第二百九話
(´・ω・`)これにて今章は終わりですん
さぁ今月はいよいよSO6の発売です……
実務研修が終了してから一週間が経過した頃、ようやく学園に戻って来たリョウカの元にヨシキが訪ねてきた。
「お疲れ。どうだ、調査の進展は」
「ヨシキさん。そうですね……魔物が海底で繁殖していたのは間違いありませんが、異界から流入した証拠もありませんし、魔人種に変貌した理由も不明なままです」
「あー詳細はどうでもいい、リュエはいつ戻って来るのか知りたかっただけだ」
「……そうですかそうですか。はいはい、R博士ならもうしばらくは戻って来ませんよ、今は香月家の工場の調査を買って出てくれています。自分で解明できなかったのが悔しかったのか、今度はその矛先をあちらに向けているみたいです」
「そうか……残念だな」
ヨシキは本当に興味がないのか、R博士が戻らない事だけを残念がる。
「何か予定でもあったんですか?」
「ん? ああ、リュエ所有の山の地鎮を兼ねたバーベキューに行くつもりだったんだよ。今年は俺一人で行ってくる事になりそうだ」
「……マザーはどうしたのですか?」
「イタリアにヨーロッパオオナマズを釣りに行った。記録更新を目指すとかなんとか」
「……何気にチャンネル登録者数が貴方のチャンネルを越えそうですよね、もう少しで」
「……くそ! やっぱり巨乳には負けるのか! マザー登場回だけ露骨に再生数こっちも伸びるし……!」
「つまり、本当に一人寂しくBBQに行くと?」
「まぁたまにはソロでもいいさ。本題は別なんだが」
何気に滅多に人前に出さない素の反応で内心を吐露するヨシキだが、本題はここからだと、表情を引き締める。
「少し、面倒な相手から『BBへの招待状』が届いていてな。ドバイの大富豪って言えば誰だか分かるか?」
「『アルレヴィン』の一族ですか。もしそうなら確かに面倒ですね、一応BBは秋宮所属だったのですから」
「そういう事だ。面倒な催しだが出演しようかと思っている。何かに利用出来ないか?」
「……秋宮に匹敵する権力と秋宮以上の財力を持つアルレヴィン……その拠点であるドバイには前々から不正にグランディアの魔力が多く流入しているという疑いがありましたが」
「そう。そして今回の魔物が大量発生したUSHが幅を利かせる地域でも魔力の不正利用が発覚した。なんらかの事件が起きる可能性も高いだろうさ。それに……何かがトリガーを引けば、今度こそ大きな歪が生まれるかもしれないし、な」
「歪ですか? ヨシキさん、今回の件に何か心当たりでもあるのですか?」
「さぁ、現段階ではなんとも。だが、危ういバランスで成り立っている場所に『異質な物』を近づければ、当然バランスを崩して何かが起こる。俺はそれを知りたいのさ」
抽象的な話をするヨシキに、リョウカはいぶかしみながらも『これ以上は聞いても無駄だ』と本能的に理解する。
「……確実に何かが起きると。もしそうなら……いえ、でも何かが起きないと私からあちらにコンタクトは取れません」
「そこはいくらでもやりようはあるさ。たとえば『出演しても良いが警備には信頼のおける実力者がいないと無理だ。たとえば親交のある英雄ササハラユウキやそのクラスの人間が現場の警備として配備されるなら、喜んでそちらの式典に出席しましょう』とかな?」
「な……! では次回の実務研修を海外にしろと……」
「そうだ。世界一と言っても過言ではないリゾート地に最近悩みの多い生徒諸君をご招待って訳だ。悪い話じゃないだろう?」
「それは……確かに今回事件で皆さんはかなり自分の力量の足りなさに落ち込んでいますが……」
「ありゃ比べる相手が悪い。幼稚園児がメジャー選手を見て落ち込んでるようなものだ」
まるでくだらない悩みでもあるかのようにヨシキは言う。
「私の生徒が幼稚園児だとでも?」
が、それが気に障ったのかリョウカが睨みつける。
