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第百七十一話

(´・ω・`)お待たせしました

 セシリアの引き起こした『議会襲撃事件』から三日、今回の事件の功労者であるユウキと聖女ダリア、そして……被害者でもあり被疑者の疑いもかけられているセリアの三人は、未だ目を覚ます事なく、研究院の集中治療室で眠らされていた。


「恐らく、聖女様が目覚めるのは数年程先になってしまうでしょう。公にはされていませんが、聖女という存在はその役目を終えた後、永い眠りにつき、次に目覚めた時は以前の記憶を全て失い、別人として新たな人生を歩み始めるのです。今代の聖女ナーシサス様も、先代が眠りにつき、その数年後に目覚め、そこから聖女としての学びを得ていたのです」


 治療室で眠る三人の傍らでリョウカとイクシアの両名に事情を説明しているのは、暫定的に研究院の責任者として就任した、国王の長女、ノルンの姉にあたる『第一王女シミア』だった。

 その話を聞き、二人は静かに納得し、次の人間の容態を訊ねる。


「ササハラ様は、インサニティフェニックスの力により生命の輝きを取り戻しました。ですが、純正のフェニックスではない関係で、身体にかかる負担や、精神面への軽度汚染、その他副作用を中和する為、投薬治療が行われております。そこまで心配する必要のある症状ではありませんが、もしかしればもう二日程眠ったままの可能性はあります」

「そういうことでしたか。では、そういった副作用を抑え込む霊薬があれば、治癒の促進に繋がる、と?」

「恐らくは。ですが、最後にインサニティフェニックスによる治癒が行われたのは五〇〇年程昔の話です。どのような薬品が効果を出すのか資料が残っていないのです」

「それでしたら問題はありません。神話時代から伝わっている、と謳われた霊薬を秋宮で確保し、シュヴァインリッターにて保管してあります。後程、こちらに運ばせますので、ユウキ君に投与してみてくださいませんか?」

「そのような物が……しかし、出自の不確かな物は……」

「いえ、その薬は、彼が一昨年の地球で起きた橋爆破事件の際、瀕死の状態から蘇る事が出来た程の効能があります。そうでしたよね、イクシアさん」


 それは、暗に『薬の調合をお任せします。投薬は出来るように取り計りますから』というリョウカからイクシアに向けたメッセージだった。


「そういうことでしたら、お願いいたします。我が国を救った英雄の一人です、取れる手段は全て取りたいと考えています」

「薬は、投薬する相手の身体に合わせて調整する必要があります。イクシアさんは高度な魔法薬学を治めておりますので、後程機材一式の使用許可を頂けると」

「分かりました。では……イクシア様、後程研究室にご案内します」

「ありがとうございます、シミア様」

「……あの、様は必要ありません。妹のノルンのように、気安くお呼びください」

「ですが……」

「その……既にノルンにも言われているかもしれませんが、生前の母にとてもよく似ていらっしゃるので……」

「……では、そういうことでしたら……宜しくお願いしますシミアさん」


 イクシアがそう答えると、シミアは感極まったかのような表情を一瞬浮かべ、すぐに研究室の一つを手配させた。


「それで……セリアさんの容態はどうなのでしょうか」

「彼女は……恐らく、セシリアから重度の洗脳魔術を受け、さらに聖女様の攻撃も受けた、という報告が上がっていますので、いつ目覚めるかは……身体に外傷もなく、脳波の波形もほぼ正常値に戻りつつあるのですが」

「なるほど。……まだ、洗脳が残っている可能性も捨てきれません。病室にもしもの時に彼女を食い止められる人間を待機させておく事は可能でしょうか」

「こちらからお願いしたいところです。主犯であるセシリアは捉えられましたが、まだ彼女の手の者が城内、兵の中に紛れている可能性も捨てきれません。リョウカ様が派遣して下さる人間の方が安心出来ます」

