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第百八十六話

 一難去ってまた一難……という訳ではないが、目下俺に迫るイベントのうち、最後の一つであるエキシビションマッチ。

『ユキVSユウキ』の日取りが正式に発表された。

 来週の二月十七日、学園の一番大きなスタジアムでかつてカイと戦った時と同じように、ユキと俺が戦う事になった。

 観客は完全招待制。シュヴァ学の理事を勤める政治家、知事、社長やらなにやらお偉いさんに始まり、シュヴァ学に出資している投資家、資産家も観覧にやってくるそうだ。

 もしかして岸崎のじいちゃんも来るのかな……正直、あの人は今回の事件に、リョウコ側の人間として関わっている以上、あまり仲良くする事はもう出来ないんだけど。


「……問題は誰がユキになるのか、だよなぁ」


 リョウカさん曰く『俺じゃまず勝てない相手になるだろう』って話だけど、こちらの事情を知った上で、ユキに変装出来るような人、なおかつユキに相応しい実力も備えている人って誰だろう? 純粋に戦う事に関してはワクワクしているんだけどな。


「うーむ……どこかで身体を動かしたい気分だけど、迂闊に出歩けないからなぁ……学園はどうだろう? もう試験関係は全部終わってるはずだけど」

「ユウキ、お出かけですか? 私も少しブゥブゥバリュに行くのですけれど」

「あ、分かりました。とりあえず学園に行ってきますから、鍵かけておいてください」

「はい。早く変装機能の追加されたチョーカーが戻って来ると良いですね」


 本当そうだよなぁ。確かヨシキさんがR博士に渡したはずだけど、完成はいつになるやら。




 学園に向かい、ひとまず訓練施設やスタジアムを使う事が出来ないか職員室で訊ねてみる。


「勿論使ってくれて構いませんよ。ただ、出来ればバトラーサークルの人間の指導もお願い出来ないかな? 是非君の指導を受けてみたいと思うんだ、彼等も」

「……すみません、今は自分の調整に集中したいんです。詳しくは話せないんですけど、大一番がありまして……」

「なんと……分かった。では今回は諦めるよ。今、丁度ミカミ先生が学園に戻って来たから、彼の研究室に向かうと良い。あそこのVRでなら好きなだけ調整出来るだろうし、彼も断るまい」

「あれ? ミカちゃん学園から離れていたの?」

「ああ、実はそうなんだよ。どういう訳か、昨年度は大規模な人事の入れ替えがあってね、彼もどこかに異動されたらしいが、最近理事長が呼び戻したんだよ」


 ふむ。つまりリョウコにとって邪魔な存在だったのか。

 まぁミカちゃん、理事長の懐刀っぽい雰囲気出していたからなぁ……。

 早速、久しぶりに実戦戦闘理論の研究室が拠点にしている、VR訓練所へ向かう。


 進級試験も終わり、生徒が残っているような事もない校内を進みVR室に辿り着くと、戦闘ルームが使用中だと示すランプが点灯していた。


「あれ、ミカちゃん戦ってるのかな」


 好奇心です。ちょっとオペレーションルームで中の様子を確認しましょうか。


「おー……なんだこのプログラム、メタ○ギアみてぇ……」


 そこでVRの内容を確認すると、ミカちゃんがどこかの施設に潜入し、要所要所で暗殺をしながら最深部へと向かっている、という内容だった。

 へぇ……凄いな、殺し方が俺みたいな脳筋じゃない。一瞬で最小限の動きで始末して、しっかり死体も見えない場所に隠してる。

 たぶん、潜入後に施設から脱出する事も見越して動いてるんだろうなぁ……。

 今更だけどミカちゃんって、絶対秋宮の暗部に属する人だよね?

 そうしてミカちゃんが訓練を終え、VRが解除されたタイミングでマイク越しに話しかける。


「ミカちゃん久しぶりー。ちょっとここ使わせて欲しいんだけどいいー?」

『ササハラユウキか。ああ、構わないぞ』


 早速VR室に向かう。


「ミカちゃん更迭されてたってマジ?」

「ああ。恐らく、理事長は他の人間に成り代わられていたんだろうな」

「あれ、もしかして詳細って知らされてない?」

「ああ。私はどこまでいっても雇われの傭兵兼講師だ。あまり深入りするつもりはないさ」


 そういうことだったのか。かなり特殊な立ち位置だったんだな、ミカちゃん。


「逆に、君は最深部に位置する場所で活動していたようだな。今回はお手柄だった。もし、その活躍のどこかに私の教えがほんの数ミリだけでも生きていたのなら、教導した立場としては万々歳なんだがね?」

