第百五十七話
(´・ω・`)十三章おわりまで毎日19時投稿です(予約済
「あの……ユウキ達に何かあったのでしょうか……今日でもう一週間です……」
「二日程前にグランディア入りした事は確認済みです。ですが……恐らく、リオは回収した魔導具に何らかの手を加えるつもりなのでしょう。元々、プランBとして魔導具に何か異常があれば速やかに処置をするという事になっていましたから」
「そうですか……ある程度織り込み済みなら良いのですが……」
ユウキがファストリア魔導学院に『短期留学』という形で籍を置く事になった翌日。
リオ直々の言葉という事もあり、学院長は『高等な知識を与えるに値する人物に違いない』と、学院の中でも一握りの生徒しか所属出来ない学部にユウキを在籍させていた。
そこはノルンも在籍している学部であり、当然――彼女の半付き人状態になっているサトミの在籍する学部でもあった。
元々地球出身という事は外見からバレバレであった為、同じ地球出身のサトミがいるクラスに振り分けるのは都合も良いだろうという親切心もあったのだが……。
魔導学院ってさ、もう名前が『魔術』でも『魔法』でもない段階でかなり高等な教育してるんだよなって。
俺の認識だとそんな違いはないんだけど『魔導』っていうのはもうそれだけで凄い事なんだってさ、本来。
兵器にたとえるなら『エアガン』『実銃』『破壊兵器』ってくらいには違うみたいだ。
どれも怪我に繋がるんだけどさ。
「ユウリスさんは魔法剣士タイプなんですね。バリエーションよりも発動速度や実戦での使い勝手を優先しているんですか?」
「あ、うん。そうだね、俺は実戦でも剣で戦う事が多いからね、だから魔導も魔法も剣の動きで発動させてるんだ」
「なるほど。地球出身者でもそういう実戦的な人っているんですねー。あ、でもどこかの軍属なら当たり前なのかな……ユウリスさんって企業所属の戦士なんですよね?」
「うん、そうなるよ」
偽のプロフィールです。『最近グランディアで頭角を現した地球の企業所属の戦士が、地球に戻れない間学院で預かっている。元々学院長と所縁のある企業から預かった人間なので丁重に扱うように』という事になっている。
やっぱりリオちゃんの関係者っていうのは学院長的には大きな意味があるんだろうな。
「ここが『第三空中庭園』です。慣れるまで恐いって思うかもしれませんけど、地球の高層ビルより遥かに安全ですよ。床も半透明ですけど、もし仮に崩落しても学院全体が特殊な魔法に包まれているので落下の心配はないんです」
「へ、へぇー……確かに恐いや」
そして俺は、サトミさんに学院内の案内をしてもらっていた。
現在は学院の上層、しかも空に伸びている枝の先にあるという空中庭園に来ていた。
まるで木や蔦で編まれた展望台のような場所。解放感もあり、普通に下を見れば雲が見えると言う、超高高度。
どうやらここは世界樹の巨大な枝と葉の内部らしく、人気の休憩スポットなのだとか。
「学食で買って来たお弁当をここで食べるのが私のお気に入りなんです。ユウリスさんは今日、どこで食べますか?」
「俺かい? そうだな……ここはまだちょっと恐いし人も多いから……他に穴場とかあるならそこを案内してもらえるかな?」
「穴場……そうだ、良い場所がありますよ」
サトミさん……相変わらず面倒見が良いなぁ。
それに、地球出身者だからと変に差別されてる様子もないし、普通に他の生徒と仲が良いように見える。
恐らく、持ち前の面倒見の良さや人当たりの良さ、ノルン様の半付き人という面でも信頼されているんだろう。
俺と一緒にいる間、ちょいちょい男子生徒からの敵意の籠った視線が俺に向けられていたし。
いやぁ……モテますなぁサトミさん。
次に案内してくれたのは、この学園の屋上だった。
屋上……木のてっぺんだと思ったのだが、どうやらこの旧世界樹は神話の時代に折れたらしく、ただ天井がないだけで普通の階と同じ構造のフロアが広がっていた。
だが、風化具合といい古い遺跡の瓦礫のような物があちこちに転がっていたりといい、どことなく歴史と寂しさを感じさせる有り様だった。
「ここ、静かで人もこないので穴場ですよ。ただ本当は立ち入り禁止なので、あまり奥まで行っちゃいけないんですけどね」
「へぇ……凄いな……空がこんなに近い。まるで雲の中にいるみたいだ」
「学院全体が結界に覆われているので、雨が降っても平気なんですよ」
あたりを見回しながら、瓦礫の転がる屋上を進んでいく。
細かく砕かれた破片は、微かに陽の光に輝いている。金属質……? 世界樹の中には似つかわしくないような。
「これって……まさか金?」
「そう見えますよね? でも違うらしいですよ。正体は不明なんですけど」
「なんか……不思議な場所だね。この瓦礫も、まるでここにあるべき物じゃないような」
世界樹が折れたのなら、その影響で何かが崩れて落ちて来たとか……。
神話時代に一体何が起きたんだろうな、この場所で。
もしかしてヨシキさんなら知っているのだろうか?
