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第百五十八話

(´・ω・`)本当は今頃日本一の日本酒居酒屋にいってたんや……でもコロナで休業に……

「お待たせ、父さん。って……来客中だったのか」


 二時間後、道場にやって来たのは、一人の若い男性だった。

 蒼黒の髪に青い瞳、そしてその顔立ちは、どこかミコトにも似ている。


「兄さん……! 地球に戻って来ていたのですか!」

「おー、ミコトにカイ! 久しぶりだなぁ! おお、カイお前聞いてはいたがだいぶ変わったな! 髪とか身長とか。何年ぶりだ?」

「『セイメイ』さん! お久しぶりです、異界探査は終わったんですか!?」


 やって来たのは、一之瀬家の長男、そしてミコトの実の兄である『一之瀬セイメイ』だった。

 異界調査団に所属し、ついこの間までグランディア、そして異界の内部へと進行していた、最も過酷な任務に従事していた『現在最強の剣士』その人だった。


「セイメイ、一時帰国中に呼び出してすまない」

「大丈夫、一応これでも部隊長だ、ある程度の時間の融通は利くよ」

「部隊長になったのですか、兄さん」

「最近な。今、前線の部隊を任せられている。で、今回は異界の調査結果を国連に報告する為に戻って来たんだ」

「そうだったのですか……あ、紹介が遅れました。ここにいる二人は、私とカイと同じクラスに所属している人間です」


 ミコトは、呆気に取られているカナメとキョウコを紹介する。


「シュヴァインの特設クラスに……初めまして、ミコトの兄のセイメイと言います」

「はい、お噂はかねがね。会えて光栄です、セイメイさん。僕はヨシダカナメと言います」

「ふむ……聞いた名前だね? もしかして……どこかで名前が広がるような事でも?」

「彼は、一昨年のアマチュアバトラーの高校生以下の部門、そして無差別部門でも優勝を飾っています」

「ああ! 最年少優勝の! そうか、君がカナメ君か!」


 やはり、カナメの存在はその筋の人間には通っているようであった。


「同じくSSクラスに所属しているカヅキキョウコです」

「……SSクラスに所属するカズキの名を持つ女性となると、少し思い当たるふしがあるね」

「はい。国連主導の異界調査団にも、我が社の武装は配備されていますから」

「やっぱりそうか。いつもお世話になっています、USH令嬢さん」

「ふふ、私は何もしていませんわ。いつもごひいきにして下さりありがとうございます」

「いえいえ。凄いな、ミコトのクラスメイト達は。……それに、こっちにも情報が入って来てる例の彼も、同じクラスだったんだよね?」

「……はい」


 ユウキの事。実の兄がユウキを犯罪者として認識しているという事実が、彼女の心に重くのしかかる。


「その事について相談があってお前を呼び出した。まず、これまでの経緯をお前に話しておこう」


 蒼治郎は、これまでの出来事、ユウキの人となり、事件の裏に隠されている何か。

 それら全てを隠すことなく最後まで説明する。


「……なるほど。僕に皆をグランディアに連れていけ、という訳だね」

「部隊長のお前なら、ある程度の融通は利くだろう」

「そこまでそのユウキ君に肩入れする理由はなんだい、父さん」

「私は彼に肩入れしているのではない。……我々の義の為に動いている。何故、我が門下生の多くが異界調査に尽力している。それは単に『世界の為』だ。かつて、我らの一族はグランディアの血を迎え入れた。いわば両世界の架け橋となった。その両世界にかかる架け橋を崩さんとする人間がいるのなら、私はそれを全力で打ち破る。セイメイ、お前も一之瀬の血を引く人間ならば……分かるだろう」

「……正直、僕はそこまで熱い志を持っている訳じゃない。ただ……純粋に軍人として、暗躍している何者かがいるのなら、手を貸すとするさ。……可愛い妹の為でもあるから」

「な……! 兄さん! 可愛いというのはやめてもらいたい。私はもう幼子ではないのだから……」

「分かってないな。兄って生き物は幾つになっても妹が可愛い物なんだよ」

「セイメイ……感謝する」


 ようやく、グランディアへと渡る算段がつく。

 それは希望が生まれたに等しい行幸ではあるが、同時に次の問題をも生み出す。


「だが、あくまで僕達の目的地は異界。皆を連れていけるのはその最寄りの大陸、サーディス大陸までだ。そこからは本当に支援が出来ない。君達は、孤立無援の状態で、警戒態勢にある世界の国に置き去りにされる事になる。そこからどうするかの算段はついているのかい?」

「……サーディスならば、一つだけアテがあります」

「ジェン先生……ですわね?」

「確か、旧都に住んでる大貴族の出身だったよね? 会えるかな」

「会うしかない。今の俺達が頼れるのは先生だけだ」

「……ジェン・ファリルか。ファリル家の長女だね。分かった。じゃあ君達を密入国させるための手段を考える。異界調査の報告が終わったらまた連絡する。父さん、彼等の事、暫く面倒見ておいて欲しい。……今の秋宮には気取られない方がいいだろう?」