「いや、もうばっちり生きてますとも。そもそもこういう任務の心意気とか覚悟とか教えてくれたのミカちゃんだけだよ?」

「なんと、そうだったか。……となると、余程才能に恵まれたのだな、ササハラユウキ」

「まぁね。あ、じゃあ俺もVR室使わせて貰うけど……ここってどこまで過酷な環境再現出来るの?」


 さっきのスニーキングミッションも楽しそうだけど、目下俺の目的は『対ユキ』の為に、このリミッターの無い状態の身体に慣れる事だ。

 ほら、チョーカーは今丸ごとR博士に預けているし。


「VRだからな。数値さえいじれば、現実には存在しない相手ですら再現可能だ。ササハラユウキ、目的はなんだ?」

「もうすぐ大一番があるので、その対策としてめっちゃめちゃ強い人とタイマンで勝負して慣らしておこうかなと」

「ほう。……ふむ、ではどれくらいの相手を設定しようか。ササハラユウキ、君が戦って来た中で最も強かった相手は誰だ。知っている人間なら、情報を元に設定してみよう」


 え? じゃあそうなると……ディースさんだろうか?

 イクシアさんもいるけど、イクシアさんはあくまで魔法オンリーかつ、ある程度手加減した状態だし、そもそもどのくらい強いかなんて誰も知らないし。


「ええと、知っているか分からないんですけど、エレクレア公国のディース・メイルラント様ですね。彼が、俺が戦って来た中で最も強かった」

「……緋色の剣聖か。噂は本当だったようだな、ササハラユウキ。君が、グランディアの姿で彼と戦ったというのは」

「どんな情報網してるんですか……」

「裏に生きる人間なのでね。しかしそうか……彼クラスを想定している、と」


 正直、ヨシキさんが用意してくる相手が、彼に匹敵するとは思っていない。

 でも、あらかじめ最強の相手を想定して損はないはずだ。


「……ふむ。VR室に入っていてくれ。私は過去のデータや噂話を元に、彼の数値を入れてみよう。参考までに、彼の攻撃方法など覚えているものがあれば教えてくれ」


 じゃあ、あの狂った速さの炎魔法と剣捌き、破壊力、耐久力を口頭で……。


「……化け物か」

「ですよね」

「君も大概だ」


 失敬な!

 久しぶりのVR室でミカちゃんの調整を待つ。

 ここ、今年いっぱいは研究室の生徒が使うはずだったろうに、途中でミカちゃん更迭されちゃったし、どうなったんだろう?

 などと考えているうちに、無機質な室内が唐突にワイヤーフレームのような背景に覆われ、空間の広さもかなりの大きさに変貌する。

 これ、脳が錯覚というか、疑似体験させられているんだよな……毎度のことだけどこの技術が一番すごいんじゃないか、この世界で。


『可能な限り数値を打ち込んだ。まずは一度戦って見せてくれ』

「了解。さーて……どこまでやれるかなー地球の俺で」


 模擬戦、開始!








「……どうだ、相手の強さの具合は」

『そうですね、攻撃が多少単調なのは気になりますけど、出の速さと威力は申し分ないです。それにたぶん、本家より機動力ありますね』

「なるほど。……しかし、グランディアのトップ層の強さは信じられないな。これに勝ち越している一之瀬セイメイ氏が信じられない。……それと、VRとはいえ今のところ勝てている君も」

『まぁ、正直絶賛成長中なんでこっちも。それに、今日はリミッター無しです。グランディアでの経験がフィードバックされてるんですよ』


 ミカミは、モニター越しのユウキの戦いを見て、ただただ『末恐ろしい』と感じていた。

 初めはVRだからと少々盛り過ぎたのではないか? と考え、過剰な強さになってしまったVRディースに、すぐにユウキも音を上げるだろうと考えていた。

 だが、実際には動きに対応し、さらにはVR故のAIの癖を見抜き、完全に手玉に取っていた。

 本来、癖が分かったところでどうしようもない。たとえるなら『今から三秒後に銃を撃つ』と宣言されて、その銃弾を避けたり掴み取ってみたりするのと同じくらい、無茶な事なのだ。

