第百七十話
サーディス大陸祭祀場で、今まさにユウキが最後の戦いに臨もうとしていたその時。
遠く離れた地、地球のある国で、ヨシキは寝ころびながら一人空を見上げていた。
「そうか、そうだよな。平和を願う人間が運命に抗い、挑もうとするのもまた『正しい』からな。……それがきっと、最後の引き金になるとも知らずに」
まるで、今起きている事を全て知っているかのように、一人ごちる。
するとそこに、影が差した。
「ヨシキさん、ただいま戻りました」
「ん、遅かったねマザー。例の任務、それに久々のグランディアはどうだった?」
「ちょっと屋敷やファストリア大陸の様子を見てきました。それと……やはり、あちら側の勢力はヨシキさんを殺す算段も用意しているみたいでした。私が仕留めておきましたが、あれだけで終わるとも思えません」
「……まぁ、そういう存在が生まれるのも予定調和だよ。きっと、この正しさの果てに俺は『彼女』に恨まれるんだろうな」
「……本当に、『彼』が?」
「間違いない。そして……今回の事件が終われば、いよいよ世界の許容範囲を超える。その先に待つのは……どちらかが生き残る争い、戦争なんかじゃない。文字通り全部消える」
ヨシキは、全身に力をみなぎらせるように、覇気をまとうようにして起き上がる。
「それだけは、俺が許さない。俺の全身全霊を以って、元凶を取り除く。まだ変化はしていないが、これはもう確定した未来だ」
「……視えたんですか?」
「ちょっと違うね、知る事が出来る。何かの思考をうっすら知る事が出来るんだよ。だから、こればかりは逃れようのない運命なのさ」
「……では、今はただ祈りましょう。正しく世界が歪み、正しく事件が解決される事を」
「リョウカさん、イクシアさん! まずはセリアさんの対処を集中してやります! リョウカさん、難しいかもですけど、俺とイクシアさん、両方への補助をお願いします。イクシアさん、セリアさんを攻撃しながら、同時にセシリアの魔法の対処を」
難しい注文だとは分かっているけど、これが今出来る最善策。
リョウカさんなら、きっと二人同時でも補助が出来るはずだ。それにイクシアさんの魔法の腕なら、セシリアの魔法に後れをとる事はない。
後は俺が出来るだけセリアさんの足を止め、イクシアさんがさらに追撃する隙を生み出せれば……そこにさらに俺が追い打ちをかける。これなら、綱渡りだけどセリアさんの動きを完全に封じられる瞬間も生まれるはずだ。
「あら、戻って来たのアナタ。機材は諦めたのかしら」
「あんなハッタリに踊らされる俺じゃないんでね。お前、本当は結構追い詰められてんだろ?」
口プレイは慣れっこなんだよ。煽らせてもらうぜ。
「セリアさんが戦えるのだって、いつまでか本当は分からないんだろ? 早く再調整したいんじゃないの? それ、本当に大事な部分、魂が抜けてるんじゃないの?」
ほら、初代聖女様の魂とか。
「……もういいわ。セリア、本気で潰しなさい。私の事よりも、そいつらの殲滅を優先なさい」
ほら、乗った。図星を差されるのはイラつくもんな。
「いきますよ、イクシアさん」
「はい。……こうしてユウキと肩を並べて戦うなんて。不思議な気分です」
俺の全力の踏み込み速度にも、イクシアさんは合わせてくれる。
全力の俺達の攻撃に、リョウカさんの補助が正確に届く。
セリアさんの攻撃を、余裕はなくとも無理をしないで相殺する事が出来る。
さっきとは違う。最高の前衛二人で挑んでいるんだ、当然だ。
セリアさんの斧を俺が受け止め、そのままノータイムで斧からあふれ出る魔法を、俺が風の魔導で勢いを弱める。
勢いの弱まった魔法を、イクシアさんが魔法の剣、青い炎で薙ぎ払い打ち消し、その余波でセシリアにまで攻撃する。
防ごうとするセシリア。その隙に、リョウカさんの追撃が刺さる。
けれども、セリアさんはセシリアに『殲滅を優先しろ』と命令した関係か、それに気を取られる事がなくなっていた。
俺の煽りは逆効果だった? ……いや、でもこのままうまくやれば、先にセシリアを戦線離脱させる事も出来るかもしれない。そうなればもう、三対一だ。