「了解しました。では、ユウキ君の同級生である生徒をこちらに控えさせておこうと思います」


 そうして、SSクラスの生徒が病室で待機し、ユウキの目覚めを待つ、という体勢が出来上がり、同時にイクシアは至急霊薬の調合に取り掛かる。

 リョウカも議会の映像データを加工し、世界に発信出来る形に編集を始めた。

 ユウキが眠りについている間に、刻々と事態は動いていく。

 そしてユウキが眠りにつき五日。この日、イクシアの調合した薬が投与され、クラスメイトが見守る中、ついにユウキが目を覚ましたのだった。








 目を覚ますと、そこにはこちらを見下ろすイクシアさんの顔が間近にあった。


「ユウキ! この子はどうして……私を心配させるような事ばかり……!」

「ぐぇ!」


 押し倒されるように抱きしめられ、助けてと暴れても一向に止めてくれない。

 そんな中、第三者の声がイクシアさんを諫める。


「イクシアさん、まだ病み上がりなのでその辺りで。他の皆さんも見ていますし」

「そうですね……おはようございます、ユウキ」


『他の皆さん』とな。いやちょっとここどこなんですか。

 首を動かし周囲を見てみると、何やら大きな部屋で寝かされていた事が分かる。

 高い天井に、様々な医療機器、それに理科室にあるようなガラス器具。

 病院の一室と呼ぶには広すぎる場所だ。


「俺、どれくらい寝てました?」

「五日です、ユウキ君」


 そう答えてくれたのは、リョウカさんだった。

 リョウカさんだけじゃない。俺の眠っているベッドの近くには、医者……かなにかだろうか、綺麗な白衣の女の人と、クラスメイトの皆もいる。

 え、じゃあさっきの見られたの? 恥ずかしいんですが。


「事件後の事を教えて貰えますか?」

「ええ。セシリアは現在投獄されています。魔力の大半と生命エネルギーを失い、もはや反抗する力も残されていないでしょう。それだけの代償を払った魔法により、ユウキ君も命を落とすところでしたが、サトミさんの召喚獣の力で命を繋いだ、という状況です」


 やっぱりそうか。あの時、俺が受けた魔法は……何かは分からないけれど、感覚的にとてもよくない物だという事は分かっていた。そうか……サトミさんのお陰で俺は……。


「セシリアの犯行を証明する映像も現在編集中です。ユウキ君の指名手配も、少なくともグランディアでは解除される運びでしょう。地球へは、まだ少しだけお時間を頂く事になるでしょうが」

「……事件が解決に向かっているのなら、俺はそれで満足です。……俺以外の二人はどういう状況なんですか」


 俺は、周囲の状況を確認する為にベッドから起き上がり、そこで目に映った光景につい、そんな質問をしてしまう。

 広い部屋。一人では広すぎる部屋。ベッドがもう『二つ』並んでいたのだ。

 そこに寝かされているのは、セリアさんと……初代聖女様だった。


「……その話を今する訳にはいかないでしょう。他の皆さんがいますから」

「セリアさんは俺達のクラスメイトです。聖女様の事について外部に漏らせないって事は理解しています。ですが、俺達はもうただの学生ではありません。この事件の中枢に関わっているんですよ」


 言い淀むリョウカさんにそう伝えると、先に一之瀬さんが俺をなだめる様に――


「いいんだ、ササハラ君。理事長、我々が居てはままならない話があるのでしたら、一度退室したいと思います」

「……いえ、良いでしょう。シミア様。ここにいる生徒達はいずれも我が秋宮の預かる生徒の中でも、ササハラユウキに匹敵する人間としてこの事件に関わっています。この国の秘術、歴史に関わる話を聞かせてしまう事になりますが、構いませんか?」


 俺が医者だと思っていた人は、どうやら立場ある人だったらしい。

 シミアと呼ばれた女性は、少し考えた後に頷く。


「良いでしょう。彼等もまた、我が国の闇、事件を解決する為に奔走した英雄。それを知る権利を有するのでしょうね」


 我が国……?


「感謝します、シミア様。では、ユウキ君の質問にお答えします。現在、セリアさんの肉体に封じ込められていた歴代聖女の魂は、初代聖女ダリアの魂の力で全て外にはじき出され、聖女の肉体に再び吸収されました。ですが、酷使された魂は恐らく今、深い眠りについているのでしょう。彼女が目を覚ますのは……まだもうしばらく後になるかと」

「……そうなんですか。セリアさんも、ですか?」

「いえ、セリアさんには先程ユウキ君に投与したのと同じイクシアさんが用意してくれた薬が投与されていますので、もう間もなく意識を取り戻すはずです」


 そうか、イクシアさんの薬が……。

 でもよかった、セリアさんも目を覚ますのか!