 その無茶を、ユウキは平然とこなしている。


『はい四勝目! ミカちゃん、思い切ってステータス全部もう一回り高めてくれない?』

「いや、実はさっきから倒すたびに一割ずつ上昇させていた。これ以上の再現はこの施設では不可能だ。そろそろ上がると良い」

『マジで! てっきり俺が疲れて来たから計算ミスってるのかと思った』

「くく、すまなかった」


 そうして、ユウキは地球での姿のままで、VRとはいえディースに勝利を修めたのであった。

 が、彼に言わせたら『NPCの最大レベルに勝てたところで、対人戦で勝てるとは思わない方が良い』程度の達成感しかないのだが。








「ふー……結構神経使いますね、これ。一発当たったらほぼ戦闘不能ですし、こっち」

「ああ。だが致命傷を避けてしっかり勝ち越している。VRとはいえ、このレベルの相手に勝てる人間などそうはいまい」


 訓練を終えた俺は、控室でミカちゃんからスポーツドリンクを受け取る。

 いやー……めっちゃ強いけど、正直パターンが少ないからある程度攻略法が出来ちゃうんだよね。これはあくまで反射神経と動きのウォームアップ程度にしか使えないかなー?

 まぁ相手がディースさんより強いって事は正直ないだろうから、これで十分対策になっているだろうけど。

 けど、同時に確信した。今の俺じゃまずディースさんには勝てない。

 まだ去年のグランディアでの俺にすら、地球の俺は届いていないんだ。


「ふむ……君程でもないにしろ、今回の事件でSSの生徒はさらに実力を伸ばしているだろうな」

「そりゃ勿論。心構えだけでぐっと変わるかもですね」

「そうだろうな。しかしそうなると……ジェン先生の休職が響いて来るな。君達クラスの人間を律する実力者、理事長は見つけられるのだろうか」

「え!? ジェン先生休職なの!?」

「む、知らなかったのか?」


 うそ!? なんか忙しくて同行出来ない感じだとは知っていたけど、新学期にも戻ってこれないのかよ……!


「理事長が代わりの人材にアテがあると言っていた。だが、実務研修もある君達のクラスを引率となると……最低でも君達と肩を並べる実力、そして実戦の経験を持っていないと難しいだろう。……時期的にそろそろ見つけていないと新学期に間に合わないのではないか……?」

「うそー……普通にショックなんだけど……ジェン先生いないと寂しいんだけど」

「くく、それは復帰した時に言ってやると良い。彼女の古巣で起きた事件である以上、立場的にもすぐには戻ってこられないだろうが、それでもかならずいつかは戻って来るはずだ」

「だと良いんですけど。……代わりの担任、担当教官かー……」


 ……あれ? 今言った条件にあてはまりそうなのって……前は断っていたけど本当にヨシキさんなんじゃないのか……?

 でもいや……あの人が考えを変えるとは思えないしなぁ……。


「しかしそうか……かなりの強敵と対人戦をする予定があるとなると……心当たりは『彼女』か?」


 え? もしかして裏の方々にはもう知られているのでしょうか……?


「何か知ってるの、ミカちゃん」

「件のダーインスレイヴが秋宮を去ると聞いている。彼女はユキで間違いないのだろう? つまり君は、同門である彼女に最後の引導を渡す事になるのだな」

「あー……どうなんですかね? 正直勝てるとは思っていませんけど」

「ふむ。去年までの君では分からなかったが、少なくとも今の君は去年のダーインスレイヴ、カイに勝利したユキよりも上に見える」

「はは……」


 それはそれで嬉しい。成長したって事なんだろうし。


「さて、ではそろそろVR室を閉じるぞ。シャワー室の鍵を渡しておく、返却は任せたぞ」

「あ、ありがとミカちゃん。んじゃまた新学期」

「ああ、ではな」


 さて、じゃあ俺もそろそろ家に帰ろうかな。イクシアさんも買い物から戻ってきているだろうから。








「ダメです。あの収録の時、何やら話をしている様子でしたが、まさかそんな……彼の地雷を見事に踏み抜いていたとは。お詫びとお土産は私から彼に渡しておきます。一生徒でしかない貴女に、同じく一生徒でしかない彼の家を教える訳にはいきません。お引き取りを」