「ハッ! イクシアさん!」
「はい! ……セリアさん、治療は後でしますから!」
幾度となく、セリアさんの身体を高温の炎が焼く。
けれども、セリアさんはイクシアさんとは違い、回復魔法が使える。
怯まない、回復も可能な超火力の前衛の魔導師。ゲームならぶっ壊れキャラもいいところだ。
それでも隙はある。負けイベだって、努力で覆す事が出来るのが良ゲーだ。
だから俺の人生は、少なくともそういう事がこれまでだって出来てきた良ゲーだ。
「イクシアさん、ちょっと今から無茶します。セリアさんをこれで完全に止めるつもりでお願いします」
全力。命を削る、最高出力の身体強化。
ディースさんとの一戦で俺が感じた、限界を超える感覚を今再び。
「……一瞬で終わらせます、ユウキもすぐに止める準備を」
身体の動きが、セリアさんと並ぶ。
リョウカさんの補助の力で、ついにセリアさんの攻撃を受け止め、大きく弾き飛ばす。
一瞬生まれた隙。そこに、イクシアさんの渾身のボディブローが叩きこまれ、ついに彼女の手から大斧が離れ、致命的な隙が生まれる。
「今です!!!!」
これで良い、この隙さえあれば十分なんですよね? 聖女様。
「上出来です。……さぁ、帰って来なさい」
物陰から、光を纏った聖女様が飛び出し、隙を見せたセリアさんの身体めがけて、とてつもない速度で向かっていく。
そのまま、彼女はまるで自分全てをぶつける様にして、セリアさんと激突、閃光が辺りを照らす。
「馬鹿な……今のは確かに……初代聖女……」
「ユウキ君、あれが……彼女が秘策、でしたか」
セリアさんと聖女様は、光が止むとそのまま地面に横たわり、ピクリとも動かないでいた。
急ぎ脈を確認すると、二人とも無事なのが――
「ユウキ、危ない!」
「死ね、全員もう死んでしまえ!! 私は新たな歴史を紡ぐ、過去の遺物など消えてしまえ!!!!」
イクシアさんの声に振り返る。
セシリアから、形容できない何かが、迫って来る。
炎でも闇でもない、何か。不穏な気配のする何かが、まるで何かを終わらせるような、負の感情をぶつけられているような、そんな気配。
イクシアさんが、俺と聖女様、セリアさんを庇うように目の前に踊りでる。
「……ダメだよイクシアさん」
まだ、俺の身体強化は終わってない。よかった、これなら俺が間に合う。
迫りくる何かに立ちはだかるイクシアさん。ゆっくりと流れる時の中、彼女の肩を掴み、後ろに投げ飛ばす。
よーし、いいぞ。聖女様とセリアさんも一緒に巻き込んで遠くにいった。
すげぇなぁ、本当に時間をゆっくりに感じられるんだ、こういう時って。
何かが、俺に触れる。音を立てて、前にイクシアさんから貰ったタリスマンが砕け散る。
綺麗な飾りがついていたのに、もったいないなぁ。
砕けたと思ったら、今度はその何かが、俺の身体に染み込んで来る。
「これ……きっとあれだよなぁ……即死魔法みたいなヤツなのかなぁ」
視線の先で、セシリアの風貌もまた、一挙に老けたような、疲れ果てたような姿をして崩れ落ちるのが見える。
なるほど、半ばヤケになった攻撃か。
身体を何かが通り抜ける。全身から、何かが抜け落ちるような、そんな感覚がする。
思考がゆっくり、白んでいく。眠いわけじゃないのに、不思議な感覚。
なんだ……これが本当の終わり……なのか。
セシリアの最後の魔導、命がけのそれは、ユウキの献身によりイクシア、セリア、聖女の身体を守りきった。
それと同時に崩れ落ちたセシリアへ向かい、リョウカは駆け寄りすぐに拘束の魔導具を使う。
その足で彼女は、ユウキではなく、先に聖女の元へと向かった。
「……聖女様、いえダリア! まだ意識はありますか! 何故、何故あなたがこんな真似を……!」
閉じかけの瞳の聖女は、小さく口を動かす。
「……お久しぶりですね……いえね……私は正しさよりも……自分の正義に従いたくて。ヨシキと……私は友達ですけど、思想が同じという訳ではない……から……」
「ダリア! セリアさんはどうなったのです、あれは本当に貴女の魂だったのですか!?」