「ユウリスさん、あんまり奥に行ったらだめですよー」
「あ、ごめんごめん、今戻る――」
瓦礫に手を触れ調べていると、サトミさんから戻るように言われる。
だがその瞬間だった。強烈な頭痛が、悪寒が、罪悪感が、悲しみが、恐怖が、違和感が、全身を襲う。
分からない分からない、なんだこれ……なんだ……これ……俺……俺……。
「俺……ここにいて……いいのか……?」
「ユウリスさん?」
得体のしれない、感覚? 思い? なんだよ、これなんだ……なんだよ!
「こら! ここは立ち入り禁止ですよ! 早く戻って下さい!」
その時だった。突然屋上に女子生徒の声が響き渡る。
それと同時に、たった今まで俺を蝕んでいた、謎の感覚、感情が消え去ってくれた。
屋上の入り口を見れば、そこには一人の女子生徒の姿があった、
だが……それは、ここにいるはずのない人物だった。
「な……なんで……」
「あはは、ごめんなさい。今戻りますから」
「もう、貴方達はたぶん先輩なんでしょう? ここって立ち入り禁止だから奥まで行ったらダメって説明受けたはずでしょうに……施錠しなおしておくので先に戻っておいてくださいね」
それは、地球にいるはずの『ホソハアメノ』さんだった。
何故、彼女がここにいるのだろうか……?
「あれ、もしかして貴女地球人?」
「ええ、そうですよ。貴女達も……もしかして?」
「あ、うん。私は髪がこんなのだけど日本人だよ。あっちのユウリスさんも。へぇ……新入生さん? 地球出身だよね? 貴女も」
「正確には短期留学生ですけどね、シュヴァ学との交換留学です」
「へー、そうなんだ。確かに先輩が校則違反してたらダメだよね。ユウリスさん、戻りましょう? ええと……」
「ホソハです、先輩」
「そっか。私はサトミ。じゃあホソハさん、施錠お願いね」
交換留学……? 地球との関係が悪化しているタイミングで?
いや、もしかしたら俺が事件を起こす前にしていたのか……?
懐かしい顔に思わず声をかけようとしてしまったが……初対面、だもんな。今の俺とは。
名残惜しいが、俺とサトミさんは足早にこの場を立ち去るのであった。
……一体なんだったのだろうか、さっきの感覚は。
もしかして立ち入りを禁止する為の魔法か何かだったのだろうか……?
