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パラダイスシフト ~ある意味楽園に迷い込んだようです~  作者: 藍敦
十五章

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第百九十一話

(´・ω・`)いやー神ゲーですなぁ(予言


「以上が、今年度入学が決定している生徒の詳細データです」

「なるほど……これは、幸運と言うべきか、それとも不幸と言うべきか。……出来れば、昨年度の内に入学して貰いたかったのですが」

「……それは、どういう意味でしょうか」


 学園理事長室内。そこでリョウカは、秘書の女性と密かに言葉を交わしていた。


「ナーシサス様。アメノさん。それに……この子がいれば、クラス成立の最低人数である三人をクリア出来ていましたから」

「……つまり、SSクラスを廃止する必要がなかったと。この人物があの二人の生徒や今のSSに匹敵する生徒だと?」

「間違いないでしょう。それに……彼は厳重監視の対象になります。かつてのユウキ君同様」

「……了解しました」


 その資料に書かれていた名は『ディオス・エスペランサ』。

 スペイン語で『希望の神』を意味する、大仰な物。

 シュヴァインリッター初の、日本人以外の地球人の入学であった。








「こんにちはー」

「お、来たなユウキ君」


 やってまいりましたホワイトデー前日。ヨシキさんの店にやって来た俺は、四日前に仕込んだお菓子の様子を訊ねる。


「ほら、もう作業場に置いてるぞ。文句なしの出来だ」

「おお……これを俺が……」

「中々良いカットだったんじゃないか? 本当に水晶みたいな結晶に見える」


 ヨシキさんの言う通り、淡い緑や青の宝石のような琥珀糖が沢山出来上がっていた。

 ……なんかヨシキさんの方にすっごいでかい、握りこぶし大の青い琥珀糖があるんですが。


「ああ、それか? R博士にあげる奴だよ。彼女は青や氷が好きなんだ」

「へぇ……なんか凄い綺麗ですね」

「念入りにカットして、乾燥のタイミングで形が歪にならないように毎時間調整したからな。正直二度とやりたくない」


 確かに! なんでそんな面倒な事を……。


「あれ、こっちは? 琥珀糖とは少し違うような……」

「そっちはもう一人の妻に渡すんだよ。リキュールボンボンだ」

「初めて聞きますね、それ」

「そっちは正直俺も初めて作ったから、かなり試作を繰り返した品だぞ。ちなみに中に液体のままのリキュールが閉じ込められているから、食べちゃダメだぞ」


 マジで!? なん琥珀糖に似てるけど、こんなのにどうやってお酒を閉じ込めたんだ……?

 そうして、後はラッピングを済ませて、イクシアさんへのホワイトデーの贈り物の完成だ。


「ヨシキさん、本当にありがとうございました」

「いや、礼を言われるようなことじゃないさ。むしろこっちが迷惑をかけたからな、せめてものお返しだ。来期からは多少は君を取り巻く環境も落ち着くだろう。どうかこれからも正しくあってくれよ」

「はは……何が正しいのか、イマイチ分からないんんですけどね」


 そうして、今日はこの後イクシアさんと買い物に行くからと、足早にお店を後にするのであった。








「もう帰っちゃったの? ユウキ君」

「ありゃ? なんだいたのかリュエ」

「うん、ずっと寝てたよ?」

「気がつかなかった……あまりこの町には近づかない方が良いぞ?」

「うーん……まぁそうなんだろうけどね。あ、それ私にくれるヤツ!?」

「正解。琥珀糖リュエ専用モデル。色付けには植物由来の天然色素、リキュールにはベリィ系とレモン系、爽やかで単独で食べても美味しい飽きない味つけだ」

「おお……! うわぁ……食べるの勿体ないなぁ……飾っておきたいなー」


 お店の居住部分からやってきたR博士ことリュエは、自分の物になるお菓子を目にし、瞳を輝かせる。


「これ、ユウキ君も作ってイクシアちゃんに渡すんだね。絶対喜ぶよ」

「だと、いいな」

「……ねぇ、本当にユウキ君と深く関わるつもりなのかい?」


 今の今まで、無邪気に顔を輝かせていたリュエが、唐突に表情を消し去り、神妙な声で問う。


「……ああ。俺も、共に痛みを伴う為に」

「その努力は間違ってるんじゃないかな? もっと他に頑張るべき事があるんじゃないかい?」

「だがそれは不確定な上に俺の領分じゃない。なら俺は……」

「優しいのか冷酷なのか分からないよ、ヨシキ。……なら、私が頑張る。私は不幸な結末なんて認めない。ヨシキがそういう方向で頑張るなら、私は別な方法で頑張る。ユウキ君もイクシアちゃんも、幸せになるべきなんだ」

