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第百七十二話

(´・ω・`)はようゼノブレ3と風花雪月無双したいんじゃぁ

 それは、さらに隣のベッド、つまり初代聖女様が眠っていたベッドからだった。

 そこにはベッドから起き上がり、今まさに立ち上がろうとしている姿が。


「初代様! お目覚めになられたのですか!」

「ん-……厳密にはちょっと違うんだが……とりあえず一回『落ち着きな』」


 次の瞬間、セリアさんの身体が大きく震えると、そのままぎこちない動きでベッドに座る。


「身体が……勝手に……」

「すまんね。どうやらそこの青年はなんともないみたいだが……そっちの姉さんの顔が恐くてな。とりあえず荒っぽいのは無しで頼む」


 その指摘にイクシアさんの方を見ると、まさしく憤怒の形相でセリアさんを睨んでいた。


「そう睨んでやらないでくれ。この子は『囚われている』んだ。一介の魔導師が耐えられるもんじゃない。今も『殺人衝動』と『理性』の間で揺れてるんだろ。俺がなんとかしてやるから、もう少し眠ってな、お嬢さん」


 そう言うと、初代聖女様(?)がセリアさんに手を翳し、眠らせる。

 ええ……なんだこの幼女、口調がなんかこう……おっさんっていうか……。


「初代様……ではないのですか?」

「半分そう。俺はあれだ、『聖女』って仕組みの『緊急用人格』ってところかね。今、この身体にあるべき魂の全てが休眠状態にあるんだ。だからその間にこの身体を守る為に、歴代の聖女の中に紛れ込んでいた初代聖女の残滓がこうして集まって俺が生まれたって訳だ」


 ふむ? じゃあ色々不具合が出てそんな口調なのかね……?

 けれども、何故かその聖女様の様子を見て、リョウカさんが口を抑え、まるで感極まったかのような表情をしていた。


「……大体の外の状況は理解している。そのセシリアって女は、この研究院で太古の術式を含め、様々な研究をしていたんだろうさ。勿論、元は俺達の時代の術だ。それを極めていけば、やがて俺達の時代の『禁忌』にも至ってしまうんだろうさ。全部破棄したつもりだったんだけどなぁ……末端の術から辿って研究していって、千年以上前の禁忌にまで到達するって、天才どころの騒ぎじゃないだろ……」

「あ、あの……セリアさんを元に戻せるんですか?」

「出来るぞ、確実に。俺の時代にもこういう事件は起きたんだ。しかも数人単位じゃない、国民全員が洗脳され意識を変えられていたんだ。恐らくセシリアはその禁忌を数人に強くかけたんだろうなぁ……世界樹への絶対的な信仰と己への狂信っていう意識を」

「そんな恐ろしい事件が過去に……」

「初代様! そんな歴史、我が国には残っていません……!」

「そりゃあまさしく黒歴史だからな。闇に葬られてしかるべきだ。時の王だけがその事実を知り、歴史の闇に消し去ったんだろうさ。んじゃま、とりあえずこの城のどっかにある術式の楔を解呪しにいくかね」


 そう言いながら、聖女の緊急人格さん? が部屋を出て行こうとする。

 が、さすがにはいそうですかという訳にはいかず、リョウカさんとシミアさんが引き留める。


「さすがにその姿で出歩かれては……」

「ダリア、自分の今の影響力を考えてください……!」

「ん、そっか。……んじゃとりあえず……」


 すると、見る見るうちに彼女の姿が変わり、ナシアでも初代様でもない、初めて見る姿の幼女がそこに立っていた。


「ほら、これでどうだ。今代の聖女でもない姿だ。これならまぁ問題ないだろ?」

「それはまぁそうですが……自由に城内を見て回るのならば、どの道私も同行した方が良いでしょう」

「私も同行します。良いですね、ダリア」

「ん、了解。……その娘さんに誰か着いててやりな。そこの生徒諸君、任せたぞ」

「え、あ、はい! 了解しました」


 あまりに急展開に置いてけぼりだった一之瀬さん達だが、その聖女のお願いに代表して一之瀬さんがハキハキと答える。

 そうだよな、どんな人格だって偉人であるのは変わらないんだから。

 何よりも一之瀬さん、こういう役割に憧れている節があったし。

 