「……感謝する。お前の立場がもしも悪くなるようなことがあれば、全て私の責任にしてくれて構わない」

「冗談。一枚噛んだのは僕の意思さ。それに……僕も興味があるんだ。上手く行けばそのユウキ君の罪が晴れる。そうしたら僕とも会えるかもしれない」


 セイメイは、どこか妖しげな笑みを浮かべる。


「……あまり、そういう一面を私の友人に見せてもらいたくはないんだが」

「剣士の性だよ」

「……では、暫くは海上都市には戻らずこのまま我が家で待機してもらう、という事で良いだろうか」

「私は問題ありません。在学中の私の行動の自由は保障されていますので」

「俺も、この家のお世話になるのは今に始まった事じゃないので」

「ん-、僕は一応姉にだけ報告しておこうかな。適当な理由を話しておきます」


 こうして、SSクラスの人間、晴れて全員がグランディア入りをする目途が立ったのであった。

 その再会は、どんな物になるのだろうか。








 魔導学院に通い始めてから五日。

 正直授業内容についていけません。

 もうね、俺がシュヴァ学で学んできたのは初歩中の初歩なんですよ。

 そもそも剣振らないと満足に魔法を発動出来なかったんですよ、この間まで。

 まぁこの身体なら一応普通にも発動出来るけど、慣れてないんですわ。


「メテ〇とかフレ〇とか使えたらなぁ」


 まぁそれでも成果はあったんですけどね。

 風の扱いが凄く上手になりました。空中で風の足場みたいなの出せるようになったから、もう二段ジャンプどころの話じゃないです。無限ジャンプ出来ます。

 ディースさんと戦った時も高高度まで飛べたけど、あれは限界を超えた身体能力強化だし。


「ま、短期間で身に着いたんだしもうけもんだな。……瞳の解析ってまだかかるのかな」


 校舎内、旧世界樹の上層区をぶらぶらと散策しながらひとりぼやいていた時だった。

 談話スペースの方から何やら楽し気な談笑……というよりは、白熱した討論が聞こえて来た。

 険悪な雰囲気ではないけど……?




「ダメだね。ダメよ、ダメなのよ。そんな方式で紋章を描くのは表裏干渉で術がデタラメに発動してしまうのよ」

「ま、普通の術者だとそうなるね。極限まで感覚を研ぎ澄ませられる術者。針の穴に糸を失敗しないで通せるようなコントロールが必要になるね。この学院だとそういう感覚的な部分って学ばせないんだ?」

「そんなのは学問の範疇ではないのよ。お姉さんどこの研究者か知らないけど、そういう大道芸みたいな術で魔導を語らないで欲しいのよ」

「ん-? 大道芸でもなんでも進歩に必要なら極めるけどねー私なら。ま、学生のうちに『こういう魔導もある』って知れただけ満足しなよ。世界は広い。君が認めようが認めまいが、事実としてここに存在して、私は結果を出している。セリュミエルよりは柔軟な学院だけど、まだまだお固いぞー」




 そこにいたのは、リオちゃん(大人バージョン)と学院の生徒達だった。

 なにやら魔術の考え方で意見が食い違っていたようだが、まぁ学生と現場の人間じゃこうなるよなぁ。


「なにやってるのリオちゃん。研究室の外に出るなんて寝る時くらいな物なのに」

「あ、ユウちゃん! 丁度良かった、話があったんだ。じゃあ生徒諸君、お姉さんはユウちゃんに用事があるのでこれにて失礼!」

「まだお話は終わってないのよ!」

「ぬ、お主は短期留学生! サトミくんのみならずリオ女史とも懇意にしているとは」


 なんか面倒そうなのでさっさと移動しましょう……。




「んで、話って何だい?」


 人の少ない天空を望めるテラスに移動し、のんきに缶ジュースを飲んでるリオちゃんに訊ねる。


「あ、解析終わったよって話。明日か明後日にはここを発つからそのつもりでーって」

「マジでか! 結果はどうだった!?」

「ま、予想通りって感じ。詳しい調査報告は今度するから、ユウちゃんは出発の準備を進めておいてよ。荷物のまとめとか、お世話になった子に挨拶とかさ」

「了解。で……やっぱりセシリアが……?」

「予想通りね。ま、詳しい話はまた後でね」


 俺は、少なからず俺と関りのあった人間。嫌いな相手ではあるが、何度か会話をした相手がここまで邪悪だったという事実に衝撃を受けながら、午後の授業に出る為、講義室がある中層に戻るのであった。




「サトミさん、少し良いですか?」


 講義が終わると同時に、サトミさんに声をかける。


「どうかしましたかユウリスさん。今の講義に何か分からないところがありましたか?」

「いや、それはいつも通りほとんど分からないんだけどね? 実は、明日か明後日、そろそろ俺の仲間の研究者さんの仕事が終わるから、一緒にここを発つんだ。だから、お世話になったサトミさんには一言挨拶しておこうと思って」

