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第百八十五話

(´・ω・`)お待たせしますた

「やべぇ……前回はリョウカさんの案内があったからよかったけど……ここどこだよ……このフロアじゃないっけ……?」


 どうも、僕です。良い歳してガチの迷子です。スマ端末はセキュリティの問題で預けています。

 どこにいるかって? 秋宮の本社ビルだよ。天下の秋宮財閥の総本山だよ。セキュリティ半端じゃないよ。

 収録スタジオに向かっている途中でトイレに行く為に案内の人から逸れたら、もう迷子ですわ。

 そう、早いもので本日が公開討論の収録日だ。生配信故に、こちらのぼろを出させようと無礼な事を言う人間もいる、とはリョウカさんの弁。

 大丈夫です、正直そんなにいい子ちゃんじゃないので、ただの一般人が何か失礼な事を言っても『すげぇ底辺が必死に上向いてなんか言ってる、首痛そう』としか思いません。


「そもそもスタジオに着かなきゃ意味ないんだよなぁ……この階じゃなかったのか……?」


 うろうろとさまよっていた時だった。誰かに呼び止められる。


「ボク、どうしたの?」


 ああん!? ボクは流石にないだろ……!

 振り返り指摘しようとすると、そこには――


「なーんでこんなところにいるの? もしかしてどこかのキッズチャンネルの子かな? ここ、撮影スタジオのあるフロアじゃないからお姉ちゃんが案内してあげるね」

「な……く……すみません、有り難うございます」


 ミササギ・アリアさんだった。こいつ……今日の出演者の顔知らないのか!?

 さすがにここでMC担当さんに食ってかかるわけにもいかず、仕方なしにそのまま案内される。


「ボク可愛いねー。お姉ちゃんのこと知ってる?」

「……すみません、出来ればこちらには構わないでもらえると助かります」

「なになに、緊張してるの? お姉ちゃんが緊張ほぐしたげる」

「ちょ、やめ……やめろ!」

「照れちゃった? はい、このフロアだよ。このエレベーター降りたら真っ直ぐ行けば沢山スタジオがあるから、誰か大人の人に聞いてね? お姉ちゃん他に行くところあるから、またね?」


 悪気はないんだろうさ。だが関係者の顔くらい……覚えておけ……!

 俺も自分の向かうスタジオを探し当て、そこでようやくリョウカさんに合流、今日の流れの最終確認をするのであった。




「資料の方には目を通してもらえましたね? そこにあるように、本日の参加者はユウキ君やコウネさん、セリアさんや私を抜かし『二三名』です」

「了解です。思ったよりも……地球には反戦団体や異界保護、グランディアへの不干渉を推進する集団がいるんですね」

「ええ。恐らく失礼な事や、あえてこちらをいらだたせるような発言もあるでしょう」

「じゃあ、逆に煽り返しますね」

「……問題はくれぐれも起こさないようにお願いします」


 ばっちりです。

 コウネさんやセリアさんにも確認を取り、いよいよMCであるアリアも入場。

 そこでようやく俺に気がつき、驚きながらこちらにやってきた。


「ダメでしょボク! ここ、今から生放送やるから、遊びにきちゃいけないの! ほら、ここ主役が座る場所だから……ほら、早くどかないと怒られちゃうよ」

「せめて出演者の名簿はよく見てくれないかな。俺、ササハラユウキって言うんだけど」


 悪気がないのは重々承知なんですけどね……?


「……え? いや、君違うでしょ……」

「それ、資料だよね。俺の項目しっかり読んで」

「もう……強情ねキミ……『ササハラユウキ氏は二年前、セリュミエルアーチの使節団や一般市民を救助し――』」

「もうちょっと後。備考のとこ」

「ええ……もう……『魔力との極度の感応性の高さ故の特異体質であり、地球とグランディアとでは身体の成長具合が大きく変化する』……ええと、写真……」


 しっかり出演者には全員分の資料が渡されているんですよ、進行がスムーズになるように。

 しっかりこっちとあっちの俺の姿、ご丁寧に写真付きで載ってるんですよ!


