第百九十八話
(´・ω・`)ヴァルキリーエリュシオンクリアしたら今度は黎の軌跡2
そしたらSO6も発売されてるだろうからやって……どうしよう、やるゲーム多すぎて幸せ
最初は訳が分からなかった。
気がつくと、俺は五歳の頃まで住んでいたイギリスのコベントリーの家で、よく分からないドラマを見ていた。
夢だと思った。俺は確かに日本の、静岡県に移住して、そこで大学に通いながらバイト生活をしていたはずなのに。
大好きなアニメのブルーレイBOXを買う為に、親にも言わずにアルバイトをしていたはずだ。
それなのに、俺はかつて住んでいた場所で、一九歳になってもまだ、全く知らない生活を送っていた。人生が変わっていたのだ。
「そうか……! これは異世界転生ってヤツなのか!」
気がついてからはもう、ありとあらゆる知識を手に入れた。大好きなアニメが放映されていない世界に絶望はしたが、それでもアニメのようなこの世界で自分は生きているのだと、すぐに絶望は希望に変化した。
幸い、恵まれた容姿を持っていた俺は、あふれ出る力とこの容姿で、瞬く間に人気者になる事が出来た。
だが、いくら強くなり、アマチュアのバトラー大会で戦果を残しても、周囲の評価は『これなら日本でも通用するかも』だ。
何故だ。ゲートに近い国に生まれる事がそれほどまでにアドバンテージなのか。
そんな物、俺が覆してやる。だがそれでも……まるで『この世界の主人公』のように活躍する一人の人物が『お前は主人公なんかじゃない』と言い聞かせて来るようで、俺は日々対抗意識を燃やしていた。
そして翌年――俺は今、ここにいる。
俺という主人公を、本当のヒーローを迎え入れた事により、あるべき世界に変わりつつあるここ、シュヴァインリッター総合養成学園に。
「今日はよろしくお願いしますね、キョウコさん」
俺はやはり選ばれていた。理想通りの展開となり、物語の舞台であろうSSクラスへの編入試験を受けているのだから。
入学式で分かった。このユウキという男は悪役だ。あのスピーチはまさしく傲慢そのもの。恐らく世間での英雄という評価も、何か裏があるに違いないのだ。
俺という真の主人公を呼び寄せる為のイベントに過ぎなかったのだ。
さぁ、最初の相手だ。恐らく攻略対象のヒロインの一人、カヅキキョウコが相手。
すぐにこの壊れた世界を俺が正そう。ここで、俺に負けても好感度を下げないでくれよ。
ここから……俺の物語が幕を開けるのだ。記念すべき最初の戦いの始まりだ。
まさか本当に来るとは思わなかったのですが、ディオス君によるSSクラス編入の為の七人切り企画が始まってしまいましたよ。
やべぇよ、ちょっと大ごとになって来て内心わくわくしてきたよ。キョウコさん的には厳しい相手なのかもしれないけれど。
「なぁ、あれが例の一期生なのか?」
「うん。キョウコさんだと勝てるか微妙だってカズキ先生が言ってたけど」
「キョウコは本来、前に出て戦うタイプじゃない。むしろ、キョウコが戦うような場面に陥った段階で、我々は敗北していると言える。カズキ先生は何故このような戦いを……」
それは俺も思う。最後尾にいるはずのキョウコさんに敵が辿り着く=俺達が敵に倒されているって事だ。
なら、戦わせるにしても、特殊なフィールドやギミックを用意するべきじゃないのか?
