第百五十九話
(´・ω・`)たぶん次かその次の章で完結
そしたら何書こうかなー
「今、ユウキ君の名前が出ていました……! ユウキ君は今どうしてるんですか! ユウキ君に会えるんですか! 私、規制で満足に地球に戻れなくて断片的にしか分からないんです……ユウキ君が世界樹の植樹を妨害した事しか……! あの後どうなったんです! こっちでも何も分からない、教えてください!」
現れたサトミは、一息に思いのたけを吐き出す。
彼女は、別段ユウキの恋人という訳でもなければ、頻繁に会うような親密な仲でもない。
だが……サトミにとって、ユウキは希望であり、憧れなのだ。
東京に出る事を迷っていた自分を、その気はなくても後押ししてくれた。
過酷な状況に挑み、常に結果を出し続けてきた。
凡庸な人間だと思っていた自分にも、分け隔てなく接し、友として扱ってくれた。
ユウキは、彼女にとっては恩人でもあるのだった。
「……この子は?」
「彼女は、地球から入学した生徒です。件の少年と関りがあったとは知りませんでしたが……一度、任務で共に行動しただけかと思いましたが」
「いえ、サトミさんはユウキ様と同じ学び舎出身、故郷も同じだと聞きます。そうですよね?」
「はい。一緒に遊んだり、一緒に召喚実験に行ったり、彼には私もお世話になりました」
「へぇ、思ったよりもしっかりユウちゃんの関係者なんだ。……でも、連れていけない。ここで聞いた事は忘れて貰うよ。悪いけど、ただの学生が私情で関わって良い問題じゃない」
「っ! わ、私はノルンさんの付き人のような者です! 学園の中限定ですけど、ノルンさんが行くなら私も!」
「力のない子供が来るところじゃない。いい? 間違いなく戦いになるの、この先は。世界相手に喧嘩ふっかけにいくような物なの。相手は地球を滅ぼす寸前まで計画を進めていた人間なの。それに挑むだけの力があるの? ないよね? どう、学院長」
リオは、冷たく切り捨てる様に言い放つ。
本音でもあり、優しさでもある。
力のない人間がでしゃばる事を嫌い、同時にユウキと本当に親しい中である事を認めた故に、万が一にでも危険な目には合わせられないから、と。
「力なら……あります」
「へぇ? じゃあ証明出来る?」
その瞬間、研究室にあるガラス製品が震え、液体の水面が揺れる。
空気を振るわせる程の魔力、気力、エネルギーの高まりに、皆が顔を青くする。
通常、形のないエネルギーの状態で物質に干渉など出来はしないのだ。
それほどまでに、現在のリオの力は常軌を逸しているという表れでもある。
……まぁ、怒りで窓ガラスを割ってみたりテーブルを焦がしたりする人間もいるが、あくまで現代の常識の範疇ではリオは異常な力の持ち主なのであった。
「お待ちくださいリオ様! ……確かに、サトミさんはその力を買われ、私の付き人として正式に王国と密約を交わしています。ですが……それは戦う力ではないんです」
「……は、はい。あの……私の力は万一の保険になるんです」
そう言いながら、サトミは自分の体の中から、ある召喚獣を発現させてみせた。
「え……これって……まさかフェニックスの亜種?」
「……はい。インサニティフェニックスと言うそうです」
「我が国にかつて棲んでいたという神霊獣です。純粋なフェニックスは命をも蘇らせると言いますが、このインサニティフェニックスも……それに近い事は出来ます」
「はい。自身の存在と引き換えに、対象の命の灯が微かにでも残っていたら、再び最高の状態まで燃えあがらせる事が出来ます。ノルンさんの命を守る為、とセリュミエルアーチと契約しましたが、必要であれば……」
「はい。私が許します。他の方に使う事を私が許可します」
力とは、戦闘力に限らない。
そのサトミの力は、たった一度きりとはいえ、一考に値する、絶大な能力だった。
それは、神話の時代に存在した力にすら比肩する、絶対的な回復の力。
リオは、その存在に考えを改める。
「……躊躇や出し惜しみは絶対にさせない。最悪、君の家族を人質にしてまで使わせる。いい? 私達は目的の為なら手段を選ばない。それくらいの非合法で本気の組織の人間なの。ついて来て後悔する、なんて事は許さないよ」
「……はい。危険があるのなら、そんな場所にノルンさんをただ行かせるなんて出来ません。それに……きっと、戦力を集めるつもりなら、ユウキ君だって危険な目に遭うかもしれない、違いますか?」
「……案外、度胸あるね。さすがユウちゃんのお友達なのかな」