「そうです、私のいわば……子孫でしょうか。……今は暫く、聖女はお休みです。魂がお互い消耗してしまいましたから……ナシアには悪い事をしてしまいました。まだ幼いのに……私達と共に、永い眠りに……ついて……」
それっきり、聖女は瞳を閉じ、死んだように意識を失う。
リョウカはそれを見届け、今にも泣き出しそうな顔で彼女を抱きかかえ、安全な場所に運ぶ。
「これで……解決でしょうか――」
そう呟いた時だった。祭祀場に、恐ろしく悲痛な慟哭が響き渡った。
「あああああああああああ! ユウキ、ユウキ!!!! どうしよう、ねぇどうしようリョウカさん!!!!!!! ユウキが息をしていません……!」
倒れ伏し、脈のないユウキに縋りつき、必死にリョウカに助けを求めるイクシア。
彼女はそのまま、倒れているセシリアに向かい、怒鳴りつける。
「何か! 何かないのですか!!!!! 回復薬、ポーションは!!!! 回復魔法は!!! なんとか言いなさい、答えろ!!! この外道が!!!!!!」
「ぁ……ぅ……」
「クッ! セリアさん、目を覚ましてください! 回復魔法、使えませんか!?」
セシリアはダメだと、床にたたきつける様に投げ捨て、今度は気を失っているセリアに必死に語り掛ける。
だが、当然それに応えるはずもなく、次に彼女は、今リョウカが抱いている聖女へと向かう。
「聖女様……! ダリア様……! どうか、どうかお力を……!」
「……イクシアさん、彼女はもう長い眠りについてしまいました。今、貴女が起こすべきはサトミさんです……まだ、気を失っています、急いでください」
「サトミさん……? 分かりました」
その慌てよう、狼狽えよう、恥も外聞も捨てた哀れな有り様は、まさしく子を今失いつつある母親そのもの。
リョウカは聖女を椅子に寝かせると、すぐにユウキの元へ向かい、自分に何かできないか手段を探す。
「……手持ちの薬はもう……ありませんか。道具のない私はとことん……無力ですね」
そう言いながら、彼女は気休めかもしれないが、ユウキの身体に自分の補助を掛ける。
「まだ、魔法の対象になっている以上、命はある。……本当に消えかかっているようですが……今回は、彼の加護は得られなかったんですね……」
かつてユウキは一度、ヨシキの力により死の淵から蘇った経験があった。
だが、今回ヨシキはその加護をユウキに与えなかったようだ。
それが、普通なのだ。あの時はただの気まぐれ、愛する妻であるR博士の頼みを聞き入れたからこその話。
「サトミさん……起きてください……お願いします、起きてください……!」
イクシアは、サトミが身に着けているカモフラージュ用の調査団の装備の中から、支給品の薬を取り出し投与する。
劇的な効果はないが、それでも気つけ程度にはなるそれを、惜しげもなく与え目覚めを待つ。
「イクシアさん、サトミさんの様子は!」
「待ってください! ……起きて、ねぇ……お願いします……」
もはや、彼女らしくない弱音を吐き出しながら、目を赤く腫らしながら祈る。
するとその祈りが届いたのか、サトミが呻き声を漏らす。
「う……ううん……」
「サトミさん! 起きて、起きてください! 助けてください! 助けてください!」
「う……え……? イクシアさん……私……」
「しっかりしてください! お願いします……! 貴女ならユウキを救えると聞きました! 今、ユウキが死にそうなんです!!!! お願いします!!」
まだ意識が曖昧なサトミに、無理やり言い聞かせるようにイクシアは望みをぶつける。
さすがに、看護の道に進もうとしているだけはあり、その言葉を聞き意識を覚醒させるサトミ。
すぐさま、身の内に宿る神霊獣の魂、インサニティフェニックスの雛を召喚する。
「どこです、今すぐ向かいます」
「こっちです!」
駆け寄り、地面に横たわるユウキの前に連れてこられたサトミは、ユウキの余りの顔色の悪さ、土気色とも呼べる程の変わり果てた姿に息を飲む。
「脈はもうありません、心臓の機能も停止寸前です。普通ならもう……死んでもおかしくありません。ですが……きっとなんらかの投薬の影響でしょう、かろうじてまだ生きています」