「分かりませんよ。キョウコさんは最近、私に魔法と剣術の戦い方について学んでいましたから。剣は使っていないようですが、体術ならば基礎的な物は一通り収めているようでしたし」
「キョウコちゃんの召喚獣? あの子も汎用性高いし、化けると思うんだよね、私も。もしかしたら先生、キョウコさんが一皮むける為にこの場を用意したのかも」
それはありえるな。あの先生、かなり教育熱心みたいだし。それに……どう考えても編入は出来ないって最初から知っているみたいな様子だったし。
まぁ俺が阻止するんですけどね。
「では、これよりディオス・エスペランサの編入を賭けた試合を始める。既に知らせてあるように、SSの七名全員に戦って貰い、その戦績や勝率、戦いの内容を吟味し、皆で彼の合否を決めて欲しい」
「と、言う訳です。先輩方が納得できるような戦いをお見せしますよ。……世界の広さを知ってください。上には上がいるんです」
おいみんな笑いをこらえるような顔をするな。
『何故笑うんだい? 彼の日本語はとても上手だよ』。
……ごめん俺も笑う。
それに……対峙しているキョウコさんは何かを感じ取ったのか、表情を引き締めている。
「では……試合開始!」
合図と同時に、キョウコさんの目の前に小型犬サイズの電気ハムスターの群れが現れる。
以前見た時とは明らかに大きさも数も進化している。だが――
「キュートですね! ですが……!」
走り抜ける。飛び掛かるハムちゃんズがディオスに触れた瞬間、まるで水に溶けるように消えてしまったのだ。
そのままディオスは二振りのダガーをキョウコさんに振るう。
「なるほど……確かにこれはやりようによっては……」
「僕に魔法は無駄ですよ。その可愛い魔法生物もね」
キョウコさんは、さすがに日頃から俺達の相手をしているからか、危なげなくディオス君の攻撃を回避する。
だが、彼も言うだけはある。確かに身体の使い方が、俺達の一期生の頃よりはずっと上手だ。魔力により動きの軌道を変化させる術も、空中で変則的な軌道をとる事も出来ている。
「へぇ、やるじゃないか彼」
「ああ。けど……キョウコの召喚獣が消えたのが不思議だな」
「うーん……タネが分かりませんね」
キョウコさんは、すぐにハムちゃんを再召喚し、彼の背後に回り込ませる。
すると、ハムちゃんが今度は直接向かうのではなく、電撃を放出し始めたのだ。
すっげ! まんまピカ〇ュウだ! いけ! ハムちゃん! 十万ボルトだ!
「無駄ですよ」
「……なるほど、どうやら完全に無効化されているようですわね」
「ええ。それが僕の能力です。魔力による外的干渉を完全にシャットアウトします。僕は『マジックイレイサー』と名付けていますよ」
うん、なんか……うん、何も言うまい。情報自分でばらすなよ、俺達見てるんだぞ。
すると、キョウコさんは戦法を変え、今度はハムちゃんを消し――
「では、検証するとしましょう。私はいわば先鋒ですからね。せいぜい情報を引き出しますわ」
「……なるほど、仲間をコマのように扱うのですか、皆さんは。やはり間違っている」
キョウコさんの全身が、うっすらと黄色いオーラを纏う。
まるで、はむちゃんの着ぐるみを着ているような……って、本当にぼんやりでっかいはむちゃんが見えるんだが!
「なにあれキョウコさん可愛い」
「ユウキ君、ああいう衣装が好きなんですか?」
いやだって……! クールなキョウコさんがぼんやりとはいえハムスターの着ぐるみみたいなの着てるように見えるんだよ!? めっちゃ可愛いじゃん!
そんな俺の感想を他所に、戦局が動き出す。
「っ! 速いですね」
「フッ!」
まるで、カイのように雷光を纏うキョウコさんが、段々とディオスを圧倒する。
ところどころ打ち込まれるキョウコさんの打撃が、微かにダメージを与えているのが分かる。
だが、それだけだ。たぶん電撃を直接体内に打ち込んでいるのだろうけど、それすらも無効化されている。
つまり、女子の力で殴られているだけなのだ。ダメージはほぼ通っていない。
だがその反面、ディオスもキョウコさんを全く捉える事が出来ないでいる。
これじゃ千日手、勝負がつかない。
「なるほど……私の課題が見えてきましたわね。武装による攻撃力増加も視野にいれて考えなければ……」
「やりますね! どうやら、魔術師タイプでなく最速のアタッカーだったようですね。ですが、僕を倒すには……残念ながら威力不足だ」
「ええ、そのようです。このままもっと野蛮な攻撃に移るのは私の美学に反します。先生、私はここで棄権しますわね」
「ん、認めよう。試合終了! この勝負、ディオス・エスペランサの勝利とする!」
なるほど、キョウコさんは勝ち以上の戦果を手に入れた訳だ。
なるほどなぁ……魔力無効化。これは攻撃のダメージソースを魔法に依存しているコウネさんにとってもやりにくい相手だな。
え? セリアさん? いや、たぶん物理で押しつぶしちゃうからこの人。
「良い勝負でした。このまま続けていたら、いずれ僕に動きを捉えられていたでしょうね。良い判断です。これで、少なくともキョウコさんは僕を認めてくれますよね?」
