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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十六章

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第二百四話

「ねぇねぇ、やっぱりどっちかが君の彼女だったりするの? 私当ててみようか? たぶんだけどキョウコさんの方じゃないかしら? なんだか二人ともしっかりものに見えるんだけど、より甘えやすそうなのってキョウコさんの方だと思うのよね? ねぇ当たってる? ユウキ君絶対年上とか大人っぽい人が好きだと思うんだよね、カンだけど」


 ……この人、めっちゃ喋る!


「エリさん、今は仮にも任務中です。あまりそういった私語をするのはどうなのでしょう」

「そうです。今回の魔物は危険な相手である可能性が高いといいます、もう少し緊張感というものを持っていただきたいのですけど」

「そうですよ。ちなみに両方彼女じゃありません。生まれてこの方恋人がいた事なんてないっす」

「え、なんかごめん……」


 憐れむな!


「いやー私って学園時代浮きに浮きまくって同年代の友達とか絶無だったのよねー。ついついはしゃいじゃったわ」

「というと、やっぱり実力的な意味で……?」

「そ。リョウカに頼み込んで学園退学しようとすら思ったのよ? でも許してもらえなくって。でも君達が入学してきてくれたお陰で私の異常性が薄れてくれたのよねー。感謝感謝」

「ふむ……エリさんはそれほどまでの実力者だったのですか」

「そういえばSSクラス設立のきっかけと聞きましたけれど」


 明るいテンションにしては寂しいお話。むしろ貴女を憐れみます。


「そ。私みたいな生徒を集める専用のクラスを作った方が良いって言ったのよ。まぁ結局同期に私と同じような子なんていなかったんだけどね?」

「エリさんってどういうデバイスを使うんですか?」

「私? なんにも使わないわよ。身体強化してぶん殴るだけ。一応回復魔法も使えるんだけど、デバイスは使わないの」


 は? マジかよ! 俺そんな生徒見た事ないんですけど。


「我が社ではナックルタイプのデバイスも取り扱っていますわよ?」

「あーUSH社の? 一回使ったら一発で全壊しちゃったのよね。オーダーメイドしてまで買うより拳でいいやって思って結局購入を見送ったのよねー」

「……そう、ですか」

「ふむ……もしかしたらササハラ君と似たようなタイプなのかもしれないな。常軌を逸した身体強化となると」

「そーそー、たぶん同じよ。さて、お話してる間に浸食洞みたいなの見えて来たんだけど」


 話を聞いていると、突然そう指摘された。

 え、見えないんだけど? ていうかあんなに喋ってるのによく見つけられたな。


「ほら、あの海面見て。ちょっとくぼんでるでしょ? 一見すると小さいけど、海中まで洞窟が広がってる場合があるのよね。波の泡立ち方的に見て間違いないわよ?」

「……キョウコさん、ハムちゃんで調べてみてくれる?」

「既にやっているところですわ。…………確かに空間が広がっていますわね」

「……驚いた。確かに他の場所とは波の泡立ち方が違いますね。感服しました」

「ふふ、経験のなせる技よ。知り合いに釣り好きな人がいて聞いた事があるのよ。ちなみに、大物が潜んでいたりするらしいわよ?」

「今回は大物というか魔物が潜んでいそうですけどね」


 なんかこう、俺達より気楽にゆるーく歩いていたと思ったら、すぐに調査を進展させてしまうあたり、本気で優秀な人なんだなーと思い知らされた気分だった。


「ん-……ダイビングスーツ持ってくるのもあれだし、どうやって入ろうかしら?」

「くぼみを広げるっていうのはどうです? たぶん俺達ならいけると思いますけど」

「結構危ないのよねそれ。崩落しちゃうかもだし」

「確かにそうですね。ササハラ君、君ならどうする?」

「ん-……コウネさんを呼んで海を凍らせて一時的に通れるような空間を作るとか?」


 もしくは海中用装備を持ってくるか。一応、基地には用意してあるって話だし。

 あ、でも車両の方にも積んでたかも?


