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第百八十七話

「どうしよう……イクシアちゃんが来てるよBB……」

「く……近頃バタバタしていたからな、集計スタッフが一般人だったんだろ。こっちの事情は知らなかったんだろうな……その仮面、イクシア程の術者は誤魔化せないのか?」

「どうだろう……動画越しなら問題ないけど、直接私の近くで解析されたら……」

「スタッフに言って彼女にだけ帰ってもらうという手段もある。だが……」

「ダメだよ! 前に一度公開収録でも落としてるんだよ!? それに……凄く楽しみにしてるみたいだし……ここまで呼んで帰らせるなんて事、出来ないよ私、可哀そうだよ。最悪私の事はバレたって構わない。マザーもいないし、BB……ヨシキだってあの力を使わなければただの地球人なんだし」

「……良いんだな?」

「うん。それにヨシキの見立て通りなら……誰かが、本当に彼女が心折れた時に、寄り添える誰かが必要だと思う。マザーはたぶん、一度イクシアちゃんと触れてしまったらもう……動けなくなってしまうだろうから」




 秋宮グループの所有するスタジオに集められた幸運な視聴者達三〇名。

 一緒にチョコレートを作るという、今の季節ならではのイベントが開かれる。

 だが、本日の主役とも呼べるBBことヨシキと、Rお姉さんことR博士『リュエ』は、スタジオ裏で何やら深刻な様子で話し込んでいた。

『イクシア』の当選は、想定外だったのだ。

 急遽決まったイベントというわけではない。ひとえにヨシキが所用でグランディアへ向かっていた為、段取りの一部が円滑に進まなかった故の事故。

 イクシアとR博士の邂逅は、出来れば避けたいと思っていたヨシキにとっては、苦渋の決断でもあったが、このままチョコレート作りを続行する事に決めたのだった。




「はーい! 本日はようこそいらっしゃいました、一緒に美味しいチョコレートを作りましょうねー!」


 スタジオに現れるBBに、エプロン姿の視聴者達が歓声を上げる。

 その顔ぶれは、やはり主婦層や学生、女性の比率が高く、作るメニューがバレンタインデーのチョコという事もあり、男性の姿は二人しかいなかった。


「こんにちは! Rお姉さんだよ! 作るメニューは三種類あるから、最初に決めて貰ったメニューの材料、ここから持っていってねー!」


 そして現れるRお姉さん。『天真爛漫なお姉さん』として人気を集める彼女の登場に、数少ない男性陣が色めき立つ。

 そんな集まった視聴者達の中、イクシアはというと……。


「はぁ……まだ信じられません……まさか当選するなんて……! Rお姉さんにBBと一緒の場所にいられるなんて……!」


 幸せを噛みしめながら、チョコレートの材料をRお姉さんの元へ取りにいく。


「はい、どうぞ! エルフの参加者は珍しいね! 楽しんで行っておくれよ」

「はい! ふふ、いつも楽しく拝見させて貰っています」

「そっかそっか。これからも応援よろしくね」


 イクシアを見送ったRお姉さんは、密かに胸をなでおろす。

 気がつかれた様子はない、と。

 だが、実はそうではないのだ。イクシアは自分の作業スペースに戻りながら、内心の動揺を隠し切れないでいたのだ。


(あれは……私でも解析出来ない認識阻害の仮面……となると、やはりR博士作なのでしょう……きっと、BBちゃんねるのバックアップとして秋宮グループから優秀な研究者が協力しているのでしょうね。ユウキのチョーカーと良い、今の仮面と良い、やはりR博士の正体は『あの人』なんですね)。


 仮面の力により、Rお姉さん=R博士という事には気がつかないでいた。

 だが、仮面の存在によりR博士=生前の自分と大きな関りを持つ人間『リュエ』だという事を確信したのであった。


(もしやと思っていましたがそうですか、同じ世界で生きているのですね……お会いする事はやはり……出来ないのでしょうね)


