞬の車内の静寂。

 けれども確かに気になりますな?


『……きるぞ』

「え?」

『山菜採りとキノコ狩りを同時に出来るぞ』

「そ、そんな!」

『脂の乗った川魚も釣れるぞ。川で遊ぶ事も出来る。この山は元々そういう目的で長年研究されて生み出された霊山だからね』

「な……なんて素敵な山なのでしょう……きっと研究者さんは素敵な天才さんです」

『元々、サーディス大陸には常春の地方、ミササギ区があるからね。そこの結界を参考に小規模ではあるが再現したのが今回向かう山なんだ』


 そんなデタラメな――と思ったら、もう前例があるのか。

 サーディスにもそんな場所があるなんて、流石は魔術大陸ですな。


「ミササギの隔離結界って神話時代から続く秘術で、今じゃ誰も触れないはずなのに……一体どうやって……」

「セリアさん、世の中には常軌を逸した天才というものが一定数いるものです。私もさすがにここまで来ると理解が及びませんが」


 あ、やっぱそういうかんじなのか。

 山の解説を聞いていると、窓を覆っていたシャッターが開かれた。

 するとそこには――


「うお……! 凄い紅葉!」

「これは……まだ七月にもなっていないというのに……本当に秋の様相だ」


 本当に秋としか思えない景色がバスの外に広がっていた。

 凄い……まだ五月なのに紅葉がこんなに……。

 するとこの光景を見ていたカイが手を上げ質問する。

 挙手制なのかいつのまにか。


「すみません! もしかして……ま、松茸とか採れたりしますか!?」

『ヤナセカイ君か。ああ、実は……採れるぞ! 松山になっている区画があってな。だが、妻達には評判があまりよくなくてね』

「う、うおお! 松茸……実物が見られるかもしれないのか!」

「カイ……恥ずかしいからやめるんだ。失礼しました」


 いや、俺もテンション上がりますが! ホンモノなんて食べた事ないぞ俺!


「なるほど、察するにヨシキさんの奥様はグランディア出身なんですよね? 松茸の香りはグランディアだけでなく、地球でもアジア圏外ではあまり好まれていないと聞きます。ちなみにですが、私は大好きだったりします。地球の珍味、有名食材は一通り経験済みです」

『ふむ、さすがシェザード家御令嬢だね。ちなみにキノコの種類は正確に調べたわけじゃないから未知数だ。食べる前に必ず山荘で調べて欲しい』

「了解しました。ふふ、これは期待出来ますねー」


 ほー、そんな豆知識を披露するあたり、コウネさんってやっぱりただの食いしん坊じゃないんだなぁ。


「あの、私も質問してよろしいでしょうか」

『どうぞ、一之瀬師範代のミコトさん』

「知っていましたか。あの、今回討伐の手伝いもかねているとお聞きしましたが、具体的な相手について情報は頂けないでしょうか?」

「む、そうだぞヨシキ。生徒達を戦わせる以上相手の情報は俺にも知らせておいてくれ」


 あ、すっかり忘れていた。まぁ俺達が苦戦するなんて事はないだろうけど――




『主にアンデッドとアンデッドが取り着いたゴミ、動物の遺体だな。それがさらに変質して一種の妖怪、日本固有の魔物になったヤツだ。ここはさっきも言った通り特殊な霊山でね、日本全国に広がってもおかしくない変質した魔物を一手に引き寄せる場所でもあるんだ。まぁ一種のボランティアだね。日本でここまで大きな土地を実験に使う以上、ある程度日本にも貢献しているんだ』




 おい車止めろ。


「すみません車止めてくれませんかヨシキさん」

『なんだどうしたユウキ君』

「窓開けて良いですか? ちょっと歩いて帰りますんで」

『結界から徒歩で出るのはお勧めしないぞ。魑魅魍魎が集まりつつあるんだ、俺だったらこんな山の境界みたいな不安定な場所で外には出たくないな』

「助けて!」


 おいふざけんなバッキャロウ! ピンポイントで苦手な分野じゃねーか!!!!!


『もうすぐ到着するから大人しく待っていたまえ。なぁに、不気味なだけで君達が負ける要素なんて微塵もないさ』


 やだぁ……アンデッドとかなんでいるんだよ……。






 俺達が降り立ったのは、山の中腹にあるという、開けた土地にある山荘の前だった。

 随分と立派な建物だし、近くにレジャーでも出来そうな草原もある。耳をすませば川の音も聞こえて来る、まさに風光明媚な場所だったのだが――


「そんなに周囲を警戒しなくても大丈夫だぞ。施設周辺は強い結界が張られているからな、魔物は近づけない。そもそも討伐は魔物を引き寄せる専用の場所でやって貰う予定なんだ」

「俺、山荘の中で留守番しててもいいですか?」

「ダメ。しっかり働いて貰うぞ。一応、多少は君達へのアドバイスをするようにリョウカに言われてるんだ。しっかり見せてもらわないと。というかユウキ君あれか、アンデッド恐いのか?」

「ヨシキさんには通じるから言いますけど『テ〇サ』にビビり散らかす程度には苦手です」

「oh……」


 これにはさすがのヨシキさんも閉口してしまった。


「じゃあ荷物を運んだら魔物寄せのトラップまで移動! みんなには数体ずつ倒してもらうからそのつもりで」

「だ、そうだ。慰安旅行もかねているが、本質はこの男からの討伐依頼だと思って欲しい。全員、デバイスや召喚した武器を用意しておくように」


 カズキ先生の宣言を受け、皆の顔が一斉に任務時のそれになる。

 本当、頼もしくなったよみんな。

 俺? 俺は今すぐ逃げ出したいが?


「ユウキ、頑張ってくださいね。苦手なアンデッドですが、今は私が見守っていますからね」

「イクシアさん……! 分かりました!」


 いや、やっぱ余裕だわ! イクシアさんの前で情けないところなんて見せられないしな!


(´・ω・`)今章は少し長くなる予定です

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