「あの、すみません」


 リョウカさんとイクシアさんが行くのなら俺も一緒に行きたいと申し出ようとする。


「ん。そうだな、お前さんも来ると良い。この件の当事者だ、最後を見届ける権利はお前さんにもある」

「ありがとうございます!」


 思ったよりもずっと話の分かる人……みたいだ。






 研究院から出て、そのまま城の地下に向かう聖女様達。

 そこは、以前訪れた事のある、地底湖のある観光スポットだ。


「さてと……一応、これから向かう場所は王家の許可がいる場所だ。さすがの俺も今の王に無断で入る訳にはいかない。シミアさんや、ちょいと王様にかけあって貰えないか。ここの封印は王の許可がないと解かれない」

「ここは……我が国の前身である国の……国王の霊廟、ですね」

「そうなるな。形骸化した聖地というか、禁足地だろ。頼まれてくれないか」

「……必要なのであれば、是非もありません。行ってまいります」

「すまんね。まさか今の時代まで律儀に封印が守られているとは思わなかったんだ」


 湖から離れた洞窟の深部。観光スポットや商店からも離れた、寂れた遺跡の残骸が微かに残る場所で、聖女様はシミアさんにそう指示を出す。

 なんだか、俺はその話を聞いて、どこかおかしなものを感じていた。

 シミアさんが王様の元へ向かったところで、イクシアさんが口を開く。


「国王が眠る地だというのに、どこかなおざりと言いますか……国が管理している場所とは思えない様子……ですね」

「……そうですね。ダリア、これはつまり……」

「意味のない物なんだよ、本来。前身である国『サーズガルド』の初代国王はそこまで大事に祀り上げられる存在じゃあないって事だ。それでも、国民に示しを付ける為、時の王はこの場所を作り、形だけの封印を施し、今日まで過ごして来たって訳だ」

「それで、この場所がセリアさんにかけられた術の起点だと?」

「恐らくな。王家の血筋しか入れない場所だ、セシリアも元は王家に連なる人間だったのに、後に自ら自分を王家から廃したって話だ。疑うのは自然な流れだろ」


 きっと、この聖女様は初代の国王を知っているのだろう。


「お、封印が解かれたな。シミアが戻る前に終わらせるぞ、ちょっと現王家に見せるのは憚れる事をするから」

「何をするつもりなんですか?」


 俺がそう聞くと、聖女様は霊廟の扉を押し開き、中に安置されていた石の棺を――


「フンヌ!」


 蹴り砕いた。文字通り砕け散りました、粉々に。

 え、なに風化してたの? それとも超パワーなのこの幼女!?