「……そうですわね、少なくとも私よりは強いと認めましょう。それと、出来れば名前では呼ばないで頂けると嬉しいですわね。親しい人間にしか許可はしていないので」
「これは失礼。ではカヅキさん。来学期前には転入出来そうですので、どうぞよろしくお願いしますね」
うーむ……キョウコさん機嫌悪いなこれ。俺に言わせたらあの勝負、もしもキョウコさんが手段を選ばなければ……腰に付けてる護身用のナイフ形デバイスで決められていたと思うんだけど。
例えば、電気で赤熱させて、それで攻撃したら魔法関係なしに大やけどだってさせられそうだし。最悪目つぶしだってなんだって選べた状況なのに、あくまで魔法による打撃を検証しているようだったし。
「キョウコさんお疲れ様」
「ええ、戦闘以外の理由で疲れてしまいました」
「はは……はい、これ。イクシアさん特製ドリンク。持ってきたんだ」
「まぁ、嬉しいですわね。頂きます」
機嫌直してください……。
すると、せっかく機嫌を持ち直したキョウコさんの目つきが鋭くなる。
む……あ、ディオス君来たディオス君。お前ちょっと恥ずかしいからこっちこないで。
「どうでしたか皆さん。このまま全員と戦う道を選んで良いのですか? もう、僕がこのクラスに相応しい事は分かったと思うのですが」
さすがにウザいっすね。追い払おうと俺が動くと――
「ん-、次の相手はたぶん私ですから、しっかり戦ってくださいな。面白そうな催しなんですし。ただ……正直まだ特に光る物は感じませんねー。私の母校にも貴方くらいの人はいましたし」
「……そうですか。では、また次の試合でお会いしましょう」
コウネさんが先んじて動く。どうやら、彼女の琴線に触れてしまったようだ。
「私の嫌いなタイプですねー、彼。ああいう子は嫌という程見てきましたからね。騎士の学校というのはほとんどが英才教育を受けた名門出の生徒でしたから、ああいう手合いは多いんですよね」
「なるほど。で、コウネさんは勝てそう?」
「もちろん。キョウコさんが見せてくれたお陰で、攻略法は分かりました」
「ふふ、それはよかったですわ。私よりも、むしろコウネさんの方が苦戦するかもしれないと思いましたが、動きのレベルはあの程度でしたから」
「ええ。しかし驚きました。まさかカイみたいな動きが出来たなんて。それに、先程ユウキ君がしきりにキョウコさんの事を可愛い可愛いと言っていましたよ」
あ! ばらさないで!
「な……可愛いですか?」
「……はい、正直はむキョウコさん可愛いです」
「そうですか」
ごめんなさいもう言いません。
「それにしても、不思議な体質というか……たぶん武器のインヒレントスキルみたいなヤツなのかな? ちょっとあれは厄介かもね。私の場合手札の半分が抑えられてしまうような物だし」
「セリアさんはその半分で圧勝出来るでしょ。正直使い手があれじゃどうにもならないよ。カズキ先生、明らかに『変わったサンドバック手に入った』程度にしか考えてないよ」
そうですよね? さっきからニマニマしてこっち見てるし。
「はっはっは! 正解だ! どう考えても彼は三期生の君達SSにはついてこられないだろう。と、いうよりも既に『成長の限界』だ。やはりこの学園に来てから、彼の身体に魔力による変化、スペックの上昇は見当たらない。精々技術を学ぶくらいでしか役立てないよ、この学園は。……それに、あの在り方は近い将来身を亡ぼす。そうなる前に一度、君達に現実を教えて貰おうと思っていたんだよ。……生徒は等しく、導かなくてはいけないからね」
……マジかよ。カズキ先生聖人君子かよ。俺なら現実を教えるどころか完全に心折りにかかるよ普通に。
「しかし、これでキョウコ君の課題が見えて来ただろう? 現在君に与えた課題、精霊種の使役の幅を広げるという課題だが、平行して体術による戦闘と、今見せた精霊種によるブーストを鍛えていく。半年もすれば……今の彼程度なら瞬殺出来るだろう。俺が保証するよ」
「ええ、そう願いますわ。カズキ先生、正直私には戦闘力は必要ないと思いましたが、考えを改めます。時に弱さは罪になる」
「そうだね。そう思えるようになったのなら、この舞台を整えた甲斐があったという物だよ」
先生は本当に『真っ当に先生』をしているなぁ……。
こうして放課後に行われた、ディオス君編入試験の第一戦が終了した。
勝てた。正直消化不良ではあるが、勝てた。やはり俺の力はここでも通用する。
だが……どうやら、勝っただけではフラグが成立しないようだ。たぶん、俺が編入するまではダメなのだろう。
が、そもそも上級生よりも同級生の方が攻略も楽なはずなのだし、ここで焦る必要などないのだ。
俺は、間違いなくこの物語のヒロインであろう未来の彼女候補に明日も声をかけるべく、脳内でシミュレーションを行いながら寮に戻るのだった。
「芸能人で異世界人なんて、まさしくヒロインだよな。アリアさんか……あまり見かけないけど、明日はちょっと追いかけてみようかな」
ううむ……さすがに連日イクシアさんに負担をかける訳にはいくまいと、今日は初めて自分でお弁当を作ってみた訳だが……なんか地味! 全体的におかずが茶色い!