「分かりました。……ピコル、お願い出来る?」
サトミは、自身の召喚獣に優しく語り掛ける。
「うん、暫くお別れだね。……お願い、私の友達を救ってあげて」
そう、サトミが願うと、ピコルはその小さな体に似つかわしくない、突き刺さるような甲高い鳴き声を上げると、そのまま全身を燃やしながら、命の炎と化した己をユウキの身体に潜り込ませていく。
まるで、温かい炎が身体の表面を覆って行くような光景。肌の血色が胸から全身に向かい回復していくような光景。
それはまさしく、種火にすら劣る火の粉のような命の灯が、瞬く間に大火に成長していくような、そんな光景。
だが――
「ふぅ……これで、ユウキ君はもう大丈夫です。まだ目は覚まさないと思いますけど」
「ああ……あああ! サトミさん……なんとお礼を言ったらよいか……ユウキを、息子の命を救ってくださり本当に感謝しま――サトミさん……?」
その異常に気がつく。
「サトミさん……その、髪の色が……」
まるでユウキの血色の復活と引き換えに、サトミの髪から色素が抜けいくような光景。
赤が茶色に。茶色が亜麻色に、亜麻色が灰に、そして……灰が白に。
まるで炎が燃え尽きていくかのように、サトミの髪が白髪に変貌していくのだった。
「これは、元々ピコルを召喚した関係で私の炎の魔法適正が上がった影響で変化したものなんです。ピコルは、今休眠状態に入りました。だから、それまではこの色なんです」
「……その、ピコルさんの休眠というのはどれ程の時間、なのですか」
「……分かりません。一〇年か、それとも二〇年か。でも、良いんです。元々そのつもりで来ていたんです。ピコルも……ユウキ君の事、知っていましたから。だから力を使ってくれたんです」
「サトミさん。心より、貴女に感謝します。私はこれから先、貴女を最高の恩人とし、どんな事にも協力するとお約束します」
「そ、そんな! 良いんです、本当に。私だってユウキ君にいなくなってもらうのは嫌だったんですから。どうか、これからもお友達のお母さん、気安い関係でお願いします」
「……分かりました」
ユウキの血色が戻り、ほとんど止まっていた呼吸が再開されたところで、リョウカはセシリアに攻撃を加える。
それは殺意ではなく、気を失わせる為。もはや命の力をほとんど出し切っていた彼女に当て身を食らわせ、完全に意識を刈り取る。
すると、術者が気を失った事で、完全に祭祀場の結界が消え去ったのだった。
「……この録画データは、そのまま世界中に流す事は出来なさそうですね。編集が……必要です」
知られてはいけない情報が、あまりにも多く映り込んでしまった。
勿論、黒幕であるセシリアの言動もすべて記録されている以上、それも活用するつもりではあったのだが。
「さて……外の警備と協力して、皆さんをお城に運び込まないと……ですね」
「リョウカさん。これで……今回の事件は……世界樹を巡る一連の事件は全て終わった……という事でしょうか」
「……まだ、セシリアが情報を流した組織、USM同様、世界樹を狙っていた組織の動向が気がかりではありますが……一先ずは決着がついた……と見て良いでしょうね」
イクシアは、ユウキを抱え上げる。
自分より大きくなっているはずの身体を、まるで子供の様に軽々と。
「……この子の平穏を、どうか取り戻してあげてください。私は、そのためにはどんな協力も惜しみませんから」
「ええ。……今回、本当にユウキ君は最大の功労者と言えます。きっと、どんなに隠蔽しようとしても世界が彼を放っておかないでしょう。ですが、それでも私の庇護下にある限り、彼とイクシアさん、貴女の生活は守り抜いてみせます。絶対に」
既に、暦の上では『新しい年』に移り変わっていた。
昨年の植樹式、いや初夏に行われた、苗の護衛任務から数えて半年以上。
長いようで短い、そんな激動の事件は、黒幕の拘束、そして真実を全員の前で告発した、という最高に近い形で終息を迎えたのであった――
