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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十六章

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第二百六話

「状況を説明する。現在、君達が調査した沿岸部にて魔物の出現を確認。その数は少なく見積もって三〇〇〇、群れというよりも種族総出だね。現在は本部の人間による防衛線の働きにより、市街地への侵入を防げてはいるが、有効な攻撃手段が限られている。群はどうやら小さな集団の集合体、人間でいうところの小隊規模が集まっている様子だそうだ。が、それぞれを統率する個体の強さは、こちらの一個小隊を壊滅できるレベルだ。幸い照明用車両を主要な道路全てに配備したお陰で被害を食い止められているが、それも時間の問題だろうね。君達にはすぐに遊撃にあたって貰う事になる。今回は君達でないと対処出来ない相手だ。君達の敗北はそのままこの地方の壊滅だと思って欲しい」


 深夜、緊急招集された俺達生徒に告げられた内容は、予想よりも遥かに深刻な物だった。


「こちらの攻撃は魔法以外ほぼ効果なし、雷と炎で怯ませる事も出来ているが、恐らく発生する光に反応しているからだ。実弾によるダメージも軽微、また近接戦は軍の人間では太刀打ち出来ないと言われている。いいかい、今回はこれまでとは敵のレベルが違うと思って欲し。だがツーマンセルはとらせる事が出来ない、全員散開だ。それくらい広範囲の侵攻だからね」


 それは、キョウコさんも含めて全員一人で対処しなければいけない程、広範囲に被害が出始めているという意味でもある。マジか……そこまで強い魔物だったのか。


「場所だけ指定させてもらう。キョウコ君は浜辺で対処、魔物がさらに増えるのを防いで欲しい。エリさんがあそこで孤軍奮闘中だ。カイは海岸沿いの道路を担当。周囲の建物への配慮は必要ない、雷を盛大に使って欲しい」

「了解しました」

「了解!」


「灯台付近には広い駐車場と市街地に向かう一般道がある。あちらも灯台を改造して周囲を照らしているが、海に囲まれている関係で魔物も多い。セリア君はそこで魔法を主体に戦って貰いたい」

「分かりました、私も雷を主軸にします」


「住宅地にはカナメとコウネで向かってもらいたい。恐らく軍の配備した照明車両から避けるように魔物は移動中だ。そこを狙うように」

「分かりました」

「僕も、たぶん家を壊してしまうかもしれませんね」


「ミコト君は少し負担が大きくなるが、バイパスに逃げ込んだ魔物の対処だ。あの場所も照明車両や街灯で魔物を抑えているが、それでもかなりの数が入り込んでいる。圧殺されるのも時間の問題だ」


 俺はそれを聞いて手を上げる。


「俺も一緒にあたるべきでは?」

「いや、ユウキ君は……作戦展開中の沿岸部から外れて、さらに離れた沿岸部に向かってもらいたい。諦めた魔物が他に回る可能性も高い。そうなったら……対処できるのは君だけだ」

「……分かりました」

「君は作戦エリアの南部に広がる沿岸部をカバーしてくれ。北部は僕が担当する」


 そんなに強い魔物なのか。それなのに、俺はクラスメイト達から離れなければいけないのか。


「想定よりも敵の数が多く、かなり手ごわいからね。先程理事長に増援を頼んだところだよ。いいかい、恐らく日の出まで耐えきったら僕達の勝ちだ。そのまま海を物理的に封鎖、殲滅作戦に移行するそうだよ。だから、この夜を乗り越えて欲しい」


 先生が、いつもより不器用に話すのを聞きながら、全員が強く返事をする。

 こりゃマジでやばいな。援軍、間に合うのか……?