「……何を言ってるんだ? 俺に比べたらこの世界の人間なんて赤子も同然だろう。俺がお前達と同列だとでも本当に思っているのか?」
「……傲慢ですね。変わりましたよ、貴方」
「俺くらいはそうしないとダメなんだよ。人の世界に全員が馴染むなんて無理な相談なんだよ。俺は正しさのバランスで他者を見下し、等しく価値の低い物だと傲慢に秩序を振り回す絶対悪にして絶対正義であり続けないといけないんだ。それくらい、お前なら分かってくれていると思っていたんだけどな」
傲慢な物言い。高圧的な態度から一変し、酷く寂しそうな声で語る。
「……卑怯者。私の気持ちを知っている癖に」
「そうだな、悪い」
が、まるでその言葉を待ち望んでいたかのように――
「今謝りましたね!? なら少しお詫びも兼ねて私をBBQに連れて行ってくれませんかね? 一度、R博士の管理する霊地、山に行ってみたいと思っていたのですよ。どうです、良いでしょう? 一人寂しくBBQをするよりも私がいた方が絶対に楽しいはずです! 最高の食材も用意しますよ」
「――と、最高の食材の豚肉さんが仰っています」
「そんなー」
怒涛の勢いで、自分をBBQに連れていけと身を乗り出すのだった。
「ん-……まぁいいぞ、慰労も兼ねて。今はSSの生徒も休学中なんだろう? 今回の事件の影響で」
「え、ええ。あの、まさか生徒も……?」
「誰がお前だけを連れて行くなんて言った。こちとら既婚者だぞ、独身女と二人っきりでBBQになんて行ける訳ないだろうが」
「……ですよねー」
豚の野望、潰える。
「ですが、実際彼らが沈んでいるのは事実です。特に、間近でエリさんやカズキさんの戦う姿を見た生徒達は」
「……だろうな。アイツらは俺の知る限り最高の前衛だ。さすがに学生が……この時代の人間が到達出来る領域にはいないさ。それを見て凹む気持ちも分かる。休学はいつまでだ?」
「今月末までです。正直彼等は自覚無しでしょうが、かなり身体に負担がかかっているんですよ。今は自主訓練も禁止しています」
「そうか、なら五月二〇日に学園を発つぞ。バスはこちらで用意する、生徒への声かけは……そうだな、ユウキ君にだけ俺が直接かける。他の面々については彼に任せるさ。強制参加じゃ慰労にはならないからな」
「そうですね。しかし……ユウキ君によく目をかけるようになりましたね? やはり彼が血の繋がりが無くても孫……みたいな関係だからですか?」
「そんなんじゃないさ。ただ、少し気になるだけだよ」
そう言って、ヨシキは顔を反らす。
それが照れ隠しなのだと受け取ったリョウカは、仮面の下で目を細め笑う。
だが……ヨシキは、反らした先で、とても複雑な表情を浮かべていた。
まるで、罪悪感を抱いているような、悲しんでいるような、そんな。
「じゃあ俺は今日の所はお暇しようかね」
「ちょっと待ってください」
立ち去ろうとするヨシキに、リョウカは慌てて声をかけ、逃がしはしないぞと言わんばかりに服の裾をがっちりと握る。
「……なんだよ?」
「なんだよ、じゃありません。ディオス君に何かしたでしょう? 彼の様子がおかしいと報告が上がってきています」
「なんのことやら?」
「しらばっくれても無駄ですよ? あの症状は……他ではありえない。今の彼は『ただの一般人』になっています。全ての力を……異能も、魔力も、その全てを失っています。そんな事が出来るのは貴方しかいません」
「スランプかもしれないぞ?」
直近の事件を知らぬ存ぜぬでやり過ごそうとするヨシキ。
が、それを許さない。
「学園に連れて来たのは貴方です。どうしたんです、今回の問題に貴方は関わらないつもりだったはずです」
「ん-……アイツ、リュエのストーキングした挙句にリュエを手に入れる為に恋人とおぼしき俺を殺して、その後リュエに取り入るつもりだったんだよ。さすがにね? 殺さなかっただけむしろ褒めてもらいたいくらいだが」