気配を、力のほとばしりを抑え、リオはついにサトミの同行を許可するのだった。
「ふぅ。たった五日間なのに結構部屋って散らかるもんだなぁ」
いや、主に寝相が悪くてシーツがぐしゃぐしゃになってるリオちゃんのベッドの所為だけど。
脱ぎ散らかした衣類やら、何かの空き瓶やら、結構なゴミも溜まっていました。
曰く『研究になると人間らしい行動が殆ど出来なくなるタイプだから』とかなんとか。
いやー……ちょっとびっくりしました。
「ユウちゃん、片付いた? 終わったら学院前に集合だよ」
「はいはい。リオちゃんが先に行くから遅れたんだからね?」
「適当でいいじゃーん?」
「発つ鳥後を濁さずってことわざが俺の国にはあるんですー」
「ここグランディアだから通用しないんですー」
などとのたまうリオちゃんと共に学院の正門へ向かう。
すると、そこには想像もしていなかった人間がいた。
ノルン様とサトミさんだ。
「態々見送りなんて……有り難うございます」
「いえ、私もリオ様と同行するつもりです。今回の事件、告発には大々的な場が必要になるでしょう。それに相応の後ろ盾と権力も。私ならば……その両方を満たすことが出来ます」
「ノルン様……しかし、ではなぜサトミさんまで……」
そうだ、ノルン様はまだ納得できるが、何故サトミさんまで。
「実は、昨日解析結果を説明しているのを聞かれてさ。この子、どうやらササハラユウキの知り合いらしくて、絶対についていくって聞かないんだよね? で、さらに有用な保険、回復手段としてなら連れて行くって脅したんだけど、それでもついて来るって言うし、自分はノルン様の付き人だからーって譲らなくて」
「……そこまで、ササハラユウキに肩入れしなくても、彼は全てが終われば戻って来るはずですよ」
「それでもです。命の危険があるなら……私は召喚獣の力を使う為についていきます。知らないところで誰かが犠牲になるのは我慢できないので」
そう、サトミさんはきっぱりと言い切る。
「そういえばニシダ主任は?」
「ニシダ主任さんは先にアジトで出発の準備中。私達もそろそろ行こっか」
「リオ様、くれぐれもお気を付けください。……此度の騒動、あの研究院が動いていた以上、我々が想像もつかないような策がまだ隠されているかもしれません。……それに、このような大きな問題、『彼の存在』がただ静観しているとも思えません。どうか、細心の注意を……」
「ジョーカー……ね。今回の事件には関わらないと踏んでるんだけど、確かに読めないからね……」
たぶんそれは大丈夫だと思います。だって飛行機も刀も貸してくれたんだし。
きっと、この抗う為の一連の俺達の動きを『正しい』と認めてくれたのだと思う。
なによりも……がっつりニシダ主任が関わっている以上、きっとある程度は目を瞑ってくれそうだし。
学院を出発し、リオちゃんのアジトに辿り着くと、既に主任が飛行機の出発準備を終わらせていた。
が、その移動手段に、グランディアの常識を知るサトミさんとノルン様が狼狽えていた。
「大丈夫、魔神龍の許可もしっかり貰ってあるから。まぁ、ジョーカーの力ってヤツだね」
「じょーかー?」
「……彼の存在ですか。やはりあの者は……」
「詮索はしない方が良いんじゃないかなー? あ、サトミちゃんだっけ? それ絶対他の場所で口に出さないように。最悪消されるから」
「ヒィ!」
「リオちゃん、脅かすんじゃありません」
「えー事実だしー」
マジでそういう機密なんだよなぁ……俺が裏に関わり過ぎてる所為で少し感覚が鈍ってきてるけど。
あと主任、なんか複雑そうな顔してますね。お察しします。
そうして俺達は飛行機に乗り込み、ここファストリア大陸を出発したのであった。
目指すはセミフィナル大陸、セシルの雨靴。まずはそこで、今後の作戦を練るのと……俺のデバイス、修復しないとだな。
「ユウちゃんユウちゃん……」
するとその時、リオちゃんがひそひそと話しかけてきた。
「ユウちゃんの正体に関してはアジトに着くまで内緒ね。なんか色々質問攻めになったり面倒だと思うから、リョウカがいる席での方がいいでしょ?」
「確かに。んじゃ、まだ内緒で。主任には?」
「もう伝えてあるよ」
まぁ、俺が地球でやってきた事の背景も全部説明しないといけないからなぁ。
「ねぇ、サトミちゃん。ユウちゃん……ササハラユウキと同じ学校に通ってたって事は、昔の様子も知ってるんでしょ? どんな感じだったの?」
「こらリオちゃん」
なのになんでそんな話題ふるんですか貴女は!