 俺達はすぐにバイパスで移動し、作戦地点へと向かった。






「そろそろ作戦地点です。皆さんはここから徒歩で持ち場へ向かって下さい!」

「了解。一之瀬さんはこのまま高速を進んで、だよね。先生はああ言っていたけど、誰か一人付けて貰っても良いと思う、俺は」

「ありがとう、ササハラ君。だがこの場所は他より照明も多く敵の動きも鈍いだろう。それに密集しているから……『この力』を発揮させやすい」


 そう言って彼女は自身の刀に手を添える。そうか、先生が前に見せてくれたあの力……モノに出来たのか。


「みんなもここで降りて向かうんだよな。今回、俺は別な地点に向かうから、たぶん救援に向かう事は出来ない。みんな、常に他のメンバーがどこで戦っているか意識して動いて。必要なら合流するのも大事だから」

「分かった。安心しろユウキ、俺だって成長してる。全力で雷でも降らせるつもりだから」

「大丈夫ですよ、ユウキ君。今は深夜一時……日の出まであと四時間程ですから。私達なら必ずその時間まで持ちこたえられますから」


 皆の意気込みを信じて、俺はそのまま車に乗せられ、持ち場である隣町の沿岸へと向かうのだった。




 隣町の沿岸部。この辺りも海に近い場所だけは住人の避難が始まっていた。

 さすがにもう魔物の事は隠しておけないと判断したのか、既にローカルニュースでは魔物についての報道も行われているそうだ。


「向こうで順調に作戦が進むほど、こっちに魔物が来る可能性が高い、か」


 リミッターはもう既に全て解除している。

 というか、学園内以外では常に全開だ。

 デバイスの調子も良い。今なら、以前よりも効率よく魔導だって使える。


「日の出まで、ここを死守する。みんな、どうか無事でいてくれよ……」








 作戦展開区域、その激戦区とも呼べる沿岸で、一人の女性が戦い続けていた。

 浜辺上の道路には無数の軍用車両が停車し、一斉に大光量の照明が海を照らす。

 日中でもここまで光を感じる事はないような、車を振り返ればあっというまに目がくらんでしまうような、そんな光をまるでスポットライトのように浴びながら、エリは孤軍奮闘、獅子奮迅の活躍を見せていた。