 そう結論付け、静かに、僅かに、気落ちしていた。

 ……だが、忘れてはいけない。イクシアよりもR博士の方が遥かに『子供っぽい』という事を。

 直接イクシアを目の当たりにし、最悪自分の正体がばれても仕方ないとBBも認めた以上――




「やぁやぁ、調子はどうかな?」

「Rお姉さん! 今、BBの実演通りにチョコレートを湯煎で溶かしています。ですが……」

「なるほど、チョコを刻む時に少し大きめにしちゃったんだね? ちょっと溶けるのに時間がかかるかもだけど、誤差だよ誤差! 私が一緒に見ててあげるから、安心してBBの方を見ていてね」

「なんと……!」


 構いたがるのだ。イクシアに。イクシアの傍に出来るだけいようとしてしまうのだ。

 さながらイクシアが子供を構いたがるように、Rお姉さんもまた、イクシアを放っておけないのだ。

 それだけ、生前の二人の距離は近かった。だからこそ、過度に関わり『第二の人生に影響を与えてはいけない』と、自らを律していた。

 だが……事情が変わったのだ。どうやらR博士は、近い将来イクシアに苦難が襲い掛かると確信している。ならば、自分はその時に彼女の傍にいられるように、ある程度の信頼関係、友好関係を築いておくのは必要だと、思うようになっていた。