「ユウキ君ですか? うーん……ふ、不真面目だけど器用な人……ですかね」
「ユウキ様がですか?」
「同じクラスではなかったんですけど、割と名前をよく聞く人でしたね。仮病で授業を途中で抜けたーとか、本屋でサボってるのを見かけたーとか……」
待ってください、それはたぶん俺がこの世界に来る前の俺です!
無実なんです! ……って、元の世界でも同じような事してたわ……!
「えーちょっと意外ー」
「ユウキ様にも……きっと気分転換が必要だったのでは……」
「ただ、以前もノルン様には話したと思いますが、ユウキ君は三年生になってから急に雰囲気が変わったというか、勉強やトレーニングに打ち込むようになったんです」
「……なるほど。じゃあ私が会ったのはそのタイミングか……」
まぁうん、そうですな。俺がこの世界に来てから生活態度が変わった頃、あの訓練施設でリオちゃん(幼女)にコテンパンにされました。
「ユウキ君、元気かな。凄い犯罪者みたいな扱いになっちゃったけど……元の生活に戻れるのかな……」
「きっと……大丈夫なはずです。もし、地球がそれでもユウキ様を認めないと言うのなら、我が国が彼を保護します。彼は……国宝、象徴とも呼べる世界樹が悪に利用される事を未然に防いだのです。我が国の彼への借りはあまりにも大きいですから……」
「そっか。いやーモテモテだよねーササハラユウキ。そう思わない? ユウリス」
「……ま、まぁ」
俺に振らないで! 凄い居心地悪いんです!
主任! にやにやこっち見ないで下さい!
そうして、道中散々似たようなネタでいじられながら、俺達は無事に何事もなく、三日後にはセミフィナル大陸、セシルの雨靴に辿り着いたのであった。
「とうちゃーく! さて、まずは我らが総帥さんに報告だね」
「総帥……と言う事は、リオ様の所属する組織の代表という事でしょうか?」
「はずれ。まぁ会えば分かるよ。……そして、どうしてササハラユウキがあんな行動に出たのか、その全てが」
「ユウキ君、ここにいるんですよね? 会わせてもらえるんですか?」
「うん、会わせてあげる。まずは総帥のところに行こう」
セシルの雨靴に併設されたドックから、そのままアジトへ向かう。
てっきりイクシアさん辺りが待ち構えているかもしれないと思っていたが、意外にも作業員しか残っていなかった。
そのまま奥へと向かい、司令室、つまりリョウカさんが使っている部屋へと向かう。
「リョウカ、今戻ったよ。お客さん込みだけど」
ノックも無しに部屋へ入るリオちゃん。
が、既に報告は来ていたのか、リョウカさんは着替え中なんて事もなく、椅子に掛けこちらを待ち構えていた。
「おかえりなさい、リオさん。そしてお久しぶりです、ノルン様。貴女は初めまして、ですね? ヨシカゲサトミさん」
「リョウカ様! 一体何故……まさか、世界樹の件ですぐに動き始めていたのですか……」
「は、初めまして……」
恐らく、ノルン様の認識では、リョウカさんは地球で植樹の指揮を執っていた。
その後は事件の詳細を追う為に動いていた、と思っているのだろう。
「いいえ。私は、去年の七月末、つまり半年以上前から既にグランディアにいたのですよ。……どういう意味か、もうお分かりですね?」
「……まさか、『彼女』と入れ替わっていたと……?」