 しかし彼女も人間だ。いずれ体力が尽きる時がやってくる。


「ああもう……どんだけいるのよ! こんなの都市部に流れたら壊滅じゃないの!」


 殴る、蹴る、払う、吹き飛ばす。体術を駆使し、その魔物――どこか冗談のような、まるで二足脚歩行のタコのような亜人を一人で押しとどめる。

 照明に怯み、未だ浜辺から町へ移動出来ない魔物達は、ひとまず自分達の脅威となりうるエリを標的とし殺到する。

 触手をムチのようにしならせた薙ぎ払い。まるで消防車の放水のような威力の水鉄砲。

 簡易的な魔術なのか、ときおりアラレのような氷の粒が勢いよく飛来する。

 それらをエリはひたすら防ぎ、魔物の数を減らしていく。


「後ろの軍人さん! とりあえず撃ち方やめ! あんまり効果ない上に下手したら私に当たるから! 照明だけ点けておいて後は退避しといて!」

「わかり……ました……どうかご武運を!」


 車両付近に展開していた人間を下がらせ、今度こそ本当に一人で戦う。

 一対一なら造作もない相手。が、終わりの見えない軍勢を前にしてもなお、彼女は一人で挑む事を選ぶ。

 命の危険もあるのに、対処しきれない可能性もあるのに。

 まるで、この程度の逆境など慣れているとでも言うように、彼女『カナキ エリ』は平然と集団に挑み続ける。


「こいつら随分とタフねー……異界の魔物で確定ね……これ生徒さん達来ても無駄なんじゃないかしら」

「そんな事、ありませんわ」


 次の瞬間、魔物ひしめく海上に、強烈な光を纏う何かが飛んでいく。

 頭上から突如、昼間のような光に照らされる魔物の動きが一気に鈍くなる。


「キョウコさん! って事は他の生徒さん達も来てるのね!?」

「ここは私が担当です。指示をお願いします」

「んじゃあの光ってる子、もう少し沖に移動させて! 海からこっちに追い立てる感じで」

「へ? 魔物の侵攻を止める為ではないのですか?」

「ここで出来る限り数を減らそうかなって。たぶん、ここで引き返されたら海の中経由で別な場所に行っちゃうでしょ」

「なるほど……私はそこまで戦力になれません。大丈夫ですか?」

「魔法で適当に牽制してくれるだけで大助かりよ。銃型デバイスだと威力低すぎてアテにならなかったし。雷の魔法なら効果ありよ」


 キョウコも意を決し、浜辺に降り立ち魔法で周囲の魔物を牽制する。

 光による怯みと雷の痺れ。その牽制により魔物達は一瞬躊躇し、動きが鈍る。

 同時に魔物の放つ魔法すら、キョウコの魔法で迎撃されていく。つまり今、肉弾戦でエリの邪魔になる要素が排除され、なおかつ的の動きが鈍ったという意味である。


「ナイス! 最高の援護だわ。良い子よこしてくれたわねー!」

「おほめに与り光栄ですわ……!?」


 次の瞬間、エリが消える。そう思った矢先にはもう、魔物が蹂躙されていく光景が広がる。


「なんて……速さですの。ササハラ君と同じレベルですわね……」


 瞬間移動レベルの速さと、その勢いを乗せた打撃は、容易に魔物の集団を吹き飛ばし、蹂躙する。ただの当て身で一〇〇の魔物がコマ切れとなり、少しでも足を止めた魔物は、次の攻撃の餌食となる。

 先程までエリの動きを鈍らせていた魔物の魔法も、もはやキョウコにより防がれている。


「こいつら並の火力じゃ倒せないくらい頑丈なのよ! ここで出来るだけ引きつけて他の負担減らさないと!」

「了解しました!」


 が、キョウコは『自分のクラスメイトならば目の前の彼女と同じように倒せる』と確信していた。いや、『してしまっていた』。

 思いもよらなかったのだ。目の前のこの女性が『常軌を逸した強さなだけ』だという事に――






 灯台の麓にある大きな駐車場。海岸から続くスロープ状の道がある関係で、魔物の侵入はたやすい。

 だが、膨大な光量を放つ灯台に、何故魔物が殺到しているのか。答えは簡単である、日本の諺にもある有名なこの言葉。

『灯台元暗し』いかに灯台が改造され光量を増やしても、その足元は暗い。

 無論、それをカバーするべく車両も配備されているのだが、それでは足りないのだ。

 何故ならば『魔物も必死』これにつきる。

 灯台の光量と有効射程は、海底に潜む魔物にも脅威になりえる。だからこそ、魔物はなんとしてでも『あの光る塔だけは破壊しなければ』と奮起する。

 故に、大量の魔物が決死の覚悟で殺到していた。

 そんな激戦区を担当していたセリアは――


「く……魔法以外の攻撃がほとんど通らない……!」


 大規模な雷魔法で周囲を薙ぎ払い、追撃の斧で大量に魔物を吹き飛ばす。

 だが、吹き飛ぶだけ。すぐに起き上がり、深手を負った様子もなく向かって来る。

 表皮が常軌を逸した強度を持っているのだ。一見するとタコのようにもかかわらず。


「身体の弾力だけじゃない……身体強化を魔物も使ってる……?」


 幸い、魔法で焼き払った魔物は起き上がる様子を見せない。だが、セリアの魔法、魔力にも限度がある。だからこそ斧による戦闘も織り交ぜていたのだ。


「日の出まで持ちこたえられるかな……これ」


 囲まれた彼女は、再び魔法を放ちながら、かすかに不安を覗かせていたのだった。






「クソ……! 俺だって!」


 海岸、浜辺に最も近い道路で、カイは浜辺以外から回り込んできた魔物や、エリから逃れて上陸した魔物の対処を行っていた。

 だが、目の前で奮闘する圧倒的な戦力、エリの強さに歯噛みしながら『己の弱さを噛みしめていた』

 雷を纏い、高速で魔物を切り伏せていく。一撃で切り落とせるのは『触手一本程度』のみ。

 徐々に、カイは戦線を後退させられ、魔物の数に圧倒されていた。

 だがそれでも魔物の動きが鈍いのは、カイ自身が雷光で輝いているからに他ならなかった。


「……そうか、車両の近くならもう少し戦いやすいか」


 位置取りを変え、少しでも有利に戦える場所を探す。

 車両周辺の明りとカイの明りに怯んだところを、またも切り伏せる。


「天断!」


 直線に伸びる剣圧を打ち出し、まとめて多くの魔物を吹き飛ばし、その身体に切り傷を負わせていく。

 一撃で倒せなくとも、確実にダメージを広範囲に蓄積させていく。作戦を変えたカイの勝利とも呼べるだろう。気がつけばカイを取り巻く魔物は、ほぼ全て満身創痍となっていた。