「え、随分急なんですね。……そうですか、寂しくなってしまいますね。この学院、地球出身の人っていなくて、この間のホソハさんも全然見つからなくて……」

「そうだったんだ。大丈夫、そのうちまた会えると思うから」

「……分かりました。ユウリスさん、短い間でしたが楽しかったです。また是非いらしてくださいね。留学じゃなくても、私この学院にいますから遊びに来て下さい」

「うん、ありがとう。また来るよ」


 全てが終わったら、今度は自分の正体を隠さずに会いに行こう。








 ユウリスとの別れを知らされたサトミは、少しだけ気分を落としながら、同じく最近自分の心に少しだけ影を落としている問題について考える。


「ノルンさんも最近ずっと講義に来ていないし……何かあったのかな、この学院に」


 唐突な短期留学生。学院で重要人物とされているノルンの不在。

 そして、またしても唐突な留学生との別れ。

 その彼の『研究者の仕事』という言葉に、サトミは考えを巡らせる。


「ノルンさん……故郷では研究者だったよね……研究階層の方見てみようかな」


 サトミは、生徒が普段立ち寄らない校舎上層へ探りに行く事を決意する。

 そしてその夜、生徒の大半が下校した校舎の中、静かにサトミは目的の場所を探すのであった。




 一方その頃。瞳の解析が行われていた研究室で、リオは学院長とノルン両者を交え、最終的な解析結果を解説していた。


「この魔導具その物は今よりもずっと昔、それこそ神話の時代に作られた『アーティファクト』クラスの代物だよ。だから根本的な機能の改変は現代の術者じゃ不可能。それは言わなくても分かってるよね」

「うむ。ここ二日、私はリオ様に付き従う事が出来ませんでしたが、このような場を設けるという事は?」

「そ。核の部分は無理だけど、この魔導具を覆ってる『後天的に追加された部分』の解析は完了したよ」


 リオは解析が済んだことを告げる。だが、同席しているノルンの表情は険しく、どこか暗い物だった。


「結果から言うと、この魔導具の機能を制限、都合の良いように改変した術者が判明した。ここまで念入りに仕組まれてる以上、使用者の魔力の痕跡が濃密に絡まっていたよ。まさか解析されるとは思っていなかったろうし、解析されても人物の特定は出来ないって考えていたんだろうけどね?」


 そう言いながら、リオはノルンの方を見る。

 やがて、ノルンはその重い口を開く。


「……魔導具フェアウェルの瞳を改変、一方的に地球の魔力を枯渇させようと仕組んでいた方の正体は……現研究院の院長、セシリア・アークライト様です」

「それは……間違いないのかね」

「はい。我々エルフの中でも、王族の血を引く者は同胞の魔力を決して間違いません。……そう、顔を見るよりもはっきりと本人を特定出来てしまう程に……」

「この結果は正式に魔導学院に報告、管理してもらうよ院長。いざという時の後ろ盾になってもらうけど、大丈夫?」

「……事実である以上、隠蔽する事は出来ません。ノルン君、君はこの解析結果を知りどうするつもりかね?」

「……私も、リオ様に同行します。リオ様はこの結果を手に、サーディス大陸へと向かわれるのでしょう?」

「まぁね。でも直接じゃないよ。まずは私の拠点に向かって戦力を整える。それに……ユウちゃん。この場合は『ササハラユウキ』を同行させる。ある意味、あの子が今回の事件の一番の被害者であり、功労者だからね」


 その名前を告げると、学院長もまた反応する。


「……確かにあの少年は戦力になりましょう。だが……危うい。彼はあの力を十全に使いこなせているとは言い難いのです」

「聞いてる。まんまとリョウカにいっぱい食わされたね? ユウちゃんは既にこの世界でも屈指の力を手に入れてる。たぶん、ユウちゃんの力を誤認させられたんじゃないかな」

「……秋宮の総帥が……まさか……」

「ま、『年季』が違うからね。とにかくノルン様。セシリアの糾弾がしたいなら、まずは私達に同行してもらうよ。ただ突っ走っても握りつぶされるだけだからね」

「……学院長。今度こそ休学届けを出す必要があるようですね」

「……そうだな」

「リオ様。この事件が解決したあかつきにはユウキ様は再び自由の身となられるのですよね?」

「ま、それは地球の出かた次第かな。その辺りは……私のアジトに行けば、考えてくれる人間がいるよ。……ホンモノの総帥さんがね」

「ほん……もの?」

「こっちの話。じゃあ、明日にでも私達は出発するつもりだけど大丈夫? 隣の仮眠室で寝てるニシダ主任も一緒に」

「分かりました。ノルン君、君も同室の彼女に休学する旨を伝えて――」


 いよいよ学院を発つ算段をつけていたその時、研究室の扉が開かれる。


「私も! 私も連れて行って下さい、ノルンさん!」


 現れたのは、全ての話を聞いたサトミだった。


(´・ω・`)たぶん三年ぶりくらいに秋田駅前で飲んでると思う

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