「あ、そういえば……そちらの方は一体? どうやらご迷惑をおかけしたみたいですし」

「そうでしたね。こちらは、セシリアの後を引き継ぎ、ここ研究院の総責任者に就任した『シミア・リュクスベル・ブライト』様です。ノルン様のお姉様にあたります」

「ご紹介に与りました。シミアと申します。ノルンから貴方の事はよく聞いています。ユウキ様、この度は我が国の人間が引き起こした事件により、貴方にはとてつもない大きな汚名を背負わせてしまいました。その汚名をそそぎ、我が国の英雄としての真実を世界に示し、再び平穏な生活を取り戻す事が出来るよう、全力でお手伝いさせて頂きます」


 医者だと思っていた女性が、マスクとキャップを外し、そう自らを紹介した。

 え、じゃあ第一王女じゃないですか……めっちゃ偉い人じゃないですか……。

 後あれです。ノルン様以上にイクシアさんそっくりじゃないですか……一緒にいるともう姉妹というかなんというか……。


「いえ、俺は成り行きに身を任せたにすぎません。恩寵も感謝も、本来であればこれまで秘密裏に動いて来たUSMの皆さんの物ですよ。俺はこうして治療をして頂き、クラスメイトのセリアさんもこうして手厚く看病してもらっている事だけで満足しています」

「……本当に、聞きしに勝る謙虚な方ですね。まだ、お体は本調子ではないと思いますが、さすがにこの場所では窮屈でしょう。すぐに一般のお部屋をご用意します。後程、父と妹、母もご挨拶に参られますので、何卒宜しくお願いします」


 リョウカさん助けて。なんか凄い事になってきた。

 そう思い助けを求める様にリョウカさんに眼差しを向けると――


「さすがに、これは逃れる事は出来ません。それに……地球に戻ってからの方が面倒な事になるでしょうね。ですが、私が全力でサポートしますよ」

「うう……」


 その時だった。隣のベッドからうめき声が上がる。セリアさんだ。

 俺もベッドから飛び起き、皆と一緒にセリアさんの様子を見つめる。

 苦しそうにうめき声をあげていたと思ったら、次の瞬間ハッと目覚める。

 だが――


「ユウキ……ユウキ!!!! そこをどいて! 離れろ、ユウキ!!!」


 まるで、腹の底から煮えたぎっているかのような怒りの感情を、怒声と共に浴びせられる。

 それがあまりにもショックで、呆然と立ちすくんでしまう。


「ユウキ、避けろ!」

「え――」


 その瞬間、セリアさんが飛び起き、両手が俺の首に回される。

 けど、残念だけど、本当に残念だけどセリアさん。


「ぐ……ユウキ……!」

「……無駄だよ、セリアさん」


 もう、ただのセリアさんなんだ。

 グランディアの姿の俺が、リミッターなしの俺が、全力の俺が、セリアさんの攻撃を受ける事はありえないんだ。

 セリアさんの力では、爪が俺の皮膚に食い込む事すらない。全力の身体強化は、そこまでの防御能力も俺に与えてくれるのだから。

 でも違った。俺は、俺を見上げながら首を締めようとしているセリアさんの表情を見て、初めてそれが異常な事なのだと理解した。


「ユウキ! セリアさん、手荒な真似を許し――」

「ストップ、イクシアさん。みんなも落ち着いて」


 武器を手にする皆を下がらせる。


「……セリアさん、どうしたの。このままの体勢で良いから、説明して」


 憎しみ、怒りに染まった瞳。歯をむき出し怒りの形相に陥っている彼女。

 けれども、ずっと涙を、とめどなく溢れさせながら、必死に呪詛の言葉の合間に小さな呟きを挙げていた。


「黙れ、黙れ、お前は……! 離れろ、ユウキ、離れて! 止めて、振りほどいて! ユウキは敵だけど悪くない……! 敵じゃない! 殺すべきじゃないけど敵だ!」


 もはや、支離滅裂だった。心が壊れる間際のような、今まさに壊れ行く人間のような、異常な言動。


「誰か! 助けて! 殺して! ユウキと私を殺して!」


 そのあまりに異様な光景に、身動きが取れていない一同。

 だがそんな中、唐突に第三者の声が聞こえて来る。




「あー……やっぱりどっかで楔壊さないとダメっぽいなこりゃ。なんだか申し訳ないなぁ……俺らの時代の負の遺産がこうしてこんな事件を引き起こしたなんてなぁ……」


 どこか間延びしたような、男臭い話し方をする『少女の声』だった。


(´・ω・`)いやぁ執筆時間なかなかとれなくて、時間が出来たらついついエルデンやっちゃって

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