 だが、それでも倒しきるには至らない。驚異的な生命力の魔物に、初めてカイは『恐怖』した。


「……夜明けまで持てばそれでいい。倒せなくても、ここまで弱らせたら……!」


 だがカイは気がつかなかった。魔物が密かにカイから離れ、海に戻っていた事を。

 そして知る由もない。弱り切った魔物が、海の中でみるみる回復している事を。






 住宅地内部。住人が全て避難したその場所で、カナメとコウネは互いが分担するべき場所を決めていた。


「僕は北側を担当しようかな。どうやら公園みたいな広場があるから、周りに被害が出にくい」

「分かりました。私は車両のライトで照らされていない通路を氷で塞いで回ります。出来るだけ、魔物がそちらに回り込むように誘導しますね」

「まだ、そこまで魔物は入り込んでいないみたいだけど、明らかにおかしな物音があちこちから聞こえて来てる。気を付けてね、コウネさん」

「はい。もしも対処できないようでしたら、そちらに合流します」


 縫うように、入り組んだ住宅街を駆ける両者。

 コウネは魔物との戦闘を極力避け、通路を氷で塞ぎ誘導する。

 だが、そもそも『氷程度で諦める魔物』ではなかったのだ。


「な……!」


 通路を氷の壁で塞いだ次の瞬間、亀裂が走り、氷の壁が崩れ落ちる。

 そもそも魔物が扱う術も氷。氷に干渉する事など造作もなかったのだ。


「……相性最悪ですね。様子を見てすぐにカナメ君のところにいかないと……」






 魔界、またの名を異界。その名称の変化にはとある『種族からの不満』が関係していた。

『まるで我ら魔族の世界のような呼び方だ。我らが世界に仇なすとでも言うつもりか』と。

 ノースレシア大陸の前国王、一般的に魔王と呼ばれている人物のその呼び声に、世界が応じた形だ。

 そう、ただ一つの国の王が異を唱えただけで、グランディアも地球も、その要求『呼び名を変える』事を承諾したのだ。

『ノースレシアだけは敵に回してはいけない』それが、世界の共通認識だった。


「……どういう事なんだ、これは。何故、魔物が……人の姿に変わる……!」


 高速道路を封鎖し、そこに殺到してきた魔物の相手をしていたミコトは、今目の前で起きた現象に驚愕の声を上げていた。


「私は……こんなにも大量の人を殺したとでも言うのか……!」


 目の前に広がる光景。それは、高速道路を生める、膨大な人の死体。

 一般的に『魔族』と呼ばれる身体的特徴を持つ人間達の死体だった。


「何故――」


 その嘆きを他所に、またしても魔物が殺到する。

 身体に染みついた動きでそれを葬るミコト。そして死体が強い光に晒され続け、次第に人の形に変化していく。


「なんだ……なんなのだこれは……!」


 任務と割り切る。そう訓練をし続けて来たミコトを以ってしても、その光景は異常だった。

 やがて――その精神の揺らぎは致命的な隙を生み出してしまう。

 いつの間にか彼女の背後に回り込んでいた魔物が、捨て身の特攻を仕掛けて来たのだ。

 一瞬遅れる反応、迫る攻撃。そして――間に合わない彼女の防御。




「……さすがに生徒には荷が重かったか」


 その瞬間、担任であるカズキが彼女を抱えて橋を飛び降りていた。


「……本来、生徒には教えておくべきだったんだ。ミコト、今見た光景は忘れろ、今だけは」

「先生……なにを……」

「想像以上にお前達が善戦していたからな。こちらに魔物が迫る気配がなかったから来てみたが……そうか、よりによって『亜人から魔人に変化する寸前』の個体だったか」

「まじん……? あれは人ではないのですか……?」

「すべては任務が終わってからだ。ミコト、お前は住宅地側に向かってくれ。恐らく今回の魔物、お前達には早すぎた。最悪、誰かが死んでしまう事も視野に入れて動くんだ。すぐに合流しろ、走れ」