「ああ、次の工程にうつってしまいます……あの、生クリームはもういれても大丈夫なのでしょうか?」

「待ってね? うーん……そうだね、ここまで溶けているなら大丈夫だよ。はい、じゃあイクシアちゃん、生クリーム入れて」

「はい。……名前、知っているのですか?」


 その瞬間、Rお姉さんは『しまった』という顔をするのを全力で我慢する。


「も、勿論。エルフの参加者が珍しくて、ついつい名簿で見ちゃった」

「そうだったんですね。では、生クリームを……」

「そうそう、少しずつね」


 仮面越しに、Rお姉さんことリュエは、愛しそうにイクシアの横顔を見つめる。

『ここにいるよ』と『また会えて本当に嬉しいんだよ』と『名乗れなくてごめんね』と。

 喉を通り過ぎたい言葉達を視線に乗せて、彼女の作業を見守る。


「これで少し冷えたら、トリュフチョコの人は成型。イクシアちゃんは……サラミチョコだね。じゃあ、私と一緒にナッツとか刻もうか」

「はい。……はぁ、なんと幸せなのでしょう。私だけ付きっきりで申し訳ないです」

「あはは、確かに不公平かもねー。刻み終わったら他の人のところにも行ってくるね?」


 名残惜しそうにしながら、Rお姉さんは次の参加者の元へと赴く。

 が、他の参加者は密かに『美人エルフのツーショット眼福すぎるだろ』と、その様子を脳内に焼き付けていたという。






 全てのチョコレートを冷蔵庫に入れ、冷え固まるのを待つだけというところまで来て、今度はラッピング用のギフトボックスや包みをみんなで作ろうという運びになる。


「あの、完成したチョコレートってBBさんに受け取ってもらえるんですか!?」

「同じく! 是非受け取ってもらいたいです!」


 バレンタインデー故に、渡されるファンからのチョコレート。

 普段は視聴者からのプレゼントを受け付けていないBBだが、この日だけは――


「義理なら受け取りますよ! 本命は受け取れませんけどね!」


 そう念を押しながら宣言したのであった。

 この場に妻であるRお姉さんがいる以上、当然ではあるのだが。

 そしてBBがマザーかRお姉さん、どちらかの夫だというのは視聴者全員の暗黙の了解なのだ。

 そんな中、イクシアは一人困惑していた。

 この料理教室に参加する事だけが目的であった為、誰に渡すかなんて考えていないのだ。

 そうなると必然的に……。


「どうしましょう。やはりユウキに渡すべきでしょうか。BBに渡すのは……畏れ多いですね」


 そう独り言ちたその時、近くにいた他の参加者の主婦達の会話が漏れ聞こえて来た。


「うちの子にあげようかしら? 折角の貴重な一品だし喜ぶわよ」

「やめておきなさいよー、なんだかんだで母親に渡されるチョコレートって、思春期過ぎた男の子には辛いわよ? 下手したらトラウマ物よ」

「やっぱり? うふふ、なら旦那に渡そうかしら、何年かぶりに」


 そう、世間一般的に『母親から渡されたチョコ』という物は、男子からするととても複雑な物であり、中には不名誉な称号とすら感じてしまう者もいるのだ。

 勿論例外も存在するのだが。そして、イクシアに限っては間違いなく、ユウキは大喜びで受け取ってくれるのだが。


「なるほど……これは困りましたね……そういう物でしたか。危うくユウキを傷つけるところでした……」


 その瞬間。このチョコレートがユウキの手に渡る事が無くなったのだった。


「では……そうですね、伊藤さんにおすそ分けしましょうか」


 そうぼやきながら、ギフト用の小箱の装飾をする。

 元々手先が器用で、タリスマンやアクセサリーを作った経験のあるイクシアは、先程のチョコ作りとはうって変わり、あっという間に綺麗なラッピング用小箱を複数仕上げてしまう。

 するとそこへ、やはり案の定、Rお姉さんがやって来た。


「器用だねー! ひーふーみー……七つも! お友達に配るのかな?」

「ええ、主婦友達やそのお子さんにでも、と」

「ご家族には渡したりしないのかな?」

「ええ、息子と二人暮らしなのですが……母親から貰うチョコというのは、子供としては不名誉な物と聞いたので……」

「へー……そういうものなんだ……じゃあ、好きな人に渡すとか!」

「そうなると息子になりますが……」

「ありゃ? じゃあええと……恋愛対象として好きな人……とか?」

「恋愛……」


 Rお姉さんのその一言は、イクシアに深い悩みを植え付ける。


「恋人……恋愛対象……困りました、その場合も――」


 イクシアが一つの結論に達しそうになったその時、BBから一同に声がかかる。


「冷え固まるまでまだ少し時間がかかりますので、残った材料でチョコレートアイスでも作ってみんなで食べましょうか! ここ、チョコ作りの為暖房は控えめなんですが、それでもちょっとあったまって来ましたし」


 その一声に、Rお姉さんが大急ぎで調理場に戻って行ってしまった。


「アイス! チョコアイス! いいね、じゃあ一緒にホットココアも作ろうか!」

「良し来た。じゃあ、ギフトボックスはこちらで預かっておきますねー」


 一つ、重大な結論に至りそうだったイクシアもまた、その疑問や考えを放置する。

 そうして、残りの時間を楽しく過ごしたイクシアは、お土産を沢山持って帰宅するのであった。








 まさかまさかですよ。イクシアさん、当選しちゃいましたよ、BB主催チョコレート作り教室に。

 いいの? なんか極力R博士と関わらせないようにしていたんじゃないの?

 たぶんだけど……R博士ってイクシアさんと生前、浅からぬ関係にあった人なんじゃないかな?

 イクシアさんが生前の知り合いの影響で変わってしまう、心を病んでしまうとは正直思えないけど……。


「というかだ……チョコだぞチョコ……これは期待しても良いのだろうか……!」


 去年は地球にいなかったので、ノーチョコレートでフィニッシュです。

 いや……ほら、だって去年は色々バタバタしていたし……。

 そもそも二月に学園なかったし……。

 なんて言い訳にも似た事を考えながら、時刻はそろそろ夕方。

 雪こそ積もっていないが、やはり今の季節は寒いのだから、今のうちにお風呂沸かしてイクシアさんが帰って来るのを待とうかな?

 ここで更に夕食でも用意出来たら良いのだが、生憎今の俺に冷蔵庫の食材で料理を考えるようなスキルはございません。


「お風呂の用意だけでもしようかねー」




 お風呂の用意を済ませると、家のチャイムが鳴らされる。

 はて、誰だろうかとインターホンの画面を確認すると、宅配便のようだった。

 一応、変装を兼ねて伊達メガネをかけて宅配便を受け取る。

 何やら小箱のようだが……。


「あ! 俺のスマ端!」


 戻って来た! 手紙が同封されているが、差出人はニシダ主任だ。


【秋宮のラボで解析されていた様子だけれど、目ぼしい情報はないと判断されて放っておかれていたみたい。充電はしておいたから、何か変化はないか確認してみて頂戴。遅くなってごめんなさいね】


 おお、なんというか可愛らしい手書きの手紙だ。メールじゃないなんてなんからしくないな……と思ったら、今俺持ってるの任務用の端末だから連絡先知らないのか!