「俺だって……そう願うさ」


 二人は、静かに口論をかわし互いに決意する。

 何を意味し、何を成すのかは、まだ闇の中。








 ヨシキさんのお店に俺が通っている事は、まだイクシアさんには秘密だ。

 最後の最後でお菓子を渡して驚かせたいからな!

 既に琥珀糖はお洒落なビンに詰めてリボンで装飾済み。後は渡すだけの状態だ。

 明日、朝一番で渡す事を想像しながら、今日一日を無事に乗り越えよう。

 見つかったらいけないからな、しっかり隠してある。具体的に言うと俺のデバイスの元々のケースの中にあります。

 たぶん、俺以外絶対に手出しできません。厳重保管です。

 そうして、俺はイクシアさんと共に今日も今日とて家の日用品を買い足しに、都心部へと向かうのであった。

 ……いやぁ……半年家を空けるって、結構大変な事なんだなぁ……毎日何か足りない物が見つかるなんて……。






 ついにやって来ましたホワイトデー当日。七時に目覚めた俺は、プレゼントの包みを持ってリビングへと向かう。

 既に朝食の準備を終えたイクシアさんが、料理を持ってくるのをそわそわと見届ける。


「ユウキ、昨日から何やら少し様子がおかしいですよ? 今朝なんてそんな目に見えてそわそわして……何か、相談したい事があるのでしたら、遠慮なくしてください。私はユウキの家族なんですから」

「あ、気付かれてましたか? ……実はですねぇ……」


 イクシアさんが、俺の次の言葉に備えてゴクリと喉を鳴らす。

 ああ……ごめんなさい、そんな顔させたいんじゃないんです。

 俺はテーブルの下から、ビンを包んだ綺麗な小袋を取り出す。


「はい! イクシアさんにバレンタインデーのお返しです! ホワイトデーっていうんですよ今日」

「まぁ……! それでそわそわしていたんですか? もう……なんといじらしいのです、この子は……!」

「ぐぇ」


 今、イクシアさんワープしなかったか!? なんか一瞬で横に現れて凄い勢いで抱きしめられてるんだけど……!

 苦しい……柔らかい……! 良い匂い! 具体的に言うとベーコンエッグ焼いた匂い!


「最近、様子がおかしかったのはお返しを探していたからなのですね……! ユウキ、そんなに気を使ってくれて……」

「いやー実はちょっと違うんですよね。それ、なんと俺手作りのお菓子なんですよ! ヨシキさんのお店で一緒に作っていたんです」

「まぁ! なんということでしょう……! 嬉しいですユウキ、とても嬉しいです」

「ほんとは毎日様子なんて見に行かなくてもよかったんですけど、ついつい気になっちゃって」


 いや、実は毎日『どんな様子ですか』って聞きに行ってたんですよね。

 お恥ずかしい。


「開けてみても良いですか?」

「どうぞ!」


 淡い黄色の布の小袋に、水色のリボン。

 それを解くと、中から口の広い小瓶が取り出せる。

 その中には……。


「まぁ……! なんて綺麗なのでしょう……これ、まさか琥珀糖ですか?」

「あれ? イクシアさん知ってるんですか、このお菓子」

「はい、BBチャンネルで先日見ました。なるほど……ユウキもあの動画を見て、作ろうと思ったのですね! 凄い……こんなにきれいで色とりどり……形も良いです、動画よりもずっと出来が良いです!」


 いや、まぁBBもヨシキさんも同一人物だから……きっかけって意味なら、動画を見たのと変わらないかな?