ユウリスとサトミが立ち去った屋上で、ホソハアメノは一人、瓦礫の中を奥へ奥へと進んでいく。
「ここは、あまりにも残滓が……多いようですね。だからきっと、排除したいという意志が働いた。やはりササちゃん先輩は『異物』なんですね……きっと『彼』は貴方を見過ごさないでしょう……運命は、決して貴方を見逃したりはしないのでしょうね」
瓦礫の山の中。独白のように一人語るホソハアメノ。
彼女が大きく腕を薙ぎ払うと、まるで目に見えない何かが散るように、空気が変わる。
彼女はそれを見届け、再び闇に溶ける様に、忽然とその場から姿を消したのであった。
まるで、最初から『ユウリスの元に現れる』ただその為だけにここに来たかのように。
ユウリスとして魔導学院にユウキが滞在中のその頃。
再び地球で大規模なテロ行為が行われ、多数の犠牲が出た事で、各国の報道が再熱。
それを招いたのは『テロリストをわざわざ派遣してきた秋宮』だと世間は断じていた。
残念な事に。既に秋宮グループは『ただのデバイスメーカー』という地位にまで落ち、対グランディアの会談、それら全ての行事に関わる事が許されなくなっていた。
それはつまり、秋宮の名は既に地に落ちたという事だった。
しかし、今回基地でテロリスト相手に果敢に戦ったSSの生徒達に罪はないとされ、特にこれといった罰則は与えられていなかった。が――
「今日はよく集まってくれた。カイ、セリア、カナメ、キョウコ。早速だがオーストラリアで起きた事件について……詳しく教えてもらいたい」
「……ああ。ミコト、それに蒼治郎師範。このような場を用意してもらい、感謝します」
SSの生徒達は、全員学園を自主的に休学していた。
秋宮への不信や今回の不祥事が重なり、もうあの学園で自分達が集まるのは難しい、機密性を保つ事も出来ないと……つまり、信じられなくなり、自分達で独自に動く事にしたのであった。
今日この日、ミコトの実家である一之瀬の道場に、残されたSSクラスの生徒全員が集められていた。
「……まず、俺達は理事長からの連絡で、追加の人員の補充……ユキさんとその相棒のリオっていう女の子を迎え入れた。そこから始まったんだ――」
カイは語る。ユキを迎え入れてから、事件が起こるまでの日々の出来事全てを。
事件の時、どのような展開が繰り広げられたのか。
リオの裏切り。ユキの活躍。そして……それらが全て嘘であった事。
「俺は……ショックだったけど、でも同時に……あの人までが地球に敵対したのが、信じられなくて……」
「……そうだな。私とキョウコも、オーストラリアに向かう前の彼女達と会っている。その時はササハラ君対策として来たと言っていたが……カイの話と合わせると、彼の代わりに動いていたようにも見える」
「私もそう思いますわ。ただ、かなりの性能を持つジェット機を所有しているようですが、それなのに海上都市に一度立ち寄ったのに違和感がありますわね。それに……ササハラ君の世界樹の破壊については『なんらかの妨害行為』という理由は考えられるのに、今回の魔導具奪取については……一切動機が不明です」
SSの生徒同士による、今回の事件の違和感。そしてそこから導き出される、ユウキの事件での違和感。
何か理由があっての事件だと言う事は、もはや確定的であった。
「……お前達の話を総合すると、ササハラユウキ君はなんらかの目的の為に世界樹を破壊。その後、地球では動けなくなった彼に代わり、ユキ殿が暗躍、リオという少女と協力し、世界樹の植樹地に埋め込まれていた魔導具を奪取した、という事になる。こちらにも大まかにだが被害の状況は届いているが、現地にいたカイ、お前の方はどれくらい被害状況を把握しているのだ?」
今回会議の場を提供した蒼治郎は、カイに基地での具体的な被害を問う。
「……連合軍四〇名以上が死亡。軽症者、重傷者はいません。等しく殺されています」
「その実行犯はユキさんなのか?」
「いえ、襲撃に現れたテロリストによる物でした。ただ、ユキさんの狂言に付き合った相手である以上……」
「ふむ……ユキ殿が実際に基地の人間を手にかける様子は監視カメラには?」