「そこを! そこをなんとかお願いします! あの時ユウキ先輩を怒らせた事、すっごく後悔しているんです! 是非とも直接お詫びの言葉をですね……」

「でしたら、新学期に学園でお願いします」

「それじゃあ間が空きすぎじゃあないですか! お願いしますよぅ」


 その頃、学園の理事長室では、リョウカとミササギ・アリアの押し問答が繰り広げられていた。

 先日の公開討論会の収録で、ユウキを子供扱いしてしまい、機嫌を損ねてしまったアリアは、ただ一言謝りたいからと、リョウカのところに詰め掛けていた。

 だが、リョウカはそれこそが更なる問題の種になりかねないと、その要求を拒んでいた。


「ではこうしましょう。私がユウキ君にこれから電話します。そこで貴女が直接謝る。それなら譲歩しましょう」

「じゃ、じゃあそれで……」


 そうして、リョウカはユウキに直通アプリを使い、連絡を試みるのであった。








「おかえりなさい、イクシアさん」

「おや、早かったですねユウキ」

「ちょっと軽いトレーニングしてきただけですから。イクシアさんは……今日の晩御飯の材料ですね?」

「ふふ、何を作るのか当ててみてくださいね」


 俺の方が早く帰宅した結果、イクシアさんをお出迎え。

 いいなぁ、なんか新鮮だ。

 俺は買い物袋の中身を見せて貰い、今日の晩御飯を推理する。


「魚の切り身に……ネギと白菜……糸こんにゃく……キノコに……わかりました、鍋ですね!」

「正解です! さらに今日はショウガの炊き込みご飯です。昨日、テレビで見たのですよ『体を温める料理』と紹介されていましたから」


 いそいそと、暖房の聞いた部屋に移動し、イクシアさんがほっと溜息をつく。

 幸せだなぁ……この感覚が永遠に続けばいいのに。

 が! スマ端から専用アプリの着信音が鳴り響く。

 あ……そういえばこれ、任務用の端末だ……俺のプライベート端末ってたぶん、世界樹の苗植樹式の時に学園側に預けたっきりだよな……?


「もしもし、ユウキです」

『ああ、すみませんユウキ君。今日は本来何も連絡する事はなかったのですが、今お時間宜しいでしょうか?』


 ふむ? なんか疲れてるな、声の感じが。


「大丈夫ですよ、どうしたんですか?」

『それが、先日の公開討論の収録で、ミササギ・アリアさんが貴方に大変な失礼を働いてしまったからと、直接会って謝罪したいと学園に来ていたのですが、さすがに家を教える訳にもいかないので、電話越しに謝罪して頂こうかと』


 マジでか。結構律儀だなあの人! ……いやまぁ、正直そこまで怒っていないし、もう忘れていたくらいなんですけどね……言われなれてるし。


「そんなわざわざ良いのに……分かりました、謝罪を受けます」

『そうですか? では今替わりますね』

「え、今そこにいるんですか」


 スタンバっていたのかよ!


『もしもし、ユウキ先輩ですか?』

「はい、ユウキです」


 明らかに声が緊張している。が、緊張したいのはこっちなんです。

 仮にも芸能人から電話とか、幾ら有名になろうが心は小市民なんです。


『先日は、大変失礼な態度をとってしまい、誠に申し訳ありませんでした。どこか浮かれた気持ちで仕事に向き合っていたのだと、心より反省しています。つきましては是非お詫びの品をお届けに参ろうかと思ったのですが、プライベートにお邪魔するのは失礼かと思い、理事長先生に後日郵送して頂く事になりました。この度は本当に、申し訳ありませんでした』

「いえいえ、こちらこそ最初に訂正しておくべきでした。来学期からは同じ学園の生徒同士、どうか気負うのは今日この時まででお願いしますね」

『はい! では、理事長にお戻しします』


 ……普通に謝られた。なんか逆にこっちが申し訳ないとさえ思ってしまいそうだ。

 理事長に替わり、ついでだからと先程の件、俺のプライベート用の端末の行方について尋ねる。


『なんと! 申し訳ありません、専用回線なので気がつきませんでした。すぐに所在を調査しておきますね。きっと、ご友人も心配しているでしょう』

「ありがとうございます、見つかったら教えてくださいね、取りに向かいますから」


 いやぁ……高校時代の友人とか、色々連絡来ていそうだし大変だなこりゃ……。

 っていうか端末の機種が同じだからさっきまで全然気にしてなかったわ……。

 通話を終えると、イクシアさんが不思議そうな顔で『何の話だったのですか』と言うので、先日の件を含めて説明する。


「丁寧な方ですね? きっと礼節を重んじる家なのでしょう。察するに、セリュミエルアーチの旧家の出なのでしょうね。私も生前『ミササギ』という地方を訪れたことがあります。もしかすれば当時の領主の家系かもしれません」

「へー! じゃあコウネさん並に古い家柄って事なのか……」

「街並も覚えていますよ。どこか日本の『京都』に似ていると、今なら感じます」

「あ! なら今度京都に旅行に行きませんか? 北海道の次にでも」

「ふふ、良いですね。私も一度行ってみたいと思っていました」


 そうか……神話時代のグランディアにも京都っぽい場所があったのか。

 なんだかおもしろいな、そう考えると。


「おっと、そろそろBBちゃんねるの動画が更新されますね」

「はは、本当好きですねー」


 どうやら、今日は更新がある日だったのか、いそいそとイクシアさんがタブレットを設置し始める。

 なんだかその様子が、どこか子供っぽくてかわいいと感じてしまった。


「おや、今日はBBお休みですか」

「あ、そうなんですね」


 画面には、恐らくR博士であろう人物と、マザーと呼ばれる女性が映し出されている。

 二人とも仮面で顔を隠しているけれど、正直Rお姉さんはしょっちゅう仮面を忘れて出てきているし、もうつける意味はないのでは?