「はぁ……こんな綺麗な物をユウキが私の為に……本当に嬉しいです……食べるのが勿体ない……」

「だめです、ちゃんと食べてくださいね? 紅茶に合うってヨシキさんが言ってましたよ」

「ふふ、分かりました。では朝食が済んだらお茶にしましょう?」


 物凄くイクシアさんの顔がとろけて、頬まで赤く染めて、なんかこう……凄いぐっと来ました。

 やばいな……イクシアさん可愛すぎか。絶対いつか結婚したい。




 午後の紅茶ならぬ午前の紅茶。

 先日俺がおつかいで買って来た茶葉を使い、イクシアさんが淹れてくれた紅茶を頂く。

 お茶菓子には勿論琥珀糖。あ、そういえばまだ味見してなかった。


「これ、イクシアさんの瞳をイメージして作ったんです。薄い緑なんですけど」

「本当にユウキは私を喜ばせる天才です。ふふ、では頂きますね」


 シャリっと、もちっと。独特の食感と共に甘さが広がる。

 色付け香り、味付けにミントリキュールを使っているので、紅茶がまるでハーブティーのような風味になる。


「美味しい……私は幸せ者ですね」

「はは……大げさですよ」


 幸せ者は俺の方ですが? 何この幸せ空間。

 が、そんな幸せ空間に水を差すチャイムの音が。


「俺が出ます」


 はて、宅配便の予定もなければ、来客予定もない。

 ここ、割と辺鄙な場所だから、殆どお客さんもこないんだけどな。

 もしかしてクラスの誰かだろうか?

 モニターで外の人間を確認してみる。

 だが、そこにいたのは……信じられない相手だった。


「ええ!? なんで!?」


 思わず大きな声を出してしまう。すると驚いてイクシアさんもやって来た。


「ユウキ、どうしたんですか!?」

「いや……その……」


 モニターの外には、またしても誰も映っていなかったのだ。

 つまりそれは『小さい子』が来たと言う事。その小さい子というのが――


「たぶん……初代聖女様だと思います……あの時、お城で変装していた時の姿で来てます」

「まさか!?」


 すぐさま玄関を開けると、やはりそこにいたのは見間違いではなく――


「いやはや、突然すまんね。こっちに来たから挨拶でもしておこうかと」


 ナーシサスの代わりに身体を動かしている、初代聖女様……の別人格。

 一応、初代聖女と同じ名前で呼ぶように言われている相手、ダリアさんだった。


「な……なぜ地球に……?」

「まぁ色々あってな。中に入れて貰えないか? 変装はしているが、一応立場が立場なんで」

「あ、すみません! どうぞ中へ」


 ふと、イクシアさんの方を見てみる。

 ……ダメだ、完全に言葉を失って目を白黒させてる。

 曰く、一応俺の家に来た時のナシアの記憶も持ち合わせているらしく、案内はなくてもしっかり居間へと向かい、ソファに腰かけていた。


「いやー……寒いな! 海上都市の冬甘く見てたわ! まぁ海の上だもんな、三百六十度海風が押し寄せて来るのかね?」

「どうなんですかね? でも確かに本土よりは気温、低いみたいですよ」

「あーやっぱり?」


 ……なんでこんなに馴染んでるの! 俺もなんか凄い自然に会話出来てるし!


「それで、ここに来た経緯なんですけど……」

「事後処理兼、そっちが気にしてるような事を伝えに来たってところかね。それと……まだ身体を動かす事は出来ないが、うっすらとナシアの意識が目覚めてきているんだ。この子は学生でいたいって、地球に戻りたいって強く願ってるみたいでな。だからせめて俺が地球に移動しておいたって訳だ」