「あ、なるほどね。一時的に通れるようにすればいいのか! じゃあなんとかなるわよ、ちょっとこっちに来て」


 すると、エリさんがくぼみに一番近い足場まで来るように俺達を呼び寄せる。


「今から一瞬だけ通れるようにするから、速攻で中に入ってくれる? 内部に空間があるのは確認済みだし、空気がある場所もあるのよね?」

「ええ、確認済みです。内部にはかなり深い洞窟が続いているみたいですわね。ただ、海水が入り込んでいる部分が途中で無くなっているみたいで、先の情報を得られません」

「つまり水があがってこない場所があるって事よね? じゃあ安心ね」


 なんだなんだ、何をする気だ?


「じゃあ、私が合図したら海に向かってジャンプして、そのまま洞窟に向かって走って頂戴。一瞬だけ海の水なくしてあげるから」

「……は?」

「じゃあ行くわよー……」


 するとエリさんは、海面に向かって正拳突きでもするかのような、瓦割りでもするかのような構えを取る。

 嘘だろ……まさか……。


「セイヤ!」


 その瞬間、海が局地的に消えた。

 浸食洞付近の海水が完全に拳圧に押し出され、海底が丸見えになる。


「ほらダッシュ!」

「は、はい!」

「そんなバカな……」

「マジか!」


 急ぎ飛び降り、海水が戻って来る音を背後に聞きながら洞窟を突き進む。

 微妙に内部に残る海水に足を取られ速度が落ちる。いや、これはキョウコさん、間に合わない!

 俺も振り向き様に抜刀、洞窟に被害が出ない程度に『風絶』を放ち、迫って来る海水を散らして浸水速度を落とす。


「キョウコさん走って! 俺がもう少し持たせるから!」

「はい!」


 本気を出せば崩落する! 断続的に風絶を放ち水の押し寄せる速度を落とすが、そろそろ限界だ!


「ユウキ君交代! キョウコさん担いでダッシュ!」

「りょ、了解!」

「キャ」


 エリさんに任せ、キョウコさんを担ぎ上げて走る。すると、どうやら海面より高い地点に続いていそうな道を見つけ、一之瀬さんと共にそこへ向かう。


「よし……! キョウコさんごめん、もっと丁寧に抱き上げられたらよかったんだけど」

「い、いえ……申し訳ありません、足を引っ張ってしまい……」

「いや、キョウコが内部の情報を探ってくれたから入り込めたんだ。エリさんは……」


 振り返ると、海水が戻ってきてしまっていた。そのしぶきに俺達も水浸しになってしまいそうになるも――


「フン!」


 エリさんが間に割って入り、またしても正拳突きで水を弾き飛ばしてくれた。

 やばくないこの人? 海を割るって……規模は違うけどジョーカーみたいな事するじゃん……!


「やーうまくいってよかったわね。この先で行き止まりなら最悪人生終了なんだけどね」

「……恐い事言わんでくださいよ」

「その時は……私が海水越しに救難信号を出しますわ」

「あ、なるほど。貴女優秀な雷使いねー! さっき精霊種呼び出してたし」


 そう、困った時のハムちゃんなんです!

 洞窟の中はどうやら通信機も使えないようだが、ハムちゃんなら海中も移動出来るし。


「ん-……この洞窟、たぶん天然と人工が入り混じっているんじゃないかしら? 海に面している部分は長年波にさらされて天然の洞窟みたいになっていたけど、元々はもっと海面も低かったのか、それとも上に続く石段でもあって、それが丸ごと削り取られて洞窟になったのか」

「……その根拠をお教え願いたい」

「足元を見て。天然にしては平面が出ていた形跡がある。多少浸食されているけれど、ここまで水平が出るのはありえないわ。それに壁面も……たぶん何かの金具の痕跡かしら。微妙に鉄の臭いがする箇所がポツポツと残ってる」