「……嘘、聞いてないんだけど……」

「はい、という訳でこんななりでももうすぐ二十歳です。対応、ちょっと考えてくれると嬉しいですね?」

「申し訳ありませんでした……」


 耳と尻尾がフニャっと垂れ下がってしまった。やばい、なんか凄い悪い事してしまった感。

 とぼとぼとアリアも自分の仕事の打ち合わせに戻り、着実に本番が迫って来る。

 そうして今度は質問者側、各国の代表団がスタジオ入りを果たしたところで……中継が始まったのであった。








 中継が始まる。

 雛壇のように並べられた席には、各国の代表として集められた人間が座り、スタジオの中央に陣取る今回の事件を解決に導いた人物、ユウキ。

 某国の軍事顧問に外交官、軍人の遺族代表に反グランディア団体。

 大手メディアの記者に権威ある学者、グランディアからは魔導師。

 およそ考えられる、今回の事件に関心のある団体の代表者達が集っていた。


「では、これよりササハラユウキ氏を交えた討論を開始致します。進行は私、ミササギ・アリアが担当させて頂きます」


 最初に質問をする人間は既に決められていた。もっとも注目の集まる人物。

 今回犠牲になった軍人の遺族、その代表者によるユウキへの質問。いや、詰問ともとれそうな発言。


「初めまして。遺族代表の『マーティン・オリヴィア』です。まず、貴方は今回の事件で陰謀に巻き込まれ死亡した地球の軍人の皆さんの事をどうお考えなのか、それをおたずねしたいのです」


 最初は軽い質問。だが、その声の質、口調、表情は『怒りを抑え、今にも爆発しそうな人間』そのもの。

 迂闊な事を言えばどうなるか分からないと周囲が思ってしまうような様子だった。

 それに対してユウキは――


「心より追悼の意を捧げたいと思います。彼等は、一般市民の被害を抑える為、最も危険な前線に立ち、あの式典を見守っていました。しかし、これを『コラテラルダメージ』だとは私は思いません。もし、私一人で事を起こしていれば、死者は出なかった……いえ、最悪死ぬのは私だけで済むはずでした」


 その真摯な言葉。自分が死ぬはずだったという発言に少しだけ、遺族の溜飲が下がる。

 だが、そこにユウキが続ける言葉にスタジオが騒然とする。


「しかし、今はそう思いません。あれは本当に必要だった。多少の犠牲を払ってでも、強引に苗の破壊、もしくは奪還は成功させなければなりませんでした」

「な……! では、罪の意識は感じていないというのですか!」

「いいえ、感じています。ですが、あの時苗の奪取に手間取っていた場合……あの植樹地にて『核爆弾』を使用、首謀者や一般人もろとも、あの地を破壊、誰も近寄れない死地にする、という計画であったと、後に知らされました」


 魔法よりも、リアルに地球人が思い描きやすい絶対的な力。

 その使用が計画されていたという事実は、スタジオにいる人間の口を閉ざすのには十分だった。


「苗の植樹は、大陸の一つ、その一部を死地に変えてでも阻止する必要があった事は、先日公開された動画でも説明されています。確かに、亡くなった多くの軍の人間には追悼、哀悼の意を捧げます。ですがそれは同時に、確実に、紛れもなく、彼等はこの地球全てに住む人間の命を、未来を守るための礎になったのだと、今では考えています。彼等は紛れもない英雄です。その家族、友人、その子孫まで全ての未来の為、あの作戦で亡くなりました。ここに今いる皆さんの為に、亡くなりました。それをただ哀れだと、ただの犠牲だという言葉では片付けたくない。それが私の忌憚のない意見です」