「イクシアさん、これどう思いますか?」
「美味しそうです、私も食べたいですユウキ」
「はは……ありがとうございます。ただ、彩に乏しいんですよねー」
「ふむふむ……そうですね、この生姜焼きと肉団子の間にレタスを間仕切り代わりに入れて……プチトマトをもう少し。おにぎりも薄焼き卵で包んでみてはどうでしょう?」
「なるほど……すみません、薄焼き卵だけお願い出来ますか……?」
「ふふ、了解です」
そうして出来上がったお弁当を持参していざ登校。
もう少しすればまた学食で食べられると思うんだけどなぁ。
今日の講義は『古術学』だけだ。今期初の古術学だが、実は先生に少し質問があるのだ。
古術担当の『ジェニス・ランドシルト』先生について聞きたい。実は……以前、イクシアさんを追ってセミフィナル大陸へ向かった際、向こうの警察組織であるシュヴァインリッターの責任者の家名がランドシルトだったんだ。
向こうで家名は同じなのって、基本親戚筋でしかありえないという事なので、知り合いなのかと聞いてみたいのだ。
「相変わらず代わり映えしない面子ですな!」
「ふふ、確かにそうですわね。この講義を受ける人間は私達くらいでしょう」
「だが、実際ここで得られる知識は興味深い物ばかりだ。今年最初の実務研修は国内という話なのだし、ここで国内の逸話、過去の伝承を再び学んでおくべきだな」
相変わらず我がクラスから三人、俺と一之瀬さんとキョウコさんの三人。
「先輩方は今年も実務研修があるのですね。進学や就職活動もあるのに激務ですよね」
「進学かー……それもありなのかなぁ」
実は、一応この学園にも特設されている大学院のような物がある。
だがその実、半ば研究者として働く事になる為、進学できる人間は一桁しかいないという。
だったら、俺は普通に卒業してどこかに旅に出たいなぁ……。
考え込んでいると、教室の扉が開かれ、なんといつもよりも幾分目つきがシャッキリしているジェニス先生が現れた。
「みんな来ているわね? 相変わらず受講者は四名……と。はい、では皆さんお久しぶりです。SSは講義どころではなかったし、特にササハラ君は大変だったでしょう。ホソハさんも留学していたし、去年は割と暇だったのよね」
「先生、なんかいいことありました?」
話し方もハキハキ、これは間違いなく良いことありましたわ。
「ふふ、特にないわよ? ただ私は心を入れ替えたのよ。良き職員、教員として自覚が芽生えたの。そう、誰かのお手本になるようなそんな先生に……!」
「お、おお……ジャニス教諭、見直しました。昨年度までも学ぶべきことは十分に学べましたが、今のその姿勢はとても頼もしく見えます」
「そうでしょうそうでしょう! きっと新任の先生だって頼れる先輩だと思ってくれるでしょう」
「……そう、かもしれませんわ。ふむ?」
なーんか裏がありそうなんだよなぁ。あ、そうだ質問。
「先生、ちょっと質問良いですか?」
「何かしら? なんでも聞きなさい」
「俺、事件でセミフィナル大陸に行ってたんですけど、今の向こうのシュヴァインリッターの総帥さんって、ジェニス先生の親戚だったりします? 家名が同じだったので」
そう質問をすると、露骨にジェニス先生の表情が曇った。
「うぇ……ササハラ君うちの父に会ったの……?」
「あ、お父さんだったんですか。いやぁちょっと話しただけですよ」
「ちょっと話せる立場の人間じゃないんだけど……聞かないでおくわね。絶対危ない話だろうから」
「ははは……すみませんでした」
なるほどなぁ。もしかしたら今のシュヴァ学とも関係があって、その縁もあってジェニス先生もここに就職したのかもしれないな。
「じゃあ講義を始めるわよ。去年は途中でこの教室閉じちゃったから……何かリクエストある?」
「あ! じゃあ日本国内の伝承、フォークロア(都市伝説)関係の話が聞きたいです」
さぁ、今日も情報を仕入れましょう。俺、この講義好きなんだよなーなんだかんだ。
「じゃ、今日はこれでおしまい。次回は二日後の午後ね。そろそろ五月に入るから、予定表の提出もお願いね」
講義を終え、今日も第二校舎の屋上庭園に向かう。そうだ!