「ええ、今回の祭祀場での事件のあらましは今述べた通りです。撮影機材は随所に隠しておいたので、全ての光景は保存されています」
「そうか……まさか最初からセシリアも我々になんらかの術を……」
「恐らく、神話時代の術でしょう。後程、私が専門家を派遣します」
「うむ、任せたぞリョウカ殿。して……問題はこの議会の映像データだが、いかがする?」
「こちらは私が自ら編集、後に国王陛下にもご確認の上、議会出席者に公開。その後に世界に発信する所存です」
「……やはり、か」
「ええ。彼は、この国を未来をも救ったと言っても過言ではありません。彼に報いるべきではないでしょうか」
一夜明け。ブライトネスアーチの王城で、国王とリョウカが二人きりで今回の事件の後始末について話し合っていた。
「……そうだな。分かった、許可しよう。私も、天下のシュヴァインリッターと事を構えるつもりはない。ましてや……初代様までが彼に協力したのなら、その意を酌むべきであろう」
「感謝します、国王陛下」
「やはり、聖女ナシアは未だ目を覚まさないのか……?」
「……ええ。もしかすれば、何年も目覚めない可能性もあります。ですが、いつか必ず戻って来るつもりだとは思います」
「そう……か。我々は、未だ聖女という光に縋り生きている。そのツケが回って来たのかもしれないな……」
「そう言わないで下さい。彼女が望んだ未来が今のこの国なんですから」
「そう、だな。議会出席者は治療が済んだと報告があったが、彼は……ササハラユウキ君の様子はどうだ」
「残念ですが、まだ目覚める気配はありません。ですが、フェニックスの力を受けた以上、無事なのは確かです」
「そうか。では……もう一人の被害者……いや、実行犯と言うべきだろうか。ハーミットの娘の容態はどうだ?」
国王は、今回セシリアと共に事件を起こした人間、セリアについて言及する。
だが、それを聞いた瞬間、リョウカの表情が険しい物に変化する。
「撤回を。彼女はセシリアの被害者で、私の生徒です。彼女を裁かせるつもりはありません」
「しかし、もはやセシリアはまともに会話もままならない、禁術の反動でもはや老衰状態だ。誰かしらが責任を負わねばならない、そうではないか?」
「……では、それもユウキ君に委ねましょう。彼がもし、セリアさんを今も仲間だと、味方だと、友人だと言うのなら、国王陛下は恩人の友を、大切な仲間を裁くという事になります。それでも良いのなら、私もそれに従いましょう。議会の映像はしっかりとセリアさんについての情報も編集せずに残します。彼女が罪人か否かは、きっと世界が判断してくれるでしょう」
一切譲るつもりがないのか、リョウカは強く国王の瞳を見つめる。
それはセリアの為というよりも、ユウキの為。
そもそも、セリアの身を案じなければ、祭祀場であそこまでの苦戦を強いられることはなかったのだ。
殺していいのであれば、もっと早く決着をつける事だって出来た。
だが、ユウキは絶対にそれを許さない。リョウカだって本音では大切な生徒を殺したりはしたくない。
故に、国王のセリアへの罪、責任を負わそうとする発言だけは許せないのだった。
「……分かった。彼の判断に従おう。私も……彼女が罪人だとは思っていない。そうだな、私がどうかしていた。……あまりにも、あまりにも今回の事件がショックだったのだ」
「ええ……本当に」
そうして、一先ずの事後処理の方針が決まり、後は今後の詳細を煮詰めていくだけ、という段階になったその時だった。
突然、人払いをしてあるはずの謁見の間に、一人の衛兵が転がり込むように入室してきた。
「何事だ! 今は誰も通らせぬように言っておいたはずだぞ」
「申し訳ありません国王陛下! しかし……しかし緊急事態です!」
その衛兵は、衝撃の報告をする。
「我が国の海域に展開する……異界への門が……突然、消失しました!」
それは、再び世界が大きな変化を迎えようとしている、その兆しを知らせる物であった。
(´・ω・`)これにて十三章終わりです
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