 賛美歌のように語る。英雄は彼等であったと。彼等こそが英雄だと。

 英雄ともてはやされているユウキ自らが、それを口にする。

 それでも納得は出来ない。身内の死とはそういう物。

 しかしその言葉は、今一度亡くなった人間の事を、世界中が深く深く考える事になるきっかけとなる。

 代表者は、そこで質問を取りやめる。


「……質問を終わります」

「はい。ありがとうございました」


 その後も質問は続く。だがいずれも『苗の破壊の前に周囲に相談は出来なかったのか』。

『秋宮の独断とも言える潜入捜査に不満はないのか』『苗の襲撃作戦の被害をもっと抑える方法はなかったのか』という、事件への批判ばかりだった。

 だが、そのいずれの質問も――


「ありません。あれが最善です」


 その一言で終わらせるのであった。

 現状、地球で最も強く、過酷な任務に耐えうる唯一とも言える人間の発言を、否定する事は出来ても、それを裏付ける根拠が発言者の誰も持ち合わせていなかったのだ。


「具体的にどういう手段があったのでしょう。今後に生かす為にも是非その手段をご提示願いたいのですが」


 答えられないのだ。誰の仮定も全て、ユウキの知る現実に叩き伏せられてしまうのだ。

 盗聴も、通信も、暗号も、それら全てが通じない。

 逆にユウキが出来る事を、誰も想像出来ない。いや、グランディアに近く魔力を帯びた人間の中でもエリートであるシュヴァインリッターに通う人間が、どの程度の事が出来るのかすら、誰も把握出来ていないのだ。


「埒があかない! MC! 貴女はグランディアの人間でしたね! このササハラユウキ氏の発言は事実だと思いますか!?」


 荒唐無稽とも呼べるユウキの語る『敵の使う魔法や洗脳』『自身の持つ戦闘力』それらは、軍人であればある程度は把握できる。だが、何も知らずただ声高に批判する事しかしない、一般人でしかない『団体の代表』は、にわかには信じられないのだ。

 故に、この場において公平な立場であろうMCアリアに訊ねのだ。


「そうですね、映像を見た限りですと、このササハラ氏の戦闘力ならば、そもそも苗の襲撃で軍人を配備する必要もなかったのではないかと思いますね。となると、むしろ軍人を配備した国への糾弾の方がまだ私は納得出来ますねー」

「っ! 最新の兵器を持つ百を超える軍人を、この子供一人で越えられると!?」

「いやー……正直このスタジオにいる方々だけでしたら、数秒で全員昏睡させる事くらい、私の故郷にもザラにいますよ? さすがに軍人相手になると数人いるかいないか、ですけど」

「な……」


 事実である。互いの世界の理解が乏しすぎるのだ。


「私はこの力を一般の人間、悪意なき人間に向けることは決してしません。ですが、今回は極大の悪意が、地球全土を死に追いやろうと画策していました。これは、事実です。若輩者の私ですら、機会と才能に恵まれ、ここに至る事が出来ました。しかし、人の人知を超える寿命を持ち、豊富な知識を持つ魔導の達人が研鑽を積めばどこまで至れてしまうのか。それを……考えてみてください」


 ようやく理解が及ぶ。『自分達はあまりにも物を知らなさすぎるのではないか』と。

 しかしそうなると、今度はグランディアとの関りを減らすべきだと提唱する団体が活気づく。

 が、今度はそれを、コウネが否定する。


「現在、グランディアも地球も、互いに手を取り合わねば一夜にして経済が破綻しかねない状況です。きっと、地球の皆さんは再び年月を重ねれば、魔力に頼らずとも快適な生活を手に入れられると思います。ですが、その間世界中の人間に文明レベルを落とせと、最新医療ならば助かるかもしれない命を落とせと、自分達の思想の為に我慢しろと言うのはあまりにも不義理ではありませんか? そのような思想を掲げるのでしたら、当然貴方方も相応の責任を背負わなければなりません」


 所詮、そういうものなのだ。代替案もなにも考えない。責任も負わない。ただ気に入らないから否定するだけ。

 安全な場所から文句を言う事しか出来ない人間でしかないのだ。


「貴女はまだ若いからよ、若いからそうやって責任だなんだ、聞こえの良い、綺麗ごとを語って聞かせる。私達は未来が望まぬ形で歪められるのを危惧して日々戦っているの! 魔力だなんだ、そういった物の所為で差別され、見下されている人間の事なんて何も考えないで……!」

「では具体例を。我が国では先天性の障害により、魔力を取り込めない人間への援助、人生のサポートを既に数百年も前から行っております。すぐに地球でも同様の制度が取り入れられるように手配を――あら、どうやら既に取り組んでいる国もあるようです。失礼ですが、そちらにも是非一度貴女のお話をしてあげてください。私も可能な限りご協力します。不当な差別はあってはなりません。また、差別という言葉を利用し、利益を得ようとする人間にも容赦はしません」