「な!?」
流石のリョウカも、その事実に絶句、二の句を告げずにパクパクと口を動かしていた。
「よりによって……流石にそれは……逆に持ってますよ……道化になりつつあるとは思っていましたが……」
「全ての力を消し去った。あれはもうこの学園に通えないだろう。大人しく本国に送還しておくんだな。まぁ……戻ってもまともに生きられるとは思わんが」
「……でしょうね。貴方……余分に消し去りましたね?」
その瞬間、邪悪な笑みが浮かび上がるヨシキ。
「勿論、記憶力も理解力も、過去に学んだ知識も奪えるだけ奪って消し去ったが? もうただの動く人形じゃないか? 送還するなら遺族に臓器売買のブローカーでも派遣してやるといい。それくらいしかもう価値はないだろ?」
非人道的な行いを平気でし、平気で提案する。
どんなに人当たりが良い風を装っても、本質は災厄でしかないのだ。
いや、踏み込んではいけない一線を踏み越えた相手には、どんな事も平気でする危険性がこの男にはある。
それを、リョウカは失念しつつあったのだった。
「……ええ、そうでしたね。貴方は……そういう人でしたね」
「軽蔑してくれていいぞ。ただ、少なくとも生徒の何人かを既にロックオンしているみたいだったからな、事前に対処したとも言える。感謝してくれてもいいぞ」
「……それも、事実なんでしょうね。ええ、その事は感謝します。私も、彼の入学を許してしまったと言う意味では同罪ですから」
「じゃ、今度こそお暇させてもらう。アルレヴィンの当主にはこちらから提案しておくよ。話が通ったら電話会談でもするから、出てもらうぞ」
「ええ、そちらもお任せしました」
一人、理事長室に残されたリョウカは大きくため息をつく。
危険思想の持ち主が去った事。それとも生徒が一人廃人にされた事への不安。
はたまた次回の研修地で厄介な事件が起こりそうな予感への溜め息なのか。
……そのどれでもない。
「はぁ……二人きりでちょっとした旅行でも、と思ったのですがね……やはり身持ちが固いですね……」
酷く自分勝手な理由だった。
そう、人の尺度からはずれているのは、何もヨシキだけではない。
リョウカもまた、人の域を外れた化け物の一人であるのだから――
実務研修が終わって一週間が経過した。
俺達は休学扱いとなり、今回の研修で負った負傷の治療や取り調べ、装備の新調や整備に時間を費やしていた。
過酷だったのだ。それほどまでに今回の研修が。
俺もイクシアさんに暫く魔力の使用を禁止されデバイスを没収、ニシダ主任に整備されている最中だ。
だが、それよりも深刻なのは……クラスメイトだ。
俺ですらここまで疲労が表に出ているんだ、同じく激闘であったみんなが俺より軽症なはずがないのだ。
「カナメと一之瀬さんは昨日退院したし……カイは道場で精神の鍛え直し中、か。コウネさんはいつも通りみたいだけどセリアさんは少し落ち込んでるし……」
というか、精神的に参っているのは全員だった。
強かったのだ。それほどまでに今回の相手が。
一対一では勝つことが出来ても、大群相手には蹂躙されてしまう。その事実をまざまざとみせつけられたのだ。
正直俺だって危なかった。イクシアさんが来なければどうなっていたことか。
それに……みんなはどうやら、今回助けに来た先生や協力者のエリさん、それにカナメとコウネさんのところに現れた助っ人に、大きな衝撃を受けたという。
『自分達は自惚れていた』と本気で凹んでいるくらいには。
「あーあー……イクシアさんも買い出し中だし暇だなー……ゲームしてぇなー……」
未だに自由に外出する事が出来ない俺は、変装の魔導具を使って都市部にでも出かけようかと思案する。
するとそこへ、来客を知らせる呼び鈴の音が。
はて、誰か同じく暇を持て余して遊びに来たのだろうか?