「貴女も知っている通り、私の妹秋宮リョウコは、長らくグランディアで過ごしていました。ある時はノルン様と共に地球へ赴き、またある時はセリュミエルアーチに勉学の為に留学。一時はセカンダリア大陸に滞在していた事もありましたね」
「はい、確かに私も一度お目にかかりましたが……」
すると、リョウカさんは自らのつけている仮面を取り外す。
……相変わらず美人だなこの人。
「綺麗……」
「っ! そのお顔は……!」
「親しい者以外の前ではこの仮面は外しません。どうです、私の妹と私は瓜二つでしょう?」
「……はい。見分けが……つきません」
「恐らく、あと数年もすれば傍目にも違いが分かるでしょう。ですが現段階では私とリョウコの見分けはつきません。ましてや、私は日頃仮面をつけていますから。私は、半年前に妹、リョウコと彼女の掲げる『未来の地球像』に賛同した国々により、失脚させられ、グランディアに逃れてきました」
「……つまり、世界樹の植樹計画を進めていたのは……リョウコ様だった……?」
「ええ。大方、上手くセシリア様を懐柔出来たと考えていたのでしょう。……リオさん、解析の結果は?」
「予想通りセシリアが黒幕。たぶん、リョウコは利用されたね」
「で、しょうね。セシリア様は、どうにか地球側と深いコネクションを得る為、随分と沢山の手を使っていたようでしたから。そこにリョウコが近づいて来た。きっと渡りに船だったことでしょう」
これは、俺も聞いた。
そして……リョウコの狙いが語られる。
「関係の断絶、世界の分断……ですか。リョウコさんはそこまでグランディアを疎んでいらしたのですね……」
「恐らく、その根本には私の影響もあったのかもしれませんね…。グランディアに対する大きなコンプレックスが彼女にはあった。目の上のタンコブだったのでしょう」
「で、それを逆手に取って一方的に地球を支配、もしくは滅ぼすつもりだったのがセシリアって訳。まぁ黒幕だと思ったらホンモノの黒幕が更に控えていましたって感じ?」
「っ! ……セシリア様は、私の叔母にあたる方でもあります。苛烈な性格ではありますが……何が彼女をそうさせてしまったのでしょうか……」
「それを、直接問いただす為に我々に協力して頂いている、のですよね?」
「はい。そちらの歩幅に合わせ、私も動きたいと考えています。これからの予定について是非計画をお聞かせ下さい」
いよいよ、次は敵の本拠地セリュミエルアーチだ。
この先にきっと――
「あ、あの……! すみません、大切なお話の最中だとは思うんですが……私も、どうしても譲れない事が……」
「はい、どうしましたかサトミさん」
「ユウキ君、ここにいるんですよね! 彼に会わせてください。きっと、今とても心細いと思うんです。ユウキ君は罪人なんかじゃない、もうすぐ罪が晴れるんだって教えてあげたいんです」
「! そうです。リョウカ様、ユウキ様は今どちらに?」
あ、そうだった。俺だよなぁ……いよいよ言わなきゃいけないかー……。
リョウカさんが事態を把握したのか、少しだけ笑みを浮かべる。
すると、彼女は通信機の受話器を手にとり、ある人物を呼び出した。
「はい。ええ、先程帰還し、今は私の部屋にいます」
「あの、ユウキ君ですか?」
「今すぐこちらの部屋にやって来ますよ」
ニマニマと良い笑顔を浮かべるリョウカさん。
すると遠くから、扉越しにも分かる程の駆け足の音が鳴り響き、やって来たのは――
(´・ω・`)ファンタジー異世界ものか、現実世界の日常ものか
どっちもネトゲ要素ありだけど