 全て事実。嘘も偽りもない。事実、この団体の代表は、この討論の後、国の監査により詐欺行為が発覚、多くの信者を騙していた事が明るみになる。

 それら全てが、この一連の流れが、全て秋宮主導の元、各国の上層部が画策した『一斉の膿出し』でしかないのだ。

 そしてもう一つ。半ば夢物語のようなセシリアの思惑や、洗脳という不確かな行為。

 それが事実であり、どこまでの効力を持っていたのか。

 セリアはそれらを全て語る。だが――


「私には彼女が言い逃れの為に発言しているようにしか思えない。彼女が実行犯である事実は変わらない。苗とは関係がなくとも、議会の襲撃は間違いなく彼女の手によるものだ」

「それは、地球の法律の話でしょう。それに事件は地球ではなくグランディアで起きました。あちらの法が適用される。なによりも彼女は被害者です。彼女を責めるのは筋違いでしょう」

「それは君がクラスメイトだから庇っているのではないかね」

「はい。大切なクラスメイトです。そのクラスメイトが、洗脳により壊れる寸前になる姿を間近で見ました。洗脳は実在します」


 またしても、納得のいかない人間は、公平であるはずのアリアへと質問する。

 すると――


「あ、私も軽度の物なら使えますよ? 無論、地球とグランディア両政府により固く禁じられています。ですが、このスタジオは緊急時の魔力遮断シェルターの役割もあると聞いていますし……もしも許可が頂けるのなら、お試しいただけるかもしれません。すみません秋宮総帥。それは可能でしょうか? やはり、地球の皆さんにも実感して頂くのが一番ではないかと」


 まさかの提案である。半分、この討論を楽しんでいるかのようだ。


「許可します。解除はすぐに可能であるなら、ですが」

「大丈夫ですよ。あ、シュヴァインリッターの皆さんもどうでしょうか?」

「私は遠慮します」

「私もフォクシーテイルの催淫は遠慮しよっかな」

「うーん……興味あるけど今回はパスで」

「あら残念」


 そして件の質問者は、かけてみろと豪語する。


「では……どうです? もうかかっているはずですが」

「は……何を言っているんだ。アリアさん、そんな物私には効きません。既に私には確固たる信念が……貴女を守り、そして身を捧げるという強い気持ちがあるのだから。洗脳など使わずとも良いのです、さぁ、私の手を取ってください、共にこの狭い世界から飛び出し、共に冒険の旅に――」

「アリアさん、止めてください」

「はい。どうです? 効果ばっちりでしたよね?」


 一瞬。普通の会話をしていたはずが、いつのまにか男はアリアに夢中になり、意味不明な言葉を口走っていた。

 正気に戻った男は、自分でも自覚無しにそのような事を言っていたという事実に、何の反論も出来ず、ただ黙り込む。

 そんな有り様を目の前で見せつけられていた一同もまた、喉を鳴らし、恐怖する。


「ええと……今のような事象が、私にもかけられていました。今のは、同じ空間にいるからこそ簡単に、それこそワンアクションで催眠状態にかける事が出来ましたが、私は、術者から遥かに離れた地球にいながら、感情を操作され……クラスメイトに……殺意を抱き、おかしな言動をずっと取り続けていたと、全てが終わった後にクラスメイトに聞かされました……。それは、魔導師の視点から見ても異常な力でした。正直、国同士とか世界同士の亀裂とかは私にはわかりません、田舎者なので。でも……魔導師的な観点から言わせて貰うと、そんな術者がもし本気で世界を滅ぼそうと動いたら……考えただけで凄く、恐いです。ごめんなさい、私はそんなに頭が良くないので、うまく言えないんですけど……」


 余談だが。可憐で純朴そうなエルフが、半分泣きそうな顔で訴えているその姿は、放送を見ていた人間の大多数を魅了し、悲しませるような質問をした人物に絶大なるヘイトを向けさせる事になったのはまた別のお話。