「に、臭いですか……?」

「そ。海水の臭いに混じって明らかに人工的な臭いが混じってる。あ、私身体強化で『五感』も強化出来るのよ」

「ええ!? そんな事も出来るんですか!?」


 マジかよ! 俺そんなの出来ないぞ! 動体視力はまぁ……多少上がるけど。


「大丈夫、変な事に使わないから安心して? 魚介の臭いならこの辺りはずっとしてるし」


 そりゃどういう意味じゃ。


「まぁ、とにかくこの辺りの地質的にもこの臭いは違和感があるのよ。たぶん、何かの坑道かそれとも昔のお偉いさんの隠し通路か。結構深くまで続いてるから、進んでみましょ。一応毒ガスとかないか私が先頭で鼻を効かせてあげるから」

「……カナリアか犬みたいって思っちゃいました、すみません」

「……おりゃ」


 エリさん の からてチョップ !

 ユウキ は みをかわした。


「シャレにならないんですけど!?」

「大丈夫、手加減してるから骨折で済むわよ」

「ひぇっ」


 コウネチョップは耐えられる! でもこっちは無理だろ!


「なるほど……確かに人の手が入っているようですね。海水に浸食されていない奥の方にはまだ手すりが残っています」

「……もしかしたら、この通路は過去の香月家に所縁があるのかもしれませんわね……」

「というと?」

「香月家は明治時代、多くの豪商との争いの果てに今の地位を築き上げました。当然、今よりも暴力的な、過激な争いもあったと聞きます。香月家、もしくはその他の家が緊急時に逃げ出す為の通路が隠されていても不思議ではありません」


 なるほど……そういう土地柄なのか。


「ん-……班長のユウキ君。私はこの通路が魔物の移動に使われている可能性があるって思うんだけど、どう思う? ここを通って内陸部に移動したと思う?」

「ここがどこに繋がっているか次第ですね。もし、目撃地点に近い場所に出たなら、可能性はぐっと高くなるかと」

「そっか、そうよね。……でもそうなると、陸上でも長時間の活動が可能、海から離れる事に対して恐怖心のない相手って事になるのよねー。結構ヤバイ相手かも」

「そういうもの……なんですか」


 洞窟を進む。仮に目撃地点である香月家の近くにある自然公園に続くとしたら、相当な距離を歩く必要が出てくる。

 車で結構移動したよね……? これ歩いて奥まで行くの辛くない?

 いやまぁしっかり鍛えてる俺達なら余裕だけど、純粋に手間だなぁ。


「いやーそれにしてもその子明るくていいわねー。照明いらずね!」

「ええ、確かにこの子は暗所の探索で大活躍ですわ。幸い、ある程度水気のある洞窟ですので、簡易的ではありますがレーダーの役割も可能ですし」

「はえー……すっごいわね。ただ強いだけじゃなくてこういう異能持ちの子も所属してるのねぇ……」

「エリさんは何か特殊な能力って持ってたりするんですか? さっきの身体強化もかなり凄いですけど。ほら、召喚実験の結果が特殊だとか」


 けれども、エリさんがよく話してくれるので、少なくとも退屈はしなさそうだ。

 二歳しか歳が変わらないらしいけれど、この人は卒業後すぐに秋宮の私兵になったのだろうか?


「私? 召喚実験は受けていないのよねー。特殊って言ったら身体強化で五感まで強化できるところくらいだけど」

「あら……シュヴァ学の入学試験を受けるのに召喚実験は必須だと思っていたのですが」

「私の場合ちょっと特殊なのよねー。高校三年の時に急にリョウカさんに入学しろって命令されたのよ。まぁ特待生扱いでお金もかからないならーって事で、希望校諦めて入学したの」

「え、マジですか! 殆ど俺と同じ境遇じゃないですか」


 俄然興味が湧いて来たぞ、この人に!

 何かリョウカさんの目に留まる働きでもしたって事なのかな?