「ホソハさん。俺今日も屋上庭園でお昼食べるんだけど、一緒にどう? たぶん他にも友達来る予定だけど」
「あら、良いんですか?」
「そういえば、最近よく集まっているんでしたわね? 私もお邪魔しようかしら」
「勿論。一之瀬さんは今日も来る?」
「あ、すまない。実は今日は学食でカズキ先生に相談をする予定なんだ」
「なるほど。じゃ、また今度」
最近、一之瀬さんは熱心にカズキ先生の指導を受けているし、こりゃうかうかしていられないな……。
キョウコさんとホソハさんを連れて屋上庭園に向かうと、どうやら今日はまだ誰も来ていないようだった。
東屋に陣取り、お昼ご飯を広げ始める。
「今日は半分俺が自分で作ったんだ」
「へぇ、ユキユキ先輩料理出来たんですね」
「ユ、ユキユキ……? ササハラ君、そう呼ばせているんですの?」
「ち、ちがうよ!? この人毎回別な呼び方して遊んでるんだよ! 前なんて『ササユキ先輩』だったし」
「ふふふ、オンリーワンな呼び方を模索中なんですよ」
今日はオムライス風おにぎりと、鶏肉団子。イクシアさんが持たせてくれた山菜の天むすと、ナスのゼリー寄せです。なんかあまり知らない料理が混じっているけど、BBちゃんねるで紹介していたらしい。曰く『ナス農家が急に沢山ナスを出荷している』とかなんとか。
「ではこちらを頂きますわね。オムライスのおにぎり……」
「コンビニで売ってるの真似してみたんだ。ただ卵の部分はイクシアさんに焼いてもらったよ」
「あ、じゃあこれと交換しましょうユキユキ先輩。はい、これ私が作ったポテトサラダです」
「おー美味しそう。ホソハさんって寮生じゃないんだったよね」
「はい。だからお弁当は良く作るんですよ」
「あら……ササハラ君、このチキンライス美味しいですわよ? なるほど……私もたまにはお弁当を作ってこようかしら……」
嬉しい。自分が作った物を褒められるのってかなり嬉しいぞこれ。
そうして食べ始めていると、カナメとコウネさんがやって来た。
「あ、もう食べてる。ふふ、今日も僕は菓子パンだけど、それだけじゃないよ。はい、お土産」
「おお? あ、なんか高そうな焼き菓子」
「いつもみんなに貰ってばかりで悪いからね、奮発したよ」
「私は、今日はケークサレを焼いてきました。あら? ええと、初めまして、ですよね?」
「あ、本当だ。初めまして。もしかして別なクラスの友達かな?」
「あ、ホソハさんは俺と一之瀬さんと同じ講義を受けてる二期生なんだ。ちなみにSSクラスに編入していたかもしれない『本物の優等生』です」
そうそう、ホソハさんとナシアはマジで入学の時に二期生だった俺達に合流する形でSSに配属される可能性があったんだ。
つまりディオスはそういう措置が提示されなかった以上、劣っている?