「はーいどちらさま――」
モニターに映っていた顔に驚くが、もうこの流れを何度か経験していたので声は我慢出来た。
『ちょっと話があるから開けてくれ。お土産もあるから、な』
「は、はい」
ヨシキさん来訪。正直心臓に悪いっす。
彼を居間に通し、とりあえずイクシア印の魔剤(過度の薬効成分抜き)をお出しする。
「悪いね突然。……む、美味いぞこれ」
「ですよね、それイクシアさんが作ったんですよ」
「ふむ……原液があれば買い取りたいレベルだ。カクテルに使えそうだぞ……」
「あ、それなら飲みたいかも」
「だろ? っと、本題に入らせて貰う。ユウキ君は月末まで暇だろ? それで少し誘いたい場所があるんだが」
「お誘い、ですか?」
どうやら俺達のクラススケジュールは把握しているようだった。
「R博士、まぁ妻なんだが、彼女が独自の研究をする為に広大な土地が欲しいからと言って、ある霊山一帯を買い取っていてな、普段は人避けの結界で封鎖されているんだよ」
「へぇー、うちも田舎だけど竹山持ってるんですよ。似たような感じですかね?」
「ああ、まさしくそれだ。R博士が実験場というか遊び場にしている土地でな、かなり気候がおかしい場所なんだよ。気温は秋、植物は春と秋の味覚、魚は冬。そんなでたらめな気候だが、過ごす分には快適なんだよ」
「それって『春の山菜と秋のキノコ、冬の脂ののった魚が食べたい』とかっていう理由じゃないんですかね?」
なんですかその『私の考えた最強の季節』は。
「凄いな、全部正解だ。だが強引に魔力で変化させた土地だから、それが周囲に悪影響が出ないように結界で閉じているんだよ。人も当然出入りは出来ないが『人以外』は入り込めてしまう。だから俺やR博士が年に一度、何日か滞在して駆除をしたり、山や川の幸を堪能してるって訳だ」
「へー、なんか仮に一般公開したらとんでもない人気スポットになりそうですね、それ」
「流石に公表は出来ないがね。で、本題だ。二〇日にそこにBBQをしに行くんだが、来ないか? 勿論友人やお母さん、イクシアさんを誘ってくれても良い。今回色々と思うところのある研修だと聞いた。その気分転換も兼ねてどうだ?」
まさかとは思ったが、本当にそこに誘われるとは。
ううむ……普通に楽しそうなお誘いではある。イクシアさんも誘って良いというし、クラスメイトのみんなの気分転換にはもってこい……か。
「分かりました。みんなが来てくれるかは分かりませんが、たぶん少なくともコウネさんは参加してくれるかと。勿論イクシアさんも」
「ん、そうか。じゃあ誘うメンツは君に任せるよ。駆除も入ってるから、勿論デバイスも持ってきてくれ」
「了解です。じゃあ早速この後学園に残ってる人間に声をかけておきます」
「ああ、任せたよ」
と、ここで俺は大切な事を忘れていたのに気がついた。
「あの……R博士とイクシアさんって会わせちゃいけないんでしたよね? 大丈夫なんですか?」
「ああ、今回はR博士やマザーは所用で外出中なんだよ。だから安心してくれ」
「なるほど。じゃあ当日、期待していますからね。俺BBQって初めてなんで、実は」
「そうだったか。ああ、言い忘れていたが、リョウカも参加するみたいだぞ」
「仲良いですよね、本当」
「腐れ縁ってヤツだ。前世でも散々顔を会わせていたからな」
なるほど、そういえばそうだった。
ヨシキさんを見送り、早速学園へと向かう。
確かカイと一之瀬さんは実家、道場の方に戻ってるらしいからな……とりあえずカナメとコウネさん、セリアさんに直接声を掛けに行ってみるか。
キョウコさんは……今実家の方が監査やらで忙しいから、誘っても来てくれるか分からないけれども。
「……異界の魔物、ね。異界もさすがにあんな規模の攻勢が毎日行われてるような場所じゃないだろうけど……」
クラスメイトのみんなも、より一層の戦力アップを決意したみたいだし、もしかしたら誰も参加してくれないかもしれないな……。
「そう思っていた時期が俺にもありました」
「誰に話しているんです? 二〇日ですね? 集合場所はユウキ君の家で良いんですよね?」
「あ、うん。そうらしいよ」