「ふむ……いつも思うのですが、あの二人の仮面には何か魔法がかけられているのでしょうか?」

「と、言いますと?」

「恐らく認識を阻害、正確に顔を思い出させないようにする力があるのかと。メディア越しにも効果を及ぼすとなると、恐らく相当の術者がバックアップに回っているのでしょうね。私でも、中々記憶する事が難しいです」


 へー! じゃああれってR博士作なのかな?

 ……でもマザーは釣りちゃんねるの方では普通に外していたな。

 現に去年、コウネさんと船で会った時は一発で正体見抜いていたし。


「ふむ、どうやら今日は料理というよりもお菓子作りなのですね」

「お? あー! なるほど、そろそろ時期でしたもんね」

「はて? なんの時期でしょう?」


 バレンタイン説明中。

 今の時期はどの雑誌を買っても必ず特集が組まれていますよ。なんならスーパーにも専用コーナーがあったりします。

 俺には無縁だけどな! クラスメイトからも貰った事ないし!


「なるほど……その風習のような物は、私の時代にも……あった……? のでしょうか? なにやら微かに記憶があるようなないような……」

「あまりこういうイベントには参加しなかったんですね」

「そうですね、基本的に園の中で政務、施設の仕事に従事していましたから。異性との出会いも……正直、政治関係や土地や施設の管理で、貴族の方達とお会いする程度でしたから」


 俺には分かる。きっとその中には絶対、イクシアさんからなんらかの贈り物をもらう事を夢見た人間もいるだろうし、逆に贈り物をする人間もいただろう!

 ためしに聞いてみると案の定――


「確かに贈り物は沢山頂きましたね。『売ってしまっても構わないから』というので、装飾品はチャリティオークションに、食べ物は子供達や他の職員と一緒に頂きました。本当に……私は多くの方達に支えられながら、沢山の子供達を育てていたのですね……」

「はは……そうですね」


 貴族さん、乙。




『後は冷えて固まったら、軽く型を温めたタオルで温めてチョコを……このように外します』

『私の魔法なら一瞬で固められるよ?』

『ダメですよ、それでは舌ざわりの悪いチョコになってしまいます』

『なるほど……私はこっち、この手で丸めるトリュフチョコの方が簡単で好きだなー』

『ふふ、それも定番ですからね。では、完成したチョコレートは梱包して……』

『BBが帰って来たら渡そう! 今BB、お仕事でグランディアに行ってるんだよね』

『恐らく明日の夜には帰って来ますから、そうしたらまた新しい動画を収録します。更新は今月末にはまたありますので、お楽しみに』

『しーゆーあげいん! あ、告知告知!』

『すっかり忘れていました。ええとですね、明後日の一二日に、BBの開くチョコレート作り教室があります。近場に住んでいる人間でないと難しいかもしれませんが、抽選で三〇名様を秋宮のスタジオにご招待して、BB監督の元チョコレート作りをする予定です』

『私もいるよ! みんなの作ったチョコレート、是非とも私に味見させておくれ!』

『私は残念ですが、自分のチャンネルの収録で不在ですが、是非とも楽しんでください』

『応募の方法はこの動画の概要欄にある応募フォームにお願いします。締め切りは少し早いですが、本日の深夜零時までとなっています』

『結果は明日にはもう出るから、明後日の予定、空けておいておくれよー』




 お、なにやらまた新しい試みが。

 いやぁ……本当手広いなヨシキさん。しかし仕事でグランディアとなると……もしかして秋宮関連だろうか?

 短期間で戻るって事は、ファストリアで何かあったのだろうか?

 いや、でもあの人の事だからな……なんか三秒でアメリカ大陸くらいなら横断出来そうな事前に言ってたし……。


「な、なんという事でしょう……! ユウキ、応募しますよ私!」

「お、おお……当選すると良いですね……?」

「はい! 今回は念入りに祈祷……タリスマンで己の運を向上させます……」

「そ、そこまで……」


 ……たぶん、外れるんだろうなぁイクシアさん。


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