 俺の場合はイクシアさんを召喚したのがきっかけだけど。


「あ、そうなの? へー、私だけじゃなかったのね。ちょっと親近感湧いちゃうわねお姉さん。そっちもリョウカさんの知り合いだったとかそういう?」

「いえ、俺はちょっとした事件で秋宮の研究員さんにスカウトされて、その結果……みたいな感じですね。秋宮のエージェントとして学園に派遣されたついでに入学させてもらったみたいな」

「あーそっか。だからリョウカさんに重用されてるんだ。私は単純にあの人の友達だったから……なのかしら? 強引に入学させられたのよ『どうせ貴女強すぎて他じゃ浮くでしょうから』って。失礼しちゃうわよね? まぁ実際入学しても浮いちゃったんだけど」


 この人、明るく話すけど結構可哀そうな境遇じゃない?

 けど、リョウカさんの友達……リョウカさんってグランディアの人間なんだよな、本当は。だとしたらこの人ももしかしたら……? いや、でもどう見ても日本人だしなぁ。


「それより少し寒くなって来たわね。酸素やガスはこの先も問題ないみたいだけど……」

「あ、そういえば私服でしたもんねエリさん。んじゃあ俺のコンバットスーツのジャケットを……」

「お? 丈はちょっと短いけどジャストフィット! 華奢ねー君。私好きよ、小さい男の子って」

「小さい言うの禁止で」


 くそう……悪気やからかいの意思が微塵も感じられないから強く言えねぇ!

 そのままどこまでも続く洞窟を進んでいく。今、どれくらい内陸部に近づいているのだろうか……。


「どうやら地表に近くなっているようですわね。ハム子が地表の電波をキャッチしたようですわ。今GPSと照らし合わせて……」

「ほんと便利でかわいい子よねー。体感二キロは歩いてるし、道路無視の直線距離なら結構市街地に近づいて来てるんじゃないかしら?」

「……驚きましたわね。エリさんの言う通り、ここはバイパスに近い住宅地の真下ですわね。まだ洞窟は続きますが、このまま進めば本当に自然公園の真下まで着きそうですわ」

「おー、結構私の感覚も頼りになるものねー」

「もしかしたら身体強化でそういう距離感とか感覚的な物も強化されてるのかもですね」

「あーありえるかも。学園にいた時は毎日手抜きして自分の能力磨いたりしてこなかったから、いまいち自分がどこまで出来るか分からないのよね」

「はは……俺みたいにリミッターで制御してたんですか?」

「ううん、自分の感覚で手抜いてた。失礼かもしれないけど、そういう気を使う相手っていうのが私にはいなかったのよね」


 俺なんかは、リミッターで制限されてはいたが、いつだって全力で組手をしたり講義を受けていたが……そっか、気を使う相手がいないなら手を抜こうが何しようが良心が痛む事はない、か。