「ほら、やっぱり起点だった」


 その瞬間、霊廟全体から微かな異音、まるで小さな羽虫が飛ぶような音がしたと思ったら、そのまま静まり返ってしまう。


「あれだけでいいんですか? ダリア」

「ん、問題ない。いくら神話時代の術を再現出来ても、所詮起点はこんなもんだよ」

「……これは、すぐにここを出て扉を閉じた方が良いでしょうね」


 ですよね。この惨状はちょっと見せられないな。

『風化していた』じゃ済まされないでしょ、これ。




「ただいま戻りました、聖女様」

「おかえり、シミアさんや。もう内部の調整は済ませたから、一緒に戻ろう」

「え、もう終わってしまったのですか? 後学の為見学をしたかったのですが……」

「いやいや、国を狂わせる術なんて後学の為であれ今を生きる人間が見るべきじゃない。ここにいる三人も何も見ていないんだから」


 はい、何も見ていません。幼女スーパーキックなんて見てないです。


「早いとこさっきの娘さんのところ、セリア嬢ちゃんのところに戻るか。影響が出ているはずだから」

「これで、今度こそ正気に戻っていたら良いんですけど……」


 別に、俺がセリアさんに嫌われたり悪意を向けられる事は、ある種仕方のない事だとは思っている。

 でも、ただそれでもセリアさんが自分以外の何かに心を弄られているという状況が嫌なのだ。

 もし、影響がなくなった上で、それでも俺が憎いのならば……その時は諦めて距離を取る事しか俺には出来ないけれど。


「ま、正気には戻るだろう。ただそれでもあの娘さんは苦しむよ、そいつは絶対だ」

「ダリア、言葉を選んでください……」

「嘘は言わんよ。だが、別に苦しんでる子を放っておく人間しか彼女に周りにいない、なんて事はないだろ。だったらなんとかなるだろうさ」


 そうだよ。たとえ俺が拒絶されても、それでも手を差し伸べる仲間がいる。

 いや、俺だって和解の道を模索する。

 そうして俺達は再び病室に戻り、セリアさんの様子を見守るのだった。






 聖女様に眠らされていたセリアさんが目を覚ましたのは、俺が一般の個室に移った後の事だったそうだ。

 俺はまたぶつけられる悪意が恐くて、こうして部屋で休憩という逃げに徹している訳だけど。

 結果から言うと、セリアさんの異常な程の俺への憎しみは消えた。けれども、確かに苗を破壊された瞬間、俺に抱いた憎しみは本当だった、とセリアさんは語っているらしい。

 ……そして、俺にだけは会いたくないと言っているそうだ。


「そうだよな……俺、どうしようこれから」


 自室でそう呟いたその時、その呟きを拾い上げる様に、誰かの声が室内に響く。


「相手の立場になって考えてみな。ありゃ『会いたくない』っていうより『会わせる顔がない』ってニュアンスだろうに」

「え!? ちょ、聖女様!?」


 突然、俺の部屋にあるベッド、その枕カバーの中から現れる聖女様。

 え? なんで? この人いつからここにいたの? っていうかなんで枕?

 俺さっき少しその枕で寝てたんだけど! 妙に温かった気がしたけど!?


「いやな、サシで話したいと思って忍び込んでいたんだが、そのまま寝っ転がるから声かけるタイミングを逸したんだよ。ちなみにこの枕カバーは自前だ」


 そう言いながら枕カバーを脱ぎしまう聖女様。……なんだ、凄く俗っぽいぞこの人。


「まぁ実際、苗を大事に思うのは洗脳関係なしにこの国に住む人間なら当然だ。ましてや彼女は聖女候補だったんだ、そいつは仕方ない。だがな? 世界樹の苗よりも、共に過ごして来たクラスメイトの方が気になるんだよ。だから、他の連中はお前が起こした事件の『理由』を探ろうとした。が、セリアはそれが出来なかった。一時沸き上がった感情が、いつまでも残り燻り、お前さんの事を一切信用出来なくなっていた。言動もおかしかったってクラスメイトの連中からの証言も、本人からの証言も得て来た。だから、まぁなんだ。後は――」


 聖女様は、この妙に俗っぽい男臭い幼女は、俺にその情報を伝える。


「お前さんが迎えに行って言葉をかけてやるしかないんだよ。お前さんがやる事なんてそれだけだ。ビビってないで、とっとと娘さんのところにいってやるといい」


 ……情けないな、俺。そうだよ、ちょっと考えれば分かるじゃないか。

 俺だってみんなと再会するのは恐かったんだ。セリアさんだって……!