普通に休学中でもサークル活動に参加していたコウネさんを学園内で見つけた俺は、早速ヨシキさんの提案を伝えたのだが……全てを言い終わる前に『ヨシキさんからBBQのお誘い!? 行きます、絶対に行きます!』と食い気味に言われました。
いやまぁ……コウネさんならこうなるかもとは思っていたけれど。
「んじゃ、次はセリアさんに声かけてみようかな。女子寮って男子は近づけないから、コウネさんお願い出来るかな?」
「良いですよ。では呼んできますね」
さて、セリアさんはどうだろう。今回の事件、セリアさん結構危ない状況に陥って、かなり自分の力について自信喪失していたんだよな……。
気分転換なんて気分じゃないかもしれない。
コウネさんに連れられてやってきたセリアさんに、早速概要を説明する。
「気分転換かー……まぁ気分が沈んでるのは自覚してるんだけど……その霊山っていうの、凄い魔導師さんが管理していたんだよね?」
「うん、ちょっと詳しくは秋宮の機密に関わるから言えないんだけど、たぶん俺の知ってる中じゃ最上位の魔導師さんだと思う」
「それってイクシアさん?」
「いや、違う人だね。イクシアさんも『敵わない』って言うような人」
「ええー……イクシアさんですら超人クラスだと思うんだけど……そんな凄い人が管理していた霊山なら何か掴めるかもしれないなー……うん、私も参加するよ」
「本当!? よかった、じゃあ俺はこのままカナメに声かけて来るよ。アイツなら案外あっさりOKしてくれるかも」
「確かにねー。さっき購買の方で見かけたから、どこかでパンでも食べてるんじゃないかな?」
「了解。じゃあ早速行ってみるよ。じゃあまた今度ね、セリアさん、コウネさん」
「はいはい、当日を楽しみにしておきますねー」
「私も楽しみにしておくね」
よーしよし、このままみんなOKしてくれると良いんだけど。
「あ、いたいた。カナメ―、ちょっといいかー」
情報通り、カナメを食堂三階で発見する。
美味しそうにサンドイッチを食べていたが、周囲で普通に学食メニューを食べられている中で食べるって、結構辛くないか……? 視線とか色々。
「どうしたんだい、ユウキ君」
「いや、実は――」
かくかくしかじかなんですよ。
「かくかくしかじかじゃ分からないんだけど」
「だよな。実は――」
とりあえずBBQのお誘いと、既にコウネさんとセリアさんが参加表明をしたと伝える。
「へぇ、なんだかおもしろそうな場所だね。ちょっと興味あるな僕も。お肉も食べたいし」
「そういえばカナメって身体鍛えてるけど栄養あまり摂ってないよな」
「まぁ食事ではね。プロテインで補ってるとこあるから」
「なるほどなぁ……んじゃ参加って事でいい?」
「勿論。じゃあ二〇日だね?」
カナメの確保も成功、この調子で他のみんなも――
「なんの話だい? まだ君達は学園に復帰していないはずだけど」
「あ、カズキ先生」
するとその時、今日もピザを注文していたカズキ先生がやってきた。
「ん、これが気になるか? 今日はジェノベーゼ風の和風青じそピザだ。知っているか? バジルはシソ科だから、こうしてシソでジェノベーゼソースを作っても違和感がないんだ。……うむ、今日もここのピザは美味いな」
「先生一口頂戴」
「構わないぞ。カナメはいつもパンだな」
「はい、お金の節約ですよ」
「ふむ……確か君は特待生だったはずだ。しかも学費は免除されている上に企業からの手当て、SSで過去に行われた派遣任務の報酬も支払われていなかったかい?」
「全部実家に送りました」
そう、そうなんですよ。なんかカナメの家族ってガンガンカナメの稼ぎで暮らしてるみたいなんですよ。
「そうだったか……それで、なんの話をしていたんだ?」
「実はユウキ君にBBQのお誘いをされていたんですよ。確か……先生の代わりに僕らの担当になるかもしれなかった人? その人が連れて行ってくれるみたいです」
「む、ヨシキの事か? ふむ……興味深いな。俺も同行しても許されると思うか?」
すると先生がそんな事を言い出した。うーん……メンツは俺に任せるって言ってたし、大丈夫なんじゃないかな……?