 そりゃそうだ。


「おー……解析の為にある程度は電波の遮断なしで着信が来るようにしてたのか……ここから俺の交友関係にも調査の手が回ったんだとしたら……全員に謝罪のメールくらい入れておいた方良いよな」


 俺は久しぶりに、高校時代の友人達や、お世話になっていた役場の職員さん、訓練施設のお姉さんことアケミさんにも一斉にメールを送信。

 さて……ここからは怒涛の返信や着信に備えないとな……。

 そう思った瞬間、怒涛の着信音が鳴り響く。

 うっそだろ……通話アプリからスマ端のメールからなにまで……マジかよ……。

 それに、着信履歴をよく見てみると、俺がこの端末を失った直後から、怒涛の着信履歴が残されている。

 その殆どが……。


「ショウスケからだ……やっぱそうだよなぁ……」


 一先ず、間違いなく長話になるであろうショウスケを後回しにして、返信が必要そうなメールを返していくのだった。




「さーて……ショウスケの番だな。通話の方が良いよな――」


 タイミング良く、ショウスケから通話が入る。


「もしもーし」

『ユウキ! やっと連絡が付いた……いや、こちらでも事情は知っている……何も言わないし、そちらも言えないのだろう? 何せ多くの国が秘密裏に動いていた案件だ……とにかく、お前が無事でよかった』


 ま、そう言う事になってるからな。


「察してくれて助かるよ。いやー……本当怒涛の一年だったよ。やっぱりまだまだグランディアとの摩擦、大きいな」

『そうだな……だが、こういう暴走が起きると、逆に今後の関係を良くしようと考える人間も出てくるはずだ』

「確かにな。少なくとも反地球の最大手、みたいな感じの人間が消えたんだし」

『最大手って……何かの業種みたいに言うんじゃない』

「ははは、だな」

『……やはり、グランディアと密接に関わっていくのなら、地方の学校では難しいのかもしれないな。俺は今回の騒動、微塵も関わる事が出来なかった。勿論、お前に関する事で一時取り調べ紛いの事もされたが、そこから関わる事は出来なかったよ、シュヴァ学の外からは』

「そりゃ迷惑かけたな……ショウスケは俺と一緒に行動していた時間も長かったし、やっぱりそういう事されていたか」

『ああ。警察組織と国が連携出来ていなかったように感じたが、さすがに事前に作戦を伝える事は出来なかったんだろうな』

「まぁな」


 色々と突っ込まれる事もあるが、こればかりは話せないのだ。


『そういえば、そろそろ二十歳になるだろ、俺達の代も。同窓会の話も出てきているんだが……流石に参加は難しいよな』

「さすがになー……ってそんな話あるのかよ……!」


 俺知らされてないんだけど!?

 ……ってそりゃそうか。


『最近上がった話だからな。まぁ無理だとは俺達も分かっている、気にしないでくれ』

「まぁそれでも念のため日程だけ教えてよ、決まったら。万が一参加出来そうなら行くから、どうにかして」

『ああ、期待しないで待ってるさ』


 そうして、ショウスケとの通話を終える。


「あぁ~……なんかつくづく一般人からかけ離れたんだなって実感するな……」


 親しい友人、元同級生との会話ですら、微妙に距離を感じてしまうのだ。

 これも運命なんだろうな、秋宮の元でエージェントとして戦うと決めた時から定められた。


「……それか、俺がイクシアさんを召喚した時から決められていた、か」


 なーんとなく、最近は運命ってものが本当にあるんじゃないかって思うようになったんだよなー。

 そんな中二めいた事を考えているうちに、イクシアさんの帰宅を知らせる声が。




「おかえりなさい、イクシアさん。楽しかったですか?」

「ただいま戻りました。ええ、とっても」


 寒さからか、それとも興奮からなのか、少しだけ上気した表情で帰宅したイクシアさんが、いそいそと居間へと向かう。


「本当に夢のようでしたよ。Rお姉さんが、殆ど私と一緒にいて下さって……やはりエルフは珍しいのでしょうね」

「お、おー……」


 あれ……逆に良いのか、それ。


「BBも丁寧に教えてくれましたし、やはり前回も近くで見させて貰いましたが、所作の一つ一つの洗練され具合が物凄いんです。これはコウネさんにも是非お話しなければ」

「楽しそうでなによりです、イクシアさん」


 それで! それでですよ! 今手に持ってる紙袋、何やら綺麗な包みのされた小箱が沢山入っているではありませんか! チョコなのか!? チョコなんですよね!?