「な……! 分かり、ました」

「少なくとも、お前さんはアイツらを一方的に蹂躙出来ていた。その力を有効に使え」


 いつものような温厚さを捨て、どこか冷たくミコトに指示を出すカズキ。

 高速道路からおびただしい量の魔物が、カズキ達を追いかけるように落下してくる。

 だがそれでもミコトに早く行けと命じる。


「先生、しかしその数は――」


 振り返り際に、ミコトが見た光景は『人の動きではなかった』と、後の彼女は語ったと言う。

 彼女が走り出した時にはもう、一切合切、魔物を含む『全て』が灰塵と化していた光景だった。

 道路も街灯も車両も魔物も。その全てが――








 やばいでしょコイツら。


「打たれ強すぎだろ!?」


 隣町の海岸に、そいつらが現れたのは突然だった。

 静かな波の音の中何かが紛れて聞こえ、耳を澄ませていると、唐突にそれが現れたのだ。

 ガチのタコ星人、火星人みたいな魔物が。

 その気の抜けるフォルムに油断した瞬間、伸ばされた触手が俺の腹を打った。

 その衝撃、破壊力に一瞬で俺は本気になる。

 が、まさか初撃で倒せないとは思わなかった。


「最初から全力でいく」


 分け身風を発動し、砂浜に軌跡を描く。


「“タイラントブレス”」


 海上に現れた風の牢極に、無数の魔物が吸い込まれ、一瞬で風の牢極が血で溢れ海に降り注ぐ。

 でも、減らない。次から次に海から現れる魔物。

 一匹でも背後に抜かせたらダメだ。全力で駆けまわれ、風のように。


「くそ……! 乱発出来ないなこりゃ」


 駆け抜け一閃で浜辺を縦横無尽に駆け回る。

 首を狙い、なんとか一撃で仕留めるコツを掴んだけれど、まだ足りない。この速さじゃ戦線を押し込まれる!


「クソ……! うおおおお! ああああああ!!!」


 限界まで身体強化を施し、砂が吹き飛ぶほど、地形が変わるほどの速さで駆け巡る。

 蟻地獄でも出来そうな、巨大なすり鉢状の穴でも出来そうな、そんな規模で。


「そうか……!」


 タイラントブレスを今度は地面に向かい発動させる。

 風の牢極が砂をえぐり取り、またたくまに流砂の穴が生まれる。

 魔物がなだれ込む。穴が海の波と砂の流れでどんどん大きくなる。

 文字通り地形が変わっていく。


「これで足止めして……」


 風絶を外から何度もたたき込む。こっちの方がまだ燃費も良いし、駆け回る必要もない。

 これならもう少し粘れそうだ。


「こっちにも照明があれば……な」


 その時、渦の中心から魔物が飛び出して来た。

 明らかに他の個体とは大きさの異なる、恐らくボス格の相手。

 が、一対一なら――


「俺の相手じゃないんだよ」


 細切れにし、魔物の現れる様子を観察する。

 渦のお陰でかなり数を減らせたけれど、これでも作戦区域から逃げて来た個体程度の数なんだよな?

 激戦区はどうなってるんだ、これ。


「……不味いな。日の出が来ても朝日が届かないぞ、これ」


 海上に見える、深い暗雲。暗く濃いその雨雲が、またたくまに海上に大雨を降らす。


「体力の消耗も激しくなるだろ……俺、ここにいていいのかよ……」


 遠くで戦っているクラスメイトの事を思い、俺はリョウカさんが寄越してくれる援軍に頼るべきか否か、決断を迫られていたのだった。


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