「先生、ヨシキさんと友達ですし大丈夫なんじゃないですか?」
「そうだよな。アイツの飯がタダで食えるなら良さそうだ」
「へぇ、その人ってそんなに料理が上手なんだ。そっちも期待出来そうだね」
あ、そうか。あのレストランって先生とコウネさんと俺しか行った事ないのか。
カズキ先生の参加も決まり、三人で昼食を摂りながら復学後の予定について話す。
くそう……見てたら俺も腹が減って来たな……。
「あら? カズキ君にユウキ君、カナメ君じゃない。三人で仲良くご飯? 先生と仲良いのねぇ」
すると、またしてもこちらに声をかけてくる人物が。
だが、振り返るとそこにいたのは、意外すぎる人間だった。
「あれ!? エリさんどうして!?」
「ん-? 前回の報告とか色々あるのよねー。それでついでだから久々にここの食堂でお昼って訳。私もお邪魔して良い?」
「邪魔をするなら別に行ってくれないか?」
「……お約束だけど言われるとキツいわね。ほら、カズキ君席詰めて」
そう言いながら強引にエリさんが同席する。
なんか……本当にカズキ先生と仲良くなってるなぁ……。
「カズキ君まだピザ好きなの? あんなに沢山メニューあったのに」
「当たり前だろ、メニューの中にピザがあれば当然選ぶ」
「エリさんは……それ、なんです?」
「これ? これはええと……なんだったかしら? 知らない名前の料理があったからとりあえず注文したんだけど」
エリさんはなにやら『スープみたいな何か』を注文していた。
分からない……なんかマカロニみたいなのいっぱい入ってるけど。
「それにしても、確か貴方達って休学中なんでしょ? 身体の具合とか大丈夫なの?」
「あ、僕は昨日退院しました。しばらくは筋トレ禁止、戦うのも最低限にしろと言われています」
「同じく俺ももう二、三日は魔力を使うなって言われてますね」
「はー、やっぱりそうよねぇ。まだ未熟な身体で激戦区並の戦闘ぶっ続けでやらされたらそうなるわよねぇ……」
「確かにな。本来ならばあの規模の戦闘は、もっとグランディアで戦闘行為を続けて、長時間の魔力行使に耐えられる魔力路を身体に作ってからじゃないとこうなる」
「ま、それでもこの程度の軽症で済む当たり、規格外の生徒さん達よねぇ……」
なるほど……やっぱり魔力環境の違いは身体の成長にも関わるのか。
「エリさんは卒業後に異界調査団に入った時期があるんですよね? その時もこういう症状出たんですか?」
「そうねぇ、私はグランディアに行った時の身体の変質で結構苦しんだから、そのせいで異界での戦闘ではそこまでダメージはなかったかな?」
「へぇ、じゃあユウキ君も案外今回のダメージが少ないのもその影響かもだね」
「はは、そうかもな。でもこっちじゃなんにも変わってないんだよなぁぱっと見」
もうね、少しくらい身長伸びたままになってくれてもいいだろうと。
せめて一七〇代くらいで止まってくれと。
「でも二、三日なら二〇日には間に合うね」
「だな、デバイスも戻って来るし」
「何に間に合うのかしら? 復学?」
「いえ、実は――」
「ユウキ君、ストップだ!」
その時だった。
カズキ先生が唐突に声を上げ俺の言葉を止めにかかる。
なんだなんだ?
「どうしたんです?」
「ユウキ君、この話はナシだ。後でな、後で」
「え、と……分かりました?」
「なによー、気になるじゃないのよー」
「なんでもありませんよ、ちょっと遊びに行く約束してるだけです」
「そうなの? ……なんか違う気がするわ。ユウキ君詳細。カズキ君の指示は無視していいわよ、今は休学中なんだし」
「いやぁ……そういう訳には……」
あれか、カズキ先生はエリさんに教えたらついてきそうだと思ってるのか。
……別に良いのでは? そもそもメンツは俺に一任されているのだし。
「本当に大したことじゃないんですよ、知り合いにBBQに誘われてて、カナメとカズキ先生を誘ったって話です」
「へー、いいわねぇBBQ。今の時期だとどこでやるのかしら? やっぱり川とか高原かしらね?」
場所までは流石に言えないよな?