「感謝します、聖女様。俺、行ってきます」

「聖女様ってのはやめてくれ、厳密には違うんだ。ダリアで良いダリアで」

「はい、ダリアさん!」




 集中治療室、俺達が眠らされていた場所には既にセリアさんの姿はなかった。

 どこに行ったか尋ねると、俺と同じく個室に移されたという話だったのだが、そちらにも姿はない。

 すると、近くにキョウコさんがいたので、見かけなかったが聞いてみる事にした。


「ササハラ君、もう動いて大丈夫ですの?」

「うん、もう平気だよ。セリアさん、どこにいったか知らない?」

「……先程も言ったように、今彼女は……」

「それでも、知らない? 俺は彼女と話さないといけないんだと思う」


 事情を知るクラスメイトもまた、気遣うように言葉を濁す。

 それでキョウコさんに頼み込む。


「……外の空気を吸いたいと言っていました。場内だとしたら、地底湖ではないでしょうか」

「分かった。有り難う、キョウコさん。みんなで学園に戻る為に……頑張って来る」

「……そう。ええ、そうね。貴方はみんな一緒じゃないと嫌なのよね。頑張って来なさいな、ササハラ君」


 強くうなずき、城の地下へ、地底湖へと向かう。

 思えば不思議な場所だよな、ここ。城の地下にこんな大きな湖があって、それがこうして観光地になっているなんて。

 城の治安上の問題もありそうなものなのに、こうして外部から直接この場所を訪れる人間も多い。

 それほどまでに、本来この国は強固な魔法技術に守られているのだろう。

 たとえば、セシリアのような力が国防に使われていたとか。


「……きっと、人気の少ない場所だよな、いるとしたら」


 俺は、つい先刻ダリアさんと共に訪れた、初代国王の霊廟へと向かう。




 ここも不思議な場所だ。ダリアさんは『初代国王は祀り上げられるような存在じゃない』と言っていたけれど、一体どんな事件があったのだろうか。


「過去も気になるけど、今はセリアさんだ……ほら、やっぱりいた」


 こんな観光地なのに、何故か霊廟の周りだけは人が寄り付かない。

 きっとセリアさんはそれを知っていたのだろう。小さい頃からこの城で魔術を学んでいたのだから。

 俺は、霊廟の瓦礫の一つに腰かけ、物思いに耽っていた様子の彼女の背後に忍び寄る。

 そして……逃げられないように、彼女の手を握り、話しかける。


「掴まえた。逃げないでね、セリアさん」

「っ!? ユウキ!? 放して! 私またユウキの事――」

「別に、良いよ。だから少し話そうよ」


 振り返った彼女が、驚いた表情で逃げようとする。

 放さない。たぶん、ここで放したらもう彼女は戻ってこないような気がするから。


「全部、聞いた。全部俺なりに理解したつもりで、ここに来た」

「っ! なら、私がユウキを憎んだのも本当だって知ってるんでしょ!」

「うん。誰だって喧嘩する時は相手の事を一瞬、憎む物だよ。俺なんか小さい頃は本気で相手の事『死んでしまえ』なんて思った事あるし」

「でも! 私は子供じゃない! 本気で、本気でユウキの事を殺そうと――」

「うん。俺も、もし家族を殺されたら、相手を殺そうと思うよ。セリアさんにとって世界樹の苗はそういう存在だった。そういう感情が出るのは当然の事だよ。それで……その気持ちを利用された」

「……ユウキはそれでいいの。殺そうと本気で思った相手のところにきて。また、私がユウキを殺そうとするかもしれないのに」

「それはないよ。だって術の影響だって知ってるし。セリアさんは他の皆と違い、誰よりも俺の離反で苦しんだ。術の影響もあってさ。だから……」


 もう、いいじゃないか。

 もう投げてしまってもいいじゃないか。

 面倒な感情も理由も思いも全部、自分で抱えたり、誰かに相談して解決したり、納得しなくてもいいじゃないか。


「全部、全部術の所為にしちゃおうよ。その苦悩も全部術の所為。俺の離反もセシリアの所為。セリアさんの苦悩も全部元を正せばセシリアの所為。全部全部全部、セシリアと術の所為。なんだったら、こんな危ない術を残した神話時代の人間の所為にしたっていいよ。初代聖女様だって言ってたよ、自分達の責任だって。だから、もう全部投げようよ。セリアさん、全部他の人の所為にしてさ――」


 握っていた手を、今度は引き寄せる。


「ぜーんぶ誰かの所為にして、ただ平然と、知らん顔して俺達の所に戻って来てよ」


 もしも、セシリア以外の誰かにも責任があるとするのなら。

 それはセリアさんじゃない、俺だ。苗に直接手を下した俺だ。

 だからセリアさんは何も悪くないんだ。


「……私、そんなに無責任な事、言えないよ?」

「俺が言い張るよ。だって、セリアさんさっきから俺の手、振りほどこうとしてないもん。俺と一緒に戻って来てくれるって事でいいよね? いいでしょ」

「ユウキ、それはちょっと暴論だよ」

「うん。でも流石に今回は譲らない。折角全部終わったんだから、セリアさんも戻って来て欲しいな」

「……本当に良いの? 私、ユウキがいる場所にいてもいいの?」

「うん、良い。だから一緒に戻ろう。きっとこれから先、面倒な言い訳? とかもあるかもしれないけど、みんな一緒ならどうとでもなりそうだし。だから行こうよ、みんなのところにさ」


 狼狽えているような、遠慮しているような、そんなどこか戸惑っている様子のセリアさんの手を引き、立ち上がらせる。


「帰ろう、セリアさん。一緒にこれからの事、みんなところで考えよう」


 俺は最後まで、彼女の手を離さず、そしてみんなのところへ戻る。

 俺にとって、今回の事件はこれでようやく一段落ついた。そんな風に思ったのだった。


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