 この人、本当よくそんな学園生活を三年間も耐えてこられたなぁ……。


「ん、ちょっと空気変わったわ。たぶん外の臭いだと思う」

「これは……地表へ続く道ですわね。皆さん、臨戦態勢を。何が出るか分からないので」


 洞窟の果て、果たしてどこに繋がっているのだろうか――









「コウネ君、こちらの班のリーダーは君に任せるよ。一応俺は引率の教師枠だしね。基本方針は君達に任せるよ」


 香月家が存在する区画で、大きな敷地面積を誇る自然公園。魔物の目撃証言のあったその場所で、カズキはコウネに班長を務めるように指示を出す。


「分かりました。では……かなり広い公園のようですし、全員で手分けして調査に入りたいと思います。先生も自由に行動してください」

「了解。じゃあみんなの様子を一人ずつ確認して歩くとしようか」

「了解だコウネ。じゃあ……そうだな、俺は林の方を調べて来る」

「私はどうしようかな……水場はないって言ってたけど、小さい池とか噴水はあるみたいだから、その辺りを重点的に調べてみる」

「じゃ、僕は遊具が多い方に行ってみるよ。今は人払いがされているけど、目撃されたっていうのなら、人気の多い場所の近くかもしれないからね」


 それぞれが自分の考えの元散らばっていく中、コウネは魔術を展開する。


「では、私は水路に近い場所から魔術で排水管や水道の奔っている場所を追いかけます。公園にも恐らく水を浄化する施設があるはずですから」

「了解したよ。じゃあ俺はそうだな、コウネ君に付き合おう。少ししたら他のみんなのところも回るかな」

「助かります。先生、もしかしなくても私が魔物の痕跡を見つけるかもって思っているんですよね?」

「ん? どうしてそう思うんだい?」

「だって先生、意味のない事って絶対しないじゃないですか。無関係、無意味だと思わせておいて、絶対にそれが後で生きて来る。これまでの事を思えば当然ですよ」

「買いかぶりすぎだよ、それは」


 軽く流すカズキと、含み笑いをするコウネ。胡散臭い二人組が公園の中を探索していく。

 水路は、主に公園で使われた水を排出する為に使われる。

 先程セリアが向かった噴水や池の他にも、トイレや水飲み場も存在する。

 当然それらの水を供給する為の施設が公園内にも存在していた。


「水の魔力素を辿れば、地下水道の位置はおおよそわかるんです。魔物も水棲であるのなら、その残滓が残っているかもしれませんからね。魔物は本能で水の魔力素に惹かれる物ですし、こうして探せば何かが見つかる筈です」

「なるほど、そういう事か。やっぱりコウネ君に同行して正解だ」

「ん-……先生本当は魔法にも詳しいですよね、相当。どうして知らないふりをするんですか?」

「いやぁ……詳しいと言うか、聞きかじった知識が沢山あるだけだよ。詳しくは知らないんだ。魔法だって身体強化しか使えないくらいだよ」

「まぁそれは信じますけど。皆さんあまり気にしていないですけど、カズキ先生の『特異体質』もかなり異常ですからね? 何かを隠すなら、そっちを先に隠すべきでしたね?」

「ま、指導に必要だったからね。必要な事は隠さないよ、僕は」

「イマイチ信頼出来ないのって、生徒からすると不安なんですよ? 信用はしてるんですけど」

「耳が痛いね、それは」


 どうやら、コウネはこの教師を信頼していないようだった。

 秘密が多すぎる者、そしてそれを悟らせながらも何も語らない者。

 そういった人間に不信感を抱いてしまうのは、大貴族の令嬢として生きて来た彼女にとっては、警戒するに値する。

 だがそれでも、行動を共にし、信用すると言い切る。


「先生の手腕は信用出来ますからね、今は良いです。お陰様で私も以前より強くなれましたし」

「そうだね、元々君は剣術一本でもミコト君に迫る逸材だ。魔法と完全に組み合わせ使いこなす事が出来れば、自ずと彼女を越えられる」

「ふふ、そうなるとカイが一番強くなってしまうかと」

「そうだね、そういう意味だと彼が一番伸びしろがあるし……使っている武器の質が最高だ。あれを一度使わせて貰った事があるが……『歴代の持ち主』の中には、常軌を逸した存在もいるみたいだった」

「むむ、それは気になりますね。あれ、セミフィナル大陸政府で管理されていた国宝なんですよね?」

「そう。一番古い文献では『偽りの魔王の手から真の魔王の手に渡り、やがて大いなる母の手に返還された』とある。もし、この文献に登場する三人の力をカイ君が引き出せたなら……」

「ふむ……たぶんその文献は私も見た事がありませんねぇ……。やっぱり先生はちょっとツメが甘いですよ? 私が知らない=『国家機密』ですから」

「こりゃ参った。そうか、大貴族の御令嬢は本当にその地位をフル活用していたようだね?」


 コウネは自分がほぼすべての知識、文献に目を通して来たかのように語る。

 カズキはそれでもただおどけてみせる。


「でも、理事長が信頼している方みたいですし、ユウキ君が先生の事を信じているみたいですから、不問にしますね? 凄いですよね、ユウキ君ってああ見えてかなり警戒心強い人なのに」