「山らしいですよ」
「えーいいなー、カズキ君も行くなら私も行きたいなー?」
「ダメだ部外者」
「卒業生よ! それに生徒の命の恩人よ? それ言う?」
「……言う。お前が来ると都合が悪いような気がする」
「なんでよ! 別にいいじゃない! 二〇日ね? 分かったわ、その日に学園周辺で張っておくから、絶対ついてってやるわ」
「はは……先生、諦めましょう。エリさん、集合場所は俺の家です。場所はええと……裏山の中にある家なんですけど」
「あーあー、知ってる知ってる。私も住もうかって思ってた場所だから。そっか、あそこがユウキ君の家なのね」
「そうだったんですね。あー……そういえばキャンピングカーでしたし、アウトドア好きなんですか」
そりゃ山の中の家とか好きそうだ。
「ま、好きね。今はキャンピングカーを校内の駐車場に止めてるけど、後でそっちの家の近くに移動しようかしら?」
「良いんじゃないですか?」
前回もお礼もかねて、後でご飯でもごちそう出来たらいいな。イクシアさんも絶対喜びそうだ。
「……その、なんだ。別にいじわるでお前を誘わないようにした訳じゃない」
「嘘よ、一〇〇パーセント意地悪よ」
「違う、ただ今回の企画主がその……ヨシキなんだ」
む、まさかエリさんもヨシキさんの知り合いなのか?
あの人どんだけ顔広いの? カズキ先生とエリさんは初対面っぽいのに、共通の知り合いだったのだろうか?
「ん-、別に気にしないわよ? というか昔の事いちいち気にして生きるなんて疲れるじゃない。そういうの引きずってるの、正直カズキ君だけだと思うわよ?」
「っ! ああそうかい! んじゃ当日はしっかり遅刻しないで来いよエリ」
そう言い残し、カズキ先生は一人先に食堂を去って行った。
なんだなんだ? エリさんなにか地雷でも踏んでしまったのか?
「あー余計な事言っちゃったかも私。なんかごめんねー先生に向かって」
「や、大丈夫です。むしろ珍しい物見れたなって」
「察するに先生はエリさんと過去になにかあったんですか?」
「ん-、特にないかな? ま、大人は色々あるのよ」
そうしてエリさんも立ち去り、残された俺達は残るメンバー、今は学園にいない三人に、メールで出席を問う事にしたのだった。
「正直カヅキさんは難しいんじゃないかな。たぶん実家の方にいるだろうし」
「だよなぁ。一之瀬さんとカイも厳しそうだ。あの二人、なんだかんだで真面目だし、今回の件でより一層訓練に励みたいだろうし」
「ね。ただ……僕としては、エリさんとカズキ先生も参加するBBQ、それに何かの駆除だっけ? もしかしたら戦う姿がまた見られるかもしれないじゃないか。そっちの方が価値あると思うんだよね」
「あー確かに。……よし、じゃあそれをダシに使おう。文面追加っと……」
『ちなみにカズキ先生とエリさんも参加します。何か身になる話や戦いを見られるかも?』
よし、これでどうだ。これならもしかしたら一之瀬さんとカイは釣れるかもしれない。
「さぁどうなるか」
「僕はカヅキさん以外が参加にカレーパン一つ賭けるよ」
「じゃあ俺は一之瀬さんだけ参加にお弁当一回分ける権利を賭ける」
さて、判定はいかに……!
「イクシアさん、今度の土曜日、二〇日に外出しませんか? 実は――」
帰宅後、帰ってきていたイクシアさんに例の件を伝える。
「なるほど、良い機会ですね。是非エリさんにはお礼を言いたいと思っていました。ええ、参加しますよ。他には誰が参加するのでしょう?」
「クラスメイト、アラリエル以外の『全員』と先生、リョウカさんとエリさんも参加するそうです」
はい、結果は俺もカナメも外れ。なんと三人共参加してくれることになたのであった。
キョウコさんもやっぱり思うところがあったのかな、聞けば誰よりも近くでエリさんと一緒だったらしいし。
「なるほど、了解です。ふふ、楽しみですね。今回は慰労もかねているそうですから、私もうんと美味しい物、作って行きますからね」
「楽しみにしてます。早く来ないかな、二〇日」
こうして、俺達の遭遇した未知の脅威は、多くの謎を残しながらも一先ずの解決……って言って良いのかな。
とにかくまた、日常に戻って来る事が出来た。
でもそれがつかの間の休息だって、たぶん俺だけじゃない、みんなだって分かっているはずだ。
けれども今は、目下の楽しみであるBBQ、そして間違いなく俺達以上の力を持つ人間と過ごす事への期待に胸を膨らませるのであった。
(´・ω・`)らんらんSO5発売日に定価で購入したの。謝って?