「あ、あの、出来たチョコレートって勿論持って帰って来たんですよね?」


 期待を込めながらもそう切り出すと――


「ふふ、安心してください。ユウキには絶対あげませんからね」


 その瞬間、俺は死んだ。






 長い間ご愛読頂き有り難う御座いました。ササハラユウキ先生の次回作にご期待ください。








 はっ! 今なんか白昼夢見てた! いや夕方だし普通の夢か!?

 気がつくと俺はリビングで仰向けに倒れていた。

 あ、照明のLEDの色がちょっとくすんでる。LEDも定期的に取り換えないといけないのかなー。


「ユ、ユウキ!? どうしたんですか急に倒れて……! どこか具合が悪いのですか!?」

「あ、違います、たぶん寝不足とか心労で疲れていたのかな? ちょっと一瞬寝てたみたいです。嫌な夢見ちゃいましたよ」

「そ、そうなんですか? なら良いのですが……あ、晩御飯今から作るのでは遅くなってしまいますからね、今日は久しぶりに外食でもしませんか? 一応、サングラスと帽子があれば、夜なら大丈夫だと思いますし」

「そうですね、久しぶりに行きましょうか」


 いやぁ、久しぶりだな外食。シンビョウ町って何気にヨシキさんのお店以外にも、学生向けにファミレスとかもあるし、居酒屋だってあるんだよな。

 誕生日が来たら是非行ってみたいところだ。


「ついでに、今日作ったチョコレートをママ友の皆さんに配っていきましょうか。伊藤さんにそのお子さん、他のママ友さんとお子さんの分を」

「へー、いいですね。ちょっと早いですけど」

「ふふ、義理や付き合いで渡すのなら、多少前後しても良いと聞きましたから」


 なるほどなるほど。じゃあ俺にはしっかり十四日に――


「安心してくださいね、ユウキには十四日にも渡しませんから」


 俺は死んだ。









 どうしましょう、ユウキがまさかここまで疲れていたなんて。

 私はユウキを抱きかかえ、寝室のベッドに寝かせる。

 生憎、今は手持ちの薬もない。けれども……魔力の流れの異常はありませんし、身体の異常も解析した限りでは見当たりません。

 本当にただの寝不足なのでしょうか。


「……一応、ニシダ主任に連絡を入れた方が良いかもしれません」


 グランディアから戻った影響で、私では気がつけない異常があるのかもしれません。

 ニシダ主任に連絡を試みる。


『もしもし、どうかしましたか?』

「すみません突然。今、ユウキが突然倒れてしまいまして……」

『なんですって!? 何があったんですか!?』

「それが、ただ会話をしていたら突然……私が見た限りでは魔力的な異常も肉体的な異常も感知できませんでしたが……」

『それは確かに不思議ですね……詳しい状況をお願いします』


 私は、直近の会話や、その前にも一瞬だけユウキが倒れた事。

 なにやら夢を見た事。その全てを語って聞かせる。


「――と、いうわけなんです。本当に今の今まで会話をしていたのに……」

『……いや、まさか流石に……ユウキ君ならありえる……?』

「な、なにか心当たりが!?」

『……とりあえず今は眠らせてあげてください。それとですね、とりあえず……お買い物に行って起きた時に食べられる物を用意するといいです。それと、出来れば彼の分のチョコレートも作るべきです。今日、習いに行ったんですよね?』

「え?」

『大げさかもしれませんが、もしかすればユウキ君は再起不能になるかもしれません。急いでください。しっかり作って、綺麗にラッピングして、しっかり手渡ししてあげてください。それとですが、一番大切な事です。そのチョコレート、決して私に指示されて作ったとは言わないように。自主的に作った事にしてください。いいですね?』


 は、はて……? 私が聞いた話では絶対にしてはいけない事のようでしたが……。

 まさか、地球特有の呪い、一種の呪術なのでしょうか……。

 私は急いでぶぅぶぅバリュへと走り、ユウキの分のチョコレートを作る事にしたのでした。


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