「ナシアが……そっか、よかった……回復してきているんですね」

「すべてのリソースをこの子の回復に回してるからな」


 そっか、ナシアが目覚めつつあるのか。

 目覚めた時、すぐに復学出来るようにあらかじめ準備をしているって事なのかね。


「それで、こっちが気にしている事についてって?」

「ああ、USMの連中の処遇や、今後のセリュミエルアーチの方針について、だ。表には出せない情報も、一応お前さんには伝えておいた方がいいだろうって」

「なるほど……じゃあUSMについて教えて貰えますか?」


 そもそも、USMって俺の記憶が確かなら……秋宮と繋がりがあるどころか、お抱えの私兵団のようなポジションだったのではないか? まぁ実際は違ったみたいだけど。


「そうだな。発足当初は秋宮……いや、正式には秋宮リョウカの個人的な私兵という立ち位置だった。だが彼女が秋宮の総帥となり地球に居を移した時、すでに袂を分かっていた。それでも元々の関係もあり、ある程度の交流は秘密裏にはあったみたいだな。が、USMはその活動を徐々に過激な物としていき、秋宮はその存在を表沙汰には出来なくなっていった。一部の幹部や幹部候補はその存在を知っていたみたいだがね」

「なるほど……だから今でもリョウカさんと関りがある、と」

「で、今回の連中の働きはあれど、地球であいつら、核に手を出す事も視野に入れていたってお前さんが発表しただろ? もう、メンバーの地球入りは不可能だと思った方が良い。まぁ例外としてリオスティル嬢は問題なさそうだが」

「あ……あれって不味かったですかね……」

「いや、これは必要経費だし、実際俺としては連中は危険因子に変わりない。行動の制限くらい掛けておいた方が良いさ」


 そうダリアさんは言うが、やはりお世話になった手前、恩を仇で返してしまった感があるな。


「……ユウキが気に病む必要はありません。少なくとも……あの首魁、ロウヒさんは本来裁かれるべき人間です。ユウキの為に私が手を下す事はありませんが、本当なら私がこの手で……!」

「イ、イクシアさん……」

「ははは、しっかりお母さんをしているようで何よりだ。……前回はしっかり挨拶が出来なかったが……久しぶり、あるいは初めまして、イクシアさん」


 すると、ダリアさんが少し改まった様子でそう口にした。


「はい……あの、貴女は……聖女ダリア様、で良いのですよね? 『本当の意味』で」

「ん-……まぁある意味ではそうなるか。話が見えてこないだろうがユウキ少年にも説明するとだな『俺が聖女ダリアのオリジナルの人格』に最も近い存在なんだ」

「え、そうなんですか?」

「『らしくない』だろ? だから、俺は徐々に皆の良く知る『聖女ダリア』の人格を生み出し、俺は消えていった。その影響なのかね、聖女ダリアは『人格と魂を自分の内に新たに宿す』事が出来るようになった訳だ。ナーシサスはその最も新しく生まれた人格なんだよ」

「なるほど……じゃあ、久しぶりっていうのは……やっぱり生前のイクシアさんと関りが?」


 どうにも、イクシアさんがこのダリアさんに対して、どこかかしこまっているというか、緊張している様子なのがひしひしと伝わって来るのだ。


「彼女を産婆として取り上げたのも、名前を付けたのも、全部俺だ。俺の管理する施設で教育も受けていたはずだ。まぁ覚えていないだろうが、それでも一度再開した事もあるんだよ」

「……はい。私は生前、生まれた場所で英才教育を受けていました。お久しぶりです、ダリア様」

「……また、母親になれたんだな。しかも、その息子に俺も国も救われた」

「はい。……なんだか不思議ですね」

「ま、あまり昔の話題は出すべきじゃないな、今ここにいるのはあくまで『イクシア』だ。それじゃ本題に戻るぞ。今回の件でセリュミエルアーチは、本格的に地球との親交を深めようと動き始めている。今、手始めにファストリア大陸とここ海上都市に国営の商会を立ち上げようと動いているんだ」

「おお! なんかどんな影響あるか分からないですけど凄い事なんですよね?」

「ま、面倒な手順すっ飛ばして取引、交流が出来るようになるかもって話だ。俺は政治には直接関わらないから、あまり深い話は知らないんだがね」


 ふむふむ、そうなると魔法の品がよく出回るようになるかもしれないとか?