 だが、こうして催眠、洗脳の恐怖を実感し、ようやく自分達が途方もない脅威に狙われていたのだと理解したのであった。


 やがて、生配信も終盤に近付く。

 地球の常識が通じない事。どの程度の危機が迫っていたのかを正確に把握出来た事。

 各国の上層部が、いかに秘密裏に地球を守ろうと動いていたか。

 それらが正しく世界に伝わる配信となり、改めてユウキの偉業が、SSクラスの活躍が認知される。

 無論、各国の活躍というのは秋宮の描いたシナリオであり、事実とはまったく異なるのだが。

 同時に、世界はこの嘘をつく事に協力し、文字通り一蓮托生となる。

 これにて、完成したのだ。地球が半永久的に戦争を起こしえない、グランディアと手を取り合い歩んでいく世界が。


「では、本日の公開討論は以上を持ちまして終了とさせて頂きます。皆様、本日はお集まりくださり誠に有り難うございました。視聴者の皆様も、ご視聴いただき感謝致します。さらなる質問等は、各国情報機関により専用の窓口が開設される予定となっておりますので、政府の発表をお待ちください」


 中継が終わる。それと同時に、ユウキは颯爽とスタジオを後にする。

 これ以上、追及をされぬように。そして何よりも、失礼な質問による怒りを発散しないように。










 はああああ!! クッソむかつくな! これがゲートから遠い国と近い国の認識の差か。

 やっぱりまだまだグランディアの理解が足りていないんだな!

 この世界の家電製品は隅々までグランディアの技術と魔力の恩恵を受けていると言うのに、認識が甘すぎなんだよ! マジで一回秋宮に頼らないで自国だけでモンスター被害に対処してみろよ……! アメリカですらあの有り様だったんだぞ!

 ああダメだ腹が立つ。


「ユウキ、お疲れ様」

「セリアさん……ごめん、庇いきれなくて。まさかあんな質問、あんな事言うヤツまでいるなんて思わなかった」

「ううん、いいよ。甘んじて受け入れる。それに最後には分かってくれたと思うから。魔法は、魔力は便利なだけの資源じゃないって。凄く危なくて、慎重に扱うべき物なんだって」

「そうですねー、なんだか認識のずれた人もいましたけど、そういう人達が少しでも変わってくれると良いですね。少なくとも、あのやり取りを見ていたであろう『本当に差別されている人間』には良い情報をお伝え出来たかな、と」

「あー……やっぱりおかしい連中だったんだ?」

「恐らくは。たぶんですけど、秋宮の方でもある程度目星はついていたんじゃないかなーと」


 なにはともあれ、無事に終わってよかった。これで地球でもある程度正しい認識、事件の概要は知ってもらえるはずだ。

 まぁ尤も、これは世界にとって都合のいい真実であり、事実とは異なるんだけどさ。


「でもこれで、地球でのユウキの活動に懐疑的な目は減るんだよね……?」

「たぶんね。ただ、海上都市から出ると面倒だなーと……」

「確かにですねー。正直、今回は一年の時の事件とは規模が違い過ぎますから。本当に文字通り『世界を救った英雄』ですし」

「……まぁ、実際はそうじゃないって事は、少なくとも周りのみんなが知ってくれているから、まだ耐えられるけどさ」

「……まぁ、そうですよね」


 こればっかりはどうしようもないんだろうな。

 俺達はその後、秋宮の人間に護送されるようにして海上都市へと戻る。

 これで少しは肩の荷も下りたってものですわ




「ただいまー」


 家に帰ると、すぐにイクシアさんがパタパタと出迎えに出て来てくれた。


「おかえりなさいユウキ。配信、見ていましたよ。とても立派でした。よく最後まで冷静に受け答えが出来ていましたね。私はもう……途中からスタジオに乗り込んでやろうかと思ってしまいましたよ……」

「ははは……たぶんそうなるだろうから、収録にはイクシアさんは来ないように、ってリョウカさんも言ったんだと思いますよ」

「ええ、そのようですね。……本当ならば、リョウコとやらが行った非道な嘘も全て暴露してやりたいところでしたが……それは出来ないんですよね。ユウキは英雄ではなく、ただの被害者だったというのに……」

「いいんですよ。それを分かってくれている人が近くにいるだけで、俺は大丈夫ですから」

「ん-! 本当に良い子です、ユウキは。ギューってしますよ、しますからね」

「ぐぇ」


 とりあえず、この幸せが戻って来たので……万事OKです、はい。


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