「それなんですが、僕達は基地の現場検証に立ち会って、実際に被害現場や録画データを拝見させて頂きました。ただ、そこにユキさんが基地の人間に剣を向けた瞬間は……一度もなかったのが気になりました」
「はい。ただあのリオという女の子は、何度か基地の人間の足止めをしていました。主に氷結魔導で通路を妨害するという形で」
「……やはり、そうか」
蒼治郎は静かに頷く。何か自分の中で答えを得たかのように。
「先の苗破壊から今回の基地襲撃に際して、ユウキ君とユキ殿は一切の命を奪っていない。聞けば、回収に来た魔術師団ですら無事だそうだ。この事から、やはりなんらかの目的を持って彼と彼女は動いていると見て良いだろう。そして……恐らくテロリストとユキ殿、リオという少女のコンビは別口の組織だろう。最初から、テロリストの襲撃を見越して彼女達は基地にやって来た。ならばそれを織り込み利用する作戦を立てていたとしても不思議ではない。事実、最初襲撃犯とリオと名乗る少女は顔見知りではないような様子だったのだろう?」
「はい、それは間違いありません」
「……なら、どうしてユキさんは……」
おぼろげにではあるが、真実に近づく一行。
「もはや、秋宮に力は残されていない。真実に辿り着く事は不可能だろう。秋宮そのものが、グランディアに関わる事を禁じられているのが現状だ」
「父様。では、私達が今回の件で出来る事はもうない、と?」
「……地球ではないだろう」
「だ、だったらグランディアに行けば……!」
「不可能ですわね。秋宮ですら廃された現在の地球でのグランディア対策本部に、私達が係わる事は出来ません。業腹ではありますが、我が社の製品もグランディアに卸してはいますが、全て秋宮を通しての物でしたから」
「僕も、所属している会社の力を当てには出来ないかな。歪ではあるけど、地球の企業は一度秋宮を挟んでからグランディアに関わっているのが殆ど、だからね」
「そう言う事だ。ましてや現在グランディアとの関係は完全に冷え切っている。地球側から追加の人員を向こうに派遣する事は出来ないだろう」
「……少なくとも、私はグランディアに渡れる」
その時、口数の少なかったセリアがぽつりと漏らす。
「悪いけど、まだ私はユウキの事を許せないし、ユウキの仲間ならユキさんだって……敵対する覚悟でいる。でも、何か違和感があるのは私も理解した。ごめんね、私だけでも先にセリュミエルアーチに戻るよ。研究院の人達の治療が終わったら、一緒に戻る事にする」
「セリア……ああ、分かった。少なくともこの事件に違和感を覚えた人間が一人、あちらに行くのは好ましい事だからな。……だが、あくまで調べるだけにとどめて欲しい。ササハラ君はきっと、私達を排除しようとしないだろう。だが……ユキさんは『割り切れる側の人間』だと思う。もしかしたら今回、地球側の人間の被害を最小限に留めたのはササハラ君の頼みだったからかもしれない。……もしそうなら、私達でユキさんに勝つのは……」
「……分かってる。私はあくまで、研究院で調べ物をするだけだから」
アラリエル、コウネに続き、最後のグランディア組であるセリアの離脱。
セリアは宣言通り、そのまま道場を後にするのであった。
「……四人だけになっちゃったね。これから、僕達はどうしよう」
「この中で一番可能性があったキョウコもグランディアに関われない以上……」
「くそ……師匠、師匠の口利きでもあっちに渡る事はもう出来ないんですか!?」
「残念だが、元よりグランディアと関りのあった人間は、全員既に地球から向こうに連絡を取る事が出来なくなっている。よしんばとれても検閲は確実だろう。だが――」
蒼治郎は、微かに笑みを浮かべ、それを告げる。
「今、グランディア出身の最後の一人、セリア君が離脱した。その今ならこれを提示出来るだろう。彼女には申し訳ないが……完全に信用する訳にはいかなくてな」
そう言いながら、蒼治郎は自分のスマート端末を取り出し、ある人物に連絡を取る。
「ああ、そうだ。今すぐ道場に来てくれ。折角久々の地球だと言うのに悪いな」
「父様。一体誰に電話を……」
「最後の手段だ。今に分かる」
そして二時間後。一之瀬の道場に、一人の人物がやって来たのであった。
(´・ω・`)きっとこれが投稿されている頃、僕はエルデンリングやってるんやろなぁ(現在24日