「そうだな、実はあまりユウキ少年には関係ない話だな、これは。じゃあ次、君に対する謝礼についてだ。言葉だけで済ますって話じゃない。具体的な話だ」

「え、なんか貰えるんですか?」

「まぁ今回活躍したのはシュヴァインリッターSSクラスの人間がメインだからな、学園に対する恩賞がメインだが、流石にお前さんには直接褒美があるぞ」

「ど、どんな……?」


 ちょっと国からのお礼って凄い惹かれるんですが……。

 でも、お金なら正直困ってないんだよなぁ……。

 こう、魔法とか道具とか、そういう物だと嬉しいのだけど。


「まず第一に『王家直属の騎士団への入隊許可』になる。これはまぁ簡単に言うと『卒業後に進路に困ったら我が国で特別待遇で雇いますよ』って話だな。強制じゃないから安心すると良い」

「うお……思いのほかすごいお礼だった」

「まだまだあるぞ。『セリュミエルアーチにおける名誉騎士の称号を授与する』これはある程度の身分、地位の保証と、一生ある程度のお給金が支払われますよって話だ。はい、なんか適当に渡す事になったがこれ勲章な。着けても良いし部屋に飾ってもいいぞ」


 そう言うと、ダリアさんは深い青色の小箱を差し出してくれた。

 蓋を開けると、そこには木の形が掘られたレリーフ、バッジが収められていた。


「まぁ国からはこのくらいだな。後は……後はそうだな、ナシアが目覚めたら直接聞いてくれ。まだたまにぼんやり意識が目覚める程度だから、もう少しかかっちまうだろうが」

「分かりました。ありがとうございます、わざわざ来て頂いて……あの、理事長にはもう?」

「ああ、さっき挨拶だけな。いいんだよ、どうせこの後裏の町に用事もあるんだ、物のついでさね」

「いや……ついでで済ませられる内容じゃなかったような」

「それじゃ、そろそろおいとまするかね。お茶の時間を邪魔して悪かった」


 あ、そういえばそうだった。ホワイトデーの至福の時間を過ごしていたんだった。

 衝撃で全部忘れてた……。


「ああ!? 申し訳ありません、お茶もお出ししないで……!」

「いや、本当気にしないでくれ。物渡して伝言伝えるだけだったから。お前さんが……幸せならそれで俺は満足だよ。あえてこう呼ばせて貰うが……『イクス』さんや」


 すると、ダリアさんがイクシアさんをそう呼んだ。


「お前さんは、親として、人の上に立つ者として、多くの子や人に慕われて生きて来た。けれども、それと同じくらい……お前さんを『一人の子』として、愛し、慈しみ、大切に思っていた人間も大勢いたんだ。俺もその一人だ。だから……それだけは忘れないでくれ。『自分は親だから』を理由に無理な事をする時もあるだろうさ、けれども、同時にお前もまた『愛すべき子供』なんだ。絶対、誰かに相談する事を忘れないでくれよ」

「ダリア様……ですが、今の私には……」

「はは、まぁそう思うよな。だが、少なくとも俺も、リョウカもいる。まぁもうすぐナシアに戻ってしまうが、相談して損はないだろうさ。……それに、お前の親はいつだってお前を見守っている。人の親ってのは案外そういうもんさ」


 そう最後に言い残し、ダリアさんが家を後にした。

 イクシアさんの生前に深く、深く関わった人。今の人格になる前にも、一度初代聖女様にはイクシアさんの話をあの島で聞かされた。

 そうだ。イクシアさんは親であると同時に、誰かの大切な娘でもあるんだ。

 俺も守られるだけじゃダメなんだ。甘えっぱなしじゃダメなんだよな。


「……なんだか、凄く驚いてしまい、色々と抜け落ちてしまいました……紅茶、淹れなおしてきますね」

「あ、手伝います。……イクシアさん、生前の知り合いに会えて嬉しかったですか?」

「知り合い……と呼ぶにはあまりにも雲の上の方でしたので……ですが、ありがたいお話も聞けましたし、今でも私の事を思っていると知れたのは……素直に嬉しいです」


 よかった。

 そうして、突然中断された至福の一時を、もう一度やり直す。

 今度は、さっきよりもどこか、しみじみと幸せを噛みしめているような、優しい顔のイクシアさんと共に――


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