それとも要注意人物だからなのか?
「そういえばカイは?」
「ああ、カイならカズキ先生のところだよ。たぶんアドバイス貰いに行ったんじゃないかな」
「なるほど、カイもか」
やったね一之瀬さん。
「それにしても、今日はアリアさん来ないのかね?」
「もしかして、同期生で仲のいい子が出来たんじゃないかな? その方が健全で喜ばしいと思うよ」
「あら? ユキユキ先輩、他にも後輩さんを?」
「あ、うん。新入生で少し知り合いになった子をね」
噂をすれば影が差す。そう話していると、屋上の扉が勢いよく開き、アリア嬢が駆けて来た。
「お、おくれました……!」
「お、いらっしゃい。今日もお疲れ気味だね?」
「え、ええ。セリア先輩も急いでこちらに」
「分かった分かった、たぶん大丈夫だよ、もう」
「ありゃ、セリアさんまで」
何やら少し慌てた様子のアリアさんと、お疲れ気味というか、少し呆れた感じのセリアさん。
何があったのだろうか?
「アリアちゃんがさ、誰かにつけられてるーって言うから、私が回り道を教えてここまで来たんだ。気のせいだと思うけどなー、一応探知の魔法使ったけど反応なかったし」
「いえ、間違いありません……私、視線には敏感なんですから」
むぅ……やっぱり芸能人は大変だな。あまり問題行動が過ぎるとそれこそ停学でも喰らってしまいそうなのに。
「ま、さすがに友達グループで昼食中に割って入るなんて空気の読めないヤツじゃないでしょ」
「……ユウキ君、去年の事忘れたんですか?」
「ああ、あのユウキのお弁当馬鹿にした一期生だっけ」
ああ、いたなぁナシアのストーカー。たぶんあれほうっておいたら性犯罪者にでもなってたんじゃないか?
今どうしてるかは知らんけど。きっと俺が有名になってさぞや面白くないのだろう。
「え? そんな自殺志願者がいたのかい? 僕そんな面白そうなイベント知らないんだけど」
「面白くないです。あの時だって結構こっちはギリギリだったんだからな」
「ふむ……ユウキ先輩も苦労していたんですね。私もいつまでも先輩方に甘えている訳にはいかないですよね……」
そう申し訳なさげなアリア嬢。お耳ペタンとしてて可愛いですな。
が、ご飯食べて笑えば元気になるよ! の精神で、頂きましょうか。
「アリアさん、油揚げ好きだよね、案の定」
「案の定……? 確かに大好きですけども。ユウキ先輩、どうです?」
アリアさんは、今日は油揚げに餃子の具を詰めて焼き上げた料理を持ってきてくれた。
非常に美味でございます……揚げにほのかな甘い味が染みていて、中の具がネギとショウガの良い香りで……マジで料理上手だな。コウネさんも唸ってるぞ。
「良いアイディアですね……今度私も真似してみましょう」
「ハムとチーズを詰めてカリっと焼いても美味しいですよ、良い晩酌のお供です」
「あ、そっか。年齢的にはもう飲んで良いんだよね」
「年齢の事は言わないで下さいよー」
さすがは長命種。しかしハムチーズか……美味しそう。
「あ、そうだ。ハムといえばキョウコさん、前に見せてくれたハムちゃんモード可愛かったよね。それに召喚したハムちゃんズも大きくなってたし」
「ハムちゃんモードって……ええ、しっかり訓練を積んでいますから。休日はずっと召喚したままで維持出来るように訓練もしていますわよ」
「じゃ、じゃあ今出せたりする?」
「ええ、勿論」
すると、テーブルにポンっと電気ハムスター(大)が現れた。
可愛い……! 思わず抱き上げ膝に乗せる。
「可愛いなぁお前は……よーしよしよし。キョウコさん、こいつご飯は食べられないの?」
「ええ、主に電気と魔力が主食ですから」
「あ、じゃあこれ食べるかな?」
するとセリアさんが指先に小さな雷をともす。
すると、ハムちゃんがパクっとそれに飛びついて口に含む。
「可愛いかも。いいねーキョウコの召喚獣」
「ねー、本当に羨ましいなー」
ちょっとぱちぱちするハムちゃんを抱きかかえながら、今日も今日とて平和な一日が過ぎていく。