「ん-、そうだと嬉しいな。僕は彼に信頼されるような事はしていないけれどね。しかし逆に君はユウキ君を随分と信頼しているね?」

「ええ、家族と同じくらい信頼しています。私は、もしも次に彼が世界を敵に回すような事があれば、全てを投げうってでも彼と共に行きます」

「……なるほど、愛しているのか。その気持ちは俺にも分かるよ。ああ、そうだとも。本当に愛している、大切な相手の為ならば……世界とだって喧嘩してやる。それくらいの覚悟は持ってしかるべきさ」

「あら、意外です。先生も激情的な面があるんですね? 今の、うわべだけの言葉に聞こえませんでしたよ?」

「マジか。君ウソ発見器みたいで恐いな。迂闊な事は言えそうにないな……」

「ちなみに、今の発言と同じくらい情熱的に真実を語っていた事は一度しかありませんでしたよ? 前にピザについて語っていた時がそれにあたります」

「……泣けてくるんだけど? いやまぁ秋宮のピザは素晴らしいから……正直別な味をもっとメニューに追加して欲しいと匿名で投書するくらいには好きだけど」

「ですよね! しっかり石窯で焼いたピザ特有の、香ばしい香りに、生地膨らみが大きいのにそれを維持したまま焼き上がる高温。具材のチーズまでが厳選されていて、正直ピザにするのがもったいないくらいですし」

「そう! そうなんだよ! いやぁ、アルコールの提供がされていない学食なのが惜しい。いや、ここはコーラでも許したいところだが、コーラも学園の自販機には置いていないんだ」

「いえ、あれはピザというよりピッツァ、それも高級。コーラと合わせるにはいささか上品過ぎますよ」

「そりゃそうかもしれないが……が、ランクを落としたもっとジャンクなピザも置いてあるからね。あれもあれでいいものだ」


 先程までどこか危うげな空気の漂う会話をしていたというのに、気がつけばピザ談義に夢中になる二人であった。




「――で、実は地元にも石窯の美味しいピザ屋があったんだ。転勤で食べられなくなったのが残念だったんだけど――」

「っ! 先生、もう少しピザの話を続けたいのですが……どうやら、水の魔力素が漏れ出ている場所があるみたいです。今、実は地下水道以外で水の魔力素が多い場所を辿って歩いていたんですけど……」

「そうか、人工物から離れて行っているように思っていたが、天然の水脈を追いかけていたんだね?」

「はい。ちなみに後でそのピザ屋さんの名前教えてください」


 調査から二時間。どういう訳かカズキは他の人間の様子を見に行く事なく、延々とコウネとピザ談義をしていた。

 が、その間もコウネはしっかりと調査をしていたようで、今度は天然の水脈の痕跡を追いかけていたところ、その異常に気がついた。


「明らかに水の魔力素が増えて来ています。この先に水場が隠されている可能性が――」

「いや、どうやら廃墟のようだ。構造的に……これは焼却炉の跡だな。見てみろ、この廃墟、かなり古い石造りだが、明らかに高温で変質した痕跡がある。良く探ってみてくれ、火の魔力残滓や魔素があるはずだ」

「……確かに。もしかしたら石窯かもしれませんね」

「……ピザから離れてくれ。恐らく、元は大きな施設がこの場所にあったのだろうね。焼却炉だけが残されているのは、恐らくここだけ頑丈に作られていたから。耐熱性を高める為だろうな」

「……いえ、でも水の魔力素もここから溢れています。この廃墟、少し詳しく調べてみた方が良いかもしれません」

「……了解した。今通信で他の面々もこの場所に集合するように呼び掛けた。慎重に調査するように」


 その半ば崩れかけの廃墟で、コウネとカズキは慎重に崩れた瓦礫をどかし、内部へと入る。

 すると、かつては大きな焼却炉、その中心と思われる大きな炉のような痕跡の中で、何かが蠢くのを察知した。


「下がれコウネ君! 抜刀、戦闘用意!」

「はい!」


 炉の中で蠢く物。その正体は――


(´・ω・`)ピッツァ食べたい

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